第4回「美しい森林づくり全国推進会議」

011_1最近、地球温暖化防止や生物多様性保全に果たす森林の役割に対する国民的な関心と期待が高まっていますが、林業の採算性の悪化等を背景として人工林などの森林整備が十分に行われず、将来にわたって森林の有する多面的な機能の発揮が図られないことが懸念されています。

このため、森林・林業関係者だけでなく、世代を超えた国民全体のチカラによって森林づくりを支えること、とりわけ、次代を担う子どもたちが積極的に森林づくりに参画することが期待されており、「森のようちえん」や「木育」など、新たなスタイルの取組が全国的に注目を集めています。

今回で第4回目となる「美しい森林づくり全国推進会議」では、本年が「国際生物多様性年」であり来年が「国際森林年」であることを踏まえ、日本の森の現状を地球的視野から見つめ直すとともに、子どもたちが参画する森林づくりの新たな取組事例の紹介と報告者によるディスカッションを通して、子どもたちの活動を支えるための企業やNPO、行政等の多様な分野・セクターのパートナーシップのあり方を考えました。

  1. 出井 伸之「美しい森林づくり全国推進会議」代表挨拶
  2. 来賓挨拶
    島田 泰助 林野庁長官挨拶
  3. 活動報告1 『拡がり、深まる「フォレスト・サポーターズ」~「国際森林年」を見据えて~』
    宮林 茂幸 美しい森林づくり全国推進会議事務局長
  4. 活動報告2 『フォレスト・サポーターズへの期待~温暖化防止活動から「プロ野球の森」づくり~』
    下田 邦夫 社団法人 日本野球機構 日本プロフェッショナル野球組織 事務局長
  5. 講演 『世界最高峰(エべレスト)から見た日本の森林~次世代を担う子どもたちに期待すること~』
    三浦 雄一郎 プロスキーヤー、冒険家
  6. 「フォレスト・サポーターズ」事例発表 『次世代を担う子どもたちで進める森のための4つのアクション』
    Act1[森にふれよう] 内田 幸一(森のようちえん全国ネットワーク 代表)
    Act2[木をつかおう] 多田 千尋(NPO法人日本グッド・トイ委員会 理事長、東京おもちゃ美術館 館長)
    Act3[森をささえよう] 清水 英二(NPO法人子どもの森づくり推進ネットワーク 代表理事)
    Act4[森と暮らそう] 辻 英之(NPO法人グリーンウッド自然体験教育センター 代表理事)
  7. パネルディスカッション 『次世代を担う子どもたちによる森林づくりを支えるためのパートナーシップのあり方とその可能性』

出井 伸之美しい森林づくり全国推進会議代表 挨拶

出井 伸之 美しい森林づくり全国推進会議代表 挨拶美しい森林づくり全国推進会議代表美しい森林づくり全国推進会議は今年で4回目となりました。林野庁の強いリーダーシップで、官民一体となり森を守ろうという活動が着実に発展しているということは、大変心強く思います。美しい森林づくり全国推進会議として、昨年の11月には生物多様性をテーマとしてフォーラムを開催し、たくさんの方に参加いただき、12月には国内最大の環境展示会が行われ、多数の出展がありました。また、一昨年スタートしたフォレスト・サポーターズも、参加が広がって、登録数が2万6,500件に達したということです。これは、企業、また地方の方々の共に森を大切にするという気持ちが非常に高まっている証だと考えます。

私は仕事で世界中を回っていて感じることがあります。それは、日本ほど緑がある国は本当に数少ないということです。そのことをまず我々自身、認識する必要があります。水や森、自然の豊かさというものが、人間の生活のクオリティーを支えている一番のものだと思います。日本の森は疲弊したかのように言われることがありますが、日本の森は世界でも珍しく非常に守られていると思います。『文明の衝突』等の本では、日本は奇跡の国として、世界各国と比較されて書かれてあります。日本は鎖国の時代以前から森を守る運動をずっと行ってきて、特に徳川幕府の森林の台帳は非常にしっかりしたものであったということを外国人が書いた著書から私は学びました。日本という国は、自然を大切にすることで、良い国になってきたのだと思います。

出井 伸之美しい森林づくり全国推進会議代表昨今、新聞等では、日本は沈没するというような話ばかりが書かれていますが、そんなことはなく、日本は非常に良い成熟をしてきた国なのではないでしょうか。そのことをまず自覚した上で、今後さらに良くしていくにはどうすればいいのかいうことを考えていくことが我々にとっては重要であります。

この美しい森林づくり活動の効果があらわれるのは100年後かもしれませんが、我々は今、100年前の人々が行ってきたことの利益を享受しているのです。本当の日本の強さというのは、企業の強さや、どれだけGDPがあるかということではなくて、目に見えないものにあると思います。我々の文明、文化が持っている良さというものを再認識し、その1つとして森を大切にしていくということが肝要であると思う次第であります。

