□ 椎野潤ブログ(大隅研究会第25回) 真樹フォレストが目指す持続可能な森林経営と森の価値創造について
真樹フォレスト 佐賀里政則
1.はじめに
私は、長崎に拠点を持つ「ひぐちグループ」の林業部門である真樹フォレスト株式会社の佐賀里(さがり)と申します。この度、森田様(NPO法人おおすみ百年の森)とのご縁をいただき、弊社の取り組みをご紹介させていただきます。
今回は、長年培ってきた高品質な木材生産の基盤と、市場の変化に対応するための森林経営の転換、そして森が持つ新たな価値創造への取り組みをご紹介させていただきます。
2.創業の精神と一貫した高品質な山づくり
私共は1968年に長崎市の西彼杵半島を中心に植林事業を開始し、現在長崎県と熊本県に約400haの山林を所有しています。樹種はヒノキ主体の山林で、創業当初より「4面無節の役物材」(最高級の化粧材)が取れる山づくりを目指して、一貫した施業を行ってきました。特に、木材の節の原因となる枝を極力残さないよう、枝打ち作業を徹底し、育林体系は5年生から始めて17年生くらいまで4回〜5回実施しています。この徹底した品質管理こそが、真樹フォレストの特徴です。
3.経営課題の克服と「真樹ブランド」の確立
課題:市場環境の変化とデータ不備
森林事業をスタートした時点では採算が取れる目論見をしておりましたが、50年という時間の経過の中で市場環境が大きく変化し、木材生産だけでは経営が成り立たなくなる状況に直面しました。2003年に林業会社を設立し、生産計画を作成し販売を開始したものの、数年後には計画通りの生産ができないという課題に直面しました。その要因は、ベースとなる標準地のデータが現況との誤差が大きく、生産計画に活用できなかったためです。
転換点:「全立木調査」に基づく長期計画
真樹の木材が信頼を得るためには、高品質な木材を安定的かつ継続的に供給することが不可欠であると考え、私たちは一旦生産計画を白紙に戻し、そして、全立木調査を全山で実施し、木一本一本の形質、径級(木の太さの等級)、樹高に分けて詳細にデータ化しました。このデータに基づく長期生産計画の再構築により、現在は「真樹ブランド」としてお客様に安定供給し、評価をいただき認知していただけるようになりました。
4.ビジネスモデルの転換と新たな挑戦
私たちは、持続的な経営を目指し、木材生産事業中心から、「森林が持つ資源をいかに生み出し、森の価値を見つけ、商品化するか」という視点へと方針を転換しました。木材生産事業をベースとしつつ、現在は以下の新たな取り組みにチャレンジしています。
・林間栽培: 林間空間を活用したハランなど、林産物の生産
・Jクレジットの取組み: 森林によるCO2吸収量を環境的価値とし て数値化し、社会に提供するカーボンオフセット事業
・森林管理受託事業: 弊社が長年培ってきた森林管理技術・人的資源を活用した、森林技術の提供
事業環境は時間と共に常に変化するという前提に立ち、これらの多様な「種」を探し、育てることに粘り強くチャレンジし続けています。
5,私たちのビジョン:100年、200年先の森づくり
私たちは、数多くの失敗を経験して現在に至っておりますが、今の取り組みを通じて、「森林の経営が成り立つビジネスの形」を構築することを目指します。そして、ここで働く人たちが魅力ある人生設計をできるようにし、社会に必要とされる森の価値を高め、100年、200年と続く森づくりを実現したいと考えています。
弊社の持続可能な挑戦が、森林に関わる方々の一助となり、皆様とのご縁を通じて共に未来を創れることを願っております。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
森林の経営が成り立つビジネスの形
真樹フォレストを知ったのはいつ、何がきっかけだったでしょう。林野庁に在職中だったか退職してからだったかも覚えておりませんが、一度お伺いしてみたいと思ったことは覚えております。今回、枝打ちによる無節の柱材生産の森林経営をやっている、という情報に接したことだったのだと思い返しました。
1968年に植林事業を始める前の経営森林のもともとの状況はどんなだったのでしょう。植えるところから始めるというのは、これまでもお話してきましたが、収入を得られるまでに時間が必要で、育林の投資だけが出ていくという苦しい経営ではなかったかと拝察いたします。その費用をどうやって賄われたのか、ということもいずれ教えてください。
当時、農林漁業金融公庫の資金を借りて造林された方もいらっしゃいました。たしか15年据置の35年償還のように長期、そして当時としては低利の融資だったと思いますが、それでも植林木からの収入では返すことができず、多くの方が倒産、廃業などの憂き目に遭われてきました。この融資は間伐の小径木を売って返済のための収入にできるというビジネスモデルが前提だったのですが、その収入が全く、あるいはほとんど得られないという木材需要の変化が起こって、前提となる返済計画が崩れてしまったのが大きな理由です。
