コロナ危機のような大きな危機が襲来すると、未来に訪れる次世代世界の到来は、俄かに到来時期を早めます。次世代社会を創出して大改革を実施するには、これまでの社会の一部を終焉させなければなりません。これには、大きなエネルギーが必要です。コロナの悪魔は、人々が育て上げてきた大事なものの多くを破壊しました。でも、改革を阻害してきた壁も、一気に吹き飛ばしたのです。
林業再生・山村振興への一言(再開)
2020年11月(№51)
□ 椎野潤(続)ブログ(262)コロナ薬治験 最終段階
武田薬品工業のシャイアー買収の成果に 世界が注目 2020年11月13日
☆前書き
武田薬品工業などは、新型コロナウイルス感染症治療薬の臨床試験の最終段階を開始しました。これを2020年10月13日の日本経済新聞(参考資料1)が書いていました。ここでは、これを取り上げてブログを書きます。記事は、以下のように書いています。
☆引用
「武田薬品工業などが開発中の新型コロナウイルス感染症治療薬が最終段階の臨床試験(治験)に入った。回復した患者の血液成分を使う血液製剤で、武田は2019年に6兆円超で買収した、アイルランドの製薬大手シャイアーの技術を活用した。新型コロナ治療薬という注目分野で、大型買収の成果が問われている。(参考資料1、2020年10月13日、高城祐太から引用)
☆解説
世界の多くの企業が提携して開始した「新型コロナ」の治療薬の臨床実験(治験)の最終段階で、日本の武田製薬工業が、旗振り役を演じ、先導しました。2020年10月9日の発表で、武田のクリストフ・ウェバー社長は「当社は触媒役を果たした」と述べていました(参考資料1)。
今回、治験を始めたのは、血液製剤の一種で、免疫機能を高める「血漿(けっしょう)分画製剤」と呼ばれるものです。武田をはじめ、米国の大手のCSLベーリングなど13社が提携して、開発を進めています。
米国や日本、メキシコなど18カ国で、500人を越える患者が参加しています。これは国や企業の壁を越えた世界的なプロジェクトとして進展していますが、その旗振りは、日本の武田だったのです。
治験のカギを握るのは、回復した患者からの血液由来成分の採集でした。武田は、専門ホームページで、全世界の患者に呼びかけました。武田はこの活動で先導者になったのです。
この治験は、当初は夏ごろを予定していましたが、コロナ危機の到来で、2カ月ずれ込みました。この新薬には「レムデシベル」などの抗ウイルス薬を補完する役割が、見込まれています。
武田は、2018年5月、アイルランドの製薬大手シャイアーを、6兆8千億円の巨費を投じて買収しました。シャイアーは「最後の巨大買収企業」と呼ばれていた大物で、凄い価値がある物件でした。でも、リスクもまた巨大だったのです(参考資料5、注2参照)。
武田は、この時すでに1兆円の有利子負債がありました。そして、シャイアーには2兆円の負債があったのです。さらに、買収のために、金融機関から3兆円を借り入れました。
総額6兆円に及ぶ、この巨大な有利子負債を、クリストファー社長が、どう対処するのか、世界が注目していたのです。
(参考資料1、日本経済新聞、2020年10月13日、高須裕太を参照して記述。参考資料5、注2を参照)
☆まとめ
私は武田薬品工業については、9編のブログを書いています(参考資料2〜10)。私が武田のブログを書きはじめた2017年5月、武田は苦渋の決断をしました(参考資料3、注1)。武田は、永い間、日本の医薬品産業のトップ企業で、産業を牽引していました。
また、多数の有力な薬の特許を持っていました。ところが、その多くが特許切れに直面していたのです。特許切れの薬は、多数の企業が、「後発薬」として安値での販売を開始します。ですから武田は、その薬だけでは、それまでの収益を維持できなくなりました。武田は、抜本的な経営改革を迫られていたのです。
そこで武田は、2017年5月、最も大事なものを、売却する決断をしました。それは武田傘下の試薬大手、和光純薬工業(注1)です(参考資料3、注2を参照)。
この会社は「武田が幾ら苦しくなっても、これだけは手放せないだろう」と事情通の人達の間では、信じられていたものなのです。
