『グローバル時代の森林 CSV シンポジウム』 ~2020 年を目指す、企業による「森づくり・木づかい」の新たな可能性と課題~を開催しました。

主 催 美しい森林づくり全国推進会議林業復活・地域創生を推進する国民会議
共 催 (公社)国土緑化推進機構、(一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC、経団連自然保護 協議会、(NPO)活木活木森ネットワーク

sympo201607-all昨年、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」や気候変動枠組み条約の「パリ協定」などにおいて、森林の持続的な管理・利用の重要性が示され、我が国で開催された「伊勢志摩サミット」でも、持続可能な森林経営や違法伐採対策の強化が成果文書に盛り込まれ、我が国では本年5月に「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」が制定されました。

また、日本国内においては、戦後造成された人工林資源の成熟とともに技術開発やデザイン性の向上、IT化の進展を背景として、「新国立競技場」が木材を多用した“木と緑のスタジアム”として建設されることが決まるなど、我が国が有する豊富な森林資源と「木の文化」を活かした、持続可能で低炭素型の自然共生社会づくりの気運が高まっています。

このような中で、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を見据えて、企業による「森づくり・木づかい」の新たな可能性や展望を切り拓くために、多様なセクターとの連携・協働の進め方について幅広く議論するために、シンポジウムを開催します。

開会・挨拶
基調報告
  1. グローバル時代の日本の“森づくり・木づかい”最前線 〜法律改正から ICT 技術の活用によるイノベーションまで〜
    本郷 浩二林野庁森林整備部長
  2. グローバル時代の森林CSV 〜G7 伊勢志摩サミット後の企業による森づくりと木材利用〜
    藤田 香日経エコロジー/日経BP環境経営フォーラム生物多様性プロデューサー
  3. 森づくり・木づかい”の「見える化」促進に向けた IT 化の最前線
    川崎 貴夫東京大学大学院 農学生命科学研究科
パネル
ディスカッション

基調報告② グローバル時代の森林CSV 〜G7 伊勢志摩サミット後の企業による森づくりと木材利用〜

藤田 香 日経エコロジー/日経BP環境経営フォーラム生物多様性プロデューサー

みなさまこんにちは。日経BP社、日経エコロジー/日経BP環境経営フォーラムの藤田でございます。本日は「G7 伊勢志摩サミット後の企業による森づくりと木材利用」と題しましてご報告いたします。

私たちは日頃、森と直接関係の無い多くの企業に取材をさせていただいたり、お付き合いをさせていただいたりしております。そうした企業にも、木材利用や森林づくりがもっと拡がっていくことが最終的には日本の森林を利用していくということに繋がると思っております。いわゆる普通の企業がどのように木材利用や森林づくりを見ているのかという視点から、本日はお話しさせていただきます。

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私は、先日開催された伊勢志摩サミットに取材に行ってきましたが、メディアの間で話題になっていたことの一つが、木をふんだんに使ったメディアセンターにつながる展示会場です。歩いているだけでも木の香りが漂ってくる、心が癒やされる空間でした。色々な日本の環境技術を展示しているところに様々な木の設えや内装が施されていました。

sympo201607_fujita02こちらの舞台は、展示会場内の食堂横に設置された舞台です。伊勢神宮の木造の宇治橋をイメージした檜舞台になっていました。

sympo201607_fujita03首脳会議のメインのテーブルにも地元産材のFSC認証の木が使われていたのですが、少し残念だったのが、その紹介・説明があまり大々的にされていなかったということです。先ほどの展示会場では、よく外国メディアが中継を行っていましたので、紹介・説明があれば、世界に日本の森や木材利用を発信する良い機会になったのではないか、と思いました。

sympo201607_fujita04首脳会議のメインテーブルはFSC認証の尾鷲のヒノキ材を使っており、配偶者プログラムで使われたランチテーブルも全てFSC認証の地元産材であったということを、後ほど伺いました。これらは速水林業や尾鷲市有林、三井物産の森から出荷されたものであり、製材も地元の森林組合でされているということでした。

