『地方創生・CSV時代の「企業の森づくり」フォーラム』 ~生物多様性の主流化に向かう、森づくり・人づくり・木づかい~を開催しました。

主 催 美しい森林づくり全国推進会議(公社)国土緑化推進機構
共 催 経団連自然保護協議会

fs_forum2016_03_01_161近年、地方においては活性化のための総合戦略がたてられるとともに、企業においても事業活動を通じて社会的課題の解決に取り組むCSV経営が指向されています。また、環境問題への高まりを受けて「ISO140001」の規定が改訂されるなどの動きが見られます。

こうした中で、「新国立競技場」が“木と緑のスタジアム”として建設されることとなるなど、林業・林産業の振興や地方創生、地球温暖化、環境問題への対応につながる、“森づくり”や“木づかい”が活性化していくことが期待され、そこで果たすべき企業の森づくりへの期待は大きなものがあります。

そこで、地方創生・CSV時代を踏まえた、人づくりや木づかいと一体となった新たな「企業の森づくり」のあり方を議論するために本フォーラムを開催するものです。

開会・挨拶
15:00
基調報告
15:10~16:05
  1. 地方創生・CSV時代の新たな森づくり・木づかい
    赤池 学CSV開発機構 理事長、ユニバーサルデザイン総合研究所 所長
  2. ISO14001:2015における生物多様性の考え方と必要な企業の対応
    中井 邦治経団連自然保護協議会 事務局次長
  3. グローバル人材育成に向かう教育政策と森林ESD
    山下 宏文京都教育大学 教授、森林ESD研究会 座長
事例報告
16:05~16:25
  1. 地方創生時代の企業協働の森づくり~学校での木づかいと森のようちえん~
    山田 夕紀美濃加茂市 産業振興部 農林課 里山再生係長
  2. 中間支援組織がつなぐ、企業支援による学校の森づくり・木づかい
    野田 真幹NPO法人もりふれ倶楽部 理事・事務局長
パネル
ディスカッション
16:25~17:25
閉会挨拶 17:25
  •  梶谷 辰哉公益社団法人国土緑化推進機構 専務理事

パネルディスカッション

地方創生・CSV時代の企業の森づくり・人づくり・木づかい

《パネリスト》

  • 赤池 学CSV開発機構 理事長、ユニバーサルデザイン総合研究所 所長
  • 中井 邦治経団連自然保護協議会 事務局次長
  • 山下 宏文京都教育大学 教授、森林ESD研究会 座長
  • 山田 夕紀美濃加茂市 産業振興部 農林課 里山再生係長
  • 野田 真幹NPO法人もりふれ倶楽部 理事・事務局長

《モデレーター》

  • 宮林 茂幸美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授

 

fs_forum2016_03_01_256宮林本日は時間が限られておりますので、論点を整理させていただきました。まず、CSRから大きくCSVに変わりつつある、という点と企業のISO問題で、環境評価の中身が生物多様性に関して大きく変わってきていること。そして、文科省の人材育成教育の中でも価値観を転換する教育論が議論されており、特に、森林ESDへの期待が高まっているというお話があり、さらに2つの事例紹介がありました。このように、ここに来て企業のCSR、ISO基準、そしてESD等において価値観の転換が進んでいることについて確認したいと思います。

二つめには、それらを踏まえて、これから企業の森づくりをどうやって推進していけばよいのか、また事例でもあったように様々なニーズがあるようですので、そのことについても議論を深めていきたいと思います。

そして三つめは、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されますので、これに向けた日本のありようの転換についてです。全世界に向けて日本の位置づけを明確にするとともに、日本がこれだけ環境を重視してきている国であるということをアピールする大きなチャンスであること。そして、生物多様性の10年の動きが節目となりリンクしますので、2020年に向けた森づくりや木使いのありようについて議論できればと思います。

そして四つめには、これらを国民運動として展開していくときに企業の森づくりをどうすべきか、という議論でまとめたいと思います。

まず、赤池さんにお伺いします。CSRからCSVに転換して、「ウッドデザイン賞」でもみられるように、独自性のある新たなイノベーションが出てきているということでしたが企業の方向性、可能性についてお話しいただけますか。

fs_forum2016_03_01_269赤池皆様のお話の中に協働という言葉がでていましたが、企業のメリットを考える前に、林業自治体であるとか林業エリアの事業者がどうしたら企業を利用できるのか、ということをもっと考えることが大切ではないかと思います。島根県の例では1万円の賛助金という話がありましが、お金だけでなくもっと多くを望んでもいいのでないでしょうか。それは、西粟倉の例を出しましたが、無印良品が関わってきたときにその商流を利用するだけでなく、売れるデザインとは何なのかというノウハウが林業エリアに蓄積されていく、そのようなことまで意識していくことがCSV時代の企業活用の第一歩ではないかと思います。

