「フォレスト・サポーターズ」「生物多様性民間参画パートナーシップ」連携 Rio+20記念シンポジウム

主催/美しい森林づくり全国推進会議、経団連自然保護協議会
公益社団法人国土緑化推進機構
後援/林野庁

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本年は、6月には「グリーン・エコノミー」を主要テーマとした「国連持続可能な開発会議」(Rio+20)が開催されるとともに、10月には「生物多様性条約第11回締約国会議」(COP11)が開催され、「愛知目標」の評価指標が策定される予定となっており、さらには2013年3月にはEU木材法が施行されるなど、木材の持続的な利用に関する国際的な枠組みに新たな展開が期待されています。
また、国内では、平成23年から木材自給率50%を目指す「森林・林業再生プラン」が本格的にスタートし、「公共建築物木材利用促進法」に基づく市町村方針の策定など、行政の主導による木材利用の取組が進められており、これらを契機に幅広い業種の企業等と連携した新たな木材需要の創出の取組の広がりが期待されています。 このようなことから、国内外での生物多様性保全と調和したグリーン・エコノミーや持続可能な社会づくりのあり方に関する議論をふまえて、企業による森づくりや木づかいの新たな取組の情報共有や連携・協力を促すために、「森と木を活かす「グリーン・エコノミー」の創出」をテーマとしたシンポジウムを開催しました。

プレセミナー 「海岸林再生に関する動向について」

1.岸防災林の再生について
  井上 晋 (林野庁治山課山地災害対策室 室長)
2.東北復興支援「どんぐりプロジェクト」について
  梶谷 辰哉 (公益社団法人 国土緑化推進機構 専務理事)
  川村 研治 (財団法人 日本環境協会 事業部長)
3.質疑応答

Rio+20記念シンポジウム

1.開会・挨拶
  出井 伸之 (美しい森林づくり全国推進会議 代表)
  佐藤 正敏 (経団連自然保護協議会会長)
2.来賓挨拶
  皆川 芳嗣 (林野庁長官)
3.基調講演
  ①森と木を活かす「グリーン・エコノミー」の展望
  宮林 茂幸 (東京農業大学地球環境科学部長・教授 美しい森林づくり全国推進会議事務局長)
  ②「グリーン・エコノミー」の創出に向けた森林・林業・木材産業行政の動向
  末松 広行 (林野庁 林政部長)
4.概要報告
  経団連自然保護協議会による生物多様性民間参画パートナーシップ及びRio+20の取り組み
  石原 博 (経団連自然保護協議会企画部会長 兼 政策部会長)
5.事例紹介
  「日本の森と木を活かす「グリーン・エコノミー」の創出に向けて」
  <発表者>
  末宗 浩一 ((株)イトーキ ソリューション開発統括部 エコニファ開発推進室長)
  峯 雅彦 (九州旅客鉄道(株)施設部 設備課長)
  青木 雄一 (三井物産(株)理事 環境・社会貢献部 部長)
6.パネルディスカッション
 「森の豊かさと、生活者の豊かさを生み出す、
日本の森と木を活かす「グリーン・エコノミー」創出に向けて」

 <コーディネーター>
  宮林 茂幸 (美しい森林づくり全国推進会議事務局長)
 <パネリスト>
  末松 広行、石原 博、末宗 浩一、峯 雅彦、青木 雄一
 <コメンテーター>
  出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)
7. 閉会挨拶
 谷 福丸
公益社団法人国土緑化推進機構 副理事長)

プレセミナー 「海岸林再生に関する動向について」

海岸防災林の再生について
井上 晋 (林野庁治山課山地災害対策室 室長)

東日本大震災で被害を受けました海岸防災林の再生について紹介します。今回の震災では多くの人的被害、経済的被害がありましたが森林分野では防潮林、防災林と呼ばれている海岸防災林が、広い範囲で甚大な被害を受けています。海岸防災林は潮風や砂浜の砂から住宅や農地を守る役割があり、古くから地域の人々が造成管理してきたもので、過去より津波の力を弱めたり漂流物を止めたりする効果があったと報告がされています。しかし、津波の災害は非常に発生頻度の低い災害なので、海岸防災林の効果について技術的知見はあまり整理されていない状況でした。このため、林野庁では有識者で構成する検討会を設けて再生に向けた技術的な検討を行ないました。本日は海岸防災林の被害状況、津波に対する効果、再生のポイント、「みどりのきづな」再生プロジェクトについて報告したいと思います。

まず、被害の状況は、津波の高さ、地形によって様々です。青森は津波の高さが比較的低くて軽微な被害になっています。岩手県は地形の関係上、面積的には比較的少ないですが、多くは甚大な被害を受けています。宮城県は平野部が多いということで面積が広く、甚大な被害を受けています。福島県は原発の規制区域を除いた部分ですが、多くが甚大な被害です。茨城・千葉県は浸水面積がそれなりにありますが、比較的軽微な被害でした。

具体的な被害の状況はスライドの写真をご参照ください。 防災林が流出、樹木も幹の破損、倒伏、根倒れ等が発生しています。

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次に、海岸防災林の効果ですが、幹折れで流された流木は後方にある住宅等の被害を拡大させた可能性が指摘される一方で、林帯により、一定の効果があったことが報告されています。
海岸防災林の効果をまとめると、

1、津波の波力を減衰する効果(流速やエネルギーを低下させ破壊力を弱める)

2、漂流物を捕捉する効果(船や家などが防災林によって流出を食い止められ、移動によって生じる二次的災害を軽減・防止する)

3、防災林の樹木が地形を固定する効果(樹木が強風による砂丘の移動を防ぎ、それが津波に対する防壁になる)
以上、津波自体を完全に抑えることはできないが、津波エネルギーの減衰や漂流物の捕捉など、津波に対する多重防御の一つと考えられます。

さて、海岸防災林をいかに復旧・再生するかですが、通常、砂や潮風を抑えるのが目的でしたが、今後津波の被害軽減効果も考慮して再生する必要があります。

また、被害が箇所によって様々ですので、地域の実情、さらには地域の生態系保全の必要性等をふまえ、再生方法を決定する必要があります。

具体的には
1、林帯の配置
今回実施したシミュレーションによると津波高6.5m、幹折れしない等、一定の状況であれば200m幅で流体力を3割程度減少させる効果があります。林帯幅の広さに応じて効果を発揮するので、できるだけ広くとることが望ましいと考えられます。

2、生育基盤の造成
再生にあたっては、ただ樹木を植えるだけでなく、しっかりした生育基盤を作る必要があります。引き抜かれた木の根の状況を調べると、地盤高が低く地下水位が高い箇所では、樹木の根が地中深くに伸びていませんでした。したがって盛土をして植栽木の生育基盤を確保する必要があります。

3、人工盛土の造成
潮風・砂よけのために林帯の海側に盛土をしてきましたが、津波に対しても一定の効果があったと考えられ、必要な条件が整った箇所で実施していくこととなります。
また、災害廃棄物の処理問題の解決策の一つとして、災害廃棄物を再生利用して盛土資材として使っていくことを考えています。災害廃棄物には有害物質も含まれていますので、分別し無害化して安全性を確認したものを使うこととし、具体的には、コンクリートくずや津波堆積物などを利用していくことを考えています。なお、木質については、住宅廃材については防腐剤が含まれていますので利用せず、自然木をチップ化してマルチング材として使っていきたいと思います。

4、森林の構成
次は森林の構成です。津波に対する効果を考えた場合、大きな木、枝下高が低い木の組み合わせ、針葉樹と広葉樹の組み合わせが効果的です。具体的な樹種は海側には、過酷な環境に耐えうる松類、陸側には十分な樹高を持つものが理想です。イメージは以下の図を参照ください。

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何れにしても生態系への配慮が必要なことは言うまでもありませんので地域の樹種を選んでいくことになると思います。

海岸防災林の再生は、『みどりのきずな』再生プロジェクトとして進めていくことが総理から表明されました。このプロジェクトのポイントの一つはNPO、企業の方と連携して進めることです。震災直後から海岸林の再生に協力したいという申し出をいただいています。今後国有林については、協定方式で進めてく考えです。

現在は現地の調整等で時間がかかっている状況で、来年春くらいから徐々に植栽可能な場所が出てくるのではないかと思います。事業が順調に進み基盤造成の準備が整うようであれば、年内に公募ができればと考えています。

国有海岸林における民間団体との公募方式での連携は実績があります。今後、準備ができたところから順次、海岸防災林の再生を進めていきたいと考えていますのでご理解ご協力をいただきたいと思います。

東北復興支援「どんぐりプロジェクト」について
梶谷 辰哉(公益社団法人 国土緑化推進機構 専務理事)

国土緑化推進機構は全国植樹祭、全国育樹祭といった全国的な緑化行事を主催するとともに、緑の募金を活用して森づくりに取組むNPO、ボランティア団体の活動を支援するなど、国民参加の森づくりを進めている団体です。

東日本大震災により、たいへんな被害を受け、多くの緑も失われました。国土緑化推進機構では緑の募金の中に東日本大震災復興、被災地の緑化に使途を限定した募金を立ち上げて、その募金を活用したさまざまな活動を行ってきました。具体的には、避難場所に間伐材で使った間仕切りに使える組み立てキットを寄贈したり、仮設住宅に間伐材でつくったプランターに花をつけて寄贈したりするさまざまな活動を行っています。

どんぐりプロジェクトについては、被災地で採取したどんぐりなどの種を全国の子どもたちに育てていただき、被災地の植栽に使っていこうという取組みです。生物多様性の面でも種の攪乱を防ぐため、現地からとった種で苗木を育成しようとするプロジェクトです。これまで10,000本くらいの種を2,000人の方々に配っています。

このような取組みを続けていこうと考えていますし、海岸林の再生も始まろうとしています。私たちももちろん再生に協力していくつもりです。

昨年は国際森林年で、国内委員会から「森のちからで日本を元気に」というメッセージが発信されました。使途限定募金では高田の一本松をデザインし、被災地の間伐材を使い、被災地で作成した木製のバッチをある程度寄付していただいた方に差し上げています。

復興に向け、間伐材の活用、海岸林の再生、現地の木を使う運動もさらに進めていく中で、昨年立ちあがりました経団連自然協議会との連携も生かしながら、さらなる取組みを行っていきたいと思いますので、ぜひ皆様方のご協力をよろしくお願いします。

東北復興支援 Project-D 被災地に緑と心の復興を!
川村 研治(財団法人 日本環境協会 事業部長)

プロジェクトDは東日本大震災からの復興支援を目的とした事業です。構想が生まれたのが2011年の4月、事業が本格的にスタートしたのが2011年10月で、今年で2年度目になります。
まず、プロジェクトDのDは以下4つのDからなっています。
Devastated Area(被災地)
Donguri(どんぐり)
biodiversity(生物多様性)
Dream(夢)
つまりプロジェクトDは被災地のどんぐりを使って生物多様性に配慮し学びながら夢を形にする事業です。
東日本大震災では海岸林を中心に甚大な被害を受け、岩手、宮城、福島の3県では浸水した海岸林は約2,500ヘクタール以上、うち約1,000ヘクタールが甚大な被害を受けたと推定されています。
日本環境協会に「こどもエコクラブ」という全国組織のこどもを対象とした環境学習のクラブがあり、昨年で約3400団体、約14万人の子どもたちが登録しています。このクラブの子どもたちが被災地の復興ためになにかできることはないかと考え、立ち上げたのがプロジェクトDです。
目的は以下の3つです。

1、緑の復興
被災した地域で採取したどんぐりを使って森林を再生する。どんぐりの種子を育てるときは生物多様性、特に遺伝子を防ぐために拾った県に植え戻すことを原則とする。環境教育を並行して行う。

2、心の復興
被災地の子どもたちが地域の復興のために、全国のこどもたちと一緒になって取り組んでいるという実感を持ってもらい、子どもたちの心の中に「復興のために何かができる」という気持ちを持ってもらう。

3、地域の復興
木を植えた後でどう生かし、どう使っていくかを地域の方々はもちろん被災地から離れた方々と一緒になって考え実行していく。
流れは以下の図のようになります。

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1、被災地で種子を採取
2011年秋に被災3県から5.6kgのどんぐりを採取しました。

2、種子をいったん全国事務局に集め、放射線量の検査後、育て方のマニュアルとともに全国に発送しました。発送したどんぐりは北海道~沖縄まで約2,000人に発送しました。一人当たり約5個になります。

3、5月から6月にかけて発芽・育苗の状況が子どもたちから届き、インターネットで公開しています。

4、今後、苗を育て、地域に植え戻し、さらに地域再生に向けて、この木を生かしていく事業に発展させていくつもりです。
植えた木を使った製品にする、地域産業の復興再生につなぐ、その製品を首都圏で販売活用するネットワークを作るなどの計画を考え始めています。いわゆるグリーン・エコノミー、ブルー・エコノミーの創造につなげていけたらいいと考えています。

プレセミナー質疑応答

Q.どんぐりの回収は誰が行い、苗木は誰が植えるのか?
A.回収方法は育親の方々に負担していただきお送りいただきます。植える場所については今後、現地や関係機関の方々と相談しながら決めていく予定です。

