『SDGs時代の森林×企業シンポジウム』
-持続可能な社会づくりに向けた、新時代の企業の森づくり・木づかい-

「持続可能な森林管理・利用に動き出した、世界の企業・投資家の新潮流」
足立 直樹(株)レスポンスアビリティ 代表取締役、(一社)企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB) 理事・事務局長

レスポンスアビリティの足立です。

今日は持続可能な森林経営に関連して、企業が持続可能に作られた木材を、そして森林を持続可能な形で使っていくということを、さらには投資家がそれをどのように評価しているかという点についてお話をさせていただきたいと思っております。

SDGsとか色々な3文字のアルファベットが多いといったお話もありましたけれども、最初はESGの話からスタートしたいと思います。今日は企業の方も多いと思うのですけれども、この数年でESGへの関心が非常に高まっていると思います。

例えば、ある統計ですけれども、日本のESGの数字はこのわずか2年間で、70億ドルから4740億ドルへと、これはもう凄まじい伸びを示しています。これは、円にしますと50兆円以上、53兆円か54兆円になります。日本国内の統計ですと、56兆円という数字もあるようです。ただ一方で、これが実際の投資の中でどのくらいの割合なのかというと、ヨーロッパではすでに半分を超え、米国では20%くらいなんですけれども、日本ではまだ3%、つまりまだまだ伸び代が非常に大きいといっていいんではないかなと思います。

当然ですけれども、世界全体の中で見てみますと、日本はこのオレンジの部分ですけれども、まだ全体の2%です。日本のESGは世界の2%にしか過ぎないのですから、これがどんどんどんどん広がっていくんじゃないかと期待されるわけです。

さてこのESGですけれども、よく言われるのは石炭に関してだと思います。これ以上気候変動が進まないようにするために、石炭に関してはもう投資をしない、石炭を開発している、あるいは石炭火力発電所から投資を引き上げる、という動きが世界的に進んでいると言われています。ただ実は、これは石炭だけではないんですね。森林に関してもそうなんです。具体的な事例をここに一つご紹介いたしましたけれども、これ、もうすでに5年も前ですけれども、ノルウェーの政府年金基金、これはGPIFより若干ちっちゃいくらいで、世界でも最も大きな政府系基金ですけれども、こちらは、持続可能な森林に経営をしていないような、あるいは熱帯雨林を破壊しているような、そういうことに直接的にあるいは間接的に加担しているような企業には投資を行わない、という宣言をしています。実際にたとえば、パームオイルの開発しているような、あるいはパームオイルを作っているような会社から投資を引き上げているんですね。あるいは去年ノルウェーの議会は、政府の公共調達においても、森林破壊をしているようなところからは一切買わない、森林破壊ゼロの調達を行うという宣言を世界で最初にしています。

それでは、なぜ世界の機関投資家は、こんなにもESGに熱心なのか、あるいは森林破壊防止に熱心なのかということですね。答えを先に言ってしまうと、これはやはり事業上のリスクと関わりがあるからだと思います。つまり投資家というのは自分たちの大切なお金を、あるいは預かっているお金を投資する訳ですから、そのお金が戻ってこないということがあると一番困るわけです。あるいは、その投資した先の事業がうまく続かない、そこで利益が得られないと非常に困ってしまうわけです。ところが今、そうしたリスクが非常に高まっているのです。

具体的にどういうリスクか、いくつかご紹介したいと思います。まず一つは、NGOからの様々な指摘であったり、場合によっては圧力、あるいは不買運動のようなものが増えています。ここにいくつかNGOが出しているレポートを出しましたけれども、これは森林破壊に関わっているんではないかということで、あるいはそうやって森林破壊をしながら作った原材料を使っているんではないかということをNGOが指摘したレポートなんですね。実は残念ながら、この中には日本の企業の名前も挙がっています。あるいは日本の機関投資家、銀行の名前も挙がっています。もちろんそうした企業さんが意図的にそういうことをしているわけではないんでしょうけれども、あまりよく調べないで投資をしてしまう、あるいはものを買ってしまう、原材料を買ってしまうと、そういうことに間接的に加担していると指摘されているわけです。