宮林企業はノウハウを持っているので、積極的に売り出していく強さがこれからの時代に必要ということですね。では、中井さん、ISOの中身が変わり、企業はそれにきちんと対応していかなければならない時代となってきたと理解しましたがいかがでしょうか。

fs_forum2016_03_01_262中井まさにその通りです。ISOの話をしましたが、実際ISOを持っている企業では、本音の悩みが2つあります。一つは、事務局は一生懸命頑張っているけれどもトップマネジメントが今ひとつ乗り気でないという企業も一部には存在します。もう一つは、本社が一生懸命やっているけれども、事業所がなかなか前向きに考えてくれないという企業もあります。各企業のISO事務局の方には、それらの悩みを解決できるのが、今回のISO改定のメリットだと考えてください。社長にもよりISOを理解し、また生物多様性についても考えていただけるようになると思いますし、全国各地の事業所もこれからは自主的に動くという観点で取り組んでいただきたいと思います。ISO14001ができたのが1996年で、はじめての大きな改訂が2015年ですから、20年に一度しか改訂されていないということは、次の大きな改訂は恐らくまた20年後ですので、NGOや学校や行政は、今回の動きをぜひ捉えて企業のトップマネジメントに積極的にアプローチして協力を得てもらいたいと思います。

宮林大きな転換の中でステークホルダーが分かっていないと困りますので、会社の中で議論をしていただくということが大事ですね。オリンピックに向けた様々な資材の条件にも関わってくることですので、企業、自治体はすぐに取り組まなければならない問題であり、そのような時代がきているというお話でした。では、山下さん、ESD、教育という側面でいうと、これまでと違う総合教育のようなものが大事になってきているということでしたが、企業の森づくりとの関連でいうとどのようなニーズがでてきているでしょうか。

fs_forum2016_03_01_268山下学校の中で総合的学習の必要性が言われたのは、実は新しいことではなくて、平成10年の学習指導要領の時点で総合的な学習の時間というものができて、それを進めてきました。森林環境教育をすることは非常に有意義なのではないかということで、そのときにも働きかけもしました。しかし、それがなかなか定着せず、その後総合的な学習の時間に対して、学力低下という点から批判の目が向けられるようになりました。総合的学習の時間などというよく分からない時間があったから子ども達の学力が低下したのだ、と。そこで学校は、その内容を、子どもたちが好き勝手をしていいということではなく、社会的な課題などに目を向けていくようにと修正しました。

実は少し前までは、総合的な学習の時間がもしかしたら消えてしまうかもしれないという雰囲気さえありましたが、OECDの学力調査が、問題解決能力という項目を新たに加えて調査したところ、日本は非常に良い成績をとったのです。そのことで、日本は総合的な学習の時間で行ってきたことが非常に有効であったということになり、今はそれが見直されてきています。ますます、総合的な学習の時間で育てるような力が、教育が目指している力として見出されてきています。

そのように、学校側も今いろいろと検討している時期ですので、企業の森のような場で教育ができるということになれば非常に学校にとって魅力的なものでありますので、学校に働きかけをしていただき、企業の森を教育の場としてうまく活用できれば、お互い良いのではと思います。

宮林赤池さん、企業と学校が結びついて新しいWin-Winの商品、アイデアの例などはありますか。

赤池山下先生のお話にありました東京書籍を筆頭に、学校教科書は今デジタル化をしています。森林との接点で言うと、生物学、理科、社会、家庭科、科学と人間生活などいずれとも関係があり、東京書籍さんは積水ハウスの様々な技術者にヒアリングをしたり、工場の映像を撮ったりしたものをデジタル教科書につないだりしています。こうした様々な協業の可能性があると思います。