Q.どんぐりプロジェクトは今年の秋以降も続いていくのでしょうか?
A.現在の予定では今年と来年までと考えています。種子を集めるのは3年間でその後、現地に徐々に植え戻していきます。

Q.海岸林について、多様な樹種を植えることに賛同しますが、実際にはクロマツ、アカマツが選ばれることになり、問題はありませんか?
A.現地の状況に応じてケースバイケースで樹種を選んでいただきたいと思いますが、その地域に適合した樹種を多様性を持って植えていくのが基本でると考えますので、現実的には専門家の意見を聞いて実施していただきたいと思います。

Rio+20記念シンポジウム

開会・挨拶
出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)

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Rio+20記念シンポジウムにおいでいただきありがとうございます。現在グローバリゼーションとよく言われますが、日本は昔からグローバリゼーションをやっていました。その意味では、アメリカ中心のグローバリゼーション、新興国が出てきてからのグローバリゼーション、さらに将来のグローバリゼーションの意味はますます違ってくると思います。一部には日本に対する悲観論が多いですが、私は地政学的な位置から見ると日本のようにこんなにいい位置にいる国はないのではないかと考えています。その証拠にはアメリカからはTPPに入って中国に対抗しようというお誘いもありますし、ロシアからは資源開発をやろうというお誘いもありますし、中国と日本の貿易は両国のGDPの中で最も大きな貿易パートナーになっています。また、ASEANからみると日本は先輩として頑張ってほしいという声があるわけです。

地政学的には世界のパワーのまんまん中にいるわけで、こんなにいい位置にいるのに何でこんなに日本は元気がないのでしょうか。それには、もちろん大震災であり福島で原発事故があったこともありますが、大きな原因のひとつは世界で日本が最も安定した国だと見られていて、その結果、通貨がものすごく強いとだと思います。安定した国だからこそお金を預ける訳なので、日本円高は目を覆わんばかりに高いわけです。GDPの中で輸入の占める割合は約15%です。その強い日本の中に森が入っているのではないかという気がします。

日本の森はたいへんで、間伐しようとか、森を生かそうとか課題が多い訳なのですが、これだけ円高が続いてくると、いったい日本の森はどうなってしまうのかという気がします。いろいろな会社や個人が次のビジネスをどうしていこうかと心配しているわけですが、例えば林業がどうなるのだろうかというと、こんなにネットが進んでくると紙を使わなくなる。印刷はどうなるのだろうか・・・など、木と紙、また木の利用ということに関しては日本の木が割高になっているということもありますので、この際、日本が腹を据えて林業をちゃんとやっていくということにしないと円高がいつまでも続くものでもありませんし、日本の国がいつまでも元気でないという訳にもいかないので、その意味でも今日の会議はたいへん意義のある会議だと思います。今日は最後までご参加いただき交流を深めていただきたいと思います。

挨拶
佐藤 正敏(経団連自然保護協議会 会長)

このシンポジウムを共催している3者は、昨年の2月に国際森林年と国連の生物多様性の10年の幕開けを契機として森づくりや木材を利用するという「木づかい」を通じて生物多様性の保全に貢献しようとする趣旨で、総合連携に関する共同宣言を調印しました。本日のシンポジウムは共同事業の一環として開催するものです。

皆さま御承知の通り、先週ブラジルのリオデジャネイロで国連持続可能な開発会議、通称「Rio+20」が開催されました。私も会議に参加したのですが、改めて持続可能な成長や経済社会のグリーン化を地球規模で推進していくことが重要事項であることを再認識して帰ってまいりました。また往復の飛行機の中から見えた中東、アフリカの延々と連なる荒れ地や砂漠を見て、緑なす森林が覆っている日本の国土の有り難みを改めて感じた次第です。

本シンポジウムでもRio+20の主要なテーマであるグリーン・エコノミーについて、森づくり、木づかいの観点から議論をいただくことになっています。グリーン・エコノミーとは環境と成長が両立した経済活動を意味して、その実現のためには自然資本を考慮した新しい経済を築いていく必要があるということです。森林は、再生可能な自然資本であって生物の生息、生育の場やあるいは種や遺伝子の保管庫として生物多様性にとっても重要な場所です。特に、わが国では、国土の三分の二を占める森林が生態系ネットワークの根幹として豊かな生物多様性を支えており、われわれが森林から多くのものを自然の恵みとして受け取っています。

経団連自然保護協議会が取り組んでいる自然保護活動の中でも一番多いのが森林活動です。約4割を占めています。活動内容は、森林整備や森林生態系の保全など森林に直に触れて森林の恵みを感じ、個人個人の生物多様性問題に対して気づきを与え、あるいはそれに取り組もうというプログラムが中心になって行われています。

一方、森を利用することがその保全につながり同時にビジネスとして成り立つ林業は、グリーン・エコノミーの担い手として、より一層重要になってきました。持続可能な生産と消費を実現する林業を今後とも維持し発展させていくことが必要です。

また、グリーン・エコノミーや持続可能な社会づくりにはさまざまなステークホルダーとの対話と協働が欠かせません。本日は、森と経済についていろいろな立場や多様な視点からのお話が伺えることになっています。本シンポジウムを通じて企業による森づくりや木づかいがますます促進されることを期待しています。

来賓挨拶
皆川 芳嗣(林野庁長官)代理 出江 俊夫(林野庁 森林整備部 研究・保全課長)

1992年に開催された国連環境開発会議、いわゆるRio地球サミットから20年の節目となる今年、当時と同じブラジル、リオデジャネイロにて国連持続可能な開発会議Rio+20が先日開催されました。成果文書にはグリーン・エコノミーが盛り込まれましたが、残念ながら肝心なグリーン・エコノミーとは何かという定義はなされませんでした。成果文書では漠然と持続可能な開発を達成するために重要なツールと説明されています。しかし、グリーン・エコノミーの本質とは石油、石炭、天然ガス等、化石資源はできる限り使わず、再生可能なエネルギー、環境負荷の少ない資源をできる限り多く使う形で経済発展を進めていくことだと考えます。

木材はまさにこうしたエネルギー、資源の源であり、グリーン・エコノミーを現実のものにしていくためには木材利用を経済活動のエンジンに組みこんでいくことが重要な課題だと言えます。わが国の森林資源は十分に成熟しており利用する段階となっています。間伐材などまだ十分に利用されていない資源がたくさんあります。あとはわれわれが実際に行動する。つまり木材をしっかりと使っていけばよいのです。

本日ここには森づくり、木づかいにご関心の高い方々が御集りいただいていると思います。このシンポジウムを機に皆様方の取組みがさらに発展することを信じております。そして皆様の取組みを通じて木材利用の重要性が広く理解され、わが国の社会がグリーン・エコノミーに変革していくことを切に願っております。

Rio+20記念シンポジウム
基調講演

基調講演
①森と木を活かす「グリーン・エコノミー」の展望
宮林 茂幸(東京農業大学地球環境科学部長・教授
美しい森林づくり全国推進会議事務局長)

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Rio+20が閉幕しました。今、私たちは何をしてどう物を作り上げていくか。今まで通り20世紀型の産業、いわゆる経済効率至上主義をもう一回やっていくのか、あるいは環境に配慮した自然資本を再利用しながら新しい経済社会システムを作り上げていくのか。この両方の選択があるのだと思います。

その場合、3.11以降、大勢は後者の意見が強くなっているのではないか。つまりグリーンというのは自然資本であり、それを持続的に循環型で使っていく経済システム、これがグリーン・エコノミーそのものだろうと思います。

ところが日本のグリーン、すなわち国土の68%が森林ですが、林業そのものは危機に瀕しています。このままいくと産業としての林業がおぼつかない、つまりグリーン・エコノミーが再生するためには森林再生と同時に林業再生をきちんと進めていかなければいけない、そんな時代に来ているのではないか。人工林は手入れがなされないままに荒れていますし、間伐が行われないので、どんどん荒廃が進んでいます。

一方、国際社会においては、森林が減少していく状況で、森林は世界的にみても荒れていますし、わが国の森林も切りすぎるのではなく、使わな過ぎて荒れている状況です。わが国の森林は、林業を再生することによって復活させることができます。

生態系のサービスが生物多様性の中で議論されていますが受益者と管理者の負担を考えますと、多様な森林から出ている機能の大半が森林管理者に費用負担させられていて、受益者は意外とフリーライダーといえます。これをうまく結び循環させるのがグリーン・エコノミーの方向ではないかと思います。

生物多様性の目的の一つは保全すること、もうひとつは自然資源を利用していくこと、そして、さらに使ったものを配分していくこと、この3つを循環させる中で、配分にはエコノミーが必要になってくるわけです。

昨年は国際森林年で、経団連の生物多様性民間参画パートナーシップができました。そして私たち美しい森林づくり全国推進会議は、5年前にできました。そして皆さまそれぞれできるところから参画してください。森をつくろう、木を使おう、森を育もう、そのどこからでもいいから入ってくださいということでフォレスト・サポーターズを作りました。その両方が連携して新しい事業がスタートしました。現在では非常に大きな連携の輪が出来上がっていまして、広報活動、教育、普及啓発と、どんどんと大きな広がりが出てきています。フォレスト・サポーターズの個人メンバーだけで約4万人を超えており、企業は約1千社ですが、今後、この輪がもっともっと大きくなっていくことを期待するものです。

フォレスト・サポーターズの取組みの中で、特に経団連と連携することによって多様なふくらみがでてきました。今まではボランティア活動やCSRが中心でしたが、森林を使った経済性を求めていく、あるいは地域づくりを積極的に進めていく、お互いに共同価値をもちつつ、それをうまく掘り下げていき、企業の皆さまとの大きな輪が出来上がってきています。

CSRの4つの原則、つまり社会(貢献)、人間づくり、環境整備、市場(エコノミー)ですが、ボランティア、協定から非常に幅広い分野に進んできています。最近は商品を開発して、その商品を循環型にしていこうという構造が出ています。ただし、木を活かして、植えて、育てて、切って、使っていく構造の中で、現在「森林・林業再生プラン」で新しい林業の形態が検討されていますが、収穫して、加工、商品化し流通販売して消費者に回り展開するという点からみると、今のところ製材加工以降は不安定な状況です。林業を再生産システムまでもっていく構造になっていません。

そこで、これをきちんと繋ごう、将来、収穫~製材~商品化~流通~販売をうまく循環させることで森林に再生産がまわっていく。そこではじめてグリーンが確保できるのです。自然資本が持続的になるわけです。そこにエコノミーが生まれてきます。まず、ここを再生していかないと始まらない、それが今日の課題ではないかと思います。

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企業・団体との先駆的取組みということで、本をご紹介したいと思います。「グリーン・エコノミーが時代を拓く―森で経済を作る」という本ですが、ここにはグリーン・エコノミーの考え方とともに、企業・団体の先駆的な取組みが紹介されており、素晴らしい内容になっています。このようなことを広く実現していく、これがまさにパートナーシップを経団連と一般の国民運動がうまく連携した賜物であり、グリーン・エコノミーというキーワードはそれをどんどん発展させるアドバルーン的な存在になっているのではないでしょうか。 本日これだけの方がお集りいただいていることが、まさに新しい時代を迎え、自分たちの経営活動はどうあるべきなのか、その中の環境問題にどう取り組んでいくのか、内部化するのか、新しく創造するのかといった落とし所がなかなか見えない中で、模索しておられるのではないかと思うのです。

本の中から少し引用させていただきます。トップリーダーの方にインタビューを行っていますが、経団連自然保護協議会の大久保さんに言わせますと、「日本はすごい、資源はたくさんある、ただうまく使っていない、誇るべき里山文化もあるのに、うまく一体化された形ができてない。つまりどこかで切られているので、それを再生していけばいいのではないか。森林を持続可能な自然資本として見たときに、より森林を活かす、企業がもっているイノベーションとドッキングする。例えば、乾燥技術等をうまくドッキングすればうまくいくのではないか。つまり、今まで持っている企業のノウハウを森林、林業にすべて放り込んで総合化していく。そこに今日の課題があるのでは。」と述べられています。

次に、日本プロジェクト産業協議会の三村さんは、「供給側に必要なのは効率的な施業と木材の安定供給であるのに、安定供給ができていない。林野庁が再生プランの中で道路をたくさん作ってその道路網でどんどん出していこう。日本の森林資源は成熟してきており、それをできるだけ出していき安定的に供給する。需要側に必要なのは、木材のカスケード利用である。利用できるものは、全部利用することが付加価値を高めることになる。これがつまりエコノミーとしてつながることである。」と述べられています。

プラチナ構想ネットワークの小宮山さんは、「カギとなるのは林業の機械化、そして大規模化である。難しい側面はあるが、今回は日本のベースを作るために全体で苦慮しながらやっていこうではないか。そのときに産学官が一体となり、もう一度考えて、技術を出し合って、アイデアを出し合っていこうではないか。その中でサプライチェーンがうまく作り上げられる。つまり多様なセクターが多様な形でイノベーションを出し合うことによってサプライチェーンが出来上がる。それが持続することがグリーン・エコノミーにつながるのだ。」

