CSV経営・健康経営時代の「企業×森林」フォーラム― 森と人と地域を元気にする、新時代の「企業の森づくり」 ―を開催しました

基調報告1 CSV経営時代の「森林×企業」

井上 岳一(株)日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネージャー

皆さん、こんにちは。日本総研の井上岳一と申します。名前は世界で一番短い呪いという言葉がありますが、私は八ヶ岳の岳に一と書いて岳一です。実は、こう見えても湘南ボーイで、ずっと海辺で生まれ育ちました。しかし、気付いたらやはり、山や森のことをやりたくなっていました。仕事としては山や、森のことはお金にならず、できないので、自分のライフワークとして細々とやっています。

今日、私がここでお話をする経緯を申し上げます。2000年代になって、CSR、企業の社会的責任、さらに2010年代には、CSVがいわれるようになりました。CSVは、共有価値の創造と訳されますが、社会にいいことをしながら、企業の本業にきちんと裨益するようなことをやろうということです。これは民間のお金を森林に引き込む良いチャンスであるとして、林野庁さんがCSVという概念に注目をされました。そして、従来のCSRとは異なるCSV的な森づくり、森との関わりを取りまとめて、広く一般の方にお伝えしていこうということで、林野庁さんの予算を使って、その取りまとめを私が担当しました。そんなご縁から、今日、お話しすることになりました。

この『企業事例で見る森のCSV読本』は、実は、印刷物ではなく、ウェブ上で自由にダウンロードできるものです。林野庁さんのホームページの、『企業による森林づくり・木材利用』という所にありますので、自由にダウンロードしてご覧ください。

それでは、森のCSVとは何かということをお話しします。平たく言うと、森づくりや森と関わることをしながら、企業価値を上げていくようなことをしようということです。そこでのキーワードは物語作りです。企業が森に関わるある種の物語をきちんと作っていかなければなりません。その物語作りこそ、価値づくりではないかというコンセプトで取りまとめました。

企業の森への関わり方には3点の大きな軸があるのではないかと考えます。1点目は、森の恵みに生かされるということです。森の恵みとしては、木や水が代表的なものですが、それ以外にも、山菜、キノコ、最近では食肉、ジビエ等もあります。また、災害や気象害から守ってくれます。森の直接的な効果を企業が生かす分かりやすい例は、建築会社さんが、自分が森づくりしている所の木を使って家を建てることだと思います。しかし、それだけにとどまらない森の恵みの使い方があるのではないかということが1点目です。

2点目は、森の魅力を生かしていくことで、今日のテーマの一つである観光等にも該当します。森は存在しているだけで価値があるから、それを森の魅力としてうまく生かして、企業活動へと結び付けていこうものです。

3点目は森の力を借りること、英語で言うとMitigationです。京都議定書以降、二酸化炭素が注目されています。企業活動によるCO2の排出等の環境への悪影響に対して森の整備をしてCO2を吸収する等、環境的に良いことを森の力を借りて行うこと。以上の3点で事例を整理しました。

たくさんの事例があるため、一つ一つを細かく説明はしませんが、今日お越しの企業様のお名前もあると思います。有名なものでは、サントリーさんの「天然水の森」プロジェクトや三菱地所さんの山梨県の北杜市でのプロジェクト等があります。その他の事例も、各企業さんがいろいろな工夫をしながら、長年、さまざまな苦労をしてここまでたどり着いた、非常に興味深いものばかりです。

その中から、株式会社スマイルズさん、Soup Stock Tokyoさんの事例を簡単に紹介します。これは今日のテーマにも沿っているものです。Soup Stock Tokyoへ行くと、最近できたお店は内装に木材を使っています。その木材は、大体、国産のものです。例えば、アトレ四谷店は、宮崎県の諸塚村のクヌギの樹皮をうまく使って、内装を仕立てています。これには、いろいろな経緯がありました。