宮林これから社会は、大きく変わってきた環境評価基準問題、それに関わる森づくりといったように総合化して、あるいは連携してとらえる新たな時代に入っており、それが当たり前のこととして捉えられるようになってきているということですが、山田さん、楽天さんとの事例のように、新しいニーズに対する新たな知見などはあるでしょうか。

fs_forum2016_03_01_273山田美濃加茂市は楽天さんのような企業と協定を結ぶのがはじめてなので、これからどんな取り組みを行うかは模索中ではありますが、これまではただ山をきれいにして植林をするだけだったものが、山やその場所にあう整備方法を進めていくとその後の維持管理がしやすくなりますし、その活動が企業のメリットになるのであれば、企業の森として進めていただきたいと思います。今回は楽天さんと提携させていただいて、森のようちえんを実施していますが、美濃加茂市の子どもたちは山で遊ぶことができますし、行政的にはこのような取り組みを楽天さんに発信していただくことはありがたいと思っておりますので、今後もこのような取り組みが拡がっていくと良いと思います。

宮林これは里地里山という概念が世界に通じるようなすばらしいプログラムだと思います。子どもたちがそこで学ぶことで、新しい、ユニークなアイデアを出すような人材がどんどん育っていくと思いますので、もっと企業に売り込む、連携すると良いと思います。

では、野田さんのところでは一生懸命出前授業をされているということでしたが、これまでの話を聞いて新たなアイデアなど出てきますか。

fs_forum2016_03_01_279野田大きい企業に支援していただけるのはいつでも大歓迎でありがたいと思います。島根では先ほどお話ししたように小さい企業がたくさん集まって支援をしていただいていますが、その中で一つ面白い例があります。島根県内の地方銀行が、資金を出すのではなく森林ボランティア団体の事務局を代わりに請け負っていただいています。そのような社会貢献の例もあります。子どもたちへの情報提供などの面でも手伝っていくださっています。

宮林総合的な盛り上がりがとても良いと思います。島根県の企業で木のブロックを展開、発展させたところがありましたが、そのようなところとの連携を進めることもまた友好的な拡がりにつながると思いますのでこれからもぜひ頑張って進めていただきたいと思います。

赤池域内の企業もそうですが、例えばCSV開発機構の会員にソフトバンクさんが入ってまして、そこは有名なヒューマノイドロボットのペッパーちゃんを持っていますが、例えば、野田さんの山づくりや森に対する思いや知識を、そのロボットに移植すれば、森の教育を行うロボットとそれを応援する企業というストーリーが構築できるのではないでしょうか。

野田それは良いアイデアですね。ありがとうございます。

宮林さて次に、これから「企業の森づくり」をいかに森づくり、木材利用、空間利用、総合利用に展開していけるかという議論を進めたいと思います。中井さん、これからは企業としてもCSRに関わるところだけではなく多様な部署が関わってくると思いますがいかがでしょうか。

fs_forum2016_03_01_263中井確かにCSRの専門部署だけでなく、社内の多くの部署が関わるということは非常に大事なことでもあり、どの企業でもそのような流れになりつつあります。ただ、これからは、企業の内部だけの取り組みではないという考えも必要です。過去の失敗例も踏まえてお話しますが、経団連は上場企業が主要メンバーでして、以前、ESD事例集をつくって配布しましたところ、参考になるというお世辞は聞こえてきたものの、皆さんの本音の中には、あの巨大企業だからできることで当社には関係無いという声もありました。なので、生物多様性事例集については、そこまでやっているのかという先進事例を示すとともに、このくらいでも良いのかという初歩的事例も集めないといけないと思いましたが、経団連で説明会をすると、どうしても先進企業の先進事例説明が多くなってしまいます。もし、例えば○○商店の○○さんの事例のように身近な例を示すことで、多くの企業にとってハードルが低くなるのではと思います。

もう一つ、NGOさんや自治体さんにお願いしたいことがあります。私がISOの審査を行っていて、ISOのルール通りに行っていないとか法律に違反していれば不適合となるですが、心情としてはなるべく不適合にはしたくありません。なので、一生懸命取り組んでいて頑張っている企業にはグッドポイント、ストロングポイントを出して上げたいと思いそのような点をさがすのですが、なかなか遠慮をして企業が自らはおっしゃいません。ですので、NGOや自治体と協働する企業の活動例をNGOや自治体のホームページに出したり、例えば企業に発行した感謝状の一つでもあれば、それをISO審査で見せることで、審査報告書に書けますし、企業も喜ぶだけでなく他の部署にも良い刺激になるとおもいます。お金をかける必要はありません。感謝状のような、褒めてもらったことが形になったものがあればさらに企業は前向きに取り組んでくれると思いますので、NGOさんや自治体さんには参考にしていただければと思います。

