主催/美しい森林づくり全国推進会議、経団連自然保護協議会、(社)国土緑化推進機構
共催/林野庁、環境省、日本海岸林学会
特別協力/国際森林年国内委員会事務局
本年は「国際森林年」であるとともに「国連生物多様性の10年」の初年度にも当たり、また来年開催予定の「地球サミット(Rio+20)」では、「グリーン・エコノミー」が主要テーマとされています。
一方、東日本大震災を契機として、今後の海岸林を含めた森林の持続可能な管理・利用や、生物多様性保全と調和した持続可能な社会づくりのあり方に関して、さまざまな議論がなされています。
こうした状況を踏まえ、第5回美しい森林づくり全国推進会議においては「国際森林年」におけるこれまでの活動や今後の展望等について情報交換がされ、またシンポジウムにおいては、講演、パネルディスカッション等を通じ、森と木を活かし生物多様性保全と調和した持続可能な社会づくり、グリーンエコノミーの創出等について意見交換がなされました。
●第1部:第5回美しい森林づくり全国推進会議
- 開会挨拶
出井伸之(美しい森林づくり全国推進会議) - 来賓挨拶
田名部 匡代農林水産大臣政務官
渡邉綱男環境省自然環境局長 - 概要報告
「国際森林年」活動報告
末松広行 (林野庁 林政部長)
宮林茂幸 (美しい森林づくり全国推進会議事務局長)
「生物多様性民間参画パートナーシップ」との協働について
半谷順 (経団連自然保護協議会 事務局)
●第2部:国際森林年記念シンポジウム
- 主催者挨拶
大久保 尚武 (経団連自然保護協議会 会長) - 特別講演
「東日本大震災における海岸林の役割と持続可能な森林管理・利用」
太田 猛彦 (東京大学 名誉教授/東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会座長)
「東日本大震災被災地における生物多様性保全と調和した持続可能な社会づくり」
涌井 史郎 (東京都市大学 教授/地球いきもの委員会 委員長代理) - 基調講演
「世界の「グリーン・エコノミー」に学ぶ、森と木を活かした生物多様性保全」
香坂 玲 (名古屋市立大学 准教授) - パネルディスカッション
「産官学民のパートナーシップで拡げる、日本の森と木を活かす「グリーン・エコノミー」の創出に向けて」
・木づかい運動と木材利用・木造建築の可能性
安藤 直人 (東京大学大学院 教授、木づかい運動感謝状 審査委員長)
・森と繋がるものづくり、まちづくり
赤池 学 (ユニバーサルデザイン総合研究所 所長、国際森林年国内委員)
・経済界の森林への取り組み~経団連自然保護協議会の活動を中心に~
西堤 徹 (経団連自然保護協議会 企画部会)
・東日本大震災を契機とした“木づかいの動向”
竹中 雅治 (登米町森林組合) - ディスカッション
〈進行〉 宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長)
〈パネリスト〉安藤直人、赤池学、西堤徹、竹中雅治、香坂玲 - 閉会挨拶
谷 福丸((社)国土緑化推進機構 副理事長)
第1部:第5回美しい森林づくり全国推進会議
開会挨拶 出井伸之 美しい森林づくり全国推進会議 代表
3月11日に東日本大震災が起こりまして、大変多数の方が亡くなり、またまだ避難していらっしゃる方も沢山おられて、本当にその方々に哀悼の意を表するとともに、大変な国難にわれわれは毎日過ごしているという感じを強くいたします。
国際森林年や生物多様性の活動のある記念すべき年に大震災が起こりまして、いままでのように森だけを考えていてはいけない事態になってきたのではないかと思います。今回は、美しい森林づくりの推進協議会と経団連の自然保護協議会、また国土緑化推進機構の3者が協力体制をつくり行うシンポジウムでございます。
森があって川があって海があるという日本の美しい自然ですが、根本的に地球と我々がどうやって共生していくかということを考えざるを得ない事態になっています。日本が将来、どうやって町を作り、森や海を大切にし、地球と共生していくかということで、森を考えるということは人間の生活そのものを考えることに他ならないと思います。本日は、皆でいろんなことを考えていく非常に意義ある会議にしたいと思います。
来賓挨拶 田名部 匡代 農林水産大臣政務官
3月11日の大震災によって失われた尊い命に心からご冥福を申し上げますとともに、大きな被害を受けられた多くの方々に心からお見舞いを申し上げたいと思います。本年は国際森林年であり、また国際生物多様性の10年の初年度であります。
皆様も御承知のとおり、今般の震災では海岸林をはじめとする森林も大変多く被災し、その復旧が課題となっています。先般開催されました「海岸林を考えるシンポジウム」では、海岸林が津波の被害を弱める効果を果たしたことなどが報告されました。
森林にはこのような防災の機能のみならず、生物多様性の保全や潤いと安らぎのある地域づくりにも大きな役割が期待をされているところであり、また、被災地の復興を進めるにあたり、地域の雇用を創出する林業の活性化や、木質エネルギーの利用拡大などが課題となっています。これらは2012年に開催予定の地球サミットRio+20の主要テーマであるグリーン・エコノミーに通じるものであります。
農林水産省といたしましても「森林・林業再生プラン」の着実な実施など、森林・林業サイドから豊かで活力のある日本の再生に努めてまいりたいと考えています。本日を契機といたしまして、みなさまの活動がさらなる展開をなされますことを心からご期待を申し上げます。
来賓挨拶 渡邉 綱男 環境省自然環境局長
今回の東日本大震災により亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災地の方々がそれぞれの地域の暮らしを取り戻すことができますように願いたいと思います。
環境省も、三陸復興に寄与する新たな国立公園づくりも含めて、被災地の支援に全力で当たっていきたいと思います。
東日本大震災においては、様々な恵みを与えてくれる自然が、時に厳しい災害をもたらすということを改めて知ることになりました。自然と対峙するのではなくて順応する形で人と自然が共生をしていく持続可能な社会の実現、これが私たちが学ぶべき重要な視点となるのではないでしょうか。
私たちの世代は、東日本大震災を通じて学んだ自然共生の視点も持って、森林の生物多様性を保全し、森林を健全で美しい状態で将来の世代に引き渡していく責務があると思います。昨年、「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」で合意された愛知目標を達成できるよう、様々な関係者が自然と共生した持続可能な社会の構築に向けての取り組みを開始する必要があると考えております。本シンポジウムが、森と木を活かした、そして森の生態系の働きを最大限に活かした自然共生社会の実現に向けた大きな一歩となることを期待いたします。