さて、この5月の伊勢志摩サミットの前後で、木材を利用するという観点から国内では大きな変化が起きていると感じています。それは、違法材への規制が一層強化され、持続可能な木材の利用への国際的な要請が一層高まってきたという動きです。その結果として、違法材を避けて国産材の利用に移行するという国産材への追い風が吹いているように思います。

sympo201607_fujita05具体的に4つの動きがありました。まず、伊勢志摩サミットを見込んで、違法材を規制する合法木材伐採利用促進法が成立しました。

次に、伊勢志摩サミットの首脳宣言に、持続可能な森林経営ならびに違法伐採の根絶ということが書き込まれました。これは首脳会議の前にG7環境大臣会合が富山であった際に、生物多様性の項目に違法材について書かれており、そのことを踏まえ、首脳宣言にも盛り込まれたという経緯があります。

3つ目の動きとして、伊勢志摩サミットの後に、東京五輪組織委員会から持続可能性に配慮した木材の調達基準が発表されました。

そして最後に、森をつくるという点では、国内認証のSGECが国際的なPEFC認証との相互認証を実現するという出来事がありました。このように、この短い期間に色々な大きな出来事があったと思います。

これらの大きな変化の背景には、世界的な大きな潮流があります。

まず、違法材に対する国際的な規制が強化されました。これは、伊勢志摩サミットに限らずグレーンイーグルズ・サミットのときから話題になっていました。これを踏まえEUや米国では違法伐採・違法木材に対して厳しい法律、すなわちEU木材法や改正レーシー法が施行されています。

そして、去年の大きなトピックとして国連のSDGs(持続可能な開発目標)とパリ協定の採択がありました。この2つは伊勢志摩サミットでも大きな話題となりました。2016年はパリ協定とSDGsの実行の年であるということが大きく宣言されました。そのSDGsの中の目標15に持続可能な森林の経営と再植林ということが書かれております。SDGsは2030年に向けた目標ですが、この目標15については目標年が2020年になっています。

それから国連の生物多様性条約の愛知目標においても、目標5に「森林を含む自然生息地の損失の半減」、目標7に「林業の持続的な管理」といったことが書かれております。そして署名したTPPにおいては、違法伐採木材の貿易に対する規律も入っています。

このような大きな潮流に加えて以下のような国際的要請も出てきています。

sympo201607_fujita06昨今、「持続可能な調達」という言葉がキーワードになっています。私たちも日経エコロジー3月号で大きな特集を組みました。持続可能な調達とは、CSR調達、責任ある調達とほぼ同意義と思ってよろしいかと思いますが、資源が減少・枯渇していることに対して、量的に持続可能なことはもとより、質的にも環境に配慮し、なおかつ地域住民の人権に配慮するという、環境と人権に配慮した調達のことを指しています。これがISO化する段階にきており、来年の早い時点で発効する見通しとなっています。木材についても持続可能な調達が重要になっています。

もう一つは東京五輪からの要請です。これは持続可能な調達とも非常に関わってきますが、先ほど申し上げたように東京五輪の調達コードが今年続々と品目別に発表されます。環境五輪といわれたロンドン五輪で初めて持続可能な調達コードが出されました。環境や持続可能性などはロンドン五輪が残したレガシーとされています。なので、東京五輪がどんなレガシーを残せるのか、ということが皆さんの注目を非常に集めており、その第一弾が先般発表された木材調達コードだったので、NGOや消費者団体等から色々な意見が出されております。

東京五輪組織委員会が発表した調達コードに対する考え方の基本方針では、人権、社会、環境に配慮するということや、違法伐採木材への対応、紛争鉱物への対応などについて書かれています。

さらに3つめの国際的な要請としては、NGOや投資家の目が、より一層厳しくなっているということです。それによる評判リスクや投資リスクが顕在化しています。例えば最近の事例では、輸入業者が違法伐採木材のリスクを軽減する取り組みをしているかをNGOが採点して報告書を出した例があります。また、投資家の間で、企業の環境や社会やガバナンスへの取り組みを評価して投資に結び付けるESG投資が非常に活発化しております。

社会的責任投資フォーラムが調べた数字によると、昨年一年間で世界の機関投資家がESG投資をした金額が21兆3580億ドルでした。日本の投資家からの投資も増えてきました。2014年まではアジア全体でESG投資の金額が530億ドルでしたが、昨年一年間は、日本だけで2380億ドルと、世界全体に比べればまだまだ規模は小さいものの、立ち上がってきたという事実がございます。その背景には、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードというものがあります。

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2014年に金融庁が日本版のスチュワードシップ・コードを策定しました。これは、責任ある投資家の諸原則というもので、投資の際に企業のESGなどの非財務情報などもみることなどが盛り込まれています。これに日本の金融関係の会社が200社以上署名をしています。

