主 催 | 美しい森林づくり全国推進会議、林業復活・地域創生を推進する国民会議 | ||
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共 催 | (公社)国土緑化推進機構、(一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC、経団連自然保護 協議会、(NPO)活木活木森ネットワーク |
昨年、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」や気候変動枠組み条約の「パリ協定」などにおいて、森林の持続的な管理・利用の重要性が示され、我が国で開催された「伊勢志摩サミット」でも、持続可能な森林経営や違法伐採対策の強化が成果文書に盛り込まれ、我が国では本年5月に「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」が制定されました。
また、日本国内においては、戦後造成された人工林資源の成熟とともに技術開発やデザイン性の向上、IT化の進展を背景として、「新国立競技場」が木材を多用した“木と緑のスタジアム”として建設されることが決まるなど、我が国が有する豊富な森林資源と「木の文化」を活かした、持続可能で低炭素型の自然共生社会づくりの気運が高まっています。
このような中で、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を見据えて、企業による「森づくり・木づかい」の新たな可能性や展望を切り拓くために、多様なセクターとの連携・協働の進め方について幅広く議論するために、シンポジウムを開催します。
開会・挨拶 |
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基調報告 |
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パネル ディスカッション |
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主催者挨拶
出井 伸之 美しい森林づくり全国推進会議 代表
みなさんこんにちは。出井でございます。本日、第10回となる美しい森林づくり全国推進会議を開催しましたところ、本当に多くの方にお集まりいただきました。御礼申し上げます。この運動が始まってから早10年目となります。私はソニーという企業の経営をしていましたが、10年前、これからは全く違うことをやろうと思ってこのお話をお引き受けしたとき、当時の安倍首相がお見えになったのが昨日のことのように思い出されます。この10年間には色々な変化がありました。本日、共同主催でもあります「林業復活・地域創生を推進する国民会議」の三村さんがお見えになっていますが、鉄鋼業界のトップである三村さんが日本の林業を変えていくということにどれだけご苦労をされてきているかも存じております。
この10年間で世界的にみても、森を大切にするという意識が非常に向上してきました。それから様々な法制度も整いました。先のG7伊勢志摩サミットにおいても、森の維持などの重要さについて文言化されるという非常に画期的なことがあったりと、色々な点で大きな変化が起こっていることは、ひとえに関係しているみなさまのご努力の結果と思います。
さて、世界の変化はものすごいスピードでおこっています。明治維新から終戦までおよそ100年かかっています。その間日本では戦争があり終戦を迎え、それから50年経った1995年くらいまでは高度成長をしてジャパン・アズ・ナンバーワンといわれるように非常に強い国としてありました。そして、インターネット技術が一般的に産業に使われるようになってから25年経ちました。このように100年、50年、25年とパラダイムの変化は倍速で起こっています。これが本当なら、次の変化は12.5年後ということになります。ということは、2027年頃に日本に技術による大変化が起こると言えます。この技術の変化の早さに対して、森のサイクル、つまり木を植えてから使うまでの期間というものは非常に長いものです。ここ5年の間の技術の変化には凄まじいものがありますが、林業はというと長い目で取り組むものです。日本の森が素晴らしいのは、明治維新前の江戸時代や戦後に、先人が頑張って木を植えたことの成果ですが、それをこれからどう考えていくか、ということは非常に難しい問題であります。
本日は、森や木の話と同時に、日本の産業構造の変革をどのように考えるかということをざっくばらんに話し合えば、大きな視点からディスカッションができるのでは、と思います。本日はどうぞよろしくお願い致します。
三村 明夫 林業復活・地域創生を推進する国民会議 会長
ただ今ご紹介にあずかりました三村です。私は、新日本製鐵の社長、会長を務めておりましたが、競合材とも言える木材になぜ興味をもったのかをまずお話しいたします。
私どもは鉄鋼業界を中心に、東京都横断道路や四国連絡橋などの大規模プロジェクトを10年、20年かけて推進する、JAPICという組織を運営しておりました。しかし、時代の変化とともに、日本に存在する資源を最大限活用して日本の成長に役立てようということになりました。そして、どのようなことがプロジェクト対象になるのか、を議論していったところ、その一つがEEZ(排他的経済水域)における資源の開発で、もう一つが日本に資源として十分に存在していながら活用できていない、林業ということになりました。林業を活性化し、産業化し、8,000万立米といわれる輸入木材に対して、育ち続け膨らんでいる国内の森林をなんとか日本のために役立てよう、と考えました。そのようなプロジェクトを私どもは10年以上前から行ってきたわけです。
当初は賛同者も少なく、活動も活発ではありませんでしたが、林野庁にだけ働きかけるのではなく、国民会議として民間中心で運動をもりあげてまいりました。途中、偶然にも出井さんも同じ運動をしておられるということを知りまして、国民会議にもご出席いただくことになり、2つの組織が見事合体して今回のシンポジウムにもつながったと思います。
林業は、ただ単に用途を拡大するということだけでなく、同時にサプライサイドの体制を整えることも重要だと考えております。サプライサイドは、木材を大量に安定供給できる、規格がしっかりしている、なおかつコストが安くできる、という3つの条件がないと、需要だけ作りあげてもなかなか永続的に進みません。このため、需要と同時に供給体制を整えることが非常に大事だということを、何度も林野庁に提言して参りました。
