CSV経営・健康経営時代の「企業×森林」フォーラムⅡ
~“企業・医療保険者×農山村地域”で実現する、SDGs時代の健康づくり・森づくり〜

3.森林・自然を活かした健康づくり~健康保険組合における方向性~
 【 丹野 成健康保険組合連合会東京連合会 健康開発共同事業委員会 副委員長 

健康保険組合連合会東京連合会の丹野成と申します。最初に私どもの東京連合会の保健事業についてご紹介します。

この機会ですので、健保の組織も含めてご説明します。全国では、だいたい1,400の健康保険組合があり、その加入者数は3,000万人弱で、そのうち1,600万人くらいが被保険者本人で、被扶養者が1,300万人くらいです。一方東京では、600弱の健保組合があり、東京連合会を組織しています。東京連合会の加入者は1,830万人で、東京の人口より多くなってしまっていますが、これは、私が勤務する健保もそうであるように、東京以外の工場とか営業所に勤める社員も所属健保の本拠地が東京であれば、この1,830万人にカウントされますので、数字に関してはそういった事情があります。

東京連合会につきましては、会員健保組合への支援ということで色々な事業を行っていて、その中で保健事業、ここに書きましたとおり共同での特定保健指導、これは生活習慣病のリスクに着目した指導で、特に少数の職員で切り盛りしている健保組合がありますので、そういった健保組合へのサポートという目的があります。また、会員健保組合の職員向けということで健康教室を行っており、昨年10月に、長野県の信濃町で森林セラピーをテーマに健康教室を開催しました。

これがそのときの写真で、その様子を東京連合会の会報で紹介したページです。字が小さいですので今ここでこのスライドを読んでくださいということではなく、森林セラピー開催後こんな形でPRをRしましたという趣旨です。実は、私自身も画面に映っていて誌面を汚していますが、全国健保連の機関誌でも同様にこのことを紹介しました。

さらに、東京連合会では健保組合の一般加入者向けの健康セミナーも実施しています。このように、健保組合では色々な取り組みを進めています。私自身もこの信濃町での森林セラピーに参加して、非常にすがすがしい気分になることができましたし、あるいは講師の方からは、『ナチュラルキラー細胞によってがんへの抵抗力が増す』とか、『健康診断の数値がよくなる』など、色々いいお話を聞かせていただき、森林セラピーに参加して良かった、良かった、ということではあります。そして先ほどは長野県の方から、健保組合が補助を出すことによって森林浴、森林セラピーはできないかというお話しがありましたが、その辺に関係してこの機会に、健保組合の財政事情をお話ししつつ、森林を活用した健康づくりに関して健保組合としての方向性のようなものをお話しできれば、と考えています。

この画面の一番上の帯が経常支出です。先ほど、全国では約1,600万人という被保険者数をお話ししましたが、その一人当たりの平均の経常支出が、一番右に書いてありますように478,000円です。そのうち243,000円が、被扶養者も含めた自分たち加入者の医療費です。そしてその次の高齢者医療費支援203,000円というのが、全国の65才以上の方々の医療費を支援しているということで、ここは自分たちの医療費とは別のところの支援金になります。それから、20,000円が保健事業費、7,000円が事務費ということで、合わせて478,000円となります。一方収入は、492,000円ですから「なあんだ黒字じゃないか」と思われるかも知れませんが、支出の趨勢的増大をカバーするために料率アップを常に余儀なくされ続けており、言わば『追いかけっこ』ならぬ『追いかけられっこ』が、ずっと続いている状態です。

主な支出項目の状況は、243,000円の加入者医療費、ここはやはり医療高度化進展を背景に伸び続けています。もっと伸び続けているのが、高齢者医療費支援で、医療高度化の進展に加えて高齢化が進展しているということ、画面の表の一番右の備考欄に書いてありますように、高齢者対現役のバランスについて申しますと、平成2年には20~64才が5.1人で65才以上の方1人を支えていたのが、今から7年後の平成37年には1.8人で1人を支えるというきわめて大きな変化の途上にあります。ということで、医療高度化あるいは高齢化等々で高齢者医療費のところは非常に伸びています。それと保健事業費は、今のところ20,000円ですが、基本的なスタンスとしてここにお金をかけることによって243,000円のところ、つまり自分たちの医療費、ここを抑えていきたいというのが現在の健保組合のスタンスです。

