□ 椎野潤ブログ(大隅研究会第17回) 木材運送業の林道整備効果
おおすみ100年の森 副会長 岡本孝志
おおすみ100年の森(有限会社おおのがら林業)の岡本と申します。私の住んでいる所は、窓開けても隣の屋根は全く見えず、清涼な川と山が広がり川を流れる水の音と小鳥のさえずりが聞こえるだけの広大な山麓の一角にあります。
最近、近くの山を買うことがあり改めて気づかされたことがあります。殆ど80歳越えのおじいちゃんおばあちゃん10人がそれぞれに持つまとまった山ですが、地積がとれておらずフリーハンドで描いたような市役所の字図を頼りに境界を見つけに山へ入ったのですが、全く図面では判断できませんでした。どうにかしなければと、足が悪く山に入れない皆さんにヒヤリングをしてやっと独自の境界図を作る事が出来ました。幸いにも憶測に反し、皆さんの記憶は明快で話の通りに描いたら境界点もわかり図面をおこすことができました。その図面を頼りに検証してみると、一人の方の山は市役所の図面だと1900平方メートルで登録してあったのですが、実情は倍の4000平方メートル位の広さがあり驚いた次第です。結果殆どが山の形状も含め違いすぎている事実が判明しました。思うことはこの高齢の皆様が聡明な内に地積図を作り上げて欲しいものだと言うことです。
*浮かんだ疑問
行政統計で発表している山林面積は合っているのだろうか?
杉林としてあるが、手が入らず雑、竹が侵入している山林も多く見受けられるが、
発表されている杉檜の在庫量は確かなのか?
地権者の存在、地積の未実施で伐採できる森林は現実どれほどあるのだろうか?
以上を考えると、山林面積はあっても伐採できる山はどれほどなのだろうか?
と思いを馳せつつ、答えも出ないまま山に携わる毎日です。
話は変わりますが、私の本職は別に運送業もあり、木材を中心にあらゆるものの流通にかかわっているのですが、昨今2024年問題に直面しながら対応の難しい経営に携わっています。皆さんもご周知の木材価格の低迷が悪さし、正当な価格への運賃値上げは交渉難航状態です。そこで自社がここ数年取り組んでいる対策は、セミトレーラーを増車し、トレーラーシャーシを各現場に置き、荷物が満車になったら空いているヘッドでタイミングよくシャーシを引いてお客様等に届けるというシステムを作りました。このシステムで効率化を図り人手を減らしながら一回輸送量を増やしています。最近ではグラップル付きフルトレーラーで往復するのが主流でしたが、グラップルも要らない事から約1千万円程の車両購入時のコスト削減にも繋がっています。逆にコストが増えてきた事として、伐採現場から集積場までの林道輸送距離が長くなり、小型車での中継コストが加算できている事が悩ましいところです。特に国有林のシステム等受託事業は、年を追うごとに奥まってきている気がします。私がトラックのハンドルを握る若いころは、国有林林道には2人ぐらいの道路整備員さんがいらっしゃって一日中毎日細かい整備をして下さっていたので、砂利道も舗装道路のように走り抜けていたものです。しかしながら最近の林道は、牙を向けたような岩がむき出し状態で、よくパンクはするしスピードを出せないのでかなりのコスト増になっています。
今一番思うことは、街づくりでも道路づくりは大切な要因ですし、山の保全を含めた活性化のためにも林道整備は大切な事業であり、もっと力を入れられないものかと望んでおります。その整備された林道を利用して、山の地権者の方々も身内の方と日常気軽に山に入れるし、山は所有してないけど山が好きな方とか、単に山の空気を吸いたい、山でお弁当食べたいと思うような方々が気兼ねなく入れるくらいに沢山の方々に親しんで頂けたら、山の存在価値は今とは違う素敵なものになるだろうと思う次第です。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
本当に伐採できる森林は実際どれほどあるのだろうかとの岡本さんの素朴で深刻な問いかけです。従来の紙ベースの情報に対して、最近のリモートセンシングやデジタル技術を駆使して、森林資源調査も省力で精度が高い結果が得られるようになりました。余談ですが、明治になって測量した三角点の座標に対して、それはそれで高い精度ですが、人工衛星によるより高精度の測量が可能になると、旧座標に対して測定値をすり寄せる工夫をしていました。しかし、今は再測量で精度を高めているようです。地積図も人の記憶と最新の技術で正確なものにしていかなければならないと思いますが、書き換えプロセスのルールなりガイドラインが必要ではと思います。
木は伐採されると必ずトラックに乗せられます。それも一度ではなく、加工されるたびにトラックに乗せられます。林業、木材供給産業は輸送業とも言えます。山側の情報と届け先の双方の情報を把握している運送会社は、林業の頭脳中枢でもあります。大型車で効率よく輸送するためには、林道とターミナルとなる土場の配置がこれから重要です。
地球温暖化で下草やつる植物の繁茂が旺盛になり、道路周辺では道幅がせばめられ、視距の確保も容易ではなくなってきました。のり面からの落石が草に隠れていたりする場合もあります。かつては村人総出で、道路沿いの草を刈ったりしていましたが、いまは人がいません。道路のメンテナンス費用の捻出が課題です。スロベニアでは、林道を多目的に利用することによって税金を活用しています。木材生産の利益だけでは林道を維持することができません。道路の通行規制などは住民と森林管理署などが協力しあっています。森林を磨いて、森林に人々が親しむためには、林道を整備して、山に血を通わすことが必要です。