国連生物多様性の10年日本委員会の涌井さんは、「農村・地域を捨てないで、地域文化を活かしていくことが継承、発展していくポイントだということを付け加えながら、地域の林業資本の多様な特性を生かしていき、消費者にそれがわかるようにしていくことが必要、つまり見える化していく。森林は大事だが林業はクエッションだ。木材利用することもわかるが、具体的にどのように利用するのかはクエッションだと。そうではなくて、木材を使うことによって山が良くなり水が涵養され、そして自分たちの生活と次の世代にいい環境を渡していくという循環が出てくる。」

ユニバーサルデザイン総合研究所の赤池さんは、「国産材の流れを作るときに必要なのはデザイン性である。製品デザインはクリエーターやデザイナーが参画することによって、より付加価値の高いものになる。いままでその分野には入っていないのではないか。あるいは設計する時、建築する時にはクリエーターやデザイナーはいるが残念なことに木材を入れることはきちんと言っていない。これがグリーン・エコノミーという流れの中で木材を使おうという機運が上がってくれば、当然、設計の段階で木材が入ってくる。そうするとうまく繋がるのではないか。」と述べています。

以上のようなスタイルはまさに森を再生していく原点になるので、日本に美しいふるさとを再生していくということになりますし、その大きな流れは東日本の再生・復興に大いに役立っていく論理だろうと思います。

リーディング企業によりどんな取組みが行われているかですが、以下の図を見ていただきたいのですが

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縦軸に事業との関わり、横軸に取組みの方向性をとります。「森をつくる」は、さらにいいものを作っていく。「木を使う」は新しいものを創造していく。「森の定量化」をしながら経営の範疇に入れていく。そして「森の資金メカニズム」を作りあげるなど多様なものがあります。森をつくる場面では、住友林業さんやサントリーさんが森を中心に取組んでいます。あるいは三井物産さんやトヨタさんのようにCSRを中心にしながら自分たちの社有林を利用して森の価値を向上させています。

木を使うという場面では、多様なところに新しい技術、新しい方法論によって木材をあらゆるところに使っていく。今まではコンクリートだったものを木材をふんだんに使うことでCO2を吸収、固定する評価に結びつける動きに出ています。

さらにその行為がどれくらいの価値を生むのか、そして環境にどれくらいプラスになるのかをきちんと定量化する。これは一般の社会において非常に重要なことです。

それからエコポイントやANAさん、アサヒビールさんのように資金の一部を環境の中にまわしていく。商品の一部の資金を環境に還元させる。つまり商品価格の中に環境部門を内部化し還元していくような方法も出ています。

地域との交流については、人づくり、地域の物づくり、地域の文化を継承等、まさに地域社会が疲弊化しているところに、もう一回まとめ上げて新しいコミュニティを作っていく。これも大きな力になると思います。

まさに日本は約50年後には人口が約7,000万人になるといわれています。そういう時に森林の使い勝手とか、あるいは自然資本の使い勝手はそのとき考えてもダメです。森林は100年の計ですから、今から始めても50年以上かかります。つまり原点できちんとグランドデザインを作って、地域社会との関連、日本の社会経済的な関連においてどう作り上げていくかを今始めなければならない。そういう時代だと思います。

被災地では、できるだけ現地の材を使う。現地に仕事を作る。仕事ができていかないと復興も困難だと思いますので仕事を作りながら現地の木材を使って経済を発展させる。少し材としては高いかもしれませんが、あるいは安定的な供給が少し遅れるかもしれませんが、それが地域を復興させて日本のふるさとを復興させて自然資本を持続的に管理できる仕組みになるのであれば、当然支援していくことが今の私たちの役割であろうと思います。

日本は、70~80年前の森林は国土の50%になっています。つまり切っているのですね。切ってしまった山を先人たちは木を植える国民運動を始めて、山を復活させています。復活した山をどういう形で次の世代に渡していくかがわれわれの課題です。今やらないと次の10年では遅い側面がたくさんあるのです。山村では限界集落がたくさんあります。森林も管理を怠り10年放置するとたいへんな災害を起こします。森林を再生するためには、まず企業の皆さまと一般の皆さまと多様なセクター、行政が一体となってもう一度、スタートラインからやり直す。それが今日のシンポジウムであってほしいと思います。

まさに今、われわれ一人一人が役割をきちんと認識して、環境にやさしい社会経済を作り上げていく時代、検討していく時代、それがまさに今日だと感じています。

林業界を助けてほしい。助けることが、イコール国の自然資本を持続的にしていく要になる。次の世代に渡していく材料になると思っています。

 基調講演
②「グリーン・エコノミー」創出に向けた森林・林業・木材産業行政の動向
末松 広行(林野庁 林政部長)

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最初のRioのときは、砂漠化を防止する。地球温暖化を防止する。生物多様性を維持・保全する。ということが大切。それに合わせて森林の持続的な経営を確保しよう。ということでした。森林の問題は、単純に保護したり、守ったりするだけではだめだということが難しいところです。そそこには昔から経済活動と切っても切れない関係があり、やりすぎてもダメ、手をかけすぎてもダメ、放っておいてもダメという関係があり、環境問題の中では一種独特なものです。

ただ、世界全体では森は守っていかなければならない。もう切ってはいけないということだと思います。森林は世界の土地面積の約3割を占めていますが1,700年代は約5割と推定されています。一兆トン以上の炭素を貯蔵していて、世界の二酸化炭素の排出量の約2割は森林減少に由来している、したがって世界全体では、もうこれ以上森は減らしてはいけない、増やさなくてはいけない。ということです。  一方、日本広く知られていることですが世界有数の森林国です。きちんと理解しておかなければならないポイントです。日本はもともと豊かな森林国であったわけではなく、かつては森林の危機にずっとさらされてきたのです。こちらの写真をご覧ください。江戸時代ですが山は緑に完全に覆われていたわけではありません。

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なぜこうなったかというとエネルギー源、薪炭利用のために森は使われていました。非常に大切なエネルギー源ということです。日本の先人たちが素晴らしいと思うのは、世界では薪炭利用や住宅の利用で木を切っていましたが、木がなくなったら文明ごと移動するということが行われました。先ほどお話た世界の陸地の5割を覆っていた森林が今は3割になってしまった原因です。しかし日本は入会林などいろいろな権利の調整をしながら、ぎりぎりのところで森を守ってきたのです。明治時代に入ってから神戸に入ってくる外国人がみた六甲山は禿山だったということですが、今は緑の山になっています。日本人は昭和25年から植樹祭をして木を植え続けてきました。今、山や森があるのは何もしなかった結果ではなくて、植えてできたものだということは良く考えなければなりません。今まで何もしなかったと批判されることもありますが、批判されるところまで山を増やした、森を増やしたということは言えると思います。

どのくらい増えたかと言いますと昭和40年の頃に比べ最近は2.5倍になっています。2.5倍といっても面積は同じくらいなので、森林の体積、木の体積が増えたのです。森林の蓄積量はどんどん増えています。この状況で森林をどう使うかということが大切になっています。

昭和40年頃の新聞の社説には「今こそ天然林を伐採しろ!経済発展の中で木を使うのは大切である!天然林を守っている林野庁の態度は良くない!林野庁には森林行政はあるが林業行政が無い!」と社説に書かれました。これは各社に書かれました。しかし昭和45年くらいになると「森林には多面的機能がある。それなのにどんどん伐採していく林野庁はケシカラン!」と怒られています。これは新聞が悪いというわけではなくて、森林を見る目が変わってきたということです。個人的に思うのですが昭和45年頃から世界の森林と同じように森は守らなければならない、切ってはいけない。増やさなければいけない。ということがずっと言い続けられてきました。その結果が今の森林の状況になっています。

今の森林の状況には問題があります。森林は最初植えていくときには、たくさん植えて間引きをすることで、だんだんいい森林に育てていきます。植えたのはいいが、なかなか木を使うということができずに、森林の蓄積量は多いがひょろひょろっと長いもやしのような木が増えているのが現状です。今こそ木を使って、もう一度間伐をして健全な森にしていくことが大切だと思います。
木を使うことにはいろいろな考えがあります。今お話ししたのは杉とか檜の人工林とこれからどうやって付き合っていくのかですが、日本の山、森林すべてが人工林である必要はありません。地域にあった広葉樹などにしていけばいいと思います。このようなことをもう一度考える時期になっていると思います。

国際森林年の昨年、宮林先生にも入っていただき、いろいろな人と方といろいろな議論をしました。森は守るべきだ、という単純な議論から、今は自然と人間がどう付き合っていくかをきちんと考えていく時期だ、ということにおいては日本の有識者の方の意見は非常に一致しています。当然地域においては、どういう植えていくのか、どんな施業の仕方をするのか、経済的にもっと儲けるような林業をすべきか、自然休養的な森をもっと増やすべきだ、等、意見の違いはありますが、一致しているのは人と日本の 森と折り合いをつけながら、うまく付き合いながら育てていこうということです。

今の森林をとりまく情勢の変換をまとめると、今は林業としてきちんとして経済原理にかなったことをしていく、と、日本の森を守っていく、という2つが別ものではないと言える時期になったのではないかと考えています。日本の森を使っていく、手入れをしていく、材を使っていくということについて特徴的なことをお話していきたいと思います。

日本の森は豊かになってきました。しかし、間伐してもっといい森にしていかなければならない。間伐して出てきた木を使っていくことが必要です。その一つで私たちは公共建築物の木造化を進めようとしています。まず、は隗より始めよということで役所の庁舎とか低層公共の建物は木造にしようと国で決めました。なぜ今頃決めたかというと、昔は木造をやめようと国で決めていたからです。昭和25年に、都市建築物の不燃化の促進に関する決議がされましたし、昭和30年には木材資源利用合理化方策というようなことをやって国、地方公共団体が率先垂範して建築物の不燃化=非木造化を進めようとしていたのです。それは何故かというと、それまでは酒田の大火とか、さまざまな火事があって地震に弱く火事で燃えてしまう木造の建物はよくない。人が集まるところは木造をやめようということになったわけです。

それはそれで、当時の技術ではしかたがなかったと思いますが、その後、建築技術が進歩して、先般の東日本大震災でも、地震でもつぶれない、火事でも燃えないというように木造の建築物は進化してきました。それならば使おうということになってきたのです。木造の建築物を作らないようにしようと思った時にはその時の理由がありました。それは決して間違った判断だったとは思いません。これからは欠点を克服した木造の建物を増やしていこう。これも正しいことだと思います。木造の建築物を増やすことは山のためになる。林野庁の立場としては森林林業のために木を使ってくださいなのですが、それが本当に使う人のためにもいいということがどんどんわかってきたのが現在だと思います。

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これはインフルエンザによる学級閉鎖の率です。1990年の調査では非木造の校舎に比べて木造の校舎は半分以下、93年の調査だと、ほぼ1/3になっています。私は木造の校舎で勉強すると頭が良くなって切れなくなって健康にもいいと思っていますが、その健康に良いひとつの事例がこのインフルエンザで学級閉鎖にならないということだと思います。この原因は割と単純なのですが壁が木だと調湿能力が高いとうことです。冬は湿度が高くなったり低くなったりしてインフルエンザにかかりやすくなるわけですが、木の壁によって緩和され罹患率が低くなるので学級閉鎖になかなかならないということです。したがって必ずしも木造である必要はなくて木質の内装でもいいとうことです。このように木が良いとわかってきていることはどんどん増えてきているのですが、やはり木の中にいると非常に落ち着きます。これは今わかっている事以外にもたぶんいいことがたくさんあるのだろうと思います。したがって行政としては検証しつつ進めるのですが、たぶん木造は生活したり、住んだりするにもいいということは間違いないと思います。

典型的な例は東日本大震災では非常に御苦労いただき木造の仮設住宅がいくつか出来ました。この木造住宅は避難されていた方の評判が非常にいいと聞いています。とてもありがたいことだと思います。なぜ最初からたくさん作らないのかとかのお叱りがあったのですが、若干仕方のないこともあります。プレハブで作っていただいたのは、とっさの時にものすごく大きな量を短時間につくるのにはプレハブの方が良かったのです。それを見ながら木造も努力をして増やしました。福島ではかなりの割合で木造仮設住宅が建ったとのことです。このようなことをふまえますと、木造を増やしていくことは住む人にもいいし、森林林業のためにもなるということが今の状況です。石油ストーブ採暖時の教室壁面の温度とか木造のほういいことがわかってきていることを整理してお示ししていくのもこれからの行政の仕事ではないかと思います。

それから地球温暖化を防止する観点からも住宅の中で備えられている炭素も重要であると言えます。製造するのにもあまりCO2を出さずに、住宅自体が炭素を貯めています。地球温暖化のためCO2を削減する努力をしていますが、木の家に住むということはすごくプラスになります。

公共建築物について木造化を進めていくのですが、期待していることがあります。東京ソラマチなどいろいろな事例が出てきている一方で海外ではさらに進んでいます。海外ではBMWグループのホテル、集合住宅は木造です。メトロポールパラソルもすべて木造です。日本の公共建築物の木造化に関して言えばいい建物はあるのですが、作るのにすごく苦労があることが問題です。作るのに非常に前向きな首長さんとか社長さんがやろうという決断をされて担当の職員の方が悪戦苦闘し涙の物語でやっとひとつ木造の立派な建物ができるといいます。次に進めたいのは、このような苦労なしで木造の建物が建つようにしていくことです。

山から出る木は全部が柱になるわけではありません。裾物とかいったん使ったものは、最終的にはエネルギーとして使用することができます。江戸時代のエネルギーは森だったのですからエネルギーとしての価値があるのです。

