『2020年へ向かう、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム』~デザインと異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい~

主催/(公社)国土緑化推進機構、美しい森林づくり全国推進会議
共催/経団連自然保護協議会、(一社)日本プロジェクト産業協議会、(特)活木活木森ネットワーク
後援/林野庁

 

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我が国でオリンピック・パラリンピック大会が開催される2020年は、気候変動枠組み条約に基づく京都議定書第2約束期間及び生物多様性条約に基づく愛知目標の最終年です。

このため、国土の約7割という世界でもトップクラスの豊かな森林を有し、古くから「木の文化」を育んできた我が国が、2020年という節目の年に、森と木を活かした「グリーン・エコノミー」の創出による持続可能な社会づくりを発信すれば、内外の大きな注目が集めるものと考えられます。

近年、森林・林業分野においては、多様な行政施策が展開されるとともに、幅広い業種の民間企業等が国産材の活用への関心を高めており、新たな技術の開発やデザインを生み出すことにより、森と木を活かした多様なライフスタイルが提案されています。

そこで、デザインや異業種との連携の視点から、森と木を活かした新たな商品・サービスに関する最前線の取組を紹介しつつ、2020年に日本から世界に発信することが期待される、森と木を活かした「グリーンエコノミー」の展望と課題について議論するシンポジウムを開催しました。

開会挨拶

宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)

末松 広行 (林野庁 林政部長)

基調講演

「新時代の森と木を活かすエコプロダクツ ~グッドデザイン賞等を事例に」

益田 文和 (東京造形大学教授、(公財)日本デザイン振興会理事、(株)オープンハウス 代表取締役、エコプロダクツ2013「エコ&デザインブース大賞」審査員)

「感性価値デザインと新時代の森と木を活かすデザイン~キッズデザイン賞等を事例に」

赤池 学 (科学技術ジャーナリスト、(株)ユニバーサルデザイン総合研究所代表、(特)キッズデザイン協議会 キッズデザイン賞 審査委員長)

話題提供

「経済界と森林・林業・木材業界の連携で生み出す「グリーンエコノミー」~「林業復活・森林再生を推進する国民会議」の立ち上げ~」

高藪 裕三 ((一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC 専務理事)

「木のやすらぎと、森のめぐみを、次の世代へ ~国産認証材を活用した都会を中心とする木づかい促進」

赤間 哲 (三井物産(株) 環境・社会貢献部 社有林・環境基金室 室長)

パネルディスカッション

「2020年に向かう、森と木を活かす「グリーンエコノミー」の展望~デザイン&異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい~

<モデレーター>

宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)

<パネリスト>

益田 文和、赤池 学、門脇 直哉((一社)日本プロジェクト産業協議会 常務理事)、赤間 哲、末松 広行(林野庁 林政部長)

開会挨拶

宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)

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本日は、私どものシンポジウムにお越しいただきありがとうございます。今年は式年祭と遷宮が一緒に行われる60年に一度の年でした。それに合わせるかのように世の中でも木のブームが進んでいるような気がしています。

折しもリオ+20ではグリーンエコノミーというキーワードを掲げています。それを受けて、我々は次の世代をどう構築していくかという大きな課題を自らに課しました。

森林、林業、林産業については厳しい状況にあるとはいえ、この追い風に向かって大きく展開していく必要があります。「美しい森づくり」も立ち上げて10年近くが経ちますが、皆様のご協力により個人メンバー、フォレストサポーターズは4万人を超えて、ますます関心が高まっています。

本日は、テーマにあるように、グリーンエコノミーの大きなテーマの一つである木を使う社会に向かって、特に国産材等の利用の仕方、デザインの作り方、それを浸透させる社会の作り方といったところで議論をさせてもらえればと思っています。

本日最初は、東京造形大学の益田教授に基調講演をいただき、その後、環境デザイン等でデザインを中心に人間の行動までデザインしていく赤池さん、JAPICの高藪さん、さらには経団連等の皆様、最終的には三井物産の赤間さんからご報告をいただきながらパネルディスカッションへと移ってまいりたいと思います。

その中で、林野庁から末松広行林政部長に登場いただき、全体構造でグリーンエコノミーという社会やそれに向かう森林林業のありようを議論できればと思っています。忌憚のないご意見をいただきながら一緒に考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

末松 広行 (林野庁 林政部長)

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皆様、こんにちは。林政部長の末松です。林政部長になって4年目になりましたが、森林林業の仕事は皆様のご協力をもって少しずつ動きが出てきています。もとから日本は国土の7割が森林という国で、我々の7割の森は昔から豊かな森だったわけではなく、戦後、先輩方が植えて育ててきたという歴史があります。その森の木が今、使える時期になってきました。それをどう活かすかが鍵であり、2020年に向けて我々に何ができるかということを考える時なのだと思います。

先ほど、来年の5月から林業に関係する映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』が公開されますが、『ウォーターボーイズ』『スイングガール』などを手がけた矢口史靖監督と私どもの皆川芳嗣次官と対談をしていたのですが、今年、来年は、林業というもののイメージが変わりつつあるきっかけになる年なのではないかと思っています。

いろいろな数字を見ても変わってきたことがあります。たとえば、去年と今年で見ると、伐採量は1割くらい増えています。厳しい状況の中、合理化を進めながらきちんと世の中で材が出るようになってきました。

価格も昨年や一昨年は、伐採量を増やすとその分価格が暴落するという傾向があったのですが、今年は堅調に推移しています。なぜか考えると、今はやはり需要が引っ張ってくれているからだと思います。
日本には豊かな森があり、伐る木がたくさんありますが、ただ伐れば黙っていても使ってくれるという考えは間違いです。しかし、木の良さをきちんと生かしていろいろなところで新しい使い方や素敵なデザインで使おうという努力がされると少しずつ良くなっていく。そういう芽が出始めているのではないかと感じました。

高齢化の進む林業、農業といわれますが、この5年間で林業の従事者の平均年齢は下がっています。私たちが「高齢化が進んでいる」と焦っている間に、新しい時代に向けて動き出す人が出てきていることの現れだと思っています。今はこうした新しい動きを伸ばす時期ではないかと思っています。

何よりも大切なのが、需要の側に使ってもらいたいもの、本当に役に立つもの、素敵なデザインなどです。こうした部分で各民間企業の活発な取り組みが大切ですし、今後はそれがビジネスにもなっていくのではないかと思っています。本日のシンポジウムは、本当に良いタイミングで良いお話が聞けるのではないかと思い、私も楽しみにしています。

また、この場を借りてお知らせしますが、エコプロダクツ展のエントランスの環境コミュニケーションステージやお休み処を木質化するということで木をふんだんに使っています。前年よりも癒しの空間が演出できているかと思います。ぜひ見ていただいて、こうした会場に木があることのプラスの効果を感じていただければと思います。

本日のシンポジウムの成功と皆様のますますのご発展を祈念して挨拶に代えさせていただきます。ありがとうございました。

基調講演

新時代の森と木を活かすエコプロダクツ ~グッドデザイン賞等を事例に

益田 文和 (東京造形大学教授、(公財)日本デザイン振興会理事、(株)オープンハウス 代表取締役、エコプロダクツ2013「エコ&デザインブース大賞」審査員)

こんにちは、益田です。私はずっとデザインをしていまして、1950年代にできたグッドデザインという制度の審査を20年以上にわたって行ってきました。主催者団体である公益財団法人日本デザイン振興会の理事をしています。グッドデザインをとっている商品の中に木を生かしたものがたくさんあります。今日はそれをご紹介しながら、木とデザインについて考えられればと思います。

エコプロダクツ展は1999年に始まりましたが、その準備段階からお手伝いしてきて、毎年どんどん大きくなっていくのを見てきました。一時期、2000年半ば頃、毎年入場者数が増えて派手になっていく会場の様子を見ていて、「何かおかしいのではないか」と感じるようになりました。ギフトショーかモーターショーかのようになり、ブースは撤去の際ものすごいゴミの山になります。「なんとかならないだろうか」と思っていたところ、ブースのデザインコンペが始まりエコデザインブースの審査も何年か行っていますが、今年もその審査会で大変困っています。今年ばかりは急に木がたくさん使われていて、どちらがいいのかよくわからない状態です。ありがたい悲鳴で、他の展示会とは違う雰囲気が出てくればそれに越したことはありません。

今日はたくさん事例を持ってきています。一つひとつの商品は20分くらい話しても話しきれないほどにストーリーがあるのですが、時間もありませんので、さっと流してたくさん見ていただくようにしたいと思います。

最初は、ロングライフデザイン賞というグッドデザインの中でも特別な賞で、10年以上モデルチェンジをしないで作り続けられてきたデザインを表彰するという制度です。そこで今年賞を取った、秋田木工さんのイスです。これがなんと、累計で120万脚以上売れているといいます。これは小さなスツールですが、重さにして5kgと勘定しても、120万脚も売れると6000トンなどという膨大な数字になります。小さな製品であっても工業製品は数が出ますので、それが需要を牽引するということは十分あり得るという実例だと思います。

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最近は、そのまま木を使うというよりは様々な加工をしたり素材として活かすところも増えてきています。グッドデザインでも、そうした建材や素材に対してもデザイン賞を出しています。これは、木質のチップを練りこんだサイディングです。CO2の固定化としても効果があります。

あるいは、物理的におもしろい実験的な取り組みをしている製品もたくさんあります。これは、薄いシラカバの間伐材の間に発泡剤を挟んでいて、フレシキブルに曲げることができます。クッション性があり、曲がり方も滑らかで感触もいいこと、デザイン的にも非常にシンプルで美しい波型のフォルムが作れるということで評価されています。

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表から見えないというものもあります。一見すると金属のフレームに布が巻いてあるだけに見えますが、なかに仕掛けがあり、新しく開発された木のチップを特殊加工した防湿防臭剤が入っています。これによって室内環境を整えていくという製品です。この場合、木は黒子として存在して機能しています。こういうものも量的にはバカにならない量が出てくる可能性がありますので、気がついたらあらゆるオフィスや病院などに入ってくることも考えられます。

もうひとつ、最近の傾向として、建材のサッシ部分でアルミと木質とのハイブリッドが増えています。人の目に触れ体に触れる部分には木を使い、アルミの機能性部材を包み込むようにしている製品です。これはヒノキの集成材を使っています。

