椎野 潤(しいの じゅん)2025年12月(研究報告№155)
[巻頭の一言]
高校生が海外留学で課題解決力を磨いています。留学した高校生は2023年度で3万4千485人です。ピークの7割強ですが、新型コロナウイルス禍で落ち込んだ2021年度の11倍超になりました。青森県は地域課題の解決策を学ぶ高校生を海外へ送り出しています。愛媛県では、留学経験者が起業して街おこしをしています。留学が地域の力になる人材を育むのです。
ここでは日本経済新聞2025年11月15日、朝刊2面記事(鈴木泰介)を参照・引用しています。
「日本再生][地域創生] 高校留学、地元に還元 青森県、台湾に派遣、防災に生かす、ピークの7割に回復、3.5万人。
「はじめに」
文部科学省が公表した最新2023年度のデータによりますと、全高校生のうち留学した比率(留学率)は全国で1.8%です。3カ月未満の短期留学(海外研修を含む)が9割超を占めています。高校の所在地で都道府県別の留学率をみますと、兵庫県が2.72%で最も高く、岡山県、東京都が続きます。
兵庫県では以前から県立高校が海外留学を推進してきました。県が友好・姉妹提携するオーストラリア西オーストラリア州のほか、近隣のアジアに生徒を送り出し、教員も一年間豪州に派遣して国際理解を深めています。
2024年度には、社会貢献や芸術などのテーマを、生徒自ら設定し、行き先も決める留学を支援し始めました。国際支援を志す生徒は、フィリッピンの貧困地域を訪ねて住民と対話し、大学生と貧困や教育問題を議論しました。韓国のKポップ(注1)のダンサーのレッスンを受けた生徒やニュージーランドのラクビー強豪校でプレーした生徒もいます。
ピークだった2017年度に比べ2023年度に留学した生徒が増えたのは全国で6県です。岡山県は85.0%増で伸び率が最も高く、青森県は66.9%、和歌山県は63.4%増でした。
[青森県]
青森県は2018年度、語学や異文化を学ぶ海外派遣ブログラムを充実させました。多い年で85人派遣し、低調だった留学率を高めてきました。2024年度には社会課題の解決策を探る「海外フィルドワーク(注2)」への派遣プログラムを始めました。担当する青森県地域交通・連携課の金沢研二課長は「青森も世界の一部です。青森が変われば世界も変わることを学び、県の将来の担う人材を育ててほしい」と話しています。
初年度の派遣は6チームです。うち大湊高校(青森市むつ市)の6人は2024年12月、台湾・花蓮県の消防局や慈善団体を訪ね地震対応を学びました。2024年4月の台湾東部沖地震で花蓮県は被害が大きかったのですが、事前に行政と民間で災害時の動きを取り決めていたことで、発災から約3時間で避難所を開設できたことを知りました。
留学した澤谷美雨さんは帰国後「学んだことを広めたい」と防災イベントを発案しました。避難所設営の体験を通じ、県職員や住民に現地で体験した官民連携の大切さを伝えました。現在高校3年の澤谷さんは「防災に本気で取り組まねばいけない」と当初の進路希望を変更し、地域に根ざした防災を研究する大学への進学を目指しています。
[愛媛県久万高原町]
高校時代の留学経験を生かして起業した人もいます。愛媛県久万高原町で育った鷲野天音さんは高齢化が進む「地元を活性化させたい」と高校3年の夏、SDGs(持続可能な開発目標、注3)を学べる英シューマッハカレッジに短期入学しました。原材料をできるだけ再利用して資源を循環させる循環型経済などを学びました。
ニュージーランドの大学で起業のノウハウを身につけ、20カ国を巡って帰国しました。企業勤務を経て2024年、地元で地域や企業をブランディング(注4)する会社を操業し、街おこしに取り組んでいます。
[まとめ]
留学事情に詳しい神田外語大学の芦沢真五教授は「感受性の強い高校生のうちに海外留学やホームステイを経験する価値は大きい」と強調しています。そして、以下のようにも話しています。円安や物価高で費用が高騰し大学入試が早まり、時期の制約があるのです。企業支援、姉妹都市事業なども活用して資金源を広げ、留学前後にオンラインで交流し短期間で効果を高める工夫も必要です。」と話しています。
[図表1]
2025年11月15日の日経新聞紙上に、「高校生の海外留学率ランキング(2023年度)と題する図表が記してありました。これを図表1(注5)としました。
この地図に示された地域は、4群で構成されています。次にこの4群を整理しておきます。
(1)第1群、高校生の海外留学率ランキング(2023年度)2%以上のところ。
(2)第2群、高校生の海外留学率ランキング(2023年度)1%以上2%未満のところ。
(3)第3群、高校生の海外留学率ランキング(2023年度)0.5%以上1%未満のところ。
(4)第4群、高校生の海外留学率ランキング(2023年度)0.5%未満のところ。
次に、この第1〜4群の内容について述べます。
