『動き出した、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム』 ~産官学連携で拓く、地球温暖化防止・生物多様性保全に貢献する木づかい~

主催/美しい森林づくり全国推進会議、(公社)国土緑化推進機構、経団連自然保護協議会
後援/林野庁、(社)日本林業協会

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2012年6月の「リオ+20(国連持続可能な開発会議)」及び10月の「COP11(生物多様性条約第11回締約国会議)の開催等を契機として、「グリーンエコノミー」の創出や「自然資本」に配慮した企業活動への関心が世界的に高まりをみせています。とりわけ、2013年からはじまるポスト京都議定書の枠組みにおいても、木材製品のCO2貯蔵効果が評価されるとともに、本年9月に策定された「生物多様性国家戦略2012-2020」においては、持続可能な森林管理・利用に係る施策が幅広く位置付けられるなど、地球温暖化防止や生物多様性保全に貢献する森づくり・木づかいへの期待や関心が高まりつつあります。
このような中で、我が国では木材自給率50%に向けた「森林・林業再生プラン」や「公共建築物等木材利用促進法」に基づく各種施策の本格的な実施を背景として、公共施設や住宅等の建築・土木業だけでなく、家具、日用品等の製造業、さらには小売業、サービス業、商社など幅広い業種の企業等による新たなビジネスモデルの創出に向けた取組がはじまっています。そこで、多様な企業が参画して森や木を活かした「グリーンエコノミー」の創出等に向けた取組を先導する諸団体などが一堂に会して、最前線の取組事例に学ぶとともに、多様な分野の連携・協働による新たな商品開発や消費対策の展望を議論するシンポジウムを開催します。

動き出した、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム

1.開会・挨拶
出井 伸之 (美しい森林づくり全国推進会議 代表)
沼田 正俊 (林野庁長官)
2.基調講演
動き出した、森と木を活かすものづくり・いえづくり
~最前線の事例にみる、新たな木づかいの商品開発~

赤池 学 (ユニバーサルデザイン総合研究所 所長)
3.概要報告1
国産材自給率50%に向けた、次世代林業システム政策提言
~東北経済連合会・九州経済連合会との連携の広がり

米田 雅子 ((社)日本プロジェクト産業協議会 森林再生事業化委員会 委員長、
慶応義塾大学 特任教授)
4.概要報告2
木材利用システム研究会の取組~木材需要拡大に向けて
井上 雅文 (東京大学アジア生物資源環境研究センター)
5.概要報告3
生物多様性民間参画パートナーシツブ会員アンケートに見る、森づくり・木づかいの動向
古田 尚也 (IUCN(国際自然保護連合)シニアプロジェクトオフィサー)
6.概要報告4
森林資源活用の可能性と林野庁施策の動向
末松 広行 (林野庁林政部長)
7.パネルディスカッション
森と木を活かす「グリーンエコノミー」の実現に向けて
~産官学協働で拓く、木づかいを促す商流戦略~

<モデレータ>
赤池 学 (ユニバーサルデザイン総合研究所 所長)
<パネリスト>
米田 雅子、井上 雅文、古田 尚也、末松 広行の各報告者
8. 講評
 出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)

開会挨拶

出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)

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私はソニーの社長、会長を長年つとめ、その折は経済産業省や総務省と関係しておりました。ソニーを卒業してからは全然違った経験をしてみようということで、林野庁のお手伝いをさせていただいて、かれこれ5、6年になります。その間、植樹祭に何回も出させていただいたり、天皇陛下や皇太子殿下にお越しいただいて行うセレモニーなどを通じて、わが国は森林づくりについての素晴らしい伝統がある、他に類を見ない国であるとつくづく考えてまいりました。

こうしたイベントを積極的に林野庁の皆様に企画運営していただいていておりますが、先日長野県のCWニコルさんの森を見に行きましたところ、国有林と私有林がどのように違うか実感いたしました。CWニコルさんが一生懸命手入れをしたところはこんなに良くて、広い。一方、国有林がただただ広い、と言っては悪いと思うのですけど、だいぶ違うのだということを理解いたしました。このようなイベントなどを通じて、自然に親しむということが、だんだん世の中に普及してきて、考え方が変わってきたなと思っているところです。

美しい森林をつくる推進活動は、経団連さんにも共催をいただいて進めてきた活動です。2007年にスタートし、日本の森の4割を占める人工林について、その間伐を行うことを通じて、見た目に美しいだけでなく、温暖化防止にもすぐれた森を造ることを目指した活動です。半年ごとにシンポジウムとか、いろいろなイベントがありますし、フォレストサポーターズという制度を通じて登録を呼びかけたところ、結果的には登録者が4万件にまで増えてきております。特に、企業の方のサポートが1,000社以上あり、連携の輪が非常に広がってきていることで、5、6年前と比べて全体に関心が非常に高まってきていると感じています。2011年の2月には、経団連の自然保護協議会が進める生物多様性民間参画パートナーシップなどとの共同宣言を行いまして、本日のシンポジウムの共催につながりました。

私は、こうしたイベントに出席するたびに、木は植えてばかりではなく使っていかなくてはならないと、使っていくにあたっては、日本の企業で、すぐれた生産技術と流通技術を持つ、第二次産業の大企業との協力が必要であるとつくづく感じてまいりました。本日のように、木材の消費者側に近い企業の皆様の集まりで、木材の利活用についてのお話させていただくことは、これからの森の活動においても一番重要な問題であると思います。

日本においては新しいイノベーションの推進が急務です。大量にものを作っているだけでは、中国などの新興国に勝てません。ユニークなものを生み出していく「イノベーション」が必要なわけですが、考えてみればイノベーションはその必要性とこれを実現するための技術という2つの要素によってはじめて成立すると思うのです。

本日は、日本における木の使い方について何が求められているのか、そして、何がどうやって新しい価値を生むのかという、色々なお話が聞けるということで、私も大変期待して参りました。皆様も色々なヒントをつかんで帰っていただきたいと思います。

本日はお越しいただきまして、本当にありがとうございました。

 沼田 正俊(林野庁 長官)

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本日は、「動き出した森と木を活かすグリーンエコノミーシンポジウム」がこのように盛大に開催されますことを、心からお慶び申し上げます。また、ご参会の皆様方には日頃から森林行政の推進にあたり、大変なご支援ご協力をいただいておりますことをこの場をお借りして改めて御礼申し上げます。

ただいま出井代表からもご挨拶がありましたが、日本は非常に豊かな森林国であり、これまで先人がこうした森を築き上げ、大切にして参りました。私どもは、このように受け継いできた森林を、将来の世代にきちんと繋いでいくことが極めて大事なことだと思っております。さらに、日本の森林を中心とした経済が持続的に発展していくこと、そして、タイトルにもありますように地球温暖化を防止することや、生物多様性の保全などに貢献していくためにも、再生産可能な森林木材資 源を最大限に活用していくことは非常に大切だと考えております。

林野庁では、10年後の木材自給率50%を目標に努力しております。例えば、一つの森における各作業を集約化する、作業に必要な安価で簡易な道を作る、それに必要な人材の育成を行う、そして地域で生産される木材を色々使う。このような取り組みを推進しております。

このうち、特に木材の利用に関しては、一昨年、公共建築物木材利用促進法を制定していただきました。この法令に基づき、すべての省庁・都道府県において、低層の公共建築物は原則として、木造化するという方針が策定されており、現在800弱の市町村でも既に方針を策定いただいた状況でございます。

このように、木材の利用に関して私ども行政も努力を続けているところでございますが、一方、行政の力だけではなかなか難しい面もございます。行政と民間とが一体となり、住宅やオフィスなどの建築物の木造化、様々な木製品の開発、内装材としての木材の利用、こうした木材の利用法を質的にも量的にも増やしていかなければいけないと考えております。

今年の7月ですが、再生可能エネルギーの買い取り制度が導入されました。私どもとしましても、木質バイオマスのエネルギー利用を切り口に、皆様に色々と努力いただきたいと思っており、このような「木づかい」が、日本の環境や地域の経済を支え、発展させていく力になると考えているところです。

今日は産業界や学会の第一線でご活躍されている方々と、私ども行政の関係者が意見交換をさせていただく場をいただいておりますので、様々な目標の達成に向けた豊富な考え方やヒントがでてくるのではないかと期待しているところでございます。
最後になりましたが、ご参会の皆様方の益々のご発展を祈りつつ、木材をぜひ利用していただきたいこと、そして森をよくしていく活動にご協力いただきたいということを改めてお願い申し上げまして、ご挨拶に代えさえていただきます。本日はよろしくお願いいたします。

基調講演

 『動き出した、森と木を活かすものづくり・いえづくり
~最前線の事例にみる、新たな木づかいの商品開発~
赤池 学(ユニバーサルデザイン総合研究所 所長)

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私は、ユニバーサルデザイン・サスティナブルデザインに基づく商品や地域開発を手がけているインダストリアルデザイナーです。今日は私共の研究所が開発に関わりました、空間デザインあるいは商品のデザインを紹介しつつ、各事例における「木づかい」の可能性と課題について、お話をしたいと思っております。

まず最初に「木をつかう」といったグリーンエコノミーについて、世の中の情勢がどのように動いていくのか、という大きな話からお話したいと思います。

私共は、20世紀までの社会は、効率化的な仕組みを自動配信してゆくことを志向した「自動化社会」であったと考えています。自動化社会では利便な社会が形成された一方、環境破壊をはじめ負の遺産をたくさんため込んでしまった。そこで、日本を含めた先進国は、これらの課題を解決するための新しい社会モデルの形成に向けて動いてきたと捉えています。

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これが、例えばエネルギーで云う所では、エネルギーベストミックスと呼ばれる第2ステップの「最適化社会」です。ところが最適化社会には、部分最適に陥りやすいという弱点があります。少し前の例を挙げますと、低炭素社会作りを目指しただけで、あたかも企業の環境対応は完了したかのような錯覚にとらわれているアクションが少なくなかったと思います。更には東日本大震災を契機として、科学的合理的な根拠を持つと喧伝されてきたエネルギーの構成比率は、実は極めていい加減なものだったと気づかされ、最適化社会は幻想であると直感された方も多いのではないかと思っています。

このような気付きの背景には、YouTubeやソーシャルメディアといった情報技術の成熟が考えられます。問題意識を持って情報を収集すると、世界中から、より確からしい情報をリアルタイムに得ることができる。この情報をベースとして、これからは、個人も企業も自治体も、自ら計画し、自ら行動をするというアクションを起こすようになるはずです。

例えば、北九州市では、製鉄工場が副生している水素を活用し、水素ステーションを作って、水素をベースとする燃料電池に対応した住宅基盤整備を進めていこうと計画しています。このように極めて自律的なアクションが起きてきているのです。阪神大震災以降、我国のフロントランナーは、自律化社会にむけて動き出し始めた、と私共の研究所は捉えているのです。

更に、この自律化社会のフロントランナーたちは、自ら計画して行動する過程において、ローコストで導入できる生態系サービスや自然のメカニズムを利用してゆくことで、より持続可能な町づくり・物づくりができることに気づいて、これを推進して行くはずです。つまり、自律化社会のフロントランナーは、「自然化社会」と呼べるような方向に向かって走り始める。私たちは、この「自律化社会」から「自然化社会」への移行を繋ぐのがグリーンエコノミーだと捉えているのです。

次にご覧頂いているのは、2枚の対の写真の一部です。ご覧いただいて右と左の都市と右と左の商店街、それぞれどちらがチャーミングかということですね。あえてここで手を上げていただく必要すらないと思います。いままで各所の講演でお話した際も、左がいいとお考えの方は一人もいらっしゃいませんでした。

そこで、実際に右側のような都市が必要だと言うのであれば、やはりグリーンエコノミーを考えなければいけないわけです。左の写真のような、よく見かける商店街を右の写真のように変えていく、そのためには新しい都市開発の発想を変えなければいけません。右の商店街の写真を見ていただいて想像していただきたいのですが、例えば車で言えば、たぶんここに従来型のセダンの車とか、スポーツユーティリティービークルは入れない。こういう町を望むならば、こうした町にふさわしいコンパクトモビリティーをどうやって実現すれば良いかを考える。こういう発想が求められてくるのがグリーンエコノミーだと思っています。

