震災に負けない、風評に負けない。被災3県の希望をつなぐ、架け箸へ。

福島県・いわき市

株式会社 磐城高箸

縁のあるいわき市で、割り箸の可能性に賭ける。

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代々、福島県いわき市の山林造営・製材会社の経営に関与する家系。心の片隅には日本の森の荒廃する様が棘のように刺さったまま。やがて森林ジャーナリスト、田中淳夫氏の「割り箸はもったいない?」の一冊との結び目に膝を打ち、一念発起、事業を立ち上げたのは2010年8月のことだった。

img0308-1「割り箸に可能性を見出した理由は、原料である間伐材が無尽蔵であること。足元のいわき市にも良質の杉がごまんとある。材の風合い、色合いを活かすため丸太から一貫生産すること、断面に丸みのあるオンリーワンの九寸利休箸(24cm)とすること、をものづくりの柱にして、事業を始めることとしました。価値がないと思われている間伐材が、光の当て方次第で、「あら、素敵」と思ってもらえる価値を生めば林業の復興につながると思いました。」(株式会社 磐城高箸 高橋 正行さん)

機械を導入し、試験製造を重ね、「純いわき産杉」の割り箸の製品化に目途が立ったそのとき、皮肉にも東日本大震災が発生する。

「3週間近く断水し、停電も続きました。地震や津波被害もあったけど、原発事故の深刻な事態が取り沙汰された頃で、本当にやっていけるのかと悩んでいた。そこへ4月の大きな余震があった。この町には断層があって揺れも半端ではなかったのですが、この地震で割り箸作りの要である帯鋸の機械が壊れて、廃業も覚悟しました。」

支援団体であるEAT EAST!が福岡からバスを乗り継ぎ、遙かいわき市まで手弁当で駆けつけてくれたのはそんな時だった。

「デザインの力で復興をサポートしたいというみなさんと、日本の森の現実、間伐材や割り箸の話をするなかで、一緒に頑張りましょうと・・・。再出発の背中を押してもらい、有り難かったですね。」

震災と風評に負けないものづくり、絆づくりを

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被災三県をつなぐ「希望の架け箸」。デザインは震災後、高橋さんを後押ししたRAT EAST!によるもの

苦境のなか、予想だにしない援軍を得た高橋さんにチャンスも訪れた。「間伐材利用コンクール」がそれだ。

img0308-9「震災後はどうしても足元の被害ばかりに目が向いてしまいますが、今回の震災は点ではなく、線の被害だと。それならば被災三県みんなが元気になるようなことをしよう。三県の杉産地の間伐材を使った本物の割り箸をつくろう、そう思い立ったわけです。気仙杉の産地である、岩手の陸前高田は津波による甚大な被害があった。栗駒杉の産地である宮城県栗原市は、大震災の本震で震度7を記録し、過去にも直下型の大地震に見舞われた土地。そして我が磐城は津波の被害と原発事故に端を発する酷い風評がある。こうした背景をもつ、「三県復興希望のかけ箸」を「間伐材利用コンクール」にエントリーできたのは、締め切り間際のことでした。」果たして、「三県復興希望のかけ箸」は『2011年 間伐推進中央審議会 会長賞』を受賞する。

割り箸が希望の架け橋となり、自然豊かな東北の地が、再び人々の希望を実らせる場所となるように・・・。高橋さんのこの思いを凝縮した被災三県の九寸割り箸は、EAT EAST!のデザインを得て、新たな、そして大きな一歩を記したのです。

なお、売上げの150円が義捐金となり、それぞれ50円ずつを三県各市へ直接寄付しています。いわき市でも林業に携わる方の間で、この箸の存在を知る方は増えてきているといいます。問い合わせや引き合いは中央官庁や他の自治体からがほとんどという状況で、「三県復興希望のかけ箸」の価値や役割にして今後は地元へのアピールもさらに必要になってくる。生産拠点である自らの森を守っていく上でも、理解の輪の広がりが期待されるところです。

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同じ林業地にいる者として、磐城杉の価値を発信していく。

img0308-6原木から買えるのが、当社の強みになっている。そう語る高橋さんに良質の地場材を届けるのが、いわき市で林業を営む豊田 新一さんだ。山深い田人(たびと)町に生まれ、「森」に対する愛着も人一倍。二人が出会ったのは、地元いわきで行われた復興祭だったといいます。

「杉の仕事をしてきた者として、地元の杉材で箸を作るのは良いことだし、素直に広めていって欲しいと思った。生産者として磐城杉というブランドが誇れるものに育っていって欲しいしね。」(豊田さん)

田人の杉は、芯が円心にあり、曲がりが少なく、年輪が細かく、強度が高いことなど品質に優れていることが特徴だが、高橋さんの割り箸を見て、磐城杉の可能性と価値を再発見したといいます。高橋さんにとっても「目詰まりが良く、割り箸に最適な材」が地元であるいわきにあることは当然のことながら大きなアドバンテージとなっている。

「仕事の傍ら、請われれば地元の小学校での「森林教室」にも出掛けていきます。こどもたちに森の話をしたり、工作を教えたり。山に携わる自分が、地元の山をPRするのは当然の役目。かれこれ十年以上ボランティアをやってきました。」(豊田さん)

地元の森を守るために次世代とふれあう豊田さん。そして、その森を維持するために、間伐材に価値を創ろうと奮闘する高橋さん。同じ林業地に生きる者として、割り箸という「木づかい」を通した森の再生は始まったばかり。磐城杉の名が地元に根づき、風評に負けることなく全国に認められるその日が待ち遠しい。

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株式会社 磐城高箸

福島県いわき市川部町川原2番地
http://iwaki-takahashi.biz/

平成22年8月に創業。間伐材を活用する環境にやさしい純いわき産杉割箸を製造・販売する他、被災3県の杉の間伐材を使った割箸「希望の架け箸」も手掛ける。検品及び袋詰めは地元のNPO法人 なこそ授産所と提携し、障害者の方たちに依頼。地元に雇用の場を提供するなど人にもやさしい企業を標榜。磐城高箸のブログを通して、いわき市の情報も発信中。