『グローバル時代の森林 CSV シンポジウム』 ~2020 年を目指す、企業による「森づくり・木づかい」の新たな可能性と課題~を開催しました。

主 催 美しい森林づくり全国推進会議林業復活・地域創生を推進する国民会議
共 催 (公社)国土緑化推進機構、(一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC、経団連自然保護 協議会、(NPO)活木活木森ネットワーク

sympo201607-all昨年、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」や気候変動枠組み条約の「パリ協定」などにおいて、森林の持続的な管理・利用の重要性が示され、我が国で開催された「伊勢志摩サミット」でも、持続可能な森林経営や違法伐採対策の強化が成果文書に盛り込まれ、我が国では本年5月に「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」が制定されました。

また、日本国内においては、戦後造成された人工林資源の成熟とともに技術開発やデザイン性の向上、IT化の進展を背景として、「新国立競技場」が木材を多用した“木と緑のスタジアム”として建設されることが決まるなど、我が国が有する豊富な森林資源と「木の文化」を活かした、持続可能で低炭素型の自然共生社会づくりの気運が高まっています。

このような中で、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を見据えて、企業による「森づくり・木づかい」の新たな可能性や展望を切り拓くために、多様なセクターとの連携・協働の進め方について幅広く議論するために、シンポジウムを開催します。

開会・挨拶
基調報告
  1. グローバル時代の日本の“森づくり・木づかい”最前線 〜法律改正から ICT 技術の活用によるイノベーションまで〜
    本郷 浩二林野庁森林整備部長
  2. グローバル時代の森林CSV 〜G7 伊勢志摩サミット後の企業による森づくりと木材利用〜
    藤田 香日経エコロジー/日経BP環境経営フォーラム生物多様性プロデューサー
  3. 森づくり・木づかい”の「見える化」促進に向けた IT 化の最前線
    川崎 貴夫東京大学大学院 農学生命科学研究科
パネル
ディスカッション

sympo201607_panel27宮林日本の価値観はずいぶん変わってきました。特に、技術論と関わって大きく転換していると思います。例えば、囲碁でコンピューターが人間に勝ったというニュースに驚かされたときに、コンピューターが何でもできて、人間がコンピューターに支配されてしまうのではと思いましたが、いかにコンピューターといえども森林や自然の価値観、森林と人間の複雑な関係を理解することはできないのではないでしょうか。

では、本郷部長にお伺いします。日本の森林の歴史をみると先人が苦労して一本一本植えて育ててきて、ようやく伐ろうとしたときに、木材利用のあり方が大きく転換するとともに、森林への関心も環境機能が重視されるようになり、大きくは木材価格が大大幅に下落するなど、植林したころの時代とは変わってしまいました。今日では、成熟した森林資源を伐って、使っていかなければならない時代といえますが、また、かつては天然林から伐出する木材を利用していましたが、現在は、植林して保育してきた人工林から生産する、いわばはじめて自ら植えた木を使っていく時代に入りました。法改正を含めそれらの変化についてどうお考えでしょうか。

sympo201607_panel12 本郷 おっしゃられたように、これまで自分の植えた木を伐った人があまりいないというのは事実です。2000万ヘクタールの人工林の6,7割は戦後植えたものですので、まだ育てたものを切ったことがない、つまりお金になったことがないのです。森の恵みといいましても木材としての収入をほとんどの方が実感したことがない状況です。なので、我々は先人が植えた木が無駄ではなかった、という状況にしなければなりません。

お金という価値観だけではありませんが、お金にならないと人びとの関心を示すことができませんので、これらをお金にしていかないといけないと思います。ですので、先人の御労苦に応えるためにも、それらをお金にして社会に貢献する、あるいは社会に認めてもらい人工林が無駄ではなかったと言ってもらいたいと思っています。
木材としてお金にするのか、それ以外の方法があるのかということはこれからの選択だと思いますが、木材として地域間競争に負けたからといってお金にならないわけではありません。講演でも述べましたように、森でリラックスする、森で生き返るということをお金にするという方法もありますし、それ以外の商売の方法も色々あると思っています。

