□ 椎野潤ブログ(塾頭 本郷浩二 年頭所感)
私が森林・林業関係の仕事をし始めて42年になりますが、この間、今ほど、日本の産業界・経済界が森林の整備・保全や木材の利用に関心を高めたことはなかったように思います。
その42年の間には、リゾート開発の波でゴルフ場やスキー場、別荘への森林の開発に一斉に目が向けられたことはありましたが、それは、一方では森林を損ないかねない動きでした。また、企業のCSR活動として森林整備を実施することもありましたが、バブル崩壊後の長年の不況の間も継続的に一定規模で取り組まれてきた企業は多くはありません。
しかし、今は、SDGsやESG投資の考え方の国際的な普及により、グローバル経済下で、企業が資金調達や取引を維持・拡大したり企業価値を高めていくには、気候変動についての適応・緩和や生物多様性の保全などをはじめ未来への地球環境保全を企業活動の中で実行、実現することが至上命題となっているようです。特に企業の事業活動の中での二酸化炭素排出削減が高いハードルとなっているために、森林の二酸化炭素吸収、木材の二酸化炭素貯蔵の効果が着目され、森林の整備・保全や木材の利用を積極的に進めることに関心が高まっており、資金や人材を投入してきているのです。
この資金や人材をしっかりと森林や木材の価値を高めることにつなげるためには、森林・林業部門も木材産業部門も、二酸化炭素の吸収促進・排出削減だけでなく、生物多様性の保全をはじめ未来への環境保全にきちんと取り組んでいく必要があります。
具体的には、違法伐採を排除すること、合法性が確認されない木材は使わないこと、事業活動の環境負荷をできるだけ少なくすること、従業員の安全・厚生をしっかり守ることといったことを徹底することは勿論です。悩みは、儲かっていない大部分の林業・木材産業部門が、森林から木材が生産・利用・廃棄されるまでの過程での取組をサプライチェーンにおいて上記のような企業に証明することが求められることに対応しなければならないことですが、この証明に係るコストも価格に転嫁して取引できるところまで産業界・経済界の理解を得ていく努力も払っていきましょう。
今年4月には改正クリーンウッド法が施行されます。また、温室効果ガスの排出削減に関して企業に義務付けられたSHK(算定・報告・公表)制度について、林野庁は木材利用への適用について検討していますし、国土交通省も木材利用の温室効果ガス排出の原単位データを収集し、建築におけるライフサイクルカーボンの削減効果を明確にしようとしています。木造、木材利用を巡る追い風に帆を張る動きだと思います。
これらの社会の動きを自分事にして、皆様の日々の活動を自らできることから進めていきましょう。