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さて、ここからは、私共が関わった木づかいの事例について、いくつかお話をしたいと思います。2008年に洞爺湖でサミットが開催された際、経済産業省から、日本の先端的な環境技術を集積したゼロエミッションハウスをデザイン・プロデュースしてほしいとお話がありました。そこで積水ハウスさんと一緒に形にしたのがこちらの家です。

ソーラー発電、住宅用蓄電池、燃料電池、その他色々な環境技術を導入したゼロエミッションハウスなのですが、その中で一番見ていただきたいのが、こちらの和室です。

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天井は当時試作段階にあった有機ELの照明を採用しました。木材を多用するとともに、壁も土壁にしました。光を上手く捕えますと、土の壁は蓄熱性がありますし、調湿性にも優れているのです。次に注目していただきたいのは畳です。この畳は藁床の畳ではなくて、床の部分に檜の製材時に廃材として出るチップを利用したヒノキの健康畳を使っています。この畳からは、ヒノキのいい香りもしますし、天然の防虫抗菌効果を持っていますので、ダニ・カビが発生せず、更に耐久性も藁床の畳に比べて高いという優れものの畳です。木質資源のこうしたさりげない使い方、デザインの発想というのは、例えばシックハウス等の課題に悩んでおられる方など様々な皆さんの心に響き、間違いなくキャッチアップされるだろうと思っています。

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次に、ゼロエミッションハウスで使用した木の部分ですが、こちらはすべて、蜂蜜を絞った後にでる「無駄巣」を原料とする蜜ロウワックで仕上げました。蜜ロウワックスは、日本の山間地で昔から行われてきた日本ミツバチが供給源です。生態系の保全とあわせて、こうした古来の知恵を復活させようという動きが長野県で広がり始めています。

ゼロエミッションハウスのお庭の部分には、エクステリアとして、接ぎ木で作ったシンボルツリーや、接ぎ木で作った木のベンチを意図的に配置しました。接ぎ木のように既知の技術でも、デザインが寄り添うことによって、例えば春には桜の花が咲く木のベンチも作っていけるはずです。更には、それぞれの土地の山々で見られる樹種を都市基盤に利用した、新しいタイプの「生きている」都市の構築も十分に実現可能だと思っています。

こちらは、2010年に横浜でAPECが開催されたときの写真です。クールジャパン製品のプレゼンテーションを目的とした、JAPAN EXPERIENCEというゾーンの空間デザインを私共が行いました。

こちらでご覧頂きたいのが、ブースのフロア材と展示材です。実はこちらは、私共の研究所で開発したFOREST PARQUETという建材で、間伐材を集積して小口側で切ってフロア材にしたものです。
間伐材を空間に配置する場合、木材をそのまま使うと、僕たちデザイナーや商業施設のお客様の目には、木目が「うるさく」感じられることも多いのです。そこで、「小口側に切ってみたらストライプのデザインになるのではないか」「もしかすると強度も上がるかもしれない」と考えて調べてみたところ、実際にデザイン性に優れた強度の強いフロアー材が仕上がりました。
こちらのFOREST PARQUETはその後、スターバックスやイオンモールからも導入検討のお問い合わせをいただいています。FOREST PARQUETに限らず、国産木材を使った色々なショールームを形にする企業も、ここ数年非常に増えています。

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こちらの写真は、先ほどのゼロエミッションハウスをデザイン・プロデュースした後に、リクシル住宅研究所から「国のゼロエミッションハウスを超えるエコハウスを提案ほしい」と依頼をいただいて、形にしたコンセプトホームです。

写真では見えないのですが、屋根の上にはソーラーパネルが乗っています。不安定なソーラー電力を、今後普及が期待されるEV車のバッテリーに蓄電して、住宅が自動車から電気をもらって暮らすというコンセプトを初めて形にしました。このコンセプトは、ご存知の通り、大手住宅メーカーと自動車メーカーの連携による提案として、スマートハウスの一つのスタンダードになっています。

この住宅の中でも、色々な「木づかい」のデザインを導入しました。写真中のテーブルや和室の床柱には、高野山金剛峯寺の杉、檜、槙の木を使用しています。実は、いわゆる高野山の木材、これをブランディングしてほしいと高野山から依頼がありまして、「高野霊木」というネーミングをして商流形成のお手伝いをしてきました。このコンセプトホームのさまざまな木材部分に「高野霊木」を使用して訴求したところ、こちらの住宅は2年間で500棟位売れました。高野山傘下のお寺さん、檀家さんはたくさんいらっしゃるわけですが、霊木のデザイン開発を行ったことにより新たな商流形成が起こったわけです。その後、「高野霊木」の成功を受けて、山梨の身延山や山形県の月山からも、同じように「身延霊木」や「月山霊木」をブランディングしてほしいと依頼をいただいています。

このように、リアルな商流を意識した形で新しい建材のプロデュースを行っていくと、付加価値の高い様々な木材ビジネスを構築できるはずです。

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このコンセプトホームは、庭をシステム化したということでも、業界で非常に話題になりました。庭を家庭菜園にすれば子供達と一緒に農業も楽しめますし、暖かい季節になれば鳥や虫も集まってくる。庭というのは、チャーミングな住宅における感性装置ですが、京都の町屋が坪庭をデザインしたことでわかるように、光と涼やかな風を取り込むための環境装置でもあるのです。

いままで、住宅メーカーには、庭を環境装置としてとらえる視点が欠けていましたが、コンセプトホームでは、コンピューターでシミュレーションして、適正な位置と大きさに4つの庭を配置しました。

写真のような、菜園や菜園と連携したウッドデッキなどが組み込まれています。更に、この4つあるシステム化した坪庭に常滑焼の露天風呂を入れました。これだけで130万円もしますので、リクシル住宅研究所の社長は難色を示しましたが、実際には先ほど申し上げましたとおり非常に売れました。ご購入いただいた方のアンケートを見ましても、露天風呂を見たときに迷っていた購入を決断したと書いてくださるお客様がたくさんいらっしゃいました。

考えていただきたいのは、ウッドデッキや露天風呂の周りの木材です。ご存じのように、耐水性とか耐候性に優れたアウトドア用の木製品がわが国にはまだまだないのです。地域がこういう要素を満たす木製品に注目し、ニーズに目覚めた住宅メーカーと連携しきちんと木製品を開発していけば、そこには間違いなく新しい商流が起きるはずだと思います。

これは積水ハウスさんの菜園マンションですが、このご時世にもかかわらずほとんど即日完売の状況です。こうしたマンションデベロッパーにおいても、木を使うニーズが台頭してきているのです。

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これは昨年の12月に行われた東京モーターショーの展示ブースです。リクシルと一緒にブースのデザインを行いました。手前にはエクステリア、ブースの外にはインテリアとしての住宅があるという設定ですが、来場された方に見ていただいたのは、インテリアでもエクステリアでもない「ミッドテリア」でした。ミッドテリア、すなわち中間領域は、たぶんこれからの家造りにおける新しい間取りの空間、あるいは近隣の人々・家族が集う、集いの場になっていくはずだと考えています。

こういう中間領域のためのルーバーに木製品使おうとしたとき、使いやすい木材が、今のところまだない。こういう素材分野の研究開発やデザイン開発などに資源を投入すれば、新しいビジネスモデルが成立するはずです。

写真の中には、実は馬がいます。都市に緑は増えたけれども、動物はまだ少ないぞというアンチテーゼとして、モーターショー史上初めて馬を飼いました。手前は木製の電気自動車です。もしもこの自動車で事故をおこしたら間違いなく火を噴きます。でも、先ほど見ていただいた理想の商店街の中で利用する場合ならどうでしょうか。最近、国土交通省でもゾーン30といった低速の交通システムの実証実験を始めましたが、発想さえ変えれば、地域の木材を地域の町工場が作る移動手段用の素材に使っていくことも十分考えられるのではないかというメッセージです。

先ほど、モーターショー史上初めて馬を買った話をしましたが、本当に馬付き住宅の販売をはじめた自治体もでてきました。

遠野市の例ですが、地域材を使った戸建て住宅を1棟買うと、もれなく1頭乗用馬がついています、というビジネルモデルを本当に展開しています。遠野のエリアでは、間伐の際に、南部の地元の馬を使って運搬してきました。遠野市は、馬付き住宅の分譲にあわせて「うちの間伐材は馬で引き下ろしているのだよ」と認知してもらう宣伝効果を狙っています。このように、馬搬認証木材のブランド化といった新しい発想のビジネルモデルの構築を狙う動きまで出始めています。

これは、少し前に手がけた富士通FIPの横浜にあるデータセンターについての記事です。富士通FIPでは丹沢に「富士通FIPの森」を持っています。データセンターと森とは真逆の存在に感じられると思いますが、クラウド&グリーンとで富士通FIPは、木材や植栽に富むデータセンターを作られました。記事中に建物と芝生の写真が見えますが、富士通FIPでは第2期の工事を計画中です。データセンターはご存じのようにたくさん熱のを排出しますが、第2期のデータセンターにはいわゆる植物工場を併設して、丹沢の森の色々な樹種のみ実生を植物工場で育てていこうという計画が構想されています。

さて、後ほどプレゼンされる林野庁の末松さんがバイオマス・ニッポン本総合戦略を策定されましたが、正直に申し上げて大規模プラント型のバイオマスのシステムは残念ながら、なかなか定着に至っておりません。

一方で、今まで見てきましたように、間伐材を活用したデザイン建材や、木粉やペレットの利用などのビジネスは現在でもリアルに動いています。

例えば、木質のバイオマスから一挙に水素を作ってしまおうというプロジェクトが進展しつつあります。

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更に、バイオマス活動の先端的事例として、東芝が行った実証実験を紹介します。これは、間伐材を含めた木質のバイオマスから、ナノカーボンを作るプロジェクトです。私はこのプロジェクトの評価委員を務めていますが、木材から、かなり質の良いナノグラフェンを作れることが確認されはじめています。

また、理化学研究所とトヨタ中央研究所では、シロアリ由来の酵素で、木材からバイオ燃料を作る技術の実用化に向けた研究を始めています。

さて、森林といいますと木材だけではなく森林が育む宝がたくさんあります。例えば、家蚕から抽出したシルクは紫外線A波を遮断できますが、山に棲む山繭蛾のような森林由来の蚕蛾から抽出したものは、紫外線のA波もB波も遮断します。そこで大手の化粧品メーカーが山林由来のシルクを用いたシミ予防の化粧品の商品化に着手し、大きなビジネスになり始めています。

あるいは、今お話した山繭蛾は、サナギになる時に休眠ホルモンを出します。岩手大学が、この休眠ホルモンでがん細胞を眠らせることができるのではないかと考えて実験したところ、実際に効果があることがわかりました。そこで山繭蛾由来の休眠ホルモンから制がん剤を製薬化しようと、多くの企業がプロジェクトに参画して、実用化に向けた動きが始まっています。

そしてもう一つ、山の恵みの最たる物と言えば農林水産物です。こういう山を中心に循環を実現したケース、例えば国産の玄米で鶏を育てて卵をとる、こういうビジネスモデルがどんどん動き始めています。もちろん鶏だけではなくて、牛や豚の飼育の現場でも山とつながる取り組みが生まれています。地域の生産者と山がつながる。エコフィードに基づく畜産は、特に震災被災地における生業のデザインの面からも、ビジネスとしても、非常な伸び代があると思っています。

日本各地の多くの国立大学では、地域の生産物の機能研究に取り組んでいます。例えば弘前大学の場合ですが、青森県の生産量No.1生産物であるナガイモの機能成分を調べたところ、インフルエンザを無害化する、ディオスコリンと呼ばれる糖タンパクが多く含まれることがわかりました。こうした知的財産に企業がつながってゆくけば、地方においても付加価値の高いビジネスを生み出すことができるはずです。

同様に、間引かれた柑橘類を調べたところ、その未熟な果実の皮にアトピー性皮膚炎のかゆみを消炎するヘスペリジンが豊富に含まれることがわかりました。現在ナチュラルローソンで売られている「青みかん石けん」のような形で商品化され、地域の企業にも大きな収益をもたらしています。

