気候変動の現状と危機

近年、世界各地で強い台風や暴風雨、集中豪雨、多雨などが起きるとともに、熱波や干ばつ、森林火災といった「気象災害」が頻発するようになってきています。また、数カ月間続く干ばつや、極端な冷夏、暖冬なども含む「異常気象」が増加していることもご存知でしょうか。

森林火災
気象庁:世界の年ごとの異常気象(2020年〜2024年)
世界の異常気象(高温・低温・多雨・小雨・気象災害)

世界の主な異常気象・気象災害(2020年〜2024年)

気候変動・地球温暖化とは?

気候変動とは、気温や気象パターンの長期的な変化のことをいいます。気候変動には、地球の自然がもともともっている気候システムがゆらいで起きるもの(エルニーニョ現象など)と、人間の活動が原因となって起きているものがあります。

今問題になっているのは、人間の活動によるもので、主にわたしたちの暮らしを支える経済活動から排出される温室効果ガスが引き起こしている地球温暖化です。私たちの経済活動によって、二酸化炭素やメタンガスが大気中に大量に排出され、大気が温室のガラスのような役割をしてしまうことで、地球の気温が高まってきているのです。

これが今、人類にとって大変深刻な問題となった「人間の活動による地球温暖化」とそれに伴う「気候変動」です。

急激に上昇している平均気温

IPCC第6次評価報告書(2021)によると、2011~2020年の世界平均気温は、工業化前と比べて1.09℃上昇しています。さらに、陸域の気温は、海面付近よりも1.4~1.7倍の速度で上昇し、北極圏では世界平均の約2倍の速さで上昇すると報告されています。

過去30年間の各10年間における世界平均気温は、1850年以降のいずれの10年間よりも高くなっています。

上昇し続ける世界の年平均気温(近代以前の年平均気温の変動幅は、安定していたが、 現代の年平均気温は、短期間に急激に上昇している。)

上昇し続ける世界の年平均気温

気候変動は、2019年頃から、「気候危機」とも呼ばれるようになり、2023年には「地球沸騰化の時代が到来した」と表現されるほど深刻な問題となっています。

気象庁によると、2024年の日本の平均気温の基準値(1991~2020年の30年平均値)からの偏差は+1.48℃で、1898年の統計開始以降、2023年を上回り最も高い値となりました。日本の年平均気温は、様々な変動を繰り返しながら上昇しており、長期的には100年あたり1.40℃の割合で上昇しています。特に1990年代以降、高温となる年が特に多くなっています。

気候変動による大雨等の増加・山地災害の激甚化

日本国内では、短時間強雨の発生頻度が増加しており、線状降水帯の発生などによる総降水量の増加が土砂災害を深刻化させています。

土砂災害発生件数の推移(昭和57年〜令和6年)

約50年間にわたる治山対策と森林整備により、山地災害の発生が大幅に減少した一方で、全国的に山地災害の1箇所当たりの規模は増大傾向にあるなど、近年の気候変動に伴う大雨の激化・頻発化により、山地災害が激甚化しています。

近年の気候変動の影響を受けた山地災害の特徴

  1. 表層よりもやや深い層からの崩壊の発生
  2. 渓流の縦横侵食量の増加
  3. 線状降水帯の発生等による山地災害の同時多発化
  4. 洪水被害・流木災害の激甚化
気候変動の影響を受けた山地災害の特徴(表層よりもやや深い層からの崩壊)

表層よりもやや深い層からの崩壊

令和2年7月豪雨での崩壊(熊本県津奈木町)

気候変動の影響を受けた山地災害の特徴(流木災害の激甚化)

洪水被害・流木災害の激甚化

平成29年7月九州北部豪雨(福岡県朝倉市)

気候変動を和らげる森林のしくみ 

森林は、二酸化炭素を吸収してくれる大切な資源です。また生物多様性を育み、私たちが生きる環境を守る機能があり、自然の豊かさの象徴でもあります。そのため、木を伐ることに抵抗感を感じる人もいるかもしれません。しかし、木を伐って、より多くの木材が暮らしの中で利用されることで、樹木が大気から吸収した炭素を確実に人間社会の中で蓄積することができます。

また、森の木を伐って木材にしたら、新しく植林して森林を育てることも、大気中の二酸化炭素を吸収して炭素を固定することにつながります。この伐って使って植えるという流れの中で炭素は循環し、それぞれの段階で炭素が蓄積されていることになります。