美しい森林づくりのような取り組みは、一過性のお祭り事で終わるのではなく、現内閣においてもサポートされ、さらに大きく盛り上がることを私は期待しております

島田 泰助 林野庁長官 挨拶

島田 泰助 林野庁長官 挨拶世界の環境問題の中で、今、森に対する注目が非常に高まってきていると感じています。本年は、国連が定めました国際生物多様性年であり、また来年は同じく国連が定める国際森林年となっております。地球温暖化防止の面では、森林の減少・劣化という問題が大きく取り上げられております。また生物多様性についても、保全ということをはじめとして、森林の多面的機能に対する関心が、国内だけではなく、国際社会でも非常に大きな問題として取り上げられてきております。

我が国において森林の多面的機能を将来にわたって維持し高めていくためには、森林を適切に整備・保全し、国産材を利用していくことが必要です。今、戦後の植えられた人工林がようやく使えるような大きさに育ってきています。これを持続可能な形できちんと利用していくことが、大きな課題になっています。

今年5月には、「公共建築物における木材の利用の促進に関する法律」が国会において成立しました。これは、環境にやさしく、また建てるときに必要なエネルギーも少なく、使用している間は二酸化炭素を固定し続ける木材を、木造率の低い、あまり木材の使われていない公共建築物を建てる際に積極的に使っていこうということで、それを国がまず率先して行うという法律です。また、この木材を使うという取組は、国だけにとどまらず、地方公共団体や一般の会社の方々にも参加していただければと思います。

この法案を提出するに当たっては、外部の皆さん方といろいろ議論を重ねてきたのですが、これに反対をする方は一人もいませんでした。「森を大事にし、国産材を使うことで日本が元気になるのだったら、使っていこうではないか」、「何か問題があれば、それを克服する知恵を出し合おうではないか」、「みんなで頑張りましょう」そういう声がほとんどでした。地域を元気にする、また環境を良くしていくという両面から、森の保全は重要な課題であるという考え方が受け入れられてきているということを実感しました。

麻生内閣総理大臣挨拶こうした中で、多様な主体による森林づくりを推進するフォレスト・サポーターズの運動については、運営事務局のご尽力もあり、昨年度登録数が大幅に増加するなど、美しい森林づくり推進国民運動として一層の盛り上がりを見せています。

本日ご参集の皆様方におかれましては、引き続きさまざまな形で森林づくりを推進していただくとともに、さらに、森林づくりや木づかいなどの取り組みの輪が大きく広がっていくようにご協力をお願いできればと考えております。

活動報告1『拡がり、深まる「フォレスト・サポーターズ」
~「国際森林年」を見据えて~』
宮林 茂幸美しい森林づくり全国推進会議事務局長

 「国際生物多様性年」そして「国際森林年」へ向かう

原点に立ち返り色々な施策を総点検したい

原点に立ち返り色々な施策を総点検したい

美しい森林づくり全国推進会議では、今年が「国際生物多様性年」であり、10月に名古屋で「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」が開催されることから、この1年間、これに向かって多様な活動を展開してまいりました。その中心の1つが「フォレスト・サポーターズ」でありますが、さらにこの活動を発展させ、来年の「国際森林年」に向けて大きく展開したいということが基本の考え方であります。

美しい森林づくりの基本は、そこに携わっている暮らしとの関係が非常に強いと思っております。平成21年度の活動-各種催事やスタンプラリー等で、登録者を大幅に拡大そういう暮らしを持っている里山文化は、世界広しといえど日本だけだろうと思います。その里山文化こそがこれからイニシアティブを持って、展開していくのでしょう。その中に、美しい森林づくりというのは、その里山文化の再生・仕組み論として出てきているのではないかと思います。

 

平成21年度の活動-各種催事やスタンプラリー等で、登録者を大幅に拡大

011_8lフォレスト・サポーターズにつきましては、平成21年度、6月に「美しい森林づくり全国推進会議」、11月に「企業・NPO等交流フォーラム」を開催するとともに、「アウトドアズフェスティバル」や「エコプロダクツ2009」におけるブース展示やスタンプラリーの実施などを展開し、登録数を大幅に伸ばすことができました。

また、京都議定書における日本が達成すべき温室効果ガス6%削減の目標のうち、森林の二酸化炭素吸収で確保する量である3.8%にちなみ、3月8日を「フォレスト・サポーターズの日」と定めて、本年も3月8日に東京タワー大展望台で記念イベント等も行いました。

平成22年度の予定 -「国際森林年」に向けて

011_20l平成22年度は、「フォレスト・サポーターズ」においても、秋の「COP10」を踏まえて、来年の「国際森林年」に向けて活動していきたいと思っております。

例年は11月にフォーラムを行ってきましたが、今年度は12月に「エコプロダクツ2010」会場内に「森林からはじまるエコライフ展」を開設して幅広い呼びかけを行い、「国際森林年」に入った2月、3月にヤマを持ってきて、独自イベントを行う予定です。具体的には、2月頃に「フォレスト・サポーターズの日」の告知イベント、3月には「美しい森林づくり企業・NPO等交流フォーラム」を展開していきたいと考えています。

そこで、今年は10月に「COP10」が開催されるなどで、生物多様性保全に係る大きなヤマを迎えますが、その後2月、3月にもう1つ大きなヤマを設けることで、森林を巡るさまざまな動きを「国際生物多様性年」から「国際森林年」につなげていきます。そういう”つなぎ”を、美しい森林づくり全国推進会議としてやっていきたいと思っています。