従いまして、この20,000円という保健事業費は、事情が許す限り減らすよりむしろ政策的にこれから増やしていくところであるということが言えます。その背景には、最近よく耳にします『健康寿命延伸』という国家的な課題があります。

項目別支出の年次推移を画面のグラフでお話ししますと、一番上の青いラインが高齢者支援です。平成19年を100としたもので、グラフは若干出たり引っ込んだりしていますが、かなりの角度で立っています。次に2番目の緑の点線、これが自分たち加入者の医療費です。

ところで高齢者支援の直近の3年間、点線の丸で囲んであるところが少し右肩下がりになっていますが、これは今後は再び伸び続けると見ています。高齢者支援の制度的なスキームとして、いったん概算でお支払いして、2年後に確定したところで、それが多ければ戻していただくということになっていますので、画面の数字でいいますと、平成24年辺りが136になっていて少し立ちすぎているのです。これはちょっと取り過ぎてしまった、健保組合からいうと取られ過ぎたということで、少し戻って来たというので少し右肩下がりになっているということですので、趨勢的にはやっぱり立っているということになります。

しかも、左上に書いてありますように、今後再び伸び率が上昇して、平成37年には、絶対額でも高齢者支援のほうが加入者の医療費よりも増えてしまう、いまこのラインは平成19年を100とした指数で示したものですが、絶対額で見ても自分たちの医療費よりもオールジャパンの高齢者の方々への支援の方が大きな額になるという状況になります。全国6割以上の健保組合でそのようになるだろうという予想をしています。

一方で、組合員の給与と料率の関係が過去10年間どうであったかかをグラフで示します。この棒グラフが標準報酬です。一目見て、この青い棒は全く増えていないことがおわかりいただけます。1,600万人の組合員の標準報酬月額は、とりわけ一番右の平成29年の予算の時点では下がっています。これはご案内どおり、28年の秋以降、パートタイム、短時間労働者の方々が社会保険に加入ということになりましたので、その辺の影響が出ていると思われます。報酬が伸びない一方で、支出は伸び続けていますので、これをカバーすべく料率が上がり続けているというのが、このオレンジの折れ線です。

このようにお金の面ではなかなかで厳しいのですが、森林活用という視点で財源の検討をしたときどうなるかということですが、先ほどと同じ経常支出478,000円の帯グラフに戻って頂くと、3、保健事業費は20,000円となっています。

この20,000円をもう少しブレークダウンして見たのがこの画面です。この中で、生活習慣病検診と保健指導費の3,300円は法定事業です。のこの法定事業というのは、*1の説明部を見ていただくとわかるように、血圧、血糖、脂質、腹囲、喫煙習慣に着目するものです。『生活習慣病対策として医学的効果がある』という確立したエビデンスと厳格な基準が決められていて、そういったものが求められます。このように、法定事業には色々なルールがありますので、その一環として森林活用に取り組むというのは、正直言って現実的ではありません。今後自由度が高まった場合には活用の余地も出てくるのかも知れませんが、現状でこの3,300円のところを当てにして森林を活用しての健康づくりの財源にするのはちょっと難しいということになります。

次に、13,400円は疾病予防です。がん検診、人間ドック、メンタル対策云々とありますが、実はがん検診ですら健康保険組合にとっては法定化されていません。がん検診をやるもやらないも、いわば自由となっていて、そこは、自分の健保では肺がんが多いので肺レントゲンをやっていきます、というのが13,400円のところで賄うことになります。

それから宣伝費でわずか900円なのですが、ヘルスリテラシーという言葉を聞いたことがお有りかも知れませんが、健保組合がいくら頑張っても、個々の当事者が自分の健康は自分で気をつけようという気持ちになっていただかないと、なかなか実効が上がりませんので、ここの宣伝費というのは減らせないと思っています。
そこで狙い目はその右の、1,500円と1,200円の体育・保養所の、いわゆるリフレッシュ施策のところです。この分が森林活用に向けての財源かなと思いますが、残念ながら額としては合計2,700円程度です。

