CSV経営・健康経営時代の「企業×森林」フォーラム― 森と人と地域を元気にする、新時代の「企業の森づくり」 ―を開催しました

宮林なるほど。特に、森林の体系を探る研修と称して、多様なことをされている点は、地域の文化をうまく活用された事例だと思います。

ところで、健康保険組合連合会さんから私たちの健康に対するショッキングなお話がありました。やはり、現代社会において健康は非常に重要な問題で、それゆへに健康に対するお金の使い方も大変重要です。しかし、それを森林サービス産業の方向へと発展させる場合、地域が持っている文化的な側面にも踏み込んでいったほうがよいと思いますが、その辺はいかがですか。

安藤健康に悪いような話をして申し訳ありませんでした。最近、私はいろいろな所で森林セラピーの話をしていますが、地域がそれぞれ、特色のある森を持ち、そこには特産品があり、特色のある植生あるというように、地域ごとに特徴があります。皆さんが参加する形で、いわゆる森林サービス産業が成り立つような形にしていければよいと思います。

そのために、われわれ健康保険組合が補助金といった形で支援をして、できるだけ多くの人が、住まいの近くにある森にいけるようにしていきたいと思います。先週の金曜日から、プレミアムフライデーも始まりました。それ等も活用して、週末に、車で1時間ぐらいの所に家族で出掛けるといったことが増えることによって、森林サービス産業に従事している方たちが潤うという循環型にしていければとよいと思います。

宮林ありがとうございました。地域ごとに特徴がありますが、やはり行きやすい距離にたくさんの基地をつくったほうがいいということですか。

安藤はい。

宮林日常的に接することができる。安心できるという森林空間を近いところにたくさん造るということです。それは、やはり森林そのものを、どんどん活用していくということが重要だと言うことではないか思います。今泉さんは、そのことについていかがお考えですか。

今泉健康という切り口ならば、確かに、できるだけ身近なほうがよいと思います。私も、入庁後に、アメリカの大学院に2年ほど留学していたときは、授業が早く終わると、2時過ぎから、すぐ近くの森林公園に幼い子どもを連れていき、本当に癒やされていました。そこまで近くでなくても、日常的に通えるように、身近な所に健康増進に役立てられる森林があるという状況にしていくことは非常に重要だと思います。

他方、都市や人口集中地から遠く、アクセシビリティーが劣っている場所にも森林があります。そういう所をどのように振興していくかという問題も別途あります。その場合、健康という切り口だけではないのかもしれないし、逆に遠い所だからこそ健康にも良い価値もあるかもしれません。そういったところも、少し掘り起こしていければよいと思います。

宮本私は本当に過疎地に住んでいますので、サービス産業として捉えるとき、やはり距離の問題があります。近い所にたくさんつくることは、いろいろなサービスをしていく上では良いことだと思います。では、遠い所をどうするかというと、わざわざ行くからには、いかに長く滞在させて、高付加価値のものを提供できるかというように、そのグラデーションが必要だと考えます。

外国人の場合、日本に来てしまえば、距離はあまり関係なくなります。そういった距離感で、そのことを考えていくことが大切です。それから、近い所の場合にも、地元の人に提供するサービスを考えていかなければならないと思います。

宮林そうですね。やはり日本は地域ごとに独特の文化がありますので、そういったところを活用していけば、付加価値は相当高くなるといえます。それは、過疎地域や地方にとって、経済的に相当なプラスになっていくのではないでしょうか。つまり、日帰りで日常的に行けるような範囲と、2泊、3泊するような少し遠い所とのすみ分けが、地域特有の森林環境や地域文化が付加価値として当然加わります。そうした地域特有の森林資源を賢く、健康的に利用することを、それをトータルとして森林サービス産業と言うことは可能ではないでしょう。

では、それを具体的に進めていくとき、市町村だけや県だけで取り組むことは非常に難しいと思うのですが、この点について、良いアイデアはありますか。コンソーシアムあるいは中間セクターの組織をつくって議論していく、あるいは森林サービス産業研究会等を立ち上げて議論して、そこで可能性について、具体性について煮詰めていくことになるかと思います。井上さん、いかがですか。

