□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第27回) 木造大型パネル工場で働く(3)木造大型パネル生産から上棟まで
今回は、パネル生産時にどんな作業や注意点があるか、そして自分達が作ったものが立ち上がる上棟時の気持ちなどについて書こうと思います。
パネルを生産する前に立面図、平面図、構造図、パネル図、仕様書等を確認しながら注意点等を共有します。このミーティングは営業、パネル生産スタッフの全5名で1〜2時間程行ないます。生産時のミスの予防や、理解不足による生産ストップを防ぐ為です。工務店様ごとに仕様の違いや拘りがあるため、いかに発注者や大工さんに貢献出来るか、そして我々生産スタッフがいかに生産性を上げ、いいものを作れるか意見を出し合います。
次に、搬入された資材への防蟻防腐処理やピッキング、使用部材の加工を行ないます。防蟻防腐処理には、自然素材で人体や地球環境に影響を及ぼす事がないホウ酸を1丁1丁部材へ手作業で塗ります。木材のピッキングは反り、曲がり、割れ等がないか確認しながら行ないます。パネルの歪み=建物の歪みや納まりに直結しますので、誤差のないように面材、断熱材、胴縁、付加し材の加工を行ないます。面材は重たいものだと1枚あたり30kg以上ありますが、工場内で無理なく加工、施工出来ます。面材や断熱材は端材が出ますが、資材生産工場へ返却して再利用されています。
部材が整ったら生産が始まります。初めにパネル図を見ながら梁、柱、羽柄材を作業台へ間配り(必要な場所に分けて置くこと)します。ピッキングでも確認していますが、適材適所へ配置するために再度、木材1丁1丁と丁寧に触れ合います。この時間は雑音が耳に入らなくなり心地良い神聖な時間が流れ、無垢材でしか味わえない贅沢な時間と感じています。木材の配置が決まったら釘打ち機にて固定します。釘が沢山入った釘打ち機は重たく、釘を打った衝撃も大きいので常に安全を確認し細心の注意を払います。
躯体と開口回りの全長を計測し、パネル全体の対角を測定して歪みの無いことを確認してから、重い面材を2人で運んで張り付けをしていきます。張り付けの際には専用定規を使用し、構造計算で定められた釘ピッチから−10mmを目掛けて垂直方向にまっすぐ釘打ちをします。釘打ち機は、面材に釘をめり込ませないため、釘頭が少し飛び出した状態になるようにエアーコンプレッサーの空気圧を調整します。その後で確認作業を兼ね、1本1本玄翁で釘頭が面材面になるように打ち込んでいきます。多い時では1パネルに700本近く釘を打ち、1本の釘に対して2・3回、2人でただひたすらに手打ちをします。釘打ち後、品質の確保が出来ている事を示すために釘ピッチの寸法とパネル全景の写真撮影をします。
大型パネル工場では、面材への釘ピッチだけではなく、各作業工程で写真撮影を行ない製品検査書として工務店様へお渡しします。パネルの全景写真を撮ると工場内外も必然的に写ります。何時頃生産したものなのか、天気や人の出入り、工場内の5S の徹底がされているかまで写ります。撮影者や製品検査書の作成者の性格も分かります。製品検査書とは品質の担保でもあり、1棟の物語の目次でもあり、生産者の人間性が垣間見えるものであると感じています。
その後、面材への気密防水処理を行ない、付加し材をビス留めしていきます。外付けサッシが乗ってくるため、付加し材も木裏木表、反りや木材の癖を見て間配りし、水平垂直を保つ為に微調整しながら慎重にビス留めをしていきます。
この後は付加断熱の施工、養生作業、パネルの立て起し、充填断熱の施工、開口部の防水処理、サッシの取付けと続きますが、細かく記すと作業マニュアルのようになってしまいますので、ここは省きます。いかに丁寧に、精度の高い加工を行っているかは十分お分かり頂けたことと思います。
300kg近い大型の木製サッシを、元請の工務店様の大工さんに来て頂き8名で取り付けたこともあります。緊張感の一番高まる作業ですが無事取り付けられた安堵感や達成感を大工さんたちと分かち合う瞬間は感慨深く、思い入れが強まります。手を取り合って仕事が出来ることは大工さんたちの考えに触れられる貴重な時間でもあります。この大勢の手によってパネルに納められたサッシからどんな景色が望めるのだろうというわくわく感と、現場で無事納まるのだろうかという不安感が混在します。養生作業を念入りに行ない専用ラックへ納め、さらに専用ラック全体へ養生をして建て方へ備えます。
入職当初から、建て方=“お祭り”のような感覚があります。打ち合わせから生産までの数日から数週間が終わり、前夜祭のような高揚感に包まれます。建て方当日には運送屋さん、大工さん、工務店さん、クレーンオペレーターさんと一緒になりひとつの目標=“上棟”へ向けて一つのチームとなって造り上げていきます。運送屋さんが現場へ運んで下さった木造大型パネルはパネル生産スタッフにより玉掛をされて空高く舞い上がります。そのパネルを大工さんたちと地上で眺める光景、大工さんたちがパネルへ手を差し出している光景はなんだか嬉しくなります。なぜ嬉しくなるのか?大工さんへ襷リレーされる瞬間だからなのかもしれません。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
木造大型パネルの生産前の確認のミーティングから納品までの工程の説明とそのときどのように感じておられるかを語っていただきました。上棟の光景が目に浮かぶようです。パネルの生産が始まると、木材1丁1丁と丁寧に触れ合います。無垢材でしか味わえない贅沢な時間とのことで、この仕事に携わる方だけが味わえる至福のときなのでしょう。ひたすらに手打ちをする行為も“ランナーズハイ”に近いものではと思います。木材もそれぞれに個性があるでしょうから、丁寧に精度の高い加工を行っても、生産者の人間性が垣間見えるというのも面白いです。木も真摯に関わっている人たちの期待に応えて喜んでいることでしょう。
建築、アーキテクチュアのテクチュアには、技術や芸術の意味もあります。その時代の文化や歴史も背負いながら機能性を高め、住む人に大きな価値をもたらします。サッシから眺める内側からの景色も格別なものと思います。