法改正は、木材として使えるようにするにはどのようにしたらよいかということを考えて行いました。その中で、森林所有者にお金を還元するために、生産性を上げたり、持続可能にするため循環させたりということに今回特に集中したことをご理解いただきたいと思います。

本日のテーマである企業のCSVの観点からすると、例えば金属業界に木を使ってもらうようなことは非常にインパクトがありますので、経団連のみなさまはじめ企業のみなさまには企業活動の本業の中でどのように木を使っていただくかということを意識していただくことを希望しています。

一方で、地方創生では、木が使われることで地方にお金が回るということに関心がいきますが、都市に住む方々のニーズはそのようなことと全く関係がない部分もありますので、若い人たちがどんどん田舎に入っていって都市の方々が考えているニーズはなにか、必ずしもお金だけではないニーズにどのように応えていけるのか、ということも地方創生の観点からは非常に重要だと思います。今回の法改正にその側面は出てはいませんが、基本計画ではかなり踏み込んでいます。

出井 鉄鋼産業は1985年に大変なピンチを迎えました。過剰生産と円高で、競争力を失ってしまったのです。それを、様々な分野にとりくむ、小さくする、合併するなど大変な苦労をして乗り切り今の鉄鋼業界があります。そのように林業も頑張って変化をしないといけません。

宮林新日鉄の技術の一つに実は林道整備がありました。当初、林道の設計や橋造りなどは大いに新日鉄さんの技術によるものでした。そのような苦労を乗り越えていらっしゃった。文明と文化のうち、文明はどんどん発展しては潰れ、また新たに発展するもので、私たちはあまりにその文明循環に毒されてきたのかもしれません。実は、森林の良さは変わらずずっとあるのに、我々はその見方を変えてしまっているのではと思います。

今、その見方をもう一度変える転換点に来ているというお話が出てきましたが、藤田さんはどのようにお考えですか。

sympo201607_panel25 藤田まさに転換点にきていると思います。私は以前から自然が好きで山登りなどしてきて、かつて従事していたナショナルジオグラフィックという雑誌では自然の中に入って地域の人びとと交流して取材をしたりしていました。当時こうした自然のテーマは一般の人には受け入れられても、企業の経営にとっては縁遠いものでした。ですので、10数年前は、絶滅危惧種や森林、生態系といった自然のテーマは企業経営の雑誌では記事にしにくいものでした。しかし、この10数年でガラリと変わったと感じています。

いまや、自然資本という言葉が普通の企業でも使われたりしますし、若い人の意識も、最近のエシカルブームに表れているように、購入する商品が環境、社会、人権にどのように配慮して作られたかを非常に気にするようになりました。そうした商品を提供することが企業にも求められます。心の問題でも健康経営や森での癒やしを取り入れた環境教育や社員教育、エコツアーといったことが普通に語られるようになるなど、時代が大きく変わったと思います。

私は元々自然派なので、自然の価値を経済価値に換算することへの抵抗感がないわけではありませんが、ただ、その大切さを理解してもらうためには、価値を見える化し、経済システムに組み込んでいくことは重要だと思っています。これは一つの大きなチャンスだと思っています。かつてそのようなことを口にさえしなかったような一般の企業の方々や投資家の方々が、当たり前のように企業の自然資本への対応をみて投資活動に活かすことを受け入れています。CDPのような投資家をバックにつけたNGOが企業の水や森への対応を見て格付けをするということが起きています。大きな時代の変化により、10数年前には全く取り上げられなかったようなテーマが今やメインストリームになろうとしているので、大企業が自然を経済活動の中に取り込んでいくというこの流れを、森林関係の方々もうまく活用して、森づくりや木材利用につなげていくとよいのではないかと思います。

