『森とつながる都市での木づかいシンポジウム』~デザインと異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい~

主催/美しい森林づくり全国推進会議、経団連自然保護協議会、(公社)国土緑化推進機構
共催/特定非営利活動法人活木活木森ネットワーク、木材利用推進中央協議会、(一社)日本プロジェクト産業協議会
後援/林野庁

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2012年に策定された「生物多様性国家戦略」では、生物多様性の保全に向けた取組として国産 材の利用拡大が位置づけられるともに、本年から開始された京都議定書第2約束期間では、森林による二酸化炭素の吸収に加えて、木材として住宅等に貯蔵されている炭素量が温室効果ガスの吸収源として計上されることととなり、木材の利用が温暖化防止 に貢献することが明確化されました。

こうした中、我が国では、「公共建築物等木材利用促進法」の制定や「再生可能エネルギー固定価格買取制度」の開始、「木材利用ポイント事業」等の新たな政策が展開されております。

そこで、豊かな森林資源と木の文化を有する我が国において、素材としての木材の良さを再認識し、業種を超えた幅広い企業等が森と木を活かした新しいビジネスの創造の可能性と地域社会やライフスタイルのあり方について考える場として、2013年の「木づかい推進月間」のキックオフ・シンポジウムを開催します。

1.主催者挨拶

出井 伸之 (美しい森林づくり全国推進会議 代表)

佐藤 正敏 (経団連自然保護協議会 会長)

2.来賓挨拶

林 芳正 (農林水産大臣)

3.基調講演

「木づかいで地球も人間も健やかに ~京都議定書における木材の取扱いと木材の快適性増進効果に関する研究の最前線~

恒次 祐子 (独立行政法人森林総合研究所 主任研究員)

4.概要報告

動き出した、森とつながる都市での木づかい

沼田 正俊 (林野庁長官)

5.話題提供

林業復活に向けて、国民の理解と合意のための運動

高藪 裕三 ((一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC 専務理事)

6.事例発表「森とつながる都市での木づかい・最前線」

感性価値と健康効果を高める木質空間の提案 ~イベント・店舗・福祉施設からまちづくり~

杉本 貴一 (住友林業(株)木化営業部)

Soup Stock Tokyo の国産材を使った店づくり

平井 俊旭 (スマイルズ(株)クリエイティブ室 ディレクター / Soup Stock Tokyo)

7.パネルディスカッション

「新たなCSR・事業開発の可能性」~森と木のあるライフスタイルの視点から~

<コーディネーター>

宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)

<パネリスト>

住友林業(株)、スマイルズ(株)、(一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC、

林野庁、(独)森林総合研究所の各発表者

<コメンテーター>

出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)

平井今のお話はそのとおりで、ファストフードのお店などに関してコンサルの方がよく、「店ができた時の状態に店を戻せばいい」と言います。メラミンであれば拭いて元通りになりますが、木は少しのことでも傷みが出てきますので、確かにメンテナンスの問題はあります。弊社も、既存店を見て回るとかなり傷のついたテーブルなどがあって、そういうものは一律変えていこうという試みはしていますが、一般の木材に対して価値を見いだせていない企業さんからすると無駄なコストと映ってしまいます。作る時のコストで見ても、木材を国産にすると高いというイメージがあります。建ぺい単価にすると金額として大した差ないのですが、木は高いというイメージが避けられてしまう原因になっているのかなと思います。

ただ、自分が店を作る時、どこで金額を圧縮するのか、どこにお金を使っていくのかというバランスを考えていけば決して使えないことはないと思っています。クライアント側から「1円でも安くしろ」というプレッシャーがかかると、デザイナーとしても引かざるを得ませんが。考え方を豊かにしていくしかないのかなと思います。

宮林やはり価値観を少し転換させていく、リオ+20でグリーンエコノミーという言葉を使いましたが、良さをきちんと評価しながら何度も使っていく構造を作らなければいけないということですね。門脇さんはいかがですか。

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門脇素材という観点で考えた時、木造のもつイメージは茶室や学校ぐらいしかないと思います。丸ビルの地下では杭として使われていたり、先ほどのガードレールのように、「こんな場所にも使えるんですよ」というものを広くPRしていくことが大事だろうと思います。

また、鉄やコンクリートはライバルではなく、ハイブリッドという観点でコンクリートと木を一緒に使えないか、鉄と一緒に使えないかなど、他の材とうまく組み合わせて使いながら木を拡大していくアイデアが必要ではないかと思います。

宮林林業復活・森林再生を推進する国民会議などではたくさんの企業を抱えていると思いますので、ぜひそのあたりを強調して広げていただけるとありがたいですね。

門脇パンフレット等も作って一生懸命PRしているところです。

宮林恒次さん、木の良さをつなげていく時の課題はありますか。

恒次私が研究をしていてすごく大変なのは、人によって木に対する反応にすごくばらつきがあるということです。一般的に、自分が良いと思ったものに生体も反応するということがわかってきているので、ばらついている人に対して、「こういう人にはこの木がいい」「こういう人にはこの木」というように、バラエティ豊かに提案していくことが大切になるのかと思います。ただ、そのあたりは難しいですね。

宮林それぞれ感性が違いますから、それを科学的に評価することは難しいことです。平均点のように簡単にはいきません。そのような難しさの中で木というものを私たちの暮らしの中に入れていかなければいけないという難しさがあると思います。

林野庁はいろいろな事業を進めていますが、ソフト部門について新しい企画などを考えていますか。

末松これから必要なことは山の整備で、それは着実に進めているところです。間伐などの手入れに関して効率的な林業手法はいろいろな道が見えてきていて、それを着実に進めているところです。