無節の柱材は、長崎では地味の良いところでスギで35年、ヒノキでも40年すれば、間伐材でひと玉の生産はできてきたのではないかと想像しますが、現況と標準値データに乖離があったというのは、経営する森林の中で地味の良いところから悪いところまで幅広くあったということでしょうか?そのうえで全木のデータを調査したということには敬意を表します。昔から続く篤林家にはそのようなデータを把握されている方もいらっしゃいますが、一どきの集中的なデータの収集はなかなかできることではありません。幹の曲がりや細りなどを把握するのに、枝打ちをきちんとやっていた林は条件が良かったということもあったと思います。それによって、現況に合った生産計画ができるようになって、収入を安定させることができたのは素晴らしいことです。他所でもぜひ、蓄積や成長量だけを把握するのではなくて、どんな材がどれくらい出せるのか、どこにどんな材(木)があるのかといったデータ整備をしてほしいと思います。ドローンなどの飛び道具を使ったりして簡便にできるように早くなってくれると皆が取り組めるようになると思います。
バブル経済崩壊後は、四面無節の役物を高値で買い求めるような需要が急減したのではないかと思います。それでも一般材よりは高い値が付いたとは思いますが、植えて手入れにかかった投資を回収していくのは難しくなっていたでしょう。
今、植え始めてから60年が経とうとしており、立派な木々が育っているのだと思います。これまでの投資のことは置いておけるなら置いておいて、その幹の中に作り込まれた履歴を活かして、どんな木材を生産し、どうやって毎年の支出と再投資に必要な収入を得続けられるかを考えなければなりません。これまでの投資を回収しなければならないのなら、その分をさらに上乗せして収入をあげ続けられるかを考えなければならないということだと思います。
400haの森林のすべてが植栽された森林ではないのでしょうから、一般的な木材生産をする人工林経営では、毎年の支出に見合うだけの収入をあげ続けるには、広さが不足しているように思います。そうすると、面積当たりの収入を大きくしなければならないと思います。生産するものが無節・通直な高品質材であり、そのような木材の供給が乏しくなっている現在、希少価値は高いので拠り所にはなるのですが、需要の量の確保が課題かもしれませんし、これからも幹は太っていきますので、柱材以外の販路を開拓する必要があるものと思います。
また、既に経営方針を転換されているということで、それ以外の収入の途として、林間栽培、Jクレジット、森林管理経営受託を挙げられています。順調にいっているでしょうか。
林間栽培は地域の需要に合ったものとしてハランを選ばれたのだと思います。品目はどこでも万能というわけにはいきません。所によってはサカキやシキミといった枝ものも有望だと思います。林間栽培は林間の明るさのコントロールが必要なので、密な手入れをやられている真樹フォレストならではの取組なのだと思います。
Jクレジットは、まだ若い林を登録すれば、かなりの収入を上乗せできると思いますが、案件創出のコストとクレジットを買ってくれる相手が見つからないというリスク要因もあります。クレジットを買ってもらって初めて収入になるのです。良い手入れ、単木のデータ整備ができているという有利な条件ですから、相対取引で買い手を見つけるという努力がより高いクレジット価格につながる可能性も高いです。
森林管理経営受託は、木材生産を抑えた分で余裕が出た人材の稼ぎ先なのでしょうか?地域の森林管理の向上にも直につながるので、ぜひ、進めてほしいと思います。そのために、これまで以上に人材育成が必要になることと思います。私は、二十年来、森林経営にコンサルタントが必要だと思ってきました。なかなか、リターンが難しくてわずかな定着例しかありませんが、そのような仕事も本業の一つにしてほしいと思います。
真樹フォレストは、これまでのご努力により、しっかりした資源、データ、機材、人材といった経営基盤をお持ちで、これらの価値創造に舵を切られたのだと思います。目標とされている森の価値を高めて100年、200年続く森づくりを目指す経営とは、100年、200年に向けて、その経営基盤を活かして毎年収入を得て、毎年の支出と再投資を賄い、森の価値を高めていくということです。
森の価値と言っても絶対的、恒常的なものでなく、この先の社会のありようが価値を決めていく、変えていくものと思わざるを得ません。ご指摘の通りです。その変化に柔軟に対応できる経営を目指されていることを頼もしく思います。
これまでのご努力を踏まえて、さらなる精進を期待してやみません。
今年も終わろうとしています。皆様にはたいへんお世話になりました。木材需要の面では厳しい一年でしたが、万博では木材利用の意識が広がっていました。これは現代の世界の潮流でしょう。再生産する資源とリサイクルする資源の利用が重要となる循環経済がトレンドになっていくでしょう。そして、カーボンネットゼロからネイチャーポジティブと言われる生態環境向上ということへ注目が高まっていくのを感じた一年でもありました。その中で今一度、森林経営がこの社会で重要な役割を果たせるよう皆様と考えて、動いていきたいと思います。
最後に、先週、椎野先生からお電話をいただきました。改めて、文月様から告知があろうかと思いますが、今年いっぱいで、椎野ブログへの発信は終わりにしたいというお話があり、今回のコメントの隅に書いておいてくれという依頼を受けました。来年、90歳になられるということで、後は私たち塾生に任せるとおっしゃっておられましたが、まだまだお元気そうな声でしたので、時に寄せて、お導きの発信をくださいますようお願いしておきました。これまで、先生のご薫陶をいただくことができたことに心から感謝申し上げます。

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