「国際森林年」キックオフ記念 「美しい森林づくり」企業・NPO等交流フォーラム 分野・セクターを超えたパートナーシップで拡げる「国際森林年」

主催/社団法人国土緑化推進機構、美しい森林づくり全国推進会議
共催/国連大学、経団連自然保護協議会
後援/林野庁
協力/地球環境パートナーシッププラザ

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2011年「国際森林年」は、2月にニューヨークで開催された「第9回国連森林フォーラム(UNFF)」会合において公式にスタート。これを受けて、国内で森づくりや木づかい等を行っている多様な分野の企業・NPO・行政・学識者等の関係者が一堂に会して、『「美しい森林づくり」企業・NPO等交流フォーラム』を開催し、日本における2011年「国際森林年」の幕開けを発信しました。
フォーラムでは、分野やセクターを越えた多様な団体間のパートナーシップを促進することにより、さまざまな活動を活性化することを確認。また2011年は日本が提唱した「国連生物多様性の10年」の開始年でもあり、昨年開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」の成果を踏まえ、「国際森林年」の取り組みに活かす方策についても議論が行われました。

  1. 開会挨拶
    出井伸之代表(美しい森林づくり全国推進会議)
    コンラッド・オスターヴァルダー学長(国連大学)
  2. 来賓挨拶
    田名部 匡代 農林水産大臣政務官
  3. イントロダクション
    国際森林年に関するビデオレター
    潘 基文(パン・ギムン)国連事務総長
  4. 概要報告1
    「国際森林年」のねらい-世界の中での日本の役割-
    沼田 正俊 (林野庁次長)
  5. 概要報告2
    「国際森林年」と「国連生物多様性の10年」を迎えて
    大久保 尚武 (経団連自然保護協議会 会長)
  6. 基調講演
    「国際森林年」を契機に、未来に豊かな森を引き継ぐ環を拡げよう
    C.W.ニコル (国際森林年国内委員会 委員/作家、アファンの森財団 理事長)
  7. パネルディスカッション
    「国際生物多様性年」における産官学民の学びと「国際森林年」への提言
    ・ 学/森林や農山村を育む「SATOYAMAイニシアティブ」
    武内 和彦 (国連大学 副学長、東京大学 教授)
    ・ 産/森林・木材を活かす「生物多様性民間参画パートナーシップ」
    眞下 正樹 (経団連自然保護協議会 顧問)
    ・ 民/「国際年」を深める「CEPA(広報・教育・普及啓発)」戦略
    川廷 昌弘 (生物多様性条約市民ネットワーク 普及啓発部会長)
  8. ディスカッション
    〈進行〉宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)
    〈パネリスト〉武内 和彦、眞下 正樹、川廷 昌弘、出江 俊夫(林野庁 研究・保全課長)
  9. 閉会挨拶
    谷 福丸((社)国土緑化推進機構 副理事長)

開会挨拶 美しい森林づくり全国推進会議 出井 伸之 代表

美しい森林づくり全国推進会議 出井 伸之 代表日本は本当に「美しい森林」を持つ国だと思います。

この森林を今後も維持発展させていくために、2007年に美しい森林づくり推進国民運動が開始され、「フォレスト・サポーターズ」には、現在約3万5,000人の方々が参加しており、参加企業は600団体を超えるまでになりました。また2011年は「国際森林年」であり、国内委員会も開催され、森林林業再生元年のテーマが挙げられています。

私は長く製造業に携わってきましたが、今後は一次・二次・三次産業の区別なく、日本人の生活の豊かさを支える基盤が森林だと考えています。日本全体の生活を幸せにする中で、森の存在こそ、とても大切なものだと思っています。そして「国際森林年」を記念して、この運動をさらに全国的に広げて、実りあるものにしていきたいと願っています。

開会挨拶  国連大学 コンラッド・オスターヴァルダー 学長

 国連大学 コンラッド・オスターヴァルダー 学長森林は世界の31%を覆い、生物多様性の保全、気候調整、分水嶺や土壌を守ってくれる場所です。しかしながら、森林減少のスピードは非常に早く、毎年1,300万ヘクタールの森林がなくなっています。

この大切な森林を保全するために、2006年の国連総会において、2011年を「国際森林年」とする決定をし、政府や国連機関、民間の団体・セクターの一致協力のもと、森林のあらゆるタイプの保全と持続可能な開発を努めることになりました。

また、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)においては、生物多様性の大幅な損失減少を2020年までに達成する目標を掲げ、国連森林フォーラムにもさらなる協力が求められています。

これまで国連大学は森を守り、持続可能な森林管理を推進すべく、「SATOYAMAイニシアティブ」をはじめとする研究活動を行ってきました。また、「SATOYAMA 知事サミット」を共催し、人間と自然が共存できる社会に向けて生物多様性保全、気候調節などの生態系サービスに関する価値や知恵に基づく対応をする重要性を訴えてきました。