それから、画面一番下の高齢者支援の*3のところで、75才以上の方向けの医療費支援金は1人当たり104,000円ありますが、国から『これを最大10%減額してあげますよ』というインセンティブ制度が平成30年度から本格化します。これは予防健康作り等の取組に応じた減額ということで、その評価の指標として加入者に向けた健康作りの働きかけがありますので、これを使って森林地域を舞台にした健康教室の企画・開催等は検討課題にはなるのかなと思っています。

ここで申し上げたいのは、自分たち加入者に向けた予防健康づくりで頑張ると、自健保の加入者でない75才以上の方々の支援金を減らしてあげるという、いまそういう構図になっていますよ、ということです。

いま見ていただいたように、森林活用は法定事業としての取組は正直難しい、そして財源も先ほどお話しした僅か2千数百円のところしか当てにできるお金がないということからしますと、ではどうするのだといえば、非常に月並みな言い方になりますが『個人が選好する』『個人で森に行ってみよう』など、自己負担でもいいから、こういう気持ちになっていただくということが第一に目指すことであろうと思っています。

そして、森林・山村、丘陵地帯の魅力を、間口は広く、ハードルは低く、例えばハイキングとかサイクリング、バードウオッチングとか歩くスキーなど、色々きっかけは多いと思いますので、アピールして個人にその気になって頂く、財布を開いてもらう、という施策が大事なのかなと思っています。そのために『とにかく森に入ってみよう』『気持ちいいですよ』といったような非常に単純なアピールに過ぎないのですが、私はこれを地道にやっていかないといけないと思っています。

ちなみに、「ぜひ○○町の森林に行こう」という言い方をすることに関しては、健保組合ですので、具体的な町名などあまり個々・具体的には距離を置きたいというのが本音のところです。それから特定の個人に対して「あなたはメンタル不調だから森林浴に行くといいよ」ということは言えません。あくまで本人が、「自分は少々メンタルが弱そうだから森にでも行ってリフレッシュして来ようかな」というふうにならないと、これは進め方が難しいと思います。いま申し上げた個々人へのアプローチとして、関係者の取組の方向性のマッチング、それと最大化が必要です。

ここに書いたとおり、プレーヤーがたくさんいらっしゃいます。例えば健保組合、事業主、労働組合など職域の関係、あるいは自治体、国、各種NPO等々、色々な関係の方々がおられますが、この方々の努力のベクトルを1つに合わせる、それによって加入者のヘルスリテラシー向上につなげる、それと、『森に入ると身体にいい』ということを発信し続ける努力が常に必要だと思います。保険適用は難しいとしても、個々人にとって、「やっぱり身体に良さそうだね」というアピールは絶対必要だと思います。そして魅力あるコース設定とか環境整備、それに補助金が活用できるのであればその確保努力、活用アドバイス等々も関係してくると思います。これによって健保組合の加入者のみならず、訪日外国人にも様々なアピールが届けば、色々な意味で変わってくるのかなと思います。

ちなみに私が勤める健保組合の取組を最後にご紹介します。『隗より始めよ、できることから地道に』ということで、健保のホームページで保養所の地元の見所を紹介しています。役場や観光協会のホームページにもリンクしています。それから、機関誌で森林浴の魅力を紹介する予定をしています。

これは私が勤める健保のホームページの画面で、岡山県の蒜山高原の紹介の中で、このように蒜山三座をバックにして、「非常に気持ちがいいですよ、ぜひ足を運んでみませんか」というような雰囲気のホームページにしてあります。

それから、これは、4月に発行予定の機関誌の一次原稿で、まだちょっと文章は変わるかもしれませんが、「森林浴や森林セラピーは非常にいいですよ」、一番下に「健保の保養所はいずれも自然豊かな場所にあるので、保養所周辺を散策してみたらいかがですか」という形で、間口は広く、ハードルは低く、ということでアプローチをしていこうというふうに考えています。

以上で報告を終わります。ご清聴ありがとうございました。