[第1群]
ここで第1群は、高校生の海外留学率ランキング(2023年度)2%以上のところでした。この第1群に入っていたのは、1位兵庫県、2位岡山県、3位東京都、4位福井県の4か所でした。
[第2群]
第2群は、高校生の海外留学率ランキング(2023年度)1%以上2%未満のころです。それは以下です。茨城県、埼玉県、千葉県、神奈川県、山梨県、長野県、京都府、大阪府、奈良県、和歌山県、鳥取県、徳島県。第2群に入っていたのは、合計12か所でした。
[第3群]
第3群は、高校生の海外留学率ランキング(2023年度)0.5%以上1%未満のころです。ここに入っているのは以下です。北海道、青森県、宮城県、山形県、新潟県、富山県、栃木県、群馬県、静岡県、愛知県、岐阜県、滋賀県、三重県、広島県、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県、香川県。第3群は23ヶ所です。
[第4群]
第4群は、高校生の海外留学率ランキング(2023年度)0.5%未満のころです。ここにいるのは、以下です。秋田県、岩手県、福島県、石川県、島根県、大分県、愛媛県。この第4群は、合計7か所でした。
[図表2]
図表2は、「2023年度は約3万5000人の高校生が海外留学」と題した図表でした。これは日本経済新聞の2025年11月15日の朝刊に掲載されていた図表でした。
この図表の具体的な内容は、「2008年度から2023年度までの高校生の海外留学の人数の棒グラフでした。以下に、それについて説明します。
これはこの左軸横欄に記した、0、1、2、3、4、5万人の、海外留学高校生の人数
と下軸横欄に記した、2008、2011、2013、2015、2017、2019、 2021、2023年の(年)を利用して、その各年における海外留学高校生人数の棒グラフを作成したものです。
この棒グラフは、3カ月以上の留学(上段、濃い青色)と3カ月未満の留学(下段、淡い青色)の2段に分けて記されていました。
この棒グラフは、海外留学高校生の人数2008年の3万人からはじまり、2017年の4.8万人までは、ほぼ順調に増加しましたが、2019〜2021年にはコロナウイルス禍の影響で2.5万人〜0.2万人へと急減しました。そして、2023年には、3.5万人に回復しています。
この間、3カ月以上の留学は、人数は少なく、2021年の1万人を除いては、各月2〜3万人でした。残りは全て3カ月未満の留学です。なお、このデータの出所は文部科学省でした。
[図表3]
図表3は「2017年度〜2023年度で留学生が増えたのは岡山県、青森県など6県」と題した図表でした。これを以下に示します。
図表3「2017年度〜2023年度で留学生が増えたのは岡山県、青森県など6県」
1 岡山県 85.0%
2 青森県 66.9%
3 和歌山県 63.4%
4 兵庫県 44.3%
5 宮崎県 43.3%
6 奈良県 12.3%
2017年度〜2023年度で留学生が、最も増えたのは岡山県で、85.0%の増加でした。次いで青森県の66.9%、和歌山県の63.4%の増加が続いていました。なお、このデータの出所は、文部科学省です。
[おわりに]
この研究報告では、海外留学で、学生が課題解決力を磨いていることを報告しています。そして、実際に地域課題の解決を学ぶ高校生を送りだし、実績を上げている青森県の事例を丁寧に解説してくれました。
一方、文部省のデータを用いた、都道府県別の海外留学率の2023年度のランキングを示してくれました。その結果このランキング1位の群は、2%以上実績を上げた地域で、以下の4地域であることが公表されました。それは1位兵庫県、2位岡山県、3位東京都、4位福井県でした。しかし、この4地域の具体的な活動実績は、まだ多くは公表されていません。
私は自分で、インターネットを用いて、他のデータも探して見ようかとも思いました。でも、これは「このテーマに、まだ、知識が深くない私が、あちこちからデータを集めて加える」と、内容があいまいになる恐れがあるのです。
現在、参照している著者の次回の報告を待って進めた方が明確な方向性を確立しやすいのです。ここは次回の報告を待ちます。私は、次報の発信を、凄く楽しみにしております。よろしく、お願いいたします。
(注1) 韓国のKポップ、K-POP(ケーポップ、英: Korean Pop)は、ダンスミュージックを中心とした韓国のポピュラー音楽の通称である。
(注2)海外フィルドワークは、研究者や学生が、海外で直接データを収集し、現地の文化や社会を理解するための調査活動である。
(注3)SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年9月に、国連サミットで全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に基づいている。SDGsは「誰一人取り残さない」という理念をもと、貧困や飢餓、教育、環境保護など、幅広い分野にわたる17の目標と169の具体的なターゲットが構成されている。
