『2020年に向かう、新たな森づくりシンポジウム』~都市での木づかいから生まれる森と木の循環、そして地域創生へ~

日 程 2015年10月6日(火) 15:00~17:45 受付 14:30~
場 所 全国都市会館 (東京都千代田区平河町2-4-2
主 催 美しい森林づくり全国推進会議、林業復活・地域創生を推進する国民会議
共 催 (公社)国土緑化推進機構、(一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC、経団連自然保護協議会、(NPO)活木活木森ネットワーク

最近、成熟期に達しつつある国内のスギ、ヒノキ等の木材を活用した新たな建材・部材等の技術開発が急速に進むとともに、都市部のオフィスや商業施設、img-forest福祉・コミュニティ施設などにおける木材の使用や消費者ニーズに沿った新たな木材製品の開発の動きが始まっています。

このような都市での木づかいが、地域における森づくりにつながり、そこから地域創生につながっていく新たな循環を作りあげていくことが必要となっています。

そこで、産業界、建築業界、林業・木材産業界、行政等の幅広い関係者が集い、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を一つの区切りとして、木づかいからの循環を地域での森づくりにつなげ、さらに、森づくりを通じた地域創生の方策を議論しました。

主催者あいさつ
  • 出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)
  • 槍田 松瑩(三井物産(株)顧問、林業復活・地域創生を推進する国民会議 副会長/林業復活推進委員会 委員長)
来賓あいさつ
  • 今井 敏(林野庁長官)
  • 佐藤 重芳(全国森林組合連合会 代表理事会長)
  • 吉条 良明((一社)全国木材組合連合会 会長)
基調報告①

オリンピックレガシーとしての森と木を活かす持続的な社会

  • 涌井 史郎(東京都市大学 教授、岐阜県立森林文化アカデミー 学長)
基調報告②

森と木を活かす森林・林業施策の現状と今後

  • 本郷 浩二(林野庁 森林整備部長)
概要報告①

企業に広がる、「森と都市をつなげる」木づかいの最前線
~「オフィス・商業施設・コミュニティ施設における事例集」から

  • 山本 恵久(日経アーキテクチュア 編集委員)
概要報告②

地域資源を生かした持続的な暮らしのデザイン
~ヨーロッパの都市の知恵から見えるもの~

  • 網野 禎昭(法政大学デザイン工学部 教授)
パネルディス
カッション

2020年に向かう、新たな森づくり
~都市での木づかいから生まれる森と木の循環、そして地域創生へ~

パネリスト

  • 涌井 史郎(東京都市大学 教授、岐阜県立森林文化アカデミー 学長)
  • 本郷 浩二(林野庁 森林整備部長)
  • 網野 禎昭(法政大学デザイン工学部 教授)
  • 丸川 裕之(林業復活・地域創生を推進する国民会議事務局、(一社)日本プロジェクト産業協議会 専務理事)

モデレーター

  • 宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)
講評
  • 出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)

概要報告1

山本 義久(日経アーキテクチュア 編集委員)

img-sympo2015100624日経BP社という出版社で編集などの仕事をしている山本と申します。皆様よろしくお願いいたします。
本日は、私どもの会社から出版した「企業に広がる都市の木づかい」という本を紹介させていただきます。「都市と森、地域の経済をつなぐ50事例」という副題で、2015年4月に発行したものです。

この本は、監修が国土緑化推進機構と日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)、取材協力が林野庁、協力が林業復活・地域創生を推進する国民会議ということで、本日の主催や共催の方々にご参画いただき、企画および編集は建築の専門雑誌である日経アーキテクチュアが担当しました。都市と森の間をつなぎ、自然資源を循環させるというときに、非常に重要なプレイヤーである建築、あるいは内装をつくる方々のご活動から「都市の木づかい」を学ぶための本とお考えください。

本のコンセプトとしては、木づかい運動を積極的に後押しすることを狙いとしています。国産材を利用して木質空間を生み出した50の民間プロジェクトを主に選び、先導的なプロジェクトとしてご紹介しています。都市部の企業が、実際にどのように国産材を利用した施設をつくっているのか。その手がかりをつかみ、イメージを湧かせていただくため、オフィス、商業施設、コミュニティ施設という3分野に分け、最新事例集として編集しました。

本日はその3分野から、2つずつぐらいの事例について、お話ししたいと思います。

オフィスについては、国産材を接客部分や共用部分に使っている場合、実際に企業の方々が働いている執務スペースや福利厚生のスペースに使っている場合、それから外装にまで使っているオフィスビルに分けて事例を紹介しています。
まずは、京都銀行の事例です。かなり早い段階から各支店の内装に京都府産の木材を使っていくという活動をされていますが、その中でも際立った事例として、吹田支店をご紹介しています。京都府産のスギを使い、企業の社会活動として森林に関わっているという姿勢を示している事例です。もう一つは、日本圧着端子製造という会社の本社オフィスで、外装としてルーバー状の木を巡らせている事例です。

商業施設については、物販施設、飲食施設、宿泊観光施設に分けてご紹介しています。まずは、東京スカイツリーの足元にある東京ソラマチ イーストヤードという、4階の店舗街。ここは天竜産のヒノキを内装に使っています。もう一つ、100本のスプーン あざみのガーデンズ店は、スープストックトーキョーなども展開するスマイルズ社の運営する飲食店です。宮崎県産のスギ、北海道産のナラを使っています。同社は、あざみ野ガーデンズ店以外の各店舗でも、様々な格好で国産材を利用してきました。