もう少し木をたくさん使うという意味で期待できるのは、2×4の耐火建築工法です。ご存知のように、木質の住宅は都市部には消防の関係もあって使いづらいのですが、それに対して特殊な素材・構造・工法を工夫して耐火構造を実現したものです。都市の中に木造の多層階の建築を作ることも可能になってくるということです。

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細かいところでは、木造建築の耐震構造を確保するダンパーの役割をするものを、こうした仕口でうまく作ることも可能です。

パネルも、木のパネルだけでは構造的なデメリットがありますので、それを鋼材とハイブリッドで使う新しい提案が次々に生まれています。これは鉄のフレームに木のパネルを仕込んでいます。うまく使うと、鉄骨の建物の要所要所で木があらわれてくるという使い方で耐震性も高まるのではないかと思います。

この建築の提案は少し趣旨が違ってきて、その土地の木を使う。昔は当然そうでしたが、最近では輸入材に勢いがあるのでどこの木かわからないものを木造建築に使っていますが、これはその土地の環境下で育った木を使って建築することに特化しているデザインです。欧米などではずいぶん進んでいることで、エコロジーデザインをしながら土地の風土に合った材を使い、環境に溶け込むことでデザイン的にも優れたものになっていくということを当然のこととして行っています。日本でもそれをやっていこうという話です。

これは近い例で、トイレです。四国八十八ヶ所のお寺の一つに建っているトイレで、3つの個室をバラバラに建てています。その土地のヒノキを使ったパネル構造です。風景にマッチした、でしゃばらないデザインで評価されています。

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もっと小さなものもあります。このあたりは伝統工芸の定番のひとつですが、秋田の曲げわっぱです。曲げわっぱは杉の柾目を使いますが、もともとは間伐材の利用から始まっています。林業のおこぼれをちょうだいしながら、すばらしいデザインをつくり、今も続いています。

少しトリッキーな使われ方としては、床材は今、本物の木かどうかわからないような状態で様々な製品が作られていますが、これはスギの合板を芯にして表面に栗の木を貼ることで栗の板のように見せているものです。こうすることで機能的にも両方の良さが出て、狂いのない床材で、風合いや見た目は栗のような落ち着いた感触のものができあがります。

日本はスギが非常に多いのですが、これはエンツォ・マーリというイタリアの我々の大先輩のデザイナーがデザインしたイスです。スギを使うと家具はなかなか難しく避けられてしまうのですが、デザイナーはふんだんにあるスギがなかなか家具にならないという悩みを抱えてきたなか、これはスギに圧力と熱をかけて容積を小さく密度を高めています。そうすることで狂いが少なく扱いやすい素材ができます。それを使ってのチャレンジです。エンツォ・マーリ氏に言わせれば「スギの節は美しさだ」ということで、「尊重されてしかるべきものだ」とデザインに取り入れていると言っています。

ここに少しおもしろいことが書いてあります。スギの学名はクリプトメリアジャポニカというようですが、「日本の隠された財産」という意味だそうです。なかなかうまいことを言うなと思います。

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これは、高知の馬路村という山奥で作った、スギの間伐材を薄く桂剥きのように剥いたものを積層して、薄いけれども丈夫な合板です。その過程でプレスをかけ、柔らかく形成していくと、このようなバッグができてしまいます。一見木なので重そうに見えますが、とても軽いバッグです。デザイナーが3年ほど山の中で試行錯誤して作ったもので雑誌の表紙にもなっていますが、世界中のミュージアムショップで販売されています。間伐材からできた商品です。

同じように間伐材を使って食器を作ることもできます。木のお皿というのは以前からあり、半分使い捨てといいますが、10回ほど使っているとボロボロになっておもしろいのですが、やがて捨てることになります。これをもう少し長く使おうということで、2種類の木をあわせて作っています。

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木そのもののデザインではありませんが、ペレットストーブのように工業製品を作る時に木を使うことを前提にしてデザインしているものもあります。その使い勝手がよかったり、機能的であったり、インテリアに合ったものであったりということで、たとえば木質のペレットがどんどん消費されていくということもあるでしょう。

最近グッドデザインでは、製品だけでなく仕組みに対しても賞を出しています。これなどは、山梨県の材と不動産会社のコラボレーションで木を使っていこうという仕組みづくりで受賞しています。産地とそれを使う現場、消費地が直接結びつくことによって適切な供給がなされる、あるいは需要が喚起されるようなことが起きてくるという仕組みづくりは、今後、木を活用していく際には必要なのではないかと思います。

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子どもの頃から木に触れることはとても重要なことで、これは国産のブナの曲げ木を使った子ども用自転車です。足で蹴ってバランスを育てる遊具です。

森には木ばかりではなく、特に日本は竹もたくさんあります。ただ邪魔だから伐ってしまえというのではなく活用しようということで、竹の弾性をうまく使ったデザインで、ビニールハウスに使用しています。組立式で、軽くて、非常に気持ちのいい空間ができます。このように竹を使っていけば、日本の昔のものづくりである竹細工も復活してくるように思います。

このあたりからは、製品ではなく森を活用することに対するグッドデザインが授与された例です。森の幼稚園です。智頭町という鳥取県のスギで有名な産地の幼稚園で、せっかくあるすばらしい森という自然を子どもたちの遊び場として使おうということで、園舎がありません。子どもたちは毎日外で遊び、それを先生方がうまく誘導していくというユニークな活動です。

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これは、お弁当そのものにグッドデザイン賞が出ています。「きこりめし」というネーミングがよく、新聞をくるくると無造作にまいていますが、そこには「いま、森を見よ。」というような記事があります。なかを開けると、ゴボウを丸太に見立ててのこで引きながら食べるという楽しみのあるお弁当です。こんなものも喜ばれる時代になっています。

これは森の牛乳です。乳牛からとった牛乳ですが、森林で牛を育てる森林酪農で最近各地で始められています。

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この会社も、那須のほうで森の中に牛を放し、元気に育てています。その牛乳です。非常に味の濃いおいしい牛乳がとれます。それを素敵な瓶に詰めて東京まで運ぶとたちまち売れてしまうということで、一時期は東京のデパートで行列ができていました。森を使いながら全く違う製品ができているという例です。

日本のデザイナーは木が大好きで、昔から木をよく使います。ともすると木なら何でもいいというくらい木が好きなものですから、どこの木だか頓着せずに使ってきていたところもあります。一時期は木のように見せることがずいぶん流行って、木目のエアコンやテレビが登場しました。木ではない木目がたくさん出回った時期が日本にもありました。そのくらい木が好きなわけです。私もデザインを始めた頃、一生懸命木目を手で描いていた時代がありました。今はデザイナーも少し賢くなり、何より消費者が賢くなっていますから、どこの木で、何の木で、それを使うことにどういう意味があるのかということを気にするようになっています。とてもいいことだと思います。

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これは、インドネシアの例です。グッドデザイン賞を受賞しています。少し前ですが、木の製品群です。私が最も尊敬する仲間のひとりで、Singgih Kartonoというインドネシアのデザイナーがやっている仕事です。インドネシアのジャワ島のすばらしい景色のなかにあるスンビン山の木がどんどん切られてしまいました。切ったあとに木を植えないでタバコを植えてしまうのです。タバコはすぐにお金になるので手っ取り早いからです。そうなると森はもう蘇ってきません。

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それに対して彼がしてきたことは、自分で工場を作り、その横に苗床を作り、そこで将来自分が製品に使いたい木の苗を植えて育てるのです。ある程度育つと、これを村人たちにタダで分けてしまいます。その中には木のほかにバナナやマンゴー、コーヒーなどいろいろなものが入っています。それをアソートしてあげると、彼らはそれを森に植えることができます。育っていくと熱帯雨林が再生していくことになります。これは10年くらい経った森ですが、背の高い木と低い木が一緒になって育つ。これが熱帯雨林の基本的な形だそうです。背の低い木には食べられる実がなります。それを求めて鳥も来るなど、さまざまな動物が戻り生態系が蘇ってきます。それをじっくり時間をかけて仕込んでいます。すばらしい環境です。

隣の森は単一樹種の人工林です。日本でも同じですが、ここで建材を育て、言ってみれば工場のような森です。ここには生態系は戻ってきません。

成長して使えるようになると今度はお金を払って村人から材を買い取ります。村人にしてみれば、タダで分けてもらったものを植えておくだけで、時々コーヒーが飲めたり、マンゴーが食べられたりしつつ、気がついたら材としてお金が入るというとてもいい話です。Singgihはそれを使って自分のところで製品を作っています。

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みんなマスクをしています。Singgihは製品のつくり方を全て日本から学んでいます。日本の生産技術、品質管理などを勉強して自分のデザインを形にしています。雇っているのは村人たちです。彼のプロジェクトは、雇用の創出と同時に村のコミュニティーの自活・自立をしつつ、自分の製品をつくっているわけです。その循環の中で出来上がった商品が世界中で販売されています。当然、売れることによって森が蘇ることに直結します。

ものづくりのひとつのとても良い答えではないかと私は思っています。木を植えること、育てること、伐ること、製材することは別の工程で別の仕事のように見えますが、結局それを何に使うかという目的があり、つながり、我々の自然環境をきちんと育んでいくという構造ができれば、日本も隠れた宝を活かせる時代が来るのだろうと思います。彼は今後、コーヒーそのものも商品化しようと考えているようです。

これら事例を紹介して、私の話を終わりたいと思います。ありがとうございました。

感性価値デザインと新時代の森と木を活かすデザイン ~キッズデザイン賞等を事例に

赤池  学(科学技術ジャーナリスト、㈱ユニバーサルデザイン総合研究所代表、(特)キッズデザイン協議会 キッズデザイン賞 審査委員長)

ご紹介いただきました、赤池と申します。前段でお話しされた益田先生はデザイン界の大先輩なので、同じような趣旨の話もいくつかあろうかと思います。僕はデザインと木の可能性のなかでも、子ども視点で見た時にどういう可能性があるのかということをいくつかの事例を交えてご紹介させていただきたいと思います。