宮林若い人たちの価値観、企業の自然資本への関わり方、それらを見ると大きく変わりつつあるようです。日本にはお賽銭という文化がありますが、がめつく儲けようということではなく、御礼として返していくということもあるのかもしれません。さて、地方創生の話に向けて、林業を成長産業化していく側面と、今お話された内容とは、その価値観は少し違うところにあるかもしれませんが、鍋山さん、地方創生にもう少し踏み込んでいくとどのような形になるのかご意見いただけますか。

sympo201607_panel17 鍋山 九州の黒川温泉(熊本県南小国町)をご存じでしょうか。十数年前から、全国の「もう一度行ってみたい温泉郷」のベスト5に入っています。黒川温泉は露天風呂と植樹が有名ですが、その植樹は、阿蘇山麓の雑木を利用しています。15年前、「木と語りきる」とおっしゃっていた、観光カリスマの後藤哲也さん(当時、新明館主人)が手がけたものです。なぜ、植樹をしたかというと、都市に住む人はIT(コンピュータ)によってストレスがかかる、そのストレスを癒すためには、「木や森の風景を温泉郷につくり出すことが黒川の地域おこしの理念である」と後藤氏は語っています。大事なことは、「森のある自然の空間にいると元気になる」という効用です。地方創生とは、地域にある資源に“何らかの人の手を加える”、その加え方によって、価値が生まれます。

IoT(モノのインターネット)という“バーチャル”な世界の対極にあるのが、自然(ナチュラル)という“リアル”な世界です。太陽(IoT)が輝けば輝くほど影(自然)も強くなります。この自然がないと人間の精神は崩壊してしまいます。その補完性こそが、森林や林業がこれから担うべきミッションなのです。確かに、欧州の人たちは森を歩くとその先に街があるのに対して、日本では森の先には急峻な山しかありません。しかし、それは自然空間の作り方次第ですし、一週間に一日は森に入るというようなライフスタイルを提案していくことが大事です。

宮林大変分かりわかり易いお話でした。地方創生のあり方は、地域を何とか儲けさせてお金を落とそうという話になりがちですが、その裏には人間らしさを養う地方ということがあります。その人間らしさを担保にしながら上手にITを活用すれば良い、本来あるものを維持しながらITのような先端技術を活用し、適正に融合すれば、地域らしさ、人間らしさが出て地方創生に大きく貢献していくというお話でした。
では、新しい森林の産業というものは、どのように考えられるしょうか。

sympo201607_panel07 出井 コンクリート対森、ですね。ニューヨークには自然らしいものが何もありませんが、東京もそのように見えます。シンガポールも同様に人工物でできています。しかし今は全体的に変化がおこっています。私個人としては地方創生という言葉に違和感があります。というのも、今は、地方に問題があるのではなく、日本そのものが沈んでいて、その問題は東京にあると思うからです。東京を世界の一地方だとすれば、この国が金融資本の都市になるということはありません。アメリカは今、金融資本主義でウォール街がずっと幅を利かせてきていますが、金融資本主義に対してクリエイティブ資本主義という言葉があります。そして、自然資本主義という言葉もあるとおり、変わりかけているのです。

決して政府、金融業界、大企業ではなく、一般の人たちがどのように個性を発揮してくるかということにかかっているという結論に至ると思います。グローバル社会と言いますが、これほど疲れることはありません。
日本が独創的で、オープンでありながらクローズな社会をつくっていくことが大事だと思います。私たちは森の力という日本古来のものを引き継いでおり、これほど恵まれている国はないのではないでしょうか。基本的な考え方をみんなで今一度、森で考え直したら面白いと思います。

sympo201607_panel24宮林東京を世界の地方という考えは中々出てくるものではありませんが、そのような考え方をすると、日本独特の価値観が見えてきます。その地域での特有の暮らしや価値観は、そう簡単に壊れるものではなく、それが歴史・文化を築いてきました。その文化に文明が入り込んで来て、その文明が資本主義という大きな流れの中で、どの国も変化せざるを得ませんでしたが、今や世界は、過剰生産や金融資本などの面で行き詰まってきています。そのときに、環境資本主義とでもいいましょうか、生産するとき、そして消費するときに環境を考えるというルールでもって自らの価値観を基層においた、資本主義のあり方があり、その方向に進むことができるのは「森の国」・「木の国」である日本の文化しかないといえます。それを担う林野庁の責任も非常に重いものだと思いますが、本郷部長いかがでしょうか。

sympo201607_panel10 本郷 先ほどの出井さんのお話にありましたが、今、田園回帰と言われる言葉があるように、若い人たちはグローバルなことに疲れているのではないかと思います。それに突き進める人はもちろんいますし、マスコミでもそのような人たちが成功していると言われていますが、そのような指向に疲れてしまっている、どうしてもできない人たちが若い人たちの中に多くいるのではないかと思います。