今回、自然エネルギー、太陽光、風力、バイオマス、メタン発酵などさまざまなものについて固定価格買い取り制度ができました。木材についてもこれを活用することができるようになっています。バイオマス(木材関係)は建築廃材を13.65円で買い取る、これはリサイクル廃材、建築廃材を使って発電をした電気は13.65円KW/Hで買ってくれるということですが、これが普通の製材工場で出たものについては25.20円、未利用の山から出したものについては33.6円で買ってもらえることになります。いちばん高い太陽光の42円には及ばないですが、未利用の木材をエネルギー化することによって、エネルギーとして利用し、森林地域、山村に富をもたらすことが可能性の一つとして出てきました。

林地残材を使う5,000KWの発電所が福島にできますが、この発電所は1年間に約8,000時間稼働します。つまり30円で買ってもらえば12億円の収入になります。地域の山で捨てられていたと仮定すると何も生まなかったものから年間12億円生まれます。今の試算だとそのうち7~9億円が材料代になるということですので、さらに山村の経済を回すこともできます。

ただ、この仕組みはいろいろな組み合わせが必要で、木を切って、良いところは材木にし、それからいろいろな箇所の利用があって最後はチップにして燃料になっていくことが望ましいと思います。ドイツを代表とするヨーロッパにおいて5,000KWはかなり小さな部類に入りますが、日本においては概ね10万立米くらいの燃料チップが必要です。これはかなり大きな量なので、できるところとできないところが出てくるので工夫が大切になります。以上のようなことをこれから順々に進めていくことによって日本の森林・林業を再生していけたらいいなと私たちは考えています。

極端な話をすると1万年何もしなれれば本当の自然になるかもしれませんが、日本や世界のかなりの森については人間との関係を途中で一方的に打ち切ることが一番良くないことだと思います。守りながら手を入れながら、そして経済的なことも視野に入れて付き合っていくべきだと思います。

森については材木やエネルギーとしての利用とともに森自身の活用、われわれが森の中に入る活動も大きくなると思います。先ほどの教室の例にもありましたが、森の中を2時間歩いて気分転換をすると癌にかかりにくくするナチュラルキラー細胞が2割程度増えて、その効果は一カ月くらい持続するとかがわかっています。今まで森と付き合ってきたのはきっといいことがあったのだと思います。切りすぎたと思ったときは、切らないでという施策になり、今はもう少し切って守ろうという施策に転換する時期ではないかと思います。政策も少しずつ動き出してきましたし、国民の皆様方の意識も非常に積極的になってきたと思います。ただ、まだまだ木を使いましょうと言ってもなかなかうまくいきません。さらに残念ながら最近は木材の値段が下がっています。ユーロ安など為替影響もあります。家に太陽光パネルを載せるのも素晴らしいことですが、家に日本の木材を使って日本のCO2をきちんと固定するほうが環境にいいのではというPRもこれから考えていければと思っています。

これまで申し上げてきたことを行政側で進めていき皆さまの活動、取組みも支援していきたいと思いますのでこれからもよろしくお願いします。

概要報告
経団連自然保護協議会による生物多様性民間参画パートナーシップ及び
Rio+20の取り組み
石原 博(経団連自然保護協議会 企画部会長 兼 政策部会長)

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経団連では、Rioの地球サミットの1年前の1991年に経団連地球環境憲章を発表して以来、地球環境問題や持続可能な社会づくりを目標に取り組んできています。その取組みは大きく2つに分かれています。一つは、主に温暖化対策であるCo2の問題について環境自主行動計画を策定して取り組んでいます。もう一つは、いわゆる生物多様性条約関連ですが、自然保護と生物多様性について経団連自然保護協議会を通じて取り組んでいます。

この協議会は、経団連の会員企業の中から有志110社が集まり自発的に自然保護、生物多様性とビジネスの在り方について研究をしたり情報交換をしたりしています。自然保護協議会と自然保護基金は、Rioの地球サミットが開催された1992年に設立していますので、今年でちょうど20年を迎えました。

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自然保護協議会についてご説明します。自然保護協議会の活動は大きく2つの柱からなっています。一つの柱は、経団連自然保護基金、いわゆるファンドです。設立以来20年間にわたり、アジア太平洋地域におけるNGOの自然保護プロジェクトを中心に資金的な支援を行ってきました。第二の柱は自然保護や生物多様性の保全における会員企業の啓発や企業と環境NGOとの連携を促進する活動です。

まず、自然保護基金についてですが、過去20年間にわたり支援件数は延べ1,040件、金額では約31億円になります。海外42カ国836箇所、国内は197箇所で海外の方のウェイトが高くなっています。森林保全や野生動物の保護等さまざまな分野のプロジェクトの活動を支援してきました。また、協議会では、毎年視察ミッションを派遣していて支援プロジェクトが実際どう行われて資金がどう生きたかを確かめたり、現地で活動しておられるNGOの方を激励したりする目的で活動現場に赴き確認しています。

自然保護協議会の活動のうち、会員企業への啓発活動について一部を紹介します。2009年3月に発表しました経団連生物多様性宣言です。この宣言は、企業が生物多様性に取り組む際に踏まえるべき基本的な考え方を7つの原則に、行動するにあたっての指針を15の行動指針にまとめて発表しました。

次に、生物多様性民間参画パートナーシップについて説明します。このパートナーシップは、より多くの企業が主体的かつ具体的な生物多様性保全活動に取組み、かつ、そのレベルアップを図ることを目的として、2010年に名古屋で開催されたCOP10において経団連が中心となり日本政府やNGOの協力を得て発足しました。パートナーシップの目的は、幅広いさまざまな事業者の積極的な参画を促すということ、取組みの質・量両面での拡充を促すことで、対象となる構成員ですが、事業者が中心になり事業者を支援する経済団体・NGOの方にも入っていただいています。参加要件は簡単で、生物多様性民間参画パートナーシップ行動指針に賛同し、それに沿った活動を実践、向上、推進する意思があることで、そのお気持ちがあれば一緒にやっていきましょうという趣旨で会員を募っています。

参加団体数の推移ですが、発足当時は424でしたが、現在は494で、多くは433の事業者会員ですが、ここをさらに拡充していきたいと考えています。

主な活動内容は、Webサイトを通じた情報提供、共有はもちろん、ニュースレターを月1回発信、定期的な事業者会員アンケートを行い状況の把握と還元を行っています。それから会合の開催を行っています。昨年の12月には生物多様性条約事務局とか環境省、IUCNと共同で各国のビジネスイニシアチブを行っている国の方に集まっていただきお互いに意見交換をする会合を開催し、国際的な連携の構築にも積極的に関わっています。
関連事業との連携については、国際森林年を契機に民間参画パートナーシップとフォレスト・サポーターズが協働宣言を締結し、双方の枠組みが連係することによって相乗効果を発揮する、森林や生物多様性に関する取組みの促進を図ることが目的です。

パートナーシップの方からは、フォレスト・サポーターズとの連携に非常に期待しています。また、企業の方にとっては森林や林業に関係する企業はもちろんですが、関係のない企業さんにも森林とか林業に関心を持っていただいて接触していただくといろいろな良いことがあります。

Rio+20のジャパンパビリオンで6/18に生物多様性と震災復興をテーマにイベントが開催されました。この中で協議会の佐藤会長が参加させていただき、当協議会及び生物多様性民間参画パートナーシップの取組みとか東北震災復興支援について発表をさせていただきました。

東北復興支援への協力についてですが、協議会としても具体的な取組みを行いたいと考えています。協議会に加盟する企業が継続的にそして愛着を持って取り組めるような活動を目指していて、現在情報を収集しているところです。 協議会としては、引き続き生物多様性宣言とパートナーシップを活用して企業の生物多様性への取組みをさらにレベルアップする。COP10で採択された愛知目標の実現に積極的に貢献していきたいと考えています。さらに自然保護基金を通じたプロジェクト支援、東北復興支援を推進していきたいと考えています。

Rio+20記念シンポジウム
事例紹介 「日本の森と木を活かす「グリーン・エコノミー」の創出に向けて」

事例紹介①
地域材活用ソリューションEconifa(エコニファ)
末宗 浩一((株)イトーキ ソリューション開発統括部 エコニファ開発推進室長)

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イトーキは明治23年に伊藤喜商店として創立以来、今年で創業122年目になります。創業者の伊藤喜十郎は海外の非常に便利な特許品を日本に紹介して、広く普及し日本人の暮らしを良くすることを目的として伊藤喜商店を設立しました。あまり知られていませんが魔法瓶や万年筆、ゼムクリップの名前を付けたのも私どもの創業者にあたります。現在の事業は、オフィス家具の販売をはじめ、働く人たちの身の回りにある空間や環境を構成する製品を中心に展開しています。

1999年、兵庫県が木づかい運動を始められました。そのとき、もっと県庁で木が使えないかとの問合せをいただき、それを契機に針葉樹を活用した家具や空間作りをはじめました。その後2010年に、新しい事業として地域材活用ソリューション「Econifa(エコニファ)」を立ち上げました。エコニファはイトーキが作った言葉で、エコロジーとコニファー(針葉樹)をあわせています。日本の針葉樹を活用して家具などに利用し、CO2の固定化量を増やすこと。またこれにより森の整備につなげて森林のCO2吸収量を増やすこと。山から街へ、木を循環させることによってCO2削減のサイクルを生み出す活動と位置づけています。生物多様性など森の持つ多くのメリットも守ることができます。

今年、ひとつの事例として東京、神奈川の水源地である山梨県の3町村(丹波山村・道志村・早川町)と協定を結んで水源地ブランドの構築に着手しました。3町村が持つ森林の価値を都市部に伝えることによって、水源地を保全し、限界集落を再生していこうという取組みを始めています。

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エコニファというソリューションのポイントを3つあげますと、まず、日本全国各地の木材を活用し、地域循環を促進するという決意のもと、現在約40県の産地で木材を調達し、製品として都市部また地元に還元しています。
2つ目は木のぬくもりにデザイン性をプラスしていこうということで、都市部で使えるデザインを施した家具を製作していくことを目標としています。

現在、都市部では木を使う意識はあってもどう使ったらいいのかが明確になっていません。それを明確にするために、3つ目は自治体、研究機関、民間企業との協働研究で木材の不燃化、寸法安定化、曲げる、柔らかくする、弾力性を持たせる等、新しい木材の良さを引き出すこと。これらによって木を都市部で使っていくことを目標にしています。

エコニファの事例を紹介していきます。まずは緑の復興プロジェクトです。東日本大震災の津波で海岸林が潮をかぶって切らざるをえない状況になっている地域があります。その被災木を使った材料を石巻のセイホク様に供給していただき昨年から製品化に着手しました。この被災木を使用した製品は、昨年の復興関連イベントエコプロダクツ展等で使用していただきました。

次に地方銀行が取り組まれている「日本の森を守る会」の事例です。日本の森を守る会では、の設立趣旨は各行の森づくり活動の取り組み状況に関する情報交換となっており、地域材活用にも積極的です。京都銀行様では店舗を設立される際に地域の木材を使ったロビー空間づくりをさせていただいています。また、長野県のカラマツ材の商品開発を行った際には、そこで開発した商品を八十二銀行様のロビーに採用いただきました。これは長野県二酸化炭素固定化認証制度指定の材料となっています。

次は三井物産様の事例です。三井物産様では北海道帯広の浦幌山林の社有林の木を活用し、家具などに使用いたしました。研修所でお使いいただいています。

また、木材利用促進法に関連した事例では、羽田空港第一ターミナル出発ロビーの椅子を地域材で製作しました。これは旅客施設の木質化として従来はアルミのフレームであったものを地域材で作らせていただきました。

このような挑戦をこれからも続けていきたいと思います。

事例紹介②
鉄道を活かす木材活用術
峯 雅彦(九州旅客鉄道(株)施設部 設備課長)

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鉄道を活かす木材活用術というテーマで私どもの事例をご紹介したいと思います。JR九州では鉄道事業はもちろん、関連する旅行事業、駅ビル建設、流通、観光などの事業を行っています。最近では農業も手掛けていまして、ニラとかトマト、卵なども生産しています。グループ会社の中には在来の軸組み工法を主体とした住宅メーカーもございます。

これまでは効率化、省力化を重視し、作る部分においてはかなりアウトソーシングを活用する状況でしたが、今はきちんとモノづくりに取り組むべきだという考え方に基づき「つくる2016」と題しました中期経営計画で事業を展開しています。2016というのはこの年に株式上場を目指すという意味で、この中でJR九州の「いきざま」を3つ挙げています。「誠実」「成長と進化」「地域を元気に」この3つを柱に展開しています。その中で「地域を元気に」ですが、地域に元気がなければわれわれJR九州は元気になることはできないと考えます。そのためには、私たちがよりよい交通ネットワークをつくって、まちをつくって、豊かなくらしをつくって、地域の元気をつくろうと、そうすることが私たちJR九州に元気をいただくことになるという想いで展開しています。