さらに、山は水産物も涵養してくれます。これは三重県の尾鷲の例ですが、当地にはカツオをまるのまま一匹塩蔵した塩辛の文化があります。現在、食品開発のお手伝いをしていますが、このカツオの塩辛を尾鷲の山で採取した木の箱に入れて高級感を演出して販売すれば、おそらく一匹4000円位でも売れるでしょう。日本の魚付林資源やその利用文化も、ビジネスとして十分成立すると確信しています。

先ほど、バイオマスについて少し触れましたが、バイオマスをビジネスモデルとして成立させるためには、カスケードの上位から順番に収益を得られるように構築していくことが必要です。

その後、そうした成果物をいろいろな地域の有機農業やリサイクル農園、クラインガルテンなどに展開すれば、持続可能な地域のバイオマスビジネスモデルが定着するはずです。

私はこれまでも、農商工連携や、第六次産業の開発に数多く関わってきました。その際、必ずお話するのが「蕎麦の法則」です。蕎麦は10アールの耕作地でだいたい80キロくらい採れて、蕎麦の実が15,000円くらいで売れます。一方、お米の場合は、努力すれば10アールの農地から500キロくらい収穫できて、10万円位で売れます。そこで、単純に栽培することだけを考えると、米を選択してしまうわけです。ところが、この地域にちょっとした製粉加工機が入って蕎麦粉にするようになると、15,000円の蕎麦の実が75,000円で売れるようになります。更に地域でフルタイムの職を持たない「母ちゃん」「ばあちゃん」を組織化して、手打ち蕎麦をパックにした宅配事業を行うと、15,000円が18万円に化けます。もしその蕎麦が話題になって地域で手打ち蕎麦屋を経営するようになれば、15,000円の蕎麦の実が48万円も稼ぎ出すのです。もしも、こういうビジネスモデルを構築することができれば、蕎麦の栽培をする生産者の蕎麦の実を、より高く買ってあげられるようになるはずです。

これからの「木づかい」も全く同じです。ペレットの加工にも同じ法則があるはずなのです。きちんとキャッシュフローを引いた上で地域の農商工連携をデザインすることが必要だと思っています。

最後になりますが、こういう魅力的な「木づかい」を実現するための商品開発、山の資産を利用した新しい発想の魅力的な農作物の栽培、これらを推進するためにはお金が要ります。お金を集める新しい仕組みについても、これから「山」側が考えなければいけない。  その答えとなり得るのが、「ソーシャルファイナンス」や「マイクロファンデーション」です。マネーゲームのためにお金を集めるのではありません。「地域の特性を生かした魅力的なデザイン開発に取り組んでいます。だから少額でも良いから個人株主としてお金を出して下さい」とお願いする投資構造、これがソーシャルファイナンスです。

酒造りもそうです。最近では陸前高田のおいしいお醤油や漬け物をつくっている八木沢商店さんの例があります。八木沢商店さんは、震災の際に津波で流されてしまいましたが、電通と一緒にソーシャルファイナンスの仕組みを組んで、2億円を個人株主から集めて復興に成功したのです。

これからは、木の使い方、その技術開発やデザイン開発の重要さもさることながら、こうした新しい発想の商流を作り出していく、あるいはお金の流れをデザインするといったようなことにまで問題意識を持って、地域が生業開発に取り組む必要があるのではないかと考えております。

本日はご静聴ありがとうございました。

概要報告

国産材自給率50%に向けた、次世代林業システム政策提言
~東北経済連合会・九州経済連合会との連携の広がり
米田 雅子((社)日本プロジェクト産業協議会 森林再生事業化委員会 委員長、
慶応義塾大学 特任教授)

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今日は次世代林業システムと、東北経済連合会・九州経済連合会との連携について、お話したいと思います。

私は、JAPICの森林再生事業化委員会から参りました。委員会の名称に事業化とありますように、企業がビジネスとして、色々な活動をしながら日本の森林を再生していこうという、大きな目標を持った名前になっています。 今日は先ず、私共のJAPICの活動についてご紹介したいと思います。現在、国産材自給率50%を目標に国が動いておりますが、JAPICもこれを実現するために一緒に活動しております。JAPICの国産材利用推進キャンペーンの取り組みや、その他様々な活動内容のご紹介をさせていただきます。その次に、九州経済連合会様、東北経済連合会様との連携についてもお話をいたします。

先程の赤池先生のように、「面白い」お話ではないのですが、いま外材に席巻されている日本にあって、外材をどのように国産材に置き換えていくかをお話します。外材を国産材に置き換えるためには、色々な基盤整備もしなければいけないし、山から安定的に木材を供給できる体制を作っていく必要もあります。こうしたハードルを、企業の努力で、すなわち日本の技術開発力で、きちんとクリアして行こうというお話ですので、少し色が変わっていいのではないかと思っております。

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まずJAPICについてお話します。JAPICは正式名称を「日本プロジェクト産業協議会」と申します。会長は新日鉄住金の三村相談役です。170の企業と自治体・団体から構成され、非常に大きな組織です。そのうち私の所属する森林再生事業化委員会には、北海道から九州まで地方の経済連合会がすべて入っております。更に、王子製紙・日本製紙といった製紙会社、エネルギー、鉄鋼、セメント、測量、製材、機械、金融、シンクタンク、住宅、商社、建設、大手ゼネコンなどがはいっておりまして、当委員会は、非常に機動力に富んだ委員会となっております。

先ずお知りおきいただきたいのは、私たちは政策提言するだけの組織ではなく、各企業がそれぞれの業務を通じて、実際の仕事の中で森林再生を推進している非常に活動的な団体だということです。

我が国における大規模森林所有者はどういうところかと見ますと、第1位が王子製紙、第2位が日本製紙、第3位が三井物産で第4位が住友林業となっております。これら企業もすべてメンバーですので、実際に森林を持っている企業も含まれているという特徴もございます。

実際の活動経緯ですが、特筆すべきところとしましては、2010年3月に「次世代林業システム」というものを農林水産大臣に提案いたしまして、林野庁様で作成、進行されている「森林・林業再生プラン」を検討いただく際の参考資料の一つにしていただいたという経緯もございます。その後も様々な政策提言の傍ら、自分たち自身も活動を続けているという状況です。

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この図は「次世代林業システム」の全体像を示したものです。今までですと、森林林業というのは林業の方、木材産業の方が中心となり完結するイメージが強かったのですが、それを更に産業界が取り巻くように配置されている点に特徴があります。

例えば建設業であれば、林建協働といって、森林作業のための道を開くためのお手伝いができます。また、林業機械は建設機械メーカーが開発しておりますので、そこで連携も取れます。商社も物流でお手伝いできますし、測量の方もGISのデータを森林に活せます。このほか、金融、観光、製造、鉄鋼、ガス、エネルギー産業、バイオマスなども含め、色々な産業が一緒になって広範囲な企業の力を結集し、循環型ビジネスで森林再生を図っていこうという理念です。

右側の上の方に「シームレスな広域の森林整備」と書いてあります。シームレスの意味するところとしては、一つには、今までは業種区分があり、森林は「林野庁が主体で」と区切られていましたところ、業種の壁を越えて協働することで新しい相乗効果が産まれるのではないかという思いがあります。また、別の意味としまして、日本の森林には、私有林や公有林や国有林といった様々な区分があり、この区分のために国産材が割高になっている面があるのですが、この区分を排除して全体的な最適化を目指すことで日本の林業は自立型産業として成立するのではないかという期待感があります。

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こちらがJAPICの政策提言です。

先ずは「木材自給率50%に向けた国産材利用の拡大」についてご説明いたします。

現在、国産材が低迷しています。円高の影響もあります。需要低迷の影響もあります。そこで、「先ずは産業界が力を合わせて国産材を使っていこう」という運動を推進しています。同等のものであれば、外材ではなく国産材を選択する、これを企業が率先して行うことが何よりも大事だとの考えで取り組んでおります。

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実際に、国産材を使った様々な製品を企業が商品化していますが、その中で木を活かした住宅・まちづくりについてのリーフレットを制作いたしました。本日も受付の方に持って来ておりますので、ご関心のある方は是非お持帰りください。このリーフレットの特長は、国産材の使い道は、建築や住宅以外にもたくさんのあることに触れ、紹介した点です。今まで「木」の利用というと住宅、家がメインという感じでしたが、それ以外にもたくさん用途があるということを総合的に打ち出したカタログとしては日本初だと思っています。

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国産材利用の拡大に関する次の重点項目です。

JAPICでは、生物多様性保全活動の切り口として、広葉樹林の循環活用をきちんとやっていこうという話をしています。環境団体の方とお話しますと、自然には手を入れない方がいいと考えておられる方が時々おられます。ところが、薪炭林として昔から循環型で使っている雑木林、広葉樹などは、30~40年程度の年限で一度伐り、天然で萌芽するのを待つ、芽が出るのを待って育てる、それを循環型に計画的に繰り返していくことが必要です。このプロセスによって山の中に若い林から、年をとった林までできる、これが生物多様性にとっては重要なことなのです。もしも、手を入れないで放っておくと、かえってナラ枯れの問題なども出てきます。針葉樹や人工林については、今までもみなさん目を向けてこられたのですが、広葉樹についてもきちんと環境のことを考えながら循環的に利用し、多様な森造りをすることが重要なのではないかと考えます。こういったところから出た木材が、紙パルプの国産材比率をあげ、またバイオマスの原料にもなっていくということではないかと思っております。

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こちらは、国産材利用推進の次の例です。コンクリートの型枠ですが、こちらに国産材を利用すると十分に良い製品ができていますので、型枠の国産材利用を推進しています。

右は、JASの認定に対する要望事項です。今、ツーバイフォー住宅の建築材を国産材で置き換えようとした場合、JASの認定が足かせとなってなかなか導入に至りません。現在、JAS規格改定は5年ごとに見直しが行われますが、5年が2回続けば10年が経過してしまいます。そこで、規格改定期間を短縮してほしいとか、もっと性能規定を入れてほしいといった要望を行っているところです。

更には、炭素固定の評価制度をしっかりと産業界に根付かせようとか、国産木材輸出を拡大しようといった取り組みも推進しております。

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次に、木材の安定供給体制を確立するための基盤整備のお話です。
山の中では、隣地の境界がどこからどこまでかわかりづらい。隣地は誰のものかがわからない。つまり境界が不明確であることが大きな課題となっています。そこで、GISなど情報技術を活用してきちんとした地籍調査を進めて行こうと提案しています。
このように森林デジタル情報基盤を整備しつつ、境界確認や森林の団地化、山肌を傷めない最適な路網の整備などについて、それぞれのメンバー企業がそれぞれの研究テーマとして取り組み、前に進めているという状況です。

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こちらは政策提言の3つめです。JAPICでは、「異種の道をつなぐネットワークづくり」というものに取り組んでおります。

「道」というものには、市町村道や国道といった公共の道の他に、農道もある。林道もある。電力会社の管理道もあって、NTTの電波塔の管理道もある。民間の方も私道を持っているのです。こうした民間の道と公共の道をつなげることで、最小のコストで最大のネットワークを構築しようと考えています。このネットワークはあるときは命の道にもなるし、森林整備やインフラ整備のためにも使える。こういうネットワークを構築しながら、森林整備を進めるのが良いのではないかと考えています。この件については、岐阜県の飛騨高山で「異種の道ネットワーク検討会」を立ち上げて、この地域をパイロットモデルとして具体的に話を進めているところです。

先程、沼田長官からもお話がありましたが、林業の機械化を推進するにあたっては、山の中に安価で壊れにくい路網を整備していく必要があります。そこで、鉄鋼メーカーさんにお願いして、従来の砂利の代わりに、雨が降れば固まるスラグを使った崩れにくい路網をより安く整備しております。また、セメント舗装についても、簡易舗装や生コン舗装、簡易転圧コンクリート舗装といった技術を利用して、今までよりも安価で崩れにくい道を開発してきております。

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それから、「東北の森林資源を生かした復興住宅の建設」ということで、東北の方でも一生懸命活動しております。