今後は政府やビジネス界、市民社会並びに団体がパートナーシップを強化し、組織の壁を超えた行動と政策をとっていくことが大切だと思います。本シンポジウムは、日本の人々が生態系サービスを提供する森林の重要性を認識し、生態系を守り、豊かさを残していく活動を始める非常によいきっかけになると思います。そしてCOP10の成果を踏まえた「国際森林年」の実施につなげていき、生物多様性の10年などのこれからの活動の弾みとなればと思います。

来賓挨拶 田名部 匡代 農林水産大臣政務官

田名部 匡代 農林水産大臣政務官本年は、国連が定める「国際森林年」です。それを記念して、ニューヨークで第9回国連森林フォーラム閣僚級会合が開催されました。この場において、我が国は森林減少や違法伐採など、世界が直面する課題の解決に国際社会が連携して取り組み、これまで以上の成果が得られるよう、具体的な行動を開始するよう呼びかけました。そして国際協力の強化等の取り組みを盛り込んだ閣僚宣言が採択をされました。

国際森林年の国内テーマは、「森を歩く」です。これは、国民の皆様に森林を訪れていただくとともに、私たち自身も林業の現場を歩き、実情に即した政策を行う意思の表明でもあります。

農林水産省においては、昨年11月に「森林・林業再生プラン」の実現に向けた具体的な対策をとりまとめたところであり、本年は我が国が森林・林業再生に向けて、林政の大きな転換点を迎える「森林・林業再生元年」でもあります。こうした森林・林業にとって記念すべき本年に、社団法人国土緑化推進機構、美しい森林づくり全国推進会議と経団連自然保護協議会の協働宣言がなされること、そして両者の共催により経済界やNPO、元気な森林を取り戻そうとしている皆様の参加を得て、このフォーラムが開催されることに森林に対する並々ならぬ思いを感じ、大変心強く感じています。

本日のフォーラムを契機に、皆様の活動がさらに活発に展開されることを心から期待しています。

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イントロダクション 「国際森林年」に関するビデオレター

潘 基文(パン・ギムン)国連事務総長

潘 基文(パン・ギムン)国連事務総長2011年は「国際森林年」と宣言すると同時に、国際連合はグローバル社会に対して森林の持つ大きな価値、そして森林を失うことにより極めて重大な社会的、経済的、環境的損失コストがあること、それを啓蒙するプラットフォームをつくりました。私たちには森林は不可欠です。陸上の生物の8割が森林に存在し、1兆トン以上の炭素を貯留しています。森林減少により発生している温室効果ガスは、世界の全交通セクターの排出量を上回っています。

メキシコ・カンクーンで開催された「気候変動枠組条約締約国会議」では、各国政府はより低排出で、気候変動に対し強い未来への大切な一歩を踏み出しました。均衡のとれた合意がなされた一連の措置には、森林保全と持続可能な管理の進展も含まれております。REDD+(レッドプラス)に向けて前進しようという決断こそ、この地球、そして森林に食物を、そして生計を頼っている16億人以上の人々にとって、目に見える成果をもたらすことでしょう。このイニシアティブをもとに努力を積み重ね、現在と未来の世代が森林の豊かな恵みを享受できるようにしましょう。

約20年前、「地球サミット」(リオ・サミット)で、森林管理に対する懸念が発せられ、それを起源として「国連森林フォーラム」が立ち上げられました。この「国際森林年」、そして2012年に開催される「RIO+20」の会議に向けて、森林の持っている潜在性をどのように実現できるかを合意できる大きな機会があると思います。これは持続可能な開発、経済的安定、貧困との闘い、そして私たちすべてが繁栄できる未来づくりに向けた取り組みであります。

概要報告1 「国際森林年」のねらい -世界の中での日本の役割-
沼田 正俊 林野庁次長

(1)世界の森林の状況

沼田 正俊 林野庁次長世界の森林は約40億ヘクタール、陸地の3分の1が森林で、1兆トン以上の炭素を貯蔵しています。現在、気候変動とういうことが大きな問題となっていますが、特に熱帯林諸国では、全体の二酸化炭素排出量の約2割が森林の減少に由来するという状況です。また陸上の生物多様性の約8割は森林に依存しています。  世界の森林面積の変化については、ここ10年ほどはアジアの森林の面積は増加しています。ただ南米、南アメリカ、アフリカ、特にアマゾン川流域とコンゴ川流域では依然として熱帯林の減少が続いています。1990年から2010年の世界の森林は、トータルすれば、日本の国土の約4倍の面積が減っている状況です。  1992年の「リオ・サミット」から、森林、生物多様性、気候変動、砂漠化防止の4つの大きな流れがあり、昨年が「国際生物多様性年」、そして今年が「国際森林年」となり、世界全体で森林への関心がかなり高くなっています。

