CSV経営・健康経営時代の「企業×森林」フォーラム― 森と人と地域を元気にする、新時代の「企業の森づくり」 ―を開催しました

事例報告1 「企業の森」における企業研修で実現する”早期離職対策”

関本 和彦TDKラムダ株式会社 管理統括部長

皆さん、こんにちは。TDKラムダの関本と申します。
今までは井上さん、安藤さんの基調報告でしたが、私からは事例報告ということで、少し砕けた感じでお話ししたいと思いますので、よろしくお願いします。
森、研修、そして、早期離職対策というキーワードで進めます。

まず、私達の会社概要を簡単に説明します。TDKラムダ株式会社は、カセットテープやビデオテープで有名なTDKの子会社です。業種は、スイッチング電源の開発・製造・販売です。では、スイッチング電源は何かというと、ここにある民生用のアダプターといわれるものも、スイッチング電源といいます。コンセントからは交流の電流が流れますが、PC機器は直流電流でしか動きません。そのために、こういう変換する機器が必要です。私達はこの産業用の電源を作っています。

従業員数は、弊社単体で約600名、グループ全体では約3800名です。日本国内だけでなく、中国、シンガポール、マレーシア、インド、韓国等のアジア、そして、欧州はイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、さらに、アメリカにも拠点を持っています。現在、「Attracting Tomorrow」という企業広告を打っています。

これが、私達が長野県の信濃町に持っております社有林で、5.1ヘクタールの広さがあります。これは昨年度の写真ですが、10年間の取り組みの結果、ようやくここまで来ました。

これは、私達が長野県の信濃町で行っている活動のイメージ図です。まず、2007年に長野県の仲介で信濃町と森林の里親契約を結びました。その後、当時の山村再生支援センターの仲立ちで、信濃町と企業のふるさとづくり協定を結び、信濃町での活動を本格化しました。

このクリーム色の所が基本的な活動です。信濃町はトウモロコシや、ブルーベリー等の農産物が非常に有名で、特にブルーベリーは日本で初めて栽培に成功した町だということで、それらの物販を社内で行っています。また、既に話がありましたが、信濃町は癒しの森事業を積極的に進めていますので、その協賛を、昨年度の地方創生応援税制以降は、企業版ふるさと納税という形で行っています。

これが、私達が行っている社員研修の例です。基本的に年間5回、社員を信濃町に送り込んでいます。一番長いものは4月の新入社員研修です。新入社員は4月以降、10月に半年後のフォローアップ研修として、2泊3日で信濃町に入ります。新入社員の会社でのお兄さん、お姉さんといった役割の人たち、いわゆるエルダーたちから、新入社員が信濃町で何をやってきたかを知りたい、同じことを体験したいという要望があったので、エルダー研修として、新入社員研修のミニ版を1泊2日で行っています。また、新入社員は2年目、3年目にも、同じく信濃町で研修をするという形でプログラムを構成しています。

新入社員研修では、どこの企業でも行われるような座学のビジネスマナー研修等もやりますが、信濃町で研修する意味は、この上の部分にあると考えます。左上の写真は、社有林の中で間伐をした枝を一緒に運ぶ様子です。その他に、新入社員は必ず、何か制作物を作ることにしていますが、これは鳥の巣をかけているところです。右上は、社有林の中にはとてもきれいな小川が流れていますが、そこに橋を架けようということで、今年の新入社員は橋を架けました。右下は、森林セラピーを受けている写真です。また、長野県はそばもおいしいですから、そば打ちの体験といったことも行っています。

私は、信濃町の森には最初から携わっています。この写真は、忘れもしない2006年11月3日、私が地図だけを頼りに1人でこの森に入ったときのものです。もう怖いほどの森でした。当時は左側の写真のように、本当に荒廃した、手の入っていない森でした。そして、右の写真が、それから10年かけてたどり着いた私達の森の現状です。やはり継続して手をかけることの重要性を感じています。

下に動物の写真が二つあります。左側はアカショウビンです。鳴き声非常に特徴的な鳥です。アカショウビンを見に行くためのツアーが企画されるぐらい、とても人気のある鳥だそうです。実は、一昨年、研修で森に入ったチームの人たちは、このアカショウビンの鳴き声を聞いたということでした。また、右の写真はフクロウです。フクロウはそれほど大きく見えませんが、羽を広げると1.5メートルにもなるそうです。フクロウのえさはネズミ等ですが、羽が大きいために、下草を刈り、手入れされた森でないと入っていけないので。ようやく、私どもの森も、アカショウビンやフクロウが住む森にやったという報告の意味で、写真をご覧いただきました。

先ほど、井上さんから、コミュニティーをつくるべきだというお話がありました。10年間の活動を通じて、全社員の4分の1の人たちが既にこの森を訪れているという状態をつくることができました。

そして、ここに示したのは、当社の新入社員と各入社年度における退職者の実数です。水色に塗った所は、信濃町で研修を実施した年度です。これを見ると、退職者の数が非常に減少してきていることが分かります。

次に、3年以内退職率を見ると、研修を始める前は約12パーセントだった3年以内退職率が、森での研修を始めてからは、3年以内に退職した人は1人だけです。新入社員の歩留まりが3年3割といわれる中、弊社はどちらかといえば低いほうでしたが、それでも明らかな改善が見られました。
では、なぜ、そういう効果が表れた理由として、四つのキーワードを挙げました。

まず、同期の絆です。テレビゲームやスマホばかりをする世代の人たちには、問題が生じても、自分の中で抱え込み、なかなか人に相談できない人が多いようです。しかし、腹を割って話せる同期との人間関係を作ることによって、その部分が解消されていきます。

二つ目は、力を合わせるということです。小川に橋を架ける写真をお目にかけましたが、1人では困難なことも、皆で力を合わせれば、いろいろなことができるようになります。

三つ目は、井上さんのお話の中にもあったRe-creationです。森の中ではそれ起こすことができると感じています。

最後に、ストレスへの対処方法を知ることです。森林セラピーを使ったストレスの発散方法は、行き詰まったときの対処方法の一つとして有効だと思います。また、これらに加えて信濃町に研修で来るたびに、同じトレーナーが見守ってくれます。これは、縦社会である会社の中で第三者が斜めから見てくれることも非常に有効であろうと思います。
私の発表は以上です。ご清聴ありがとうございました。