具体的には、釜石市と大槌町、遠野市の2市1町で、森林を活かした復興住宅の建設を支援しております。その際、大事なことは、住宅は被災してしまいましたが、森林は健全であるということです。そこで、被災地の森林を伐ってきて、内陸の遠野で加工して釜石と大槌に復興住宅を建設しています。更に木材を加工する際は、製材は遠野の方の木工団地で加工しますが、合板は宮古の復旧した合板工場で加工しています。また、残った木くずは、新日鉄の釜石製鉄所に石炭火力発電用に買い取ってもらうという体制を構築し、すべてをお金に換えることによって、少しでも自立型の林業に近づけることを目標に取り組んでいます。

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こちらは、現実に地域の方々がデザインした「スクラムかみへい住宅」です。本プロジェクトでは、まず30坪で1,000万円という安価タイプの住宅を既に実現しております。もう一つは、もう少し高級な長期優良住宅対応の物も検討しておりまして2種類の住宅を実現する予定です。

次は、九州経済連合会との連携についてです。

九州の木材産業につきましては、もはや県産材の利用を推進というレベルは脱却したと考えております。木材の商流は、九州一円で流れておりますので、「県産材の時代から『九州材』の時代へ」ということを掲げまして、現在、九州経済連合 会内の研究会でアクションプランを練っているところです。

また、九州はアジアに近いことから、輸出も視野に入れた検討を行っております。輸出の前段階として、九州の産業マップを作成したところ、九州材をカスケード利用して行く中で、特に合板については、まだまだ余力があるということが判ってまいりました。そこで、大きな工場をもう一つ増設することで、バランス良くビジネス化できるのではないかと考えています。実際に九州での木材フローはどうなっているかを調べましたところ、九州では自給率が61%に達することが判明しております。
東北経済連合会との連携につきましては、先程ご紹介した復興住宅の建設の他、東北全体で地域として木材をカスケード利用する取り組みを行っております。また、東北単位である程度規模をまとめ大規模化することによって、外材に対抗できる価格の国産材を安定的に供給する仕組みを構築することも重要となっております。このように利用と供給の視点から、今後東北の林業をどのように進めていくべきかを課題に、今後検討を進めて参りたいと考えております。そのため、今年の7月には「次世代林業東北サミット会議」を開きました。林野庁長官はじめ、たくさんの方に列席いただいて、キックオフの場とさせていただいたところです。

私共の委員会では、各企業の方々が熱意を持って活動しておられます。本日ご紹介しきれませんでしたが、こちらの「日本は森林国家です」の中に、たくさんの事例が書いてございます。ご関心のある方はこちらの書籍をご覧いただければと思います。

最後に「美しい森づくり全国推進会議」の皆様方に申し上げます。今後益々、国産材利用に向けてがんばって行きたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。

ご静聴ありがとうございました。

木材利用システム研究会の取組~木材需要拡大に向けて
井上 雅文(東京大学アジア生物資源環境研究センター)

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本日は、「木材利用システム研究会」の取り組みについて話をするようにとお題を頂戴しております。まずは、この研究会を発足するに至った経緯とその背景から簡単にお話しさせて戴きたいと思います。

さて、戦後の復旧・復興期において、日本の林業、木材利用政策は、「木はもうこれ以上使わないでおこうね」が基調でした。そこでは、資源の枯渇問題や都市耐火における技術的な課題など、やむを得ない事情があったのですが、その後、日本では、非常に長い期間にわたって、木材利用にとっては不遇な時代が続くことになりました。

ところが、最近では、「地球温暖化対策」という観点が、木材の利用促進を牽引しています。例えば、2007年にIPCCが第4次評価報告書を公表しましたが、その中では、「林業部門における活動は、低コストで排出量の削減及び吸収源の増加の両方に大きく貢献する」と示しています。地球温暖化対策には高額な経費がかかるものですから、各国の政策決定者は、この「低コスト」というところに魅力を感じたのですね。「木材の利用促進によって低コストで地球温暖化対策が実施できるんだ」との認識がすすみ、木材をはじめとするバイオマス利用が世界中で促進されてきたわけです。

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そのような中、日本でも、「京都議定書目標達成計画」に基づく政府文書において「木材の利用を…(中略)…促進する」と記述され、これを根拠に、今日まで様々な政策が展開されてきました。2009年の9月に実施された総選挙では、民主党のマニフェストにおいて、「木材自給率50%を目指し、木材産業を活性化させる」と記載され、これが具体化されました。例えば、2009年の12月25日に「森林林業再生プラン」が公表され、翌年の2010年10月1日には「公共建築物における木材利用促進法」が施行されました。この総選挙では、自民党などの政党においても「木材利用促進」が公約に掲げられていたので、この法律は満場一致で成立したと伺っています。 さて、話は変わりますが、今年になって、国産材の価格が著しく暴落しています。

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こちらの図は、長期的な国産材価格の推移です。価格下落は今に始まったことではなく、長期的に見てもどんどん落ちてきていることがわかります。このような国産材価格の下落の理由は、長期的な視点でみると、やはり円高の影響が大きいでしょう。1985年の「プラザ合意」当時は、1ドルが240円でしたが、これが今や80円です。円の価値は3倍に上がっています。例えば、30年前に240円で売れていた商品は、今は80円でしか売れないのです。要するには、当時、3万円で売れていた杉の中丸太であれば、1万円でしか売れないのはあたりまえなのです。怒られるかもしれませんが、国際競争・国際流通という観点から木材価格を見ると、現在の国産材の価格は適性なのかも知れません。木材は国際流通商品ですから、国産材がたとえ国内の流通に限られる場合であって、国際競争力を意識して価格を考える必要があるのです。

さらに、今年になった頃から、木材の価格下落が目立ち、“暴落”と言っても過言ではないかも知れません。この価格下落の理由は単純で、「需要が無いところに供給が過多になった」ことが最大の要因でしょう。需給のミスマッチの原因を需要側に求めて、「需要側の体制整備が遅れている」と言われることがありますが、はたしてそうでしょうか?

2009年の12月25日に「森林林業再生プラン」が公表され、翌年2010年には、検討委員会が開催され「どうやったら国産材自給率50%を達成できるか」検討を行っていました。その頃は、多くのハウスメーカーやビルダーは国産材の使用に前向きだったのですが、なかなか国産材が供給されなかったので、残念な状況が続いていました。住宅生産者など川下の“需要側”は、市場経済において短期のビジネスをしているので、「政府が国産材と言い出しているようだ。それは早速使ってみようか……。」 と、とても反応が早いのです。一方計画的な経済のもとに長期的な経営をしている川上の“供給側”はなかなか反応することができないのです。2年くらいたって、ようやく状況が整備されて、山から木が出てきた頃には、既に市場は必要に迫られて外材にシフトした後だった……というミスマッチが起こります。これが国産材価格の暴落という残念な結果につながっているのでしょうね。

結局のところ、売る方は「安定需要をしてくれるなら売ってやるぞ」、買う方は「安定供給してくれるなら買ってやるぞ」……お互いに“売りたい気持ち”“買いたい気持ち”はあるわけですが、供給と需要が安定しないものですから、いつまで経ってもその場しのぎのバラバラなミスマッチ状況が続きます。これを打破するには、この両者の著しく異なる経営スタイルをつないでいくためのインターフェースが必要なのではないでしょうか。

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私は大学にいるものですから、教育システムな観点から川上と川下の課題について少しお話ししましょう。大学の教育課程では、山から木が出るまでは「林学」という分野が担当し、山から伐出された木材については「林産学」という分野が担当しています。「林学」の中には林業政策や森林計画など社会科学の分野があります。一方、「林産学」は自然科学分野に傾倒したために、社会科学のアプローチを失ってしまいました。昔は、「木材商学」などの講座もあったのですが、日本は木材を輸入する立場つまり買い手となったために、マーケティングは必要ないと考えられたわけです。売る方が、つまりはカナダやアメリカやヨーロッパがマーケティングしてくれますから、日本では木材商学など必要なくなったのです。このような理由から、日本においては、現在、木材の流通から利用にいたる部分の社会科学が全く欠落してしまっている状態なのです。

そこで、今こそ、木材の需要拡大を図るためにも、また国産材が国際競争力を持って流通されるためにも、川上と川下を有機的に繋ぐシステムとそれを支えるための学術が必要であると考え、「木材利用システム研究会」を発足しました。

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「木材利用システム研究会」では、主な対象として、木材利用の「マーケティング」と「環境評価」「政策」の3つを中心に検討を行っております。

「マーケティング」については、企業などの実務において経験的に獲得されてきたマーケティングの手法と、科学的な手法によって理解される客観的なマーケティングが、産学のコミュニケーションによって融合され、木材業界が抱える課題を包括的に解決されることが重要だと考えています。

次に「環境評価」ですが、例えば、10~15年前から林野庁をはじめとする多くの団体で木づかい運動や木育が実施されてきたにも関わらず、いまだに30%程度の国民は、「環境を守るために木材は使わない方がいい」と考えているようです。この国民意識の根底にあるものは何なのでしょうか。「環境評価」については、評価方法論に関する基礎的なディスカッションから、木材利用の環境評価を通じた国民の理解醸成の方法に至るまで、包括的な検討をおこなっております。

「政策」に関しては、先にも述べましたように、日本では、これまで政策によって抑制されていた木材利用が政策によって促進されようとしています。また、バイオマス資源としての木材は、これまでのマテリアル利用に加え、エネルギー利用の割合が大きくなってきています。このような流れをどのように受け止め、どのような対応が適当かを考えることは重要なテーマとなるでしょう。

木材利用システム研究会は、毎月継続的に実施している月例研究会を中心に活動しています。月例研究会では、「環境評価シリーズ」「政策シリーズ」「マーケティングシリーズ」など、3ヶ月程度ごとにテーマを定めてディスカッションしています。また、9月頃には、研究発表会を含む拡大研究会を実施しています。さらに、当会には60社程の企業会員がおられますので、「木材産業連絡協議会」を設立し、産官学の情報交換会を開催するとともに、会員企業の若手の方を対象にWBC(Wood Based Communication)と題した「研修会」を年に2回開催しています。

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これは、最近の月例研究会のテーマです。今年の春には、「環境評価シリーズ」として、4月には当時の林野庁の皆川長官に来ていただいて、HWPすなわち“木材中に貯蔵される炭素こそが地球温暖化対策貢献である”というお話をしていただきました。それから、5月にライフサイクルアセスメント、7月に電力固定価格全量買い取り制度に関するご講演とともにディスカッションを行いました。秋になってからは、「マーケティングシリーズ」として、10月にはFLTというフィンランドの集成材製造会社のトップにお越しいただき、「海外から見た日本の木材産業におけるビジネスチャンス」についてお話を伺いました。このテーマを換言すると、「日本の木材産業における脆弱性」となるわけですから、日本の木材産業における課題について深く考察することができました。これを受けて、11月には伊万里木材の林社長に「国際競争力を持つためのサプライチェーンマネージメント」についてご講義いただきました。また、12月には、筑波大学の立花さんに上述の内容を総括して、貿易関係から木材利用、流通について議論していただこうと考えております。

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木材利用システム研究会のホームページでは、「木力検定」を公開しています。問題数は800~900程度になっていると思いますが、木材を理解して頂くための問題を用意していて、この中からランダムに20問抽出して、インターネット上で回答して戴けるシステムとなっています。例えば、「木材に含まれる炭素というのは、樹木が成長するときに吸収されたものです。これはどこにあった炭素ですか?」という問題があります。この問題は意外と正解率が低いのです。光合成というキーワードを思い出せば、当然、空気の中にあった炭素であることは明白なのですが、土の中と答える方が結構多かったりします。このような問題に回答していただいて、所定の点数をクリアしますと、インターネット上で合格証書を発行することになっています。好評を戴いていますので、皆様も、是非、挑戦してみてください。

また、各問題の解説を充実させた書籍を出版しました。こちらも是非ご利用いただければと思います。よろしくお願いいたします。

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これは、木材利用システム研究会に関する詳細情報です。一度、目を通していただければと思います。