(注4)ブランディングとは、企業や商品が持つ独自の価値や印象を明確化し、顧客に伝えるための活動である。具体的には、企業のブランドイメージを顧客に認識させ、他社との差別化を図ることが
目的である。ブランディングは、単なるロゴやデザインの作成に止まらず、顧客の心に深く響く
イメージや信頼を構築することを目指す。
(注5) 日本経済新聞2025年11月15日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。高校生の海外留学率ランキング(2023年度)。
(注6) 日本経済新聞2025年11月15日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。2023年度は約3万5000人の高校生が海外留学。
(注7)日本経済新聞2025年11月15日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。2017年度〜2023年度で留学生が増えたのは岡山県、青森県など6県。
(1)日本経済新聞、2025年11月15日、朝刊(2面)。
[付記]2025年12月1日。
塾頭から椎野先生への返信 酒井秀夫
高校生が海外留学で課題解決力を磨き、地域の力になっていくという高校生の留学支援の分析です。留学と言っても、期間や支援制度、目的なども様々だと思います。留学の意義やメリットはここであらためて述べるまでもないと思いますが、自分の目で実際に視たり、さらにホームステイやファーム(農場)ステイは代えがたい体験だと思います。
2004年にデンマークに半年ほど滞在したことがあります。デンマークは北海道と比べると半分位の面積で人口は同じくらいです。国土面積に占める森林面積の割合は10%しかなく、21世紀の終わりには20%に引き上げようと不要になった放牧地などに植林をしています。国民1人当たりの森林面積は0.1haでしたから、人口が変わらないとすると100年後には0.2haとなり、日本と肩を並べることになります。
当時、50箇所くらいのコミュニティにヒーティングプラント(地域熱供給事業体)があり、さらに熱電併給のバイオマス発電所がありました。林地残材や間伐材も重要なエネルギー源で、木質燃料のサプライチェーンも確立されていました。同じ地球上で、風力やバイオマス燃料がすでにしっかりと市民生活に溶け込んでいるのを目の当たりにしました。
こうしたことを帰国後に報告しても、それは歴史や社会、文化がちがうからだと、なかなか取り合ってくれませんでした。ここで何を言いたいかというと、せっかく留学した高校生の見聞を帰国後どう受け入れて社会に応用していくかといった大人側の対応です。高校生の期待を裏切ることのないよう、送り出した方もしっかりフォローしていかなければなりません。
藤原正彦氏の『若き数学者のアメリカ』(新潮文庫)という体験記は1978年の話しですが、受け入れ先とのやり取りは手紙しかなく、なかなか返事が来なくて不安になっていく様子が描かれています。今はオンラインで面接も可能です。留学後も交流を継続して、双方の人脈を築いていくことも容易になりました。是非多くの高校生が留学を経験し、社会にも還元して未来を築いていただければと思います。
こうして考えると、この話は、地域の創造を目指す自治体が都市部にファンを作る競争をしているということかもしれません。都市部だけではなく、昨今は「コト消費」を求めるインバウンドや「モノ消費」や「イミ消費」を求める海外消費者にファンを作ることも競っているのでしょう。そこには、大使による海外への展開も必要になってくるものと考えます。
木材の需要も森林サービス産業の需要も、さらに言えば、二酸化炭素ビジネスの需要も都会・都市部にあるのですから、その地域の森林のファンを作ることが重要であると思います。西粟倉村でも、西粟倉で作られた木材製品を買ってくれる、使ってくれるファンを作り続けています。
大使という手法を使う、使わないは別にして、森林・林業の分野で都市部にファンを作れている実例に倣い、地域として森林を活かした新たなファンづくりや木材や森林サービス産業のマーケッティングによって、都市部から人材や資金・需要を獲得していく取組を展開していかなければならないと思います。これは森林・林業セクターだけでは困難な取組かもしれませんから、やはり地域の他産業セクターや行政とつながって幅広く取り組んでいくのが良いのではないかと思います。
秩父でも大隅でも球磨でも隠岐でも北信州でも北都留でも、そして佐伯でも、そのような取組が必要とされているのかもしれません。皆さんのご検討とご健闘を期待しています。
以 上

個人
団体