進める上でさらに大切なのが、川下からの「木がほしい」という需要をもっと多くすることだと思っています。そこにはいくつか課題があって、一つはコストや規制の話です。コストの話は効率化や経済ベースの中でどうやっていくかということですし、様々な規制がコストに非常に影響しているということもわかっていますので、それをどのように合理化していくかということが私たちの大きな課題の一つだと思っています。

今は、木造の素晴らしい建物が皆の汗の決勝でできてきています。高コストのものをリーダーシップで無理をして建てるというケースが多い。それはとても美しい行為ですが、何度も役所と接触するなど大変なことをせず、頼めば爽やかにすぐに造れるという状態に向けて仕組みを見直していくことがひとつの課題だと思っています。

もう一つは、知ってもらうということが何よりも大切ではないかと思っています。規制の話もご相談を受けますが、できないと思い込んでいるものも意外に容易にできてしまうケースがとても多いのです。そのため、いろいろな良い事例をたくさん知っていただくことが大切ではないかと思います。役所では10年くらい前から、「広報は無駄な経費」とばかりに削られていますが、木材が良いことを伝え理解してもらう取り組みが役所としても大切になってくるのではないかと思います。

宮林おそらく、木を植えて切って使うという構造はずっと続けていくべき構造ですが、木を使うことの中に、使うことの良さや価値観の再生も重要になってくるのではないかと思います。 最後ですが、これから東京などの都市で木材を使っていくような大きな運動を展開する際にどのようにすれば良いか、アイデアを一人ずつお聞きしたいと思います。門脇さんからお願いします。

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門脇今後のことを考えると、JAPICもいろいろな戦略を練る時だと思います。オリンピックはそのきっかけの一つになります。2020年に向けて、オリンピックに関連すること以外にも広がりを持たせながら木の良さを伝えていき、それをカタチにすることが一つです。その際、「木はやはりいいな」ということをPRして、オリンピックのあとも木がどんどん使われるようにすることが大切だと思います。

平井使う側の理解をどう促すかというところだと思います。今日は、自分は皆さんの中では異色です。規模も小さくあまりグローバルな考え方はしていません。どちらかというとエモーショナルで限られた世界の話をしていますが、大きく制度や法で動くとそのリスクが必ずあとで生じてくることがこれまでの流れではないかと思っています。日本も以前、木がなくなったから木を使うなとされていた時期があり、林業が衰退していきました。大きな制度で世の中を変えていくという考え方も必要ですが、同時に、木も時間をかけて育つものですから、地に根を張ったような考え方、人と人をつないでいくような地道な作業で下支えしていくような流れと両方を合わせながらやっていく必要があるのかなと感じています。

宮林森林を作るには100年かかります。そのような資源を有効に活用していく中では、つながりを大切にしていくことが大事な視点ということです。ありがとうございます。杉本さん、お願いします。

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杉本先ほどソフトの話が出ましたが、私たち住友林業で設計をする際の話をしますと、ハードで木を使います。そうすると、木が反ったり割れたりする話になります。私たちは何にお金を支払っているかというと建築に支払っているわけです。建物の中をどうするか。しかし、木を使うことはそうではなく、医療費と教育費だということです。技術面・ハード面にかける費用とは別に、もうひとつ別の財布を持つということです。医療費でいえば、予防医学など様々な場面で木が有効で、その関連部分からお金をいただいてきます。教育費に関しては、頭が良くなるという実証から、教育環境を木にしようという話にならないでしょうか。こうした場所で少しずつ木を使うことの効果が出てくると、エンドユーザーの木化へのお金の使い方が少しずつ広がるのではないかと感じているので、今後はハードからソフトへの転換も議論していきたいと思っています。

宮林大切な話ですね。ソフト部門の関係です。恒次さん。

恒次データから普及していくことも一つですが、もう一つは木育です。長い目で、子どもたちに本物の木を教える活動が大切だろうと思っています。実験で、プリントの木目と本物の木目を大学生20名に見ていただき、どちらが本物かを示していただいたところ、半分以上の方がプリントの木目を本物と勘違いしました。このことにとても危機感を覚えています。そういうものを木だと思ってしまう人たちはこれからどうなってしまうのか、心配なところです。長い目で見た木育も、ひとつ重要なことだと思っています。

宮林これから私たちは、木づかい運動を森づくりの一つとしてさらに大きく展開していこうとしています。オリンピックも決まりましたので、開催に向かって木育・木化をしているところもあります。木を使っておもてなしをしていくという形を作り上げていく必要があると思いますが、林野庁の末松さんのアイデアはいかがでしょうか。

末松2020年の話ができましたが、今日は林野庁の職員がたくさん来ていますが、いろいろな基準作りや施設作り、オリンピックのコンセプトにどのように木を合わせていくか。時間的にはいい時期ではないかと思います。今日の話を踏まえて一つひとつ努力していきたいと思います。

宮林私たちにいま大きな転換期にいると感じています。木を使う暮らしをどう取り戻すかということではなく、国際社会にその良さを打ち出すことが大切ではないかと思います。長期的に50年、100年先を見ると、日本は人口が6000万人、7000万人に減っていきます。限りなく経済は縮小しますが、グリーンエコノミーとして木や本物の良さの中で経済を作り上げていけば、日本は世界に誇れる社会構造を作ることになるのではないか。その最初の一歩が、これからみなさんと一緒にやっていくオリンピックに木を盛り込んでいくことではないかと思います。

山側の人たちはとても苦労して木を植え大きくしてきましたが、大きくなった頃に衰退というどん底にあります。その中の多くは技術論、あるいは精神論といったものを木づかいの中に盛り込んでいく、そういうひとつの新しいスタートラインという位置づけで今後どんどん進めていき、さらにその先に向けて進んで行く必要があるのではないかと思います。どうもありがとうございました。