CSV経営・健康経営時代の「企業×森林」フォーラムⅡ
~“企業・医療保険者×農山村地域”で実現する、SDGs時代の健康づくり・森づくり〜

2.森林・農山村の「クアオルト」を活用した従業員・社会の健康づくり
 【 西森 昭二太陽生命保険株式会社 広報部長 

太陽生命保険株式会社広報部の西森と申します。本題に入る前ですが、私は、今回のような森林の活用とか森を育てるフォーラムに初めて参加しまして、本当に勉強になることばかりで、ああこういう課題があるんだ、こういうことを大事に考えなければいけないんだ、ということを考えさせられました。そして驚いたのは、天野課長がいらっしゃる和歌山県は、私が三十数年前にこの会社に入って配属になった県で、第二のふるさとでうれしかったのと、私の西森という苗字は、実は高知県と愛媛県の境の四国山地の山の中のある集落から出てきたと言われていて、私の実家もそういう山の中だったのですが、森林率NO.1だということを今日初めて知りました。国有林の問題、民有林の問題を前川常務や今泉課長が話されていましたが、我が西森家にも四国山地の中に小さな山があります。小学生ぐらいの頃に、いまは亡き父に一度連れていかれて、ここがうちの山だよと教えられ、下枝切りをしたり、隣地との境の杭を見えるようにしたりしたのですが、それからもう四十何年もの間、私はそこに行ったことがないので、あの山はいったいいまどうなっているのかなあと思いました。父は他界していますし、母は高知の市内に出てきていますので。今度帰る機会があったら、ちょっと行って見てきたいと思います。

さて、本日私がお話しいたしますのは「クアオルト」についてで、今日何回か出てきています「ウオーキング」だったり「森林」というものを活用して従業員の健康づくり、あるいは、広く社会の健康づくりのお役に立てないか、というテーマなのですが、実は、これを始めてまだ1年と少しですので、まだまだその効果や成果がたくさん出たというものではなく、『こういうことをこういう考え方で始めました』ということだけのご紹介だというふうにご理解ください。

ご説明に入る前に、太陽生命という会社とこれまでの森林に関する活動について少し紹介させてください。私たち太陽生命保険株式会社は、今年の5月で創立125年になる生命保険会社です。生命保険商品を販売して、もしお客様が、病気やケガで入院されたり、万一というときに保険金をお支払いする、これが生命保険会社の事業です。生命保険会社の事業の成り立ちとして、医療や介護、あるいは年金など、社会保障制度の補完的な位置づけが非常に高く、それから資産の運用でも公共的な社会インフラ整備等への投資を重視するなど、公共的使命を意識するという文化がこの業界には多々あったのではないかと思います。

私がおります広報部では、商品のCMであったり、新聞広告を作ったりということがありますが、それに加えてCSR的な事業として地域貢献・社会貢献活動や、アイスホッケー女子日本代表などのスポーツ協賛も行っています。そして「森林」に関連する活動として、当社は、法人の森林制度を活用して、平成18年3月、栃木県の那須塩原に『太陽生命の森林』を設置し、森づくりを始めました。これまでに森林の整備はだいぶ進み、現在も年に2回、従業員ボランティアが集まって活動をしています。最近は、地元の日本ダウン症協会に所属されているご家族をお招きして、当社の従業員と一緒に歌ったり踊ったりといった楽しいレクリエーションをするような活動もしています。もう1カ所は、平成19年11月、滋賀県高島市に『太陽生命くつきの森林』を設置して森づくりの活動を行っています。