宮林これは大事な視点だと思います。中小企業がたくさんあって、そのようなところが取り組もうとしても、なかなか具体的にならないということがあると思います。これは、新たにイノベーションという点で赤池さんの取り組み、拡がりを持たせるという点では野田さんの取り組みとリンクしてくると思います。

では、赤池さん、そのようにイノベーションをおこしていくときに、これまでお話のあったような様々な例があると思いますが、これからこのようなことがある、ということはありますか。

fs_forum2016_03_01_271赤池今回、ウッドデザイン賞で積水ハウスをはじめハウスメーカーがたくさん受賞していました。今、スマートハウスだけでなく、スマート+ウェルネスという方向になってきています。そうすると、断熱気密を高めて色々な省エネのシステムを入れていますが、木材がもっている調湿性や感染症の罹患率の低下などを視野に入れた、木(もく)のスマート&ウェルネスハウスも業界の中でどんどん開発されています。キッズデザイン賞にいたっては、建築部門の保育園・幼稚園の受賞案件のほとんどが地域材を使った木(もく)のものです。大手のゼネコンでも木質のマンションをつくる技術開発に複数社が取り組んでいます。そのような流れと産地がどのように手を握っていくのかがポイントだと思います。

宮林先ほど、赤池さんの講演の中に五感や愛着という言葉が出ていました。そのようなところにつながっていくということでしょうか。
さて、山下さん、これまでの学校教育で、環境は多様な科目に含まれており、これから森の中での体験によって様々な科目が関わってくるのではないかと思いますが、そのような連携についてはいかがしょうか。

fs_forum2016_03_01_267山下今、学習指導要領を見てみると、小学校、中学校を通して森林という言葉が出てくるのは小学校の社会科だけです。それ以外はどこにも使われていません。しかし、言葉として登場していない代わりに様々な教科で森林に関することは出てきています。良く知られていませんが、小学校の理科は、平成10年までは、理科の学習に樹木という内容は扱えませんでした。そのような制約がありました。それが平成20年の学習指導要領ではその制約がなくなって、適当な植物を取り上げてという表現に変わりました。ということは、そこで樹木ですとか森林をとりあげることが可能になったのです。しかし、可能になったからといってこれまで扱われてきていませんから、新たにどう扱うのかというと、なかなか難しいところがあります。しかし、理科に限らず道徳でも、昔と違って体験的道徳ということが言われるようになり、自然に対する畏敬の念といったことは実際の場で体験してみることが大事だということで、体験を重視しようということになってきていますので、森林が社会科や理科に限らず様々なところで学習対象として可能性を持ってきているところです。

宮林そうすると、野田さんが行っている出前授業などももっとやりやすくなって様々なことができるようになるのではないでしょうか。

野田まさにその通りで、今も社会科を利用したりですとか、中学の技術の時間を利用させてもらったりとかしていますが、やはり学校側からは科目との関連性をつけて欲しいという要望があり我々もそれにつながるようなプログラムをつくっていますので、これからもっと様々な拡がりが出てくるのが非常に楽しみです。

宮林それと、地域性ということでいうと、山田さん、様々な部署との横の繋がりの中で、企業の森づくりを拡げていく可能性についていかがでしょうか。

fs_forum2016_03_01_276山田私の部署は、農林課というところで農業・林業をやっていますが、実際に今美濃加茂市には里山プロジェクトという職員間でのプロジェクトがありまして、色々な部署から職員が集まって里山再生を考えています。その中の一つである「学校机プロジェクト」は、教育委員会の管轄事業だったので、まず学校の教育委員会にプロジェクトの話をもっていき、教育委員会を経てできたプロジェクトですし、森のようちえんも、こども課という福祉の部署に働きかけています。大学にも働きかけをしていますが、木を使う、木で作る、ならその後の山のことも考えなければならない、また大きいものを作るのであれば、50年後にその建物を作り直すときのために山を守ることも大事である、といったことを大学の先生からも言われています。このように色々な可能性がありそれを企業にお伝えすれば、これならできる、企業側にもメリットがあるといったアイデアが色々とでてくるのではと思いました。

