山主さん、仲間の遺族に背中を押され、地域目線で新たな歩みを記す。

岩手県・釜石市

釜石地方森林組合

津波で5人の仲間の命が奪われ、事務所も流出する。

img0303-1

管内に38,000haの民有地を擁し、そのうち17,000haがスギを中心とする人工林。2007年からはモデル森林組合として、森林所有者をとりまとめ間伐施業の集約化に取り組んできたのが釜石地方森林組合です。着実に実績を築いていくなかでの被災となりましたが、岩手県内の森林組合のなかで、もっとも甚大な被害を受けたのが、同森林組合とされています。

「地震発生時は岩手県庁で会議中でした。事務所への電話も通じず不安なまま夕方6時頃に釜石に辿り着くものの、市内は封鎖され事務所に行くことはできませんでした。丸一日市内には入れなかったのですが、震災による津波で組合事務所は破壊され、組合長と総務課長を含む5名が犠牲になりました。事務所で保管していた各種データ、書類などもすべて消失し途方に暮れたものです。」

震災直後は管内全域で電話が通じず、どこに誰がいるのかも確認できない、移動しようにも燃料がないという非常事態だったといいます。

「日増しに良くない情報が増えていくなかで、考えたことは復旧はとても無理であり、合併の道しかないと思いました。」(釜石地方森林組合参事 高橋幸男さん)

事業継続のために背中を押してくれたもの。

img0303-2

混乱のなか、13名の組合職員の生存を確認。復興に向けた動きとして3月半ばに全理事と会い一時的な全権委任を取り付け、その後被災地の片付けなどボランティア活動の実施を市に申し入れたといいます。

「手元には高性能林業機械があり、オペレータもいる。森林組合の活動を知ってもらえば、やがて木の伐採など復興に役立つ仕事を組合に頼もうとする動きも出てくるだろう、そう考えてのことでした。」

同時に在庫の丸太を処分し、一部は住田町での木造仮設住宅建設にも使われた。

「3月中には全職員を集めて組合の状況を説明し、必要があれば復興需要が見込める建設業界への転職の斡旋も行うことも伝えました。」

結局、すべての職員が退職せず、役職員が一丸となって新たな一歩を記した。多くの組合員から「いつでも自分の山を使って良いから頑張れ」と激励され、職員の遺族からは「故人が所属した職場だから、早く復旧してほしい」という言葉もいただき、組合の再出発に向けて大いに背中を押してもらいました。」

一貫して地域目線で事業に臨んできた組合の財産。

img0303-3

「林業の再生につながればと、2010年にJ-VER制度に参入していたことも再出発する組合にとっては心強かったですね。間伐などを行うプロジェクトを申請し、森林吸収量で約4300トンのクレジットが認証されていましたが、震災後に売却することで資金を確保できました。」

また、同組合では「地域とともに」という一貫した姿勢を貫いているが、その一例が間伐材を木質バイオマス資源として新日鉄釜石製鉄所に供給している点。森林作業の拡大によって土砂災害の防止、林業所得の向上、雇用創出などで確かな成果をもたらしている。

img0303-sub1「林業・建設業が一体となった作業道の整備も、今後は事業として提案していきたいですね。震災前に組合が管理する山に作業道をつくっていたのですが、平地が少なく海のそばまで山がある地形が多いので、津波の避難の際に役立った他、地震で公道が閉鎖されたときには支援物資を運ぶ「道」として地域に貢献したんです。また、地場の材を使った低コスト住宅・公共施設の提案、養殖いかだへの資材提供など地域目線の林業に取り組んでいきたいと思います。地域とともに歩んできた組合として恩返しをしながら、復旧・復興に貢献していきたい、というのが本意ですね。」

地域社会と密着する森林組合として、また外部との連携をもつねに視野に入れるなど釜石地方森林組合の進むべき地平から目が離せません。

 

釜石地方森林組合

岩手県釜石市鵜住居町第3地割8番地3

約1700人の組合員で構成される釜石地方森林組合。東日本大震災では組合長以下5名の職員の尊い命を失った他、津波で事務所も破壊・消失。組合員にも犠牲者が数多く出るなど甚大な被害を受けた。モデル森林組合として森林所有者を取りまとめ、施業を効率的に実施している。J-VER制度にいち早く参入したほか、新日鉄釜石の火力発電所に木質バイオマスを供給するなど、地元企業はもとより外部とも連携した、先進的な取り組みを行っている。