そのような状況をみながら、地方創生を見たときに、地方に向かう都会に住んでいて疲れた若い人たちは、都会のことを知っていますので、そのような人たちが地方に行ったとき、都会のニーズがなんであるかがうまく伝われば地方と都市の関係をうまくつくることができて、ビジネスのチャンスになったり、オンリーワンと言われる地方の独自性を地域の個性・特性として売り込む、発信することができると思います。そのようなことを森の中で考えていくということであれば、ぜひ進めていきたいと思います。

今、林野庁がやらなければいけないことは、先人が汗水流して守り育ててきた森林の恵みを価値にかえる、ということですので、木材をお金に換えることにプラスして、地方創生という切り口で、色々な道を探る複線化によって森の恵みを活かしていきたいと思います。

出井 企業でも、省庁でもこれは連立方程式と言えると思います。予算をつけて成功させる短期的な取り組みは絶対にやらなくてはいけませんが、将来のビジョンなしにそれを行っても面白くありません。企業であれば足許の利益、将来のビジョンという相反することを行わなければ経営は成り立ちませんし、林野庁も庁としての評価を得る足許のことと、将来のビジョンをどのように国民にアピールするかということを連立方程式で、同時に進めていただきたいと思います。

本郷 ぜひそのようなことを目指して林野庁として頑張っていきたいとおもいます。

宮林日本の約67%の2500万ヘクタールの森林を、将来どうするかというビジョンは林野庁には見えていると思いますが、国民のみなさんにまだ見えていないように感じます。日本が持つ優れた価値でる森林のグランドデザインがどのようになっているのかまだ見えていないように思えますがいかがでしょうか。

sympo201607_panel19 本郷 2500万ヘクタールの森林があるという状況は江戸時代の中期以降ほとんど変わっていないといわれています。日本は元々、森林と湿地しかなかったところで森林があった平地は全て農地や宅地など産業用に開発されていて、傾斜地だけが森林として残っています。2500万ヘクタールはこれからも変わらないと思われます。そのうち、先人達が一生懸命植えて育てた人工林が4割の1000万ヘクタールあります。6:4の割合をこれからどうしていくか、ということが問題だと思います。数字だけの話をすれば、1000万ヘクタールの内、三分の二は林業として使っていける森林として維持していきたく、残り三分の一は、木材を出すという以外別の使い方をしていった方が良いのではないかということで、多様な、モザイク的な要素を持った森林にしていったら良いのではと考えております。そのときに、天然林が6割あるといっても、これは、原生的な奥山の森林だけではなく、手が着かず放置されたまま天然林になっている里山もたくさんありますので、そのようなところをモザイク的に変えていく人工林と一緒に別の価値を見出すことをこれからのビジョンとして目指していくことを基本計画に盛り込んでいます。

宮林基本計画は中々難しく、読んでもよく分からないところもありますが、ホームページでわかり易く説明してありますので、みなさん、ぜひご覧になっていただきたいと思います。みんなで考えると色々な使い方が見えてきます。見える化が大事です。先ほどお話しにもありましたが、この見える化ということは中々難しく、特にITは難しいと思いますが、鍋山さん、その点で良い工夫、方法はありますでしょうか。

sympo201607_panel20 鍋山 SNSの世界では、若い人はじめ、色々な人が反応してきています。また、森と同時に水が大事です。日本では、水資源が天から降ってきます。森の涵養機能によって、質の高い水が味噌・醤油や腸をサポートするヨーグルトなどの発酵食品を作ります。これは米文化と適度な気温との掛け合わせで、世界的にみてもこれほど良い発酵食品ができる地域はありません。たとえば、納豆は、ナットウキナーゼの登場で、輸出商品になりました。水を起点にした加工食品群も視野にいれて、森林という空間の価値をもっと発掘・研磨・表現する必要があります。