「国際森林年」活動報告 末松 広行 林野庁林政部長
世界の森林は、土地の面積の約3割を占め約1兆トン以上の炭素を貯蔵していますが、森林の減少は非常に深刻な状況になっております。世界においてはこれ以上森を減らさない、ということが一番大切であり、我が国もそれに協力をしていくことが大きな課題です。
一方、国内の森林は、戦前に比べて豊かになり、我が国の森林資源は毎年少しずつ増えていますが、森林が手入れされていないという問題があります。日本においては、森を手入れし、森から出る材をきちんと使っていくことによって森を守ることが大切だということを、きちんと国民の皆様にわかっていただくことが大切だということで、国際森林年を進めています。
国内における国際森林年の活動戦略としては、これまでと別のことをやるのではなくて、今までやってきたことをもう一度盛り上げていく、というのが今年の仕事で、一人でも多くの方が森に親しみ、森のことを考えていただくという機会を作れればと思っております。 これまでやったことをご説明いたします。(以下一部抜粋)
- 第1回国内委員会を平成23年12月16日に開き、我が国の国際森林年のテーマを「森を歩く」に決定するなど今年の活動の方向性について議論をしていただきました。
- 協賛していただく各企業、団体、新聞社などのご協力により、国際森林年をPRする広告が出ております。また、各企業においては、色々なイベントを通じて募金の呼びかけなどをやっていただいております。
- 雑誌、インターネット等では色々なことを取り上げていただいており、日本の森の大切さ、課題についての色々議論がされ深まりつつあると思っております。
- 記念切手の発行ですが、これは、日本だけではなくて、イギリス、フィンランド、フランス、各国でも切手が発行されています。
- 震災との関係では、今こそ、森、里、海を連環して震災復興に向けて頑張っていこうという議論がされております。
- 「市民と森をつなぐ国際森林年の集い」は、夏ごろ地方団体と連携したシンポジウムを全国7か所で展開することになっております。
- 国際森林年のロゴマークの使用ですが、我が国ではUNFFとの合意によりフォレスト・サポータースのウェブサイト上で簡易に使用できる仕組みを構築し、292の企業・NPO法人などに利用頂いております。
今年は国際森林年でございますが、森の大切さはずっと変わりません。また、国際生物多様性の10年ということでもあり、これからずっと永遠に森の大切さを守っていくという活動を進めてまいりたいと思いますので、ぜひ皆様方のご協力もよろしくお願いいたします。
「国際森林年」活動報告 宮林 茂幸 美しい森林づくり全国推進会議 事務局長
2010年は国際生物多様性年であり、COP10の年でありました。そして2011年が国際森林年で、2012年が地球サミット(Rio+20)。さまざまな国際的な行事が連続する中で迎えた昨年度は、生物多様性と国際森林年、そしてコーズ・リレイティブ・マーケティングに係る活動を重点的に取り組んでまいりました。
生物多様性につきましては、COP10の連携行事である生物多様性交流フェアやメッセなごやでの出展やスタンプラリー、シンポジウム等を行ってまいりました。また、「生物多様性民間参画パートナーシップ」との相互連携協力に向けた「協働宣言」なども行ってまいりました。
国際森林年に関しましては、2011年を直前に控えた日本最大級の環境展示会「エコプロダクツ2011」において様々な企画を行い、約40団体と連携した森林に関するテーマゾーンの設定や、約60団体と連携したスタンプラリーの実施、さらにはメインステージで国際森林年国内委員の草野満代さんをお招きしたトークショーなど、積極的にPRを行いました。また、2月14日には経団連自然保護協議会との共催で、国際森林年のキックオフ記念フォーラムを行いました。
さらに、コーズ・リレイティッド・マーケティングに着目した企業のニーズ調査や、コーズ・リレイティッド・マーケティングをテーマとした企業を対象とした「企業の森づくりフェア」、コーディネート側を対象とした「森づくりコミッション中央研修会」を開催することで、新たな企業の参加を図るとともに、顧客等への普及啓発を図る新たな取組の可能性についても検討して参りました。
今年度につきましては、国際森林年国内委員会事務局を担当することとしており、フォレスト・サポーターズの運営事務局としての役割を連携することで、相乗効果の高い取組をしていきたいと考えております。
3月11日に大きな災害がございました。美しい森林づくり全国推進会議と東日本復興支援は、かなり一体的に進めていきたい、と思っております。平成23年度は、大きな転換のなかで、みなさんと一緒に国民運動を展開していきたいという所存でございますので、どうぞご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
「生物多様性民間参画パートナーシップ」との協働について
半谷 順 経団連自然保護協議会事務局
私どもの生物多様性民間参画パートナーシップは、昨年の生物多様性条約COP10の期間中に発足した、生物多様性に関する具体的な行動を主体的に推進する企業やそれをサポートする団体が参加する情報交換を中心としたプラットフォームという位置づけです。
昨年の2010年は国際生物多様性年であり、2011~20年までの10年間を国連生物多様性の10年と決め、生物多様性条約の枠を超え国連としてこの問題に取り組んでいくということが国連総会で決定されました。そして、今年は国際森林年で、生物多様性の10年の初年度にあたります。
森林というのは生物多様性が豊かで、森林にとって何か良いことをするというのは、取りも直さず生物多様性にも資する取り組みになるということかと思います。こういう意味で、森づくり、木づかいを実践しておられるフォレストサポーターズの活動は、まさに生物多様性の保全にも貢献していく活動だろうと考えております。一方、私どもの民間参画パートナーシップに参加をしている企業の活動をみてみますと、かなり森林に関する取り組みが多いという特徴もあります。そこで、2月14日にフォレストサポーターズと生物多様性民間参画パートナーシップの協働宣言というものに調印をし、同日、森林年のキックオフフォーラムを開催をいたしました。
これは、両者の協働をきっかけに、会員同士の相互乗り入れが進展し、情報交換の幅が広がりひいては各会員の活動がレベルアップをすることを期待してのことです。