新たな普及啓発資材の充実

011_9l美しい森林づくり推進国民運動「フォレスト・サポーターズ」を促進するさまざまな普及啓発資材も充実してまいりました。「フォレスト・サポーターズ」にも賛同いただいたスヌーピーのイラストを使ったパンフレットやメンバーズブック等も作成され、さらにさまざまな「森のための4つのアクション」を網羅的に紹介するガイドブックや、映像資料も作成されました。これらは、構成団体の皆さまのご協力の賜物でもあります。

これらの資材を用いて「フォレスト・サポーターズ」を呼びかけていただける機会があれば、無料で配布しておりますので、事務局までぜひご連絡いただきたいと思います。

美しい日本をつくる運動として

美しい森林づくり全国推進会議は今年で4回目を迎えましたが、これまでに多様な運動を展開してまいりました。

今後も、私たちはこれからの世界に向けて、日本の里山文化、ないしは森林と共存していく文化をきちっと伝えていきたいと思っております。「美しい森林づくり」の「美しい」というのは、景観であり、森林であり、ハートであります。それらのトータルとしての美しい日本をつくっていく大きな運動の展開の1つが美しい森林づくり推進国民運動だと考えております。ぜひ今後とも皆様の大きなご支援とご協力を賜りたいと思っております。

活動報告2 『フォレスト・サポーターズへの期待
~温暖化防止活動から「プロ野球の森」づくり~』
下田 邦夫 社団法人 日本野球機構 日本プロフェッショナル野球組織 事務局長

下田 邦夫 社団法人日本野球機構日本プロフェッショナル野球組織事務局長 日本野球機構は、セ・リーグ、パ・リーグの公式戦の日程をつくったり、審判員、公式記録員の派遣をしたりしております。そして、我が国の野球の水準を高め、野球を通してスポーツの発展に寄与し、日本の繁栄と国際親善に貢献するという大きな目標を掲げております。

日本野球機構が行う温暖化防止活動「Green Baseball Project」

我々は公益法人ということで、日々公益活動をしておりますけれども、その活動の一環として、2008年から地球温暖化防止活動に取り組んでおります。

日本野球機構が行う温暖化防止活動「Green Baseball Project」日本野球機構としては、プロ野球のホーム観戦に来られる皆様に快適な環境を提供しなければなりません。そのためには、空調設備や照明を使うことで、膨大な電力を消費しております。今のところ、プロ野球の平均試合時間は3時間前後ですけれども、お客様には2時間ぐらい前から球場のスタンドに入っていただいています。ということで、5時間近く、特にドーム球場の場合は5時間ぶっ通しで、空調、照明で電力を使っておりまして、これは屋根のない球場と比較した場合、3倍ぐらいの電力を使っているということです。

011_11ということで、我々としても、地球温暖化防止活動の高まりに対して背を向けるわけにはいきませんので、2008年から「Green Baseball Project」というものをスタートさせました。ねらいは、消費電力の削減ということでありますけれども、この活動には大きく分けて2つあります。1つは、試合時間の短縮、もう1つは、「プロ野球の森」の植樹活動です。

試合時間を「マイナス6%」

試合時間については長いという印象を持たれている方も多いと思いますが、これはプロ野球の長年の課題であります。なるべく試合時間を短くするように選手にも何度も呼びかけていましたが、時間短縮はなかなか実践されていませんでした。2007年までの10年間の延長戦を含む全試合の平均試合時間は3時間20分でした。

我々としてはこれを何とか短くしたいということで、具体的な行動をするために何かいい手はないかと考えていたところ、「チームマイナス6%」という言葉を目にしました。それにならって試合時間を6%マイナスすることを目標にしたのです。3時間20分の6%は12分です。マイナス12分で、3時間8分。これを目指して「Green Baseball Project」はスタートしました。いろいろなルールを設け、選手に具体的にそれを守ってもらうことを始めました。

9つのルールを掲げ、試合時間短縮にチャレンジ

9つのルールを掲げ、試合時間短縮にチャレンジファン向けポスター そして、昨年と今年は、この目標をもっと進化させました。9回で終わった試合の平均試合時間を3時間以内にするという目標です。

そして2010年のスローガンは、環境省のスローガンが「チャレンジ25」に変わったのに伴い、「2010Green Baseball Project Challenge 25」と設定しました。これには、野球でベンチに入る選手は25人ですから、25人が一体となって試合時間を短縮しようという意味合いが込められております。

では、我々はどのようにして試合時間を短縮させてきたのかというと、例えば投手は15秒以内に投球するというルールを設けました。そのほかに、攻守交代は全力疾走。ピッチャーは速やかにマウンドへ上がること。打者はアナウンス中にバッターボックスに入ること。バッターはバッターボックスを絶対に外さないこと。バットが折れる可能性があるので、予備のバットは必ずベンチに置いておくこと。むやにタイムを要求しないこと。無用なボール交換は絶対にしないということ。審判には素直に従うこと。

子供に言い聞かせるようなことばかりですが、このような基本からまず選手に意識を変えてもらって、試合時間の短縮に取り組んできました。そして、これらのルールは、試合時間短縮の9カ条ということで、ロッカーや選手食堂、またファン向けのポスターに載せております。