宮林今おっしゃったように、植えて育てて木を使う、という森づくりの循環が里山になければなりません。そのような中で、例えば土木関係の部署や教育委員会に木を使うことの良さを理解してもらい拡がると、市役所の中でたくさんの木材を使っていくイズムが生まれてきて企業のイノベーションにも繋がると思いました。

さて、これまでお話を伺ったように、これからの企業の森づくりとは、一つは多様性で、様々なアイデア、ユニークな展開があり、多くの可能性があることがおわかりいただけたかと思います。

次の論点である、2020年、つまりオリンピック・パラリンピックの年であり生物多様性の最終年度ですが、これに対してどのような目標をもったらいいのかをお伺いしたいと思います。

fs_forum2016_03_01_265中井2020年というと今からまだ五年先に近いわけですが、企業にとって五年後というのは実は考えづらいところです。多くの企業は翌年度の事業計画を具体的につくります。それから、中期計画として三年先の計画を立てる企業もありますが、五年先の長期計画を立てる企業は少ないと思います。

その論点でいいますと、マイルストーンをどこかに決めた方が良いと思います。そのマイルストーンがどこかと言いますと、ISOの観点から言うと2018年の9月です。これはISOの移行期限で、ISOの認証を持っている企業はこの段階までには2015年規格に移行します。私が色々な企業と話をしているところですと、今回の改訂はあまりにも規模が大きいので、とても新しい活動までできない、自分たちのマネジメントシステムを組み替えるだけになるという声が多いです。従って、企業はじめNGOや自治体もあまり多くを期待するのではなく、2018年9月までは色々とお付き合いして、それ以降は新たな動きは環境方針だけでなく活動にも入ってきますので、資金も使えるようになってきます。経団連加盟企業は一般に大きな組織ですので、お金を動かすことが即時にはできず、稟議、申請制度を経て実施します。そのためにサンプル的な活動を積み重ねてから、申請書を作って役員に決裁してもらわないといけないので、2018年年の9月までにはそのような予備的準備をして、その後に大企業を動かします。そのかわり大企業は動きはじめたらすぐにはとまりませんので、末永い関係が生まれるのではと思います。ですので、私はマイルストーン的な考えが必要なのでは、と思いました。

宮林2018年9月というのが大きな節目になるということですね。ところで赤池さん、生物多様性の観点でいうと2020年が日本にとって最終年ということになりますが、それは一つの通過点として、今後、森づくり、人づくり、木づかいはどのような方向に進めていくべきでしょうか。

fs_forum2016_03_01_270赤池これは直接の答えにはならないかもしれませんが、2020年に何がおきるか、というと国家財政や地方財政の破綻でしょう。一方、民間企業をみたときに、例えばハウスメーカーなどの林業系のメーカーは、経営の主体を海外に移してしまっています。そうなると、CSRという観点で森づくりを支援している企業の予算は、高い確度で削減されてしまうと思います。だからCSVなのです。森づくりや人づくりといった公益性がありながら自社のビジネスと両立するようなスキームをつくっていないと、おそらく連携できなくなってしまうのではないかと思います。いま、経営計画の中でCSRからCSVということをいいはじめている企業があります。例えばキリンビールのようにCSV本部という社長直轄の組織をつくった企業もありますので、そういった企業を探して、そこに対してどういったCSVの連携事業が成り立つのか、という提案の仕方を林業自治体のみなさまもお考えになった方がいいのでは、と思います。

宮林2020年どころではない、世界的にみても日本は大変なことになっていますね。なので今すぐCSVに転換していく必要があり、それはWin-Winを基本とするということですから、今がまさにはじめるときだ、ということと思います。では、山下さん、教育の面ではいかがでしょうか。

fs_forum2016_03_01_266山下学校には、企業は営利目的だからその宣伝になるようなことを教育で扱うのはよろしくない、という意識がまだあると思います。ですので、もっと企業がCSVということを教育にアピールしていくことが大事だと思います。教育への対応、ということであれば、2020年は、新しい学習指導要領の実施の年であり、今年は学習指導要領、中央教育審議会答申がでるなど、一番大きな動きがある年です。