また、今回の連携をきっかけとして、経団連自然保護協議会では、会員企業が取得をしました家電エコポイント、これはいずれ寄付もできるので、ぜひ国土緑化推進機構さんに、寄付をしてはどうかということを会員企業の皆様に提案をさせていただいております。
また、フォレストサポーターズと民間参画パートナーシップのそれぞれの参加団体が、より交流を深めていくために、片方に登録をしている団体は、比較的簡易な手続きでもう一方にも登録をできるというような、相互簡易登録という仕組みを作りました。情報交換の幅を広げるために、ぜひ、相互の参加も検討していただければと考えます。
自然と共生した持続可能な社会づくりのためには、あらゆるセクターの多くの方々の取り組みが、しかも画一的ではない、地域の事情や、生態系に適合したオーダーメイドの取り組みが必要になってまいります。
フォレストサポーターズや民間参画パートナーシップ、そしてその相互の連携によるネットワークにより、生物多様性の難しい取り組みをうまく解決していくソリューションを生み出していくこと、あるいは共に活動する仲間を作っていくということに、両団体の提携が役立っていくことを、期待しているところでございます。
第2部:国際森林年記念シンポジウム
主催者挨拶 大久保 尚武 経団連自然保護協議会 会長
このシンポジウムを共催しております3者は、今年の2月に、国際森林年と国連生物多様性の10年の幕開けを契機として、相互連携に関する共同宣言に調印いたしました。2月の調印から今日までの間には、私どもは東日本大震災という未曽有の大災害を経験しました。今後、各地で復興に向けた計画の検討が始まると思いますが、その際、例えば海辺には海岸林があり、人々の家の近くには、農地、里地、里山があるという日本らしい景観を再び作らなければならないと私は考えております。
森づくり、木づかいの観点から申し上げますと、日本の森林は農地や人々の暮らしと一体となって、里山として使いながら維持されてきた特徴があると思います。今こそ、改めて様々な形で森林と生活とを一体化させていくことが大切だと感じております。森林の恵みを、ビジネスや社会貢献として活用する動きもございます。このような、企業の、森への具体的な取り組みやリソースを、企業と森林関係者とが連携したり、地域おこしに活用したりして、大きな動きに育てることが大事だと思っております。
そして、それが震災復興と結びついて、森づくりと街づくりがともに進んでいくような、そんなプロジェクトが出来ると素晴らしいと考えております。
経団連自然保護協議会では、自然保護の観点から震災復興を応援したいと思っております。本日のシンポジウムが、その検討のヒントになることを期待しております。
特別講演1
東日本大震災における海岸林の役割と持続可能な森林管理・利用
太田 猛彦氏
(東京大学 名誉教授/東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会座長)
東日本大震災では、本当に大きな津波に襲われ、海岸林が無くなってしまいました。そのため、津波の到達しなかった4,5キロ奥でも海の匂いがしてちょっと怖い、早く復活してくれという声が出ているそうでございます。
調べてみますと海岸林は大いに働いていたと思います。こんな大きな津波ですけれども、運動エネルギーを減らして津波の勢いを鎮めるとか、少しでも到達時間を稼いだとか、特に漂流物の捕捉というのも大きいと思っております。減災という言葉には、非常に森の性質にも合っていると思います。
ところで、この海岸林ですが人工林がほとんどで、17世紀ごろから作られました。海岸林の砂は山から来ます。海に出て沿岸流に乗り、高波で打ちあげられて風によって内陸へ入っていきます。17世紀から20世紀の前半まで、今では考えられないほど山からは土砂が沢山出ていました。 実は、その森林の変化は、森林の面積の変化ではなく質まで入れますと、3~400年にわたって、森林が国土の半分くらいあるいは半分以下にまで減っていたということでございます。今、日本の森林は400年分の緑を回復していると、私は10年間言い続けておりますが、戦後木がなくなったと思っている一般の人たちがまだ非常に多いわけです。では、なぜ、森林は荒廃していると言われているのかというと、奥山の荒廃、里山の荒廃、人工林の荒廃などそれぞれの部分でそれぞれ荒廃しているということだと思います。ぜひこれからの森づくりは、質の高い森づくりをしてほしいと思っております。
海岸林は、陸と海を繋げる、特にソフトに繋げている場所ですので、そういう部分では生物多様性の保全にも関わっています。海岸防災林にはどうしても緊急性があります。それは、通常の災害、高潮等に対応しなければいけない、あるいは多面的機能ということでも早く復興させなければいけないものです。そして、海岸林を復興させるためにはできるだけ林帯幅を広くする、あるいは地盤を少しでも高くするということが必要だと思います。
海岸林がやられてしまったことは確かです。これは森の性質であり、本当に大きな外力は山崩れも津波も完全には防げません。こういうときは森も被害者ですのでぜひ助けていただき、企業のみなさん、国民のみなさんのお手伝いもお願いしたいと思います。 東北地方の復興はエコ復興であるべきだと思っております。それは東北地方の特徴として、自然と人が一体となってやってきたということ、あるいは低炭素社会ということを考えたときにもっと木材を利用するやり方があるのではないかということで、エコ復興の中心は、森林だと思っております。
今から7~8年前に多面的機能を学術会議で議論し、その時「森林と人間の関係に関する森林の原理」というものを整理しております。現代人の活動の結果として地球環境問題が出て来ていますが、それが現代文明の問題であるというのは当然だろうと思っております。大きく整理すると地上の土地利用の問題と地下資源利用の問題であって、その問題点の大きな2つの集約されたものが温暖化と生物多様性の減少だろうと思っております。それを日本の場合は、日本の自然社会の特性、人口減少社会のなかで克服して、持続可能な社会を作り出すべきだと感じています。その場合、例えばエネルギー問題を原子力発電で何とかしようとしたんだけれども、日本の国土の特徴である大震災に襲われたという ことで、なかなか持続可能な社会は難しいと捉えております。
実は46億年の地球の歴史というのは、地表では現在の環境を作ってきた生物進化の歴史、地下には地下資源の集積の歴史です。特に、都市社会の部分のところにおいては、できるだけ地下資源の利用を減らして、太陽エネルギーである自然エネルギーと、バイオマスエネルギーを使っていくということは当然の帰結ということで、このときにも“省エネルギーグリーン社会”と、名前を付けておきました。そういうなかで、持続可能な社会というのは、本当は再び太陽エネルギーの社会、地表の資源の社会にすべきだということです。そうなりますと、やはり木材の利用が非常に重要だと思います。
