『SDGs時代の森林×企業シンポジウム』
-持続可能な社会づくりに向けた、新時代の企業の森づくり・木づかい-

近年、地球規模での持続可能な社会づくりに向けて、企業等において「持続可能な開発目標(SDGs)」への関心が高まりを見せています。また、我が国においても政府一体となった「SDGs推進本部」が策定した実施方針を受けて、各省庁・自治体や民間の取り組みも裾野が拡がりつつあります。

こうした中で、2015年に142カ国の政府等が参加した「第14回世界林業会議」では、SDGs達成のためには「森林・林業の主流化」が不可欠との声明が採択され、また2017年1月に国連森林フォーラム(UNFF)が採択した「国連森林戦略計画2017-2030」では、森林の活動がSDGsの17目標のうち14目標の達成に寄与することを示されました。

そこで、2030年を見据えて、SDGsの視点から多面的な価値を有する森づくり・木づかいの価値・意義を再検証するとともに、世界第2位の森林国であり、木の文化を培ってきた我が国ならではの企業によるCSR・CSVとしての森づくり・木づかいの価値・意義を議論するために、本シンポジウムを開催しました。

日 時 2017年10月11日(水) 14:00~17:15
場 所 経団連会館『経団連ホール』2階 (東京都千代田区大手町1-3-2)
参加費 無料 定員 200名
主 催 美しい森林づくり全国推進会議、林業復活・地域創生を推進する国民会議
共 催 (公社)国土緑化推進機構、(一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC、経団連自然保護協議会、(NPO)活木活木森ネットワーク
後 援 林野庁、全国森林組合連合会、(一社)全国木材組合連合会、グローバル・コンパクト・ネットワークジャパン、(一社)企業と生物多様性イニシアティブ、木材利用システム研究会
開会挨拶 司会:野中 葵(2017年度ミス日本みどりの女神)


◯主催者

  • 出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)
  • 三村 明夫(林業復活・地域創生を推進する国民会議 会長)

◯来賓

  • 沖 修司 (林野庁長官)
基調報告
  1. 「持続可能な開発目標(SDGs)と国内外の持続可能な森林経営の推進」
    五関 一博(林野庁 森林吸収源情報管理管)
  2. 「持続可能な森林管理・利用に動き出した、世界の企業・投資家の新潮流」
    足立 直樹((株)レスポンスアビリティ 代表取締役、(一社)企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB) 理事・事務局長)
  3. 「SDGs時代における、日本ならではの“和のサスティナビリティ”」
    ~伊勢神宮・式年遷宮や鎮守の森等の多面的価値から学ぶもの~
    河口 真理子((株)大和総研 調査本部主席研究員、グローバル・コンパクト・ネットワークジャパン 理事)
事例報告
  1. 「ESG投資の潮流下における企業にとっての持続可能な森林管理・利用」
    ~年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のESG投資の組み入れ銘柄指定を受けて~
    飯塚 優子(住友林業(株) CSR推進室長)
  2. 「世界に評価される、多様な地域資源を活かす「木の建築」」
    ~地域の森林・職人等を活かした建築物の多角的な価値・意義~
    堀木 俊(隈研吾建築都市設計事務所)
  3. 沿線・駅前の「逆開発!?「省く」でSATOYAMAおこし」
    ~地域コミュニティと連携した里山保全・森づくりの現代的な価値・意義~
    石川 晋平((株)小湊鐵道 取締役社長)
パネル
ディス
カッション

「SDGs時代の企業の森づくり・木づかいの価値・意義」(  ・  )

◯パネリスト
基調報告者、事例報告者

◯コメンテーター

  • 出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)

◯コーディネーター

  • 宮林 茂幸(東京農業大学 教授、美しい森林づくり全国推進会議 事務局長)

