『地方創生・CSV時代の「企業の森づくり」フォーラム』 ~生物多様性の主流化に向かう、森づくり・人づくり・木づかい~を開催しました。

主 催 美しい森林づくり全国推進会議(公社)国土緑化推進機構
共 催 経団連自然保護協議会

fs_forum2016_03_01_161近年、地方においては活性化のための総合戦略がたてられるとともに、企業においても事業活動を通じて社会的課題の解決に取り組むCSV経営が指向されています。また、環境問題への高まりを受けて「ISO140001」の規定が改訂されるなどの動きが見られます。

こうした中で、「新国立競技場」が“木と緑のスタジアム”として建設されることとなるなど、林業・林産業の振興や地方創生、地球温暖化、環境問題への対応につながる、“森づくり”や“木づかい”が活性化していくことが期待され、そこで果たすべき企業の森づくりへの期待は大きなものがあります。

そこで、地方創生・CSV時代を踏まえた、人づくりや木づかいと一体となった新たな「企業の森づくり」のあり方を議論するために本フォーラムを開催するものです。

開会・挨拶
15:00
基調報告
15:10~16:05
  1. 地方創生・CSV時代の新たな森づくり・木づかい
    赤池 学CSV開発機構 理事長、ユニバーサルデザイン総合研究所 所長
  2. ISO14001:2015における生物多様性の考え方と必要な企業の対応
    中井 邦治経団連自然保護協議会 事務局次長
  3. グローバル人材育成に向かう教育政策と森林ESD
    山下 宏文京都教育大学 教授、森林ESD研究会 座長
事例報告
16:05~16:25
  1. 地方創生時代の企業協働の森づくり~学校での木づかいと森のようちえん~
    山田 夕紀美濃加茂市 産業振興部 農林課 里山再生係長
  2. 中間支援組織がつなぐ、企業支援による学校の森づくり・木づかい
    野田 真幹NPO法人もりふれ倶楽部 理事・事務局長
パネル
ディスカッション
16:25~17:25
閉会挨拶 17:25
  •  梶谷 辰哉公益社団法人国土緑化推進機構 専務理事

基調報告② ISO14001:2015における生物多様性の考え方と必要な企業の対応

中井 邦治経団連自然保護協議会 事務局次長

fs_forum2016_03_01_204皆様こんにちは、経団連自然保護協議会の中井と申します。本日は、ISO14001:2015における生物多様性の考え方と企業に必要な対応についてご説明します。私のもう一つの肩書は、ISO14001の環境主任審査員ですので、経団連での経験とISO審査員としての経験を踏まえての話になります。

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先ず、世界的な動きを見てみたいと思います。Crosslinkという経団連自然保護協議会の活動をまとめた冊子に年表があります。年表には、生物多様性条約が採択されてから今日まで、世界の動き、日本の動き、及び我々経団連自然保護協議会の取組みを記載しています。

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何故企業が生物多様性に取り組むことになったのかについて、重要な年が3つあり、2006年、2008年、及び2010年です。最初に2006年のCOP8において民間参画が決議されました。それまでは、条約採択後14年間、CBD=生物多様性条約は国家間の取り決めで、義務があってもそれは国の義務であって、民間も企業も直接は関係ありませんでした。

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更に2008年のCOP9で、ビジネス参画推進決議が可決されて、企業も積極的な取り組みが求められるようになりました。続いて2010年に日本で開催されたCOP10で、生物多様性の主流化を含む愛知目標が決議され、2015年には、ISO14001の国際規格が改定され、規格要求事項に「生物多様性」が出現しました。このように、企業が生物多様性に取り組むことはISO14001の改定によって求められるようになったのではなく、ISOが改定される前から、既に世界的な課題でした。

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本日の話題に関して言えば、愛知目標における20の目標の中でなにが重要かといいますと、「生物多様性の主流化」に相当する初めの4項目です。生物多様性という言葉自体が大変難しいのに、「生物多様性の主流化」とはすぐには理解困難です。

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「生物多様性の主流化」とは、誰でもが取り組めるようになる、それが当たり前である、という状況を作り出すことです。

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また、ESDという言葉も出てきます。これは、単なる環境教育だけではなく、身近なところから取り組む、よく言われるようにThink Locally, Act Globallyにて、環境、貧困、人権、平和、開発などの世界的課題解決につながるような行動を身近なところから生み出すこと、つまり単なる環境教育だけではないということです。

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これは、生物多様性のESDの、各社の事例を調べたものです。社員向けもあれば、事業所の近くの学校向けもありますし、NPOと協働している事例も紹介しておりますので参考にしていただければと思います。

ph_kichou2-160308_24ph_kichou2-160308_23ではISO14001:2015で何が変わったのでしょうか。結論をいいますと、生物多様性への配慮が「義務」になったということです。これまでは自主的な活動であったのが、ついにISO認証を持った組織は義務として考えなければいけなくなりました。これは重いことです。ISO14001:2015では、この変化を含めて全部で24の事項が変わっています。

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本日の話題では、5番目の変更箇所が一番影響が大きく、CSR関連で、ISO26000 6.5項の環境原則を考慮しようというものです。その中でも最も大事な第4項では、環境保護・生物多様性及び自然生息地の回復とあり、ここで「生物多様性」の用語が出てきます。ISO14001ができて約20年経ちますが、その中で「生物多様性」はこれまで規格要求事項ではありませんでしたが、初めてルールとして出てきたのです。

