□ 椎野潤ブログ(堀澤研究会第1回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて「山長グループの精神性に触れて」
堀澤正彦
過日、モックの大型パネル工場を訪ねました。私一人のため(結果的には2人になりましたが・・・)に時間を割いてくださったスタッフの皆さんに感謝です。
まず、月並みな感想ですが、想像以上にスマートに生産されていると感じました。設備がシンプルなのは当然ですが、無駄な工具なども見当たらず整然としたなかで作業に集中されている姿に感心しました。大型パネルについては、ここで論じるまでもなく本尊たる塩地博文さんが本ブログなどで紹介しているところですが、建築現場でおこる無駄の撲滅などの建築側のメリットのほか、木材情報と連結する装置機能を備えています。遅々として進まない真の林業サプライチェーンの実現に向けて、森林側との親和性が高いことを再確認できました。
そして、今回の訪問ではもう一つ大きな収穫がありました。それは、山長グループの精神性に触れることができたことです。モックは紀州の山長材の関東地方での販売拠点であり、垂直統合型のサプライチェーンの一角です。ところが、紀州と関東は遠距離で、一見するとマイナス要素です。しかし、グループとして展開していることから、サプライチェーンの根幹である流通の透明性が担保され、欠点を補って余りあるのだと推察されます。さらに、森林経営に端を成し高品質な山長ブランド材を、自信をもって届けるという気概、スタッフが自分事として関われる精神性も、サプライチェーン成立の大きな要素だと感じました。
訪問に先だって、山長商店の榎本長治会長が寄稿された「木材情報」の記事を拝読しました。祖業の薪炭商から紆余曲折がありながらも時代の先を読み変化を続けてきたことや将来への希望展望を赤裸々に記されていましたが、意外な一節を目にしました。それは、かつては素材生産と製材部門で独立採算性が敷かれ、グループとしての相乗効果どころか軋轢ともいえる関係だったとのくだりです。プレカットの導入に合わせて一貫生産体制に切り替え、その後のイノベーションや価値の創出、ブランド形成につながったとのことですが、一枚岩とも思える個人商店的なグループ企業でも、自然発生的には一貫体制(透明情報のサプライチェン)が生まれないのだと示唆を得ました。
さて、私に課せられているのは、小規模分散型の地域森林での林業サプライチェーンの実現です。これまで続けてきた取組みの成果で制度上のつながりは構築できました。しかし、そこには精神性の一体感はありません。次の次元に向かうには、センスメイキング(最近知ったビジネス用語で意味付け、動機付けというような意味らしい)が重要だと、あらためて思い知らされたような気がします。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
モックの大型パネル工場については、本ブログでも大型パネルの生産に携わっておられる岡沢由衣さんの「木造大型パネル工場で働く入社のきっかけ2024年4月16日」、「木造大型パネル工場で働く女性でも木造躯体を作れる仕事2024年4月23日 」があります。私も工場を見学させていただき、堀澤さんのご指摘のとおりの感想ですが、製品づくりに対するいろいろな規制のことなども勉強させていただきました。何よりも刮目させられたのは、柾目や板目の木目の美しさです。これがヒノキ材のブランドなのだという基準のようなものでもありました。
山長商店榎本長治会長の「木材情報」の記事はまだ読んでおりませんが、2021年に日刊木材新聞社から出版された榎本会長の『木と共に生きて : 山の恵みを届けて300年』は、時代の流れに翻弄されていく林業のうねりや波が解説され、それを適時に先読みして乗り越えてこられた山長家の歴史が解説されている好著です。
堀澤さんは、山長グループの精神性がサプライチェーンの根幹である流通の透明性を担保し、サプライチェーン成立の大きな要素であると喝破されています。透明性は信頼性でもあります。企業内の各部門を独立採算制にして競い合わせると、いいときもあれば、悪いときもあり、業績不振時には責任のなすりあいにもなります。一貫生産体制とすることにより社内の透明情報のサプライチェーンに電流が流れました。では、地域林業に置き換えてみて、精神性の一体感をどう実現し、体質を変えていくかは、これからの課題だと思いますが、センスメイキングの重要性を指摘しておられます。