ネイチャーポジティブとは?

ネイチャーポジティブ(Nature Positive)とは、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」を目標とすることばです。日本語では、「自然再興」と訳されています。

私たち人類の生活は自然の恵みがなくては成り立ちませんが、その自然の恵みは生物多様性が支えています。しかし生物多様性の損失傾向は地球規模で危機的な状況にあり、私たちはこれまでの産業や暮らしのありかたを変えてゆく必要があるのです。

ここでは、このような考え方が生まれた背景と、私たちが直面している生物多様性の危機、そして取り組むべきことを考えていきます。

Nature Positive by 2030

「2020年を基準として、2030年までに自然の損失を食い止め、反転させる」
2050年ビジョンの達成に向けた短期目標です

直面する生物多様性の危機

現代は(生物の)「第6の大量絶滅期」と言われています。前回の大量絶滅期は、よく知られる白亜紀(約6600万年前)の恐竜絶滅ですが、過去5回発生したどの大絶滅よりも、近年の種が絶滅するスピードは速く、主な原因は人間の活動によるものと考えられています。

2023年12月に国際自然保護連合(IUCN)が公表した「レッドリスト」(野生生物の絶滅危惧種リスト)の最新版では、「絶滅の危機が高い」とされる種数が、前年より約2,000種増加し、44,016種にのぼることが明らかになりました。

1500年以降の脊椎動物の絶滅(絶滅した種の累積割合(%))

1500年以降の絶滅

2019年に公表された「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」によると、世界の陸地の約75%は著しく改変され、人類史上かつてない速度で地球全体の自然が変化していると報告されています。さらに、人間の活動の影響により、過去50年間の地球上の種の絶滅は、過去1,000万年平均の少なくとも数十倍、あるいは数百倍の速度で進んでおり、適切な対策をとらなければ、この流れはさらに加速すると指摘されました。

生物多様性の損失(崩壊)は、普段の暮らしの中ではなかなか実感しにくいですが、世界的な脅威として認識されており、新型コロナウイルス感染症、不況、気候変動を超える第四の大波として、各国で危機感が高まっています。

「4 Waves」biodiversity collapse – mackaycartoons

生物多様性の国際的な取り組み

生物多様性と気候変動への世界的な取り組みは、1992年のリオサミットに合わせて採択され、「双子の条約」とも呼ばれる「生物多様性条約」と「国連気候変動枠組条約」のもとで進められてきました。

近年では、この二つの課題を統合的に解決することが求められ、気候変動と生物多様性の同時解決を進める取り組みも始まっています。

例えば、カーボンニュートラルの実現に向けた、森林やマングローブ、海草藻場を守ること。これは大気中のCO2を減らすだけでなく、気候変動による土砂崩れや高波などの自然災害の影響を弱めることにもつながると言われています。

このように、気候変動への適切な対策を取ることで、生態系の再生が促される事例もあり、両方の問題に同時に取り組んでいくことで、好循環を生み出していくことが期待されます。

2050年には「自然と共生する世界」へ 
~昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の概要

2022年、生物多様性条約COP15において、2050年に「自然と共生する世界」を実現する、世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。このなかで、ネイチャーボジティブは2030年の具体的なミッションとして掲げられています。

昆明・モントリオール生物多様性枠組の構造

昆明・モントリオール生物多様性枠組の構造

上図にあるように、2030年までに生態系の回復を目指すネイチャーポジティブ」のミッションでは、世界全体で今すぐに取るべき行動として、3つのグループに分類された23のグローバルターゲットが定められました。

このなかで、森林に関連するターゲットは下記などが挙げられます。

昆明・モントリオール生物多様性枠組のうち森林に関連するターゲット(2・3・10・15)

ネイチャーポジティブに関する国内の取り組み

30by30目標と“自然共生サイト”

「30by30目標(サーティ・バイ・サーティ目標)」は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の2030年グローバルターゲット(世界短期目標)の一つであり、「2030年までに、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標」です。

日本では、この新しい枠組を踏まえて、2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」を策定しました。2030年までのネイチャーポジティブの実現に向けた目標の一つとして、日本は、2023年1月時点で、陸域20.5%、海域13.3%を保護地域として保全しています。