その後に教科書の編集がはじまりますが、教科書での扱いというのは20年、30年遅れていると思います。森林の扱い方については平成元年の学習指導要領から今日と同じになっていますが、大事な森林を守る上でそれを育成する仕事、人、ボランティアが大事であるという扱いをするようにとなっていたのに、その趣旨がきちんと教科書に反映できたのは、ほんの最近、昨年あたりからのことです。その前まで私は、それぞれの守り方があるので人工林と天然林を分けなければいけないと提言してきました。しかし、1990年頃の日本環境教育学会で、林業が日本の森林を守る上で重要な役割をしていると言ったところ、何を馬鹿なことを言っている、林業は自然破壊以外のなにものでもないといった総反発にあいました。結局、学校は徐々にそれを変えてきて、今回ようやく転換できたのです。今回は人工林と天然林を分けて、人工林は手入れをして守っていかなければならないという記述になったのです。

なので、CSVという立場からは教科書に対して、このようにして欲しいということではなく、我が社ではこのような取り組みをしているといった情報を提供すると、教科書作成の会社はそれを教科書の内容として取り上げることもあります。それと、学校地域協働本部というものもありますから、このようなことを学校でしたらどうですか、我が社の森でこのようなことができます、という提案をしていってはどうかと思います。

今まで日本は教育の内容といえば教育委員会や文科省が決めてそれを行うという感じでした。以前ドイツのごみの分別を熱心に行っている地域に行ってそこの学校でどのような環境教育をしているのか尋ねたところ、環境教育は大事だから私たちもやらないといけないと思っている、地域からもやれという圧力がかかっている、と答えが返ってきたのです。つまり、地域から学校という流れがあるということです。なので地域から積極的に提案、働きかけをするのも良いと思います。

宮林2020年に学習指導要領が転換するけれども、やれるところからやっていく、地域から盛り上げていく必要があるということですね。では、本日のテーマにも含まれる地方創生について、企業版ふるさと納税という制度ができました。これについていかがでしょうか。

中井新しい制度ですが、法律や制度が変わったときは企業も取り組みやすいと思いますし、資金的援助はありがたいと思います。

赤池木産品だけでなく色々な取り組み方があると思います。知恵を出せば、例えば森林体験旅行など様々な手があると思います。

fs_forum2016_03_01_258宮林なるほど、これで国民が森林への関心が高まっていったとき、たとえば健康保険と組み合わせることなど様々な可能性があると思いました。では最後の論点です。

これまで、新しい企業の動き方、森づくりに対する関心の持ち方が変わってきていること、2020年問題があるけれどもそれを待たずに早急に動き出すべき時代に来ていること、当面は2018年のISOの移行期があり、待ったなしの状況であるというお話がありました。では、グリーンウェイブもそうですが企業の森づくりや木づかいを国民運動として拡げていく、発展させていくための良いアイデアがあればお伺いしたいと思います。

赤池私はウッドデザイン賞の審査委員長の前に、キッズデザイン賞の審査委員長を過去8年間やっていましたが、まずは子どもを動かしたい、と思うのです。私は公益財団法人科学技術広報の理事でもあり、この財団は文科省系の研究機関や日本中の自然科学館とネットワークして色々な教育コンテンツを発信していますが、その一つにプラネタリウムがあります。全国のプラネタリウムに天文のコンテンツだけ発信しているのはもったいない、ということでそれを海や深海の映像にかえるマリネタリウムというコンテンツ開発を手がけています。そこで、日本全国の自然科学館でその地域の林材や森づくりの取り組みやそれを支援する企業の実践を写す“モリネタリウム“を発信し、全国の自然科学館やプラネタリウムを地域で、親子で学ぶ地域教育の拠点として活用するということを思いつきました。

fs_forum2016_03_01_264中井企業版のふるさと納税について、これは、企業がみずからふるさと納税を使う、ということもありますが、企業としては制度が変わるときはビジネスチャンスと捉えますので、第三の企業がふるさと納税を使ってある地域に納税するときに、自分たちの製品やサービスを取り入れられないかというビジネスの考えが出てきます。また、企業において悩ましいのが、NGOや自治体と協働し、ボランティア休暇をつくったり、費用を負担する制度があっても、参加する役職員、しない役職員がいつも決まってしまい中々人数が増えないということがあり、動員する役職員を増やすのはとても難しいです。一億総活躍社会と言われる反面、高齢化社会でもあり一億の内の多くが高齢者であることを考えると、社員向けである企業のボランティア休暇・支援制度を、社員の家族も使えるような制度にする、家族の活動費用の一部を企業が負担するという案もあると思います。自治体やNPOにとっても、地域住民である高齢者を、企業からの派遣とすると企業との連携になりますし、おじいさんおばあさんは、孫と一緒に活動できるとなると喜んで参加すると思います。そのように高齢者を企業としても活用するような制度を取り入れていくようなことがあっても良いのではと思います。