また、昨年9月の国連総会で発表があったように、年金基金等を管理しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、国連のPRIという責任投資原則に署名をしました。このPRIも、ESGをしっかりみて投資をするという原則です。GPIFは委託している運用会社に対しても、PRIに署名するよう通達を出しておりますので、ここにきて一気にESGをみて投資をするということが日本でも動き出しつつあります。ESGのE=環境のうち木材はその全てではありませんがその一側面でもありますし、S=社会の地域の人びとや労働者の状況など関わる分野でもありますので、木材利用や森づくりはESG投資の面からも非常に大きなテーマの一つでは無いかと思います。

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これは、日経BP 環境経営フォーラムが毎年行っている「環境ブランド調査」の結果です。環境ブランド調査は、消費者2万人に、企業の環境イメージはどうかということを何十項目にわたって質問しており、そのアンケート結果を統計処理してランキングを出しております。今年で17回目になりますが、今年はトヨタ自動車が1位でサントリーが2位という結果でした。

面白かったのが、この環境ブランド調査は消費者のイメージ調査ですが、その結果を投資家によるESGの評価と比べてみたことです。ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックスに組み込まれた企業や、現在企業の間で非常に注目を浴びているCDPのAリストの企業が、私どもの環境ブランド調査の上位企業とどれくらいリンクしているかを調べたところ、50位以内で重なるところが多くあることが分かりました。

つまり、このような企業はESGにしっかり取り組み、消費者に対しても、投資家に対しても、情報開示ができているということが言えると思います。

まさに森林についても同様で、消費者にも、投資家にもきちんと伝えていくということが重要なのではないかと思っております。

それと、CDPについては、今年からCDPフォレストというプロジェクトが初めて採点結果を公表します。CDPは機関投資家をバックにつけたNGOが企業に質問書を送り、回答結果を評価するというプロジェクトです。CDP気候変動の方は、毎年10月の発表会は企業にとって非常に重要なものになっていまして、企業の経営幹部の方々がその発表会に駆け付けています。そのCDPが気候変動だけでなくCDPウオーターという水のプロジェクトのAリストを昨年初めて発表しました。そして、今年からCDPフォレストでもAリストに選ばれた企業を発表することになります。これは機関投資家の方々が、企業の森林に対しての取り組みに注目しているということの現れだと思います。

CDPフォレストが対象にする分野は、森林に関わる産業全体で、木材利用の企業、パーム油を利用している企業、それと牛肉の畜産業の企業。これは放牧のために土地を利用して森林を伐採して森林を損失してしまう産業だからです。そして大豆の産業。この4つの産業を対象として、質問書を送って回答してもらうというものです。

どれくらいの量を調達していて森林にどんな影響があるのか、またトレーサビリティは確保しているか、そのような細かい質問があります。そして、リスクだけでなく、チャンスについてもきちんと見ております。機関投資家は、リスクとチャンスを大変気にします。そのような企業に投資することが後々問題にならないか、その企業がどれだけ成長していくのかということをしっかりみる質問内容になっています。

こうした世界的潮流を受けて、国内の動きをここからご紹介します。

このような状況ですから、木材を持続可能に利用していこうという動きは一般的な企業にも拡がってきています。どんなものを利用していくのかということですが、一つは森林認証でしっかりと持続可能性が証明されたものを利用したいということと、もう一つは国産材を活用していきたい、という動きが、少しずつではありますが広がってきております。

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それを後押しするような枠組みが、国からも発表されてきました。木促法も追い風になりますし、東京五輪もそうです。五輪を和の空間でおもてなしする方針も出されています。新国立競技場の大規模屋根には国産のカラマツやスギを使うことにもなっています。

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加えて、ここ数年、国産材を使っていくための技術が確立されてきています。一つは、高層の木材建築物を実現する技術、燃えんウッドやFRウッドのような耐火性の高い木造部材がどんどん出てきていますし、それを活用した建物も増えてきています。それとハウステンボスのホテルのように、CLT(直交集成板)技術を活用する例も出てきました。

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2014年に全木連(全国木材組合連合会)と全国森林組合連合会が「ウッドファースト宣言」を発表しました。ウッドファースト宣言は主に自治体に木材活用を働きかける目的で創られたそうですが、企業も色々な形で国産材、認証材を使っていく、木材利用を進めていくというなか、木材を利用してウッドファースト宣言をし、認定を受けるような仕組みにすると面白いのでないかと思います。それによってインセンティブが働くなど、メリットがある仕組みがあると拡がりが出るのではと思いました。