井上例えば、グリーンツーリズムだと、ドイツが有名です。当然、役所がハードの整備やソフトの支援をいろいろしていくわけですが、特徴的なのは、ドイツの全ての業界と同じく、アソシエーションをつくらせることです。日本語に訳すと協会のことです。そこが何をするかというと、例えば、農泊の場合は、全国の農泊の情報を蓄積して、利用者に宿泊を紹介する一元的な窓口となり、サービス提供者に対するコンサルティングを行います。優良事例、駄目な事例を集めて、最低限の標準化をすることをアソシエーションという中間支援団体が行っているわけです。
そういうものをつくって、民間の知恵が集まる場所にすればよいではないかと思います。

宮林
ありがとうございました。まさに、地域の持っている特徴をどう生かしていくかが重要ということ、それゆえに、多様なデータを科学的に積み上げて、本物はこれだという基準を明確に示して、それを提供することが重要になります。それをつくるには、やはり地域の専門家が必要になるだろうし、まず、そのような団体をつくって、考えていくということが大事だということです。
浅原さんは、そのことについていかがお考えですか。

浅原私も、井上さんにとても似た考え方です。森林セラピー基地にも、10年前に始めた所、3年前に始めた所等、いろいろな所があり、そこには、スーパー公務員と呼ばれるような、大変頑張っている方たちがいらっしゃいます。しかし、アイデアや都市部とのつながりに限定的なところがあって、うまくいかない部分が非常に多いのです。そういった意味では、専門家の人たちにコンサルティングをしてもらえることはとても必要だと、私は思います。

私は信濃町役場に勤めていたとき、癒しの森事業に関わってきた中で、10年間異動がありませんでした。しかし、普通は確実に異動があります。役所の場合、担当者が変わると、前の担当者のしていたことをあまりやりたがらない傾向がありあす。従って、そういう意味でも外部的なサポートがしっかりしていれば、森林セラピー基地等も、もっとうまくいくのではないかと思います。

宮林宮本さんはいかがですか。

宮本先走って話をしてしまいましたが、今、観光庁が進めている、いわゆるDMO的な考え方のことですね。

宮林そうです。

宮本今、進んでいるDMOに便乗するのか、あるいは、独自で山村支援センターのようなものを立ち上げるかは別にして、そういうものはあると良いと思います。それから、今日は民間の企業さんが多いのですが、フランチャイズチェーンが成功するノウハウ等を、こういう所に入れてほしいと思います。

宮林なるほど。最近、地方創生の中でDMOの役割が重要視されていますが、DMCとしての企業も入って、そこで都市のニーズと山村のニーズとを議論することも必要だろうと思います。この組織図はなかなか難しいと思いますが、関本さんは何かありますか。

関本私は、信濃町との経験しかないので、そういう意味では限定的ですが、浅原さんがまだ信濃町役場にお勤めのときに、協定を結んで活動を始めました。午前中のセッションの中で生物多様性の主流化という話がありましたが、経営側が、そういったことに理解がない、あるいは、目標の定量化ばかりを目指すようならば、いろいろ難しいと思います。本当にこの担当をやっていると、心が折れそうになることが何十回もあり、もう辞めてやろうと思うときが何度もありました。経営側からは、どこに金を使っているのかという話が時々ありました。しかし、10年かってようやく、このように定量化することができたのは一つの成果だったと思います。

申し上げたかったのは、先ほどのコミュニティーという話です。例えば、森林セラピー等も、どんなことをやっているか、企業の担当者がどんな苦労をしているのかという話をできる場を、信濃町は東京につくりました。毎年1回開催し、もう8回か9回続けています。企業の担当者も同じような悩みを抱えていますし、そういう場をつくることは、企業と地方自治体との関係、山村との関係がうまくいく、一つのきっかけになるのではないかと思います。

