CSV経営・健康経営時代の「企業×森林」フォーラム― 森と人と地域を元気にする、新時代の「企業の森づくり」 ―を開催しました

事例報告3 企業が集う長野県信濃町癒しの森

浅原 武志株式会社さとゆめ長野支社長・長野県森林セラピー協議会アドバイザー

皆さん、こんにちは。しなの町・Woods‐LifeCommunity、長野県の森林セラピーアドバイザーをやっていて、かつ、株式会社さとゆめという本業も持っている、浅原と申します。よろしくお願いします。

先ほどから非常に素晴らしいお話ばかりで、私がここでお話しするのはせんえつかと思いますが、宮本さんと同じく、私の話も気楽に聞いてください。少しお疲れもあるかと思い、信濃町の景色のスライドを何枚か、用意しました。それらをご覧になりながら、少し信濃町の話をお聞きください。

長野県信濃町には黒姫高原があります。いわさきちひろさんが山荘を持っていた所で、『モモ』や『ネバーエンディングストーリー』の作者であるドイツ文学者のミヒャエル・エンデさんから、「自分はファンタジーという言葉は好きだけれども、癒やしという言葉はあまり使わない。だけれども、もし、私が癒やされるなと言えるのだとしたら、自分の故郷そっくりのこの雰囲気かもしれない」と言っていただいたような場所です。

それから、信濃町には野尻湖という湖もあります。ここは、昔は外国人保養地として非常に有名で、今でも外国人村のような場所があります。

また、長野県ですから、シラカバの林もあります。これは、アファンの森という、C.W.ニコルさんが30年間手掛けてきた森です。実は、30年前はこういう森でした。それがこのような森に変化して、今では、先ほどのTDKラムダさんの森と同じく、フクロウがいる森として再生されています。さらに、生物多様性の森には、このような森の産物も多く、また、ニコルさんは今、馬を使った事業もされています。
では、本題に入ります。

今日は、長野県信濃町の話をするのですが、実は私は、昨年の3月31日まで約14年間、長野県信濃町役場の職員でした。途中で約3年間、長野県庁に出向しましたが、ほとんどこの事業に関わってきました。

私が入庁した2002年に、信濃町は突然、合併しないと言い始めました。合併しないで存続していけるのかと思っていたときに、ニコルさんのエコメディカル&ヒーリングビレッジ構想を知りました。当時はまだ、メンタルヘルスやストレス対策という話もなかった頃ですが、その構想は、森林の癒やし効果を使って癒やされる町をつくろう、化学肥料を使わない農業やエコな林業をしよう、さらに、住民も健康な町になるというものでした。

私がこの事業を取りに行ったのであればかっこいいのですが、そうではありません。信濃町の8名の住民が、ニコルさんの構想を事業化しようとしていた長野県庁にいきなり乗り込んで、この事業を信濃町でやりたいと言ったのです。すると、県庁も、ぜひ、そういう町に実施してほしいと快諾してくました。しかし、エコメディカル&ヒーリングビレッジ事業ではとても難しいため、癒しの森事業として、2002年にスタートしました。日本で森林セラピーが始まったのは2005年ぐらいでしたから、それよりもかなり早く、私どもの事業は始めたということです。

森林セラピーという言葉がなかったので、世の中に森林は癒やされるものだという定説もありませんでした。その中で、私たちは森林を使った自然療法を進めなければならなかったのです。そこで、疲れた人たちに来てもらうには、やはり企業さんと提携したほうがよいということを最初から考えていました。単純にヘルスツーリズムをしているだけでは、企業さんは来ません。そこで、先進地から裏付けのある療法、セラピーを学んで、それを信濃町で進めていこうではないかと考えたわけです。

そこで、ドイツのミュンヘン少し南にある、バードウェールズホーフェン市を手本にしました。そこは、クナイプ療法と呼ばれる自然療法を100年以上前から行っている所で、それは保険が適用されます。先ほど、安藤さんからもお話がありましたが、クナイプ療法は五つの療法を組み合わせて、医師が処方するようなものです。私たちは、クナイプ療法はもちろん、バードウェールズホーフェン市自体のまちづくりも、目標にして、癒しの森事業を進めました。
大変真面目に聞いてくださっているところを恐縮ですが、ここでクイズをしたいと思います。10年間、同じクイズをしているので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

私も自費で、ドイツに2回ほど視察に行きました。ドイツと信濃町は、本当にそっくりです。今から4枚のスライドを出しますが、ドイツなのか、信濃町なのかを当ててください。
では、まず1枚目のスライドです。これはドイツだと思いますか、信濃町だと思いますか。信濃町へ行ったことのない人もいらっしゃるでしょうから想像で構いません。これをドイツだと思う人。優秀です。信濃町だと思う人。そうです。これは本当にドイツです。

先ほど、見せてしまったので、これは信濃町です。
では、これは、ドイツでしょうか、信濃町でしょうか。ドイツだと思う人、信濃町だと思う人。ありがとうございます。今日はいいお客さまです。実はドイツなのです。最初に野尻湖の話をしておくと、あの湖は野尻湖だと思うのです。これは、ドイツのノイシュバンシュタイン城から撮った風景です。信濃町も、北信五岳という2000メートル級の山々に囲まれた所です。ありがとうございました。クイズは以上です。

ドイツに行って、いろいろ学んできましたが、私たちは行政ですから、単にお客さまを森林セラピーに呼ぶだけという事業をするつもりはありませんでした。ニコルさんが提唱していたような、エコメディカル&ヒーリングビレッジ構想にのっとってまちづくりをしたかったのです。そこで、癒しの森を中心とした地域づくりをするというポンチ絵を、15年前に描きました。