津波の災害、防災林の再生、それから森林ということに関して、私は次のように考えております。本来海岸には、砂丘、後背湿地、ラグーン、三角州、砂嘴などが形成され、このような場所は、津波や高潮、洪水に襲われている場所であり人間の居住地に適した場所ではなかった。かつて私たちの祖先は、もう少し内陸の小高いところに住んでいた。しかし、私たちは港を作り都市を作って生活の場を広げ、経済を発展させ繁栄させてきた。それと引き換えに海岸林が減ってきているわけですが、地域の復興を計画する際このような基本的事実も考えるべきではないか。海岸林を復活させるだけでなく海岸の自然を取り戻す内容を含めるべきではないか。具体的には海岸林を拡大し、その多面的機能を高めるチャンスである、特に都市近くの海岸林はセラピー効果など色々な可能性があると思います。
東北地方の復興は、もちろん生命財産の保護が大切ですが、自然と共存する計画であるべきだろうと思います。防波堤を作らず小高い丘に登って災害を免れた集落がある、そのために低地での災害は増加したかもしれないけども、生物が戻ってきたという面もあると思います。木材を使った住宅や施設などが建てられる復興計画であるべきだろうと思います。巨大津波と原発事故の後で化石燃料への回帰の声が上がっているが、人類の本当の危機は、地球温暖化ではないか。そのような中で再び、コンクリートと鉄を使った地域づくりで、二酸化炭素を大量に排出するようなことはぜひ避けてほしいと思っております。バイオマスエネルギーと自然エネルギーを総合的に利用するカーボンニュートラルな地域を作っていくべきではないかと思っております。
森林から訴えたいことを並べされていただきました。どうもありがとうございました。
特別講演 2
東日本大震災被災地における生物多様性保全と調和した持続可能な社会づくり
涌井 史郎氏(東京都市大学 教授/地球いきもの委員会 委員長代理)
我々の非常に薄い生命圏が今大きく傷つこうとしている、これが生物多様性の保続の大きなポイントであります。我々人類は1分たりとも、この多様な生物から生じる生態系サービスなくしては存在できないという事実があります。92年にリオデジャネイロサミットが行われまして、93年に生物多様性条約、そして翌94年に気候変動枠組条約が誕生しております。地球は生命体であって、この生命体はシステムあり、そのシステムは生物多様性からきているものです。システム崩壊を選択して人類の崩壊を促進をしていくのか、あるいはシステムを有限な資源と見立てて持続性を前提にしてそれを保全する努力をするのか、それによって持続的な未来をどう担保していくのかということに決意を新たにしたと理解をしております。 自然に対抗するのではなく、自然を一度受け入れて、一旦負けたかのように見せかけながらも、実はそのなかで生きていく空間を見出す、術を見出していくというのが日本人の知恵であったと思います。
その知恵の典型が里山であります。日本の自然というは、一人米一石1年間、そしてそれが四千万石に達したときに、人口が四千万。これで非常に安定した状況を得たわけでありますが、人口が増えてまいりますと、このエネルギー源を森林に求めるようになります。その結果全国にはげ山が進んでいくわけですが、その傍らで、自然の生態系サービスを恒常的に最大化するということを目的にしたのが里山で、生物多様性と共生共存するという空間のシステムを作り上げてまいりました。この里山一つあれば外部から物質もエネルギーも無くてもある程度自立できました。里山だけではありません。里川、里海というのもあります。
今後、我々は生物資源に相当の部分を依存して生きていかなければならない。それにも拘わらず、森林立国である日本が今一体どういう状況になっているのか、そこが非常に重要な問題であります。一番大事なことは、森林の多面的機能をどのように我々が評価をするのかという点です。こうしたものをきちっと社会的に評価するシステムというものが、経済学のなかに生まれてこなければ、森林というものをただそこに存在すればいいというだけの評価では具合が悪い、ここが自然を資本財としてもう一度カウントするという要諦になるのではないかと思っております。 日本の都市の周りにはずっと緑がありました。現代都市というものを考えてきますと、農山漁村との条件不利地と呼吸し合うという関係がなくては成り立ちません。この空間にある多面的な公益的機能を、どうやって都市民が評価をしていくのか、このシステムが実は非常に重要なところでありますし、条件不利をどう解消していくのかということが生物多様性保全の上でも非常に大切な条件であります。
今後、これから我々が考えていかなければならない環境革命下の地域構造というのは、小単位自己完結型の多極分散の姿でなくては具合悪い。エネルギー、情報、アクセス、エコロジカルネットワーク、これらがしっかりとネットワークされていく。そして生活優先、自立循環、分権、ゆっくり重視型、伝統への愛着、生物多様性の尊重であって、自然の理解が深まっている。つまりこういう分節型地域構造を目指すべきだろうと考えています。
すなわち、自立分節型の地域構造というのは、条件不利の場所を条件不利にしないという構造を持ち、その中では、エネルギーや物質は自立的に循環していくという構図が一番望ましい。こうした構図を東北地方に描き出すことが出来るのかどうか、これが世界から問われている復興構想の大きなポイントになるのではないかと、私は考えています。
そして、私案でありますけども、東北の観光を捉えると、人口減のところでありますから、東北復興の出口戦略にするのではなくて、入口の戦略にすることです。もっとも懸念すべき点は高齢化と次の世代が土地を捨てざるを得ないという事態の招来を防ぐということです。そこで提案ですが、浸水平坦地を国営公園化し、その中で、営農、営林を自由にする。このような構造を持って、そこに住み続けていただく意欲を増進させながら、やはり国土保全と生態系サービスの保全を図っていくような施策が必要ではないかと思います。そのためには、アグリツーリズムやエコツーリズムなどの様々なニューツーリズムの受け皿になっていく、それによって、雇用と国土保全と技能の伝承が可能になっていくのではないか、環境共生型の観光空間の世界的なモデルが出来るのではないかと考えております。
地球の現実の中で我々が考えていかなければならないことは、リミットが何かということをきちっと認識して、再生可能資源は、消費量再生量の範囲の中で収め、枯渇性資源は再生可能資源で代替えする、環境汚染物質は排出量分解吸収再生の範囲内に最小化する、こういう発想が非常に重要になってくると思います。