開会挨拶

出井 伸之美しい森林づくり全国推進会議 代表

ただいまご紹介に与りました、出井でございます。
美しい森林(もり)づくり全国推進会議の代表をしております。

いつも、林業復活・地域創生を推進する国民会議の議長・三村さんとコンビになって当会を実施しておりますが、今回もまたこの提携シンポジウムに大変多くの方がお集まりいただきましたこと、心より御礼申し上げます。また、林野庁・沖長官、お忙しいところに駆けつけて下さり本当にありがとうございます。

今回のテーマにも掲げられているSDGs、他にもESGはじめ、色々なアルファベット3文字の概念が新しく登場して、なかなか理解が難しいところもあるかと思います。
SDGsとは2012年に「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」で生まれた理念で、私たちの世界が直面する喫緊の環境、政治、経済の課題に取り組む一連の普遍的目標として、国連開発計画において議論を続けられてきた概念です。その中で2030年までに達成する17の目標、そして169のターゲットが設定されたのですが、その中の多くの項目が森林に関係しているということも伺っており、森林に対する世界的な注目はますます高まっているものといえます。SDGs国連が具体的に設定したということ自体は、大変素晴らしい動きだと思う一方、最近の世界情勢は先の見えない状況が続いています。

「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領はもちろん、昨年はイギリスの国民投票で、EUからの離脱 (ブレクジット) が可決されました。昨日も、スペインでカタルーニャ地方が独立宣言を発表したことがニュースになり、なんとなく全世界の地政学的に混乱した状態にあるように思います。アジアを見ましても、もちろん北朝鮮の脅威は常にあり、本当に気が休まることもない状況です。

他方、世界のテクノロジーの進歩を見ると、昨年あたりからAIがバズワードのように取り上げられていますし、それから通信もあと2年で5Gが導入されることが見込まれています。また、仮想通貨のような新しい概念がメディアで報道されるようになってきています。このような技術の進化は今まで全くなかった新しいビジネスモデルを生みだすことは自明です。いま企業は、その中でどういうふうに変革していくべきかということに、かなり迷いを持っているように思います。先ほど申し上げた、現在の世界の混乱もやっぱり「ものづくり」を中心とした”ビフォー・インターネット”の世界と、インターネット後に生まれた”アフター・インターネット”の世界、そして”これから”の世界、これらがそれぞれ上手いバランスを保つことができずに混乱につながっているんじゃないかなと考えています。その中で、日本はどういうポジションを取っていくべきかということ、これこそ突き詰めて考えるべき問題になるでしょう。

ところで、昔の日本を考えてみると江戸時代には森林台帳を作成し、非常に細かく森を整理して管理することで、200年以上の長きにわたって日本の食料調達を安定させ、飢饉を救ったという事実があったのです。『文明の崩壊』という書籍の中で、ジャレット・ダイアモンド氏がそのことを詳しく書いていますが。江戸時代に行われた森林づくりがいかに先進的で、素晴らしい方法だったのかということが称賛されています。日本がこれからも粛々と、世界がどんな不安定な状況で混乱に陥っていたとしても、森を共に生きる対象としてしっかりとつくっていく。これこそ世界の危機管理にも資する、非常に重要な貢献の1つであると、考えています。

本日もこんなにたくさんの方にお集まりいただき、また、後のパネルでも込み入った議論をされることを期待しています。日本が率先してこのような活動を進めていることは、いずれ世界からも高い評価をされるようになるでしょう。また、我々日本の中で、本当に日本らしさとは何かを問うたときに、森づくりというのがその重要な要素になると思います。今回お集まりいただいた皆さまが一緒になって、頑張っていただければ幸いです。

簡単ではありますが、以上私からのご挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございます。

三村 明夫林業復活・地域創生を推進する国民会議 会長

ご紹介いただきました三村でございます。

林業復活・地域創生を推進する国民会議の議長をやっておりますけれども、本シンポジウムの主催者の一人としてご挨拶申し上げます。

私はもともと鉄鋼業の新日本製鐵におりまして、社長、会長を勤めておりましたけれども、その私がなぜ今、林業復活に取り組んでいるのか、これをまずお話ししたいと思います。

