『2020年に向かう、新たな森づくりシンポジウム』 ~林業復活と都市で拡げる木材利用~

主催/美しい森林づくり全国推進会議、林業復活・森林再生を推進する国民会議
共催/ (公社)国土緑化推進機構、(一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC、
経団連自然保護協議会、(一社)日本CLT協会、 (特)活木活木森ネットワーク
後援/林野庁

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近年、我が国の国土の7割を占める豊かな森林資源を活かした、地域経済の活性化・地域再生等への関心が高まりを見せています。さらに、木造で中高層建築物の建設が可能なCLT(直交集成板)等の技術開発が進む中で、新たに都市部での木材利用の可能性も拡がっています。

他方、国際的には2013年から木造建築物や木製家具等への炭素固定量が温室効果ガスの吸収源として計上されることになり、地球環境保全に向けた木材利用の役割も高まっています。

近年、森林・林業分野においては、多様な行政施策が展開されるとともに、幅広い業種の民間企業等が国産材の活用への関心を高めており、新たな技術の開発やデザインを生み出すことにより、森と木を活かした多様なライフスタイルが提案されています。

そこで、我が国では東京オリンピック・パラリンピックが開催されるとともに、地球温暖化防止や生物多様性保全等の国際条約の目標年でもある2020年に向けて、産業界や行政、生活者等の幅広い関係者で、新たな森づくりの可能性について議論するシンポジウムを開催します。

主催者挨拶

出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)

槍田 松瑩 (三井物産(株) 取締役 会長)

来賓挨拶

林 芳正(農林水産省大臣)

佐藤 重芳 (全国森林組合連合会 会長)

吉条 芳明 (全国木材組合連合会 会長)

基調報告

【1】「林業の成長産業化・木づかいの町づくりに向けて」

沖 修司 (林野庁 次長)

【2】「我が国の経済成長に資する「林業復活」について」

赤間 哲 (三井物産(株) 環境・社会貢献部 社有林・環境基金室長、林業復活・森林再生を推進する国民会議 / 林業復活推進委員会 委員)

【3】「里山と都市をつなぐ木材の可能性」

中島浩一郎 ((一社)日本CLT協会 会長、銘建工業(株) 社長)

パネルディスカッション

<モデレーター>

高藪 裕三((一社)日本プロジェクト産業協議会 顧問)

<パネリスト>

[建築業界]山梨 知彦 ((株)日建設計 執行役員 設計部門代表)
[林業・木材業界]中島浩一郎 ((一社)日本CLT協会 会長)
[ 産業界 ]赤間 哲 (三井物産(株) 社有林・環境基金室長)
[ 生活者 ]南沢 奈央 (女優、フォレスト・サポーターズ)
[行政関係] 本郷 浩二 (林野庁 森林整備部長)

基調報告【2】

我が国の経済成長に資する「林業復活」について

赤間 哲 (三井物産(株) 環境・社会貢献部 社有林・環境基金室長、林業復活・森林再生を推進する国民会議 / 林業復活推進委員会 委員)

「林業復活・森林再生を推進する国民会議」の赤間です。今日は林業復活に向けて、この国民会議がこれまでどんな活動をしてきたかを中心に、簡単にご説明させていただきます。6月24日に日本再興戦略=成長戦略が閣議決定されまして、この成長戦略の中に「林業」という2文字が入りました。そのことについてはもうみなさんご存じだと思いますが、成長戦略の114ページを抜粋してみます。

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林業の成長産業化ということで、「豊富な森林資源を循環活用し、森林の持つ多面的機能の維持・向上を図りつつ、林業の成長産業化を進める」という書き出しなんですが、これが画期的なのは、まずは木を使わなければいけないということを冒頭で述べているところですね。その具体策として1番目に、先ほども中島社長から話があったCLTを大きな建物に使っていこうという、新たな用途開発について触れています。2番目は木質バイオマスの利用について。小規模な発電と熱利用ですね。いわゆるコージェネレーションによって、これまで利用されてこなかった端材や木の根っこといった木質バイオマスの利用策の提案です。加えて、セルロースナノファイバーの研究開発等によるマテリアル利用の促進ということも述べられています。マテリアル利用というのは、二酸化炭素を固着した木を、できるだけ長く人間の身の回りで使おうというコンセプトなんですね。こういうテーマが政府の成長戦略の中に入ることが、非常に画期的であると感じます。そして最後に、施業の集約化を進めること等により、国産材の安定的・効率的な供給体制を構築するということで、川下から川上の方を俯瞰するという内容になっています。これでもって、林業のサプライチェーンを完成させるということを政府が述べているんです。これも林野庁をはじめとする行政のみなさん、それと業界団体のみなさんが、これまで幾度となく訴えてきた主張が、このように政府の成長戦略として採用されたということで、お喜び申しあげる次第です。