具体的な話の前に鉄道と木の話をさせていただきます。昔はレールの下に全部枕木が入っていました。おそらく駅舎も木造でした。車両、客車も床とか壁は木材でした。鉄道は木によって地域とつながって地域に生かされていたと思います。地域とともに歩んできたのが鉄道だといえます。時代が変わり、つながりにも変化がでてきました。メンテナンスフリーやコスト削減で鉄やコンクリートが木に代って採用され地元の素材をなかなか使えなくなって、地元との関連性が薄くなってきたと思います。時を同じくして産業構造の変化や交通ネットワークの変化に伴って地方の地域社会が疲弊してきた背景もありました。

こんな時代背景の中でわれわれは何をすべきかを考えていますが、九州を元気にということで、九州はもともと観光資源が豊かなところですが、それだけではなく列車そのものを観光資源にしていこうではないかという取組みを行っています。

その列車をいくつか紹介したいと思います。

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まず、「海幸山幸」です。日南線を走る外装に飫肥杉を使った非常にユニークな車両です。内装ももちろん飫肥杉を使っています。

次は鹿児島の指宿枕崎線を走っています「指宿のたまて箱」略して「いぶたま」といいますがユニークな外観で内装も木質化しています。

次は「あそぼーい!」です。お子様の旅行をイメージした列車で椅子も窓際にお子様専用の椅子があって目線もお子様が座ったとき外が綺麗に見えるところまで考慮しています。遊び場もいくつか作っています。

次は「A列車で行こう」これは最近投入した列車ですが、車内にカクテルバーを設けてありシックな空間を作ることで大人の旅を演出する列車です。

最後に「ななつ星in九州」です。来年10月の稼動を目指して開発中の、九州を周遊する超豪華列車です。これで新たな観光資源を開発しようとの目論見のもとに開発している列車です。

次は駅舎の話をさせていただきます。九州には古い木造の駅舎が100年を迎えるような駅もありまして全体で566駅がありますが、その136駅が木造です。24%になります。つまり4つに1つは古い木造駅舎という状況です。駅舎を紹介しますが、初めに久大本線の由布院駅です。近年私たちが手掛けている木造駅舎の先駆け的存在です。大分出身の磯崎新先生にお願いして作っていただいた作品で、湯布院の風景や街並みに非常にマッチしていて人気の駅の一つです。

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次は日豊本線の日向市高架駅です。非常に綺麗なシルエットを描いています。JR九州で木材を使って行こうとうするターニングポイントとなった駅だと思います。それまでは木に関してアレルギーというか、使いづらいという感がありました。メンテナンス、安全性を考えていくとなかなか使いづらい意識があったのですが、このような素晴らしい駅ができますと、どんどん使おうという意識になってきました。設計は旭川駅や高知駅を設計なさった内藤廣先生にお願いした作品です。ひさしもボリューム感を持ちながら綺麗なシルエットを描いている非常に素敵な駅です。

それから日南線のリニューアルです。こちらは「海幸山幸」を走らせるにあたってもう少し駅もきれいにしようじゃないかという気持ちで取り組んだリニューアルです。JRだけではなく地元自治体や地元の皆さまといっしょになって作っていこうと取り組んだ事例です。南郷駅を見ていただくと、プラスチックのベンチを木質のベンチに変えるだけでずいぶん雰囲気が変わったのが判ります。

次は「おもちゃのチャチャチャ。ちゃちゃクラブ」といいまして博多駅に設けた遊び場です。これから時代を背負う子どもさんたちに木の良さやぬくもりを体験していただこうと作りました。博多駅のホームにあります。

次は熊本駅の「おてもやん通り」といいまして、在来の熊本駅から新幹線に抜ける地下道を木質の壁と使ってデザインしたものです。ところどころにいろいろな仕掛けをしていて明るく楽しい空間になっています。

次は事務所になりますが、最近できた大分支社の事務所です。高架下らしくない高架下にしたいという想いから作りました。内部はかなり木質化を図っていて、天井や照明ボックスを地元産の材料を使わせていただいています。もちろん無垢ではなくて一等材、二等材に近いものを使い、支社長室には天然の素材で土壁を作っています。こちらは地元で著名な原田進さんに依頼しました。ユーザーにもいろいろなことを理解していただこうということで、工場まできていただいて材料にサンドペーパーをかけるとかをやっていただいた事例です。

熊本駅の計画は安藤忠雄先生にお願いし、垂木・野地板などを含め、県産材を積極的に使っていこうということで検討調整中です。

最後になりますが、私たちの社長が常に「気」が大切だといつも言っています。動きと声、緊張感、貪欲さ、この4つがあれば「気」が集まってくる。と言います。社長のモットーを受け止めまして、私たちのまちづくりのポイントは『木』から始まると考えています。積極的に木を使っていくのはもちろんですが、ただ木を使うのではなくて、付加価値を付ける意味で、いいものを作る。デザイン、素材感などを十分検討し、いいものを作って付加価値を付ける。そういうことによって身の回りに木があふれてくるのではないかと思っています。

最近はカーボンニュートラルとかカーボンオフセットとかという言葉で木材が脚光を浴びています。私たちも木材をいろいろなところで活用することによってCO2の削減はもとより、地元九州や日本の森林資源の再生に少しでもお手伝いができれば最終的には地域の活性化につながり、それがひいてはJR九州の活性化につながってくると考えています。

ぜひ九州においでいただいて先ほどご紹介した列車に乗っていただければ、今日はるばる九州から来たかいがあったというものです。ありがとうございました。

事例紹介③
森と木を活かす三井物産の森~持続可能な森林と林業
青木 雄一(三井物産(株)理事 環境・社会貢献部 部長)

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山の持ち主の立場でいろいろなお話をさせていただこうと思います。私ども三井物産は44,000ヘクタール、全国で74箇所の山を持っており、CO2の森林吸収量は年間15万トンあります。簡単に歴史をご紹介しますと1889年から林業の仕事を始め、1903年に製材工場を作り1909年に山林を取得開始、1911年には現在でも主力の生産林である似湾山林、十弗山林等を取得しています。当時の砂川の木挽工場では製材能力が年間十万立方くらいあり、東洋一といわれました。現在でも十万立方といえば日本の極めて大きな製材工場の部類に入ります。昭和33年の写真には似湾山林で植栽する三井物産社員が写っています。

このように、三井物産は100年前から山を持って経営してきましたが、ご多分に漏れず、山は赤字になり厳しい状況でした。2006年10月の経営会議において基本方針として「当社は社有林を、CO2の吸収源、水源涵養機能など膨大な公益価値を提供しうる重要な資産と位置付け、原則、長期に保有する。」ことを決めました。

その上でどう保有するかといいますと、持続的な経営ができるようにしようと考えています。その中身は二つ、ひとつは森林としての活用です。森林は、水、食料、防災、教育、文化、生物多様性など様々な価値があります。もうひとつは木材としての活用です。つまり資源、エネルギーです。この二つのカテゴリ―の組み合わせで民間企業としてベストミックスを追究したいということです。

三井物産の社有林44,000ヘクタールのうち40%が人工林、60%が天然生林等です。さらに人工林の中の半分を生産に使う循環林としています。木材生産については毎年約5万m3ぐらい、去年は6万3千m3を作りました。実際にどういう作業をしているのかご紹介します。まず作業路の開設ですが、作業道の密度は45m/ヘクタール、日本の平均は約17m/ヘクタールですのでかなり多いのですがドイツ等と比べるとまだかなり少ないです。次にハーベスタによる作業を紹介します。木を根本から切り倒して枝を自動的にはらいます。そして長さを合わせて切ります。これはコンピュータ制御になっていて長さもすべて計って切る作業が一人でできます。

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このように一つの木を、枝→端材→チップ、幹→丸太→用材というようにあらゆる段階で使うカスケード利用をしています。新たな林業面での活用例ですが、今まで使われないで森の中に放置されていた間伐材や端材バイオマスをチップにしています。

さらに、チップをペレットできます。このペレットを焚いて温風を作ります。この温風暖房で温室トマトを作ります。普通は油ボイラーを使うのですが、ペレットを使う実験を進めています。

さらに山の使い方としてCO2の吸収ということで環境省が始めましたJ-VER(オフセットクレジット)を活用させていただき北海道プロジェクト、三重県プロジェクトそれぞれ合計で既に7,900 CO2トン獲得しています。

先ほどイトーキさんからお話がありましたFSC認証ですが、三井物産にとっては3つの価値があります。

①経済的な側面 ②社会的な側面 ③環境的な側面です。FSC認証をとることによってこの三つの側面からの取り組みを山の経営に活かせます。FSC認証をとるために私どもの山林を9の森林管理区分に分けました。

それらの例をご紹介いたします。特別保護林の実例は福島県・田代山林で、生態系の保全を行っています。環境的保護林の実例では北海道の宗谷山林で日本最大の淡水魚イトウを代表とする希少な生物の保全を行っています。また水土保護林の実例は新潟県・南葉山林でブナの木等が生えており水土水質の保全を行っています。少し変わった文化的保護林の実例ですが北海道・沙流山林で、この写真はチセとよばれるアイヌの方々の歴史的な住居です。当社の山林から切り出した木材で作られています。ここでは山林の中にある歴史的史跡等文化の保全を行っています。文化的保護林には他にも京都府・清滝山林があり、アカマツやコバノミツバツツジを大文字焼きや鞍馬の火祭など京都の伝統的行事で使っていただいています。生物多様性に関してはJHEPという認証がありますが、これを京都の山林に適用してどうやったら生物多様性を定量化できるのかをこの認証取得で学ぶことができました。

次の写真は森林環境プログラムですが間伐の体験など2011年全国で16回約1000名の参加を見ました。また各地の小中学校に森林教育の出前を行いました。学校に行って子どもたちに林業の話をすると、木は切っちゃいけないと思っていましたとみんな言います。そうじゃないのです。日本の木は今、切らなきゃいけないと教えています。木を切っちゃいけないと思っていると木を使った机とか壁はなかなか使う気にはならないかもしれませんね。

次は震災復興への取組みです。陸前高田市に社有林材を使って作った仮設の図書館です。すべて木造でたいへんに評判がよいものが出来上がりました。

以上のように山をいろいろな形で活用しています。もう一度繰り返しますと、三井物産の森が目指すものは、森林の多角的活用と林業の両立ということですが、持続的な経営の実現を目指しています。正直に白状しますと、三井物産のこのような山林経営は今残念ながら赤字です。赤字では持続可能な経営にはなりません。どうやってこれをせめて収支トントンまでもっていくかを苦労して考えています。おおざっぱに言いますと、当社の山は80%が北海道にありますが、こちらはいろいろな取組みをして数年後には収支トントンくらいになる見込みです。本州は残念ながらまだまだです。本州をどうするかですが、ひとつの切り口はやはり集約化です。単独ではなくまわりの山と一緒にやろうと進めています。この写真はひとつの例ですが、北海道の石井山林です。長伐期非皆伐型林業といい、皆伐しない、少しずつ切っていく。そして天然更新、つまり人の手では植えないやりかたです。種が落ちたのが自然に伸びてくるのを待つということです。このようなことがうまくいくかどうか確かめる実験林にしています。植えるコストはすごく高いのです。林道を作ったり伐採する費用よりずっと高いのです。そこを省けば経済性はすごく良くなるのではないかという実験です。

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川上の森林で多角的な活用、集約効率化を行い、同時に、川中の加工で産業強化、川下の消費で需要拡大が大事です。このようなものがすべてうまく強化されていくと林産業が持続可能になる、グリーン・エコノミーにつながると考えています。

これからの森づくりのキーワードは、上の図のようになります。持続可能性をとりまくものは何なのか。数々ありますが、供給というのがすごく大事ですね。しっかりと山から木を出していく、そのためにはどうしたらいいのか考えてやっています。ここにあるキーワードをすべてうまくやりながらなんとかうまく赤字を脱却したいと苦労しているところです。

Rio+20記念シンポジウム
パネルディスカッション
「森の豊かさと、生活者の豊かさを生み出す、日本の森と木を活かす
「グリーン・エコノミー」の創出に向けて」
≪コーディネーター≫ 宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長)
≪パネリスト≫ 末松 広行、石原 博、末宗 浩一、峯 雅彦、青木 雄一
≪コメンテーター≫出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)

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【宮林】 本日はグリーン・エコノミーを主要テーマに、Rio+20を受けて我々これからどういうスタンスをとっていくのか、あるいはどういう社会形成をしていくのかということで、先駆的な事例、林野庁の取組みをうかがってまいりました。始めに、皆さまからいただいた質問を、それぞれ専門とされている方にお答えいただきたいと思います。

それに先だって一つだけ確認しておきたいのは、森林・林業に対して相当ポテンシャルが上がってきた、私たちはそれをどうやって使っていくのかという問題があります。森とか木材が持っている価値について企業の皆さまは今どういう視点で考えているのか、いろいろな価値観を持っていろいろなところに使われてきていますが、基本的な価値観はどうとらえておられるのか、ここを共通項として押さえておきたいと思います。イトーキの末宗様から伺いたいと思います。

【末宗】 私が特に感じていることは、実例でいいますと、山梨県の山で切った直径16cmくらいで3mの長さの杉の木が市場で売られる値段は950円です。4トン車に載せて運ぶ運搬費用くらいにしかならない。そんな中で林業をずっと続けておられる方が本当にやっていて良かったと思えるような木の使い方を都市で実現していきたいということです。