JAPIC(日本プロジェクト産業協議会)という組織がございます。これは鉄鋼業界などを中心として、東京湾アクアライン、あるいは本州・四国連絡橋などの大型プロジェクトを十何年にもわたって一生懸命推進してきた民間団体でございますけれども、インフラ整備が進むにつれて「もう大規模なプロジェクトというのは日本には必要ない」という声が出てくる時代になりまして、それであればJAPICとして何をやるのか、色々議論したのですけれども、「日本のためになることは何でもやろう」ということになりました。例えば、日本には資源が足りないと言っていますけれども、海洋をとってみれば海底にはいろんな資源があるじゃないか、従って海洋開発というのをターゲットにすることにしました。もう一つは日本に豊富にある森林を有効活用しようということになり、これをJAPICとして主な活動の対象として選びました。

ご存じのとおり、日本は国土の66%が森林であるにもかかわらず、木材の自給率は、一時18%台まで低下いたしました。このため、2013年に私ども国民会議を発足させまして、国産木材の需要拡大あるいは安定供給を図るために民間レベルで様々な研究や検討を行い、林野庁さんに対しても提言させていただきました。それから、私は日本商工会議所の会頭になっておりますが、商工会議所の一つの役割は地方創生でございます。66%が森林ということは、1800の市町村の面積の大部分が森林ということになります。従って、林業の復活は地方創生の有力な手段そのものということにもなります。

国民会議は、この6年間、色々な活動を行いましたけれども、皆さんのおかげで、自給率も生産性も非常に上がりました。28年度には、木材自給率が34.8%に達し、非常に喜ばしいことでした。ただ、これは我が国の木材のポテンシャルから見ると、まだまだ少ない、現状に満足するわけにはいかない、ということで、この動きをさらに加速するということを今、一生懸命運動しております。
当然、東京オリンピック、パラリンピックを契機とした木材需要の拡大もありますが、もう一つ大事なことは、注文通りの数量を、きちんとした品質で、リーズナブルな価格で提供するという、サプライサイドにおける生産性向上も、大事なことでございます。従って、木材関係者の皆様にも、経営の自助努力を加速いただいた上で、官民一体となってこれを支援していく必要があると思っております。

政府では昨年、「森林・林業基本計画」が5年ぶりに見直され、スケールメリットを活かした林業経営の推進、生産性向上、木材産業の競争力強化、新たな木材需要の創出に関する新たな施策を打ち出されております。但し、政策というものは、打ち出されたからこれでいいというものではなくて、これを実行することが大事であります。沖長官にもお願いしておりますけれども、平成30年度の予算の概算要求においては、意欲と能力のある林業経営主体に管理を集約し、その地域を重点的に支援するという考え方を打ち出されておられました。これは、総合的な施策を講じることを目的としておられますけれども、林業においても経済合理的な経営の視点を重視するという、誠に意欲的な取り組みであります。やはり林業が産業としてサステナブルであるということこそがSDGsにつながると思っております。私ども国民会議といたしましても、民間企業の経営意欲や技術力を結集し、NGOや林業・木材関係の皆さんと手を携えて、木材の安定供給、用途の拡大、長期的な人材育成等を目指した実践的なプロジェクトの実現を目指していく所存でございます。

SDGsに関しましては、全く賛成でありますが、17の開発目標の一つに、森林の環境保全も取り上げられており、我が国においても、持続可能な森林経営の推進を通じて、具体的な数値目標を達成することを目指しております。これは従来から、美しい森林(もり)づくり全国推進会議殿あるいは私ども国民会議が取り組んできた方向性と軌を一にするものであります。これまでの取り組みを更に推し進め、我が国林業の成長産業化をいっそう加速させることが、SDGsの実現に直結するものと、私たちは考えております。本日は、持続的な森林や木材の利活用のあり方に関しまして、先進的な考え方や取り組み事例をご紹介いただけるものと、大いに期待いたしております。