私どもはユニバーサルデザインをテーマに1996年から、家電メーカーさん、自動車メーカーさん、住宅メーカーさんと、皆が使いやすく暮らしやすいものづくりやまちづくりを考えてきました。

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これは、ユニバーサルデザイン開発のコンサルを行う時のベースとなるキーワード資料です。見ていただきたいのは6番目のサスティナビリティ、持続可能性のデザインです。ユニバーサルデザインは共用品開発と訳されますが、であるならば、次代のユーザーとなってくれるであろう子どもたちや、さらに言えば、まだ見ぬ未来の子孫たちとも共用できるように作らなければいけないものです。今まではユニバーサルデザインとエコデザインは別の文脈の中で語られてきましたが、実はUDにおいてサスティナビリティ、環境対応ということは外せない重要な要件なのです。

これから様々な木製品を含めた製品作りを行う際、どういう価値開発を意図して行うべきかということを、4つのウエアで整理しました。

今までのものづくりは、ハードウエア・技術を始発駅に、「この新しい技術を商品に展開していけば、従来にない機能や他社にない使い勝手を生み出せるだろう」という発想で、ハードウエアとソフトウエアのプランニングとデザイニングを通じていろいろな製品が作られてきました。

しかし、特に家電などはわかりやすいと思いますが、お隣韓国のサムスン製の家電や携帯電話の機能は日本の技術を真似していますから大差はなく、値段はあちらが安く、デザインは日本以上に韓国は力を入れています。そうすると、機能、品質、使い勝手だけでは他国のものづくりと戦っていくことはできないと感じ、2つの新しい価値を以前から提案してきました。

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一つ目が、センスウエア。五感と愛着に基づく製品です。五感と心に訴えかける価値というものを、機能とは別に作り込むことはできないかという提案です。具体的には、「この製品の開発の仕方に共感した」とか、「見たこともない新しい発想で作られた商品を見て感動した」などという価値は、あまりコストをかけずともクリエイターやメーカーの心根や愛、感性で生み出すことができます。

さらにソーシャルウェア。日本の森を守るための間伐材を多用していくこと自体が公益としての品質をもっているのですが、これは、2011年にハーバー大学のマイケル・ポーター教授がクリエイティング・シェアード・バリュー(CSV)という考え方に通じます。事業益と公益を両立させている開発・投資を行わない企業には持続性がないという提起です。

機能もあり使い勝手もいい、何か愛を感じ、新しい木づかいの文化などが商品開発によって生まれてくるような循環を意識して、それを螺旋的に高度化させていくことが木製品開発を含めたものづくりの王道だと思っています。

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別の言い方をすると、ハードウエアはものづくりです。ソフトウエアは見せづくりです。店舗ではなく、世の中に対する見せ方をつくるということです。感性というのは人間に宿っていますので、人づくりを行う。具体的には、いろいろな事業者やデザイナー、クリエイターと連携して生み出されたものに対しては、一人ひとりが親派になってくれる、あるいはネットを通じて広告等になってくれる、ものを通じてアピールしてくれる人、買ってくれる消費者と一緒に作ることができるのです。それがコト作りにも開いています。新しい木づかいの文化や新しい習慣のようなものが、木製品開発を通じて行えるようなストーリーを作っていってはどうかということです。

私は、ものづくりの様々なコンサルをしてきました。その中で益田先生も重要なキッズデザイン協議会の審査員メンバーですが、10年ほど前に経産省に、「キッズデザインという考え方を普及浸透させてくれ」という提案を私どもで行いました。

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キッズデザインは子どものための遊具や玩具デザインを考える賞ではありません。この考え方を提案した当時、六本木ヒルズの回転ドアで男の子が頭を挟んで亡くなってしまったり、事務機器であるシュレッダーに4歳の女の子が指を入れてしまい4本の指をはねきってしまうといった、子どもがユーザーではない商品や施設で子どもたちが重篤な事故の被害者になっていました。こういうことを解決するものづくりや施設づくりを行って欲しいということが、キッズデザインのミッションなのです。子ども目線、子ども基準で安心安全に作っていく。子どもの創造性の開拓に貢献する。あるいは子どもを産み育てやすい環境づくりを支援していくような、3つの目線で様々なものを開発していく。そのモデルとなる商品や施設を検証する目的で、キッズデザイン賞の運営を行ってきました。

もうひとつ、キッズデザイン協議会が発足以来行っていることは、大手の小児病院の医師と組んでの子どもの事故調査です。

僕は言い出しっぺでしたが、子どもの死亡原因は小児がんだとばかり思っていました。未就学児童について具体的に言うと、死亡原因の第1位は住宅からの転落事故です。第2位は住居内での転倒事故。第3位はやけど。第4位はキャップなどを誤って飲み込んでしまう誤飲による窒息。第5位が交通事故。第6位になってようやく小児がんが出てきます。日本の幼い子どもたちの死亡原因の第2位が住居内の転倒事故であるなら、木のクッション性を活かしていく。先ほど、発泡剤と木を使ったパネルの紹介がありましたが、あのような発想をフロア材に持ち込むだけで、こうした重篤な事故が軽減できます。そうした木づかいの提案をマーケットに対して広めていくこともできるのではないかと思っています。

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これもまた益田先生が整理してくださった、キッズデザインと他のデザインとの関係ですが、子ども目線や次世代目線でものを作っていくと、サスティナブルデザインやエコデザインにも広がってきます。社会の最弱者の目線でキッズデザインをかけていけば、軽度の障害を持つ方やお年寄りにも使いやすいモノや施設ができあがっていきます。子どもを大切にするカルチャーを作っていくことが、実はソーシャルデザインという社会そのもののデザインにもつながっていくのだと思っています。

先ほどお話したように、安心、安全、創造性と未来をひらく、産み育てやすいデザインという3つの視点から、これまでいろいろな商品や施設をKDマークとして選んできました。

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これは、バランス感覚を学ばせるための木製の積み木です。感性、価値、機能という話をしましたが、単なるゲームや遊具ではなく、麻雀でいうとドラのほかにイーハン、リャンハンも付けてあげないと、話題にもならないし売れません。

あるいは同じ木質遊具で、左下に「KUNDE(クンデ)」というものがあります。在来の軸組工法を積み木のようにトンカチで叩きながら学んでいくというものですが、子どもたちだけでなく建築を学んでいる学生などに、高価格な遊具でありながら売れているという事例です。

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これは、静岡市市の事業としていろいろなクリエイターとコラボレーションで商品を開発した事例です。中心に、バランス感覚を学べるブロックと同じような積み木がありますが、これは全て香木です。香りを積むというコンセプトで開発されたもので、1万円以上する高額な積み木ですが非常によく売れています。

もうひとつ、この安倍川もちは4個しか入っていませんが、1600円という高価ですが、とてもよく売れています。キリの箱ではなくてもいいのです。スギだってヒノキの箱だって、少しデザインをかけていくと魅力あるパッケージを作ることもできます。

お雛様は男雛、女雛の2体しか入っていませんが、テキスタイルや飾り金具が最先端の職人さんの技術でつくってあり30万円ほどするのですが、これらが全部木箱の裏に道具類が簡便に収納できるようなデザインにしてあります。

このプロジェクトが契機となって、今はお雛様業界では木質の収納型のお雛様が各産地で作られるようになってきました。

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これもご紹介しましょう。麻雀でもうイーハン、リャーハンつけなければいけないと言いましたが、こちらは青森県の木工連に所属している事業者に対して僕から3年前に「メディカルトイというコンセプトで木製品を作ってみないか」と持ちかけて、今、いろいろな開発が進んでいます。

メディカルトイは医療玩具です。弘前大学の医学部の先生方や青森県の保健医療大学の先生方とプロジェクトを各企業が組んで、こういう科学的理由から子どもの知育に貢献する、子どもの福祉にいいとか、リハビリに具体的にどう効いていくのかということを、大学の先生方とエビデンスをきちんとつけた形で機能性の木製品を作っていこうというプロジェクトで、いろいろな木製品が生み出されてきています。

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先ほども益田先生からいろいろな施設の紹介がありましたが、これもキッズデザイン賞の経済産業大臣賞を受賞した有名な「ふじようちえん」です。木製のドーナツ型の屋上が特長です。木材は子どもが遊んでも安全ですし、屋上の巨大な木質のドーナツから子どもたちをモニタリングすることもできます。新しい機能を持った、木を多用した幼稚園として非常に有名です。今はふじようちえんに学ぶ、木を多用する幼稚園、保育園、子ども園も全国に増え始めています。山側にデザイナーや建築家が入っていくと、地域の材を使った木製のチャーミングなキッズデザイン施設を様々に生み出していくことができると思っています。

そうした中で例えば、子どもたちとバーベキューパーティーやガーデンパーティーができるエクステリアの木質デッキは、私たちデザイナーや建築家が使いやすい、高い耐久性や耐候性に富んでいる木材商品の数が非常に少ない。こういうところに少しだけ研究開発投資をする、前段のメディカルトイのように、地域のしかるべき先生方とコラボレーションをして屋外でも使いやすい木製品をデザインと含めて提案していくと、大手のビルダーさんなども確実に興味を持つだろうと確信しています。

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私も、木のことに問題意識を持つようになってから、いろいろなエコハウスの開発、最近ではスマートハウスのプロデュースなどに関わってきて、洞爺湖サミットの際には日本の環境技術を駆使したゼロエミッションハウスのプロデューサーも努めました。

これは、ワラ床の畳ではありません。ヒノキの製材時に出てくる廃材のチップを床にして作った畳です。香りも良く、精油の成分が天然の防虫防菌効果をもっていますので、かつての防虫畳のような有機リン系の農薬を染み込ませてシックハウスを起こすようなことはありません。地域の木材とつながる畳のようなものも開発は可能です。岐阜県のメーカーが開発したものですが、東日本ハウスさんをはじめとして多くの木質系住宅の畳としてヒノキの健康畳が使われるようになっています。