最後に、今回の話をまとめさせていただきます。

北欧、ドイツ、オーストリア……やはり、このような林業先進国に見習う点は多いと思います。見習わなければならないことはいろいろありますが、一番は『国際競争力を意識した商品開発』ではないでしょうか。

“地産地消”……とても素晴らしい言葉ですが、木材は国際流通商品であることを忘れてはいけません。産地は消費をもっと広域で考えるべきで、“地域外に向けて商う”、ビジネスすることが重要です。すなわち『地産外商』が重要だと思います。もっと視野を拡大するならば、木材産業は輸出産業として発展していくことを目指すべきだと考えています。その際、現時点では、東アジアが輸出の対象地域ですが、将来的には東南アジア地域もマーケットとして捉えることができるように、きちんと準備していかなければならないと考えています。

さらには、「マーケティング」「環境評価」「政策」……木材の需要拡大には、やはりこれが重要です。まずは、マーケティングの発想そのものが重要です。日本の木材産業においては、これが欠落している場合が多いのではないでしょうか。まずは、人材育成のレベルから、改革が必要だと考えられます。

また、ファイナンスの評価も重要です。これにきちんと取り組んでいくべきだと思います。8月くらいに岐阜県の県有林を三菱UFJリースが管理すると公表されたことがあります。そのとたんに、三菱UFJリースの株価が上がったというのです。要するには、一般投資家が、森林ビジネスあるいは木材ビジネスに対して、投資対象として興味を持っていただけるようになってきたということです。一般の投資家が木材産業に対して魅力を感じ、投資していただけるような環境を整えていくことが必要だと思います。投資家の目は厳しいですから、今までのようにいい加減なことはできません。補助金を使ってやってきたような適当なこともできなくなります。こうした環境が整ってこそ、我が国の木材産業が国際競争力を持つ時代がくるのではないかと考えています。

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それともう一つ「環境評価」。これに関しては先ず、木材は森林で生産される数少ない我が国の「資源」なのだ、ということを国全体で今一度考える必要があると思います。「政策」としましては、この森林資源、あるいは木材資源の活用には、総力的な政策が必要だと考えます。単に林野庁だけで済む話ではありません。住宅を建てているのは国土交通省ですし、紙、建材、エネルギーを管轄しているのは経済産業省です。こうした関係省庁が総力をあげて、木材資源活用の問題に取り組んでいく必要があると考えます。

どうもありがとうございました。

生物多様性民間参画パートナーシップ会員アンケートに見る、
森づくり・木づかいの動向
古田尚也(IUCN(国際自然保護連合)シニアプロジェクトオフィサー)

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私は、今までの皆さんのお話とはちょっと違って、生物多様性という視点から、この木づかいの問題、そして企業の関わり、こういった問題についてご紹介をさせていただきたいと思います。

今日お話するのは、生物多様性民間参画パートナーシップの活動です。

生物多様性民間参画パートナーシップというのは、2年前に名古屋で開催された生物多様性のCOP10で作られたもので、経団連の自然保護協議会とIUCNで事務局を行っております。今日は、この生物多様性民間参画パートナーシップの事務局の立場でご紹介させていただきたいと思います。生物多様性条約の中でも、生物多様性を保全して行くためには企業による協力、企業の取組みが欠かせない、そういう認識が過去10年位の間に徐々に大きくなっております。特に、2年前に名古屋で開催されましたCOP10には、多くの企業が参加されたということで記憶に残っております。このCOP10では、生物多様性に関する民間企業の取り組みを促進することを目的として、マルチステークホルダー・イニシアチブの生物多様性民間参画パートナーシップが、経団連、日本商工会議所と経済同友会の呼びかけで発足いたしました。これには環境省、農林水産省、経済産業省、そしてIUCNの日本プロジェクトオフィスが協力しております。

生物多様性民間参画パートナーシップは、発足時約400のメンバーで発足したわけですが、現在500を越える組織が会員となっております。そのうち、ほとんどを企業が占めています。生物多様性民間参画パートナーシップに参加する為には、ここにあります経団連の「生物多様性宣言 行動指針」、これに「コミットする、これを実施することを約束する」ことが条件になっております。会費は無料です。お手元の資料の中にA4サイズ半分のチラシが入っていると思います。生物多様性民間参画パートナーシップと書いてありますが、後ろに生物多様性民間参画パートナーシップ行動指針という7つの指針が記載されています。これは、経団連の「生物多様性宣言行動指針」と同じものですが、この7つの項目を実施していくことが、このパートナーシップの主な取組みの基礎になっております。

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具体的にこのパートナーシップはどういう活動をしているかということですが、基本的にはWEBサイトを作りまして情報提供、共有を行っております。また、ニュースレターを電子メールで発行しております。

また、他のイニシアティブとも連携しておりまして、その内のひとつがフォレストサポーターズとの連携となっております。これは、昨年の2011年が国際森林年であったことをきっかけとして行われたもので、2011年2月には共同宣言を締結して、お互いに共同して事業を行ったり、会員を相互に勧誘する、こういったことを行っております。本日のこの会合も、こうした流れの中で参加をしていると御理解いただければと思います。

このような活動と共に柱となっているのが、事業者会員向けのアンケートです。正式には2011年から開始いたしましたが、予備的に2010年にも実施しておりまして、2010年から今年まで3年連続で実施しております。事業者会員向けアンケートでは、企業がどのような形でこの生物多様性に取り組んでいるかを把握することを目的にしております。

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ここで少し結果をご紹介します。

例えば、御社の経営理念、経営方針、環境方針に、生物多様性保全の概念が盛り込まれていますかという質問をしています。2010年の結果をみますと、盛り込まれていると答えた企業は50%でございました。それが2011年には80%になり、2012年の今年のアンケートで85%に達しております。

次に、名古屋のCOP10で採択された大きな成果として愛知目標があります。

これが「2020年に向けた世界的な生物多様性に関する20の目標」ですが、これについてどの程度ご存じですかを尋ねました。その結果、愛知目標についてすでに詳しく検討したとの答えが26%、目を通したのが70%ということで、ほとんどの回答者の方がこの愛知目標がどういうものであるか、知識を持っているということが分かった訳です。

もう一つのアンケート結果です。

2011年から2020年は、実は国連によって国連生物多様性の10年と定められています。これについてどの程度の方が知っていますかと聞いたところ、96%の方、つまりほとんどの会員企業の方が国連生物多様性の10年というものについて知っていることが分かりました。アンケート結果から、COP10をきっかけに、かなり多くの企業の方が生物多様性に関する知識、概念について学ばれている、更に、企業方針などにも盛り込まれていることが分かった訳です。これからは、こうした企業方針を実際にどうやって具体的に企業の活動の中で実施していくのか、ということが大きな課題だと考えます。

こうした事もありまして、今年のアンケートでは、具体的に企業の中で生物多様性に関してどのような取り組みをしているのか、という事例をあげていただいております。その結果、182の事例をお寄せいただきました。今回、このシンポジウムに参加するにあたり、この中で一体どれ位の事例が森林に関する活動だろうと数えてみましたところ、実に182の内53の事例が森林に関するものでありました。これは、驚くべき数字ではないかと思います。日本の企業は以前から森林に関する活動を熱心に取り組んできた理由を、どうしてだろうと以前から考えていたのですが、先ほど、井出代表からも話がありましたように、一つは、日本では皇室も一緒になって植樹や育林に長年取り組んできたことが挙げられます。また、ジャレド・ダイアモンドという人が書いた文明崩壊という本にありますが、「江戸時代、文明が滅びなかった一つの理由は江戸時代に植林が行われたことだ」と書かれています。日本人は意識していませんでしたが、この植林、森を大切にするという文化が基礎的なところで企業の人も含めて根付いているのではないかと思いました。

生物多様性民間参画パートナーシップは、国内の取組みですが、海外の他の国とも連携をしております。

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昨年の12月に、経団連会館で第1回のグローバルパートナーシップ会合を開きまして、10カ国から各国で取り組んでいる企業と生物多様性に取り組んでいる人達に集まっていただき会議をいたしました。

今年の6月にリオ・デジャネイロで開催されたRIO+20には、経団連自然保護協議会の佐藤会長が参加されまして、日本での活動について国際的に紹介をいたしました。

また、今年の10月にインドのハイデラバードで開催されたCOP11でも日本の取組みを紹介しました。このように、各国の人達と交流、情報交換をするといった活動を進めています。

更に、COP11では、各国の取り組みを進めている人達と一緒に、「ビジネスと生物多様性グローバルパートナーシップサポート宣言」も採択しております。

10月にインドで開催されたCOP11では、決議XI/7「ビジネスと生物多様性」の中で、経団連の「生物多様性宣言と行動指針」が企業の生物多様性保全への取組みを進めるひとつの例として決議文の中に紹介されております。このように、生物多様性の分野においても企業の取り組みに対する期待が非常に高まってきておりまして、実際に活動が進められておりますが、日本においては、特に森林というものが中心になっているということであります。こういった活動を通じて、生物多様性の世界においても森林の保全、そして森林の持続可能な利用、これらが一つの推進力になっているのではないかと思うわけでございます。

ご静聴ありがとうございました。

森林資源活用の可能性と林野庁施策の動向
末松 広行(林野庁林政部長)

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皆様からお話を伺って、「こういう事を念頭に行政は進めていかなければいけないんだ」ということがよくわかりました。さて、私の方から「森林資源活用の可能性と林野庁施策の動向」と題しまして、簡単に最近の動向を説明したいと思います。

その前に、こうした機会にいつも触れているお話を少しさせていただこうと思います。世界の陸地は、今3割ぐらいが森に覆われていると言われていますが、300年程前までは5割が森林に覆われていたと言われています。つまり、それだけ森は減っている、だから森は守らなければいけないということです。実際、森がなくなると共に文明が消滅し、また文明が他の所に移っていくということがあったのが世界の歴史です。

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一方、それに比べて日本は、ずっと国土の2/3が森のまま続いてきたというような状況です。国際的な交渉等をするときに途上国の人に会うと、今は「森を切ってはいけない」、「農地開発をしてはいけない」などの話がたくさんでます。ブラジルの人がこういう話をします。直接話したので実話です。「これから農地開発をしたい、森を切りたい、とすると2億ヘクタール農地を増やせる」こう話すと、先進国は、「それはダメだ、貴重なアマゾンや森が失われるではないか」と言うそうです。途上国の人達は、「アメリカもイギリスも覆われていた森を全部切ってきて、途上国に残された森を切るなと怒るのはおかしいのではないか、我々に森を切るなと言うのだったらあなた達のところも森を戻せ」と言います。世界中で森林の問題は非常に難しい側面があると思います。今残っている森林をこれ以上減らしてはいけないとみんな思いますが、それは単純な問題ではないと思います。

そんな中で、日本は先人の努力によって森林の面積をずっと維持してきています。加えて最近は森林の蓄積量も増えているということです。日本において、森林はずっと豊かだったわけではありません。江戸時代前には、お城を作るために木は切られましたし、それ以降も薪炭林としてエネルギーの為に木は切られました。住宅の為にも木は切られてきて、決して豊かではないという状況に一度なってきたわけです。ぎりぎりのところで森を消滅させずにきたというのが日本だと思います。

こうした努力によって、昭和40年と比べましても今蓄積量は倍以上になっているという状況です。学者の先生方によっては史上最大の蓄積量とおっしゃる方もいらっしゃいます。ただ、それでいいのかというと、そうではない。「手入れがされていない」、「森の蓄積量が増えてきた一方で、十分に上手く使っていない」というのが現状だということです。行政なのですぐ言い訳をするのですが、今は使わなくてはいけない時代、しかしあまり使ってはよくない時代もあったのだということです。本当はもう少し前からやっていればよかったのですが、今こそ木を使っていくことが大切だと思います。

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「公共建築物等木材利用促進法」の話をしたいと思います。木を使うということであれば、国自ら率先して木を使おうということで法律ができました。国においては、国が作る低層の公共的な建築物は、原則すべて木造化しようということにしています。こうして、国の施設は木造で作るということになりました。従来ですと、林野庁が「木を使いましょう」と言っても、「それはあなたたち森林行政とか林業を担当しているからでしょう」ということになるのですが、そうではなく国土交通省の側、作る側がこれからそうしようと踏み切ってくれたところが、この制度の非常に素晴らしい点だと思っています。