あるいは、NGOだけではなくても、こうしたことも起きております。これは2年ほど前にシンガポールでおきて、シンガポールのニュースで報道されたものです。シンガポールのスーパーマーケットのチェーンから、トイレットペーパーが一斉に棚から下ろされました。この写真は棚に並べているんではなくて、棚から下ろしているところなんですね。なぜかというと、この製紙会社は森林破壊をして作ったチップ、あるいはその後に植林をした木から作ったチップ、それを使ってこうした紙製品を作っているんではないかと疑われたんですね。もちろん猶予期間はありました。自分たちは森林破壊に加担していないということをきちんと証明してくださいという猶予期間があったんですけれども、その間にきちんと身の潔白を証明できなかった。その結果、いくつもの大手のスーパーなどが、この会社の製品を一斉に棚から下ろすということを行いました。

このような様々な事業上のリスクがあります。企業の立場で考えますと、そもそもそうした持続可能な森林経営をしていない原料を使わないと原材料の入手が困難になったり、あるいは価格が上がってしまったり、ということがまずあるかと思います。

それ以外にも、様々な規制が強くなっています。場合によっては、そうした森林破壊をして作られたようなものを使っていると、操業許可が取り消されてしまうというような例もあります。当然そういうようなものを使うと自分たちのブランド価値が毀損してしまう、低下してしまうということもあります。あるいは先ほどの写真の例のように、市場から閉め出されてしまう、あるいは公共調達で買ってもらえないということも起きるかもしれません。さらにはそうしたきちんとしたものを買いたいという消費者が世界的に増えているわけですけれども、そういう新しい市場に参画できない、見落としてしまう、というようなことが起きるわけですね。つまり、先ほど申し上げましたように、そうした事業上のリスクがあるところには、投資家としては投資できない、融資できない、そういう動きが進んでいるのです。

ではどういうふうに企業が環境のことに関わっているのか、環境のことをどのようにきちんと扱っているかと言うことに関しては、様々な情報が開示されています。その中で一つ有名なのがCDPで、これは皆さんもよくご存じだと思います。いまはカーボンだけではなくて、たとえば水に関しても、どういうふうに水を使っているんですか、というアンケートが皆様のところにも来ているかもしれません。そうした企業に対するアンケート、それの回答を見ながら投資家が投資をしているわけです。

実はそれが今、森林にも広がっております。CDPでフォレストというのがあります。これは、三つの中では一番後発で2010年からスタートしていますけれども、昨年2016年の段階では世界で365の機関投資家がこのアンケートの結果を参考にしているんですね。その365の機関投資家の資産、運用残高というのは22兆ドルという非常に大きな数値なんです。カーボンに比べるとまだ少ないものの、かなり大きなお金が動いていることがおわかりいただけると思います。ただちょっと残念なのは、このCDPフォレストのアンケートは日本の企業さんにもかなり来ていると思うのですけれども、まだ日本の企業でこれに回答しているのは32社に過ぎないのです。400近い世界の有数の機関投資家がこの結果を見て投資をしますよ、というふうに言っているのに、それに対して情報開示をしている企業はまだまだ日本では少ないのです。

ちなみにこのCDPが、なぜ企業が森林破壊と関係があると考えているかというと、このスライドに示したような原材料を使っていませんかとか、もしこういう原材料を使っているとしたら、それは森林破壊に間接的に加担している可能性があると言っていますす。これを四大コモディティと呼んでいますけれども、一番左側が木材ですとか紙ですね。二番目がパームオイル、これは様々な工業製品あるいは食品の原料として使われます。そして牛ですね。牛肉であったり、あるいは牛の皮革です。これも様々な産業で使われると思います。そして一番右側が大豆ですね。日本は大豆を直接食べたり、油として使うということもありますけれども、それ以外にも家畜の飼料として使われる部分もあります。こうしたものを直接あるいは間接的に使っているとする、皆様方の事業も森林破壊と無縁ではないかもしれない、そういうことなんですね。