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義務として何をしなければならないのかというと、規格要求事項の文言にあるように、環境方針の中に生物多様性についてのコミットメントを書く、組織の状況に関連するその他の固有なコミットメントに生物多様性を含む、ということです。ISO14001:2015規格要求事項のこの箇条以外には生物多様性という言葉は出てきません。しかしながら、環境方針だけ配慮すれば良いのかというとそうではなく、その他の箇条では、環境影響評価、環境目標、リスクと機会等で生物多様性を考えなくてはなりません。本日は、FAQをこちらでまとめてみました。

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さて、今回のISO14001:2015の大きな改定の一つ、それはリーダーシップつまり、社長、事業所の所長、あるいは工場長などトップマネジメントに関することです。トップマネジメントがこれまでISO14001の中でやるべきことは、環境方針をつくり、資源を用意し、マネジメントレビューを行うという3つだけでしたが、今回9項目に増えました。

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この1番目の項目が重要で、EMSの有効性に説明責任を負うということで、環境方針の中に「生物多様性」を記述するか否かは組織の状況次第ですが、それを記述しなかった場合、審査員からその理由・有効性を聞かれるかもしれません。それに対して説明ができなければルール違反になります。他にも8項目あり、今回から大変トップの責任が重くなりました。

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それから、今までは組織が環境に与える影響を考慮する、という一方向だけでしたが、2015年規格からは組織が環境から受ける影響も考慮する、という方向も出てきました。生物多様性まで考えれば環境から受ける組織の影響というのは幅広く、これを考慮しなければならないというのは大きなことです。

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具体的には、こちらの環境影響評価表の縦軸の項目の評価の一つとして生物多様性が入っていましたが、両方向、つまり縦軸横軸を入れ替えた表も考慮しなければならなくなりました。

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例えば、この表のように、生物多様性が、我が社のプロセスなり商品にどれだけ影響しているのかということは直感的には考えが及びません。ここで一つのヒントとなる方法が、生物多様性を4つの生態系サービスに分類することで、考えやすくなります。

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そしてもう一つ、2015年からやらなければならないこととして「リスクと機会」が、増えました。こちらについても、表の左にある分類で見ていくとわかり易いかと思います。

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ISO改定において、移行するには期限があります。2015年規格が出たのは2015年9月15日ですが、それから3年以内に移行しなければ認証は失効することになります。多くの企業で新規格対応には時間がかかりますので、3年目の2018年に移行が集中することになりそうです。

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環境問題について、本社と事業所の関係についてお話します。元々環境問題は、地域からはじまっており、問題が発生した事業所では具体的に対応し、問題なければ対応しなくても良いという事業所毎の判断で、それはISO認証を取得するか否かも同じ状況でした。

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それが、地球温暖化問題で事業所(個別)から事象者(全社)に対応の範囲が変わってきました。ISO認証があろうがなかろうが、なた事業所規模の大小にかかわらず全社で取り組んで、廃棄物は減量し、温暖化ガスも削減しようと全社全国規模での活動となりました。ところが、その動きがマイナスにも作用してし、各事業所は本社からの指示待ちとなり、各事業所自らがあまり自発的に考えなくなってしまった組織も出てきました。

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ここでISO14001:2015が出てきて様相が変わりました。認証保有事業所は生物多様性を考えなければならず、その状況や課題は地域、地域で異なりますので、事業所ごとに活動を変えなければならなくなります。このように事業所毎に異なる取り組みを進めようとした場合に、企業の本社としては、各事業所と取組可能な相手先が全国規模で網羅的に見られるようなマッチングシステムが欲しくなってきますが、全国47都道府県を網羅するような仕組みは実はほとんどありません。

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しかし、国土緑化推進機構では、全国横断的な情報提供をしております。「森ナビ」や、「緑の募金」を参照するよう、企業の本社が各事業所に連絡し、各事業所がこれらホームページなどを見れば自分の地域ではどのようなことができるかという参考情報が得られます。森ナビでは、全国の提携可能先を網羅しております。(http://www.morinavi.com)また、森ナビでは企業の森づくりサポート制度というものもあり、全国を網羅していますので、本社からは各事業所にお勧めしやすいのではないでしょうか。
また、FAQをご紹介します。

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これまでは企業向けのお話をして参りましたが、最後に企業の周りにいらっしゃるNGO、NPOそれから、政府・自治体、学校の方にお願いをしたいと思います。ISO14001が改定され、これから3年の間に認証を移行しなければなりませんが、生物多様性に対して何ができるのか、何をすればよいのかわからない、困っているという企業がほとんどです。しかし何かしなければならないという苦しい状況ですから、各企業はどんなことでも良いので、提案・アイデアが欲しいのです。

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また、NPO、NGO、政府、自治体、学校がISO14001の認証を持つ企業を見つけるのも簡単ではありません。JAB:公益財団法人 日本適合性認定協会 http://www.jab.or.jp/という、日本に唯一の認定機関のホームページに都道府県別のISOを持つ企業のリストが掲載されています。みなさまの地域でISOを持っている企業を探せますので、調べて、アプローチして、協働する提案を企業にしていただければと思います。

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これから、企業と各地のNPO、NGO、自治体、学校が一緒に取り組まなくてはならない時代が現実的に訪れたということです。ご清聴ありがとうございました。