(2)第9回 国連森林フォーラム(UNFF9)の概要

012-7lこうした世界の状況の中で、ニューヨークに各国閣僚級の方々が集まり、UNFF9が行われました。その中で日本は、「将来的にはグリーンエコノミーを実現することが大切。生態系を配慮しながら森林の資源を持続的に利用していくことが重要。そして森林の減少など世界が直面している課題に国際社会が連携して取り組んでいく必要性」についての提案をしました。

最終的に閣僚宣言が取りまとめられ、「森林減少傾向の反転」「森林に由来する便益の強化」「持続可能な森林面積と産物の増加」「森林関係のODAの増加」の4つの世界目標としての達成に向けた努力を加速化する必要があることが盛り込まれました。

(3)日本の森林・林業の現況

012-8l日本の場合は、明治時代や大正の初めに、かなりの伐採をしてきましたが、量的には現在は回復してきています。人工林の年齢構成をみますと、40年~50年あたりが極めて多く、これから木材として利用ができる状況です。ただ、残念ながら、海外からの輸入が7割を超え、海外の森林資源に対してインパクトを与えないためにも、国内の資源を有効に活用していかなくてはいけないと思っています。森林・林業の再生に取り組み、10年ぐらいをかけて、今は約28%の木材自給率を50%にしたいと考えています。

(4)国際森林年を迎えて

012-10l本年の「国際森林年」を契機に、国民と森林との「絆」を取り戻せないか。日本の森林を再生させて、世界の森林の持続性につなげていきたいと考えているところです。

その意味で「森を歩く」を国際森林年のテーマにしました。森を歩いて、体験して、貢献できることを一人一人が探していくことが大事だと思っています。林野庁としても、そのためのさまざまな情報発信をしていきます。

 

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概要報告2 「国際森林年」と「国連生物多様性の10年」を迎えて
大久保 尚武(経団連自然保護協議会 会長)

大久保 尚武(経団連自然保護協議会 会長)今年は国連が定めた「国際森林年」であると同時に、国連総会で決議された「国連生物多様性の10年」が始まる年でもあります。この地球上で、人類が将来にわたって安定的に暮らしていけるかどうかは、COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)で採択されたいわゆる「愛知目標」を達成できるか、この先10年の人類の取り組み次第にかかっています。中でも森林は、地球上のさまざまな生態系の中でも、生物の多様性に富んでおり、一方でその破壊が進んでいることから、保全の重要性が高いと言われております。

012-15l経団連自然保護協議会は1992年に設立され、企業や個人からの寄附を募り、NGOが行う具体的な自然保護プロジェクトに対して、金銭的な支援を行う基金の運営に携わってきました。支援実績は、累計で917件のプロジェクト、金額にして総額約28億円に上っております。また、昨年のCOP10においては「生物多様性民間参画パートナーシップ」を発足させ、生物多様性条約事務局や国連の機関から高い評価をいただきました。

今後は取り組みの視野を拡げ、農業・漁業・林業など、第1次産業に従事する方々や中小企業の方々にもお入りいただき、多様な主体が連携・共同して生物多様性を守っていく活動を拡げていきたいと考えております。

012-16その点、「フォレスト・サポーターズ」は、林業に携わる方や地域密着型の工務店など、私どものパートナーシップとは異なる色彩の会員層を持っており、従来と異なる視点からのアプローチ事例に触れることで、取り組みの幅の拡大に貢献することができます。また林業は、持続可能な生産と消費をつい最近まで実現してきた業態であり、「SATOYAMAイニシアティブ」の舞台の一つです。この持続可能な生産と消費というキーワードは、「愛知目標」にも盛り込まれており、その実現に向けて、特にビジネス界の取り組みが期待されております。

日本には里山や鎮守の森のように、森の大切さを知り、森を守りながら利用してきた歴史があります。こうした先人の知恵や伝えられた価値観なども大切にしながら、持続可能な生産と消費、あるいは自然の循環の範囲内での暮らし、すなわち現代における里山がどうしたら経済的に成り立っていくのか。そうしたことを、記念すべきこの2011年を契機に、「生物多様性民間参画パートナーシップ」440団体と、「フォレスト・サポーターズ」約600団体が手を取り合って、一歩ずつでも着実に前進し、2020年の愛知目標の達成に向けて努力していきたいと考えております。

基調講演
「国際森林年」を契機に、未来に豊かな森を引き継ぐ環を拡げよう
C.W.ニコル氏(国際森林年国内委員会 委員/作家、アファンの森財団 理事長)