このようにして、選手に試合時間を短縮するという意識づけを一昨年からやってきまして、それなりの成果は出ていますが、去年、一昨年とも目標時間を達成することはできませんでした。ただ、2007年までの9回までの平均試合時間は3時間13分でしたが、2008年は3時間9分、2009年は3時間8分ということで、徐々にではありますが、少しずつ成果は上がってきていると思っております。しかし、目標は達成できなかったので、超過した分については、カーボンオフセット排出権を購入することにしました。

広まる「プロ野球の森」の植樹活動

グリーンリストバンド

グリーンリストバンド

続いて、「Green Baseball Project」のもう1つの活動である「プロ野球の森」の植樹活動について説明します。1つが、グリーンリストバンドの製作・販売です。これを開幕戦や交流戦の始まる日に選手につけていただきます。地球温暖化活動に対する啓蒙という意味も含めて、ファンの方にアピールしています。これは1個500円ですけれども、このうちの100円を植樹活動に活用させていただいています。

宮崎県「プロ野球の森」調印式

宮崎県「プロ野球の森」調印式

2008年の売上分については、多くのプロ野球球団がキャンプをやっている宮崎県の綾町で「プロ野球の森」の植樹活動を行いました。今年については、新潟県と北海道の4町で「プロ野球の森」の植樹活動を行う予定です。

10年を越える「アオダモ資源育成の会」の活動

北海道4町「プロ野球の森」調印式

北海道4町「プロ野球の森」調印式

また「Green Baseball Project」とは別に行っている活動もあります。プロ野球というのは木のバットを使っています。材料はほとんどがアオダモなのですが、このアオダモを守ろうということで、日本高等学校野球連盟、全日本大学野球連盟、日本野球連盟が共同でNPO法人アオダモ資源育成の会をつくり、10年にわたって北海道でアオダモの植樹活動を行っております。

折れたバットにつきましては、再利用を図っています。箸や判子、靴べら等を製作し、その売り上げをアオダモ資源育成の会に回して、植樹の費用として使っています。

我々も「フォレスト・サポーターズ」の一員になりましたので、今後は、球団や選手にも声をかけて、運動に参加していきたいと思っております。

講演『世界最高峰(エべレスト)から見た日本の森林
~次世代を担う子どもたちに期待すること~』
三浦 雄一郎 プロスキーヤー、冒険家

三浦 雄一郎 プロスキーヤー、冒険家私は70歳、75歳と2度エベレストに登りました。今日は本題に入る前に、地球で酸素がなくなるとこれほど苦しい世界になるということをまずお話ししたいと思います。

大気中の酸素濃度は約21%であります。これがどんどん山が高くなって、例えば富士山の頂上、3,776メートルになると、酸素がほぼ30%減ります。人類も含めて、生きものの生存する領域は、海抜0メートルから5,000メートルぐらいです。5,000メートル以上になると、哺乳類は子孫を残せなくなるということです。人類の中で高いところで暮らしている高地民族、シェルパやアンデス民族は、夏の時期や、あるいは放牧で5,500メートルぐらいのところに行きますが、そこではそんなに長い間は暮らしていくことはできません。

エベレストは人間が登れる限界の高さ

8,000メートル以上の高さは、酸素濃度がほぼ3分の1近くになっています。ここから上はデスゾーンです。これより上は、人間があと何日生きられるか、いつ死んでもおかしくないという高さです。エベレストの頂上は8,848メートルです。この世に神様が存在するかどうか知りませんが、もし神様がいたとしたら、神様が「これがあなた方人間が生身で登れる高さ、これが限度だ」といってエベレストの高さを決めたのではないでしょうか。エベレストがあと100メートル、200メートル高かったら、頂上は、宇宙服でも着ない限り生きていけません。

というのは、気圧が3分の1以下になるからであります。下界においては、水が沸騰する温度はほぼ100度です。ところが、9,000メートル近くになると、水が沸騰する温度は60度近くです。人間の体温は36、37度ですけれども、エベレスト登頂中、マイナス30度以下になっても、汗が出ます。全身の力を使って登り続けるわけですけれども、体温が38度、39度、あるいは40度近くになります。9,000メートル近くの高さにおける沸騰する温度が60度としますと、沸点までの差が20度しかないことになります。人間の血液の温度は43度以上になったら、人間はほとんど死んでしまいます。血液の温度と沸点との差が20度しかないということは、計算上ではほぼ80度に上がったという状態になっているわけです。それ以上高くなったら、血液が沸騰し始めます。その限界がエベレストの9,000メートル近い高さというわけです。

エベレスト登頂の準備としての高度順応

エベレストに登るためには、高さを体をならしていくということをします。高度順応です。3,000メートルから3,500メートル、3,500メートルから4,000メートルと、大体500メートルずつぐらいに分けて、1週間ずつぐらい滞在するのです。そうすると、赤血球が少しずつ増えて、高度に体が少しずつなれてくるのです。

酸素を体に運ぶ赤血球は、男性の場合、1マイクロリットル当たり約500万個です。高度順応していくと、赤血球が増えていき、最高30%まで増えます。30%赤血球が増えるということは、血液がどろどろになるということです。つまり、血圧をどんどん上げないと血液の循環ができなくなるということでもあります。