では、ここからは国産材を使っている事例をいくつか紹介したいと思います。

まず、国産材を使っている例で、ウッドデザイン賞を受賞したものから2つご紹介します。

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これは、三井不動産のららぽーとの例です。大建工業とパワープレイスと一緒に受賞されたものです。子どもたちが遊ぶエリアに、三井不動産の北海道の社有林で切り出されたカラマツやトドマツの間伐材が使われています。三井不動産は北海道に5000ヘクタールほどの森林をもっており、社員が中心となって地元の森林組合などと協力しながら、毎年200ヘクタールずつ間伐をしているということです。間伐材は、ららぽーとだけでなく、ホテルやレジデンス、戸建住宅にも活用されているそうです。

sympo201607_fujita13京都銀行の例を紹介します。これもウッドデザイン賞を受賞されています。京都銀行の企業の森で行員の方々が間伐作業に従事しその間伐材などを30店以上の店舗に活用しています。

では、森林認証材の例を2つご紹介します。

私は、さきほどご紹介した「東京五輪に向けた持続可能な調達」という特集で三菱地所を取材しました。山梨県は県有林の大半でFSC認証をとっているのですが、三菱地所は増富地区の方々と深く交流をしながら、山梨県と協定を結んで、三菱地所ホームの住宅に県産木を使うという取り組みを続けてきております。三菱地所は東京五輪に向けて様々な取り組みを始めています。環境や人権に配慮したCSR調達ガイドラインを策定しました。また、三菱地所ホームやレジデンスで使う床用の構造用合板に国産のFSC認証材を確保するため、山梨県産のカラマツのFSC材を3年分、6000立米確保したことを発表しました。

もう一つ、海外企業の例ではありますが、イケアの例をご紹介します。一年間の木材使用量が東京ドーム13個分の1612万立米だということです。これだけ多くの木材を使っているのにもかかわらず、FSC認証材が45%、リサイクル材が5%、残りは認証はとっていないが合法性、環境・社会面で第三者認証を取得したFSCコントロールドウッドを使用しているとのことでした。2020年までにサステナブルな木材に100%切り替え、具体的にはFSC認証材、リサイクル材に切り替えるという目標をしっかり打ち出しています。そして、978社の家具製造メーカーに対しても、取得は大変だけれどもCoC認証を取れば確実に購入するという約束をして調達しています。大量購入することで、価格もある程度抑えることもできるということもあり、取り組みを進めているそうです。

最後に、木材を利用する企業が気を付けることとして、以上のことから見えてきたことをお話します。

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一つは、投資家にとっても、消費者にとっても、木材利用の目標をしっかり設定して進捗状況を定量的に開示することが非常に重要であるということです。企業の透明性、長期経営の姿勢について、両者とも非常に気にかける時代になってきたと思います。例えばFSC認証材を使うということについても、もし今認証材を使用していなくても、どのような基準で取り組んでいるか、どのようなことを目指しているか、を見える化をすることが非常に重要です。

もう一つは、コントロールドウッド、管理木材の活用を考えても良いと思います。全て森林認証材でなければいけないとなってしまうと、量の確保、価格が必ず問題になってきます。例えば、魚を例にとると、魚のMSC認証を調達したくても、取得している魚の量が少なかったり価格が高かったり色々な問題があって取り組めないということもあります。そこで、MSCの場合、漁業改善プロジェクト(FIP)というものをつくっていて、認証基準には達していないが、改善意欲のある事業者をサポートする仕組みを導入しています。例えば、小売業のウォルマートでは以前、いついつまでに販売する魚は100%MSC認証を取得したものにすると宣言したことがありましたが、やはりそれは難しく、現在はMSCとFIPを取っている漁業者からの調達を90%以上にするという宣言に変えています。認証にだけとらわれるのではなく、こうした仕組みを導入することで、改善プログラムに取り組む漁業者を消費者も後押しできますし、魚を調達する小売としても、持続可能に調達する姿勢の表明にもなると思います。

木材もこうした仕組みを見習うことができます。森づくりをする山側だけではなく、このように、消費者や木材を利用する企業も全て巻き込んだ取り組み、サプライチェーン全体の取り組みがこれからより重要になってくるのではないかと思います。

ご清聴ありがとうございました。