CSV経営・健康経営時代の「企業×森林」フォーラムⅡ
~“企業・医療保険者×農山村地域”で実現する、SDGs時代の健康づくり・森づくり〜

事例発表

1.「社有林を活用した「社員研修・森林セラピー」で実現する社員の健康づくり・早期離職対策~早期離職率の1割減へ~
 【 関本 和彦株式会社TDKラムダ 管理統括部長 

TDKラムダの関本と申します。企業の実例紹介ということで、当社が長野県の信濃町でやっていることについてご紹介をさせていただきます。先ず始めに簡単に当社の紹介をさせてください。当社はTDKラムダという名前の会社でして、会場の皆様の中には、小さい頃にカセットテープレコーダーというのがあって、そのカセットテープを作っていたTDKをご記憶の世代の方々が多いのではないかと思います。

TDKラムダはTDK出資100%の子会社で、画面の(3)にありますとおり、スイッチング電源というものを作っています。これは、テープ等々とは全く関係なく、PCとかのコンセントからコンピュータにいくところにアダプタという黒い箱状のものがありますが、その産業用のものです。画面の下の方の絵にありますように、あくまで産業用のものを主にしていますので、データセンターですとか、医療の機器ですとか、あとはインフラを支える機器向けに設計・製造・販売を行っています。従業員は、国内では600名ですが、いわゆるアッセンブルといったらいいのでしょうか、物を組み立てる仕事で、マレーシアの2工場と中国の1つの工場が量産工場であり、多くの従業員がいますので、全世界を連結すれば3,900名ほどになります。

私どもTDKラムダは、長野県の信濃町に社有林を所有しています。面積は5.1ヘクタールで、東京ドームが4.7ヘクタールだそうですので、私どもの社有林の方が若干広いかなというところです。

この絵は、私どもの会社が『TDKラムダの森』という名前をつけて、信濃町でやっている活動の全体の見取り図です。先ほど長野県から発表がありましたように、私どもは2007年の12月に、長野県・信濃町と『森の里親協定』を結び、その活動をベースに、2008年からこの森を使って左下にあります社員研修を始めました。今日は主にそのことについてお話しします。

当社としては、せっかくなのでこの森をきれいにしていこうということで、森林の整備を地元のNPOに委託ししています。また、信濃町はトウモロコシとかブルーベリーがおいしいですので、それを申し込んで会社に送ってもらって社員に販売するとか、癒やしの森の事業への協賛ということで、一昨年度から地方創生応援税制がはじまって、信濃町からの勧誘もあり、いまはそちらの方へ移行しているというのが主な活動の内容です。

私どもは、この森を使って社員研修を行っていますが、この森を活用するまではどうやって研修をしていたのかをお話しします。多くの企業がそうであるように、私どもの会社でも、新入社員たちは、普段はそれぞれ別のところに勤務していますので、研修のためにビジネスホテルに泊め、会社の大きな研修室に集めて、1週間、2週間の座学研修だけを行っていたのがそれまでの形態でした。ところが、たまたま信濃町で森の里親協定を結んだのを契機に、何とかここを活用できないかということで、もちろん座学のプログラムはありますが、それ以外に屋外のアクティビティを取り入ることができないかということで、このような活動をしています。

上の2つの絵が、社有林の整備をしているときのもので、それから右下が森林セラピーをやっているときの絵です。左の下の方の絵は、何か記念になる物を作ろうということで、ある年は植樹をするとか、ある年は巣箱を掛けたこともあり、これは巣箱を掛けているところです。場所が長野県だけに蕎麦がとてもおいしくて、社有林の隣には『たかさわ』といってむちゃくちゃおいしい、安倍総理も食べに来たという曰く付きのそば屋さんがあり、新入社員はその店で蕎麦打ちの体験をさせてもらい、自分で打った蕎麦を食べるということを恒例にしています。

では、どのような社員研修を実施してきたかといいますと、下に書いていますように、4月に新入社員研修を2~3週間、また、当社では新入社員の面倒を見る『エルダー』という職制を用意しており5月にその人たちの研修、それから6月に前年度に入社した2年次社員の研修、9月に入社3年次の人たちの研修、秋の10月には当年の4月に入社した新入社員のフォローアップ研修を行っています。このように、研修の対象者は変わりますが、基本的には年に5回、入社から3年間、新入社員を信濃町に集めて研修の実施をするというのを続けてきています。