このように四大コモディティに注目されていますけれども、これ以外にも森林を開発して畑にしている産業がいくつかあります。最近そうした中で注目されるようになってるのが、一つは天然ゴム。これに関しては、サステナブル・ナチュラルラバー・イニシアティブ(持続可能な天然ゴム・イニシアティブ)というようなイニシアティブができていますし、あるいはカカオに関しても同じようなイニシアティブができています。ですので、食品であったりあるいはタイヤであったり、タイヤを使うということは自動車だったり、様々な産業が間接的に影響を受けるようになってきているということですね。

先程から、こうしたコモディティが森林破壊をしているのではないか、ということをお話しいたしましたけれども、実際に有名な例でいきますと、例えばアマゾンの森林、熱帯林なんですけれども、これは牛の放牧であったり、あるいは大豆畑の開墾ということで、すでにかなり減っています。このままいくと、2030年までには半分以上が消失してしまうんではないかと。ということはつまり、地球の肺であるアマゾンがCOを吸収できなくなってしまうと。そういうようなこともあるわけです。

あるいは、マレーシアとインドネシアにまたがるボルネオ島ですけれども、こうして図で見るとちっちゃな島のようですけれども、実際には日本の面積の倍あります。日本の面積の倍ある島が、ここに示したような形でどんどんどんどん森林が少なくなってきています。こうしたことに間接的に事業活動が関わっていると困る、ということですね。

実は私はもともとこのマレーシアの熱帯雨林で研究者をしていたんですけれども、熱帯雨林というのは非常に生物多様性の豊かなところなのでそういう研究をしていたんですけれども、それがみるみる間にオイルパームの畑に変わっていったというのを覚えています。

そのような中で、森林を破壊しないで持続可能な形で使っていこうという国際的な約束が、SDGs以外にもいくつかあります。一つは生物多様性条約です。この生物多様性条約、今から7年前の2010年に愛知で、名古屋でですね、会合が開かれました。10回目の会合ということCOP10と呼ばれていますけれども、そのCOPのときに採択されたのが愛知ターゲットですね。2020年までに地球全体でこうしたことをきちんとしていきましょうという20の目標があるんですけれども、そのうちの2つが森林と企業に非常に関わりがあるものになっています。一つは4番目の目標ですけれども、持続可能な生産と消費に企業活動を切り替えていこうと、企業以外も含めてですけれども、様々な活動を切り替えていこうと、少なくともその計画は2020年までに作りましょうということを、2010年に名古屋で合意いたしました。2020年まであと2年強です。あるいは5番目の目標ですけれども、この森林破壊、まだまだ世界中で広がっていますけれども、これを何とかゼロにしようと、少なくとも2020年までには半分、2010年段階の半分にしようという、こういう目標が作られたわけですね。これが世界の国々が合意しているわけですけれども、現状どうでしょうか。

このゴールが2010年の10月に名古屋で採択されたわけですけれども、実はそのすぐ直後に、世界の企業が動き出したんです。一つの例はこのTCGF(The Consumer Goods Forum:コンシューマー・グッズ・フォーラム)ですけれども、日本からも多数のメーカーや流通チェーンが参加しています。そこがやったことは、2020年までに森林破壊をネットゼロ、実質的にゼロにしようと、そういう宣言をしたわけです。2010年には22の理事企業が誓約をいたしましたけれども、現在は日本の企業も含めて50以上の企業がこの誓約をしています。この森林破壊ゼロというのが、いま世界的な企業の目標になりつつあります。