「和光純薬工業」は、創業家武田家が、最も大事にしていた会社です。その売却時の株主の主力も、創業家武田家でした。武田が、この危機を救うことを求めて、イギリスから招聘したクリストフ・ウーバー社長は、この売却を断行したのです。
この和光純薬工業を、高値で買ったのは富士フイルムでした。同社の社名が示す「フイルム産業」は、この頃、消滅寸前でした。富士フイルムは、市場の予想を越えた高値で、和光純薬工業を買収し、これにより、「フイルム産業」という異業種から、「薬品産業」への転入を確実にしたのです。世界の先端医薬品企業に、富士フイルムが名を連ねたのは、この時が起点でした(参考資料3、注2参照)。
一方、武田薬品工業の方は、この1年後の2018年5月に、アイルランドのシャイアーを6兆8千億円の巨費で買収する覚悟を、この時既に、固めていたはずなのです(参考資料5、注3)。
しかし、この買収は、まさに、大成功でした。武田傘下に入ったシャイアーは、その後の2年ほどで、凄い成長をとげたのです。武田は、シャイアーが持っていた血漿分画剤を重点分野と位置づけ、世界の血漿成分収集センターを、積極的に拡充しました。治験薬の生産能力の増強も、水面下で強力に進めてきたのです。
現在、世界各国が、武田傘下のシャイアーに、大注目しています。さらに、この治験に成功すれば、世界の注目を一手に集めるのは間違いありません。(参考資料1。同資料3、注2。同資料5、注3を参照して記述)
(注1)和光純薬工業:武田薬品工業から分社。1922年「武田化学薬品株式会社」として発足。国内試薬メーカー最大手。試薬の取扱数60万品目超。高純度。他社に先駆け抗体検索サイト整備。本社、大坂(中央)。
(注2)参考資料3、日本経済新聞、2016年11月3日から引用。
(注3)参考資料5、日本経済新聞、2018年5月8日、9日から引用。
参考資料
(1)日本経済新聞、2020年10月13日。
(2)椎野潤ブログ:政府医療費削減 後発薬8割 目標 製薬会社 特許切れ薬売却、2016年8月1日。
(3)椎野潤ブログ:富士フィルム 武田の重要子会社買収、2016年11月24日。
(4)椎野潤ブログ:新興国で製薬市場開拓 官民連携、2017年5月18日。
(5)椎野潤ブログ:武田製薬工業 シャイアーを6.8兆円で買収、2018年5月19日。
(6)椎野潤ブログ:日本企業による海外企業の巨額買収が続出 その淵源にあるものは、2018年5月26日。
(7)椎野潤ブログ:後発薬 難路の創薬開発に挑む 日本ケミファ 富士製薬、2018年10月10日。
(8)椎野潤ブログ:途上国を人道支援するワクチンの開発・販売 平和国家を標榜する日本の重要産業に 武田 アステラス 田辺三菱 出発、2019年4月12日。
(9)椎野潤ブログ:武田製薬工業 ドライアイ薬を売却 5800億円 ノバルティスへ、2019年5月23日。
(10)椎野潤ブログ:武田製薬工業 成功報酬型新薬 欧州で発売 まず保険外で、2019年6月17日。
(11)椎野潤ブログ:創薬コスト AIで半減 2020年に実用化 京都大学 武田製薬工業 富士通など100の会社・研究所で構成のチーム、2019年10月26日
(12)椎野潤ブログ:山を疾駆 世界の頂きへ スカイランニング 研修医の傍ら 自己と闘う 2019年8月18日。
[付記]2020年11月13日。
[コメント(山村振興 異分野の改革に学ぶ 〜異分野から参入をめざす方々へ〜]
先端医療のブログを[山村振興]のカテゴリーで書いていて、すぐ頭に浮かんだのは、2019年8月18日に書いた「山を疾駆 世界の頂きへ スカイランニング 研修医の傍ら 自己と闘う」と題するブログ(参考資料12)でした。
私は、このブログの中で、「日本各地に『きら星』のように輝く『山村』が散在する国を実現するのが私の目標です。それには各地に、『きら星』のようなリーダーがいる必要があります。」と述べています。
このブログの中で、私は、2017年のスカイランニングのアジア選手権で優勝した、信州の山麓にある国立病院機構「信州上田医療センター」の内科・救急科の若い女性研修医の活動を書いたのです。
私は、先端医薬の新薬開発ではなく、最新医療に挑戦する、このような女性が、全国に出現し「きら星」のように輝く「山村」が、続出することを熱望しています。挑戦してください。