宮林森林には多様な機能があって、その機能を大事にすることが森林を大事にすることになるという価値観の大きな転換ですね。

鍋山 セルロースナノファイバーもそうですし、紙の需要は、タブレット等の普及で需要が減るという側面はありますが、GDPとの相関が高いです。これらの分野をもっと深掘りしていくのも一つの方向です。目の付け所です。

sympo201607_panel06 出井 水が大事だということは、全くその通りだと思います。先週、中国・カンボジア・スリランカの3ヶ国を回ってきたのですが。スリランカに行くととても水がきれいです。一方、カンボジアや中国にいくと水がきれいではありません。ですから、このままだと中国に日本の森を買われてしまうかもしれません。仮に日本の森林を海外に売りに出したとするとそのような国に買い占められてしまうのではないでしょうか。言いたいことは、日本の森林は現在の資本主義的理論に基づいて値段がつけられているから安いのであって、これを日本の宝と思えば売ることを制限するなど方策を考えなければならないと思います。そのような視点でみると、例えば北海道の山林など、ものすごい安い値段がついているでしょう。なので、ニュージーランドのように、なんらかの制限が必要だと思います。

宮林価値観の転換に関するお話がありました。私たちは身の回りのことと森林を重ねて、関連づけてきちんと見ていかなければならないし、今は過剰に発展した都市文明の中に、自らの本来の姿勢(ありよう)がのまれてしまっているのではないか、これを見直す必要があるのではないか、ということが大切な視点であると思います。

さて、これから森林づくりを継続していく場合に価値観の転換が必要で、その価値観を共有することになりますが、森林づくりにどのように適応させていくべきでしょうか。その場合、林業はどのように転換していくのかという議論に入りたいと思います。価値観も踏まえた森林づくりをどのように国民運動として展開していくのか、ご意見を伺いたいと思います。

sympo201607_panel11 鍋山 現政権は、ありとあらゆる政策を積極的に実行していく姿勢のようです。森林・林業・木材産業でも、さまざまな行動を起こしていくことが必要です。マクロ的な話になりますが、自然資本の価値でいうと、フローである木材の販売等の経済活動はGDPに含まれていても、ストックとしての計算がなされていません。国連大学などで、森林の無形価値を“見える化”することで、価値を高めていく動きが起き始めています。価値のあるものがあまりにも低く評価されている現状に対して、その問題点をクリアすることは、意外な近道になるかもしれません。

宮林そのあたりはしっかり枠組をつくって考えていく必要がありますね。

sympo201607_panel05 出井 先日、広告代理店を中心としたエンターテインメント業界を元気する、という会合に参加したときに、インターネットのために、エンターテインメント業界は非常に苦しいとききました。例えば、東京でコンサートをやる場所がどんどんなくなっていますので、森の中にコンサート会場をつくって地方の人も参加できるようにするのも良いのではないでしょうか。それと、森の音を世界に発信するというアイディアも、SNSやアプリを使えば広がりがでてくるでしょう。また、商業的な旅館ではなくて、若い人がそこで仕事ができる、分社として使えるような環境を用意すれば移住も促進されるでしょう。

宮林森林は、私たちが考えているよりもずっと深くて、貴重な価値を持っていますね。その恵みは生態系サービスのほかに物質的、科学的にも相当な価値があります。その恵みの一つ、リグニンについて後藤田さんにお話をお伺いしたいと思います。

後藤田 ナノセルロースが注目を集めていますが、木材に含まれるリグニンを低分子化してナノリグノとしましたが、これは植物の力を全てもっているのではと思われます。癌治療などに関わる免疫機能が向上しますし、有害紫外線を防ぐため美容関係にも非常に良いと思います。ナノにするために酸化鉄を利用してリグニンのもつキレート作用を利用しました。ぜひこの分野にご注目ください。