さて、これからは『クアオルト』のお話になります。クアオルトについて初めてお聞きになられる方もいらっしゃると思いますので、簡単にご説明します。「クアオルト」はドイツ語で、「クア」は「治療、療養・保養のための滞在」を、「オルト」は「場所」を意味しており、「療養地・健康保養地」を指す言葉とされています。クアオルトはドイツ発祥で、その活動について調査されたところでは、心筋梗塞や狭心症のリハビリ、高血圧・骨粗しょう症などの治療に効果が認められていて、ドイツでは公的医療保険の対象にもなっているということです。「クアオルト健康ウオーキング」は、クアオルトにおける運動療法のひとつで、気候性地形療法の手法を用い、日本の気候や自然に適合したウオーキングを行うものです。右の方にある日本地図をご覧いただくと、これは全国の13自治体ですでに始まっていて、その中でも山形県上山市では市を挙げて盛んに取組みを進められています。

クアオルト健康ウオーキングは必ず専門のガイドの方がついて森林の中を歩くのですが、特徴がありまして、ここに書いていますように、無理をしない、ハーハー言うような運動にしない、個人の体力に合わせるということで、心拍数をコントロールしながら歩きます。

このポイント1にありますように、算式は160-年齢、例えば私でしたら160-55=105になります。途中途中で心拍数を計って、数値がそれを超えているようであれば、歩くペースを落とします。また、その数値まで全然足りない場合には、もうちょっと早足で歩きましょう、というようなやり方をします。感覚としては、全力の半分を少し超えた程度、これはなかなか難しいですが、そのような感覚で歩き、歩く距離としては、だいたい3km~5kmのコースですので、40分から1時間弱ぐらいかけて歩きます。そして、その途中で専門のガイドが、例えば、この木はこの土地の木で何とかという名前で、いま何の実がなっていますよとか、この地形だと山びこが返ってきますよ、などといったレクリエーション的なことを含めながら進めます。

またポイント2として、身体の表面の温度も途中途中で測ります。少し汗をかいてちょっとヒヤッとするなあというくらい、身体の表面の温度を少し下げて運動するようなウオーキング、これがクアオルト健康ウオーキングです。ですから、自分一人でやるのはなかなか難しいので、実際にはそのためのコースを作り、それを指導することができるガイドを養成して、そのガイドに案内を頼んで一緒に歩くということになります。今日は、この会場に日本クアオルト研究所の大城代表がお見えになっていますので、ご興味があれば、後ほど大城代表にお聞きいただくとよいのではないでしょうか。

さて、私ども太陽生命がクアオルト活動を導入した経緯についてお話しします。生命保険会社は、先ほどもお話ししましたように、病気とか健康とか、例えば人の生き死にということを事業の対象にしています。そして、先ほど丹野様のお話にもありましたように、高齢化が進む中で、健康寿命の延伸ということが非常に大きな課題となっています。われわれは、生命保険会社として、この課題に関して保険金を支払うというほかに何かできないかということで、平成28年6月から、従業員とお客様、そして社会のそれぞれに元気になってもらおうというプロジェクトを始めました。

その第1番目は従業員です。従業員が元気にならなければ、お客様や社会を元気にする提案もできないので、従業員を元気にする取組みとして、例えば、定年が60才だったものを65才にして、本人が希望すれば70才まで働けるようにするとか、介護休暇の取得率を100%にするとか、人事の担当が中心になって色々な取組みをしてきました。その中で、いわゆる健康増進ということに着目して、山形県上山市とクアオルトを活用して従業員の健康増進を図る包括提携を平成28年10月に結びました。そして、上山市の市役所の方や協力者の方と一緒にプログラムを作りました。

当社には、現在約12,000人の従業員がいる中で、いわゆる生活習慣病、例えばメタボの人が一定数います。生活習慣病の予防というのは非常に大事で、その中で特定健診、成人病の予防を進めようということで、人事部と健康保険組合、そして上山市が一緒になってプログラムを作りました。その参加対象者は、当社の産業医が一定の基準を作り、脂質、血圧、血糖値、腹囲に基づいて、あるリスクがあると思った人を会社が指名します。もちろん強制ではありませんが、人事部が指名しますので、大概の人は来ます。そうして5人とか10人とかで、年に何回か行います。平成29年度は全部で7回実施して、合計72名が参加しました。当初は健康診断時の血糖値とかメタボの人を対象としていましたが、この画面の中央に朱書しているように、現在はストレスチェックテストで一定以上だった人も対象にしています。丹野様のお話のように、メンタル系のところというのは確かに非常に言い方が難しいですが、当社では全従業員に対して定期的にストレスチェックを行っており、別にメンタルに不都合があったということで対象とするのではなく、一定のストレス量があるのでこういうのがストレス解消に役立ちますよ、よかったらどうぞ、ということでご案内する方法を採っています。