012-17僕は12歳のときに映画を見て、北極探検家になると決めました。17歳で家出して、カナダの北極に行ったんです。8カ月の探検。もう大自然、美しい自然、ほんとに北極の民族は、当時持続可能な生活をしていましたね。手銛でアザラシをとったり、犬ぞりで旅をしたり、嵐が来たら長いナイフを使って、雪で家をつくる。そういう生活にあこがれました。

その後、20歳で越冬隊に選ばれて、19 カ月も総合的な探検に行きました。ドイツ、スウェーデン、アメリカ、カナダ、英国。立派な科学者が集まるデヴォン島というところの探検で僕が一番若かったんです。そういうわけで、17から22歳までほとんど大自然の中にいました。

そして22歳、14歳から柔道をやっていた僕は、講道館の畳の上で柔道をするために日本に来ました。空手にも挑戦し、黒帯をとるまでの2年半は東京にいました。でもやはり町には住めず、秋津というところに移りました。50年近く前です。明るい雑木林で子供たちはよく遊んでいました。私が雑木林で空手の型をやったら、子供たちがそれを見て、近づいてきて、すぐシュッシュッシュッシュッと手裏剣投げのまねをするんですよ。忍者…楽しかったですね。チャンバラをやったり、忍者ごっこをやったり、そして会話があったんです。

012-18日本にいて、里山のきれいな手入れの仕方、落ち葉を使って肥料にしたり、それから薪をとったり、山菜やキノコをとったり…その印象がものすごく大きかったんです。それから僕は森を歩きましたね。冬山はカンジキをはいて、テントを持たず、雪洞を掘って、そういう中で寝泊まりしたり、いろんなすごい冒険をしました。日本の夏が暑くて、僕には耐えられなかった時、先輩たちが私を日本の美しい森に連れていってくれました。初めて夏の原生林を見たんです。6月にブナの原生林に入った時、私の心は本当に嬉しくなりました。この美しい幹は、どんな大聖堂よりもたくましくて、やさしくて、美しい。そして若葉からの何とも言えない木漏れ日は、どんな大聖堂のステンドグラスよりも美しい。

その時から、僕は自分の人生の地図を変えたんです。仕事は北極だけど、心のふるさとはもう日本。この島国はこんなに人口密度があっても美しい森を残して、野生の熊も生存している。だって、英国から野生の熊が絶滅したのは千年近く前です。僕は日本人と森、川、海を勉強する。そして人間と自然がほんとに一緒に暮らせる哲学を探そうと思ったんです。

また日本には、北に流氷があって、南に珊瑚礁がある。高い山と複雑な海岸線。本当に自然と生物の多様性は素晴らしい。40歳になって、黒姫に住み着きました。16年前から僕は日本国籍です。でもそのときから最後の原生林は、ばさばさと切られた。あちこちに鉄砲水が起こって、美しい小川が3面張りのコンクリートになり、やたらに山を削ってゴルフ場やスキー場をつくった。

012-19僕は悩んだ末に、自分の気持ちを素直に言いました。日本中から手紙が来ましたね。知床から西表まで、あちこちで日本人が悩んでいました。私たちの山を見に来てください。干潟がこれからだめになります。ごみで埋め立てちゃう。この川を助けてくれと。何も力はなかったんですけど、聞く耳があったんです。行って、見て、聞いた。だんだんと悲しくなって、日本がだめになったら、アジアは助けられない。アジアがだめになったら、いくら国連が頑張っても、世界はだめだと思ったんです。

【写真:南健二】

【写真:南健二】

じゃあ、どうすればいいか。日本で儲けたお金は全部日本で使うと決めました。荒れ地を買いました。やぶになってしまった森とか、幽霊森というところを買って健康的な森に変えようと……。最初、26年前に森の手入れをしたら、山菜は7種類だったのが今、137種類あります。植えたんじゃないんです。光を入れたら花が出てきますね。花が咲くと、昆虫が来ます。昆虫が来ると、小鳥が来る。小鳥が来ると、種を落としてくれる。だんだんと小さなサイクルが、うまく回り始めたのです。

少しずつ、少しずつこっちは1万坪、こっちは5,000坪と土地を買っていきました。森は、光を通さないとだめ。風も通らないとだめ。これ、人間社会も同じです。光が通ると、元気になります。キノコは400種類以上。鳥は70~100種類。絶滅危惧種も26種類戻ったんです。とにかく毎年少しずつよくなっているし、毎日森を歩くと、新しい発見があるんです。480メートルの川もつくりました。地下水が流れるようにすると、3年もしないうちに26種類のヤゴが入った。トンボの子が入った。4種類のカエル、サンショウウオ。いろんなおもしろい生物が入ったんですね。日本では、自然がいろんな顔で回復してくれるんです。