宮林日本全体の労働人口は足りなくなってきます。若者、実年層、お年寄りそれぞれの労働が繋がって総合的な仕事にしていくということを考えなければいけない時代がきていますね。これは大きな問題で重要な課題だと思います。山下先生、企業・NPOと色々な連携ができてますが、そのような協働の中でESDを具体的にすすめていくにはどうするべきでしょうか。

山下ESDと森林環境教育がどのように違うのか、というと実はESDというものが出てきて曖昧になってしまっている気もします。要は、持続可能な社会をつくっていく、そこに向かった教育という意味ですよね。なので、ESDを進めるという考えではなく、ESDという考え方に基づいて環境教育、森林環境教育、平和教育を進めていくという考えの方がわかりやすいのではと思います。その観点で、ESDが学校のなかでどのように進んでいるかというと、理念についてはだんだん浸透してきているものの、具体的に何をするのかということになるとまだ曖昧です。なので、ESD自体をちゃんと学校に定着させる上で、森林環境教育を行うことが非常に有効である、それを行う場としての森林、また日本の国土の三分の二が森林であるということもあって、森林環境教育は重要な役割を果たせると思います。

宮林いまは、ESDという言葉が前に出すぎていますが、本来の理念が大事だということですね。森林体験や木材の使いようが大事な役割を持っていますし考え方を整理していく必要があるということでした。さて、最後にこれから森林を通して企業を呼び込んでいく上での希望、要望があればお伺いしたいと思います。

fs_forum2016_03_01_275山田私たち行政の中でも山の活用、利用について考えていますが、子どもたちや高齢者の方に山に入っていってもらって色々な体験をしてもらったり、昔の人は山を守っていかなければいけないということを教えてくれていたおかげで今までは山がきれいだったけれども今はそのような場がないので高齢者の方が子どもたちに教えられるような場を提供したりしたいと思っています。

それ以外にも、企業から、この山をこんな風に活用できます、こんなこともできます、といった働きかけ、提案をしていただいたり、こちらもアドバイスをしたり、とお互い情報交換ができると良いと思います。

fs_forum2016_03_01_280野田私たちのような森林NPOは全国で活動して10年くらい経つと思いますが、これまでの地を這うような活動のおかげで人脈、学校の先生達との交流がたくさん生まれました。そんな中で、その地域限定かもしれませんが、企業がその森を応援したいということでしたら、ご相談いただければ様々なことが提供できるということを自信を持って申し上げます。

それと、私たちのNPOは会員140名と島根では会員数が多い方ですが、会員のほとんどは企業戦士として活躍した方々の退職組です。そのような人たちが60歳からチェーンソーを覚えて森林ボランティアで活躍したり、学校においても、小学生は元より高校生にも、晩年に森林の大切に気付いたその人の人生を語ってもらうことでとても伝わることがあったりしています。我々はいつでも待っておりますので、ぜひお声がけいただければと思います。

fs_forum2016_03_01_259宮林ありがとうございました。まだ議論は尽きないところですが、結論としては、すぐに動き出さないとならないこと、私たちは先祖から預かった森林を良い状態で次の世代に渡さないという責任があります。そのような中で、今日の森づくりや木使いあるいは環境教育については、基本的には何故かという理念が大事である。そして現代は理念が薄れると共に価値観が大きく変わってきており、それぞれを総合化してとらえることが重要であること。

具体的には、これまで専門家にまかせていれば良かったものが企業までふまえた国民運動の中で進めないといけない時代になったこと、同様にISOの転換、木づかいのイノベーション、環境教育ESDといった分野において、大きく転換する時代を迎えており、多様な分野を連携させながら対流するような総合化を全員でスタートして新しい森づくり、木づかいに向かっていく必要があること、それを進めることが美しい森林をつくることであり、次世代に良い社会を渡すことになり、良い環境を持続的に守ることに繋がる。その姿勢を2020年に世界にアピールすることが地方創生にもつながるということ、ではないかとまとめさせて頂きます。

時間がタイトで十分な議論ができませんでした。申し訳ありませんでした。パネリストの皆さんに大きな拍手をお願いいたします。

fs_forum2016_03_01_285