□ 椎野潤ブログ(伊佐研究会第18回) 日本人らしく木を使うことを考える
竹中工務店の大工道具館を訪問したことがある方は多いと思います。風景に調和する意匠造形の建築物、また木材の表現美しさは素晴らしく、学ぶべきところが多くあります。そしてやはりこの大工道具館の見どころは大工道具の展示で、その種類の多さに驚かされます。基本的にこれらの道具は木材を加工するためのもので、いかに様々な木材加工が日本の歴史上で行われてきたかが知らされます。優美な華やかな装飾から、繊細で細やかなもの、曲面の美しい丸み、波形の模様、まっすぐに長くおおらかなものなど、誠に様々です。ヨーロッパ全体でも100種もないと言われる高木樹種が、日本では600種類以上あると聞いたことがありますが、その樹種の多さはその原因でしょう。そして古くから国内に広く杉や檜などの比較的に柔らかい木が多く生息しているということも木材加工をさらに幅広くさせたことにつながったことでしょう。古事記や日本書紀にも登場する杉や檜、そのような木材が身近にあったことから、障子のような繊細な井桁格子の建具が生まれ、日本人の空間における光の在り方の価値観につながったり、また細やかな加工表現が身近にあることで、手先が器用な特性が濃くなったりしたのではないかと想像します。日本人に根付いた生活感、価値観、また習性など、まさに日本の文化は、加工しやすい柔らかい木が多いことから成り立ったもののような気がしてなりません。日本の美しい文化の根本を忘れないためにも、木材を身近に感じる空間づくりがますます必要です。
木の良さや価値を再発見させる製品や取り組みを評価し表彰するウッドデザイン賞が創設されて今年で10周年ということですが、受賞作品をみると、この10年で美しい木の表現がとても洗練されてきているように思います。建築物に関しては顕著で特に大規模な非住宅分野では目を見張る変化を感じます。これは防火や耐火の観点から、国内で木材を敬遠され、大規模建築でなかなか木材を使われず木を活用するデザインが成長しづらかったことがようやく少し見直され、技術の進歩や政策変革などで木材が使われやすい環境になり急成長してきたものでしょう。木質化された空間が人体に与える良い効能なども多く認められてきておりますが、人々が暮らしの中で直接触れることが出来る場が増え、それが魅力ある見え方ということは喜ばしいことです。ただ暮らしの中心である住宅は大壁工法が中心となり、柱梁などが壁に隠れてしまうことがほとんどです。日本の家づくりを追求する当社として、木質化は勿論ですが、真壁工法で構造美を表す住宅が多く増えることにも挑戦していきたいと思います。日本の社会課題として木材を多く使わないといけない時代ではありますが、やはりただ量を多く使うのではなく、美しく使うことが文化につながります。大事に育てられた美しい木は、やはり目に触れるところで美しく活用していきたいものです。外国産材の木材が、価格高騰や諸国での政策などで日本に入りにくくなってきている現在、育ったが伐られず大径化した杉などの活用も含め、国内の木材を有効に活用していきたいものです。
国土交通省のはたらきなど、最近では住宅の資産価値を上げていく動きが進んでいます。竣工時の品質だけではなく、品質が長続きする長寿命化などの重要性が高まってきております。勿論とても大事なことです。そしてやはりここでも美しさ、見た目の良さなども重要になります。施主が長く住み続ける家、人々に長く愛される公的空間などはやはり数値的な性能とともに、情緒、美しさが重要です。木の豊かな恩恵から文化をつくってきた我が国日本、資源量や使用量などの数量的、文明的な価値観でのみ木材活用をすすめるのではなく、次世代にも先代にも誇れる文化的な木材の使い方の上で、さらに木材活用が広まっていくことをねがいます。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
JR新神戸駅に近い竹中工務店の大工道具館に私も訪れたことがあります。大工道具の歩みのみならず、規矩術や棟梁の役割、名工の系譜なども学ぶことができます。私たちの祖先は、飛鳥、白鳳、天平の時代から木とともに生きてきて、木の個性を活かしながら合理的に上手に利用することで、洗練された美にもつながっていきました。
真壁工法で構造美を表す住宅を増やすことにも挑戦していきたいとのことですが、日本の森林はようやくここまで育ってきました。あらためて木材を有効に活用することができるスタートラインに立ったといえます。
秋田県能代市に旧料亭金勇があります。料亭ですので、長年にわたって鍋料理の湯気や多くの酔客のたばこの煙にさらされてきましたが、それはそれで風格となり、これが木材の力だと言わんばかりに建物全体が私たちを包み込んでくれています。
修理したりしながら、人から人へと伝わっていく歴史的文化財を「伝世古」といいますが、長く使われ愛される住宅が結局低コストです。次世代にも長く住んでいただけるような木造建築物が伝世古として社会に浸透していくようになればと思います。