【宮林】 木は本来高価なものなのに、もう少し価値観というか経済性を踏まえていってもらいたいということでしょうか。峯さんはどうでしょうか。

【峯】 JR九州は使う立場ですが、たくさん使い、きちんとしたサイクルにすれば森林がきちんとできていくと考えます。そのうえで地産地消を目指しています。もう一点は、防災のために鉄道林が44ヘクタールあるのですが、鉄道林の将来的な保護・保全を視野に入れながら利用する必要があります。そのためには、きちんと使いながら再生していくことが大切だと考えています。

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【宮林】 リスクマネジメントにおける森林の活用ですね。それは木を使い循環させながら、地域と絡むということですね。青木さんは実際植える方なのですが、先ほど赤字だということでたいへん苦労されていると、ただ循環を考えていかれるというお話でしたが、林業経営という側面から将来的にどういう価値観を持てたらいいと思われますか。

【青木】 一例としてなんですが、私どもが経営会議で長期保有を決めた時のさまざまな検討の中で、水源保有やCO2の環境的価値を環境省とか林野庁さんとかがつくっている色々のフォーミュラに当てはめると1,200億円くらいの価値があるとわかりました。であれば森林所有者としてきちんと守るべきだと決めたのです。しかし、三井物産が幸いにも他で黒字だからできるわけであって、本当はそれではいけない。というのが一つと、先ほど宮林さんがリストアップされたように誰が森林からのメリットを受けているのか、その中には簡単に金額に換算できないソフトの価値がたくさんある。このようなものを顕在化させることがとても大事ではないか。それが出来ると、森林保有者の経済性にも少しは影響があると思います。

【宮林】 かつて木材価格がある程度高かった頃は、ソフト的なものは内部化させながら経営することができましたが、今はそれができない。そこを見える化しながら山の経営をし、理解してもらうという中から経済が生まれるということですね。末松さんとしては相対的に緑そのものが価値観を出していく中で、どういった形で価値を出していこうと考えていらっしゃいますか。

【末松】 日本の森林のその経済価値は金額で換算できるものだけを取り出すと1年間に70兆円の価値があるという学術会議の報告が出ています。それを分解したのが先ほどの1,200億円だと思うのですが、それは例えば、ダムを造るときに、木が生えていると保水力があるので治水の効果があると、そこでどれくらいのダムを造るのと同じかを計算しこういったことをいろいろな面で積み重ねると1年間に70兆円ということになります。日本に森があることで国民全体としては治水などの便益があるということです。

ただその便益を昔は本業として木を売っていた人たちがついでにCSRとして社会的なことをやっていましたが、今は本業が赤字なのに公益的機能だけはタダで提供しているのが現在だと思います。とすると、公益的機能は国民全体が受けている利益なので、もう少し国が負担をすべきではないのかとなります。基本的に公益的ものについて国が支援するというのはこういう理屈でやっていましたが、しかし、これは非常に難しいところがあって、なんでも国が公費で負担していくとうまく循環していかない、できるだけ木を出すとか、森林リクリエーションとか直接国民の人たちと結びつけられる経済活動にできるだけ置き換えていくということが必要だと思います。

公益的機能だけれども、個々人の利益にどういう風につなげていくかがこれから大切だと思います。一例をあげると、日本の木がいいと思えばそれを使った製品の価格が高くなっても苦にはならなくなっていくように、直接結びつける努力がどうできるかが一つのカギではないかと思います。当然、国としてやるべきことはやっていくことは追求していかなければなりませんが、国だけが負担すべきことではなくて、みんなで経済の歯車を回す中でなんとかできないかと考えることが大切だと思います。

【宮林】 たいへん難しいことですが、かつて私たちは暮らしの中に森林だとか森だとか川だとか自然資本ががっちりはまっていて、そこで多様な経済性を発揮していた。ところがそこが切れてきた、代替物に変わって、関わりがどんどん薄れてくる、そんな中で、素になっていく構造が関係論をおかしくしたのではないかということも少し見えているような気がします。経団連の自然保護協会はどうお考えでしょうか。

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【石原】 企業が行っている自然保護、生物多様性に関する活動分野は、森林が一番多く約4割です。それは企業と森林とはなじみが深くて、活動の場として広く親しまれている証拠ですが、私が特に強調しておきたいのが森林のポテンシャルをもっと引き出して活用していくためには、企業が森林との関わりをもっと多様にかつダイナミックなものにしていかなくてはいけないと考えています。森林もポテンシャルについてはおわかりのように、動植物の生息、生育の場であると同時に種や遺伝子の保管庫のような場ですので重要なことは言うまでもありません。森林を企業の側からみたときに、もっと多面的なメリットだとか活用方法があるわけで、これを企業の側から発見していかなければならないと思います。

例えば、第一に、森は多様な動植物が生息していて生物多様性を現場で学ぶ場として適しています。第二に、比較的安全な場所が多いですから社員やその家族が活動に参加できる場です。第三に、森林の保全や林業には多くの関係者が関わっていますのでその地域の住民だとか企業、行政、NGO、研究者の方々と新しい繋がりができるいい機会です。さらに、企業にとっては新しい繋がりを通じて新しい技術、製品、ビジネスモデル、サービス等を開発していけるチャンスがあり、つまり新しいパートナーや連携の相手を発見すると同時にイノベーションにつなげていける可能性もある。

森林というのは愛着を持ちながら、単発ではなく継続的に地域との絆を繋いでいく、ネットワークを広げていくことができる場であり、そこに大きな価値を見出していただき、企業が森林との関わりをもっと多様にかつダイナミックなものにしていただければと考えています。

【宮林】 ダイナミックという表現は、まさに木の文化が企業の経営者の目的に入り込む、そうすると木の利用の仕方、あるいは木との関わりが出てくる。それが地域や川を守るための上流域だとかに大きく繋がって生物多様性にも繋がる。まさにそんなお話ですね。

実は、木材利用につきまして峯さんに質問が来ているのですが、「積極的に木材の使用をされていますが、鉄道車両の不燃化等の規格を充足しようとすると現在の一般的な鉄道車両と比較して何倍くらいのコストになるのでしょうか。理想的には観光列車ではなく一般車両でせめて新幹線に使いたいですが可能でしょうか。」

【峯】 ご質問ありがとうございます。非常に難しい質問ですが、コストの面はわかりません。すみません。ただ車両に使っている材料は鉄道に関する技術上の基準を定める省令がありまして、これに基づき試験をして合格してものだけを使用しています。したがって防炎加工、難燃加工等を施した材料だけになっていますので若干普通の材料よりは高くなっていると認識しています。新幹線の車両には若干使わせていただいています。観光列車のようにはいきませんが、かなり使わせていただいているように思っています。通常の通勤電車に使いますと耐久性等の問題が出てきますので、今のところは観光列車に絞っている状態です。

【宮林】 次に末宗さんに木材利用についての質問です。

「木を製品化するには表面処理や合板にするために樹脂あるいは接着剤を使うと思いますがその面で環境負荷を与えることになりませんか。自然素材だけで製品化する良い方法はないでしょうか。」

【末宗】 当社で扱っている製品は、すべて素材のVOCの試験をしています。また、接着剤等メーカーも努力をされていて、F☆☆☆☆など化学物質の放散量の少ない製品を揃えられていますので私としては地域材を使った製品の環境負荷は非常に低いと思います。ただ木はやわらかいのでテーブルの天版にするとへこみます。一時期PET樹脂を貼るなどして違う素材によって強くすることも考えましたが、そうすると木材のカスケード利用、すなわち最終的にチップにできない。ですからそういった面も木製品の特性として世の中に訴えていきたいと思います。

また、強度などの面では杉は密度が0.38、普通家具に使うナラ材が0.65くらいなので、スギはナラなどの広葉樹と比べて軽く、ネジの保持力が弱くなります。このことに対して、針葉樹は導管が多いので軽い、圧縮することによって導管をつぶしてナラ材程度の密度にもっていくことで素材を生かしながら製品強度を維持するなど、技術による挑戦をしています。

【宮林】 できるだけ木材の性質を見極めて使っていく。かつて大工さんたちはそうしてきたと思うのですね。この木はどこに使うというところまで立っている時から見極めて、木材の最もいい利用の仕方をする。それを受け継いでいく形でもっともいいところを使うのだと。接着材等につきましても、最近は天然接着剤も出てきましたので、環境に配慮してやっていくのだと、だだ、強度との関係があるのでそのあたりは検討中ということですね。

次の質問ですが、「木材で家を建てる場合、財政援助を受けることができますか。またどの部署に訪ねて行けば良いのでしょうか。地球温暖化に貢献し個人の健康促進のためにただいま検討中です。」

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【末松】 住宅については国土交通省の長期優良住宅制度があります。基本的にはこれからの住宅はできるだけ長い間、かつそれから耐震、気密性、断熱など性能が高い住宅を勧めていこうと、そのような基準を満たしている住宅は住宅エコポイント制度とか都道府県によっていろいろな措置ができています。これは家電のエコポイントと同様で、そのときの政策があって動いているものですので、今日現在どういうようになっているのかは地元の自治体に問合せていただければと思いますが、国土交通省の住宅の部局も林野庁も木造ということだけで良い訳ではありませんが、これからは耐震性の高い住宅、断熱性能の高い住宅によってエネルギーの消費が少なくずっと使える快適な住宅をできるだけ推進していこうといろいろな政策を打っていますし、各都道府県で木材の利用について支援をしているところもありますのでぜひ地元で聞いていただければと思います。

【宮林】 いろいろな場面で支援はあるということですね。

こんどの質問は少し視点が変わります。

「団塊の世代が就職につなげて参画できる将来の雇用創出構想をぜひ創造していただきたいと希望しています。5時間くらいのアルバイトでも結構です。厚生労働省の基準および実践訓練学校を約1年受講しましたが就職に繋がる分野が皆無に等しいです。シニア高齢者世代にも活躍を施すようお願いできないものでしょうか。」

これはおそらく森林・木材産業、グリーン・エコノミーというところでシニアとか高齢者が働く場面がないかいうことですが、青木さん受け入れる体制はあるのでしょうか。

【青木】 日本で林業の現場、つまり山の中に入って作業をする人は約5万人といわれています。その5万人の年齢構成はお歳をとられた方が多いと言われていますが、結構若い人もいます。5万人で足りるのかというと、これから山から材を出さなければいけない時代になっていくと絶対に足りないのは明らかです。ではどうやって育てるのかというと、若い人に魅力的なものにしなければなりません。他産業を卒業された中高年も活躍できるようにしてゆければいいかとは思いますが、ただ山の仕事は結構ハードなことは事実なので、どの程度体力経験があれば仕事ができるのかを明らかにするのは難しいです。 極端に言うと、ずっと都会にいらした方が山に入って訓練をうければすぐできるかと言われるとちょっとなんとも申し上げられません。ただ、やれる仕事は川中をはじめ林業周辺にさまざまな仕事があると思います。一方、山の中で人が足らないのは事実です。

【宮林】 木材を生産する仕事は、かなり危険で熟練が必要でたいへんな仕事です。ただ一つのルートの中で専門に切ったあとの廃材を高齢者が行って運びだすような仕事は、もう既に仕組みができている ところがありますので、その中に入ることはあると思います。

もうひとつは、環境教育推進法が改正されましたが、国民の皆さまのレジャーやインタープリターなどの中に指導者が少ないので、こちらの分野に入っていくことも考えられると思います。グリーン・エコノミーの中でいろいろ使い勝手が出てくると、そこに少なからず川上だけでなく川中、川下でも雇用が少なからず生まれてくるのではないかと期待したいと思います。

次は「海岸防災林に植える本数と育成方法のスケジュール、植林方法、具体的な人員等をお聞きしたい。」という質問です。

【末松】今、具体的な検討をしていますので順にお示ししていきたいと思っています。海岸防災林は震災の際に、ずたずたに引き裂かれて非常に悲惨な状況になっている半面、その過程で後背地、住宅、田畑をかなりの割合で守ったということもありますので、今決まっていることは、海岸林をもう一度再生しようと、できれば単純に海岸の堤防で防災するだけでなく、防災林としてこんもり高くして幅をとってゆるやかな形で守っていこうと、このように政府として方針ができています。

順番としては、海岸防災林になるべきところには、かなりの場所に瓦礫が積まれています。この瓦礫の処理をしたり、一部使えるものは無害化したりして、そこに埋めることも考えています。マウンドを作ってそこに植えていくことになります。その地域によって、すぐ植えられるとことも若干ありますが、以上のような手続きで計画を立てています。計画を立てればすぐできるものでもなくて、今までそこを所有していた方に対してどういう形にするかお話をして計画を立てて造成をして、その後植樹をしていきます。今回木を植えるに際しては、ぜひ多くの国民の方、企業の方、NPOの方に手伝っていただくべきという考えも持って計画しているところです。決まり次第情報を流していく所存ですのでお待ちいただければと思います。

それから民間の方々で植えるときの苗木もすぐにできるわけではないので、今から準備をしようと活動していただいている方々もいらっしゃいます。そのような動きも参考にしながら計画をたてていこうと思っています。今年度中には数10キロに亘っては着工したいと思っていますが、いろいろな障害もありますので、できるだけ急いでやっていきたいとも思っています。