私どもの「林業復活・森林再生を推進する国民会議」は、林業復活・森林再生を国民運動として展開するため、発起人220名、賛同者1000名以上を得て、昨年の12月18日に立ち上がった団体です。

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日本商工会議所の会長・三村明夫の考えである「日本の発展のためには、資源小国といわれている日本において豊富に存在する海洋資源、水資源、森林資源を活用すべきであり、特に森林資源が充実してきた今こそ、林業を復活させて地方経済の活性化を図るべきである」という考え方を基本認識としています。これまでの活動の狙いとしては、林業復活を成長戦略の1つとして政府に取り上げてもらい、しかるべき予算措置と提言実行に必要な法律の改正等について準備を進めていただくことを目的に提言活動を続けてきました。ですから、そんな私どもの活動の幾ばくかは、今回の成長戦略に林業というものが含まれる一助になったのではないか。そう感じています。

6月に政府に提出した提言の内容について、ここで簡単にまとめてみました。主題は「我が国経済成長に資する『林業復活』についての提言」。副題としては「地域GDP、地域雇用を拡大する産業創出! WOOD JOB!(ウッジョブ)」とさせていただいています。

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この副題の由来となっているのは、最近話題となりました映画『WOOD JOB!』ですね。これまで林業を題材とした映画というのは、私が記憶する限り1つもありません。これは林業に、みなさんの関心を向ける格好の機会だろうということで、弊社・三井物産でも、応援をさせていただきました。ただし、ディズニーの『アナと雪の女王』という映画ですか。あの作品の影に隠れてしまって、興行成績的にはやや及ばなかったと聞いていますが、それでも何十万人という人々に観ていただいたことで、林業に対する関心が、若者を中心に非常に高まったのではないかと感じています。

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次がこの提言の骨子です。骨子は2つ。北海道や東北、九州、四国といった地域に、森林は多く蓄積しています。森林資源というのは地域資源なんですね。この資源を目一杯活用して、地域経済を活性化させようというのが骨子の1つ目。2つ目は森林の持つさまざまな機能。光合成や水源涵養、水産資源の保全、表土を保全するといった機能を、究極の国土保全材として、そして美しい国を保つための源として捉えようと。そのためには林業を適正に行わないと、日本の森林は荒廃してしまいます。ですから森を活かすための林業に、ヒト、モノ、カネを集中的に投下しようということを骨子にさせていただいています。

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その具体策として、まずは需要拡大を図らないといけません。木をたくさん使う、それも国産材を使うということをしなければなりません。加えて、循環可能な資源として、木を切った後には植えなくてはいけない。循環的な活用が必要です。また、需要は待っていても出てきませんから、新規の用途開発というところにまで踏み込んでしっかりと需要を作り出す。こういったことを具体策として訴えています。そのいい機会になるのが、みなさんさんもう何度も耳にしていると思いますが、東京オリンピック、パラリンピックの競技施設、選手村等の関連施設です。これらを国産材利用のきっかけにしたらどうなのかと。CLTや大断面集成材などを活用して建物を建てる。そして、内装には無垢のスギやヒノキなどの国産材をふんだんに使い、和の空間というものを作り上げて、国内外に示していくのです。あとはいまさらですが、都会のオフィスを中心とした中高層の建物の木造化、内装の木質化ができないだろうかという提言を、具体策として訴えています。

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繰り返しになりますが、やはり東京オリンピック、パラリンピックというのは建築物を木造化する、内装を木質化する、和の空間を外国人に示すための絶好の機会です。国際大会ですからいろいろな方々が諸外国からいらっしゃいます。和の空間を中心に、日本の伝統技能に基づいた木造建築や、内装空間のあり方、木を使った空間というものを外国人に印象づけ、その空間を買いたい、輸入したいと思ってもらうきっかけにしたいということなんです。