未来は、エコロジーとエコノミーの融合であります。循環型で共生型で自然と共生する社会を実現して、新しいエネルギーの形、ワイズユースな社会のシステム、そして、自然資本にも着目した社会をどのように実現するか、これが生物多様性を守っていく上で非常に重要な論点ではなかろうかということを申し上げて、私の提案を閉じさせていただきたいと思います。
基調講演
世界の「グリーン・エコノミー」に学ぶ森と木を生かした生物多様性保全
香坂 玲 (名古屋市立大学准教授)
森林科学が長らく務めてきた最大の機能は、治山と木材生産が明治期以降大きな目標でしたが、最近はそれに、生物多様性や二酸化炭素の固定などの議論が加わってきています。それに伴い様々な森林施業の仕方というものが新しい議論として起きています。
科学は、環境問題というのは問題がある、とか、トレンドがある、ということは特定できますが、それがいいことなのか、あるいは社会全体としてどういう方向性に行きたいのかという価値判断は、あくまでも政治や住民のみなさんが参加しながら判断していくものであると思います。よりよい意思決定をできるように、科学と社会が対話をしていくということです。今、特に大事なのは、様々なリスクなどを知った上で合意をしていく、色々な見解があった上で選択することを決めていくということです。その意味では、医療の現場で使われているインフォームドコンセントのような概念で、我々は科学の使い方、あるいは 技術の使い方と社会の関わり合い方というものを考えていくフェーズに来ているのではないかと思います。
1992年には双子の条約が誕生しました。このときは、全ての国が仲良くなっていくんじゃないかという淡い期待もありましたが、現実には、先進国と発展途上国の非常に鋭い対立というものが生まれてしまいました。このときに世界森林条約というものの交渉も行われましたが、決裂して原則声明に落ち着きました。
生物多様性条約では3つの目標について、議論してきました。COP10ではその中でも、愛知ターゲットの設定や利益配分に合意できたことが一つの大きな成果であったろうと言われております。ただ忘れてはならないのは、2010年目標は達成されなかった。その追試というか宿題を2020年、2050年にやっていきましょう、それが愛知目標ということになります。2020年に、もし達成できなければ追試も落第してしまったということにもなりますし、ある意味では将来世代に対して私たちは問題を先送りしている、という構図があると思います。その愛知目標ですが、様々な分野で森林と関わり合いの深い項目等も出てきております。持続可能な森林、農業の管理、あるいは保護地域の中では森林を含む多くを、陸地17%ということが決まっております。欧米の国々というのは、この目標11で、保護地域についての数値目標が採択されたということをもって、愛知名古屋でブレイクスルーがあったという大変高い評価をいただいております。
日本にとって、環境やエネルギーの問題と言うのは貴重な外交のカードでもあります。他の国が、日本に貢献してほしいと思っている領域と、日本が貢献できるあるいはしたいと思っているものが重なる、これが生物多様性、地球温暖化を含む環境エネルギーの分野であります。こういった分野について、広報も含めて、積極的な戦略を練っていくということが大事で、再生可能なエネルギーなどの環境分野で技術を磨く、あるいは国際的なプロジェクトを出していくということが、大事な国際貢献の柱にもなっていくのではないかと考えております。
グリーンエコノミーに近い言葉としてグリーンニューディールという言葉がありますが、ニューディールの場合は政府が主体になっていくというニュアンスが強いかなと思います。それに対して、エコノミーというのは、行政、民間、NPOが主体となって参画をする、そこには当然、倫理的・長期的な側面も非常に大事になってくると考えます。政府ないしは行政が規制するというのが一番確実性が高いのですが、市民とか事業者にとって、自主宣言や自発的に何かボランタリーにしていただくということが、選択の自由が当然高くなる。その間を補完するものとして、経済的なもの、補助金ですとか、様々なマーケットを使ったような仕組みづくりというものが大事になって来るかと思います。
持続可能な発展という考え方はヨーロッパから出て来たもので、CSRという考え方は主に北米を中心に出てきたものですが、リオの会議以降、段々と近づいて行ってひとつの近い概念になって来ました。今後必要になってくる技術ややり方としては、物理、化学、生態的な情報と、社会、地域の方々が持っている土着の価値観や、歴史的な価値観とを融合させていくことが大事ではないか、特にそれを地理情報として一緒にしていくという作業が大事ではないかと考えています。
日本の科学者が、今後科学技術がどのように進んでいくと考えているかというと、農林業、生態系、生物多様性というのは、日本にとって重要になり、しかもそれも短期にほぼ達成される、と答えた学者が非常に多いという特色があります。
今後の展望・課題としては、リスクがゼロの技術というのはありませんので、インフォームドコンセント型の科学技術政策というもの、また国内法をしっかり実施していく、事業と生態系との関わり合いというものを「見える化」していく、ということが重要ではないかと思います。
木づかい運動と木材利用・木造建築の可能性
安藤直人(東京大学大学院 教授)
木はほかの材料では考えられないほど、非常に繊細で緻密、非常に効率的なものです。現在、日本の自給率は国産材28%で、これを10年後に50%にしよういう目標をもっています。材木は海から来るというのが、この何十年間実は常識化していたわけで、これを国産材を伐って使うという循環にもっていくには、大転換をもう一度行っていかなければいけないということです。
森を支援する政策的な例の一つに、学校、病院などの低層な公共建築物については、木材をまず使っていきましょうという法律が昨年から動き出しています。昭和25年には官公庁建築物は不燃化しなければならない、26年には戦災の復興に木材の消費を抑制したという事実があります。昭和34年には日本建築学会から、防火台風水害のための木造を禁止するという決議文が出ております。これがものすごいボディブローとして現在まで効いてきてしまっていて、建築教育では、鉄筋コンクリート造・鉄骨造というところに主流が移ってしまっている。したがって、建築士の方たちも、木材や木造建築を勉強していない。結果、公共建物の木造率というのは、たった7.5%しかありません。どうやって木材活用の担い手を育成していくかというのが課題です。
もうひとつは、CO2の問題があります。原料調達から廃棄までのトータルな中で、どうやってカスケード的にずっと地表面に貯めていくか。マテリアルリサイクルによって、できる限り留めておくというのも大事な視点になるかと思います。