【宮林】 海岸林についてはこれから膨大な植林事業がスタートしていくと思います。まさにかつて日本が植林を1年に20万ヘクタールという人工林をつくってきたことがありますが、これは国の大きな事業としてやってきています。このような中に防災林、防風林の整備を防災のための新しい仕事をやっていき管理していくというところでも十分位置付けができるのではないかという感じを受けました。

次の質問です。

「林業再生が必要と指摘されたけれども、そもそも日本は産業として独立した林業は存在してこなかったと認識しています。今後の林業の在り方についてお考えをお聞かせください。」

これは私がお答えします。日本の林業そのものは、大きな規模でもっている人たちと中規模、小規模と多様な人たちの所有形態があります。また産業として成り立っていた農家の人たちもあります。しかし、小さな規模となると、植えてから50年とか生産年齢が非常に長いのでなかなか小規模ではやっていけない。その場合は複合で、農林と複合したり、森林の中でも炭焼きなどしたりして複合しながら展開してきました。私は林業そのものは、あったと見ています。ただ現在は木材の利用の仕方だとか、山との関わり、薪も使わない、このような中で特に価格もどんどん下がっていく、ということ非常に厳しい状況にあります。その中でこれからどうしていくのかが今日の議論になるのだと思います。

もうひとつ質問です。

「今回のRio+20はブラジル開催、ブラジルと言えば森をつくる農業(アグロフォレストリー)が存在するが、日本国土での可能性は如何なものか。アグロフォレストリーとは国際協力分野のものではないか。気候や風土の問題があって国としてどのような位置づけとなっているのか。」

【末松】 途上国とか森林を守っていかなければならない国は、経済をどう回すかが課題です。日本では炭焼きとか農業とかをはじめ里山とかで意識できる山もあるし、そばに農地もあるという形で回ってきました。

途上国の森林を守っていくために、ただ守りましょう、ではだめなので、そこで農業とうまく連結させていきましょうと、そんな形の支援をしていきましょうということで、先進国はいろいろ努力をしてきているつもりです。途上国の人からすると先進国は自分たちの持っている森林を切りつくしてから、途上国の持っている森林を貴重なのでもう切るなと言っているように思っていて、切らないのはいいけど、ではどうして自分たちは経済発展するのかという問いかけがあり、それに対する答えの一つとしてアグロフォレストリーとしていろいろな協力をしていますし、うまくいっている事例も出始めています。

日本の場合は林業と農業、シイタケ栽培とかをうまく組み合わせて経済を回している事例はありますし、どうしても林業は非常に長い周期で物事が動きますので、一年一年のことについては農業生産的なものを組み合わせて成果を出しておられる方もいらっしゃいます。

【宮林】 開発援助については現地の農業は移動農耕をやるわけです。移動というのは焼いて、何回か作付けをして地力が弱くなったらまた別に移る、つまりシフトして、それが山を荒らしていくわけです。それでは定住する必要があるのではないか。そうすると農業と林業を定住させるために作っていくような、そして農業をやりながら最終的に山から収入を得ていくというような手法でやっていったと思います。日本は木庭作というのがあったのですが、もう不可能になりました。ただ、山村といっても非常に農業と複合しているところも少なくない面もあるわけです。これはアグロフォレストリーというよりは農家の持っている所有形態という観点になってくると思います。日本ではアグロフォレストリーという概念が違うという感じを受けていてまさに末松さんと同じ考え方です。

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【宮林】 本題に戻りたいと思います。
森林、木材に対するポテンシャルが非常に高くなってきた。それに対してグリーン・エコノミーという中で経済性をどうもっていくかが今日の議論でありました。そこで、皆さまにお聞きしたいのは具体的に展開する場合に、地域を巻き込む、デザイン要素を入れて高付加価値を追求するとか、観光資源にする等さまざまなお話がありました。それが自分たちの会社との関わりで、どのように連携していったらいいのか議論していきたいと思います。

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【峯】 先ほどからいくつか車両の事例をお示ししましたが、まさに木材を使って観光資源を創造する取組みをしています。今日ご紹介した車両すべて水戸岡鋭治さんというデザイナーの作品でして、水戸岡先生も木材をきちんと使うことが大切だという意識でデザインされていると聞いています。JR九州では木材を列車だけにとどまらず駅、最近の事例では大分駅に使いました。なかなかコンコースの床などには使いづらいところではありますが、そのような部分にも積極的に使って付加価値をあげていこうとしています。それから大分支社には、地元のデザイナーによる「杉こだま」というベンチを置いて木の温かさを感じてもらうような取組みも行っています。

【宮林】 本日のスライドを拝見したときに、九州に行ってみたいと思った方もいらっしゃると思います。結局あれを作るには高くついているはずなのですね。でもそれは地域の木材を使い、地域の森林を管理することにつながり、そして列車に乗ってみたら実はこの木材は地域で使っていた、地域の森林を守っていましたというところにフィードバックされてくる。そこに新しい感覚、つまり私たちが知らなかったものをそこで得る。つまりグリーン・エコノミーへの道が見えてくる。決して利潤追求をやらないわけではなく、そこに繋がりを見せた。経済の中に内部化した側面が見えたのではないでしょうか。

【末宗】 一つの例として、東京都の港区が去年10月からみなとモデル二酸化炭素固定認証制度を施行されて全国の自治体と協定を結ばれておられます。消費側が木を買いたいという声をあげたとき、当初、提携した山側は丸太や板などの素材を、従来の住宅産業と同じ品質で販売することを考えられていました。しかし港区としては、港区が使うのではなく、港区にある企業が使えるようなものを各地で生産していただきたいというご意向でした。現実に一年たって地方で起こっていることとして、例えば徳島県の三好市は本当に都会で使えるものを製品開発しようと、小さな木材業者が新しい乾燥炉を入れられて、消費者がほしいといった時に山側が応えられる体制を作られました。まさに山と街の回転が始まりかけたところではないかと思います。そこでイトーキとしては各地で起こっているこのような動きに対してデザインで協力していく。品質を保証・担保していく。その役割が、消費者がいて山側がいてその間の流通・デザインの部分を担っていければイトーキとしては非常に良いのではないかと考えて活動しています。

【宮林】 おそらく生産、加工、消費の3者がWinであるというところに焦点がでてくるのではないでしょうか。

【石原】 基本的には企業のイノベーション力に負うところが非常に大きいと感じています。それもクローズドイノベーションではなくてオープン型のイノベーション、つまり自前で技術者や研究所を構えて開発するのではなくて、いろいろな連携を取りながら社外のいろいろな人の力を繋ぎ合わせてイノベーションをやっていくというオープンイノベーションの考え方が主流になるのではないでしょうか。連携の重要性はこれからますます高まってくるので、私は先ほど概要報告の中で、生物多様性民間参画パートナーシップとしては、フォレスト・サポーターズさんとの連携を非常に期待していると申し上げた理由はそこにあります。まさにオープンイノベーションを可能にする土壌として非常に使えるのではないかと思った次第です。

【宮林】 やはりパートナーシップなのですね。今までクローズしていたものを広げていろいろな方々とオープンに繋がっていく、そこに新しい技術開発と経済性が見えてくるのではないでしょうか。

【末松】 まさにその通りだと思います。このあたり行政がきちんとわかっていれば、もうちょっと早くいい動きになっているのだと思います。必要性とそれによって世の中に及ぼされるプラスの効果は非常に感じます。国内でできることは、国内でできると経済は乗数効果をもってより廻るということだと思います。

日本にないものを外国から輸入するのは非常に大切なことだと思いますし、外国にある良いものを楽しむというのは日本に経済力があるから出来るのだと思いますが、同じもの、例えば先程の木質バイオマス発電所5,00KWであれば12億円発電の料金が入ってきます。国民の負担とか全体的に考えることはありますが、今は太陽光の42円よりも少ない額で安定電源の発電所ができるので良いと考えれば12億円入ってそこの13人の雇用が生まれ燃料代に7億~9億円払うことになります。その7億~9億円は重油の発電であればアラブから買ってくることになるので、悪いことではありませんが、アラブの経済を回してドバイの繁栄を支える代りに、会津の山に7億円の燃料代がいけば山村の人たちはそのお金を貯金するわけではなく、もう一度、生活で使ってグルグル廻ることになると思います。

日本の中で回せるものはもういちど回していこうということはすごく大切ではないか、繋ぎ合わせるのも同じ日本の中なので、本当は繋ぎあわせるのはしやすいはずだと思います。ただ残念なことに外国から持ってくるというのは、ものすごく大きなロットでものすごく単純化して出来るということで、それが一見効率よく見えてしまう、国内でいろいろお話をするには、いろいろな調整をするとか案件がひとつひとつ小さくて苦労はしますが、苦労しても結びつけば、都会にも田舎にもすごくプラスがあることではないかと思います。

オープンイノベーションなどで廻り出せばこれだけ大きくなるというのはわかっていますので、今日の話を参考にしながら結び付けることの大切さに対して、行政がどんな支援ができるのかをさらに追及していかなければならないと思います。

【宮林】 やはり今私たちが考えているのは、効率性を優先したりロットを大きくしたりしてある程度の利潤を追求してきたのですが、その大きな流れを断ち切るというわけではなく、その中に環境というキーワードを入れていく、そこで地産地消の問題も出てくるでしょうし、企業が入ってそう内部化しながら循環していくかが重要ではないかと思います。例えばJR九州のように地域材を使って駅舎や列車の中に使っていく、それが必ず地域の雇用を生みます。生むと同時に新しいお客様がたくさん入ってくればそこでまた雇用が生まれてくる。少なからず地域が元気になる。そこで新しい文化、経済が創出されてくるのではないかというお話ではないかと思います。川下で出てきたイノベーションを川上ではどう受けとめてパートナーシップを結んでいったらいいのでしょうか。

【青木】 経済性という切り口、川上ではどう考えるかということですが、今私どもがやっている中では2つほどあります。ひとつは、先ほど北海道と本州お話をしましたが、木材生産とその利用という点からすると北海道は明らかに楽です。それは広くて平らだからです。本州はひとつひとつが狭くて平らではないのでたいへんなのです。本州でどうやって北海道に近づけるかといえば、明らかに広域です。したがって広域化して、つまり大規模化するということです。一方で広域化、大規模化すればうまくいくかというとそれだけではなくて、例えば、本州で採れる木は東北以南ですと杉、檜です。杉、檜は過去日本でどうやって使ってきたのかというと角材・板材にして家の柱や天井に使われていました。それだけの使い方でこれから毎年出てくる何千万立方使えるのでしょうか。杉も檜もそういう使い方でだけではなくて、あるいは簡単に言うと一昔前、木を一本切れば嫁入りの・・・という発想ではだめだということですね。杉を切っても檜を切っても集成材も作り、場合によっては合板を作るというようなさまざまな多角的な活用ができるのかどうか、ここにイノベーションの必要性があると思います。
もうひとつはバイオマス系です。先ほど末松さんからご紹介がありました年間5000KW発電の使用量が10万立米の木が必要だということ。バイオマスは熱も作れますし、電気も作れます。10万立米の木といいますとかなりの量なのです。これだけの木はどうしたら出てくるのか。私がさまざまな現場で見ていて考えるべきは、まず、地域のベストサイズを見つけることだと思います。どれだけのサイズの発電、発熱、どれだけの量のバイオマスが安定して供給できるのか。このようなベストのサイズを見つけることが、つまり大きければいいというわけでもありませんし、小さいからいいわけでもない、いろいろなコミュニティがあり、いろいろな自然環境があり、それにあわせたベストなサイズを見つけることが最も重要だと感じます。

【宮林】 なるほど。大きく拡大していくということも必要ですが、基本的にはバイオマス等で見るとロットなのですね。それを超えてしまうとダメになって何にもならないわけですから、地域の持っている資源ポテンシャルを把握しながら、それにあわせた木材の使い方、これもカスケードの捉え方ですので、ABCDで分けるとするといい材はいい材としてAはA、BはBで使っていかないとAをCに使ったりDに使ったりすると何にもなりませんので、このような場面でもロットとの関係が出てくるというお話ですね。
次に、峯さんのとことも末宗さんのところも木材をうまく使わせていることがわかりましたが現在における課題はないのでしょうか。

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【末宗】 都市に木材を呼びたい。その中で一番の課題となるのは不燃化の問題です。建築基準法はクリアしても消防署の指導が入ります。先日もある地域でお手伝いしたところ、「この地域で火事がおこらない理由がわかりますか?」と聞かれました。建築基準法を守っているからでしょうとお答えしましたら、「消防署が燃えるものを持ち込ませないから」ということで、木は不燃化しなさいと言われました。不燃化の技術ですが、今のところリン酸、ホウ酸系を含浸するしか方法がありません。技術的な課題も多くあります。

車をコンクリートブロックにぶつけて凹んでも、誰もクレームを言わない。なぜ木はぶつかって凹んだらだめなのかと。特にハイヒールの踏み跡がつくことを気にされることが多くあります。表面を削ったら元に戻るなど方策もありますし、このような木を使う上での価値観を変えられないかと思います。