【写真:管洋志】 日本アムウェイOne by Oneこども基金 「アファン“心の森”プロジェクト」より

【写真:管洋志】
日本アムウェイOne by Oneこども基金
「アファン“心の森”プロジェクト」より

森はやっぱり人類の心のふるさとだと思う。陸の上に森がなかったら、人類はできなかったんですよ。森が消えたら、人類はもういないです。小さな森でも愛情と汗をかけたら、元気な森になります。ほんとに日本の森に愛情と汗をかけ、そしてディスカッションし交流したら、この島国はアジアのエデンの園になります。みんなが日本に来たがるでしょう。みんなが日本の成功を聞きたがるでしょう。今度は森にしましょうよ。川にしましょうよ。人間の心にしましょうよ。

パネルディスカッション
「国際生物多様性年」における産官学民の学びと「国際森林年」への提言

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最後に行われたパネルディスカッションでは、「学」の代表として武内 和彦 氏(国連大学 副学長、東京大学 教授)が「SATOYAMAイニシアティブ」について、「産」の代表として眞下 正樹 氏(経団連自然保護協議会 顧問)が「生物多様性民間参画パートナーシップ」について、そして「民」の代表として川廷 昌弘 氏が(生物多様性条約市民ネットワーク 普及啓発部会長)が「CEPA(広報・教育・普及啓発)」の重要性について紹介しました。

続いて「官」の代表として出江 俊夫 氏(林野庁 研究・保全課長)が加わり、宮林茂幸氏(東京農業大学教授)の進行により、ディスカッションが行われました。

「農業と林業、水産業などと分けないで、いろいろな業界を組み合わせることで付加価値を高めることが重要」、「企業の活動には生物多様性に係るものが多く、企業活動そのものの中に生物多様性保全の概念を組み入れることが重要」、「学校の先生と連携し活動を進めていきたい」など、さまざまな提言がありました。

学/森林や農山村を育む「SATOYAMAイニシアティブ」
武内 和彦(国連大学 副学長、東京大学 教授)

武内 和彦(国連大学 副学長、東京大学 教授)近代化の過程で農林業の生産性は非常に高まりました。しかし一方で、土地の改変や化学物質の投入などで、生物の多様性とは矛盾する産業になったことが問題点です。今私たちが考えなければならないのは、農業や林業を営むことが、むしろ自然を豊かにする。そんな取り組みができないだろうかということです。伝統的な知恵を生かして、そこに新しい知識も導入しながら、農林水産業的と生物多様性の保全を調和させていくことができるのか。こうしたことを考えていく必要があります。

012-22l私たちは国連大学で、日本の里山や里海を対象に、生態系サービスを評価しました。その結果、過去100年の間に私たちは生態系サービスをないがしろにし、特に最近の50年は、農林水産物を海外に依存するようになりました。他方、日本では農林水産業の衰退が著しく、過疎化や高齢化が進行し、地域の活力が低下するという問題が生じてきています。もう一度、人間と自然のバランスある状態に戻していくには、農林水産業の担い手だけに地域の管理をゆだねるのではなく、例えば企業やNGO・NPO、自治体、都市の住民などがお互いに水平的な関係を築きながら、共同で地域を管理していくことが重要です。

先ほど潘基文事務総長のスピーチの中で紹介された、エリノア・オストロムさん(ノーベル経済学賞受賞者)は、資源を共同で管理していく仕組みこそが社会に求められていることを強烈なメッセージとして伝えています。すでに世界には実例があって、スペインでは、人間と林とイベリコ豚がうまく共存しています。またブラジルでは、林業と農業を一緒にやるアグロフォレストリーがある。例えば高木層には木材、低木層には果樹、草本層に作物、さらには低いところには草があって家畜を飼うがいる、そんな構成にします。一方で生物が多様性を確保しながら、他方で生豆、コーヒー、パパイヤなどを収穫する。言ってみると、生物多様性の回復と経済的な地域の活性化をつなぐことができるわけです。

012-23l日本国内でも林業を林業だけで考えるのではなくて、例えば林業とバイオマスを一緒に考える、食品産業も一緒に考える、さらにはツーリズムと組み合わせていく、こうしたつながりを考えないと、林業の将来は決して明るくならないと思います。トータルな地域社会づくりの中に、林業や森林を位置づけて、地域の中で大事な要素になっていくことが重要ではないでしょうか。

特に日本はこれから急激に人口が減少し、高齢化が進みます。これからの国土をどうやって豊かなものとして維持していくかが大切になります。そういう中で、農林水産業や森林が果たす役割が極めて大きいわけです。最大の問題点は、それをだれが担うのかです。先ほども述べましたが、従来とは違う形で、さまざまな企業も積極的に参加し、また企業やNPOの活動を規制する法的な制約もなくして、豊かな自然と文化にあふれる地域づくりを考えていくことが重要だと思います。

