伊佐裕さんから、いただいた、凄い言葉「住宅建築は総合芸術である。住宅は、産業ではなく文化である」。この言葉を、こころに深く刻み、「田園都市の家」に、出会った時の感動のブログを、読み直しました。
林業再生・山村振興への一言(再開)
2020年8月(№26)
□椎野潤(続)ブログ(237)美と性能を極めた家
「田園都市の家」 2018年2月25日
(このブログは、できるだけ、原文をそのまま、引用します)
☆前書き
伊佐ホームズの伊佐裕さんが挑戦している、日本古来からの美を引き継ぎ、新しいセンスを注ぎ込んだ「日本の家」を創り出す活動が、大きく前進しました。2018年2月10日、東急田園都市線の「あざみの」に建設された「田園都市の家」を見学に行きました。この家は凄い「総合芸術」でした。この家は「産業」ではなく「文化」でした。いただいた説明資料(参考資料1)は、以下のように書いています。
☆引用
「『これからの日本の家』の規範をつくりたいという願いを込めて実現させたのが『あたらしい家 校倉』です。その進化形ともいえるプロトタイプ住宅『田園都市の家』が、2018年1月15日に、横浜市あざみ野南に完成しました。
コンセプトは、『和魂洋才』です。水平・垂直ラインを強調し、秩父杉を張った壁による面で構成したシンプルでモダンな外観です。無垢の木材ならではの素材感は、上質な雰囲気で、町並みに潤いを与えます。
この木の壁は、のびやかに内部へと続きます。平面は長方形で、1階はひとつながりとなった、ダイニングキッチンとリビング、2階は主寝室と個室となっています。ほぼワンルームで、一部が吹き抜けとなり、家具によって間仕切るシステムです。これは将来、間取りを変化させたくなった場合にも対応します。
インテリアには、漆喰、和紙、漆、絹といった日本の伝統素材を使うオプションを用意。また、各種エネルギーシステムやHEMS(ホームエネルギーマネージメントシステム )の導入も行います。これはまさに、日本の家の文化を生かしつつ、先進的。美と性能を両立させた家の提案です。」「 」内は「美と性能を極めた家「田園都市の家」より引用
☆解説
この家の外観は、とにかく、素晴らしかったです。和の深い美しさを持ちながら、モダンでシンプルなのです。外壁は、秩父杉を張った壁です。杉の無垢板を貼った壁は、自然の木目が様々な表情を現し、その中で整然とした、シャープなシルエットを見せています。温かく心に沁みて、しかし、厳然と立っていました。
この壁は、自然の杉の美しさを示しながら、汚れを防ぎ、耐久性を維持するため、シリコン系超撥水形塗料、S−100が塗布されています。これは新国立競技場に使われた最先端技術の素材です。
この「和の家」の姿は、この杉の壁の垂直なラインに対し、勾配の小さい屋根の水平ラインが交差し、見事な姿を形成していました。無垢の杉の素材感は、町並みに潤いを与え、しかも凛然として立っていました。
一階のリビング、ダイニング・キッチンに案内されて、私の気持ちは躍りました。でもそれなのに、心は、深深として鎮まっているのです。そこは、不思議な落ち着きのある空間でした。それは、それを生み出す凄いデザインがあるばかりではなく、使われている素材の一つ一つが、深い意味を持っていたのです。これは、まさに、伊佐さんが提唱する「総合芸術の積み上げ」でした。
まず、目についたのは、部屋の真ん中に、どっしりと立っている黒い壁でした。これは日本で、古くから技術が伝承されている漆(うるし)を、何層も塗り重ねたものです。これを塗り重ねた人の、重たい魂がこもっています。この壁は、この家の構造を支えており、きわめて逞しいのですが、心の落ち着きを生む、淵源でもあるのです。
この壁の垂直を受けて立つ、水平面である天井が、また、美しかったのです。これは絹絓(きぬしけ)の伝統的芸術で作られていました。天井一面に、絹の布を貼っているのです。また、黒い壁に対して白い壁。これも美しい対比でした。これは砂漆喰です。この壁面は、丁寧に塗り上げた人の心がこもっています。