【宮林】 ありがとうございました。ところでロットに関してはどうでしょう。地域から十分な量は出てくるのでしょうか。

【末宗】 ロットは特に気にしていません。各地で探せば用意してもらえます。檜、杉も全国各地で出てきますので製材の入手はあまり困りません。製品化にあたっては、ロットよりも乾燥の工程が重要と感じます。製品に使う木材の含水率を20~25%で出荷されることがあります。しかし、都市部にあるようなコンクリートの建物の中で使うには、まず含水率を8%くらいまで落として、その後12%くらいに戻した材のほうが、形状が安定しています。変形する、反りが出る、それでもいいよという価値観には、なかなかなりません。双方の価値観、考え方やこれまでのやり方を変えていく必要があるように思います。

【宮林】 おっしゃる通りですね。傷むということは弾力性があるということで、別のシーンでは良いことなのですね。峯さんのところはたいへんいい材を使われているのですが、潤沢に供給できてくるのでしょうか。

【峯】 車両や駅舎の一部には外国産材を使っています。ボリュームの大きい駅舎に地域の材を使った事例もありますが、特に供給には困らなかったという印象があります。

【宮林】 そうすると比較的ちょうどいい量で使われているのでしょうか。供給は問題ないとのことですね。ただ乾燥の問題がありましたが、企業の中には絶対あるはずだと思います。その技術をぜひ、林業界に入れていただけると助かります。
今日の課題がグリーン・エコノミーということで、すでにスタートしてきている企業の皆さまなのですが、今後、グリーン・エコノミーを進めていく場合の戦略についてお聞きしたいと思います。

【石原】 生物多様性民間参画パートナーシップとフォレスト・サポーターズとの連携協同をどうやって深めていくか一番の課題でもあり展望です。具体的には、広報の観点からは機関誌、Webサイト、メールマガジン等でお互いの情報を共有化することは基本的なところです。それ以外に取組み事例の共有化があります。ともに学べるものを考えていくべきだと思いますし、さらに具体的に言うと東北復興支援で協同して、何かできないかと考えています。

それから森づくりとか木づかい運動とかの普及啓発の場合に、関係する団体と私どもの協議会とが連携して、例えば地方の経済団体といっしょに地方でセミナーを行っていくことも考えられると思います。

以上が公式コメントなのですが、私自身自然保護協議会のお仕事を10年ちょっと続けてきていますが、これまでの経験で感じるのは理念とか考え方はもちろん大事なのですが、現場での活動の実践とか、関係者の双方向のコミュニケーションが一番大事なのだと、そのことによって連携とか協働の意義を実感することが成果を上げていく上で、もっとも大事ではないかという感じがしています。例えば、実際にイベントを企画する場合に、現場を見て体験を共通化した上で意見交換をするとか、現場が厳しければ、せめて意見交換を双方向でやれるように、お互いにテーマを持って話あうことで気がつくこともあるでしょうし、あの人と深く話してみたいなというようなパートナーが見つかるかも知れませんので、そのような形での運営を心掛けていきたいと思っています。

【宮林】 この問題で、林野庁に研究会を立ち上げてもらうといいかもしれませんね。

【末宗】 伝統工芸品である秋田の「曲げわっぱ」。わっぱがどうして曲がるかということは作っている職人は誰も知りません。経験的に曲げて、曲げたら中にしわが寄るので、それを削ってきれいにしています。木材の歩留まりでいうと1割に満たないほど低いそうです。そのため非常に高価なものになっています。そのメカニズムを解明して製品を曲げられるようになれば価格が下がって都市部で数多く使えるものになるかもしれない。そんな風に日本各地で伝承されている隠れた技術を科学的に解明し、安定した技術にしていくということができるのではないかと思います。昔の神社仏閣があれだけきれいに建っている技術はどこかに眠っているのですが、メカニズムになっていないところを解明することにも興味があります。

【宮林】まさに技術の連動ですね。

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【青木】 一民間企業であり山の所有者として、分かりやすく言えば課題は事業環境の難しい本州にあるということは申し上げた通りです。そこでの戦略は単独で1社でやるのはなくて、いかに協働でやるか。これは明らかな方向性だと思いますので徹底してやっていきたいと思います。ともにもう一つの戦略は、私が言うのは次元が違うのかもしれませんが、日本は世界第二位の森林国であって、雨も降るし、温帯にもあるので森は育つわけです。日本にとって森はたいへんな資源であり資産でもあります。過去日本は鉄とプラスチックとコンクリートで成長してきた。それはそれでいい時代でした。そのあと今はこういう時代になってこれから新しい時代、日本はひとつの切り口として森と一緒に生きる国なのだという国民的合意をなんとか作る。そうすると川中川下とみんなが木を使うことが当たり前のように動き始めると・・・夢のような話ですがやはりこのようなことは国民的合意を作らないと大きく動かないのではないか、そのようなためにもこのようなシンポジウムがたくさんあるといいなと思います。

【宮林】 かつて森林や自然資本はタダみたいなもので、いつでも触れるようなものだったので、希少価値になってくると、きちんと守っていく手立て、また守っていく科学的究明が必要になってきていると感じました。

【末松】 本日いろいろ学ばせていただきましたが、これからいろいろなことを引っ張っていくのは川下側の考えだと思います。過去日本の発展はいろいろな企業が独創的なことを考えてそれを戦略として伸ばしていき、また海外にも売りということだったと思います。この分野も同じだと思います。木の魅力を伝え、新しいもので国民、世界に日本の木を使った製品、システムを売り出していくということが大切だと思います。

また長い間、木についてはプラスの評価もありますがマイナスの評価もあって、解決すべきことがいくつかあります。行政の側で木はこうして使うのだというのではなくて、先ほどあった消防の話とか、価値観の話とか、どこが課題かということを教えていただいて、取り除いていくことを官民あわせてやっていくことが大切だと思いました。結構解決できる話は多くて、例えば建築基準法も公共建築物木材化促進法ができまして、日本の役所を作ってくれる部署である官庁営繕部がいろいろな設計の基準や発注の基準とかをすごい勢いで木を使いやすいようにしてくれています。彼らも木を使うという方針が決まってやってみるといろいろ足りないことがわかっているし、木をどうやって使って官庁の建物を作るかと今いろいろな努力が進んでいます。このようなことは動きだして気がつくと行政でできることがわかって、わかればそれをお手伝いすることだと思います。行政の仕事は動き出すのが遅いとか、いろいろご批判はあるのですが、あまり怒らず、こうやれときちんと言っていただけば一生懸命やりますので一歩一歩やっていきたいと思います。

もうひとつ木の良さの理解を一般の国民の人たちに広めることが足らないような気がして、広報というか価値観を醸成するのは、何かやらなければならないと思います。木材産業全体で個々の企業がPRにお金をどんどん使っていくのはなかなか難しいので、ここは自治体や国が一肌脱がなければならないと思っていますが、どれだけ努力できるかこれから頑張りたいと思います。

【宮林】 どんどん言ってもらえればやるそうですので・・・少なくとも文科省には小中学校のデスクは地元材を使ってもらえばありがたいと思います。

今日、実は林政審の座長をされている岡田先生が御見えなのです。岡田先生は森林林業再生プランを作られた方ですので、今日の感想を一言、岡田先生にいただけたらありがたいのですが。

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【岡田】 最初からずっとお話をお聞きして、今日ほど勉強になったシンポジウムはありません。本当にありがとうございました。出井先生の最初の悲壮感から脱却、わが国はそれを成し遂げていくポテンシャルがあるのだという問題提起から始まって、たくさんの報告をいただきました。

私どもいろいろな方に知恵をいただいて森林林業再生プランの中身づくりを1年くらいかけて一生懸命やりました。その理念のひとつは、生態系の重視をしっかりとふまえよう。二つ目が、地域資源としての森林、社会的基盤としての森林を上手にイノベーションする。地域創造型の産業として再生することです。三つ目は、利用の拡大そして出来ればエネルギーにも利用できるように、ここを通じて低炭素の循環型社会を作っていく。これが実は森林林業再生プランの根っこにある考え方です。しかし、当面10年間は急いで山元整備がということで政策的なところはそこに重点化しなければならないとうことでいろいろな課題や、政策変更が行われています。

今日のこのすばらしい議論をふまえつつ、グリーン・エコノミーを作っていく。これは私たちのプランもまったく同じ考え方でいます。特に先進国家においては急いで作っていかなければならない、これくらいに地球環境は非常に窮屈で本当に危機的な状況だと思っていますし、先進国家そのものの成長がそこにかかっているという理解をしています。

今日の皆さまの意見をお聞きして思いましたのは、やはり循環型の仕組みを急いで作りなさいということを教えていただきました。二つ目には、そこにはすべての人が参画をするのだということが大事なことと教えていただきました。三つ目は、自然資源には個性があって、活かすようなことをしっかり作りなさい。その全体は川下ないしは使う側が引っ張っていく側面があり大事だということを教えていただいたと思います。そこにあるのは、やはりこれまでの森林に対する期待と少し違った面が出てきたと思います。すなわち過去に戻るではなくて新しい時代に生きようということだと思います。この側面を貫いていくとどうやら森林への期待というのはただ単にモノではなくて、森林の持っているいろいろな木の特性を土台にして製品化する需要として表していくイノベーション、これが企業も川下も非常に大事な事として求めていることを強く感じることができました。そのことにあたっても大事なのは情報だということも出てきていました。

私ども批判をいただきながら、しかし、今これをやらなければということで森林林業再生プラン、時の総理ではありませんが命をかけてやっていますので、今日のシンポジウムとなんら違わない目標だと思っていますので、これからもご支援をよろしくお願いします。

【宮林】 最後に美しい森林づくり全国推進会議の出井代表に総括コメントをいただきたいと思います。

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【出井】 まず、私の方からのお願いがありまして、一つは末松さんへのお願いですが、長い間、林野庁とお付き合いしていて、育樹祭とか植樹祭に出席していますが、やり方を改善していただきたい。具体的に申し上げます。天皇陛下、皇太子殿下は日本のトップとして情熱を持って木を植えたりされています。このようなことをやっている国は世界にないくらい感動するのですが、残念なことにそこがセレモニーで、その次の木を活かしていくには植えるだけではなく、加工して使って資源に変える場面が抜けているように思います。あのセレモニーを前半と後半に分けて、例えばトヨタさんとか家を作っているところなど二次産業で強いところを呼んでシンポジウムをやったほうが経費も安く上がって日本の木の流通に関してプラスになると思います。

また、今日ここに出ていただいた皆様の会社がいろいろなことで木を利用するということをお聞きして非常に感動いたしました。特に九州の鉄道はいいなと思い、ぜひ九州に行ってみたいなと思います。それから三井物産さんがあれだけやっていらっしゃるということは、これから日本はすごく年をとったエイジングソサエティになってきていますので、都会を離れてもいいと考えている方はたくさんいらっしゃると思いますね。森と住宅を一緒にして都会の人が住みたいような木の街というのをつくったらいかがでしょうか。本州が儲かってないとおっしゃっていましたが、ITで起業している若い人たちはどこに住んでもいいわけです。もし魅力的な木の街ができたら世界的にも評判になるのではないでしょうか。画一的な家ではなく手作りの木の家ができてくれば盛り上がって住んでみたいということになります。要するに都会に作るのではなく都会から離れたところにぜひ作っていただいて、里山ではなく里村のような感じになれば面白いのではないでしょうか。

木を資源として加工するテクノロジーですが、大手がまだやっていないのではないかと思います。ぜひ不燃のことも含めて、経団連が音頭をとっていただき、「もっと真剣に取組んでください」と技術を持っているメーカーに言っていただきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。

【宮林】 グリーン・エコノミーという形でこれだけの企業の皆さま、関心をもっている皆さまに集まっていただいて、これは森林林業に対する、あるいは山村地域に対する大きな力になったのではないかと思います。そこで、ぜひいろいろなテーマの研究会を末松さんに作っていただいて、できるだけ早く合意形成をするために、同じ土俵にのっていただいて、各企業・団体の技術、使い方などの表明などによって、うまく結ぶことによって木材の利用の仕方、あるいは道の作り方、乾燥の仕方、多様なものが出てくるのではないかと思っています。

ぜひこれを機会に、今日がキックオフという位置付けにしていただき、全員が話合う場所をつくる、合意の場所を作ることが非常に重要なことだと思いますので、そんなことをお願いしてこのシンポジウムを終えたいと思います。どうもありがとうございました。

閉会挨拶
谷 福丸(国土緑化推進機構 副理事長)

本日Rio+20を記念してシンポジウムを企画したところ、かくも大勢の方にご参加いただき、また最後までお付き合いいただきまして誠にありがとうございました。厚く御礼申し上げます。

基調講演をしていただいた宮林先生、末松部長、さらには、日常の活動をご報告いただき、またパネラーとして貴重なご意見もいただきました皆様、本当にありがとうございました。また、会場の皆様からもたくさんのご意見をいただきました。あらためて御礼申し上げます。

森と木を活用して森林をどう保全していくか、さらにはまた、グリーン・エコノミーにどうつなげていくのか、このような問題につきましてさまざまな角度からいろいろな貴重なご意見をいただきました。

また、プレセミナーで東北被災地の海岸林の再生につきましてもご議論いただきまして、本当に今日はみのり多いシンポジウムであったと喜んでおり、改めて感謝申し上げます。

これを契機といたしまして、今日提起されました問題が広く共有されて、協働と連携の輪が広がっていければと願っております。今日は本当にありがとうございました。