次に森の整備に関しては、画面をご覧いただきますと、左が手を入れる2006年以前の絵です。私は当時の社長に「うちの社有林があるらしいが、誰も行ったことがないからおまえが行って見てこい」と言われて、一人で来たのはよかったのですが、私は新潟の平野の真ん中の出身なので、ガキの頃からなかなか鬱蒼とした森の中はあまり経験がなく、非常に怖い思いをしました。その後、2008年から毎年、森番として『山盛りてんこ盛り』という地元のNPOに委託して森の整備をしてもらってきています。そうしたところ、この10年間で、森っていうのは非常に正直だなあ、と思うようになりました。手をかけると本当にきれいになるのです。ですからこういう活動を、私どもは社有林でしかできませんが、ぜひ続けていきたいということで、私も最終的には『目指せ、アファンの森』の気持ちです。

これがタイトルにもありました、新卒の採用実績と離職率ないし定着率の関係を示すグラフです。冒頭にお話ししましたように当社はメーカーで、全社員が600名程度ですので、年間の採用者数というのはだいたい10名前後、少ない年で6名、多い年で31名というのが、ここ直近の13年間の数値です。参考までに一番右側の値が14名で、この春は14名の採用を予定しています。各年度のバーの上に退職者という数で、例えば一番左に書いてある6名というのは、この年度に新卒で入ってきた方々のうち6名が、残念なことに退職をしたというふうに見てください。先ほど年間に5回の研修を行っているとお話ししましたが、今のところ青くハイライトされている部分から研修を続けていますので、全社員の4分の1相当が、すでに信濃町に行って研修を受けているという形ができあがりました。

先ほどのグラフを表にするとこのようになります。この真ん中の表にご注目ください。この13年間では、05年から14年の通算で、新卒の採用者は161名でした。今日のこの時点までで、この中での退職社が32名で、比率的には20%です。ただ、赤枠で囲んだ退職者32名のうち勤務年数が3年以内の退職者の数は通算6名で、採用者数に対しては4%という実績になっています。これを、信濃町で研修を始める前と後に分けたのが、その右側のピンク色と青色の部分です。データはたったの3年分しかありませんが、05年から07年の信濃町で研修を始める前では、新採者43名のうち3年以内退職が5名で12%となり、この数字の中ではかなり高率なものとなっています。

しかしながら、信濃町研修を始めた08年以降の3年以内退職率をについて、2014年までの数字を見ますと、新卒採用者数が118名のうち勤務年数が3年以内の退職者は1名でした。ということで、ここにも書きましたとおり、12%の勤務年数3年以内退職率が1%まで改善した、言い換えれば現時点で11%改善していることになります。『3年3割』って言われるように、最下段の厚労省の平成26年3月の3年離職率の大卒というデータは32.2%ですので、信濃町研修を始める前でもそんなに離職率は大きくはなかったのですが、新入社員というのは貴重な人材ですので、より辞めさせないようにできた、というのは大きな効果であったと考えています。

それでは、なぜ辞めなくなったのか、その理由を考えてみて4つのポイントをここに挙げてみました。1つ目は例えば、今期、来期に入ってくる新卒の皆さんというのは、最近はあまり聞かれなくなりましたが、いわゆる『ゆとり世代』の皆さんに対する同期意識醸成等です。これは1988年から1996年までに生まれ、先期あるいは今期に入って来られる皆さんがいいとか悪いとかいうのではなくて、たまたまそのゾーンに入っているということで、そういう制度の中で教育を受けるタイミングにあったという意味です。