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これは2008年にリクシルさんから依頼を受けて作ったエコハウスです。不安定な太陽光発電の電力を、カーポートにとめているEVの車載バッテリーに貯めてしまってはどうかということを提案して、これがスマートハウスの業界のスタンダードになってきました。実はこの建物の中にも木材を多用しています。また、リビングは日本の古民家にあったたたきの土間で、素材はセラミック製の建材です。木質フロアも、新しいデザイン発想を持ち込んだ建材を使っています。西北プライウッドさんなどが作っている積層のLVLの構造材を、小口側に切ってパーケットにしたものです。デザイナーにとって、商業施設に木質のフロア材を入れようとすると木目がうるさくて使いづらい。これはずっと前から問題意識を持っていて、重ねて小口ができるとストライプの建材ができるのではないか、もしかすると強度も上がるのではないかと思い調べてみたら、間違いなく強度も上がってきました。

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これは、そのあと横浜で開かれたAPECの政府展示フロア材や展示材に使わせていただき、それがアピールになって今、イオンモールさんやスターバックスさんのアンテナ店舗が「FOREST PARQUET」を導入するような流れができてきました。

先ほどの家にはもう一つ、庭を入れました。エクステリアのデッキ材の話をしましたが、これは涼やかな空気が坪庭や菜園を通じてどう煙突効果で抜けていくかということをコンピューターで徹底的にシュミレーションした位置と大きさに、庭そのものをシステム配列した住宅です。こうした庭がシステマチックに組み付いています。

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例えば1つの坪庭に130万円もする常滑焼の露天風呂を標準仕様で入れました。最初、リクシル住建の社長が「いまどきプラス130万円の露天風呂などに反応するお客様はいないよ」と言われていたのですが、「感性価値の話をしたでしょう。こういうものに反応するお客様もいるかもしれませんよ。いらないというなら外してしまえばいいだけなので、モデルハウスには全部これをいれてください」とお願いして売り始めましたら、おかげさまで2年間で600棟くらい売れてしまいました。

繰り返しですが、新しい発想の感性価値に富んだ住宅の中に木を使おうとしたとき、品質や機能性の部分でまだ課題がある。そういうところにいち早く切り込んでいくことが重要だと思っています。

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これは2年前のモーターショーです。おそらくニュースで見た方もいると思いますが、「命も車も集う家」というコンセプトで、庭でもない、インテリアとしての住宅でもない、ミッドテリアという中間領域における住居の可能性を車とともにメッセージしたものです。モーター史上初めて生きている本物の馬を飼ったり、実際に公道を走れる木製の電気自動車を作ったり、木場に住んでいる船大工の佐野末四郎さんの作った木製の自転車も導入しました。ご存知の方も多いと思いますが、値段は300万円以上しますが、今は大人気で2年待ちくらいになっています。これがその時の写真です。

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もう一つ。建材や屋外のエクステリア材の話をしましたが、これはリクシルさんが最近リリースした門型、枠型の木質ラーメンフレーム構造です。これまでも住友林業さんや竹中さんなども持っていましたが、基礎にとてもお金がかかります。この新しい発想のリクシルさんの門型フレーム工法は、2階、3階部分に接ぐモジュールは1階部分と変えてみればいいのではないかということで、荷重、耐力の問題を解決した上で、基礎にお金のかからない、それでいて柱のまったくない大空間の木質建築工法を開発されました。

今、アメリカの住宅のほとんどは、近隣や仲間たちとパーティーができる木質仕上げのセレモリアルスペースと呼ぶ大空間を南面に持っていっています。そこで子どもたちを交えてパーティーをするようなライフスタイルを提案する家が、とてもヒットしているのです。

構造材のような部分に、国産材をいかに合理的、科学的に使っていくことができるか。この領域についてもまだまだビジネスとしての可能性があると思っています。

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これはまたユニークな例です。岩手県の遠野は馬付き住宅のプロジェクトを立ち上げています。震災で一時期フリーズしてしまい、当時の仲間たちがまたプロジェクトを起こし始めていますが、地元材を多用した戸建て住宅を一棟買い求めていただくと、もれなく一棟乗馬馬がついているというものです。家を買うと本当に馬がついてきてしまうというビジネスモデルです。冗談かと思ったのですが、震災前に10組くらい買っているのです。地元東北の方が買っているのかと思うと全く違い、高学歴、高所得で30代の子育て世代の東京に住んでいる人がIターンで、「こういう環境で子どもを育てたい」「馬ともかかわりたい」ということで買っているのです。もちろん、馬の世話など普通の人はできません。そこはきちんとメンテナンスセンターを持っていて、観光乗馬の機能を持っているので、この馬に観光客が乗って落としたお金を馬付き住宅の住人たちにフィードバックされるようなマネーシステムまでデザインされていました。

さらに、この地方の間伐は馬搬(ばはん)と呼ばれる、馬が山から木を引っ張ってくる伝統技術を行っています。今はホースロギングウッドといって、「この材は馬搬によって引き下ろされたものです」という馬搬認証の地域材を付加価値にしながら木質の戸建住宅をセールしようと動き出しています。

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もうひとつ、今度は木そのものの話です。これは2000年からエコロジストのジョン・ギャスライトさんと一緒に様々な接木を使って、ベンチや東屋などを作っていこうというプロジェクトです。サクラの苗木を接木してベンチを作っていくと、3年後には大人が座れるようになり、6~7年後の春にはサクラの花が咲く、生きている木のベンチができてくるというものです。

日本の間伐材などを多用している住宅メーカーさんが、接木で作った庭に置くベンチのようなものを提案していく、家族とともに木のベンチが育っていく、そういうことが木の持つ価値を子どもたちを含めて施主たちとコミュニケーションしていくというビジネスモデルに組み付けるだけで、単なる接木も住宅メーカーにとってのビジネスモデルになりうるだろうと思っています。

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同じ、ジョン・ギャスライトさんと2001年に、ツリークライミングジャパンという、木登りを通じて環境学習をするNPOを立ち上げました。大変フォトジェニックなのでテレビや新聞でもたくさん紹介していただき、企業系の寄付金もお陰様で潤沢に集まってきています。木に登りながら、植物のこと、木のこと、鳥のこと、虫のことを学ばせるのですが、きちんと地域の山作りがどのように行われているかという山作りをする人たちとの学習プログラムもツリークライミングでは持っています。こういうイベントとあわせて森の価値を啓発していくプロジェクトなどにも、まだいろいろな方法があろうかと思います。

これは東北大の事例です。震災以降、東北大学は今、10代から90代までの世代がどういう強い欲求を持っているかということを調査し続けています。実は10代から90代までのすべての世代が「一番大切なものは自然だ」と言っています。2つ目は「楽しみ方」です。3つ目は「社会と一体。コミュニティーへの参画」です。4番目は、90歳のおばあちゃんまでが未だに「自己実現や自分成長したい」というパーソナルグロースを希望しています。こういうニーズが潜在的にあるのであれば、この領域の商品開発に力を入れていく。そういう意味で僕は、木に対するニーズは潜在的趣向性が明らかになった今、これから新しいマーケットを作っていくことができると思っています。

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例えばこれは、商店街を仮想的にデザインし直したものです。「右側の土地と左側の土地、右側の商店街と左側の商店街のどちらがいいですか」ということを、スイス近自然学研究所の代表を務めている日本人の山脇正俊さんが世界中の人たちに見せたそうです。山岳チベットの少数民族からアフリカの原住民など、RGの建物を見たことがない人たちも皆、右がいいと言うそうです。「左側がいいと言った地球人に会ったことがない」とも言っていました。やはり皆、こういう環境を求めているわけです。金属と樹脂のアーケードだけでなく、木を多用したルーフシステムや屋外のアウトドア用の木質什器や家具などですね。オープンカフェ条例のようなものもいろいろな自治体と作り始めていますが、こうした町並みを形成させる際も木はいろいろな形で使っていくことができると思っています。

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僕らの研究所は、20世紀までの社会を自動化社会と捉えています。非常に利便的で効率的な社会。でも、環境破壊を含めた負の遺産をためてしまったので、それとは違った社会モデルを考えようということで、ついこの間まで、最適化社会という呼び方ができるような社会モデルを作ってきたと思います。しかし震災を受け、結局政府も有識者もエネルギーの最適な構成比について科学的・論理的な根拠を一切持っていないということを日本人が皆知ってしまいました。あの瞬間に最適化社会は崩壊したと思っています。これからは、情報技術の成熟を背景に、個人も企業も地方自治体も自ら計画して行動していくようなアクションが間違いなく台頭してくると思っています。さらにそのフロント集団は、そもそも知的に導入展開すればコストのほとんどかからない生態系サービスをまちづくりに取り入れて始めています。自然のメカニズムや自然素材をものづくりに展開していくような事業者が既にたくさん出始めていますが、さらに出てくると思っています。自律化社会、自然化社会という大きな社会進化の中で、多様な領域で木を使う文化や技術がますます広がっていくだろうと確信しています。

お集まりの皆様、木づかいのためにそれぞれの専門を活かして、このムーブメントを大きく広げていただければと思います。ご清聴ありがとうございました。

話題提供

経済界と森林・林業・木材業界の連携で生み出す「グリーンエコノミー」 ~「林業復活・森林再生を推進する国民会議」の立ち上げ~

高藪 裕三((一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC 専務理事)

ご紹介いただきました、JAPICの高藪です。あまり名の知れない団体ですのでご存知でない方も多いと思いますが、創立35年を迎え、会長の三村明夫はこの12月に日本商工会議所の会頭に就任いたしました。その三村自身が、「日本のためになることは何でもやる」ということを標榜し、様々なプロジェクトに取り組んでいます。

6~7年前から最も力を入れているのが、林業復活、森林再生というテーマです。日本が現在の豊かさを持続していくために必要なのは、国土が保有するポテンシャルを最大限活かすことです。ひとつは、EEZ(排他的経済水域)の海底資源開発。日本の排他的経済水域は世界で6番目に広いのですが、その海底に豊富な資源を持っています。JAPICの試算によると、現在の価値で300兆円以上になります。そのような海底資源をできるだけ早く堀り、日本の資源にすることが一つ。二つ目は、豊かな降雨による水資源をきちんと使うようにすること。三つ目が森林資源です。