森林資源や木材の価値は疑うところではないのですが、消費者の立場で見ていくと、木材の魅力とか木造の価値観がなくなっているので、木材を使っていくことの価値観を持つ運動が必要だと思います。
木づかい運動は、2004年に経済界や有識者のみなさんと木づかい円卓会議というものを開き、木を使っていくためには、産業や消費行動として、議論しておかなければだめだよねということで語り合ったというのが最初です。2006年から木づかいへの貢献者に感謝状を出し続けております。木づかいニッポンは木で無限大のようなマークにいたしまして、木で循環というマークを採用させていただいています。
木造住宅でも、きちっとした金物や耐力壁を使っているところでは、3mの津波のところでも流されずに残っていた例もありました。また、東日本大震災の前から車で運んで行ってボンと箱を置くということも開発しておりました。これは地元の人たちが地元の材を使ってこんなものもできますねという提案です。
新しい技術としては、カンナクズとプラスティックを混練して成形した材料も産業化されています。伝統と新しいことを組み合わせながらやっていくことが必要で、今までの林業、木材産業と言う構造で良いわけがないと考えています。木材産業は、実は成長産業にできると思っております。
森と繋がるものづくり、まちづくり
赤池 学ユニバーサルデザイン総合研究所 所長
20世紀までの社会は、中央が自動的に便利さを配信してきた「自動化社会」だったと思っています。しかし、環境汚染など負の遺産を貯めて来てしまったので、先進国はエネルギー・ベストミックスに象徴される「最適化社会」を模索していたところ、3.11でそれが陳腐化し、「自律化社会」と呼べるような社会に大きく脱皮しているんだろうと思っています。情報技術の成熟を背景に、自らが集めたリアルな情報をベースに自ら計画し行動して、新しい持続可能な秩序を形成していくことが、波状的に起きてくると思います。そして、自分で計画して行動することに自信を持った地方自治体や企業は、生態系サービスや自然のメカニズムを、ものづくり、まちづくり、ビジネスの中に取り込んでいくということが当然な選択肢として出て来る。すると自律化社会のフロントランナーたちというのは、おのずと「自然化社会」と呼べる方向に発展していくだろうと考えています。
このような中で、住宅メーカーであれば、どういう自律化社会対応の商品住宅が作れるかということが求められます。今、大手住宅メーカーのエコロジカルな商品住宅のデザインはほとんど同じです。他社に対する差別化を自律的にどうデザインすればよいのか、という発想が求められています。それはたとえば、森林組合と連携して林業地域の木材を間違いなく使い、その家を購入したらその森林組合のある地方自治体から、安心安全な食べ物が定期的にお施主さんのところに届いたり、あるいはその木を提供してくれた山村地域と、観光交流をするためのインセンティブを住宅メーカーが用意してある、といった新しいビジネスの開発です。
自律化社会時代の森づくりとか木づかいというものを、深堀りしていけば、きちんとビジネスとして成立するプログラムやデザインがあり得ると思います。今やらなければいけないことは、それを阻んでいるものと戦っていくための具体策を練ることだろうと思います。
家庭は「家」と」「庭」でできていますが、大手の住宅メーカーは家のデザインを商品化してきましたが、庭は全然デザインしてきていない。子育て世代の家族がキッズデザインを考えたときに重要な住宅の空間であるにも関わらずです。例えば、住宅のある水系の山村と連携をして苗木を供給するといった住宅が建つコミュニティが増えてくれば、その都市の新しい森になるかもしれない。自律化社会時代のハウスメーカーにはこういう発想のデザインが求められていると思います。
山とか山村の持っている多面的な生態系サービスを、目覚めた経済人たちは、他社あるいは他国と差別化できるようなデザインに落としこんであげることが重要だと思います。企業がCSRとして森を支援することは、もうやり終わった仕事なんじゃないかと思います。それをさらにマイケル・ポーターが提案するCSV(Creating Snared Value)や本業としてのビジネスのなかに落としこむ具体的なプログラムを早急に考えるべき時代だと思います。
経済界の森林への取り組み
西堤 徹 経団連自然保護協議会企画部会
経団連の自然保護基金は、リオで地球サミットが開催された92年に設立されて以来、毎年自然保護プロジェクトへの資金支援を行ってきています。最近の実績は年間2億円弱で、支援件数は60件くらい、また19年間の累計では980件、約29億円という実績がございます。今年の63件の内訳は、森林に関するものが27%です。2008年に経団連の会員企業に、どのような生物多様性保全の活動をしているか尋ねたところ、約4割が森林に関するもので、森林の取り組みを重視しているということです。
また、震災復興支援ということでは、2012年度の募集では、被災地における生態系の保全・再生、地域の復興につながる自然保護活動も支援の対象であるということを明示して募集しようと思っております。
企業の森林への取り組み事例を紹介します。
積水化学工業さんは、中国で植林保全活動をしており、地元の樹種を選んで年間1,500~1,800本植林、環境学習やグループ交流を行われています。また、国内では、徳山積水工業さんが「積水の森」づくりということで、水源の森づくりや、森との共生を目指して、社員参加で森林整備を行われています。
次に三井物産さんの事例ですが、日本でも有数の森林を保有されている会社で、毎年森の維持・管理から生産される木材は大体約5万m3で、用途としては、建築材や合板材等に使われています。また、森林をゾーニングして、特別保護林、環境的保護林、水土保護林、文化的保護林などに分けて取り組みをされております。震災復興に向けては、三井物産の森から仮設住宅用に必要な材木を提供したり、フォークリフトを無償貸与されています。
最後に、トヨタ自動車の海外での事例を2つ紹介します。一つは、中国の砂漠化防止のプロジェクトで、河北省で中国科学院や地元の自治体、NGO、地元住民の方々と協力して取り組んでおります。持続可能なプロジェクトにするため、地域住民の現金収入につながる薬草などを植栽したり、21世紀中国首都圏環境緑化交流センターという名称の施設を設置、緑化を担う人材育成にも取り組んでおります。
また、フィリピンでは、熱帯雨林の再生活動に取り組んでいます。政府、地元の自治体、グローバルな環境NGOと協力し、荒廃地の森林を再生したり、果樹を植栽、収穫した収益の一部をプールし、地域社会の生計支援、新たな森林再生の資金に回すなど、持続可能なプロジェクトになるよう取り組んでおります。