宮林ありがとうございました。健康保険組合関係で、中間セクターのような組織はあるのでしょうか。

安藤残念ながら、ありません。
先ほど、私がお話ししたようなことを、これからどのような形で健康保険組合の中で広げていくのかというところがキーになると思います。

宮林とするとそういう皆さんにも加わって頂いて、いろいろ議論ができるような仕組みがあれば良いと思うのですが、今泉さん、やはり予算化というところでは難しいですか。

今泉私も過去3年ほど、山村振興を担当してきましたが、行政が絵を描いて、予算を措置したら、自動的に動き出すというものではないところが難しい点だと思います。行政の中に身を置きながらこういうことを言うと、身もふたもないのですが、それをとても実感しています。従って、そういうところこそ、行政主導でというよりは、官民対等にやっていったほうが良い部分だと思います。

この森林サービス産業は、最終的には地元地域の方が責任を持って、背負っていくわけですから、国が作った施策に乗って気楽に参加するという話ではありません。そうなると、先ほど、最後のスライドで紹介したように、農山漁村の観光振興の施策は、ソフト対策というと大体、市町村や都道府県が中心になって、関係する民間団体・業界の人が一緒に加わって、協議会等をつくるのが今までのお決まりのパターンでした。

しかし、今回の施策では、市町村や都道府県等の行政も関わりますが、持続的に、その地域でサービス産業として、それを背負っていく法人がメンバーとして入ることが必須要件になっています。もちろん、法人イコール企業ではないのですが、責任の所在と責任の限度を明確にした形で進めるということです。そして、いずれは自分たちだけで走りだすことになるわけです。

そもそも、地元にスーパー公務員やスーパービジネスマンがいる地域ばかりではないし、スーパーな人がいないと成り立たない世界でもないと思います。の地域で真面目に、汗をかいて頑張れれば、それなりに成り立つように、情報交換・啓発の場としてのプラットフォームをつくることは大変意義があると思います。

宮林ありがとうございました。この森林サービス産業を広げるためには、行政主導ではなく、やはり色々なセクターによるプラットフォームをつくって、そこで、それぞれの地域に合ったDMOやDMCを造るにはどのような仕組みが必要なのか等、多種多様な議論を重ねていく必要があるのではないかという感じがします。きょうはいろいろな企業の皆さんが参加しておられますから、プラットフォーム型の議論の場をつくって、それを基にしてどんどん広げていくことも可能ではないかと思います。

そして、そのことを頭に入れながら、本日の出口論に入りたいと思います。
そこで、次の議論です。皆さんが今、関わっている地域で、これから企業が森林を活用していくときの課題を具体的に教えてください。浅原さんからお願いします。

浅原企業が森に関わるとき、その結果が経営としてはどうか、定量化の目標といった視点で捉えることが、一番の問題点だと思います。

それからもう一つ、関本さんがおっしゃったように、担当者は、どこかで心が折れてしまうと、私も思います。企業の中で営業、人事、総務部門の人が集まってぐちを言い合うのと同じように、森林部門に関わる人たちが組織を横断して集まって苦労話をする場も必要だと思います。プラットフォームの中にそういうものがあってもよいのではないかと思います。

宮林なるほど、やはり関本さん、大変でしたか。

関本はい。今でこそ、こうやって冷静に皆さんの前でお話しできますが、始めて2、3年目くらいは大変でした。民間企業なので、投資対効果という話をされるのですが、それとはマッチングしません。また、私達の業種は、森とは全く関係のない電子機器の設計・製作・販売なので、社業とどういう関係があるのかと問われると、どうしようもありません。

浅原さんがおっしゃったことと同じですが、さまざまな業種のかたがたが集まって、経営的視点や経済効果等について、他社がどのようにクリアしているかを話し合うだけでも、各企業の担当者は随分癒やされると思います。

宮林担当者がつぶれてしまったら、どうしようもありませんからね。井上さんからコミュニティーという話がありましたが、企業の中でコミュニティーが出来上がると、企業自体の価値観や存在感も広がってゆくものと理解してよいのですか、井上さん。