最後になりましたけれども、本日ご参会の皆様方の、本活動に対する一層のご理解とご協力をお願い申し上げ、私からの挨拶とさせていただきます。

どうもありがとうございました。

沖 修司林野庁長官

ただいまご紹介に与りました、林野庁の沖でございます。
私の方から一言ご挨拶を申し上げたいと思います。

本日ここに、美しい森林(もり)づくり全国推進会議と林業復活・地域創生を推進する国民会議の主催による「SDGs時代の森林(もり)と企業シンポジウム」が、多くの方々にご来場いただき開催されますことを心からお喜び申し上げます。

まず、7月にございました九州北部豪雨災害によりお亡くなりになりました方々のご冥福をお祈りしますとともに、被災された皆様方に、心よりお見舞いを申し上げたいと思います。林野庁といたしましては、一日も早い復旧・復興に全力を挙げて取り組んで参る所存でございます。

さて、美しい森林づくり全国推進会議のご努力によりまして、フォレスト・サポーターズの創設・普及や、また企業による森林づくりへの参画が進み、「森林(もり)づくり」や「木づかい」の重要性が、多くの国民に確実に広まってきていると思います。こうした取り組みのさらなる発展に向け、より多くの企業の皆様に、それぞれの企業の特色、得意分野を活かしながら、森林づくり活動に参画していただくことが期待されているところでございます。

このような森林づくり活動につきまして、平成29年5月に公表いたしました平成28年度森林林業白書では、住宅メーカーと大分県・宮崎県が連携して行う花粉の少ない森林づくり、また、施主自らが選木・伐採するなど、木への愛着を高める住宅会社の家造り、鉄道会社による駅舎の木造化、自動車メーカーによる新たな分野での木材利用、などの取り組みを実名で紹介させていただいているところでございます。また、林業復活・地域創生を推進する国民会議さまの活動も紹介させていただきました。

森林づくりや木づかいは、「伐って使って植える」、というまさに資源循環の営みであることから、直接森林林業・木材産業に携わる関係者はもちろんのこと、木を使う最終需要者である多くの国民や、幅広い企業の皆様の積極的な参加・協力が不可欠であります。引き続きご理解とご協力をお願いします。

本日のシンポジウムのテーマSDGsは、皆様ご案内のとおり2015年の国連サミットで採択され、持続可能な社会を作ることを目指して、世界が抱える貧困問題、気候変動や資源エネルギー、都市問題、地域間国内格差などの問題を17の目標に整理したものです。2017年1月に国連フォーラムが策定した国連森林戦略計画では、森林に関わる活動がSDGsの目標のうち14の目標の達成に寄与するものとされており、森林づくりや木づかいなど森林に関わる活動は、SDGsの達成にも寄与するきわめて重要な取り組みであると考えております。国内に目を向けますと、戦後、多くの森林は荒廃し、はげ山の状態でしたが、国を挙げての緑化活動により積極的な植林を行った結果、現在では豊富な森林資源を持つに至り、そしてその資源は本格的な利用期を迎えております。この豊富な森林資源を循環利用しながら、森林資源の適切な管理と林業の成長産業化を両立させることが急務となっております。このため、現場の実情をしっかり把握しながら、新たな森林管理システムを実現し、意欲と能力のある経営体が、森林の管理経営を集積化する地域に対して、間伐や路網整備など重点的に支援していきたいと考えております。

さらに、森林環境税につきましては、平成29年度与党税制改正大綱を受けて、条件不利地域の森林の整備等に必要な財源に充てるものとして、本年中に結論を得るべく具体的な制度設計を進めているところです。国民的な理解のもとでの創設ができるよう、皆様方のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。

最後になりましたが、本日の「SDGs時代の森林と企業シンポジウム」のご盛会と当シンポジウムでの議論が実り多いものとなるようご期待申し上げまして私の挨拶といたします。

本日はおめでとうございます。