それで、なかなか、ゆとりだからということではないと思うのですが、最近若い人と話していても、内にこもってしまって、なかなか人と心を割って話しているというのを、私はあまり見かけません。ないし、少なくとも自分との比較でいくと、なんだか少ないのではないかなと思います。そういったような新入社員としては、もちろん初めて会社に入って、そして組織の中では周りは先輩だらけで、なかなか自分が思うように仕事ができない、自分だけが遅れる、自分だけが怒られる、そこで、自分だけが劣っているのではないかというふうに感じる場面が多々あるのだと思います。しかしながら、いまではこういう研修を通じて、同期で絆を作りますので、普段は人にぶっちゃけて話せないけれども、同期には話せる、同期には聞ける、という環境を作ってやっているということが、何かつまずいてすぐに辞めるという行動パターンを防止しているのではないかと考えています。

2つ目に協働作業、森林整備、制作物と書きました。これは、1人でやることには限界がありますが、同期のみんなで、例えば、1人で巣箱を掛けることはできませんが、ハシゴを押さえてくれる人とか、巣箱を掛ける人とかというように役割分担をすればできるというのは当たり前のことなのですが、なかなか経験を積んでこなかったのではないかなというふうに見てとれるのです。3つ目、これは森林セラピーのトレーナーの方が言われていたことで、あ、なるほど、と感じました。それは、総体化、極小化、というのがなかなかできなくて、自分の中で絶対化してしまって問題の大小の判断ができなくなっているというのが、追い詰められたときの状態ではないかな、というふうに思います。ただ、これが森林セラピーをしたりとか、森の中に入ったりしてゆったりすることによって、それを相対化できる、極小化できるというメリットがあるのではないかな、というふうに考えています。

最後4つ目は、各研修では必ず森林セラピーを行っており、それをやることによってストレスの発散方法を身につけている、というふうに思っています。といいますのは、なかなかストレスで、ほんとにメンタルの問題は当社でも、もちろんゼロではありません。ただ、過去に経験したことのない人たちがストレスに直面すると、やはり行き場がなくなるっていうことはあるのだと思います。しかしながら、森林セラピーを通じて、それをどうやって発散していけるのか、という方法を身につけるということはきわめて有意義ではないかな、と思っています。最後に、第3者の見守りと書きました。この場合の第3者とは、研修を担当していただく森林セラピーのトレーナーのことです。研修受講者は、新採時から、2年目、3年目と3年間にわたって信濃町に行くわけです。これらの研修受講者に対して、信濃町では基本的に3年間とも同じ森林セラピーのトレーナーをつけてくれます。そうしますと、いつもの会社の組織はピラミッド型で常に上下の関係ですが、研修受講では第3者の眺めの目線というのが入ってきて、なおかつ同じトレーナーから研修受講者に対して、太った・痩せた、元気がある・ない、彼女ができた・できないなど、行くたびに声をかけてもらって、気軽に話しができるということで、大変心が開かれている、というふうに感じています。

最後に一言お話しいたします。企業側の担当をしていますと、CSRですとかCSVといいますと、非常に大上段に構えてしまって、いったい何をすればいいのだろうと、先ほど浅原さんからもお話しがありましたように、私も初期的には七転八倒して、最終的にここに落ち着いて、これを続けてきているというのが現状です。いままでは、何がCSRで何がCSVで大切か、企業においてそれを確立するためには何が大事かということで、私は2つのポイントを挙げていました。1つは、間違いなくトップのコミットメントだと思います。やはりトップが認めてくれないと、企業内ではなかなか続けられないということです。もう1つは、ちょっとおかしな話しですが、持続可能な予算です。初年度だけ何千万も予算を取って、打ち上げ花火のように、バーンって派手に消費しても翌年から続かないということになると、それをやられた自治体としては、初年度はできたけど後は何もない、続かないでは非常に困るということを実際に聞いています。ですから、景気の波があっても、その予算は確実に使えるぐらいの金額で続けて行くということ、これは、私はキーワードであると思っています。

この2つのことをずっとお話ししてきたところですが、実は今回の資料を準備する中で、企業側の担当者としては、当初から外向きの活動・言葉だけではなく、先ずその活動そのものが自社内で成果が出て認められるということがあって、その上で外向きっていうふうに考えていかなければいけないのではないかというふうに思いました。それで、私たちの活動は、結果的に『社員が辞めなくなった』『社員が強くなった』であろうということが社内で認められたこと、これがこの取組を続けていけている理由なのかなというふうに思いました。

以上で報告を終わります。