諸塚村の小学生たちは、東京に修学旅行に来たら必ず、アトレ四谷店を訪れます。自分たちの村の木がここで使われていることを確認するわけです。また、Soup Stock Tokyoさんが、シイタケで有名な諸塚村で、そのシイタケを使ったスープのコンテストを行います。このように、相互の交流が生まれているわけです。単にクヌギの木を内装に使っても、その金額はそれほど高くはありません。それよりも、小学生が来て、自分たちの村の木が東京のど真ん中で使われていることを見る、あるいは、Soup Stock Tokyoさんが諸塚村の人が提案したスープを、表彰するということが生まれています。単なる物の流れだけではなく、人のつながりをつくることがキーワードであり、CSV的であると思います。

では、なぜSoup Stock Tokyoさんはこのようなことをやっているかということです。Soup Stock Tokyoさんの企業理念は、「食を通じて人々の生活を豊かにする。」であり、商品、サービス、デザインについて、幾つかのこだわりを持っています。生活価値を高めるために、今まではスープの原料のことだけを考えていたが店の内装に使っている木の原産地についてもこだわっていこうということで、彼らのスープに対するこだわりがお店にまで広がってきているわけです。そのとき、日本の木を使うことによって、日本の山村の社会問題の解決につながっていくのではないかいうことから、このようなことを行っています。

今、時代は、CSRからCSVへと流れてきました。それに伴い、Responsibility(レスポンシビリティ)、責任よりも、Value、価値が強調されるようになってきました。今までは、CSR、社会貢献、企業市民、Philanthropy(フィランソロピー)として、企業は社会に対していろいろなことをしてきました。そして、今はCSVの価値がより強調されるようになり、本業との関連性が問われるようになりました。これを英語で、Materiality(マテリアリティ)と言います。

CSVを、戦略的CSRや企業価値と結び付けるようになってから、価値による仕分けが生じて、本業に関係のない、価値を生まない既存の活動を切り捨てる理屈として使われ始めています。これは、CSVのよる逆効果であり、皮肉な結果です。やはり本業と相乗効果のないものは切り捨てられることになるため、現場は、経営側に本業との関係をきちんと説明しなくてはなりません。

そこで、では価値とは何かという話になるわけです。ここで、トヨタの自動車のAQUA SOCIAL FES!!の事例を見てみます。戦略的小型車のアクアは水という意味なので、それに絡めて、全国の河川の流域を改善していこうというキャンペーンです。例えば、河川敷の外来種植物を取り除いたりごみを拾ったりといったことをさまざまな地域でボランティアで行っています。

実は、この面白い点は、トヨタのCSR部主導ではなく、トヨタのマーケティング部主導のキャンペーンであるということです。しかし、このキャンペーンによって、アクアの売り上げが伸びたかというと、それは証明できないのですが、続けています。トヨタさんに話を聞くと、ディーラーがすごく喜んでいるからということでした。

このキャンペーンを始めた当初、ディーラーさんは、なぜ、こんなことをしなければならないのかと非難していたそうです。しかし、お客さんと一緒に、皆で汗を流して、外来種の排除をしたりしているととても楽しいということでした。その結果、ディーラーの営業マンも、お客さんがお店に来ても車の話より、外来種がいかに問題か、川がどんなに大事かといった話のほうを熱心にするようになりました。車の話だけをしている時より、ずっとお客さんとの絆、地域との絆が確実に深まるわけです。そういうことを、トヨタさんはある種の価値とみなしているわけです。

似たような例に、王子ネピアさんというトイレットペーパーを作っている会社の千のトイレプロジェクトがあります。このプロジェクトは、トイレットペーパーの売り上げの一部を東ティモールに寄付して、毎年、1000のトイレを作ろうというものです。東ティモールにはトイレが非常に少ないため、野外で用を足します。その結果、井戸水が汚染され、多くの子どもたちが伝染病で亡くなっています。王子ネピアさんは、それもトイレの課題、ひいてはトイレットペーパーに関する課題だということで、このプロジェクトを始めました。この成果としては、子どもたちの致死率が半減する等、良いことがとてもたくさんありました。

このプロジェクトを立ち上げた担当者は、仲の良い私の友人で、役員にまで上り詰めたのですが、会社を辞めることになりました。なぜかというと、やはり、会社で理解されないためです。このプロジェクトは、ネピアのトイレットペーパーの売り上げ維持にもつながるし、社会価値もあるという、大変CSV的なものです。しかし、会社の中では理解されず、結局、これを立ち上げた人間は辞めざるを得なくなるということが起きています。