JAPICは正式には産業協議会ですから、森林問題も産業論として扱いたいと思っています。産業論としての現在の林業は、日本のGDP比率の0.07%であまりにも小さい。したがって、アベノミクスの成長戦略論や民間の方々で構成する産業競争力会議でも、ほとんど林業という産業が話題になることはありません。我が国の豊富な木材を経済に有効な資源とみなしていないということではないかと思うのです。これは明らかに政治や政策の間違いであると思っています。私どもはこのことを政治や行政、経済界に訴えるだけでなく、広く一般の国民の方々にも知っていただこうと、この度の行動を起こしたわけです。

「林業復活森林再生を推進する国民会議 ―林業復活による地方活性化と国産材資源の有効活用に向けた1000人委員会」、この第1回目のキックオフを、12月18日に丸ノ内の会場で開催します。ご来賓に安倍総理、林農林水産大臣をお迎えして行います。安倍総理は現在予算の時期で、当人を含めてお願いしていますが、まだ出席がわかりません。林大臣は冒頭ご挨拶の末松部長にお願いしていただいているところです。

主催はJAPICですが、共済に美しい森林づくり全国推進会議、国土緑化推進機構、後援は経済団体とありますが、日本商工会議所、日本経団連、経済同友会、全国の北海道地方経済連合会から九州経済連合会まで地方の経済団体ほとんど全てにご後援をいただくことができました。まさに産業界、経済界あげてこのテーマに取り組んでいきたいと思っています。

議事次第については、主催者はJAPICの運営する日本創世委員会の委員長である寺島実郎さんなど準々にお話しいただきます。パネルディスカッションは、パネリストとして草野満代さんにお越しいただきます。草野さんはフォレストサポーターズのお一人で、大変お詳しい方です。行政からは沼田林野庁長官に加わっていただきます。

最後の3番目に日本商工会議所の三村会頭の就任挨拶とあります。その抜粋です。「産業としての林業復活は地域活性化の有力な対策です」。たったの一行ではありますが、日本商工会議所のように全国126万人の会員をもつ大きく伝統ある組織が、施政演説方針に「林業復活」という言葉を入れたこと自体が強いインパクトを持っているとご理解いただくといいのではないかと思います。

これが、林業復活国民会議の理念です。内容は繰り返しになりますが、一般の方々には、美しい森林を守ることは当たり前だけれども、なぜせっかく植えた木を伐るのかがよくわからないかと思います。実際には、育成されている木と国内需要はほぼミートしていて、自給率は理論的には100%ですが、70%を輸入しているという事実をほとんどご存知ありません。我々の役目としては、このような基本的なところを理解していただくように訴えていくことではないかと思っています。

もう一つ強調したいのは、林業という産業は非常に裾野の広い産業ですから、山の中だけでなく川中、川下のほうにも大変広い産業です。地域に雇用を産み、地域が活性化する、限界集落や過疎地といわれている場所に若者が定着し地域が活性化されるかもしれません。政府の地域活性化策を見ていると、二次産業を持っていこうという話が多いのですが、現実にはなかなかそうはなりません。一次産業をもう一度見直すことが私たちの基本的な考え方となっています。

最後は、産業教育が先ほど1000人委員会と申し上げましたが、ぜひご登録していただき、大きな数にして、あまり興味を持たない国会議員の方々にも強く訴えていきたいと考えています。ぜひご協力をお願いしたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。

木のやすらぎと、森のめぐみを、次の世代へ~国産認証材を活用した都会を中心とする木づかい促進

赤間 哲(三井物産㈱ 環境・社会貢献部社有林・環境基金室 室長)

三井物産の赤間です。本日は、当社の取り組みを中心に、日本の木づかいの促進について説明申し上げます。

弊社三井物産は全国74カ所、合計で4万4000haの山林を所有しております。民間事業者としては3番目に面積の大きな社有林を保有している会社ということになります。この4万4000haの山林で弊社は、明治時代から林業、木材を育てて収穫し、丸太にして販売するという林業を続けてきています。林業を続けている立場として、昨今の日本の木材産業の課題・問題点に直面しています。今我々ができることは、日本人がもっと国産材を使っていくことだろうと思い、いろいろな活動を展開させていただいています。

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はじめに、なぜ国産材がこれほど使われなくなったのかについてご説明します。グラフ左側が、日本の木材生産量です。右が木材の日本の消費量です。これを対比してみました。横軸が年代で、昭和30年から平成23年までの統計をとっています。縦軸は木材をはかるときの立法数です。

見ると一目瞭然で、昭和30年代の10年間ほど、日本は木材を約6000万m3ほど伐採していました。ピークは昭和32年で、6700万m3を日本の山から生産していました。右の表では昭和30年代は6000万m3を少し出るくらいの消費量で、国産材の率はほぼ100%に近い。昭和40年代に入っても、8000万m3弱の木材を消費していますから、国産化率は80%ほどありました。

それが、昭和40年から50年代にかけてぐんと消費量が増えています。日本の木材の消費量ピークは昭和48年、1億2000万m3使ったときです。時を同じくして昭和48年には住宅着工数が191万戸でした。今年は100万戸ほど住宅着工していますので、2倍の勢いでした。戦後の復興で住宅が必要とされていた時期です。

左を見ると、昭和42年くらいになると6000万m3を切るほどの生産量になっています。つまり日本の木材の供給は需要に追いつかなくなっていたのです。日本人は木が必要な時にどうしたのかというと、全部輸入に頼っていたわけです。昭和48年に1億2000万m3を使ったときは、約1億m3弱の木を海外から輸入していたということになります。昭和30年から40年ごろに6000万m3ずつ木材を伐採していたのですが、この勢いで伐採を続けては、日本の森林資源は枯渇してしまうというギリギリのところだったのです。我々はこれを需給のミスマッチと言っていますが、必要な時に国産材がなかったのです。

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1960年に日本の政府は木材の輸入関税を原則撤廃しています。輸入品をどんどん入れなければいけない状況にありました。その後は、折からの円高、日本の高度経済成長でどんどん木が使われました。1990年くらいまで、1億m3を超える消費がされていました。その消費を支えていたのは主に輸入材だったわけです。

需給のミスマッチで、使う時に日本の材がなかった。その時日本は何をしていたというと、昭和30年代から40年代、日本の政府は、森林資源は日本の重要な資源だということで、大造林政策をとりました。伐ったあとに木を植えるということを国民運動的に行ったのです。しかし、その木は50年しなければ使えるようになりません。森林資源の枯渇を心配したこともありますし、日本人は地震や空襲などで木の家が燃えてしまうというトラウマもありました。したがって、木を使うということの抑制を始めます。建設省を中心に、「都会のビルはコンクリートと鉄とガラスと樹脂でつくる」という政策を取りました。防火対策ということで、木をビルに使うことから締め出したのです。それに呼応した形で、1959年、日本の建築学会で「木材建築を学校で教えることをやめる」という決議までしています。現在、国産材を中心に木材を使っていこうという時に、日本の一級建築士で木造の設計をできる方が少ないのです。鉄筋の設計はできても木造の設計をできる人がいないという状況になっています。国産材も然ることながら、木を使わない生活に日本人は舵を切ってしまったということが言えると思います。

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日本の木材産業の問題点を3つ並べてみました。第1に、日本人は身の回りに木を使うことが少なすぎるといえます。国産材を中心に木材をもっと身の回りに使うべきでしょう。

2番目。国産材の加工競争力が不足しています。あとにも示しますが、日本の製材工場は小規模で海外の製材工場との競争力が全くありません。こういう川中の製材工場の競争力アップも喫緊の課題です。

3番目。木材をうまく使い切ることもしていません。木材のバイオマス利用は昨今言われていますが、ドイツでは2~3年前に5000万m3もバイオマスとして燃料に利用しています。日本にはバイオマス利用の統計すらありません。少しは使っていますが、統計を取る程の数字になっていないということです。そのくらい、木材を使い切るということもできていないのです。

日本の木材産業の課題は、川上も川中も川下もそれぞれ重大な課題を抱えていて、この3つの課題を同時に解決しない限り日本の木材産業は再生・復活しないだろうと思います。川上はもちろん林地を集約化して効率的に行うこと。川中はやはり産業力を強化すること。製材工場の数を増やすことではないかと思います。川下は需要の拡大です。

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これを、林業が非常に盛んなドイツと比較してみました。2009年当時の数字で多少古くなっていますが、ドイツは人口8200万人の国です。日本は今、1億2600万人です。木材生産量はドイツでは6300万m3を国内で生産しています。日本は1700万m3です。昨年度もこのくらいの数値でした。ドイツの生産量の3分の1以下です。しかし、山の面積は、ドイツは約1000万ha、日本は2500万haもあります。

ドイツの製材工場の数は年間に10万m3加工する製材工場、かなり大きな製材工場が60社あります。日本はたったの7社です。この数字ですが、昨今はアップデートされていて、木材新聞を読んでいると、5万m3以上を加工する日本の工場の数が43社と出ていました。10万m3では十数社に増えています。

消費量は、ドイツでは1億1000万m3の木材を国内で消費しています。日本は7000万m3です。ただこの7000万m3の中の約3000万m3は製紙用チップです。80%はオーストラリアやブラジルからチップの状態で輸入しています。製紙用チップはすぐに薬剤と一緒に煮て、木材の中の炭素の塊であるリグニンを分離します。そのリグニンは燃やしてしまうわけです。すなわち、木材が光合成で固着した炭素を製紙の場合は燃やしてしまっているのです。3000万m3の数字は日本人が身の回りで木材を使うということにカウントできないと私は思っています。そうだとすると、日本人が身の周りで木を使っている数量はたったの4000万m3です。これは、ドイツ人が一人あたり使う量の2分の1以下ということになります。そのくらい日本人は木を使わなくなっているということがわかります。

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これはドイツの木づかいの例です。8階建てのマンションでも、躯体から中身まで全て木です。こういうことができます。ドイツではやっています。家の外装でも、ヨーロッパは石造りの家が多い印象がありますが、外装まで木で作った家がヨーロッパでは最近とても多くなっています。ヨーロッパの人たちは自然との共生を生活の基本に置いているので、身の回りのものは自然のものがいいということを自然に行います。

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ドイツの場合、バーデン=ヴュルテンベルク州に通称黒い森というドイツの森林地帯があります。ところが、木を使うということであれば、隣のバイエルン州です。オーストリアと国境を接していて、ドイツの木づかいのメッカです。こういうところを見るべきだろうと思っています。