井上例えば、森が面白い、森はいいと言って、会社で始めると、参加している人たちばかりが盛り上がり、参加していない人たちは、半ば嫉妬もあって、つぶしにかかります。従って、先導している人が孤立しながら頑張って、盛り上がれば盛り上がるほどつぶされるという可能性があるのが難しいところです。

しかし、企業のトップは、その価値を理解しています。大体、中間管理職が価値を理解できないのです。だから、一番手っ取り早いのは、トップを森に連れていってしまうことです。そのとき、大企業の場合、社長を2時間以上離れた場所に連れていくことは大変です。それなら、地方の支社に出張したとき、支社から2時間以内に行ける森に連れていくなどして、とにかく、トップに、森の効果を実感してもらうとよいと思います。

コミュニティーについて言えば、長崎の離島に大島造船所という会社があり、島全部が造船業で、病院も、学校も会社が造って、島民は全員、大島造船所につながりを持って生きています。船を引き渡しする場合、パナマ等の船主がその島に来て、半年間ぐらいそこに住み込みます。大島造船所では、船の引き渡し式のとき、島民全員が出てきて、船主の乗った船を万々歳をしながら見送るそうです。そのことに、船主さんが感激をして、その場で次の船を予約したりもするそうです。つまり、コミュニティーというのは、こういうことなのではないかということです。

社内を巻き込むことも大事ですが、会社の自己満足で終わらずに、地域を巻き込んで、地域の人に、本当にこの会社がいてくれてよかったと思ってもらうことがさらに重要です。そうすれば、地域の人が皆、ファンになって、お客さんを連れてきてくれるといったようなことなのではないかと思います。

宮林先ほどのお話の中に、Re-createするのは森もそうだと言っておられたのは、まさにそういうことですね。地域も新しく変わるという展開だと思います。
では、最後に、森林サービス産業化を進めていく上での方向性を一人ずつお聞きして、最後に今泉さんに振りたいと思います。順番にお願いします。

安藤健康保険組合の立場としては、皆保険を維持するためにも、森林サービス産業化をして、できるだけ日本全国の多くの場所で提供できるようにしてほしいということが、われわれからのお願いです。

宮林ありがとうございました。では、関本さん、お願いします。

関本私達は会社単位で進めていますから、従業員をそこに連れていくという方法論で、研修を手段として使いながら、森と関わり始めました。今では、全体の4分の1ぐらいの社員が行ったことがあります。しかし、いい所だから家族を連れていきたいと思っても、補助を出すようなことが弊社では十分にできていません。従って、安藤さんが取り組まれている健康保険組合の補助を利用したり、組合にも協力を要請するといった方向性を考えていきたいと思います。

宮林健康保険組合の中でそういう新しいメニューを作ってもらうと森林セラピーや、木工体験等に参加しやすくなります。これはぜひ、検討していただきたいと思います。
宮本さんはいかがですか。

宮本私も一企業として、使いやすい森がもっと欲しいと考えておりますので、林野庁が、もっと森を売ってくださるとうれしいです。

それから、今日はずっと価値の話が続きましたが、日本人はあまりにも森が豊か過ぎて、その価値に気付いていないのではないかと思います。私は、世界でも有数のリゾートホテルのコーディネートを北海道でしたことがあります。そこは、支笏湖一帯の1000ヘクタールの森に26室だけのリゾートホテルで、名前をバルトマイスター、森を守るためだけのホテルを造りました。1泊20万円です。

宮林すごいですね。

宮本だから、それぐらい、日本、北海道の森は世界的にも大変価値があるものなのです。富裕層の中は、水と緑を守るべきだと思っている人がいるということです。

宮林なるほど。安藤さんから、森林の中に一度入ると、免疫機能が上がり、さらに、あまり間を置かずにもう一度行くと(3週間から4週間)、それを持続できるというお話がありました。では、積極的に森に行こうというキャンペーンをしてはいかがですか。