各都道府県や自治体でも、ものすごい勢いで木材利用方針を作っていただいています。

都道府県レベルではすべて方針を策定いたしまして、現在市町村レベルで方針を作っている段階になっています。スライドでは、緑の自治体が、既に方針を策定したところです。都道府県や市町村の方が来られるとき、わざとこの日本地図をだして、「あなたのところは塗れていますか」と聞くのです。利用方針を作ると、これから自分達の地域で作る学校、幼稚園は木造にしようとか、老人ホームも木造にするように働きかけていこうと言っていただけます。若干の傾向ですが、都市部の自治体は意識が低いというのがありまして、このあたりが課題ではないかと思っています。

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そこでふと疑問がわいてきますのは、林野庁や国土交通省が「木を使いましょう」と言うのですけど、本当に木を使うといいのかということです。この疑問点について調査を進めますと、色々なことがわかってきました。私達がよく例にするのは、インフルエンザで学級閉鎖になる割合です。毎冬、一般の教室だと6%位学級閉鎖になるそうですが、木造または木質内装だと2~3%になるというデータがあります。この現象は理屈もわかっていて、木材には湿度の調整能力、調湿能力があるからです。加湿器を置けばいいという話もありますが、木材にはそれだけではない魅力や効能がいっぱいあるのだと思います。こうした木材の様々な魅力が、だんだん分かりつつあるということです。お医者さん達も木の家にしようという運動をしてくださっています。この運動は、もともとはシックハウスを無くすために、ホルムアルデヒド等を無くそうという運動がスタートでした。きっかけは、あるお医者さんが念願の診療所を作って みたらお医者さん本人も具合が悪くなるし、患者さんもかえって気分が悪くなってしまう、そこでシックハウスはよくないという運動を開始されました。木造を推進する運動のおかげで、今はそういう問題はほとんど解決していると思います。

その次は断熱です。台所やトイレ、お風呂が寒いと老人に非常によくないので、断熱をきちんとしようとことになりまして、そういう家を造っていったら、やはり木で造ると健康に非常に良いということがわかってきました。最近は、木の香りの点にも注目されています。順天堂大学の先生の研究によると、木に囲まれて生活すると、アルツハイマーなどの病気の進行が、香りによって抑制されることがわかってきました。

このように、「木を使うことが良い」と、みなさん言っていただけるようになったので、堂々と木を使ってくださいという時代になってきたのではないかと思います。良い事例がいっぱい出てきています。今は1つの事例を作るのにものすごく汗と涙のドラマがありますが、それを解決していくのが行政庁の課題ではないかと思っています。

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もう一つは、木を使う時に必ず出る「残り」の問題です。板を作った後は必ず残りがでます。この点に着目して、木質バイオマスという新しいエネルギー源の可能性が出てきているということです。木質バイオマスは、再生可能エネルギーで地球温暖化を防止する効果があると共に、原料が国内産ですので、原油を中東から買って料金を外部に払うということではなく、燃料代を山の中に払えるというメリットがあります。また、電力源としましても、お日様まかせ風まかせではない安定電源だというメリットもあります。こういうことも推進していければいいと思っています。ただ、木質バイオマスもなかなか簡単ではない点があります。風力発電、太陽光発電は、施設を作ったら自動的に太陽が照ってくれる、風が吹いてくれるという特徴があります。一方、木質バイオマスには、原料を常に集めなければいけないという問題があります。つまり発電事業者や熱利用の事業者としては面倒くさいということです。

その代わりに地域に必ず燃料代としてお金が還元されるというメリットがありますので、こうしたメリットの広報も含めて、これから推進していかなければいけないと思います。個人的には、最近事業仕分けがあって「木質バイオマスの施設の支援をしたい」と林野庁が言ったら、「それは2重補助になるのでダメだ」と仕分けられてしまい、少ししょげています。ただ、多くの方々が別の観点や色々な面から「これは必要ではないかと、是非応援していきたい」と言ってくださっています。こういう事を決めるのは政治でありますが、色々な有識者の方のご意見を踏まえて、行政としては対応していこうと思っています。

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こちらは、バイオマス発電の一例です。最近出来た発電所ですが、5000キロワットの発電所で、発電所内で生まれた雇用が17名、山で生まれた雇用が38名と言っていました。5000キロワットの発電所を1年まわせば10億から12億の電力収入が入ります。売電という面では、太陽光ならもっと収入があります。バイオマス発電での買い取り価格は、25.2円~33.6円ですが、太陽光発電の買い取り価格は42円ですので、同一発電量あたりでは太陽光の方が収入は良い。最も、裏を返せば、利用者の負担は太陽光の方が高いということです。いずれにしても、バイオマス発電では、それだけの収入が山間部に入ります。例えば、平均的な年収を500万円と仮定して、10億円を500万円で割ってみると、およそ200名分の雇用ということで、地域の経済に与えるインパクトは大きいのではないかと思っています。

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次に、来年の予算に向けて我々が検討している話をさせていただきたいと思います。

「地域材活用促進支援事業」ということで2番目に書いてあります。これまで自動車や家電について、いろんな販売促進施策としてポイント制度がありましたが、この例に倣って、地域材の需要を喚起するために木材利用促進のインセンティブ制度を作ったらどうかと考えています。要求は55億円と書いてあります。やはり大切なことですから、もっと増やして要求したいと思っていますが、これはどうなるかわかりません。それから、(木造)公共建築物に対しては、やはり支援をしていこうと思います。木造で公共建築物を造るのが当たり前になったら支援は必要ないと思いますが、最初は少し支援をしてあげたいと思っています。木質バイオマスの話も、これから川下側で需要をきちんと作るということに対して、林野庁としても支援を進めていきたいと考えています。

簡単ですが、私の方からの説明は以上でございます。どうもありがとうございました。

パネルディスカッション

森と木を活かす「グリーンエコノミー」の実現に向けて
~産官学協働で拓く、木づかいを促す商流戦略~
モデレーター 赤池学
パネリスト 米田雅子、井上雅文、古田尚也、末松広行の各報告者

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【赤池】 2011年1月、ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授が、CSV(Creating Shared Value)というこれからの持続可能な企業経営についてのキーワードを提言されました。これまでの植林を含めた森造りといいますと、CSR事業という形で位置づけられ、事実色々な水源の森の活動を含めて多くの企業が参画してこられました。一方、CSVは公益を満たすと同時に事業益も満たしていく、それを両立させていく開発投資こそがこれからの持続可能な企業経営にとっては重要だという点、これがCSVの一番の根幹だと思っています。そう考えてみると、森造りとか木づかいというのは、まさにCSVのシンボル的な企業活動に結びついていくのではないかとの問題意識を持っております。限られた時間のパネルディスカッションですが、是非4名の皆さんには、民間企業の連携参画によってチャーミングかつビジネスとしても成立する、森造りと木づかいをどのように展開できるか、具体的な事例やご提言を是非ご紹介いただきたいと思っています。それでは、まず口火を古田さんに切っていただきたいと思います。国際的な活動も含め、具体的にどういう活動に取り組んでおられるのか、また、その中でこういうアクションはもっとエンカレッジして注目すべきではないか、といった具体事例のお話を頂戴できますでしょうか。

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【古田】 生物多様性民間参画パートナーシップのアンケートなどの事例をみておりますと、先の概要報告で申し上げましたように、森林の活動が多いわけです。森林の活動も、植林だけでなく、森林管理や森林を使った環境教育とか認証材等、持続可能な利用につながるものまでいろいろあるわけです。世界的な視野から、生物多様性の観点から見ますと、生物多様性の損失の一番大きな原因というのが生態系の破壊、ハビタットの損失です。特に森林から農地への転換というのが大きな問題になっているという、これは間違いないわけです。一方、日本に限って見ますと、事態は逆でありまして、むしろ日本では森林をうまく活用していくということが非常に今重要になっています。つまり、日本の中で森林をうまく持続可能な形で利用していくということが、海外での森林の需要のプレッシャーの軽減、すなわち生物多様性の損失に対するプレッシャーの軽減につながっていくと非常に強く思いました。生物多様性条約の中でも、特に途上国で生物多様性を保全して行くためにどういう方法が必要なのかということが議論されていますが、最終的にはお金の問題になりがちです。そこで「途上国が先進国にお金をだしてくれ」といっても、実現は難しい面もあります。するとどういう風に議論が展開するかというと、よりマーケットの力をうまく利用していこうという話になり、その中で認証材の話などがでてきます。また、生物多様性にとって有害な、補助金などの「インセンティブ」や「政策」をどう変えていくかということも、特に条約の中で大きな話題になっています。そういったことが、先程、の林野庁さん、他の方々の発表の内容と密接に結びついている部分があるのではないかと感じながら、講演を聞かせていただきました。

【赤池】 米田さんも、震災被災地の復興を含めて、色々な企業連携をプロデュースされておられると思います。そこで、こんな企業がこんな問題意識、こんな戦略でコミットしているといった、具体事例のお話を頂戴できないでしょうか。

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【米田】 例えば、JAPICの委員会メンバーの大建工業は、釜石・遠野のスギを使って「東北応援フロアー」を作っています。遠野、釜石、大槌の上閉伊地域では、地域の木材を活用して、合板は宮古のセイホク株式会社で、製材は遠野の木工団地で、残った材は釜石製鐵所の石炭火力発電所の木屑混焼へと、地域内でのカスケイド利用を進めています。その地域の木材で、新しい製品開発をして、「開発した製品を復興住宅に役立ててもらおう」さらには、「地元にたくさんお金が回るようにしよう」という取り組みがあります。

また、「杉をどうやって使っていくか」が課題となっていますが、中国木材では、ハイブリットビームという、中身に国産の杉を使い、まわりは堅い外材を使う方法で、国産材を利用した集成材を作っています。また、ツーバイフォー建築ですと建材の多くはアメリカ、カナダから来ますが、大東建託では割高だけど国産材を使おう、という取り組みをしています。ただ、割高な国産材を、どうやって日本のツーバイフォーに使っていくかという中で、新しい建材を開発するなどいろいろ工夫して取り組んでいます。具体的には、山から出してきた材は3メートルで切りますが、ツーバイフォーは2.4メートルなので、このままでは60センチあまってしまいます。余ったものを、色々な加工を施して使おうとしています。しかし、JASの規定では、例えば6ミリより広い木目は仕様規定でひっかかる、認定まで時間がかかりすぎるなど、新技術の適用が容易でない面があります。そこで、性能規定の併用を進めることや、審査の迅速化などをJAPICは政府に提言しています。

このように、企業の側では杉の弱さをカバーするような技術的な面からのアプローチも行っていますし、一方で、国の規制を緩和していただきたいというような政策面でのアプローチも行っています。従来は、日本の技術力や工業力はなかなか森林には向かわなかったわけですが、今まさに色々な企業の方達が、自分たちの技術力を森林に向けておられて、新しい開発がどんどんなされているのです。林業機械もここのところ普及してきましたし、機械メーカーさんも日本の山にあった林業機械の開発などを一生懸命やっていらっしゃるわけで、いい傾向になってきたのではないかと思います。

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【赤池】 木材や建材など、住宅以外の工業建築の木質化の話がありましたが、地域のゼネコンやデベロッパーのティピカルな動きもお感じになっておられますか。

【米田】 地域の建設業の中には林建協働を行っているものいます。林業基盤としてこれから作業道が必要になっている時に、建設業の方では、公共事業の減少で人が余っているのです。林業機械は元々建設機械を転用したもの、つまりアタッチメントを換えたものが多いですから、操作性にも共通の面があります。そこで、建設業の方が、森林組合の方と一緒になって道を作り、機械化を進め、そこから搬出した木材は、建設業の方が今度はユーザーとして、自分達で使っていこうとしています。林建協働で一緒に森林復活しようと一生懸命です。異業種とのコラボで実際にいい効果や実例がどんどん産まれている時代ではないかと思っています。