この部屋は、伝統的な技能を守り続けた人達の心のこもった手仕事に、囲まれているのです。これが、人々の心に落ち着きを与えてくれる大きな要因でした。また、竹を縦に割り2枚のガラスの間に入れた引き戸も、凄く素敵でした。これば晒竹(さらしたけ)言って、滋賀県の伝統芸術です。
さらに、モダンな簾(すだれ)もありました。楢の木を薄くロールに削り、それで簾(すだれ)を作っているのです。床は、浮造りのフローリングで、この上に植物染の絨毯(じゅうたん)緞通(だんつう)が敷いてありました。たもの無垢木で作ったモダンな姿の「現代囲炉裏」も置いてありました。
ここにある全てのものには、作った人の心がこもっているのです。それが、この空間の凄い空気を醸しだしているのです。これは日本と日本人の空気です。日本人の心に憧れる世界の人達の心を、動かすことは間違いありません。この住宅建築の創出は「産業の改革」ではなく、日本の社会と日本人の心の「文化の革命」でした。良いものを見せていただきました。最高の一日でした。(このブログは「美と性能を極めた家、田園都市の家」より引用)
☆まとめ (このまとめは2020年8月に書きました)
田園都市の家は、まさに総合芸術でした。家全体が芸術であるばかりでなく、構成する諸部位・部材も皆、芸術でした。外壁の杉の無垢板、内壁に塗られた漆(うるし)塗り、天井に貼った絹の布、絹絓(きぬしけ)、晒竹(さらしたけ)の引き戸、床の浮造りのフローリングと、この上に敷かれた植物染の絨毯(じゅうたん)緞通(だんつう)、その一つ一つが、日本人の心・技と素材で作られた芸術です。ここで「家」というのは、「この全ての芸術」の総合なのです。これを作った熟練工の心・技と素材は、日本の永い歴史が伝えてきた「文化」なのです。家具は、まだ入っていませんでしたが、家具は重要です。家具が入り、住む家族が入って「総合芸術の家」が成立します。(2020年8月14日記述)
参考資料
(1)伊佐裕著:美と性能を極めた家「田園都市の家」、伊佐ホームズ、2018年1月。
[付記]2020年8月14日
「コメント」
「伊佐システム(木材トレーサビリティシステム)」は、首都圏の話ですが、地方都市で進めるには、どうしたら良いですか」という質問をうけました。そこで、これを簡単に書いておきましょう。「伊佐システム」が始まる契機を作ってくれたのは、秩父の代表的な林業村「大滝村」の山中さんでした。山中さんの父親は、先代「大滝村」村長です。山中さんが、まとめ役になれたのは、山中家の地域での信望と、ご本人の人望でした。そして、伊佐ホームズの本社がある、東京世田谷と秩父大滝の中間にある、金子製材とプレカットの島崎木材が参加して、この4人組がシステム構築を進めました。
日本各地で、ゼロから「伊佐システム(木材トレーサビリティシステム)」を始めるとしたら、地域一の林業村で代々村長を務める家系の当主などが、立ち上がって、まず、伊佐ホームズのホームページで「田園都市の家」の写真を見ることです。次に「田園都市の家」の、伝統的な日本の美を継承し、しかも、近代的な美のセンスを取り込んでいる家を、作っている工務店は、どこかを考えるのが先決です。
続いて、林家の主人と工務店の社長が相談して、製材とプレカット工場を選びます。これは、地域で一番、技術レベルが高く、自社の経営にも、先進的な発想を持っている人が良いのです。4人で話し合い、地域の「伊佐システム」の第1号を、なんとしても、やってみたいという決意が出来たら、伊佐裕さんに、進め方を相談すると良いと思います。
このほか、この「田園都市の家」に使われている絨毯・天井材などを納入している人達に、スタートの「一言」を発してもらうのも良い方法です。その人たちは、田園都市の家は、どんな家か、伊佐ホームズは、どんな仕事の進め方をするのかを、知っている可能性が高いからです。
室内の黒い漆(うるし)塗りの壁パネルは、木曽で作られたものです。ガラス引き戸、晒竹(さらしたけ)は、滋賀県産です。絹絓(きぬしけ)の天井は越前です。絨毯の緞通(だんつう)は佐賀です。そうすれば、木曽でも、滋賀でも、越前でも、佐賀でも、きっと、「伊佐システム(木材トレーサビリティシステム)」は動きだすと思います。