産/森林・木材を活かす「生物多様性民間参画パートナーシップ」
眞下 正樹(経団連自然保護協議会 顧問)

眞下 正樹(経団連自然保護協議会 顧問)昨年のCOP10で発表された「TEEB」と呼ばれる生物多様性の経済的価値に関する報告書によれば、例えば、地球上の自然資本が毎年2兆から4.5兆ドルほど損失しており、それは、年間の総消費額の7%に相当するとされています。また生物多様性の損失は、経済的側面だけではなく、人類の福祉や雇用問題あるいは栄養問題につながっており、世界の公益経済の減退を招いていることが指摘されています。

012-25lそうした中で、私たちはビジネスに関係のある「グリーンエコノミー」をうたっています。これを推進するために認証制度が有効だとされていますが、一例として、北海道紋別地区では「緑の循環認証会議」による森林認証を使った地域おこし協議会ができました。現実に森林認証して、そのカラマツを使った酪農の牛舎ができ、それによって森と里、酪農とのコミュニケーションをつくっています。さらには漁協の方も植林をして、森、里、海が連関した地域おこしが進んでいます。

012-26「生物多様性民間参画パートナーシップ」は、COP10の会期中に設立され、企業のほか、経済団体やNGOの方々の440団体に参加していただいています。パートナーシップ活動は7つの宣言と15の行動指針で成り立っており、具体的な考え方が、やはり循環型経営です。アサヒビールさんの水源の森、神奈川工場での森林インストラクターも入ったエコ探検隊によるコミュニティゾーンとしての公開。またキヤノンさんが進めている工場での保全。整備しながら、周辺、地元に生息するベンケイガニ、アカテガニの保護に力を注いでいます。東京電力さんも火力発電所で、自然学校を実施しています。

012-27l最後に3つの提案をしたいと思います。まずは、企業の森のネットワーク化です。全国では1,000以上の企業が関係している「企業の森」があります。しかし、総合的に「企業の森」が林業とはうまく結びついていません。また、経団連の581の自然保護活の事例も林業界と結びついておりません。こういったものをうまく総合化して、森林・林業界とのコラボレーションをつくれば、森林年に向かっての大きな力になると思っています。

2番目は、先ほど緑の循環で申しました地域おこしのやり方。

012-28l3番目は、モデル協働プロジェクトです。生物多様性で増進された生態系サービスの経済的効果をアカウントして、公的な環境保全プロジェクトの創出につなげていく。ある意味では山村社会、里山社会の生態系サービスによる産業振興と雇用拡充にもなると思っています。

これら3つの提案を、美しい森林づくりの「フォレスト・サポーターズ」とパートナーズで一緒にやっていこうではありませんか。

民/「国際年」を深める「CEPA(広報・教育・普及啓発)」戦略
川廷 昌弘(生物多様性条約市民ネットワーク 普及啓発部会長)

012-29「国連生物多様性の10年」、実はこれは日本のNGOである「生物多様性条約市民ネットワーク」が、日本の政府に提案をして、それが日本政府案となってCOP10で議論されたものです。

そうした中で、「国際森林年」がスタートとしました。10年をかけて奏でる命の物語は、森から始まった。森は命の源です。これは非常にいいと思います。2012年は、「RIO+20」。ここでは「グリーンエコノミー」がテーマです。2013年は「ポスト京都議定書」。2014年は、「持続可能な開発のための教育の10年」がフィナーレを迎え、日本で国際会議が行われることが決まっています。012-30l最後、2015年は「ミレニアム開発目標」という、途上国支援、途上国の持続可能な地域づくりを支えていく、その15年間の活動がフィナーレを迎えます。

私たちにとっては、こうした流れを次の世代に渡していくことが大変な課題だと思います。それがCEPAなのですが、ポイントは「さまざまな伝達手段による普及啓発」、「教育事業に取り入れる」、「他国や国際機関と連携する」の3つです。そのためには、国家、地域、世界規模でCEPA活動・コミュニケーション・教育活動のための窓口、実行組織を設けることが大切になってきます。

012-31l「国連生物多様性の10年」をつくった背景には、2010年までにしっかりと10年間取り組んで、生物多様性の保全をする目標があったのですが、ほとんどの人が知らなかった。普及啓発が行き届いていなかったわけです。しかし今後は、そうなってはいけない。「国連生物多様性の10年」はそこにポイントがあるわけで、みんなが知っている地球を守るための最後の10年との認識を持って、これを推進していこうというものです。非常に幅広い活動が求められますが、この普及啓発、CEPAの活動は、今後とても重要になってくると思っています。