樹木や森林土壌と温室効果ガス(樹木は、呼吸で酸素を吸い、二酸化炭素を排出するが、光合成でより以上の二酸化炭素を吸収している。)

樹木や森林土壌と温室効果ガス

炭素吸収能力が落ちないうちに、持続的、循環的に利用と再造林を行うことが重要「1年当たりの森林(幹・枝葉・根)による平均的な炭素吸収量」20年生前後〜80年生前後

1年当たりの森林(幹・枝葉・根)による平均的な炭素吸収量

日本の森林率は約7割で、森林の量は少しずつ増え続けています。その活力を保ちつつ、さらに伐って使って植えることで、カーボンニュートラルの実現や、気候変動の緩和へとつなげることができます。

森林の循環と木のある暮らし

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2023年3月に公表した「第6次評価報告書統合報告書」では、この10年間に行う選択や実施する対策が、現在から数千年先まで影響を持つと強調されています。

森林・林業関連については、森林経営の向上などの森林を活用した対策が、気候変化の進行を遅らせる「緩和策」と、気候変化が起きた時の災害などに備えておくという「適応策」の両面で有益であることが示されています。また、持続可能な形で調達された木材製品などを、他の温室効果ガス排出量の多い製品の代わりに使用できることなどが紹介されています。

緩和策として、温室効果ガスの排出を抑えるのと同時に、森林による二酸化炭素の吸収・蓄積量を維持し続けることが不可欠なのです。

しかし、近年のデータを見ると、2022年度の森林等からの吸収量は約5,020万トンで、2021年度比6.4%の減少となっています(2024年発表)。この吸収量の減少については、人工林の高齢化による成長の鈍化等が主な要因と考えられています。

利用期を迎えた人工林については「伐って、使って、植えて、育てる」ことにより、森林資源の循環利用と、若い森林の造成を進めていくことが重要となっています。

森の資源の循環利用(植える、育てる、伐る、使う)

気候変動に関する世界と日本の動き

1992年に「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」が採択され、1995年以降、ほぼ毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催されています。

1997年のCOP3で「京都議定書」が採択され、先進国に温室効果ガス削減義務が課されましたが、延長された第二約束期間(2013~2020年)は、参加国からの十分な批准を得られなかったため、実効性に欠ける結果となりました。

2015年のCOP21で採択された「パリ協定」は、2020年以降の枠組みで、先進国・途上国を問わず、全ての締約国が温室効果ガス削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として、5年ごとに提出・更新することが求められています。目標の達成は法的義務ではなく、各国の自主的な取り組みに委ねられています。世界の平均気温の上昇を「産業革命前と比べて1.5℃に抑える」ことは、パリ協定で努力目標として掲げられ、2021年のCOP26で事実上の目標とする決意が示されました。

2015年のCOP21で採択された「パリ協定」の写真

COP21において採択された「パリ協定」

日本の温室効果ガス削減目標

日本は令和3(2021)年10月の閣議決定で「地球温暖化対策計画」を改定し、2030年度までに2013年度比で温室効果ガスを46%削減し、50%の高みを目指すとの目標を「国が決定する貢献(NDC)」として国連に提出しました。

森林吸収量についても、2030年度の新たな森林吸収量目標約3,800万CO2トンとして計上され、従来の約2.0%から約2.7%に引き上げられており、2050年カーボンニュートラルの実現に必要な吸収源対策として位置付けられています。

2030年度までに2013年度比で温室効果ガスを46%削減し、森林吸収量+伐採木材製品(HWP)についても、目標約3,800万CO2トン(約2.7%)と設定されている。

温室効果ガス排出削減と森林吸収量の目標(2030年度)

さらに、2025(令和7)年2月18日の閣議決定では、世界全体での1.5℃目標と整合的で、2050年ネット・ゼロの実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標として、新たに2035年度までに60%、2040年度までに73%削減する中間目標を設定し、NDCとして国際連合枠組条約事務局(UNFCCC)に提出しました。

日本の排出削減の現状と次期NDC水準 2030年:46%、2035年:60%、2040年:73%、2050年目標:排出・吸収量0
(2050年ネットゼロ)

日本の排出削減の現状と次期NDC水準

もっと知りたい方のために

<キッズ版、大人版、基礎資料集>(PDFダウンロード)

参考ページ

豊かな森林の役割