そして今年5月に、我が国の林業政策の基本方針を示す「森林・林業基本計画」が閣議決定され、木材産業の競争力強化、新たな需要の創出、さらに原木の安定供給体制の構築を強力に推進していくことが打ち出され、新たなスタートが切られました。加えて、今回、森林法の改正によって林地台帳、共有林の持分移転の手続きが整備されたことは、今後の安定供給に大きく貢献するものと思います。林業は大規模化を進めなければいけないのですが、これまで誰が具体的にその土地を持っているのか分からず、持ち主が確定していないため大規模化が進められないという、非常に基本的な問題がありましたが、今回の法改正でこの点が解決できると思いますので基本的な条件が整った、と考えております。また、林業4団体の方々と対話をさせていただきましたが、利用拡大及び安定供給体制の確立に向けて、お互いに手を携えて具体的な対策に取り組むことを宣言されております。
このように、年を追うごとに、うれしいことに目にみえて林業関係者の結束と活動が進んでおり、産業団体・学会・NGO等のメンバーの連携も広がっています。私どもの国民会議も本日のディスカッションに参加される日本経済研究所の鍋山さんをリーダーとして、川上・川中・川下の有識者の方々に集まっていただき色々と検討した提言を、今年の1月に公表させていただきました。
それは3つからなります。1つめが、国産材の需要創出によって循環的な利活用策を早急に具体化する、2つめが、地籍の明確化による大規模集約など多様な森林マネジメントを行う、3つめが次世代の人材育成を通じて国民に愛される森づくりを行う、というものです。
私たちは、「美しい森林づくり」を実現するのはもちろんのこと、本格的な利活用期を迎えた国産材を最大限に活用して林業の復活を通じた地域の創生を実現するため、全国のみなさまと手を携えながら国民運動の輪を全国津々浦々まで広げて参りたいと思います。
本日の基調報告ならびにパネルディスカッションにおいては、企業による様々な先進的取り組み事例が紹介されると伺っております。ぜひ、会場のみなさまにも議論に積極的に参加いただき、森づくり、木づかいのヒントをつかんでいただくことを強く期待しております。本日、ご参加の皆様方の一層のご理解とご協力をお願い申し上げて私の挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。
来賓挨拶
今井 敏林野庁長官
ご紹介いただきました林野庁長官の今井でございます。グローバル時代の森林 CSV シンポジウムが開催されるにあたりまして、一言ご挨拶を申し上げます。
まず始めに、本年4月に発生しました熊本地震、そしてこの度の九州集中豪雨によりお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、被災された方々に対しまして、心よりお見舞いを申し上げたいと思います。一日も早い生活の再建と復興にむけて、林野庁も全力で取り組んで参ります。
さて、本日は美しい森林づくり全国推進会議と、林業復活・地域創生を推進する国民会議による「グローバル時代の森林CSVシンポジウム」がこのように多くの皆様方にご来場いただき開催されることを心からお喜び申し上げます。美しい森林づくり全国推進国民運動も本年で10年目となります。この間、森林づくり活動の裾野を拡げるため、多くの民間団体で構成される美しい森林づくり全国推進会議のご努力により、フォレスト・サポーターズの創設、普及や、多くの企業による森林づくりへの参加促進、木づかいの重要性の普及などに取り組まれてきていると承知しており、その理念は確実に多くの国民の方々に広まってきていると考えております。
今後は、これらの取り組みをさらに発展させるために、より多くの企業のみなさまに、それぞれの企業の特色、得意とする分野を活かしながら森林づくり活動に参画していただくことが期待されると考えております。
あるベビー用品メーカーの取り組みですけれども、「育児と育樹、心はひとつ」というのをスローガンに、顧客である乳幼児との関係を重視して、乳幼児のための誕生記念育樹キャンペーンとして、広葉樹の植樹・育樹を長年にわたって行い、さらにその活動を通じて顧客と地元地域の交流が生まれ、地域振興にも貢献しているという取り組みがあります。
また、ある飲料会社の取り組みでは、工場でくみ上げる地下水よりも多くの水を生み出す森を育むということを目標に、大学の研究機関の協力も得ながら天然水の森林づくりを行い、若い森林技術者の育成とともに、知り得た知見をホームページに公開し、「天然水の森」にとどまらず、全国の森林の健全化に貢献している取り組みもあります。
そして、ある飲食会社の取り組みで、鹿の食害に悩まされている地域において、自治体や地元猟友会と協力して鹿肉カレーの開発・販売を行い、好評を博するとともに、鹿の食害の減少に貢献している取り組みもあります。
このように、それぞれの企業の特色を活かして森林づくりに貢献する取り組みも行われ、かつその取り組みは年々進化しており、今後より多くの企業に、美しい森林づくり推進国民運動に参加していただき、まさに国民運動のうねりとなって、さらに力強く運動の取り組みが拡がっていくことを切に期待している次第であります。
戦後、我が国の多くの森林は荒廃し、はげ山の状態のもの見られましたけれども、国を挙げての緑化活動により積極的に植林を行った結果、現在では豊富な森林資源を持つに至り、そしてその資源は本格的な利用期を迎えております。森づくりや木材の利用は今、地球温暖化防止や地域創生などに重要な役割を果たす切り札として、各方面から大きな期待が寄せられています。この期待に応えるためにも、この豊富な森林資源を循環利用しながら新製品の開発や木材利用の促進により、木材需要の拡大を図るとともに、国産材の安定的な供給体制の構築に努め、林業の成長産業化を実現していくことが極めて重要なことであると考えております。
森林づくりや木づかいは、植えて、育て、伐って、使って、また植えるという、まさに循環の営みであります。従いまして、直接、森林・林業・木材産業に携わる関係者はもちろんのこと、木をつかう最終需要者である多くの国民のみなさまや、幅広い業種のみなさまの積極的な参加・協力が不可欠であります。都市部をはじめとして、日本中で木づかい運動を進めることで山村に雇用が生まれるとともに、収益や人材などが循環して、地域の森林づくりにつながり、そしてさらに、森林づくりが雇用の創出や地域の活性化に繋がります。まさに、森林づくりと木づかいはこの循環を生み出していくものです。