□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第46回) 国産無垢材は断熱等級6以上に対応できるか
木村木材工業株式会社 代表取締役 木村 司
11月29日に国土交通省・環境省から発表された「子育てグリーン住宅支援事業」の中で、断熱等性能等級6(以下、『断熱等級6』と略します)以上を要件とした「GX志向型住宅」が補助対象になりました。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000290.html
より一層の省エネが求められる現在、断熱等級6以上で建てる住宅の割合が増え始めています。断熱等級6以上で建てる家の大半は、充填断熱だけでは断熱が不足するため、付加断熱をします。柱・間柱の外側に構造用合板などの面材を直接貼ったうえに断熱材や透水防水シートを施工するのが一般的です。(図「付加断熱の施工例」参照)
柱・間柱がわずかでも曲がっていると、面材を貼るときに隙間が空いてしまいます。断熱等級6以上では気密も要求されますので、柱・間柱に要求される寸法精度はより厳しくなります。JAS機械等級区分構造用製材の寸法精度(仕上げ材の場合+1.5mm)は断熱等級6以上の家で求められる寸法精度よりも緩いです。(図「構造用合板の施工」参照)
私がJAS機械等級区分構造用製材品を使った断熱等級7で建てる家の上棟に立ち合ったとき、大工さんに「2階に上がってきなよ。柱がはらんでいるだろ!」と指摘を受けました。構造用合板を面材として柱に直接貼る現場では、JASの寸法精度を満たしていても大工さんが気密を取るために隙間をなくそうとして手をかけなければならない現実を目の当たりにしました。
断熱等級6以上は集成材でないと無理だという声も聞きます。私見ですが、間柱に関しては無垢材では無理だと思っています。プレーナーで仕上げた間柱であっても、わずかな曲がりは避けられないからです。ただ、柱に関してはなんとかして無垢材で対応していきたいと考えています。
製材工場では、人工乾燥機から出てきた柱材をどれだけ多く製品にして歩留まりを上げられるかを考えます。木材はまっすぐなものだけではありません。人工乾燥機を通すと曲がってしまう木材は少なくありません。多少曲がっていても、JASの規格を満たしていれば製品として出荷して、歩留まりを上げたい工場が大半です。
一方、人工乾燥機から出てきた柱材のうちわずかな曲がりも含めて3割を除外し、その分だけ価格は高くなりますが、断熱等級6以上の家にも対応できる寸法精度で出荷している国産材製材工場もあります。
私は、断熱等級6以上にどう対応するかが国産材製材工場の行く末を大きく左右すると考えます。歩留まりを落としてでも寸法精度を上げて断熱等級6以上に対応する製材工場は、国産無垢材の価値を高め、お客様に求め続けられます。一方、「無垢材だから多少の曲がりは仕方がない」と割り切る製材工場は時代に取り残されていくのではないでしょうか。
国産無垢材が断熱等級6以上に対応するためには今までよりも厳しい選別が必要で、歩留まりが下がります。モルダーをかける前に直角二面かんなをあてることができれば、歩留まりは多少あがりますが、工程が一つ増えます。
国産無垢材で断熱等級6以上に対応することは可能です。ただし、より厳しい選別をかけるため、木材価格が高くなります。「断熱等級6以上は集成材で」というのではなく、国産無垢材で断熱等級6以上を建てるのが当たりまえになってほしいと心から願います。 以 上
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
たいへん厳しい現実をさらけ出してくださいました。このような住宅建築に係る要求の高度化が、これまでも製材の歩留まりをどんどん低下させてきており、いまや、50%をきるようになってきています。集成材やCLTでは30%以下という事態になっているとのことですので、それでもマシですが…。昔は、製材歩留まり7割と言っていたのが懐かしいです。
端的に言うと、断熱性、気密性を求める省エネエコハウス(お話にあります断熱等級6以上のようなもの)を普通の軸組工法の建築業者が建てるとなると、部材は集成材にする方向になっていくしかないだろうというのが当方の見立てです。無垢材が当たり前に使えるようになるとこの面での製材所や建築業者の淘汰が進むのは、時代の要求と言わざるを得ないのかもしれません。
しかし、枠組壁工法(2x4建築)や壁にパネルを使った軸組工法ならば、部材の隙間を作らず(埋めて)気密を上げることはできて、他と同じように断熱材でまさに家をくるむような方法と窓、扉、土間などの外に開放されている部分の断熱を上げる手段を取れば、無垢材による高断熱住宅、断熱等級7の家を建てることも可能と聞きます。ただし、どちらの工法にしても、パネルにするに当たって無垢材にパネルとして使う寸法精度を求められることは言うまでもありません。このような面で、大型パネル工法をはじめとする木造住宅における木質パネル化は否応なく進んでいくものと思います。生き残りのために、製材所も建築業者等もどんどんそのような技術・工法の導入を進めることが必要になると思います。
もちろん、それ以外の道を開拓することも可能でしょうから、ぜひ一般化できるように取り組んでいただきたいと思います。
なお、S造の住宅では断熱等級7を取ることは難しいと言われる方もいらっしゃるようですが、これはどうなんでしょう? 本当かどうかは私にはわかりませんが、本当だったら、やっぱり木はスゴイというウリになりますね。