山好きのお医者さんたちの計算によると、エベレストの頂上にたどり着くと、例えば二十歳の登山家、肉体的に全盛期の登山家の肉体年齢が90歳近くになるそうです。ほぼ70歳加齢されるということで、私は70歳で登ったので、肉体年齢は140歳ということになります。現存の人類が生きていける年齢ではないわけです。

ということで、何をしたかというと、トレーニングや山登りを繰り返しながら、高度に順応していったのです。そして、7,000メートル以上では酸素を吸わせてもらいました。それで運良く登ることができたのです。

下界では「酸素がただ」という贅沢な生活

三浦 雄一郎 プロスキーヤー、冒険家我々は酸素ボンベを使います。使わなくても登れる人々はいますが、それは事故や障害が起きる可能性が大き過ぎる行為です。

我々が使う酸素ボンベのほとんどは、冷戦時代のソ連のミグ戦闘機のパイロットたちが使っていたものの払い下げです。カトマンズで買えば1本45万円ですが、シェルパに担いでもらったりして8,000メートルまで行くと、1本当たり6万円ぐらいになります。

草木のない高い山から下りてきて、草木が生える3,500、3,600メートルぐらいに来ると、やっとここで酸素が吸えると、生き返ったような気持ちになります。

我々は、散歩したりするときには、1分当たり2リットルぐらいの酸素を吸います。そうすると、6万円の酸素ボンベは6時間でなくなってしまいます。そう考えると、我々は下界で、1時間当たり1万円の酸素をただで吸いながら生活しているということです。とても贅沢な生活をしていると言うことができます。

我々人類、そして生きものの生存に多大な役割を果たす酸素

地球上の酸素を生み出してくれているのが、森であり、草木の緑であり、海の植物性のバクテリアです。これらが光合成をして酸素をつくってくれるのです。そのおかげで地球上に酸素がどんどん供給されているのです。

産業革命が始まって以来、どんどんCO2が増えていますが、CO2が増えると同時に酸素が少しずつ減りつつあるのではないかと言われています。かつては地球上には酸素が22%ありましたが、これが今は1%落ちて、今後8%から5%ぐらいの酸素がなくなりつつあるという計算があります。このままどんどんCO2が増え、酸素が少なくなっていけば、文字どおり息苦しい時代が来ないとも限らないわけです。

人間というのは、皆、ご飯を食べ、水分をとり、空気を吸っています。我慢強い人間だったら、1週間ぐらい断食できます。また、水も1日ぐらい飲まないでも死にません。ところが、呼吸は5分止められたら、ほとんど死に至ります。10分以上止められたら、人類で生きていられる者はほとんどいません。ただで吸っている酸素が、我々人類、そして生きものの生存に多大な役割を果たしているのです。この酸素はすべて植物の光合成から生まれてくるわけです。

温暖化により氷河融解が進むヒマラヤ

三浦 雄一郎 プロスキーヤー、冒険家地球の温暖化が一番顕著にあらわれているのは、地球の極地においてです。南極あるいは北極の氷が溶けていると同時に、第3の極地であるヒマラヤの氷河も異常な速さで溶けつつあります。

2008年に私と息子の豪太はエベレストの頂上に行って、帰ってきました。エベレストのことをネパールではサガルマータといいますが、その”S”と、ポリューションの”P”、コントロールの”C”をとって、SPCという協会がヒマラヤにあります。要するに、ヒマラヤをきれいにしましょうということで、登山隊はSPCに53,000ドルデポジットを払わなければなりません。そしてヒマラヤのゴミを下ろしていくのです。

我々もヒマラヤに53,000ドル、デポジットして、そして持っていった荷物を持ち帰って、これがちゃんととれていればオッケーということです。一度我々はデポジットして、そのうち半分ぐらいはとれているはずだったわけですけれども、2008年に残した三浦隊のゴミがあるという通告を受けました。
ということで、息子の豪太が急遽、一緒に行ったシェルパたちと1カ月ほど前に、ゴミを残した場所、6,400メートルの第2キャンプまで行きました。そこで様子を見たら、「わずか2年半で、えっ、こんなに溶けていたの」というぐらい、氷が溶けていました。2008年のときは、氷や雪のすぐ上にテントが100以上張られていたんですけれども、その氷がドーンと5m以上溶けて、下の氷と岩が全部出ていました。雪が溶けたおかげで、ヒラリーやテンジンなどをはじめとする登山隊の残した五十数年来のゴミが出てきているのです。また、二百数十体の遺体も、氷が溶けるに従って出始めているということです。

局地的には温暖化の影響が急速に進展している

ヒマラヤは寒いと言いますが、5月の中旬ごろのエベレストの6,000メートルから7,000メーターあたりは太陽が直接当たります。6,400メートル、6,500メートルと空気層がないので、日が上がるにしたがって、いきなり宇宙からどうだという感じで日光が当たります。周りは全部氷河ですから、太陽電池の電熱器の中に我々がいるようになります。服を脱いだらやけどをするような、本当に死ぬような熱さになります。調べてみたら、一番高い温度がプラス58度でした。それが5,400メートルの一番高い温度です。当然異常な速度で雪が溶けます。日中、周りの氷河がゴンゴン音を立てて大奔流となって流れていきます。