012-32l日本には今、「森林・林業基本計画」があります。この「国民参加の森林づくり」の項目では、「企業等による森づくり」、「山村住民と都市住民との連携による里山林の再生活動」、それから「森林環境教育」の3つが挙げられています。会社勤めや学校に通っていて、なかなか森に日常的に入ることができない私たちにとって、日常生活でどう森に触れていくかはやはり重要だと思います。それともう一つ、都市生活と森をつなぐ、要するに都道府県産材の利用、これが山と都市生活をつなぐことになります。「フォレスト・サポーターズ」では、「森にふれよう」、「木をつかおう」、「森をささえよう」、「森と暮らそう」の4つのアクションを呼びかけています。この取り組みを森の国民運動としてみんなが協力し合ってやっていくことが重要ですが、ここに普及啓発のポイントがあると思っています。

ディスカッション

〈ファシリテーター〉
宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)
〈パネリスト〉
武内 和彦、眞下 正樹、川廷 昌弘、出江 俊夫 (林野庁 研究・保全課長)

生物多様性の議論で新しい林業の姿が議論

宮林 茂幸

宮林 茂幸

【宮林】
環境問題と生物多様性の問題について、まずこの10年間を振り返っていただき、その辺の評価と現状をお話しいただけますか。

【武内】
生物多様性と林業・農業は、これまで別々に議論されてきました。生物多様性の議論は、例えば自然保護地域を増やそしていこうといった議論。一方で農業や林業では、戦後の農業・の衰退、林業の衰退で、どうやって地域を支えていくかの議論はされても、生物の豊かさとともに農業や林業を振興していく観点はなかったんですね。

これからは、農業や林業を産業としてもう一度見直していくことが大前提になります。本当に強い農林水産業をどうやって育てていくか。付加価値を高めて国際社会でも通用する、中国をはじめ海外に輸出する。そのことで儲けて、しかも生物多様性の保全と矛盾しない産業にしていくことが、最終的なビジネスモデルだと思います。企業の活動全体も、もちろん休日に里山の管理に参加したり、企業の森を管理したりもいいんですが、企業活動そのものの中で生物多様性を主流化させていくことが必要だと思います。

【眞下】
今や企業は、省資源化や省エネをやらないと、成り立っていかない時代になりました。そういうことを自覚し始めたんですね。例えば経団連の自主行動計画に、CO2削減対策の他に、循環型社会のための行動計画があります。当初の目標は75%削減でしたが、企業も、世の中もできるわけがないと思った。ところがもう既に前倒しして、一昨年、89%削減しました。

生物多様性問題も同じだと思います。確かに今までは、企業も一般の皆さん方もどうしたらいいかわからなかった。でも、とりあえずはCSRの形で入ってみたわけですが、同時に、企業が活動している中の生態系サービスに関するいろんなサプライチェーン、あるいは調達のあり方の問題を考え直すと、ゆくゆく経営リスクもなくなるということで、本当にいい生物多様性の形のビジネスになるなと。それこそグリーンエコノミーだと思いますね。

出江 俊夫

出江 俊夫

【出江】
森林・林業基本計画の話がここ10年、力を入れてきた分野だと思います。例えば森林の持つCO2吸収の役割に光を当てるなど、森林の持っている機能を、役割を見直していくという部分はあったと思います。その次に、やはり新しい「森林・林業再生プラン」の流れで、産業化にもう一度力を入れていくこと。さらにそれを支えていく人材や地域を残していくことに、取り組んでいこうと思っています。

【川廷】
林業などが人手不足だといっても、いきなりポンとみんなが林業に従事する意識に変わるのは難しいことです。例えば今の子供たちに、教育の場で命のつながりであったり、産業のことであったりを一つ一つ理解させることが大切だと思います。自分が就職するときに、林業、農業、水産業も、企業選択の中に入れて、自然の中で仕事をして、汗をかいて、給料をもらいたいといった発想ができるようにしていくことも実は重要ではないかと。目先のことだけではダメで、中長期ビジョンで人材育成をやっていくことが重要だと思います。

もう一つは、メディアの力です。報道番組だけの問題ではなく、民放のバラエティーの中でも、旅や気候の番組の中でも、そういう精神や概念を上手に制作者側が理解をして伝えていく。自然にやっていけば、生物多様性という言葉は出なくても、理解できるようなコミュニケーションがあるのかもしれません。