木を使う際の基本ですが、木は余すことなく使う。まずは人間の身の周りで使うマテリアル利用を優先して行うこと。どうしても使えないものについては燃料にして、やむを得ないけれども燃やしてしまう。隅から隅まで利用することが大切だということです。

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弊社の木づかいにおける取り組みを最後に説明します。これは、私どもの大手町本社ビルの1階ロビーです。2~3年前までは非常に殺風景なスペースでしたが、そこに社有林材を利用した待ち合わせスペースを展開しました。大きな壁があり、そこに原寸大の社有林の林層の写真を貼り、あたかも森の中にいるかのような空間を演出しました。利用者が非常に増えて、木に囲まれる空間の心地よさを皆様に体感していただいています。

これは私どもの部内の執務空間です。このように、壁にデコレーションも加味した木のパネルを貼り付けています。厚さ3センチのスギ材です。調湿作用があり、木の香りもしてずいぶん雰囲気が変わりました。このような空間にして何が変わったかを広く訪問される方や部員にアンケート調査をして、効果を検証してみたいと思っています。

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このようにしてでも日本人は木を使うべきではないでしょうか。特に都会の執務空間です。皆さんも自分の事務所を想像していただけば、いかに木を使っていないかということがおわかりいただけるかと思います。

そのほか、私どもが行っている木づかいの促進運動としては、今年8月に林野庁にも後援いただき木をつかうフォーラムを日経ホールで開催しました。木の利用ということでは日本の第一人者である東大の安藤直人教授にファシリテーターをお願いして、たくさんの皆様に好評をはくしました。今年の9月からは慶應義塾の湘南藤沢キャンパスでForest Products論という講座を開設しました。こちらも東大の安藤教授にご就任いただき、木の利用と木造建築の川下を中心にした大学の講義をしていただいています。来年1月まで継続します。慶応の学生の人気も非常に上場で、来年も続けて行ってくれないかということを慶應から言われています。このような啓蒙活動も行っています。エコプロダクツ展でも、小学生を招いて環境授業を行っているブースがありますが、そこで弊社の森林における活動をご紹介する出前授業を展開しています。お時間がありましたらご覧いただければと思います。

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そのほか、国産材の利用を促進するということで、2×4という建築方法があります。アメリカのSPFという樹種が指定されていて、日本のカラマツやスギなどの材は基本的には使うことができません。樹種の指定から外れると、年輪を目視し、年輪幅が広い場合は使えないとみなしてはじかれてしまいます。こうした指定を外してもらい、日本のスギやカラマツも2×4に使えるようにしようということを、産業界一丸となって農林水産省や国交省の皆様にお願いしています。

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そのほかには、震災の復興で社有林を使った支援を展開しています。ご縁のあった陸前高田市に仮設の木造図書館を寄付させていただきました。また、その図書館を作ってくださった方が気仙大工と呼ばれる江戸時代から連綿としてつながる大工さんの集団の方でして、ご多分にもれずその大工集団も高齢化と後継者不足に悩んでいらっしゃいました。そこで、それをご支援しようということで、気仙大工建築研究事業協同組合に寄合所を寄付させていただき、今後の復興住宅を作っていただきながら担い手事業等を展開する支援を行っています。こうした活動も、国産材利用の出口戦略のひとつです。地域材を使うというサイクルにつながっていけばいいなと思っています。

今年、我々の活動を汎用の広告にまとめました。北海道の沙流山林でとれたカラマツの年輪です。54年生です。それを時代の変化になぞらえて、もっと木を使おうではないかという広告です。日刊工業新聞の産業広告部門で佳作をいただいています。このような形で、日本人はもっと木を使うべきではないかという活動も繰り広げています。

弊社の活動をご報告申し上げました。ご清聴ありがとうございました。

パネルディスカッション

「2020年に向かう、森と木を活かす「グリーンエコノミー」の展望」 ~デザイン&異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい~

<モデレーター>
宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)
<パネリスト>
益田 文和、赤池  学、門脇 直哉((一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC 常務理事)、赤間 哲、末松 広行(林野庁 林政部長)
<コメンテーター>
出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)

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【宮林】皆様、あらためましてこんにちは。大変お疲れのところ、時間は限られていますので、あまり余分なことを言わずに進めたいと思います。2020年に向けて、木材森林をどう認識していくか。その前に、グリーンエコノミーという国際規模における提言も行われていますので、それを意識して展開していきます。

パネラーの方々は先ほどご報告いただいた皆様と、来賓でご挨拶いただいた林野庁の末松部長に入っていただいています。

最初に、最近の動向を林野庁から説明していただいてから進めたいと思います。

【末松】林野庁末松です。本日はいろいろなお話を聞かせていただき、若干重なるところもありますが、私の方から最初に簡単にお話したいと思います。

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今、時代が森林の蓄積量が増えている時代にあるということをグラフにしてみました。森林の面積は国土の68.5%、2500万haです。その面積は変わっていませんが、そこに生えている木の体積が増えてきています。これは推計でして、科学者の方々はこれより多いと言っている人も多いのですが、林野庁の控えめな推計によっても昭和40年の頃の18億8700万m3に対して今は49億m3ほど日本の森には木が生えています。

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しかし、ひたすら植えたのはいいのですが、その手入れができていないのが最近の状況です。よく言われますが、手入れをしていないことは非常に大きな問題です。一方で、世界の各地では砂漠化したところに植林をしています。中国などはものすごい勢いで植林をしていて立派な行為だと思います。日本の場合は先輩たちが行ってくれていました。今、それらを使える時代になりつつある。それなのにうまく使えていないという2番目の問題が起きている状況です。その何が問題かというと、国土保全などいろいろ言われています。今は手入れをして使っていくことが大切な時代だということが基本認識です。それでバランスのとれた森にしていくことが今の課題です。

よく言われますが、天然林と人工林は、ドイツの場合は1000万m3の森のほとんどは人工林です。日本の場合は2500万m3のうち1500万m3は天然林です。両方あるので両方の良さを活かしていくなかで、使っていくという面では植えてきたものをきちんと使うことが大切だと思います。

そのための取り組みを進めていかなければなりませんし、私の個人的な感想かもしれませんが、いま、それが動き出し始めているという手応えを感じています。公共建築物の木造化の話も、ある時期、政府が国を挙げて木材を使うことをやめようといった時代がありました。その時は、木造の家は火事で燃えて地震で倒れて人命や財産を守る上でよくないと思われた時代があったからですが、今は木造の家だけ基準が甘くなったわけではなく、きちんと基準を満たしたものは地震にも火事にも強い、それであればもっと使おう、木の良さを活かしていこうという時代になったと思っています。木質バイオマスや新しい木材製品を作って輸出していくようなことも少しずつ初めていく時期だと思っています。

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このように時期は移り変わってきていますが、順調にいくかというと、芽が出かけたかという感じで、これをどうやってしっかりした流れにしていくのかという段においては、政府が号令をかけるだけでなく民間の方々のいろいろな知恵をうまく後押ししていくことができればと思っています。

現在は、住宅にも木材を使っていただこうということで、住宅を作る際、内装を木質化するときのための木材利用ポイントという事業を始めています。いくつかいいなと思う動きがあります。いろいろな住宅メーカーの方がこれを機会に地域の木を使った住宅を作ったりとか、今までなかなか木造化できなかった、地域の材を使えなかったところに地域材を使うような取り組みが進んできています。副次的効果かもしれませんが、ポイント事業をする際は工務店さんがポイントを発行したりという手間があるのですが、その際に使う木材がつながっていかなければならないということで、各地域で木材産業の方々と住宅メーカーの方々が協議会などでつながるということも起こり始めています。

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バイオマス利用の話です。木材についてはカスケード利用が大切で、燃やすのは最後の手段、最初から燃やすのはとんでもないという方もいらっしゃいますが、なかなか木が四角く育ってくれないこともあり、どうしても枝葉の部分や周りの部分でエネルギー利用に適しているものもあります。そういうものでどれだけのことができるかという点では、ドイツなどではエネルギー利用が進んでいます。日本でも木質バイオマスの発電所をつくって1年間稼働してみたら、地域に10億円ほどの電気代が入り、1万2000世帯の電気がまかなえて発電所に14人、山で作業をする人が38人や50人などと言われていますが、雇用が生まれています。これまで使われていないことからこのようなことができる。これは一地域だけでなくいろいろな地域でできるのではないかと思っています。

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2020年に東京オリンピックがあります。長野オリンピックの時のエム・ウェーブという施設は長野の材を使った競技場です。バンクーバーの際も、木材を使おうということで利用が進んでいます。オリンピックの施設を作る際、森林国と言われる国はそれを活かしていこうという取り組みがされました。またバンクーバーの時は表彰台を木質にしたりといろいろな工夫がされています。我が国も木の資源が出てきていろいろな技術開発や取り組みが進んできたところですので、2020年のオリンピックをきっかけに、身近に森の木を使うような生活になっていけばいいのではないかと思っています。最初の話は以上です。

【宮林】ありがとうございました。私たちが使おうとしている森林は、かつては森林を使いすぎて荒らしましたが、そのあといろいろな条件があってスギやヒノキを植えてきました。植えてきたスギやヒノキがはじめて使えるようになりました。そのはじめて使えるようになった時にどうするかという問題にぶつかっているということですね。

皆さんの中で木材利用ポイントの話が出ましたので、木材利用ポイントをご存知の方、手を挙げてみてください。では、どうすればもらえるかということもご存知の方。だいたい半分くらいが知っていて、どうすればいいかということはほとんど手が挙がりませんでしたね。これはもう少し頑張らないといけないということだと思います。今日は業界の人が多いのでそのあたりのことは皆知っているのかと思いましたが、残念でした。

これから木を使い、私たちの暮らしの中に入れていこうということで、非常に好条件にあります。2020年問題もあります。グリーンエコノミーという問題もあります。そういう中で、業界としてこのチャンスをどう捉えているのか、そのあたりからお話を伺いたいと思います。JAPICからは門脇直哉さんに登壇いただいていますので、門脇さんからお願いします。