まず、交流人口を増やします。そして、癒しの森の町の農業ならば、やはり有機農業、環境に優しい農業を目指します。また、癒やしを提供する側の住民の皆さんが元気でなければならないということです。さらに、花も癒やしの一つだし、森もきれいでなければ、癒やしを提供できないだろうと考えました。実は、地元に信越病院という病院があり、そこにも協力してもらえば、とても良い事業になるのではないかという話もありました。それらを踏まえて、こういう絵を描いてスタートしたわけです。

信濃町で取り組んできたことをお話しします。森林で健康を提供できるまちをつくらなければ、先ほどのポンチ絵はうまくいきませんから、まず、そこをしっかりとしようと考え、森林メディカルトレーナーを育成し、既存の宿を利用して癒しの森の宿をつくりました。

現在、日本全国に62カ所の森林セラピー基地がありますが、なぜ、信濃町が先進地なのかとよく尋ねられます。それは、私がいたからですというわけではありません。森林メディカルトレーナーとなった住民の皆さんが非常に勉強家で、森に来るお客さまに対して、自然療法をしっかり提供できたためであると思います。

信濃町の森林に来られた方には、森林メディカルトレーナーさんが、運動療法やノルディックウォーキング、呼吸法、森のかすかな香りを嗅ぐ芳香療法を行ったり、その他にも、免疫療法、植物療法、水療法等を提供します。先ほどの井上さんのお話のように、森林メディカルトレーナーの役割も、森の効果を十分に享受するために五感を解放させることです。これらの療法を通じて、それを目指すということが基本です。

そして、癒しの森の宿では、薬草茶や健康的な食事を提供したり、アロマセラピー等も行っています。
メディカルトレーナーや癒しの森の宿を育成していると、住民の皆さんが自発的に自分のできることをやり始めて、癒しの森弁当という地産地消のお弁当、登山のトレーナーさんによる登山体験、座禅やアートセラピー等、当初私たちが意図していなかったようなプログラムがどんどん増えてきました。

癒しの森の効果は、先ほどの安藤さんのお話のように、NK細胞、ナチュラルキラー細胞が活性化するような効果もあります。これは信濃町の癒しの森のデータです。実は1日目は土砂降りだったのですが、雨が降っても森には癒やし効果があることが分かります。

現在、信濃町は、34社の企業と提携しています。提携企業さんは、従業員のメンタルヘルスのために森林セラピーを利用されたり、TDKラムダの関本さんのお話のように、社員研修をしたり、安藤さんのお話のように、福利厚生として癒しの森の宿泊費を健康保険組合から補助を出したりというをしておられます。また、ふるさと便という名前で、信濃町の農産品を送る等、CSR活動もやってくださっています。

このグラフの右側は提携企業数、左側が宿泊数です。提携企業さんが増えるにしたがって、宿泊数も上がっています。ここには、実際に利用された、企業からのお客さまの声を書いています。


では、14年たって、ポンチ絵が実現したかという点です。農業も有機農業の方向へ進んでいる等順調ですが、森林セラピーによる一番の効果は、地元の人たちが健康になって、国民保険料が減少した年もありました。

また、森林セラピーの取り組みを始めたことによって、自治体病院の医師数が、約5名から約10名へと増え、その中には初めての小児科医の先生もいらっしゃいます。企業の皆さまが信濃町と提携し、たくさんの方が森に来られたおかげで、地方創生として医師を増やす取り組みにもつながりました。また、TDKラムダさんの森は信濃町にありますから、フクロウのいる森が、アファンの森とTDKラムダさんの森との二つになりました。これも大変良い効果だったと思います。

現在、癒しの森の運営は、しなの町・Woods‐LifeCommunityという共同体をつくって運営しています。この共同体は、地域創生に関するコンサルティングを行う株式会社さとゆめ、アファンの森、信濃町森林療法研究会のひとときの会のという3者から成ります。この3者が組むことによって、現場を熟知し、コンサルティングやマーケティング、企業への営業等についても多角的にフォローできる体制をつくっています。全国62カ所の森林セラピー基地の全てにこういった体制があるわけでもなく、全ての所が成功しているわけではありません。このようなフォロー体制が、今後、必要になってくるのではないかと思います。

最後に、三つのスライドを説明します。実は、企業さま向けのメンタルヘルス、活力ヘルスツーリズムを推進する地域が非常に増えてきました。その中には、安藤様からご紹介のあった長野県の池田町のハーバルヘルスツーリズムがあります。八寿恵荘では、カモミールを使ったお風呂やオーガニックコットンの衣類、オーガニック食材を使った食事を提供しています。池田町では、実際に、自律神経、副交感神経と交感神経のバランスが良くなったというエビデンスデータを基に、今、企業との提携を積極的に進めています。また、長野県知事からも、こういった活動への後押しをしてもらっています。

また、宮崎県の中にはグランピングという取り組みを採り入れて、企業の従業員だけではなく、その家族へも癒やしを提供したいと考えている地域があります。そして、『君の名は。』という映画の新海誠監督の故郷は、実は長野県の小海町です。この町も、憩いのまち小海として、ヘルスツーリズムの推進をしています。

このように、長野県のみならず、たくさんの自治体が森林や自然を使って、企業の皆さんのメンタルヘルスへの貢献や癒やしを提供する取り組みをしているという事例をご紹介して、私の話を終わります。ご清聴ありがとうございました。