宮林ありがとうございました。

では、最後に、森林・林業のあり方、とりわけ森林づくりに関して皆様に一言ずついただき、藤田さんにコメントをいただきたいと思います。

sympo201607_panel18 本郷 本日の会場は木材会館ですが、鉄やプラスティックなどの資材にとって代わられてしまった木材を私たちの暮らしになんとかそれを取り戻す、また、ウッドファーストと言われるように新しい分野にも木から使われていくようにする、そういったことが林野庁としてまずやらなければならないことではないかと思います。
そのようなことに企業の皆様のご理解もいただきたいと思いますし、企業活動にとってそれにメリットがあるようにしていけば、木材は有望なものでありますし、そのようなご提案をいただけるようにしていかなければと思います。
しかし、森林所有者にとって見えない価値観をお金にするということに理解をいただくことはなかなか難しくて、現実は森林所有者に入るお金が少ないので、木を持っていても仕方が無いから放っているという状況になっています。ですので、どうすれば森林所有者にお金が還るようになるのかということをこれから追求していきたいと思います。

sympo201607_panel04 鍋山 ビジネスモデル的な発想の転換が必要かも知れません。例えば、自動車が売れて儲かった産業は、自動車産業よりも石油産業(ガソリン)でした。石油産業よりさらに儲かったのは、金融(自動車保険)です。ビデオデッキが売れて、電機産業よりも、エンターテイメント産業(映画などハリウッド)が栄えました。同じ産業の分野の人とだけ話をしていると、新しい発見や面白い気づきは生まれにくいのです。様々な産業の人と話をして、面白い着想が得られるのではないでしょうか。

sympo201607_panel22 出井 現代は何でもお金と言い過ぎる気がします。自分の生活を考えてみて、そのうちの出家率という考え方がありますが、自分の中での出家率、つまりどれだけ社会に貢献しているか、を分析してみるのも面白いと思います。私は2年前より、アジアの銀行口座を保有できないような人々に対して金融サービスを提供するマイクロファイナンス事業の支援をしています。これは短期的に利益がでるものではなく時間がかかるもので、出家率の高いものです。
そのように、自身がこれまで行ってきた仕事の内容に縛られず、それ自体を変えていく必要があると思います。リタイアされる方々においても、既存の組織から独立して個の価値で働くことを薦めます。世の中は大きく変わっていきます。もしかするとこれから先、スマートホンの進化により銀行さえなくなるかもしれません。過去に忠実であることは良くありません。未来に楽しみをおけるようなシニアの方々が増えればと思います。

sympo201607_panel15 藤田これまでの話を踏まえて、発想の転換ということがとても重要だと思います。

環境未来都市である北海道下川町では、町の会計を自然資本会計として発表しています。最近話を聞いたところ、FSC認証材を使ったペット用の棺桶をつくっているそうです。愛するペットが亡くなったときに、ちゃんとした木材で送り出したい、という声に応えた木材の活用方法だそうです。

先ほどから、異業種交流が重要だという話が上がっていますが、発想の転換には異業種交流は大事ですね。林業と直接関係がないと思われる業種でも面白い取り組みをしています。飲料メーカーが、自分たちが使う水を涵養するために森を維持、保全したり、地域の方々と一緒に間伐体験をして交流したり、涵養した水の量が自分たちが使用した水の量よりも多くなるようにする取り組みがみられます。ウィスキーの樽を家具に再利用するような、全く想像できないような使い方が出てくることもあります。

それから、鹿・猪などの獣害問題が最近起きていますが、これに警備会社が檻に鹿や猪がかかっているかを確認する人手が大変だということで、ICTを利用して動物がかかると携帯に連絡が来てそれから見回りに行ったりするビジネスも始まっています。そこで捕獲した動物を、新鮮な状態でジビエに使うために、猟師や食品会社などの直接林業と関係ない業種が森林に関わってくるということも出てきます。それから、旅行業の参入も考えられます。自然の体験ツアーなどを企画するエコツアー事業者が、生物多様性や生態系の理解を促すようなエコツアーを実施したら面白いのではないかと思います。例えば、単にきれいな森で癒やされるとか世界自然遺産を見るとかいうだけでなく、楽しく間伐体験をする1泊2日の体験型エコツアーも良いと思います。そのように、異業種との付き合いが新たな森や木材の活用方法を考えるのに非常に重要だと思います。