【門脇】JAPICの門脇でございます。業界という意味合いではJAPICはいろいろな産業が集まっている団体で、その中でいろいろな活動をしています。先程も高薮が話しましたとおり、非常に木が大好きな三村明夫が日本商工会議所の会頭になりました。日本商工会議所は126万人の会員がいますが、そこで林業を取り上げていくということで、相当な追い風にはなると考えています。

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もう一つ。今日、どうしても宣伝をしなければいけない一つとして、来週18日に林業復活の森林再生を推進する国民会議を開催します。木の良さを知ってもらおう、木を使ってもらおうという想いの中で国民運動を立ち上げていくわけですが、準備も今まさに佳境に入っています。私自身も驚いていることに、発起人を200名集めようということで行ったのですが、木に対する注目度は高く200人はあっという間に集まりました。さらに言えば賛同者ということで広く皆様にお声かけする必要があり、これも苦戦するだろうと想像していたのですが、1000人という目標が集まり、今は1万人を目指そうなどという話になっています。木が今非常にいい環境にある中で、木に対する注目度が非常に高まっていると感じています。我々産業界としてもバックアップをしていきたいと考えています。

【宮林】ありがとうございました。大変な大きな反応があるということです。まだ募集しているそうなのでどんどん賛同していただければと思います。このような大きな動きも今出てきているということです。

最初から三井物産さんでは、これからどんどん国産材を使っていこうとしているということですが、その中でも今は非常にいい転機に来ていると思います。それを業界としてどのようにすればいいとお考えでしょうか。

【赤間】林業をずっと続けてきている立場としてですが、丸太を持っていく先の製材工場の問題が非常に今あるのではないかと思っています。私どもは北海道を中心に林業を行っていますが、北海道で生産される主な樹種はカラマツという木です。非常に固くていい木ですが、この用途は実は合板です。コンクリートを打つ時に使う木の板のような合板にしか用途がありません。他にもパレットや杭丸太などの用途はあります。合板は日本各地に工場がありますが、住宅用や内装用の家具や建具を作る加工屋さんを今まさに充実させていかなければならない。そういうところに意匠性を付けることで付加価値が付くと思っています。日本は今後少子高齢化でどんどん人口が減っていきますから総需要はあまり伸びません。ただし、日本木材資源を活かして輸出を考えていくべきでしょう。その時にはデザインをつけて、内装や家具で日本の産業が打って出なければならない。その加工業の充実が一つ重要ではないかと考えています。

【宮林】やはり北海道はカラマツがたくさんありますので、加工施設そのものがあまりないということでしょうか。日本全体から見てもデザインを使った加工はなかなかないと思いますが、先ほど、益田先生と赤池さんからデザインの話が出ました。まさにデザイン問題は付加価値を高めます。今までのような木材の使い方は、あるものとして使っていましたが、そうではなくそこに理由を付ける、高付加価値を付けるような、あるいはハートに訴えるなどいろいろなことが言われています。2020年までの間にどのような展開を期待すればいいか、益田先生からお願いします。

【益田】デザインが直面している問題もあり、作れないのです。少し前は木のものが生活の中にたくさんありました。お風呂の桶などにも木を使っていました。その当時は木を加工する加工所もあったし、身近に様々な職人さんがいました。建具も木が当たり前でしたが、いつの間にかそれが全部プラスチックや金属に変わってしまいました。

そうすると、我々が何か木で作りたいと思ってもお願いするところがないというのが現状です。伝統工芸や建築関係はありますが、普通のマスプロダクツの製品では本当に木が使われなくなってしまっています。たまたまこのメガネは木ですが、これはヨーロッパ製です。日本ではほとんどありません。生産設備、技術そのものが失われているということは非常に大きな問題です。我々はデザインしますが、それが作れない状態で、ワンセットで解決していかないといけません。

【宮林】先生のメガネ、それは木なんですか。これは日本ではなかなか考えられないことかもしれませんね。やはりそういうものを作っていく人、あるいは技術などがかけているのではないか。赤池さん、いかがでしょう。

【赤池】僕もグッドデザインの審査員をずっと務めてきましたが、モノづくり全般で言うと、今はクラフトというものへの再評価が始まっています。あるレベルの物語性のある伝統や職人技が関わっている木製品ということです。家具、遊具、玩具はクラフトを意識した形で商品開発をしていく、そういうことが得意なデザイナーたちもたくさんいますので、そういう方々とコラボレーションするだけで、売れる木製品の実験などもできると思っています。

あとはマスプロダクトの世界があります。一例としてリクシルさんの木質門型フレーム工法のお話をしましたが、赤間さんがご提起されていた制作会社そのものが山側にないという課題のソリューションになるのではないかと考えています。僕は目覚めた大手企業がマイケル・ポーターさんが提言したCSV、クリエイティング・シェアード・バリュー、事業益と公益を両立させる開発投資を行わない企業には持続性がないという考え方で、木質門型フレームをつくる製材工場をリクシルさんが自ら山側に入り込んで、あるいは投資をして自社の商材を作っていくようなモデルが出てくるのではないかと思っています。そうした時に山とつなげていく地域の人材たちが大手企業に対してどのようなビジネススキルをもっているかということを、今のうちから問題意識をもって磨いていくとか、提案そのものを山側から大手建材メーカーやハウスメーカーに持ち込んでいくようなアクションが期待されているのではないかと思います。

【宮林】そういう場面をできるだけ創出していく、そこが大事だ。そうかもしませんね。企業から山側に技術と一緒にものづくりを売り込んで行くという姿勢は大切だと思います。そのあたりで末松さん、どう展開していけばいいかという方向性はいかがでしょうか。

【末松】産業行政という立場で見たとき、昔は木材産業も注目してもらった過去があり、日本の行政組織は素材を生産するところまでが一次産業の担当で、ものを作るところは次の二次産業の担当という分け方になっていて、時代によって、産業行政と見た場合、あまりこちら側に投資する、行政資源を集中するということはありませんでした。それは仕方のないところもありますが、出るようになったのだから、これからそういうものをきちんと見ていこうということを政府全体で行っていくことが大切だろうと思っています。

それと、実際に行政が何をするかというと、いろいろな支援をするとかお手伝いをするということは省庁の所管でやらなければいけないということでもないので、我々の側でできることも少しあるのではないかと思っています。

たしかに、目覚めた企業という話で合板工場と製材工場でも少し出てきましたが、モノによって政府の補助金が出る場合があるので見ていますと、これまでは全部港立地が多かったのですが、最近建てられるものは内陸立地型が増えてきました。内陸立地型は、工場を建てる企業は覚悟が必要になります。そばの国産材を使って合板を作る、板を作るという覚悟です。港から持ってくることも最悪のケースではあるかもしれませんが、基本的には国産材でやろうと。20年くらい前はほとんど内陸側のものが港に移ってきましたが、再び内陸でやろうという企業が少し出てきているということは感じます。またそういう動きは、山で木を切る人、加工する人、そういう方々が両方とも山間部に行けば、派生する地域の経済に対する効果や雇用促進効果が非常に大きくなります。我々もそういうところを応援していきたいと思っています。

【宮林】伝統的工芸産業などを調べたデータを見ると、全国の市町村に2~3個ほど品物があり、10万件くらい出てきます。そこにどのくらいの人が就業しているかというと、4万人から6万人くらいいます。日本の伝統工芸はすごいものを持っているので、和食がユネスコの無形文化遺産にもなりましたが、地域の中から「この商品はこういうものだ」とピシッと売り出していく。そこに新しい技術を入れていく、そこに企業の支援や政策的支援があれば、かなり大きなものになるかもしれません。ぜひよろしくお願いしたいと思います。

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2020年はちょうどオリンピックと重なりますが、この年は生物多様性の高度計画の締切であったり、京都議定書の第2段階の締めであったり、多様な形で環境問題が出てきます。今はグリーンエコノミーという表現も出てきました。そうなると、私たちは2020年までの間に具体的に何かをしていく必要があるのだろうと思っています。環境をよくすること、木を使うことで何を具体的に行えばいいのか。門脇さん、産業界としてやっていくべきことはありますか。

【門脇】特にこれという話ではありません。ただ、2020年に東京オリンピック・パラリンピックがありますので、ここでなんとしても日本の持つ技術やシステム、ひいていえば木のもつ良さを世界の皆様に見てもらう機会を作ることが、産業界、もっといえばJAPICの仕事だと思っています。既に東京都などにも接触を始めていますが、選手村や国際競技場のあたりに少しでも木を使っていただいて、それを2020年に世界の人に見てもらう。日本の木っていいなと思ってもらった中で、それが2020年以降にまた使われていくという道筋を我々としては作っていきたいと考えています。

【宮林】これから18日に大きな形で国民運動として展開していくわけですので、期待するところが大だと思います。ただやり始めるといろいろな課題が出てくるのはないかと思いますが、その課題については赤間さん、どのように捉えているでしょうか。

【赤間】身の回りに木をたくさん使う時の課題は、規制ということがあります。防火や耐火、建物を建てる際の規制には結構厳しいものがありまして、木材を使えるようにするための法整備もあります。国交省や農水省のほうで、今すごく急いでやっていただいていますので、法規制とクリアするような製品に意匠性をつけて、将来的に東アジアを中心にした人々に日本のカルチャーを売っていくことのできる土台を作ることではないかと思っています。

【宮林】日本の持っている技術と知恵。木を使うにはかなり知恵が必要です。そういう部分を規制緩和しながら前に出す。そうすると企業も入りやすいよ、ということなのかもしれません。どうも入りにくいところがあるようです。デザインの関係から見ると、赤池さん、どう捉えているでしょうか。

【赤池】模範演技を多くの人たちに見ていただく必要があると思っています。そういう意味で、グッドデザイン賞、キッズデザイン賞ときたら、僕はぜひ林野庁さんにウッドデザイン賞という、木づかいのフロントランナーモデルを顕彰するような賞制度をぜひ創設してもらいたいと思っています。もちろんそこでは遊具や家具なども入れてあげたいと思っていますが、国産の木を使った新しい発想の住宅商品や工法、建材、内装材、外装材、エクステリア材、木質バイオマス製品など、「私たちはこういう形で商品化したよ」と発信する場にするべきだと思います。かっこよくて売れそうなものにきちんと賞をあげて、つくり方やビジネスモデルを第二、第三の山側の地域に知らしめていくような流れを作っていく。予算さえ付けていただければすぐにスキームができてしまうのではないかと思います。