安藤月に1回は森に行きましょうというキャンペーンを健康保険組合全体でやればいいと、私は思います。しかし、私だけが勝手に言っていても仕方ないので、今日来られた皆さんが、そう思ってくださることこそ大事だと思います。

宮林先ほどのグリーンウェイブも踏まえて、これはむしろ国民運動として、林野庁も、月1回は森林に入ろうという呼び掛けをすればいいのではないかと思います。「プレミアムフライデーは森で元気になろう」なんてのはどうですか。

安藤グリーンウェイブでも、月に1回は森へ行きましょうということをやってくださいませんか。

宮林それでは、ここでシンポジウムとして、月1回は森に入ろうキャンペーンをぜひ行いましょうということを提案します。では、浅原さん、いかがですか。

浅原私は、株式会社さとゆめの長野支社長ですが、実は、アファンの森センターの中に事務所を借りています。そのため、疲れたなと思ったら、2秒ぐらいでアファンの森に入れるのです。先ほど森の価値の話がありましたが、アファンの森は確かに、多様な価値を持つ良い森です。良い森だと高い癒やし効果が得られると思います。しかし、日本の森は確実に疲弊してきています。

従って、月に1回森に入ろうキャンペーン等で、皆さんが森に来ることは、単に人が癒やされるだけではありません。そうやって皆さんが森に来て、地域が活性化して、森の整備が少しでも進めば、森が健康になります。つまり、皆さんが森に行けば行くほど、森も健康になり、皆さんの健康増進につながることになると思います。まずは、そういうキャンペーンに乗って、森に入ってみる活動から、まずは進めてみてはどうかと思います。

宮林信濃町でも、すぐに森に入れる場所があって、色々な状況にあるということですね。ありがとうございました。井上さん、いかがですか。

井上今の皆さんのお話の中にいろいろなヒントがあったと思います。私は、大学と専門学校で森の話をする講座を持っていますが、驚くべきことに、今の専門学校生や大学生は、日本にこれだけ森があることを全く知らないのです。ここにいらっしゃる方たちは、森に興味があるから、森のことをご存じですが、彼らは全く知りません。さらに、木を切ることを悪いことだと思っています。そのため、「先生の話を聞いて、森がいかに大事か分かりました。これからは木を切らないようにしようと思います」といったことを言います。

オーストリアに行ったときに、オーストリアでも森林離れがどんどん進んでいることが大変印象的でした。そこで、国家として森の日・週間を決めて、人間は森から生まれたといった話をしたり、毎年、標語を作ったしして、一生懸命キャンペーンをしています。日本の場合は、木材の木を使おうという木づかい運動ができますが、オーストリアの場合、税金を使ってある特定の業界を保護するのは許されません。建材業界が怒るので、木のキャンペーンはできないのですが、政府として、森のキャンペーンならばできます。そこで、オーストリアは森の国だと、自らをブランディングしているのです。

東京オリンピック・パラリンピックでたくさんの外国人が来ますが、日本は、先進国でありながら、これだけ森があること珍しく、またこれだけ積雪地があること珍しいのです。テクノロジー日本、アニメの日本だけのクールジャパンではなく、『となりのトトロ』や『もののけ姫』を見ている外国人は、日本の森的な世界に興味があるから、それを現実に見られる場所をつくっていってもよいと思います。

専門学校生たちから、「どこに行けば、森に入られるのですか」と必ず聞かれます。それぐらい、やはり私たちは森から離れているし、地域も、森も劣化しています。やはり、この現状から始めなくてはいけないのだろうと思います。

宮林ありがとうございます。
現状をきちんと押さえることによって、森に対する価値観を共有する場ができてくるのではないか、そこからスタートして、日本人にとって当たり前のものが、結果的に外国人から評価される方向になるのではないかということでした。まずは、われわれは現実を認識して、森林と木材等との関連は一体何か等をもう一度、サーベイする必要があるし、そこから、価値観がもう一度変わってくるかもしれません。今泉さん、いかがですか。

