□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第24回) 集成材への思い
文責:文月恵理
無垢材が一番いい、集成材はまがい物、私は長い間そんな思い込みに囚われていた。森林・林業にのめり込むきっかけとなった2006年の家づくり体験塾では、手刻みに拘る大工さん達から教えを受けたが、彼らは、木材の寿命より接着剤の保持期間はずっと短い、そんなものを使うのは木材への冒涜だという意識を持っていた。しかし17年の間にプレカットは広く普及して手刻みを高価な特注品にし、集成材はその価格と扱いやすさによって、木造建築に広く使われるようになった。当初よく問題にされたシックハウス症候群への対策も進み、健康への影響が少なく耐久性の高い接着剤の開発が進んだのだろう。
LVLやCLTなどのエンジニアリングウッドは、強度の差や曲がり、捻じれなど自然素材である木材の弱点を消し、工業製品として一定の品質が保証されている。ただ、機械への投資や人件費をかけて加工するので、製品価格が競争力を持つためには、材料となるラミナ(挽き板)は相当安い値段で購入しないと採算が合わない。ラミナや合板向けのB材は、A材の3分の2程度の価格で取引されるのが一般的だ。それより品質の劣るC/D材はチップやバイオマス向けでA材の半額程度になる。しかし、実際には世界的な相場や住宅市況の影響を受け、原木の価格は目まぐるしく上下するので、A材の価格がB材と同じくらいになってしまうこともある。そうなると、ABCに分ける選木という作業を省き、全てバイオマスに売る方が儲かるという事態も起きる。それを押し留めるのは、数十年にわたる育林を経て収穫された木材を簡単に燃やしたくない、という林業者の倫理感だけだ。
このような利用構造の中で、集成材工場が重要な役割を果たしていることに最近やっと気がついた。ある会社は、昔は輸入したラミナで集成材を作っていが、最近国産ヒノキのラミナ工場を経営するようになった。国産ラミナの安定供給を目指す試みだが、経営者の心配は、選木をする人手が不足し、ラミナの材料となるB材が入って来なくなるのではないか、ということだった。その会社では1m、1.5mといった長さの薄い板をフィンガージョイントで繋ぎ、貼り合わせることで、長さ6m、太さ60にもなる構造材を成形することができる。無垢のままでは建築に使えない木材を、有効に利用する技術だ。
燃やすしかない木材をできるだけ少なくし、建築に使えるようにする、という点では合板も同じで、木を薄くかつら剥きにして貼り合わせる技術で国産材の自給率向上に貢献している。ひと昔前には使い道が無いと言われていたカラマツも、その強度から今では合板工場に大量に引き取られるようになった。
更に栃木の渡良瀬林産では、プレカットCADの入力事業を通じて数か月先の住宅市況を掴み、売れ残りそうな無垢の製材品をラミナに挽いて集成材にすることもあるそうだ。集成材は市況に関わらず安定した需要があるので、在庫を抱えるリスクを避けられる。
こうした状況を見聞きして、私の中の無垢材信仰は終わりを告げた。木材を無駄なく使い、価値を生み出す有効な手段なのだと、今は十分理解できる。しかし問題は、それでもA材が高い値で売れないと、木材利用のカスケードが崩れ、所有者が恒久的な森林経営をする意欲を持てないことだ。林業・木材産業は、いつまでアメリカの住宅市況や海外の港湾労働者ストライキの影響に振り回わされ続けるのだろう。
その答えは、デジタルの力で資源と木材需要をつなぎ、地域内で完結するサプライチェーンを作ることしか無いのではないだろうか。相場に関係なく、横持ちも保管も最小限で適材を適所に生かす、A材・B材の歩留まりを上げてその利益から再造林費用を賄い、C/D材が地域の熱エネルギーに使われる、そんな未来において、集成材の技術は、森林資源と建築を一体化する接着剤になっていくだろう。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
悩み深い問題で、一言ではなく長くなってしまいますが、まず、今の山にある、適切な間伐や枝打ちなどがなされていないため曲がりや死節・抜節など欠点の多いスギやカラマツについては合板の利用ができたからこそ今があることを確認しましょう。集成材はその延長線上にあります。大方の森林で間伐が手遅れになり、政策的に間伐を推進しなければどうにもならなかったのですから、そのような人工林から生産される材で無垢で使えるものは決して多くはないという現実があります。昔のように良く手入れされて来た人工林とは異なる資源の質を考えなければならないと思います。今は使う側の基準も厳しくなっており、B材はA材と異なる使い方をしなければならなくなっています。A材、B材は需要が異なってきており、それぞれの需給バランスも異なりますし、その結果、値段も違います。
これまで、きちんと手を入れてきた篤林家の方にとってはA材が高く売れないといけないでしょうし、B材が主体の森林を持つ一般的な森林所有者はB材、C材が高く売れることを希望することになります。
また、今現在の木材の需要、使われ方から見て、無垢であることと集成であることの意義を論じなければなりません。大壁造りの洋室主体の住宅が現在の消費者と施工者の嗜好になっており、構造材に求められるのは、見栄えではなく、バラつきのない構造的な性能(掛かる荷重に対する強さと設計図に則った品質、寸法や直線の精度と言ってもいいかもしれません)です。住宅を建てる目標は、住民が満足する良い住宅を建てることであって、林業のために家を建てるわけではないということを踏まえると、無垢を選択することが一番良いとは言えないかもしれません。集成材は必要とされているから流通するのです。
一方、内装材(壁や床、天井、建具)等は使う人の目に触れ見栄えが必要な材料です。このような木材が構造材以上の付加価値が付いて単価の高い材になり得ます。
このようなことを踏まえつつ、立木〜住宅までのサプライチェーンの間で、林地残材の利用、丸太の製材歩留まりやその結果の端材、木くずの使い方までを含めて、山の木全体の付加価値をどのように高めていくのか、全体のコストをどのように下げていくのかを評価する必要があります。部分最適ではなく、その価値とコストの差である収益全体を価格という形で山元、素材生産、木材加工の担い手の所得にどう反映するかを、価値の連鎖という意味のバリューチェーンとして考えて、全体最適にしていくことが求められます。関わるプレーヤーが少ない短いチェーンの方が実現しやすいはずです。
このようなことを考えるに当たって、私は林業・木材産業に従事する方々の幸せ、満足を実現することを目標にすべきだと思います。プラス、住民、消費者の安全と安心も叶えなければなりません。価値創造と持続的経営がそのための大事な手段であることは言うまでもありません。答は一本道ではないと思いますが、書かれたお話のように対処することで概ねどこでも手段を確保できるという一般解は導けると思います。あとは上に掲げた目標を達成できるかどうかを考えていきましょう。