真摯に森と向き合い、持続可能な地域の発展を目指す。

宮城県・南三陸町

入谷Yes工房

失意の中、いち早く仕事を、女性の場づくりを。

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宮城県の北東部に位置する南三陸町。東日本大震災で町内の約7割が流出したこの町にあって、復興のシンボルとして人気となったキャラクターがある。「オクトパス君」がそれだ。

「タコは、海産物で知られる南三陸町の名産のひとつで、「オクトパス君」は2009年にすでに商品化されていました。「置くと(試験に)パス」するというシャレで、受験生の話題を集め、震災直前には800個を売り上げました。2月には海沿いの地区に工房を作って量産をと思っていた矢先に大震災の津波で工房ごと流されてしまったんです。」(南三陸復興ダコの会 村井香月さん)

img0305-2しかし震災から1ヶ月後の4月、ボランティアのため現地入りしていた大正大学の学生との意見交換の場で、「オクトパス君」の存在を話したところ、「復興のシンボル」として活かしてはどうかと話が持ち上がったのだといいます。5月中旬には富山県高岡市の工房に外注したタコの鋳物を南陸で彩色し仕上げるという「仕事」も生まれた。6月には事業主体となる任意団体、南三陸復興ダコの会も設立されました。

「家もなければ、仕事もない避難所の日々で、未来に向けて希望をもっていくには少なくとも働く場が必要ということで、とにかく始めてみたんです。」とは事務局の阿部忠義さんの弁。喪失感に満ちた避難所の片隅に、一筋の光が差し込んだ瞬間だった。

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技術やノウハウを持った外のパートナーと連携する。

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現在、「オクトパス君」を製造・販売の拠点となっているのは同町の入谷(いりや)地区にある廃校をリニューアルした入谷Yes工房。廃(はい)校だからYes(はい)工房というわけで、ここでもシャレがきいている。

「ここは中山間地だったことから、かろうじて津波の難を逃れることができました。入谷地区はかつて町の中枢で、養蚕も盛んな土地柄でしたので、その伝統を踏まえ手ざわりの優しい繭(まゆ)をつかったオリジナルの商品も作っています。」累計で3万個を売り上げた「オクトパス君」だが、製造・販売アイテムも広がりを見せている。そのひとつが震災被害木を使った木製のピンバッチや絵馬などの木製ノベルティ。

img0305-4「縁起物で、人気者のオクトパス君ですが、さすがにこの文鎮を何個も欲しいという人はいませんから(笑)商品開発にあたっては震災後、南三陸町に木製ノベルティの工房を移した東京のフロンティアジャパンという会社と連携し、新しい視点でものづくりにあたっています。地元の材を使う仕組みの中に、技術を持った外部のパートナーをうまくマッチングさせる。そしてそのノウハウを積み上げながら、復興需要だけでない武器を身に付けていくことが私たちの目標です。」(村井香月さん)

製造に関わるスタッフは20〜60代の25名ほど。スタッフの半分は仮設住宅からこの工房に通われているといいます。家を流され、身内を亡くした方も多いが、それでもみんな口に出さず、頑張っている。働くことが、癒されることだと改めて気づかされます。

木づかいと森づくりが融合した、持続可能な地域づくりへ。

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地元の震災被害木を有効活用した木製ピンバッチが人気のアイテムとして育っていますが、「オクトパス君」の他に陸前高田の、あの「奇跡の一本松」をモチーフにしたピンバッチやブックマークも入谷Yes工房で作られています。こうした木づかいの活動のみならず新たな展開を見せているのが、企業が参加した森づくり。

「地域・社会に新たな価値を提供できる森づくり、という視点から全日空が南三陸町の森林組合と一緒に、環境保全活動を実施することになりました。全日空の社員ボランティアが間伐作業に参加しながら豊かな森をつくっていく試みで、森林保全の過程で生まれる間伐材を使った木製品もここでで作っていきます。」

img0305-5震災被害木を活かしたものづくりに励む一方でいま、進行しているのが研修センターの建設。

「震災後は雇用に勝るものはないと思って働く場を確保するために奔走しました。いまは復興グッズということで応援してもらっていますが、持続可能な事業にするためにもこれからが勝負だと思っています。研修センターもその延長線上にあって、森づくりのボランティアや学生など、南三陸町を訪れる方にどんどん利用してもらいたい。交流人口が増えることで地域も磨かれるし、ひいてはそれが持続可能な地域づくりにつながります。研修センターはその拠点という位置づけです。」(事務局の阿部忠義さん)

木づかいと森づくりが融合した、雇用の創出と地域づくりに期待は高まります。

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南三陸復興ダコの会 入谷Yes工房

宮城県本吉郡南三陸町入谷字中の町227
http://ms-octopus.jp/

南三陸復興ダコの会は、震災後に雇用促進と地域振興を目指して設立された任意団体。南三陸の名産であるタコをモチーフにした「オクトパス君」の多彩なグッズを製作・販売しており、その拠点が入谷Yes工房。震災被害木を活かした木製ノベルティなどは、記念品や販促グッズとして多くの企業や団体に活用されている。自然と人が共生する美しい里山にあるアトリエには、現在被災者を含め25名のスタッフが働く。