プログラムは1泊2日で座学もあります。そして、こんな食べ物、こんな生活が大事だということを知って、もちろんクアオルトですからガイドさんと一緒にコースを歩き、夕食とか朝食などもカロリーを考慮した食事をして、例えば向こう半年間でこういうふうになりたいといった目標を立てて解散します。解散した後は、2週間おきぐらいに上山市の保健師さんから、その後これとこれは続いていますか、といったことを6ヶ月間にわたって電話や手紙で確認され、目標とする体重や血圧なりに近づいているかどうかのチェックをするといった方法を採っています。まだ1年ですので、医学的なエビデンスといったものにはほど遠いことはわかっていますが、参加者の6ヶ月平均で、体重が4.8kg、ウエスト(腹囲)で5.6cm、一番痩せた人の体重で8.5kg、ウエスト(腹囲)が11cm減ったという効果が出ているというところです。もっともっとこれを広げていって、どれくらい効果が上がるかということを見ていかなければならないと思っています。

クアオルト健康ウオーキングを全国に広めるお手伝いをしようということで、平成28年から『太陽生命クアオルト健康ウオーキングアワード』というものを始めました。日本クアオルト研究所さんの主催により、全国の自治体などが、クアオルトを導入して、例えば住民の健康増進を図りたいとか、その後ろにある健保財政の改善につなげたいとか、あるいは地域の活性化を促進したいとしてご応募いただくものです。クアオルト健康ウオーキングを活用したまちづくりのビジョンをプレゼンテーションしていただき、審査を通過した自治体に対し、太陽生命が、コース整備やガイド養成を支援しています。その第1回目のアワードでは、画面左のとおり、岐阜県の飛騨市、岡山県の新見市、そして兵庫県の多可町の3自治体が受賞され、昨年の9月から11月にかけて、それぞれ3kmから5kmのクアオルトのコースが2コースできて、ガイドさんも複数人誕生しました。私も1、2カ所に行って一緒に歩きましたが、本当に気持ちのいい森林内のコースでした。

同様に画面右は、昨年の10月に行った第2回目のアワードで入賞された宮崎県の延岡市、静岡県の小山町です。ここのコースづくりはこの4月以降だと思いますが、そこを日本クアオルト研究所と太陽生命で応援していきたいと思っています。元々は山形県上山市と提携して従業員の健康を、ということでしたが、最近新聞報道されているように保険業界でちょっとはやり始めていて、その後某損害保険会社も上山市と提携して、すでに100人、200人の方が利用されていると聞きました。先月、別の損保会社も上山市と提携して、従業員を健康増進に活用するということのようです。保険会社というのは日本中に支店とか営業所を持っていて、私共も、北海道から沖縄まで約150の支社・営業所があります。できればその店に近いところにそういったコースがいっぱいできれば、もっと行きやすくなるし、行く費用も安くなります。そうなると、このアワードというのは、地域の方も喜ぶかもしれませんが、当社の従業員を健康にすることにもつながります。また、当社のお客様が健康になれば、保険金の支払い率は下がり、そうすると保険料を下げるということにつながるということで、CSV的な考え方にもつながるのではないかと思っています。このアワードはこれからも続けていきますし、われわれもそれを活用させていただいて、どんどん従業員を健康にしていきたいと思います。

以上でご説明を終わります。ご清聴ありがとうございました。