今泉私で最後ですね。

宮林はい。

今泉最後でも、なかなかまとめにはなりません。今日のディスカッションのテーマは、主に企業の目線で森づくりあるいは山村と交流することのよって、社員の健康や研修等に生かしていくというものでした。しかし、企業の森づくりをやっておられる方は大変ご苦労と悩みがあり、それを分かち合える場があるといいというお話は、私も大変新鮮でしたが、そういう場があるといいと思いました。

実は、地域、地方でも同じようなことがあります。信濃町さんはもうその段階をとっくに卒業されています。しかし、森林を抱えた地方自治体や関係者の皆さんの多くは、こんな荒れた森林を愛でに都会の人が好き好んでやってくるとは想像もつかないのです。だとはいえ、このままでは、うちの村は死んでしまうという危機感はそれなりに持っていて、どうしたものかと思っています。そういった地域にとっても、信濃町さんをはじめ、先進地の経験談を聞いたり、同じように悩んでいる地域同士で悩みを分かち合ったり、企業さんと交流をして企業ニーズを知ったり、今まで気付かなった地域の価値に気付いたりする等、有益だと思います。そして、地域同士、地域と企業さんとの交流によって、今までと違ったアイデアが出てくるかもしれないと思いました。

もう一つ、宮本さんの報告の中に6次産業化という言葉がありました。6次産業化という言葉も、役所が作った言葉です。6次産業化とは、基本的には物というものを中心にしながら、それに物語や付加価値を付けて、1次産業と2次産業と3次産業の関係企業が連携して新しい価値を創造していくことです。森林サービスも、同じような発想から、業種、立場、地域の異なる人たちが交わり合うことによって森林サービスの価値がより発揮される部分があるのではないかとも、今日は思いました。

宮林ありがとうございました。時間になりましたので、皆さんからの質疑応答の時間がなくなってしまいました。

実は、冒頭でも申しましたとおり、企業が参加する森づくりは、開始から既に十数年の時間が経過しています。その間にさまざまなことが起きました。例えば、森づくりコミッションをつくって、地域の中にあっせん部門をつくろうではないか、あるいは、フォレスト・サポーターズをつくって、国民運動にしていこうではないかといったことです。

しかし、その中でたびたび壁にぶつかってきました。それは、どうやら地域の価値観、企業の価値観がバラバラであったからではないかと気が付きました。ところが、きょうの議論の中で一つ、森林の価値は、時代が変わっても、そして、誰もが共通に持っているものであることが分かりました。

安藤さんのお話にあったように、日本は2060年ぐらいになると、7割近くが後期高齢者になっていくわけです。そのとき、地域をどうするか、自分たちの暮らしをどうするかというと、これまではコミュニティーからコーポレートに移ってきて、最近は協働になりましたが、それではもたない時代が来る。そのために皆が一緒に働くという総働の時代が必要になるといえます。
その総働のときに一番資源的に豊富なものが森林です。そこには昔からずっと培われてきた文化があって、そこに価値があります。これを再生して、健康産業にすることが、実は森林サービス産業の非常に大きな方向ではないかと思います。そのためには、ます、運動論にしなければなりません。そこにプラットフォーム型の研究会をつくり、1カ月に1回はとにかく森へ入ってみようというキャンペーン等を行いながら、国民の皆さんの理解と合意を創造することです。

こうした展開には、まさに教育論が必要です。子どもたちだけではなく、国民一人一人が森に対する教育を育み、自分たちで総働しながら森林をもう一回理解し直すことによって、森林サービス産業が嚆矢し、国民の共通産業として大きく展開していくのではないかと思います。

そして、そのためには、地域だけではなくて、企業の皆さん、都市の皆さんが皆、参加して、まさに総働という形で、森林に学び、森林を育み、森林に暮らすことを発展するのがよいと思いました。ぜひ、そういう形で進めていってほしいということを願い、パネルディスカッションを終わります。どうもありがとうございました。