また、8,800m近くで岩を登っていくと、5年前に登ったはずの氷は全部はがれていました。エベレスト南峰というのがあるんですけれども、5年前に行ったときは、氷が30mと岩が20mだったのが、氷が20mと岩が30mになっていました。岩と氷が変わっていたのです。そのような状態で、300m以上のロッククライミングをしなければなりません。氷がはがれ落ちてオーバーハングしてしまうととんでもないです。死にそうになりながらロッククライミングをしました。これも温暖化による地球とヒマラヤの氷の溶け方が異常に速くなっていることの1つの例であります。

崩壊した氷河が氷河湖になり、これが決壊する危険性があります。ヒマラヤを中心として、中国、インド、パキスタン、インドシナ半島、ガンジス川、メコン川、揚子江、これらの流域で暮らしている人間は約15億人です。ヒマラヤの雪、氷がどんどん溶けて、今、水不足が始まっています。急速に進んでいる温暖化は、極地ではもっとフォーカスされて、異常な高温状態で氷が溶けつつあるのです。

これを防げるのかどうかはわかりませんが、地球温暖化防止のため、将来の子どもたちの生存のために、地球の緑化が急速に必要になっています。

植樹活動を通して健康になる子どもたち

三浦 雄一郎 プロスキーヤー、冒険家私は全国森林レクリエーション協会の会長をやらせていただいていますが、人間にとって、森の中、山の中で遊ぶことは大切です。遊ぶことで、自然の息吹をもらって、大いに健康になります。そういうことも含めて、未来の子どもたちのために、森林資源の大きな再生ということを考えています。

私どもは、数は少ないですが、全国1万人ちょっとの生徒たちと一緒に植林を少しずつお手伝いさせてもらえたらと思って活動してます。しかし、いざこれをやろうとしても、きちんとしたシステムがある地方は少ないのが実情です。小学校レベルから、自分たちで山の中に木を植え育てるということが、システムとしてできるようになればいいと思っています。山の中で植樹をし、山を歩き回ることで、子どもたちが健康になり、またそれが子どもたちにとって大事な”寄す処”になっていきます。

地球にやさしいという言葉がありますが、地球にとっては、人間が滅びようが何しようが関係ありません。ですから、地球にやさしいではなくて、地球に生きている人間をも含めた生きものに対してやさしい地球をつくっていくことが重要です。そのためには、森の再生ということが急務であると思っております。

「フォレスト・サポーターズ」事例発表 ACT 1[森にふれよう]
内田 幸一(森のようちえん全国ネットワーク代表)

「森のようちえん」とは?

内田 幸一(森のようちえん全国ネットワーク代表)「森のようちえん」という言葉をお聞きになったことがある方はいらっしゃるでしょうか。ここ近年、自然の中で小さな子どもたちを活動させようという動きが広がってきています。「森のようちえん」はもともとはヨーロッパから発生してきたものですが、2000年ぐらいになってから日本の中でも大小とりまぜていろいろなものが出来上がってきています。

森のようちえん全国ネットワークでは、自然体験を基軸にした子育て、保育、乳児・幼少期教育等を全部ひっくるめて「森のようちえん」と言っています。

日本の「森のようちえん」の3つのタイプ

日本の「森のようちえん」の3つのタイプ日本で行われている森のようちえんは、図の通り、大きく分けると3つのタイプがあります。日本における取り組みの特徴は、認可外保育施設で行われているものが多いということです。認可を受けていない形態ですので、比較的手軽にどの時点からでもスタートしやすいという特徴があります。

一番典型的なのは、自主保育型という形です。これは、お母さんたちが数人集まって、子どもたちと一緒にお散歩みたいなところから始まります。

この自主保育型が進化していくと、この活動に幼児教育の専門の人が加わった形になります。お母さんたちが組織して運営しているグループに、幼稚園教諭免許や保育士といった資格を持った保育の専門家の人たちを雇用して、専門家による保育を行うものです。そういうタイプを共同保育型と言っています。自主保育の発展したものと考えていただければよろしいと思います。

それから、今まで保育の経験があったりとか、何年も幼稚園の先生をしてきたという人が多いのですが、自分で主宰して森のようちえんを立ち上げるケースがあります。これを主宰者型と呼んでいます。主宰者型の中には、毎日活動しているところもあります。ふだん幼稚園や保育園に行っている都市部の子どもたちに対して、週末だけ親子での参加を呼びかけるといったイベント型でやっているところも、この中に含まれます。

また、認可幼稚園や認可保育園でも、野外保育を森林の中で行うといった森のようちえん的な活動を取り入れているところが徐々に増えています。

森のようちえん全国ネットワークの設立とその取り組み

森のようちえん全国ネットワークの事業内容

森のようちえん全国ネットワークの事業内容

2008年に森のようちえんを進める各地のメンバーで「森のようちえん全国ネットワーク」を設立しました。現在約90団体の方たちに登録をしていただいていますが、登録団体はさらに増えつつある状況です。

実際「森のようちえん」として活動しているところは、日本全国に150~200ぐらいあるのではないかと思われますが、正確な数字はまだ把握しておりません。今、全国ネットワークではそういった調査も進めているところです。