木材生産以外を含めて、業種やセクターを超えた新たな産業化

【宮林】
企業は大きく転換している。メディアとの関係も、見えてきた部分もあるとして、では実際にどういう仕組みをつくっていったらいいのでしょうか。

武内 和彦

武内 和彦

【武内】
例えば木材を生産します。そのときに材以外の部分ができます。そういうものは今バイオマス利用が、注目されているわけです。また、例えば家畜の排泄物をうまく使って、良好な堆肥をつくるのも有効です。さらには、できるだけ耕作放棄地に家畜を放して、海外からの飼料の輸入を減らしていく。そのことによって地域の中で循環的な産業が出てきます。日本の地方には温泉もあるし、冬はスキーもできる。こういうものを全部組み合わせると、企業も、観光業も、農業も、林業も、自治体も、都市住民も、NPOも、NGOも、みんな入ってこれます。そのときに大事なのは、だれが偉いとか、だれが上かではなくて、みんなが水平的な関係を持って、ネットワークを形成していくことです。

【眞下】
森林を単なる木材の生産の場であり、価値の場であるとしたところに問題があります。そういった意味では、昨年のCOP10で、森林の扱い方に生態系サービスという機能を織り込んだのは、非常によかったと思います。山村での産業化のあり方も、これまでの木材だけじゃなくて、生態系サービスを生かした林業経営、例えばエコツーリズムなんかもその一つです。

日本がもつ知恵や文化とともに、豊かな日本の森林資源を活かす

【宮林】
森林というのは、一体私たちにとって何だったのかをもう1回再認識する、そんな提案も必要じゃないかと。その辺りや「国際森林年」の動き方については、どう思われますか。

川廷 昌弘

川廷 昌弘

【川廷】
これまでの日本は科学技術や環境技術でトップリーダーとして君臨してきています。だけど実は、生物多様性の保全や自然資源を守っていく、そういう知恵と知識、まさに「SATOYAMAイニシアティブ」が提供しているものは、日本だからこそ発信できる文化であり、アジアだからこそ持っている文化です。日本人がこれまで大事にしてきたことが、実はすごく地球上の問題を考えたときに重要なんだとの転換もあると思っています。技術だけじゃなく、文化の部分でも、日本人が今こそ力を発揮して、世界に対して声を上げていくべきではないでしょうか。

【武内】
昨年の生物多様性年のときに思ったんですが、日本が国際的なイベントに参加する意味は、国際社会での日本の地位や役割を再認識、再評価することだと思います。幸いなことに、昨年は日本人の持っている生物多様性に関する知恵が評価され、世界から理解されたわけです。

森林についても日本人は、森林の持つ豊かさを評価できず、それを持て余して、そして森林をどうするかの議論をしている。もうちょっと世界を見れば、それがいかにぜいたくな議論かがわかります。日本は、これからは経済大国ではなくなるかもしれないが、世界に誇れる豊かな国なんだと言えるようになるべきです。森林は、その可能性を示す重要な資産ではないかと思っています。

眞下 正樹

眞下 正樹

【眞下】
私たちはパートナーシップを立ち上げましたが、国内の企業の皆さんにすそ野を広げるだけじゃなくて、グローバルな形で世界の人たちとも共有したいと思っています。一方で日本人の想いは、先ほどお話がありましたように、例えば「山川草木悉有仏性」といった世界に誇れる考え方があります。この中にはすごく生物多様性の想いが入っています。日本人の想い、あるいは昔から持っている自然の恵みのあり方、命のつながりをもっともっと生物多様性条約を通じて、また国際的なパートナーシップを通じて広めたい、日本人の心意気を伝えたいと思っています。

生物多様性の10年と森林年の協働で、新たな付加価値を

【出江】
私は以前、環境省の民間活動支援室の室長をやっておりまして、環境の観点から市民活動を見ておりました。どちらかというと森林より先行して、環境に良いものに付加価値を見つけて、消費者が動き、市民の志向が変わることが起きていったと思います。

それを振り返って、今回林野庁に来まして、木づかいの話などが動いている中で、オーガニックや木の良さを感じている人たちは多くいると思います。また、その人たちと環境に良いものに付加価値を見いだした人たちは、共通しているのではないかと思います。そのような両者を市民ネットワークがつないでいくことは、すごく大切なことだと思います。

行政面で見ましても、この会を「国連生物多様性の10年」の観点と「国際森林年」の観点を併せ持つこと、つまり経団連による自然保護協議会の取組と、国土緑化推進機構による国土緑化運動、そして美しい森林づくり推進国民運動が一緒になって1つのテーマで取組を進めることは、とても新しいことだと感じています。こういうことからうまく広げていければと思いますし、まさにそういう意識が変わる年にしたいという意味において、国際森林年があるだろうと思っております。

【宮林】
この運動を広げていくときに、「フォレスト・サポーターズ」をぜひ活用していきたい。今4万人ぐらいですが、これをもっともっと大きく個人や企業レベルで広げて、うまく展開していければいいと思っております。

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