こういう事例を見ましても、企業単独で出来るということは少なく、NGOや地元の方の力がすごく重要で、連携・協働して進めていくことが企業にとって重要と考えています。
パネルディスカッション
東日本大震災を契機とした“木づかいの動向”
竹中雅治 登米町森林組合
初めに、被災県である宮城県に住む一人として、今回の震災で色々なご支援、励ましのお言葉をいただいたことにこの場を借りてお礼を申し上げます。
宮城県は素材生産量の35%以上が合板事業向けで、また、宮城県・岩手県にある合板工場で、全国の約29%が生産されています。石巻にあった合板工場が非常に大きな被害を受けたため、合板仕向けの間伐材が行き場を失ってしまい、間伐・森林施業の停滞によって雇用の問題も発生してしまいます。ただ、私たちも、震災から立ち直り、新しい社会を作っていくというステージに移っていかないといけません。そういう事例を今回4つほどお示ししたいと思います。
一つ目は、組手什(くでじゅう)というもので、小さな間伐材を使い、組手切りというへこみの部分を組み合わせることによって、下駄箱、本だな、間仕切りなど色々な家具を作ることができます。今回、緑の募金の使途限定募金という形で、特に避難所での間仕切りに活用できないかといことでご支援いただきました。この支援が始まった当初は、鳥取県智頭町、愛知の方から被災地に寄贈が行われましたが、現在では、現地での生産と寄贈がなされております。1mほどの高さの棚は、過度にプライバシーを阻害することなく物も置くことができるので大いに喜ばれました。
二つ目は、木の団扇です。木の団扇の売り上げの一部を寄付して被災地の復興などに当てたい、という話をいただき木材を供給しました。企業の販促用やイベントでの配布用で利用されています。
三つ目は森林セラピーで、全国組織である森林セラピーソサエティで、10月2日のウォーキングデーに合わせて、被災者の方々をご招待するというような企画がされております。被災された方々の心身の回復と健康維持にお役に立てると期待をしています。
四つ目は木造応急仮設住宅です。仮設住宅建設に当たり国交大臣から、「被災地域の復興支援の観点を踏まえて、地域の工務店などの建設業者により地域材を活用した住宅などを応急仮設住宅として活用する」という指示が出ました。この指示を受けて今まで仮設住宅というと木造のものが入り込む余地がなかなかなかったのですが、今回公募が行われ、南三陸町の仮設住宅建設にあたって私たちを含むグループで仮設住宅15棟と集会所を受注しました。これは、軸組み工法の本格的な木造仮設住宅です。宮城県全県で約3万戸の仮設住宅が建設予定ですが、地域材を使いかつ地域の雇用を中心にした木造の仮設住宅というとおそらく私たちの15棟だけだと思います。制度面でも色々考えなければならない課題かなと思います。
仮設住宅を被災地の力で造るということは、住宅を失った方、建てる側など、その人たちにしか分からない気持ちや想いがあります。そういうものをうまく組み合わせて、地域経済への寄与や、森林整備の推進などを行いながら新たなステップを踏み出していく、という姿を思い描いています。
また、建設にあたってはなるべく地域の雇用をしたいと考えており、今まで、林業、木材加工をしたことがない方でも十分できるもの、そして若い方々でもちょっと大工仕事ができる人などで簡単に作れるような工法を考えております。
これからもぜひ被災地に暖かい目を向けていただくとともに、私たちも頑張りますので、色々ご協力いただければと思います。
ディスカッション
〈ファシリテーター〉
宮林茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)
〈パネリスト〉
安藤 直人、赤池 学、西堤 徹、竹中 雅治、香坂 玲
【宮林】 美しい森林づくり推進国民運動は、大体の重要性というところはコンセンサスがとれて展開して来ていますが、これからますますやって行こうというときに震災が起こったと思います。よって、こういう大変なときこそ、具体的なものに持っていくのは何なんだ、というところに絞って、森づくり、山づくり、地域づくりについて展開していきたいと思います。
【赤池】 エネルギーについての話ですが、東京丸の内の新丸ビルが昨年から全部青森県の風力エネルギーで賄われるようになって、同じことやりたいというデベロッパーさんからの相談が沢山あります。でも同じように、1棟のビルを賄うだけの自然エネルギーを作っている自治体はありませんが、無ければ作ればいいと思っているんです。例えば、小口の木質バイオマス発電のプロジェクトを、デベロッパーが支援して、被災地の森林自治体に地域エネルギーの供給会社として創らせれば、都市と森林自治体のエネルギーも繋がって来る。こういうことを、色々な業種業界のアライアンスのなかで探っていくことが必要かと思います。
【安藤】 在来工法など今の限られた工法のなかでではなく、もっと合理的に安全にやる方法は、実はあるんですね。ただ平常時そういうものを認められるプロセスがあまりにも時間かかる。構造的に十分安全性を考慮してやっても普及できない、要するに業界の方から言えば商売にならない。ただ、復旧、復興、新創造の段階があるんだろうと思いますし、当座の話と中期的な話のなかで、木材、森林資源というものをきっちり分けて考えていかないと、連続的には考えにくい部分が事実あると思います。
【竹中】 どうして今まで木造の仮設住宅が出来なかったんだろうと言ったら、即応性の問題というのもあったと思います。スピード重視だとなるとプレハブの優位性というのは確かにある。また、木造軸組み工法はそれなりの時間もかかるし、ストックとして決して多くは持っていないということ。そういう中で、先程安藤先生がおっしゃられた木の箱のようなイメージのものがしっかりと確立して、その方法であれば被災地の方でもすぐに適応できるというようなシステムづくりというのはとても大事なのかなと思います。その辺が木材業界として欠けていた部分かなと思います。
【宮林】 システムというと時間が掛かってしまうんですが、震災というとそんなことやってられないわけで、システムに乗っかっていこうとするとなかなか入っていけないんですが。
【香坂】 川上と川下を繋げていくという議論はあろうかと思います。各都道府県で独自にやっている森林税の内訳は、ハード8割、ソフト2割くらいで、宮城県がこの4月に予定どおり導入されて、被災者の方々も痛みを受けて町づくりをされているということです。わりとハードに偏りがちな施策のなかで、いろいろな方の合意を作っていくというシステムづくりも非常に大事になってくると思います。
【宮林】 西堤さんが紹介されたフィリピンの森林再生の事例は、まとまって総合化していますね。方向を地元と議論しながら落とし込んでいくのは効果的かなと思いますが。