森のようちえん全国ネットワークでは、いろいろなことを行っております。例えば、森のようちえんの普及に向けた「情報発信活動」から、「調査研究・プログラム開発」、そして、「指導者の育成」として「森のようちえん指導者養成講座」を年に何回か開催しております。また、「交流事業の推進」として、年に1回、森のようちえんの「森のようちえん全国交流フォーラム」を開催しており、今年も11月の最終の土日に山梨県の清里高原で行う予定です。

日本の草分け的活動としての「こどもの森幼稚園」

斜面を活かした手作りの遊び場

斜面を活かした手作りの遊び場

次に私が行っている、約30年前にスタートして、5年前の平成17年からは認可幼稚園として活動を行っている「こどもの森幼稚園」の取り組みを紹介します。日本における森のようちえんの草分け的な活動として紹介されることも多くあります。

長野県長野市の市街地から少し山の中に入った飯綱高原という場所で活動しています。斜面がいっぱいある森の中に幼稚園がつくられています。子どもたちは、平らなグラウンドとはちょっと違った、斜面の多い園庭を走り回りながら遊んでいます。園庭には手づくりのおもちゃや遊具もあります。冬になれば、そこがみんな雪に覆われますので、存分にそりで楽しむことができます。また、外に散歩に出かけたり、田んぼに稲を植えたり、稲刈りをしたり、野菜をつくったりということもやっております。

木の温もりのある保育室

木の温もりのある保育室

そして、部屋の中の遊びにおいても、できるだけ手づくりの玩具を子どもたちに提供する努力をしております。とりわけ木製のおもちゃも多くあり、また園舎の一部は地元信州の材でつくられていたりしており、森のようちえんでは、森林の中で遊ぶだけでなく、園舎や遊具で木をつかうことで、森とも関わっています。

「保育資源」として森林を位置づける

「森のようちえん」と森の関係

「森のようちえん」と森の関係

「森のようちえん」を行う場合、とても大事なことが1つあります。それは自然や農山村の中から「保育資源」を見つけるということです。「保育資源」という言葉は、私がつくった言葉であるため一般的な言葉ではありませんが、自分たちが活動を行おうと思っている地域には、保育に使えるどのような材料があるだろうかということです。例えば散歩に出かけるための、あるいは遊びに行ける野山があるかとか、お散歩に適したコースが得られるかとか、あとは、地域の伝承や物語があるかとか、そのようなものを発掘していきます。

保育資源として森林を活用した活動

保育資源として森林を活用した活動

また、周辺にいろいろな植物等がありますから、この季節にはこういうものが咲くというようなことを調べます。そして、季節の変化や天候の様子、例えば雪の降る時期には雪に触れたりだとか、自然条件もたくさん利用しています。

それから、保育活動に協力していただける地域の人材がたくさんいます。農林家のおじさん、昔話のできるおばあちゃん、そのような方たちを地域の人材として調べたりします。また、幼稚園の先生や実際に保育にかかわる人たちも保育資源の人であります。

このようなさまざまな保育資源を見つけて、活用することで、「森のようちえん」というのは行われております。

保育者は森での子どもの発見の共感者となる

011_29子どもたちは森の中でいろいろなものを発見します。動植物だけではなくて、気候のことにも気がつくことがあります。その際に、それらの発見した”もの”や”こと”について、私たち保育者は、「すごいもの見つけたね」とか「誰々ちゃんは随分細かいものまで発見できるだね」などといって、共感者となるように努めることが大事です。

また、お母さんやお父さんたちと一緒に活動したり、さまざまな年齢の子どもたちが入り混じった活動もしています。異年齢の子どもたちがともに活動することで、年長者が小さな子のお手本となったり、年の小さな子が大きな子の真似をしたりしますが、そうすることで年齢が増すことが成長につながる、ということを自ら意識できるようにもなります。

緑豊かな地域で育つ子どもたち

011_30子どもが育つ場は、子どもが住んでいるその地域にあります。そのため、生まれ育つ場で、その地域のよさを実感し、取り巻く人々の温かな愛情を感じながら、自分らしく一人ひとりが大切に育っていくことが重要です。

緑豊かな日本で育つ子どもが、故郷を愛し、人を信じ、自らも豊かに愛する一人となるためにも、幼い時代にそれを体験することが必要だと思っております。

◆「森のようちえん全国ネットワーク」ホームページ
http://www.morinoyouchien.org/
◆「子どもの森幼稚園」ホームページ
http://iizuna-gakuen.ed.jp/kodomonomori/top.html

「フォレスト・サポーターズ」事例発表ACT 2
[木をつかおう]
多田 千尋(NPO法人日本グッド・トイ委員会 理事長、東京おもちゃ美術館 館長)

ロングライフで考える木育

011_31私たちのNPO(日本グッド・トイ委員会)は、今年の4月から木育推進に係る林野庁補助事業を受託することになり、現在全国各地の木育推進をどのように図っていこうかと、日夜励んでいるところです。

私の専門は、子どもとお年寄りです。早稲田大学では高齢者福祉、お茶の水女子大学では保育の授業を持っています。ということで、私は木育についてもロングライフでとらえる視点を持ちたいと思っており、今回は「東京おもちゃ美術館」で推進する木育を中心にお話しします。