【赤池】 木材利用システム研究会に興味があるのですが、木材産業連絡協議会の会員企業はどういう思いと事業観で参画しておられるのか、ご紹介いただければと思います。

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【井上】 木材産業連絡協議会は、木材産業システム研究会の中にございまして、研究会の企業会員の方を中心に活動しています。今年は全体会合を1月と9月の2回開催しました。月例研究会やWBC (Wood Based Communication)のテーマについて意見を出し合ったり、最新トピックスについて情報共有できる場となっています。また、WBCは会員企業の持ち回りで開催しています。これは、若手の方が、これからの木材需要拡大について、会社や業界の垣根を超えて議論する場になっており、その議論は有効にそれぞれの業務にフィードバックして戴いています。また、毎月開催している月例研究会が少し学術的な話に偏りがちですので、それを理解していただくための基礎講座としての研修会でもあります。

【赤池】 今、お三方のお話を伺いまして、2点程林業行政について興味があることがあります。1点目は炭素固定について、温暖化対策税も戦略的に林業施策に展開するような流れが組めているのかということ。2点目は、木材のエコポイント化、これは川下のインセンティブという意味ではすごく大きなインパクトがあるだろうと思っているのですが、実現の可能性などを含めて、末松さんに率直なお話をお聞きしたいと思います。

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【末松】 どちらの話もこれから、政府部内の議論を要することなので、あくまで個人的な考えになりますが、木材が割高という話を解決しないとダメだと思います。「根本的に割高」という話であれば解決は出来ないのですが、先程、お話しあったように切り方の問題や流通の問題など、色々なところで改善していけるのではないかと思っています。色々な取り組み、チャレンジをきちんとやっていくということだと思います。チャレンジの必要性があって、簡単に実現出来ないことについては、国も支援していくということが必要だと思っています。やってみてわかることはいっぱいあります。例えば、先程、ご説明した木質バイオマス発電所も、山から木を下ろすと水分が高いので、まず乾燥させてそれから発電するという仕組みにしたそうなのですが、やってみたら暫く寝かせておくだけで十分で、乾燥炉は別にいらないのではないかということです。もし、そうだとすれば次の施設は安くなります。また、マイナスの方は出来た灰は近隣の農家に売ろうと思っていたら、灰はセシウムの影響で売ることは一切できないので、その分処理費用が増えたとかです。色々なことがあるのでやってみて、行政が直して行くところがわかれば、それを直していくということをどんどんやっていくことが大切だと思っています。

林建協働の話を米田先生から伺いましたが、先日も岐阜の方が来られて、建設業の方で林建共同にいろいろ取り組まれると、実際に作業する人が町の現場より山の現場の方がいい、と話すようになるという話を聞いて、森の効果が作業する人達にもプラスになるようなことが得られる、いいことではないかと思っています。そういうことを進める中で、国としては木材を色々な所で使ってもらおうと、自動車とか家電製品でやったような対策を導入しようというように思っています。木を使うことによって良いことがある、それが当たり前になったら必要ないのですが、今はそれに気付いてもらうことです。良いことがあるという中に、ポイントがもらえるというよくある話ですが、そういう政策で誘導できないかと思っています。

今考えていますのは住宅や木質の内装、家具、ペレットストーブなどです。何処まで出来るか、予算がどれだけかかるかということについて、政府部内で議論をしています。今の森林の状況からすると、こうした施策の全体的な必要性は理解していただいているのですが、財政事情の中で、どういうことをやっていくか、議論している状況です。

もう一つ、炭素固定をするという重要性というのはCOPの中でもまた議論されました。これから次の地球温暖化対策を世界中で議論する中で、炭素を固定していくということ、それから森林の吸収源は大切だということは世界の共通の理解になり、日本がやっているような森林吸収源対策というのは世界の中でも重要だということがオーソライズされました。それを推進する為の措置、財政的に支えていくような仕組みは出来ないかということも政府の中で議論しています。こうした取り組みは、林野庁や財務省が短い時間で議論して決められる話ではないので、ぜひ多くの方々が議論していただいて、どういうことをしていくべきかということのご意見いただければと思っています。

【赤池】 最後の木材のエコポイント化について、井上先生にもお聞きしたいと思います。国産材利用推進施策については、語り方次第ではWTOにも抵触してしまう恐れもあります。先程のご発案の中で、木材を使っていく市場そのものをまず作っていくのが重要だとお話をされていましたけど、国産材をエコポイントでどんどん活用させる施策や、外材との軋轢の問題について、どのように捉えられていますか。

【井上】 「これから国産材を使っていかなくてはならない」……私は森林林業再生プランの座長をしているぐらいですから、当然のことながら、国産材の使用比率を向上させることは重要と思います。一方では、外材も含め、木材の需要そのものが拡大されることが重要だと思います。木材の需要が縮小して、国産材比率が上がっても意味がないのです。

さて、どのような分野で木材の需要拡大の可能性があるのでしょうか。例えば、住宅分野では、戸建てでは90%以上木造なのですから、木造を増やせる余地は少ないと言えます。戸建て以外の集合住宅で木造率アップの可能性があります。あるいは、非住宅分野の一般建築と公共建築でも木造拡大の可能性が大いにあります。当然のことながら、何でもかんでも木造にしろというわけではありません。「東京都庁を木造で建てろ」なんて無理な話だと思いますから、低層ということになるでしょう。これが「公共建築物における木材利用促進法」の目指すところです。

この法律に基づき、様々な分野で、木材利用に対するインセンティブが設定されようとしています。私たちにとっては歓迎すべきです。一方、これらの補助金はいつまでも続くわけではないので、その間に、消費者が自ら木材を選択して戴けるような状況を構築しなければなりません。難しいことではないと思うのです。例えば、何故、戸建て住宅の90%以上が「木造」なのでしょうか。やはり価格競争力があるからです。集合住宅や非住宅などの中規模、大規模建築でも、価格競争力が認められれば「木造」が選択されるはずです。また、「国産材」を使うことの優位性が評価される状況が確立されれば「国産材」が選択されるでしょう。

【赤池】 合板はまさにビジネスモデルが代わって、国産材に徐々に転換してきた流れがあります。さらにこれから、どういう領域に可能性がありますか。

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【井上】 合板は国産材転換事例の優等生だと思います。合板は、皆さんご存じのように、以前は、東南アジアから太い丸太を持ってきて海にプカプカ浮かべておいて、ロータリーレースでクルッとかつらむきにした薄い板を貼り合わせて作っていました。1970年代頃までの、日本が東南アジアの環境破壊の張本人だと言われた時代のことです。やがて、東南アジアの丸太は輸出規制などによって使えなくなり、日本の合板業界は他地域からの丸太にシフトしなければならなくなり、丸太の経もドンドン小さいものになりました。すなわち、日本の合板業界は原木丸太の調達におけるシステム改革や製造における技術開発を伴う原料シフトを既に経験していたのです。この経緯があったために、国産材にシフトしなさいと言われた時、迅速に対応できたのです。

【赤池】 外材を含めて木材を使う市場形成こそが重要だという井上先生のお考えですが、米田さんはどんな考えをお持ちですか。

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【米田】 現在、国内で利用される木材の約3/4が外材なので、その外材をどう国産材と置き換えていくかというところの努力がとても大事だと思います。国産材にはポテンシャルもあるし、十分な資源もあるので、外材を国産材に置き換えて行く仕組みをどう作っていくかが、今一番注力しなければいけないと思います。井上先生のおっしゃった、中規模・大規模の建築のマーケットについては、例えば大手ゼネコンの竹中工務店さんは耐火の燃えにくい木材でのエコプロダクツ大賞をとっておられます。こうした商品も開発されていますので、日本の技術力でカバーできる分野が相当あります。国産材の利用に企業のみんながやっと目を向けているというところが大事なのではと思います。また、もし利用拡大というのであれば、建築もさることながら、土木分野での利用例もあります。飛島建設さんが一生懸命やられていますが、木杭、ガードレール、土留め、遮音壁、型枠など色々なところに木を使えるので、土木の分野でも、もっと木材を使って行こう、400万立米を目指そうという運動も起こっています。今まで、そういう現場でうまく木材を使えないのは、工事の仕様書の方に木を使うという項目があまり載ってないからです。そこで木を使えるようにしていただければ、性能的には十分に使えるものがたくさんあります。そういうところも掘り起こしていけばいいと思います。いずれにしてもやはり一番注力すべきは外材を国産材に置き換える努力だと思っています。

【赤池】 外材の調達・供給を含めて、国際自然保護連合の立場から、生物多様性にも配慮した上でどの様に商流を設計したらいいかについて、古田さんからもお考えをお聞かせいただければと思います。

【古田】 生物多様性条約には3つの目的があります。一つ目は「生物多様性の保全」ですが、二つ目は「持続可能な利用」です。この持続可能な目標が、三つ目の目標の「生ずる利益の公正で衡平な配分」と共に生物多様性保全と一緒になっているのが生物多様性条約の素晴らしいところだと思っております。そういう意味で今日のパネルディスカッション、シンポジウムで議論になっておりますのが、まさにこの「持続可能な利用」の部分じゃないかと思うのです。私は、持続可能な利用がどのように生物多様性の保全に貢献できるか、という観点で見ています。世界的には森林の減少は問題ですが、日本ではむしろ森林を使う事が重要です。日本で日本の木材を使うことによって、世界の他の地域における木材、森林に対する圧力を減らすことができれば、世界的に見た場合で、生物多様性の保全に貢献できる非常におもしろい方法、やり方ではないかと思います。

もう一つ、最近生物多様性に、FSC認証というのが発達してきておりまして、こういったものをうまく使っていく。こういった認証の仕組みと、補助金であるとか、税制の部分を活用していくことによって、国産材の日本における利用の拡大促進が、世界の生物多様性の保全につながるストーリーを描くことは十分可能なのではないかと感じました。

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【赤池】 再び、末松さんにお伺いします。木材の利用促進、木材のエコポイント、非常に素晴らしいと思うのですが、末松さんは、バイオマスから食料自給率の向上まで色々起草されてきた方なので、もっとこういった施策を検討すべきではないかというお考えを、思いも含めてご提言いただきたいと思います。

【末松】 先程、米田さんのお話で、土木分野で400万立米というお話がさりげなく出ましたが、400万立米といえばものすごく大きな量です。しかし、可能性があると思っています。土木分野では、昔は木材を使っていたわけです。他の物の方が便利で使わなくなくなってきたけど、技術力の向上により、木材でも同じように使えるようになってきたので使おうということだと思います。そういう分野が多くでてきたのではないかと思います。土木で400万立米というものすごいニーズがあり、それから発電では何百万立米とかある、と、それに全部頼るわけではなくて、例えば、木目のきれいな柱など良いものは良い(と評価される社会づくりなど)と、中心のことをやりながら幅広く見ていくことが、これから大切なのではないかと思います。選挙のポスターを貼る看板、昔は木製だったのがどんどん変わってきて、どうにかならないかと思っていたら、秋田県は、木製で国内の杉で作った合板でかまわないじゃないかと判断した。そこで作ってみたら問題なくうまく行くことがわかって、また木製に戻りつつあるというような話がありました。必ず定期的に選挙はありますので、選挙の看板はもっと木を使ってもらおうと、今から準備をしようと思っています。選挙ポスター用看板に木材を採用した地域は、担当の選挙管理委員会の中にとても意識の高い方がいて頑張ってくださったのだと思います。まだ地域差がものすごくあるので、これから分析して一つ一つやっていけばと思っています。もう一つ考えておりますのは、ポイント制度や色々な政策で需要拡大支援をしていきたいと思っています。国産木材にはみなさんが「高くても使うのがいい」と、考えていただけるだけの価値があると思うので、その気持ちをどうやって盛り上げていくのか、盛り立てていくかが一番大切な気がします。具体的にお話をすると、木の家を建てて本当に良かったという話はいっぱいあるのですが、どうしても他の方に良さが伝わりにくい。国産木材の利用は、「自分の安心にもなるし、世界の自然環境とか、生物多様性の貢献にもなる。こういうやり方って良い。」というのをわかってもらうことの大切さがありながら、それがなかなか伝わらないもどかしさも感じています。色々な機会を通じてわかっていただくのが大切だと思いました。