コミュニティ施設については、駅舎、空港などの交通ターミナル施設や、地域コミュニティのためのパブリックな性格を持つ施設をご紹介しています。まずは、函館空港。北海道産のスギ、カラマツ、トドマツを、ターミナル施設の内装に使っています。もう一つは、岩手県紫波町のオガールプラザ。町の図書館と産直市場、飲食店などを複合し、公民連携によって運用している施設なのですが、コストをコントロールするために木造を選択し、町として身の丈に合った事業としている点が特徴です。後から完成したオガールベースも、体育施設と宿泊施設からなる木造の建物です。地域創生の面でも非常に注目されている場所です。

本の中では、こうした事例紹介のほか、木づかいをするときに企業の担当者などがどのような点に気をつけたらいいか、その基礎知識を整理しています。

これは、国産材利用の多彩な効果、国産材利用の推進の機運、建物の木質化の広がり、および木造化の広がり、自治体による国産材利用の支援といった5つの観点から解説しています。また最後には、木づかいの推進に取り組んでいる「林業復活・地域創生を推進する国民会議」の活動をご紹介しています。木づかいの活動に関わっているキーマンの方にもご登場いただいています。1人は、建築家の隈研吾さん。もう1人はJR九州鉄道事業本部の施設部長、前川聡幸さんです。
おふたりのコメントで印象的だったのは、建物づくりに関わる自分たちの活動の社会性を訴求するときに、今は木質化、木造化といった木づかいの取り組みが欠かせない、という意識を非常に強く持っている点でした。民間の施設では、建設コストや維持管理の面の判断が厳しくなるわけですが、そうした課題をクリアしながら社会の資産となる建物をつくり、次世代に残していきたい。JR九州はそうした意識を持つ一社で、九州内の各地で各県下の木を使った駅舎や関係施設を展開しています。

この本は、2014年までに完成した施設を主に取り上げています。その後も、木質化や木造化の取り組みは着実に進み、雑誌の読者である設計者やエンジニア、施工者からの関心も急速に高まっているという実感があります。ベテランに限らず若手の設計者なども、森林再生や環境配慮の重要性を認識し、積極的に取り組み始めている分野です。今回の本は民間施設をご紹介しているものですが、公共施設のほうにも目を向けると、年間を代表する建築のかなりの割合が、木質化や木造化をテーマにしていることが分かります。

2015年完成の目立った事例を挙げると、内藤廣さん設計による静岡県の草薙総合運動場体育館、坂茂さん設計による大分県立美術館、日本設計が手掛け、隈研吾さんがデザイン監修を担当しているとしまエコミューゼタウン、それから伊東豊雄さん設計によるみんなの森 ぎふメディアコスモス。いずれも世界的に活躍する日本の建築家による最新のプロジェクトです。

ただし、本の編集のためのヒアリングなどでも明らかになりましたが、国産の木材製品が建物づくりの現場に届くまでの流通の問題や、コストの問題は依然として残っています。地元の自治体や業界の協力によって早く、そして安く調達できる場合は別ですが、新しいデザインを追求するときに必ずしも採用しやすいものではない、という現実はあると思います。こうした課題が解決すれば、より木づかいは進展するはずです。情報不足が普及を妨げる要因になり得るので、私どもの雑誌でも木質化や木造化に関する情報発信を増やし、読者の期待に応えるよう心掛けています。

例えば雑誌のほうでは、事例だけではなく、森林再生と地域再生に取り組む会社であるトビムシの活動をリポートし、6次産業化の観点からのビジネスや、国内の森林再生に関する展望などを聞いています。ご存知の方も多いと思いますが、岡山県の西粟倉・森の学校の設立に関わったのがトビムシで、これが起動に乗った現在は、奥多摩にある東京・森と市庭、岐阜市などとの第3セクターとなる飛騨の森でクマは踊るという会社に関わり、都市と森の間をつなぐ取り組みを積極的に進めています。

ちなみに今回の本の中にも、アスクルのオフィスやIT系ベンチャーであるアカツキのオフィスなど、西粟倉・森の学校の製品を大掛かりに使っている事例が複数登場します。ユーザーなどとしてトビムシの活動と接点のある方々を取材していて感じるのは、ソーシャルビジネスやソーシャルデザインといわれる分野に関心のある若手事業者や若手設計者が、木づかいの領域に踏み込んできたということです。
また私どもの雑誌は専門家向けですので、木造技術などを観点に、近年は特集を定期的に組んでいます。2013年の時点で既に「都市木造」がメインテーマになっていました。さらに2015年は「都市木造入門」という全12回にわたる年間連載を掲載し、木質材料に関する基礎知識から、木造技術に関する掘り下げた解説までを行っています。

さて企業の方々には、ぜひ本書をお読みいただき、都市の中での木づかいを進展させるきっかけにしていただければと思います。また、そのときに協働するプレイヤーとして、建築や内装の設計者、構造などのエンジニア、そして施工者が、どのような工夫をしているのかを知っていただければと思います。

取材をしていると、輸入材を利用したものを含めれば、木質化、木造化の非常に優良な事例が国内にたくさんあることが分かります。それら多様な姿を踏まえながら取り組みの幅を広げていけば、貴重な都市のストックを築き、持続可能な社会に貢献できるはずです。森林・林業の方々、企業の方々、建築の設計やエンジニアリング、施工に関わる方々が協力し合い、道を拓いていくべきテーマだと思います。