【西堤】 フィリピンの事例は国内でも十分通用するのではないかと思います。こういう事態では特にやっていくべきだと思います。産業界としては、震災後の生産の再開に時間がかかりました。今度のことで、この地域の重要性が改めてわかったと思います。潜在的な雇用はあると思いますので産業界としては、まず雇用を確保するなど、地元の生活基盤の整備に努力する。そのあとで、フィリピンの事例のように、地元やNGOのみなさんと協力できる取り組みを検討してゆきたいと考えています。
【宮林】 企業あるいは地域、下流域と上流域が顔の見える繋がり方を最初からやっておくと、ある程度備えておくという手はあると思うんですね。顔が見えていれば、例えば港区がどこかの市町村と繋がっている、あるいはある企業が繋がっていることによって、ひょっとしたら早い展開が可能なのかもしれません。ただ、短期的にはそうですけども、長期的には地域づくりに入って行かなければなりませんね。
【赤池】 やっぱり法律を作り直さなければならないのですが、政治家ができないのであれば、各省庁のチャーミングな官僚の方々に政策パッケージを作っていただければ良いのです。宮城県の木造応急仮設住宅、こういう取り組みに住団連を巻き込めば、かつてやった「ハウス55」と同様の考え方で、被災地復興にも資する、狭小でも長く住み暮らせる安価な国産木造住宅を住宅業界が作っていくという選択は絶対あるはずなんです。
【安藤】 地域、現場の問題と、ちょっと広くなった県単位、県から、もう少し広い横のトップのつながりという風にしていかないとこの問題は解決しない。それを解決できるのは民間なんですね。民間が業として成り立つのであれば動き出せるんです。その時に森林資源、森林木材産業も集約化して行かざるを得ない。企業としての、今までの分散型、補助金漬けではとても世の中変わらない。
【宮林】 内山節先生が、フランスの農山村人口はこの10年くらい増え続けていて、それは通勤が可能であることと、農業を手伝うことができて、徹底的なデカップリング政策によって農業は守られていて、高速道路が完全に整備されているから自由に行ける、それがグリーンツーリズムというような政策に載って来るという、うまい政策がとられているという話をしたんです。そのときに、日本もやっぱり故郷をつくって行かなければならないなと考えたんです。故郷というのは、安心・安全・本物が入っている構造ではないかなと。それのために復興がきちっと整備されるといいなと思っていますが。
【竹中】 私自身も、30kmくらい離れた隣町に住んでいますので、すでにそういう形態になっているのかなと思います。ただ、やはり林業や農業をやっている現場でみると、まだまだ、非常に小さなまとまりの地域のなかの姿、里地里山の姿というのもあります。その良さをうまく活かしながらもう少し、広域的な感覚が必要なのかなと思います。そして、生業としての林業というのを考えたときに、最近、儲かる林業と言われているんですが、その内訳が補助金だけであっては仕様がない。補助金から脱却して、本当に自立した生業としての林業ができないと他の地域からの林業従事者を呼び込む、魅力ある林業、魅力ある地域というのは出来ないかなと思っております。
【宮林】 これから地域の、東日本の地域の復興に対して、この美しい森林づくり全国推進会議は何をポイントとしてやっていったらいいかというところについてお聞かせください。
【安藤】 東北はかなり充実した資源量はあります。ただその出し方がわからない。それと、どこに売るのというときに、三陸海岸は千年に一回ではなく50年に一回被害を受ける地域だという現実ですね。このへんをきちっと見たうえで、どういうところで産業をきちっと起こすのか。日本海側も含めて、東北というひとつの総合的な協力体制へもっていくと少し明るくなるかなという気がしております。
【赤池】 涌井先生からも、観光を入口に人をひきぬくべきだという話がありましたが、僕は究極の資源は人間だと思っています。欧米でも「テクノルーラルズ」と呼ばれる運動が起きていて若くて高学歴で優秀な人たちが、どんどん都市から田舎に回帰しているんですね。これは情報技術が成熟していることもありますし、頭のいいクリエイティブクラスは子どもたちを、安心安全で自然環境に優れたところで育てたいと思っているんですね。こういう人間を被災地を中心にどんどんキャッチアップして行く仕組み、そういう人間が入って行くことを企業が応援していくエキスパートの入植制度みたいなことを、出し側も受け側もきっちり考えていけば、その人たちがクリエイティブしますので地域は間違いなく変わって来ると思います。
【西堤】 我々自然保護協議会と美しい森林づくり全国推進会議が連携を始め、今日拝見しただけでも、いつも我々が付き合っている方と違う考えをもった方が一杯いらっしゃると思います。それに、NGOの方や地方の自治体を巻き込んで、皆で知恵を出し合うことが必要と思います。生物多様性の事例では、兵庫県豊岡市さんのコウノトリの事例は、自治体さんがイニシアティブとって進められたと良い事例だと思います。皆さんと連携して、いろんなことを検討すれば、復興や森林に関しても何かお役に立てるのではないかと考えております。
【香坂】 地図でみたときに、森があるとか生態系の情報だけではなくて、その社会の人たちがどういう価値、想いでその場所をみているかということを地図上に見ていく必要があるんだろうと思います。フィンランド森林研究所(METLA)などはそういうものも数値化して、生態的な価値などを統合できないだろうかということがでております。
【竹中】 これだけ色々な形でご支援やアイディアをいただいていながら、被災地にいる私たち、あるいは森林組合が、それを真剣に考えて受け止めて自分たちで頑張って行くんだというところが、今までちょっと欠けていたのかなと。震災の前も、木材価格が低いからなんとかしろ、木材を使ってくれ、と言ったんだけど、それを自分たちでなんとかしようという力が足りなかったということも自分たちの反省としながら、今回の震災を機に心を新たにしっかり受け止めて、いろんなアイディアをいただきながら、自分たちの力で、復興していきたいと思っております。
【宮林】 おそらく新しい地域づくりの概念が入り込むんだろうと思います。場づくりが大事で、地元地域のみなさんの考え方をきちっと受け入れることと、それに賛同していくためにプラットフォーム型の議論をして行く場所が必要だと思います。それをうまくコーディネートして行く人も大事だと思います。この機会に、東北には国の基本的な問題として展開していく。それができることによって国際森林年もおそらくうまくいくでしょうし、今後の国づくり、緑美しい森林づくりも展開していくのではないかなと思います。今日はありがとうございました。