【井上】 米田先生の方から土木の分野で木材をもっと利用していくべきとのお話がありました。その通りです。これから技術革新が進んでいく分野だと思います。

加えて、パレットなどの輸送用資材も木製化が進んで欲しい分野のひとつです。例えば、飲料メーカーは水を商っておられるわけで、水を生産してくれる森の大切さを主張したCSR活動をされています。ところが、使っておられるパレットはプラスチック製が主流です。これは衛生面での課題やリサイクルなどの理由もあるようですが、少し残念な気がします。水を守りたい、森を守りたいのであれば、木を使って戴かなければなりません。家具もそうですけど、輸送用資材などの分野でも、もっと木材を使えるようなシステムを作っていくべきではないかと考えています。

それからもう一つ、国産材の利用拡大について語るなら、輸出を忘れてはいけません。輸出を考えると必然的にマーケティングを重視せざるを得なくなります。それによって国産材の国内流通も機能的になり、活性化すると思います。

【赤池】 まさに井上先生に伺いたいと思っていたお話です。先程、フィンランドのランバー企業の日本の木材産業の脆弱性、という講演の話がありました。一つは日本の木の産業の脆弱性をどうとらえているか、次にご提言された国際競争力にそれをいかに転換していくべきなのか、改めてお考えを頂戴したいのですが。

【井上】 FLTの森川社長は、やはり「マーケティング」を指摘されています。マーケティングとは、簡単に言えば、買いたい人のニーズを捉えることです。“何が必要なのかをマーケティングして、そこに安定供給すれば、営業なんか必要ない”これがマーケティングの行き着く所だと思いますが、日本では、この発想が全くと言って良いほど欠落しているのではないでしょうか。もう一つの課題は、ファイナンスと経営に関する評価です。この面でも、日本の木材産業はあまりにも立ち後れているようです。

例えば、なぜ、IKEAは、スウェーデンで生産した本棚を東南アジアで価格競争力を持って売れるのでしょうか。スウェーデンの人件費は日本の1.5倍~2倍です。これを考えていくと答えが見えてくるような気がしますがいかがでしょうか。

【赤池】 同じように米田さんに伺います。日本企業を見ての課題と、その解決策をお教えください。

【米田】 今、日本が木材を輸出しているのは台湾、韓国、中国ですが、やはり中国が一番大きな市場です。しかし、中国で日本の在来木造住宅を作ろうと思うと、構法が中国の建築基準に入っていないのです。かつて、日本にツーバイフォー住宅が入ってきた時、ツーバイフォーという構法が日本で認定されてから広まったのです。日本には素晴らしい在来木造の技術があるわけですから、そういうのが建てられるように中国のビルディングコードに対して、日本政府としてきちんと働きかけを行い、中国でも(日本の在来木造構造で)建てられるような一般構法にしていく働きかけをすればずいぶんとマーケットができるのではないかと思います。また内装材についてですが、これは赤池先生のお得意の分野だと思いますが、例えば、港区などは国産材利用について前向きな取り組みをされていますので、見て触ってすごくいいなと思ってもらえるような内装材の輸出を、国をあげてやっていく。こういった努力の中でマーケットを広げていくのがとても大事なことだと思います。

【赤池】 日本の住宅メーカーも建材メーカーも、中国で住宅を含めた再開発にビジネスとしてコミットしたいのですが、ダメ出しをくらうのはデザインです。中国人も木の価値はわかるし、環境性についても理解している。ただ、いまビジネスになるのはデザインです。そこでは日本の建材や住宅のデザインクオリティーをどう高めるかが重要です。中国のマーケットに「刺さる」提案を持って来てくれと言われますが、日本の企業では物作り戦略の中にデザイン戦略をきちんと位置づけてこなかったので、話がすれ違ってしまうというケースが多々あります。基調講演でいくつかの事例をお話ししましたが、やはり産地と立米と価格だけでは絶対ダメで、バリューを高めていく、つまり「デザイン」という切り口が、これからの木づかいには不可欠なのだと、改めて感じさせていただきました。

さて、古田さん。生物多様性というのは実は生物資源の持続的な利用であるとお話していただきました。企業の生物多様性についての取り組みのうち、182のうちの53が森林に関わる取り組みであるとのことでした。学べる木づかいと言いますが、木質資源の持続可能な利用で参考になるような企業の実践例はありますか。

【古田】 具体的な事例は申し上げられないのですが、日本企業の方と色々お話して強く感じる事の一つは、日本は製造業が多いものですから、企業としては生物多様性に対して取り組みたい場合でも、直接事業と繋がっていかないことに悩んでおられます。そこで、どういうふうに貢献したいかというと、やはり技術を通して貢献したいという方が多いです。

日本の企業で、森林を通じて生物多様性の問題に取り組んでいる企業は多いです。森林に親しみを持っていて、森林を守りたいという気持ちがみなさんの心の中のDNAに根付いているというのが日本人ではないかと思うのです。森に対して技術で貢献する、それが生物多様性にも、世界の生物多様性にも貢献するというストーリーがあれば、積極的にやっていこうと思う企業の方も非常に多いのではないかと思います。

【赤池】 先程、基調講演で蜜ロウワックスの話をしました。あの蜜ロウワックスは、三重県のメーカーの製品ですが、大手のハウスメーカーにも積極的に使っていただいています。このメーカーが、先程、会場に来られて、蜜ロウを実は水に溶かすことが出来るようになったよとサンプルを持って来ていただきました。おそらく、大手のビルダーとのつきあいを通じて、従来型の蜜ロウワックスだと建築現場で使いにくいと、というようなやりとりがあって、そこで特殊な技術開発で蜜ロウワックスを水の中に溶かそうと開発されたのだと思います。直感的な話ですが、この技術開発で現場での施工性が随分向上するはずです。このように、やはり木づかいを促すためのデザイン開発と技術開発はすごく大切だと思うのです。

そこで末松さんにお伺いします。林業施策の中でご紹介のあったカーボン70も、ややマーケットには遠い中長期の話ですよね。もっと現実の市場形成に資する技術とかデザインの促進活性化施策はお考えになっておられるのですか。

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【末松】 地域で色々な取り組みがあって、今日も住宅メーカー、機器メーカー、内装メーカーの方々がある地域と一緒に取り組みを進めているという話を聞きました。すごくいい木があるけど、それが普通のごつごつした机と椅子では誰も買ってくれない。いい素材とデザインが結びつくと本当に売れるものになる。こうした事例がいま各地でいくつも起きているような気がします。今後の課題だと思うのですが、小さな点が全国の市場にどうやって出て行くのかという問題が、上手く解決できていない。例えば、良いものだとわかっていても、10個しか出来ない、100個しか出来ないという問題がある。良いものが、1万個、10万個できるという話であれば、そこに投資が入ってまわっていくと思いますが、なかなかそうはいかない問題があります。いい物はきら星のごとくにあるのですが、うまく消費者と結びつけていくのかが課題です。良いものを上手に束ねて、都会の人達、消費者さんにわかってもらう事が大切ではないかと思います。それから、先程、中国の建築基準の話がでましたが、外国との関係は何年もかかるお話です。既に3年程前から中国との話し合いは行っておりまして、ようやく日本の杉や檜についても認めてもらい、間もなくパブリックコメントとかそういう段取りになっていくと思っています。この間、中国の林業技術員と日本の関係者が技術協力や機器の協力をしたという経緯もありまして、とても熱心に中国国内で段取りをしてくれました。若干、日程が後ろだしになっていますが、動いているという実感があります。ただ、国家間の話は何年もかかります。3年後に何が必要ということを見据えて我々はその交渉をしなければいけません。やれと言われてすぐ出来るという話は、国家間ではありませんが、建築基準法についてはまもなく上手くいくと思います。次に何が必要かということは常に先を見越して取り組んでいきたいと思います。もう一つ海外について、先程、カナダのツーバイフォーのお話については、我々は本当に反省しなければいけないことがあります。日本人は木造軸組工法という名前を知らない人はいっぱいいても、ツーバイフォーはみんな知っています。カナダの人達、アメリカの人達は、そこに官民でものすごいお金をかけています。いま中国にツーバイフォーを周知するということで、確か30億とか州と政府と木材の団体とがお金をかけて広報しています。そこでわが国でも対外的な広報を行う取組みに理解をいただきたいと思います。どうしても広報というと、そんなうわついたものに貴重な税金を使うなと、直接農業者、林業者に届く金こそ大切だと言われてしまいます。極めて個人的な意見ですが、この流れには反対です。実際に林業をされる方や企業の方は、自社の製品からお金をとってもらうのであって、国のお金はその環境を整備をする方にまわすのが正しいのではないかと思います。最近では、広報の経費や土台作りの経費は仕分けられてなくなってしまうのが現状であります。しかしながら予算を見て、それが本当の意味でどういうことが無駄でどういうことが大切なのかということを色々な目で見ていただければと思います。

【赤池】 最後に、米田さん、井上さん、古田さんの順でこのシンポジウムをまとめるご提言をお願いします。

【米田】 今まで木材産業に御縁の遠かった業種の方も、木の良さを再確認して事業に組み込んでいただく事が必要だと思います。例えば、大手ゼネコンはずっと鉄とコンクリートの材料を多用されてきましたが、最近では木造にも関心を持っていただいています。こうした企業と一流のアーキテクトに、木材を使った建築や素敵な木質の内装を作っていただいて、世界の人にチャーミングだと思っていただけると良いですね。この他にも、色々な業種の連携を加速して、「ジャパンフラッグ」で日本の木をもっと世界的に発信していけたらいいと思っています。

【井上】 広報に関して末松部長のお話がありましたが、私は事後の施策評価が足りないのではないかと思っています。それぞれの取り組みの効果をきちんと評価して戴き、効果のある広報にお金を使っていただきたいと思います。一つ例を挙げると、専門用語であるはずの「間伐材」なんて言葉を国民の9割以上の方が知っておられます。これは木づかい運動の成果の一つだと思います。木づかい運動あるいは木育を通じた広報活動の成果だと思います。

赤池座長が「デザイン」というキーワードを提案されました。今回のディスカッションを通じて、jこれを私なりに解釈しますと、木材利用については、「形」「構造」のデザインに加えて、「加工」「流通」「利用」を含めた「マーケティング」のデザインも重要であると強く感じました。今まさに、マーケティングを通じた木材利用拡大が必要なのだと思います。

【古田】 国産材の利用促進という課題自体は、私自身これまであまり詳しくは知らなかったわけですが、民間参画パートナーシップとフォレストパートナーズの連携ということがあって、その縁で今日参加させていただきました。生物多様性の保全の問題と、国産材の流通、利用促進が非常に密接に繋がっている問題だと改めて感じましたので、そういう視点から連携を深めさせていただければと思っております。

【赤池】 先程、末松さんの方から、木づかいのための小さな試みが日本全国で広まっているというお話がありました。私は、青森県の木工組合の事業者のみなさんと一緒にメディカルトーイの研究会をやっています。この研究会では地元の弘前大の医学部の先生達や、青森の保険医療大学の先生達と、障害をもった子供達が使える木工製品、あるいは知的障害をもった子供たちの、知育に資する地域材を使った木工製品を研究開発しています。これをメディカルトーイというブランドで、商標を押さえた上で地域材を使った新しい木工製品を作って行こうと具体的なワーキングを進めています。

国産材を建材としてビジネスで成立させるためには、工業製品としてもっとブラッシュアップしていく必要があると思います。一方、デザイナーの立場から考えると、もっと工芸品の世界で使っていける木の使い方が様々あるように思います。工芸品というのは伝統工芸品ばかりではなくて、例えばスカイツリーは日本の技術の粋を活かした巨大な工芸品です。そういう発想をもっていくと工業製品としての木材利用とは別に、付加価値の高い戦略的な工芸品の世界に展開する木づかいにも大きな可能性があるのではないかと思っています。エコポイントの問題も含めて、あるいは日本の森林木材利用の活性化も含めて、今日お話しいただいた内容は、現在進行形のテーマです。限られた時間の中でのこの議論が、今日お集まりのお客様の具体的な実践のアイデアやヒントに結びついていけばうれしく思います。

パネリストのみなさん本当にありがとうございました。ご静聴いただきました会場のみなさんにも感謝を申し上げます。