それではなぜ私が、しつこいくらいに日本で木を使わなければいけないと言っているのか。ドイツと日本の状況とを比較してみましょう。

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ドイツの人口は8200万人、日本は1億2600万人です。森林面積はドイツが1100万ヘクタール、これは日本の2分の1以下です。ただし木材生産量は、ドイツが約6000万立方メートル、日本は2000万立方メートル。面積的には2倍以上あるのにも関わらず、木材の生産量は3分の1です。それと伐採搬出コストにも大きな開きがあります。現地で木材を切ってそれを搬出するのにかかるコストが、ドイツは立方メートルあたり約30円。日本の場合は間伐から皆伐までいろいろな状況があるので一概には言えないのですが、大体5000円から1万円くらいというレンジにある。日本の山というのは木材を切り出すに非常にお金がかかるということなんですね。それと製材工場の数。年間に10万立方メートル以上を生産する工場数を数えてみました。2006年、2007年の数字なので多少古いですが、ドイツには60社ありました。日本の場合には、指折り数えてみても10社しかありません。という具合に、もう圧倒的な川中の競争力というところで差がついています。それと、ここで一番伝えたいのが黄色の部分ですね。木材消費量、ドイツでは1億1000万立方メートルあります。これにはまとまった統計がないので、弊社の担当者がドイツに通って数字を集め、業界関係者からいろいろな話を聞いて、推定した数字だとご理解ください。この1憶1000万立方のうち、5000万立方は木質バイオマスとしてサーマル利用されます。残った6000万立方メートルがいわゆるマテリアル利用。人間の周りで使われている木の利用です。かたや日本。消費量は7100万立方メートルあるのですが、日本というのは特殊な国で、このうちの3000万立方メートルを木材チップとして輸入して、すべてを紙に加工しています。これはちょっとマテリアル利用と言えないのでは、ということで、その分の数字を除くと、人間の周りに使われている数量としては4000万立方メートルしかありません。1人頭の数量で言えば、日本人はドイツ人の半分も、木を使っていないのです。そのくらい差が付いてしまっている。その理由としては、日本人の建築が、RC、鉄筋コンクリートに舵を切ってしまったことが大きいと感じます。

ちょっとその説明の前に、このCLTの構造物について紹介させてください。

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3、4年前にドイツに行った時、すでに8階建てのマンションがCLTで作られていました。日本ではCLTなんて言葉もなかった頃です。それとドイツでは、床や天井といった内装はもちろん、外装にもたくさん木が使われています。話が前後しましたが、なぜ日本がこれだけ木を使わなくなったかということについて、歴史も踏まえながら簡単に振り返ってみます。

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下の表は、左側が日本の木材生産量、右側が日本の木材消費量、2つは同じスケールでできています。縦は数量、横は1955年から2011年までの年代ですね。日本の木材生産量のピークは昭和32年の6800万立方メートル。日本でもこれくらいの木材生産がありました。昭和30年代はだいたい6000万立方ほどですね。ところが消費の方を見てください。日本人が最も木材を使ったのは昭和48年の1億2000万立方メートル。しばらくの間、1億立方メートル以上を消費していたことがわかると思います。このように、日本は木が必要だった時代、国産材の供給が追い付いていなかった。生産に対して消費が倍ですから、これ以切り続けると、日本の山が裸山になってしまう、そういう危険な領域だったわけです。つまり必要な時に国産材が間に合わなかった。それが今は、国産材がものすごく充実して使える時期なのに、需要が減ってしまっているということで、需給のミスマッチが起きている。こういったことも、林業が衰退してきている1つの原因です。さらにそれに輪をかけて、日本の政策もどんどんと木を使わない方向に行ってしまった。1950年代には、耐火・防災性能を向上させるという理由から、鉄とコンクリートの建築に移行する法律が次々と生まれました。1959年には建築学会が木造の禁止決議を行い、大学は木造建築を教えるのをやめてしまったのです。

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ですから現在の一級建築士で、木で設計ができる方というのは極端に少ないんです。この時代の政策が、後の需要ギャップを作り出す一因にもなってしまいました。さらに木材が足りなかった日本は、1951年に丸太の関税を撤廃。1964年にはすべての木材製品の輸入を完全自由化しました。当時は日本の林業をほとんど顧みることなく、マーケットを開いてしまったんですね。ですから現在のTPPも、日本の産業ということについて十分熟慮してから、市場を開くべきだろうと個人的には思います。

最後にオフィスの木づかいの事例について紹介します。まずは京橋にあるイトーキさんの施設。

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「SYNQA」という名前で運営されていて、一般の人も立ち寄れるようになっています。ぜひ機会がありましたら、ご覧いただければと思います。それと及ばずながらですが、弊社本社の1階のロビーに、社有林材で作られたイスやテーブルを並べています。

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3年ほど前にいまの形にリニューアルしたのですが、木のスペースにしてから利用率が大変高まっています。昼休みだけでなく、就業時間中もくつろげると好評で、これも木の持つ効用なんだろうと感じています。それから、私の所属する環境・社会貢献部の内装も、キャビネットの天板を木にしてみたり、壁に木のデコレーションを施してみたりということをしています。そうすると、多少ギスギスした会社の雰囲気も少し柔らかくなるんじゃないかと(笑)。

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オフィスは競う場所だとすれば、あまり木(気)を使わないほうがよいのかもしれませんが、まぁ、仕事のチームワークもよいに越したことはありません。

ということで、私の話のまとめとしては、今こそ民間企業が、特に都会の事務所で木を使うということを、率先して始めてみてはいかがでしょうか。森林の保全に取り組まれている民間企業はたくさんあります。ところが保全しても、切って出てきた木を使う場所がなければいけない。その用途というのが、都会のオフィスでの木づかいということなんだろうと思います。