これを30%にするという目標への達成に向けては、国立公園など公共の保護地域だけでなく、民間の取り組み等によって保全する区域「自然共生サイト」を広げていくことが不可欠であるとされました。

30 by 30サイト/自然共生サイト(環境省)

30by30 (環境省ウェブサイト)

自然共生サイト」とは、里地里山や企業林、社寺林などのように、民間(地域、企業、団体)の取り組み等によって生物多様性の保全に貢献する管理がなされている区域です。OECM(Other Effective area-based Conservation Measures)として国が認定して国際データベースに登録し、その保全を推進していきます。

令和5〜6年度に「自然共生サイト」に認定されたのは328か所、その合計面積は計9.3万haになります。令和5年度に認定されたサイトの6割以上に「企業の森」や「水源の森」などの森林が含まれており、陸域の合計割合は、20.8%と算出されました。

令和7年度からは、地域生物多様性増進法に基づいて認定された「実施計画」の区域も、自然共生サイトの仲間となり、より幅広い取り組みが進められます。

OECM国際データベースサイト

OECM国際データベースサイト

自然共生サイトのうち、保護地域との重複を除いた区域4.8万ha(159ヶ所)が、2024年8月に初めてOECMとして国際データベースに登録されました。

みなさんの地域の森や、地元企業が取り組む森も登録されているかもしれませんね。

日本の森林の生物多様性に関する取り組み

日本は国土の約3分の2が森林で覆われており、世界的にも森林が多い国のひとつです。森林そのものが生態系ネットワークの根幹として生物多様性を支えています。

保護林・緑の回廊(東北森林管理局)

保護林・緑の回廊(黄色)

林野庁では、針広混交林や、長伐期の森林を増やすなど、豊かな森林づくりを推進してきました。国有林では、「保護林」や、それらをつなぐ「緑の回廊」を設定し、生物多様性の保全に取り組んでいます。

治山事業においては、例えば津波・風害の防備のため海岸防災林等を整備。さらに、在来種による緑化や生物の移動にも配慮した治山ダムの設置・改良などの取り組みを進めています。

「生物多様性国家戦略2023-2030」では、自然環境を社会・経済・暮らし・文化の基盤として再認識し、「自然を活用した解決策(NbS)」を進める重要性が示されました。「Eco-DRR(生態系を活用した防災・減災)」や、自然環境がもつ機能を課題解決に活用しようとする「グリーンインフラ」を推進する計画が策定されています。

2024年3月には、これまで明確化されてこなかった、「森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針」が策定されました。林業の生産活動そのものが生態系サービスに貢献し、民間企業との連携が新たな収益機会となりうることが強調され、同年9月に、全国25の優良事例集も公表されています。

その他、民間企業においても、2023年9月の「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の提言などにより、より広範囲・正確に、企業活動における自然資本や生物多様性に関する情報開示を求める動きが広がっています。

ネイチャーポジティブ宣言

環境省が事務局を務める「2030生物多様性枠組実現日本会議」(J-GBF)は、ネイチャーポジティブの実現に向けた第一歩として、「ネイチャーポジティブ宣言」を表明してもらうよう呼びかけています。2025年2月時点の延べ参加企業・団体数は、675団体にもなりました。

ネイチャーポジティブ宣言を行っている企業や地方公共団体が主催する関連イベントも、各地で開催されています。他団体や企業の活動を知ることで新しい協力のかたちが見つかるかもしれません。

J-GBF ネイチャーポジティブ宣言ポータルサイト

J-GBF ネイチャーポジティブ宣言ポータルサイト

そして、私たち一人ひとりがネイチャーポジティブにつながる消費行動や活動の選択を心がけることが、持続可能な経済社会の実現に一歩近づくことになるのです。

もっと知りたい方のために

※令和7年度以降は、場所ではなく活動(及び活動計画)を認定する制度へ変わります。
(生物多様性増進活動促進法(令和7年4月施行))参考資料(PDF) リリース

(森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針と事例集の掲載ページ)

(2025年3月27日時点 参加企業・団体数:699団体)

参照サイト

ツールもご活用ください

(PDFは自由にダウンロードして、イベント、パンフレットやウェブ等で活用していただけます。)

豊かな森林の役割