地域とのソーシャルアライアンス

私たちのNPOのテーマは、地域とのソーシャルアライアンスです。アライアンスという言葉は、日本の企業の中では資本提携という意味合いで使われる場合がありますが、私たちのNPOが考えるのは、地域のさまざまな主体が垣根を越えて、社会事業や理念、文化をアライアンスし合いたいということです。要するに、みんなで仲良くつき合っていきましょう、ということです。そういう考え方を基本において、NPO法人日本グッド・トイ委員会では主に4つの事業を行っています。本日はそのうち、木育との関わりの深い「東京おもちゃ美術館」についてお話します。

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おもちゃ美術館を廃校に移転

011_33東京おもちゃ美術館私たちNPOが運営する「東京おもちゃ美術館」は、廃校になった小学校の中に入っています。その建物は昭和10年につくられ、奇跡的に戦災を免れた歴史的建造物です。場所はほとんどが焼け野原になった新宿区四谷3丁目で、この小学校だけ爆弾が1つも落ちませんでした。

そういった経緯もあり、小学校が廃校になった際に、地域住民からこの建造物を守り抜きたい、壊したくないという声が広がり、当時中野にあった「おもちゃ美術館」の誘致運動が起きたのです。当時は23年にわたって、中野サンプラザ近くの新井薬師で「おもちゃ美術館」をやっていましたが、地域住民の熱意に共感し、移転することにしました。

全国からの「一口館長制度」としての支援でおもちゃ美術館が建設

011_34おもちゃ美術館外から見ると普通の校舎にしか見えないですが、その中の12教室を使って「おもちゃ美術館」をつくりました。元が教室だったため、それをミュージアムテイストにするには1億円ぐらい資金が必要となりました。そこで私たちは、「一口館長制度」というのを設けて、1万円を払っていただければ館長になれますよ、と全国の方たちに呼びかけたのです。館長になった人は、青森県の津軽のブナを使った積み木に名前を彫り込んで、それを美術館の入り口に飾らせていただく仕組みですが、これが見事に成功しました。今、大体1,500人ぐらいの方が寄附をしてくださっており、またこのことは私たちを非常に勇気づけてくれました。

もっとメイドインジャパンのおもちゃを

おもちゃ美術館に入ると、まず最初にミュージアムショップがあり、そこは元々1年1組の教室でもあります。このミュージアムショップは、日本にたった1つしかないショップですが、木製のものを中心として、メイドインジャパンのおもちゃが80%を占めています。

011_35もっとメイドインジャパンのおもちゃを実は日本というのは、メイドインジャパンのおもちゃを集めるのが難しい国なのです。今、日本の食糧自給率が40%切るか切らないかということで大問題となっていますが、おもちゃの自給率に比べたらまだいい方だと思っています。おもちゃの自給率は今5%を切っています。

日本という国は、子どものためにおもちゃをつくる気をなくしてしまった国なんです。世界各国を見ても、日本というのは自然豊かな国で、木材は余るほどあります。また、世界ナンバーワンの木工技術もあります。材と技がありながらも、子どものためにおもちゃをつくってあげようという気概だけがなくなってしまったのです。

そこで、地産地消のおもちゃに力を入れようと思い、全国各地に散らばっている200人のおもちゃ職人に、「メイドインジャパンのおもちゃで勝負をかけたいので、皆さんに協力してほしい」と手紙を書いたら、1人残らず参画してくださることになりました。そして、あっという間に1,000アイテムのおもちゃが集まったため、それらを展示・販売しています。

木と触れ合えるさまざまなコーナー

館内には、さまざまな木のおもちゃがあります。

グッド・トイ・キャラバンで全国に木育を

011_40グッド・トイ・キャラバンで全国に木育をこのようにおもちゃ美術館ではさまざまな木のおもちゃを紹介していますが、おもちゃ美術館に来ていただくだけではなくて、こちらからも各地に伺おうということで、「グット・トイ・キャラバン」あるいは「木育キャラバン」のキットをつくっており、これを用いて日本中をキャラバン隊が旅をして、良いおもちゃや木のおもちゃの普及を図る取り組みもはじめています。

今後の木育活動の展開

さらに、私たちがこれから進めようとうしている事業の1つに「ウッドスタート事業」というものがあります。新宿区と連携して実施しようとしている事業で、「新宿区に赤ちゃんが生まれたら、姉妹都市である長野県伊那市からおもちゃが届く」という仕組みを検討しています。来年の平成23年4月から始める予定で準備を進めています。

011_41今後の木育活動の展開また、「赤ちゃん木育サロン」ということで、「おもちゃの森」の赤ちゃんバージョンを元理科室につくろうという企画も進めています。

さらに今年の11月6日、7日には、「森のめぐみの子ども博」を新宿で行うことになっています。子どものおもちゃ、食器、家具などを集めて、使い手と職人たちとが交流できるような集いの広場をつくろうと計画しています。

今後とも地域と協力して木育活動を全国的に広げていきたいと考えております。

◆「日本グット・トイ委員会」ホームページ
http://goodtoy.org/
◆「東京おもちゃ美術館」ホームページ
http://goodtoy.org/ttm/
◆「木育にっぽん21」ホームページ