それともう一つ、これまでは森は森だけ、海は海だけで活動しているようなことが多かったと思いますが、これからは森里川海のつながりが重要だと思います。私は、富山県魚津市出身ですが、地元は高齢化が進み、商店街もシャッター街となってしまっています。そこで、地元の大学と市が協力して、中小企業の社長である若手の商店主や農林水産業の方が新規ビジネスを考えるための起業塾プログラムを実施しています。すると、林業、農業、漁業の方々などがそこに集まって、一緒に学んだ結果、色々と新しい商品が生まれました。例えば、干物屋が、間伐材の容器に干物を入れて、魚津のおいしい水と中山間地の自然農でできたお米をセットにして売り出しました。そのようなつながりが生まれています。

sympo201607_panel14また、富山の氷見ブリは大変有名ですが、魚付き保安林で氷見ブリが育つように、森林側の人とのつながりをもっているそうです。聞いたところ氷見の漁業協同組合の平均年齢は35歳と若いのですが、それは山で生まれ育った人が、最近就職しているということです。氷見では魚資源を取りすぎず、定置網で入ってきた魚の8割くらいが逃げていくような持続可能な漁業の取り組みをしており、ある一定以上の大きさのブリを「氷見の寒ブリ」と呼んで「氷見寒ブリ宣言」として打ち出しています。環境保全のレベルを高く維持しながら、高付加価値をつけて販売して成功しています。

このような森里川海のつながりを利用して高付加価値をつけるという方法も、森林の分野に活用できるかも知れません。

sympo201607_panel26異業種交流、森里川海のつながりの活用に加え、三点目に提案したいのは、木材利用や森づくりに取り組む企業にインセンティブを与えるということです。企業の方々から、社有林の活用方法についての相談が最近とみに増えています。社有林を活用したいがどのような使い方ができるか、簡単な間伐作業だけでなく、なにかできないか、というご相談が多いです。間伐したものを社員食堂で使ったり、内装に使ったりということが増えてきていますが、他にも地域の方々の環境教育の場にしたり、心の癒やしや森林セラピーの場に使ったり、良い使い方があるのではないかと思います。先ほどウッドファースト宣言の話がありましたが、全国木材組合連合会や森林組合連合会が行動宣言を出していて、主に自治体の木材活用を促すためのものと聞いています。これに対して例えば国土緑化推進機構などが旗振り役となって、木材活用に先進的に取り組む企業が「エコファースト」ならぬ「ウッドファースト」企業の認定を受けて、企業の取り組みにインセンティブが与えられるような仕組みなどがもっと広がれば面白いのでないかと思います。企業に対して社有林の色々な活用方法をアドバイスしたり木材利用を後押ししたりできる仕組みがさらに整えられるとよいと思います。

sympo201607_panel16宮林今日は、これから10年の国民参加による森林づくりのあり方について議論を進めてきました。これまでの森林の取り組みは、私たちは本質的なことを置き去りにしてしまったのかもしれません。私たちにとって森林とはどういうものであったのか、森林の価値はなんであったのか、ということを今一度見直すと、意外と身の回りのこと全部が繋がっていることに気付くことになるでしょう。   それを、単にお金に換えるということだけでなく、賢く、循環型に利用することが、新たなイノベーションに繋がっていく、そうした観点から産官民学がうまく連携し、協同研究することによって、それぞれがウイン・ウインの関係を持ち、技術論と体制論が融合した森林づくりという、協働のコミュニティが形成されるのではないかと良いと思います。今、シェアという言葉がはやっていますが、これは昔は、皆が協働で繋がっていた、それは一個人や機関の独占ではなく、それぞれが役割を分担しながら協働することで地域を守ってきたし、地域の文化を形成してきたといえます。つまり、地域を守る、森林を守る、暮らしを守るために、それぞれのセクターが少しずつ分け合いながら、シェアしながら暮らして行けば良いのはないかと思います。森林で言えば、異業種がそれぞれの専門を越えて繋がっていくということ、そのような繋がりをこれから具体的に考えながら、あり方を深めてゆけば、新たな地域の文化(森林文化)に成長していくのではないかと思います。そのようなことを色々な場面で、丁寧に進めていけば、私たちは世界に誇れる森林化社会とも言うべき循環型社会をつくっていくことができるのではないでしょうか。

本日はみなさまありがとうございました。(了)