後もう一つは、2014年に国連気候サミットで採択された宣言で、森林に関するニューヨーク宣言と呼ばれています。これも先ほどの愛知目標とちょっと似ていますけれども、2020年までに森林破壊を半分にしようと、そして2030年にはゼロにしよう、ということですね。なぜ気候サミットで森林破壊を半分にしよう、最終的にゼロにしようなのかといいますと、気候変動を食い止めるには吸収源が必要なんですけれども、その吸収源たる森林が減ってしまっているようでは困るわけです。ですので、それを何とか減らそうということです。実はこのニューヨーク宣言には様々な国と企業が参加していますが、国としてはもちろん日本も署名をしています。その日本も含めて、ここにその宣言のいくつかの項目を出していますけれども、こういったことに私たちも目標達成に向けて働きかけていく、きちんと行動していく、そういう義務があるわけです。

さらには、こうしたことを受けて、いま森林破壊ゼロにコミットする企業が先ほどのTCGFなどのほかにもどんどん増えてきています。先ほど申しました四大コモディティを中心に、いまどのくらいの企業がそういったコミットメントをしているのかがこの図に示してあるのですけれども、たとえばパームオイル、これが一番進んでいるのですが、400近い関係企業のうち、すでに半分以上が森林破壊をしてパームオイルは作らない、あるいはそういうパームオイルは買わないということを宣言しています。逆に言うと、そうした企業は持続可能な経営をしているし、またそういう企業からしか買いませんということですね。その次に割合として多いのが、数として多いのが、木材・紙パルプに関わる企業です。大豆ですとか、あるいは牛にかかわる企業の場合には、残念ながら前二者に比べると少し少なくなっています。

そしてこれが一番最近の動きになりますけれども、いま投資家がこうしたことを様々な形で支援しています。
これは一番最近作られたイニシアティブですけれども、今年の9月にできました。PRI(Principles for Responsible Investment)、国連の責任ある投資原則を考える企業、投資家の集まりですけれども、このPRI、Ceres(Coalition for Environmentally Responsible Economies、セリーズ、環境に責任を持つ経済のための連合)、こちらは企業の情報開示、これを一環として進めてきた団体ですけれども、この二つが中心になって、ここにその一部の内容を書いてありますけれども、こうした取り組みを進める、一緒にやるんだと。ちょっと見ていただきたいのは、やはり今後はモディティがどこから来ているのか、そしてその透明性、情報開示に関して、よりきちんとした情報を出していこうとかですね、あるいはそれに様々な企業がより参加できるようなことを推進していくということですね。そういったことを協働で宣言して進めていこうということです。

今日は時間の都合で、日本の企業の具体的な取り組みについてはお話しする時間がないんですけれども、私は企業と生物多様性イニシアティブというところの事務局もしていますので、最後にちょっと一言だけ宣伝をさせていただきたいと思います。このイニシアティブ、JBIBと呼んでおりますけれども、こちらでもいま、どういう原材料を使うのかということが非常に大きなテーマになっております。そしてその持続可能な原材料を使おうということ、そのためにはどのようなことに注意したらいいか、ということですね。たとえば、事業リスクあるいは社内推進の進め方、そしてサプライチェーンに対してどういう管理をしていくのか、というようなことを具体的に研究して、すでに実践している企業も会員の中にはあるのですが、こういうガイドラインを作ったりとか、あるいは先程来申しております森林破壊ゼロに関して、世界ではどこまで進んでいるんだというようなことを調べたレポートなども作ったりしています。

今日のテーマのSDGsですが、SDGsというと通常この17の目標が出てきます。そして、先ほどの五関さんのご説明にもありましたように、いくつかは非常に森林経営とも密接に関わっています。ただ、もう一つ別の見方をしますと、このSDGsというのはこういう構造になっていると言うこともできるのではないかと思います。これは、ストックホルムのリジリエンス研究所のヨハン・ロクストロームさんなどが提唱しているものですけれども、このSDGsの目標、特に経済的な目標に私たちは注目いたしますけれども、それを実現するためには、やはり社会が持続可能である必要があるし、社会が持続可能であることは、森林を中心とした生物圏が持続可能になって初めて達成できるんだということですね。こうしたことを念頭に入れていただけますと、森林保全や森林の持続可能な経営ということがSDGsの達成のために非常に重要であるということがより理解いただけるんではないかと思います。

以上で私からのお話を終わらせていただきます。