【宮林】これはすごくいいアイデアですね。やはり地域から出てきたものを加工して使い、それがまた地域に戻っていくという一つのサステナブルな循環を捉えたWSD、ウッド・サステナブル・ディベロップメントのようなものができて、それが賞になっていけばすごいと思いますが、末松さん、どうですか。

【末松】5年前くらいに、まだこういうシンポジウムがあって、その際、私は農林水産省の食料安全保障課長をしていたのですが、フード・アクション・ニッポン・アワードを作ってはどうかということを公開の場で言われて、すごくプレッシャーを受けた記憶が蘇ってきました。2年後にそういうものができて、今は国産の食材を使ったりして地域でいろいろな取り組みをしたり、新しい食品を作って国産の農産物をたくさん使っていこうということで、検証し、励ましていく仕組みができて動いています。

私は役人ですので、言われて「はいできます」ということはとても言えないのですが、5年くらい前にそのようなことを言われて、非常にプレッシャーを感じて制度を作ったということをいま思い出しています。

木の関係で言うと、いろいろな分野にまたがっていて省庁の縄張り争いなども昔はありました。今は、「ここは自分のものだ」というところも少なくなって我々のやることに文句を言われることもない時代になっているのかなとも思いますので、検討しなければいけないのかなと思っています。

【宮林】前回のほうは積み重ねていって作ったようですから、こちらの方もよろしくお願いしたいと思います。益田先生、デザイン関係を踏まえて、日本の伝統的なものを新しいデザインの中に組み入れていくような仕組みの提案などはありませんでしょうか。

【益田】観光ですね。木は土地に生えます。その土地でとれた材を使ってろくろを回し、裏山から漆を持ってきて加色をし、料理があり、そこに人が訪れて楽しむ。買っていく。そういう関係が正しいと思います。本当は誰も高島屋で買いたくないわけです。だけど産地に行ってもあるのは中国で作ったものだったり、本当に漆かどうかわからないものばかりです。それより何よりも売っていてくれればいいのに、行ってみてもお店も何もありません。結局それは東京に出てきて売られるということですから、北海道にしろ岐阜にしろ、その土地でつくり、そこへ行って買うという関係ですね。森の中で買い求め、それを使って料理を食べる。そういう関係を外国の人にしてもらえばいい。日本は全て輸出しようとしてきましたが、本当は輸出してはいけないものもあります。そのあたりは考えて、来ていただいて、観光と土地と一緒になってものを作って売っていくというデザインを総合的にしていくのがいいと思います。

【赤池】僕は東京丸の内駅前の新丸ビルの中にエコッツェリアというスペースを作ったり、二子玉川のライズの中にもカタリストBAを作りましたが、こうした拠点は欧米では「アーバンデザインセンター」と呼ばれています。地域の基盤整備とか地域おこしのために様々なステークホルダーやクリエイターが集まって、アーバンデザインセンターで日々議論を重ね、プログラム開発をしています。今度は僕、三井物産の赤間さんにプレッシャーをかけたいと思いますが、僕は山側にもアーバンデザインセンターのような、今、益田先生がおっしゃられたような、木だけではないいろいろな人に山のコンテンツを発信して地域の需要者につないでいく「フォレストデザインセンター」を三井物産さんの山側に一度モデルとして作っていただくと、「その手があったか!」と気づく地域が生まれてくる気がしました。

【宮林】そのあたり、どうでしょう。

【赤間】なかなかアクセスするのが大変なところにありますので、来ていただくだけで丸一日かかってしまうようなところに山がありますが、たしかに山を見ていただくということが非常に今大事だと思います。日本の山がどれほど荒れているのか。それとやはり、きちんと人間が手をかけた山はどれほど美しいか。また国土保全ということにどれほど役に立っているかということを、一度見ていただくことは非常に大事だろうと思います。なんとかアクセスを良くして、多くの人々にきちんとした適切な山づくりの現場を見ていただく努力はしなければいけないのだろうと思います。

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【宮林】今、道の駅はどんどん展開してかなりの地域の産物が、あるいは地域の良さがみられます。6次産業化みたいなところに進んできた。これはやはり森の駅や木の駅のようなものをつくって地域の中に入っていく。僕は、フェースtoフェースでつながっていた都市と山村とのつながりが切れてしまっていると思っています。その切れたところをもう一度修復することで、日本の伝統、あるいは新しいグリーンエコノミーが生まれ変わってくる気がしてしょうがありません。オリンピックに向かって木を使っておもてなしをしていこうとすれば、私たちが使うこと、どういう良さがあるのかということを知ってもらうことが非常に重要なことだと思っています。

最後に皆さんから一言ずつ、20年に向けて、世界に向けてどういう形で木の文化や森を使っていく文化を知らせていけばいいかを聞いて、最後に末松さんにお聞きして終わりたいと思います。産業界から来ましたので、今度はデザイン界から。益田先生のほうからお願いします。

【益田】木の生まれ育ってきた履歴のようなものはやはり知りたいですよね。そうでないと、木のものを使おうと思っても消費者としてはどれが何だかわかりません。物語までをワンセットにしてデザインしていく必要があると思います。我々も注意深くやっていきたいと思いますので、使う方も気にしていただいて評価していただくと、消費者も「少し高くてもいいかな」ということになるのではないかと思います。

【宮林】まさにそれぞれ使う側と生産する側の心が一致していく、そこに物語があるという、大変日本的で素晴らしいと思います。

【赤池】最初のプレゼンテーションでCSVという考え方を提案させてもらいましたが、僕はこの民間参画の手法をどんどん使うべきだと思っています。やはり山作りや地域おこしなどいろいろなところに自社のサービスや技術を持ち込みたいというニーズを持っている企業はすごくたくさんあります。先ほど、都市の人間を山側につなぐのが難しいという話がありましたが、逆にEVを作っている自動車メーカーやEVのエネルギーを供給していくための情報通信を作っている会社、さらに言えばそれらをつないでいくJTBさんのような方と山側で何ができるか、自由闊達な構想を地域の中で議論しながら、実際に「こういうものをCSVとして連携開発しませんか」と積極的に企業の中にアピールしていく。それで生まれてくる成果や、山と都市をつないだビジネスモデルなどをぜひ、2020年に日本に来てくれる海外の方たちに教えて差し上げたいと思っています。

【宮林】CSRからCSVへ。そこに新しい地域づくりが生まれる。どうでしょう、このあたりのお話は。門脇さん。

【門脇】本当にいい話だと思います。私ども産業界、JAPICの役割としては、2020年はひとつのターゲットだと思っています。そこまでに皆さんがいろいろと企画されている地域での事例などについて、たとえばマスメディアなどで広く知ってもらう、目で見てわかる活動を何かできないかということについて取り組んでいきたいと思っています。さらに言えば、国産材の良さをわかってもらうために、国産材を使った建物ということがわかるように、例えばマークなどで「日本の木を使ったものなんだ」とわかる仕組みができないか、JAPICも既に取り組んでいますが、あわせてやっていきたいと思っています。

【宮林】ぜひ頑張ってもらいたいと思います。赤間さんはどうでしょう。

【赤間】2020年に向かってということですが、やはり次世代を担う子どもたちに、日本の森林を健全で持続可能な利用ができる姿で引き継ぐこと、その土台を作ることが2020年までの我々の課題だろうと思っています。現在我々にできることは、事業会社の一員として4000万人近い首都圏の都会で木が全然使われていませんので、床や壁、天井にも木は使えますから、事務所の空間に事業会社として率先して国産材を中心にした木づかいを進めていくような運動を、我々は及ばずながら続けていくことだと思っています。

【宮林】ぜひイニシアチブをとっていただきたいと思います。末松さんのほうから、何かいい方向性をいただけるとありがたいのですが。

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【末松】お話にあったように、これから日本の木材を使っていろいろなことが動いていくということ、それが日本の経済や全体に対していいことだと思います。我々行政も、今まではただ効率一辺倒で、どうしたら安く木を伐れるかということだけを考えたり、林業者の生活などを考えていて、それはそれですごく大切なことでこれからも続けていきますが、お話を聞いていて思うのですが、きちんとした需要があって木が伐られていく、また伐られすぎないようにサスティナビリティをきちんと保つ形で伐っていくためには需要をきちんと出すことです。需要をどうやって出すかというところに、デザインなど新しい工夫が必要なのではないかと思います。そういう意味では新しい分野でのチャレンジというのはどんどんあります。

我々はよく、林業者や農業者に直接支援するもの以外は国は無駄ではないかと言われるのですが、私は逆だと思っています。林業をされる方は木を売って収入を得てもらう。我々は、新しい需要や開発のためのチャレンジ、木の良さを知ってもらうことなどに行政が支援することを進めていきたいと思います。

事業仕分けなどでいつも思うのですが、できるかどうかわからないことに国民の貴重な税金を払うのはけしからんと怒られて、「これはきっとできます」というと「民間に任せろ」と言われるのですが、チャレンジするというのはリスクがあることなので、本当にできることは我々行政がすることではなく皆さんがされて、どんどんビジネスとして儲けていただけばいいと思います。リスクがあるけれどもやったほうがいいということを行政なりに判断して進めていくという支援の気持ちを持ち続けていきたいと思いました。

【宮林】ありがとうございました。時間ですのでこのあたりで締めなければなりませんが、今日のお話の中でおわかりだったと思うのは、新しい出発点が来ているということです。2020年に向けて我々全体の国民運動としてやらなければならないのだということが見えてきたのではないかと思います。いろいろな関わり方がありますが、産学官連携でもいいですし、とにかくいろいろな人たちが多様な形で森林や木材に関わりながら、世界に向けた新しい利用形態、グリーンエコノミーの姿を見せてやろうという意気込みでスタートしていけばいいのではないかと思っています。

短い時間でしたが、中身としては合意がとれたと思います。18日以降のJAPICにスポンとはまっていただき、あとは赤池さんなどのアイデアもどんどん出していただきながら皆さんと一緒に進めていけるような方向性で2020年を迎えて、まさに木のおもてなしをしていきたい。そのような形で終わりにしたいと思います。皆様、ありがとうございました。