□ 椎野潤ブログ(伊佐研究会第23回) 【続編】全国植樹祭と、秩父に息づく本多静六博士の精神 全国植樹祭を終えて
令和
令和令和7年5月25日、第75回全国植樹祭が秩父で開催され、森林パートナーズもプラットフォーム参画企業6社とともに参列いたしました。
「人・森・川 つなげ未来へ 彩の国」というテーマのもと、本多静六博士の精神を軸に構成されたこの大会は、地域の誇りと美しさが随所に感じられる、大変清々しい一日となりました。印象的だったのは、地元小・中・高生による清々しいパフォーマンスや、埼玉県知事・秩父市長・秩父出身の著名人による地域発信など、地域全体が一体となってこの日を迎えていたことです。
そして何より、天皇陛下のご臨席によって、会場全体が静かな感動と荘厳な空気に包まれました。陛下の御挨拶は、平易なお言葉のなかに、森・川・人のつながりを大らかに見つめる祈りが感じられ、深く胸に響くものでした。続く御手植え・御手蒔きの場面では、子どもたちへのお声がけや知事との会話など、国民の心に耳を傾けられるお姿に、心からの尊敬と安らぎを覚えました。そして陛下の御入場とともに、それまで空を覆っていた雲が静かに晴れ、武甲山と秩父連山が凛とした姿を現した瞬間には、まるで自然までもが応えているように感じられ、会場の多くの方々が深い感動を共有していました。
このような体験を経て、あらためて私たち森林パートナーズの取り組みの意味と責任を実感しています。本多静六博士の「念じて植えよ」という言葉に倣い、私たちは現代の流通環境において「念じて伐り、念じて使い、そしてまた植える」という循環の仕組みを作ることに力を注いできました。その一環として、森林パートナーズは現在、埼玉県内の木材流通需給情報共有システムの開発に着手しています。
この取り組みは、令和5年・6年に埼玉県内で開催された林業・木材関連の協議会において、木材流通の課題として挙げられた「地域ごとの需給偏在」や「情報の断絶」に応えるものです。協議を重ねた結果、関係者の合意のもと、森林パートナーズが事業主体となり、埼玉県の予算措置を受けてシステム開発を行うことが正式に決定しました。このシステムは、県内の山林所有者、製材事業者、プレカット工場、工務店などが持つ需給情報を可視化・共有することを可能にし、地域内での木材調達の最適化と、利益が山に戻る仕組みの構築を目的としています。さらに今後は、苗木の確保状況、再植林計画、獣害対策などの情報とも連動し、「伐って終わり」ではない持続的な森林経営の基盤となることを目指しています。
全国植樹祭で示された「森・川・人のつながり」は、決して一日だけのスローガンではありません。それは、私たちの実践の中で生かし、広げていくべき現実の課題であり、希望でもあります。
森林パートナーズは、秩父の地から日本の木材流通に新たな風を吹き込み、次世代へとつながる森林の再生を、地域との連携と共に進めてまいります。本多静六博士の精神と、今上陛下の御製に込められた思いを胸に、一人ひとりの行動が大きな流れとなるよう、これからも一歩一歩、歩みを重ねてまいります。
☆まとめ 「塾頭の一言」本郷浩二
全国植樹祭への参画、お疲れ様でした。運営もきちんとしていて、たいへん、素晴らしい植樹祭だったと思います。当日の雨が心配されていたのですが、前日から夜までに降りきってくれましたのも、天皇陛下だけでなく、植樹祭の運営に心を砕かれてきた方々の思いが天に届いたのだと思います。
本来、社会の仕組みは、その構成員のつながりによって構築され、維持されるものと思いますが、様々なことが高度化、専門化することで、そのつながりが認識できなくなっているのでしょう。田舎暮らしが注目されていますが、単にのんびりした暮らしという表面的な憧れではなくて。その本当の魅力は、自然と人と社会のつながりが身の丈で感じられるとともに、生産、生活の何もかもを自分と身の回りの方々でこなしていくという充実感にあるのではないかと思います。自分が生産したものがどこで消費され、誰のためになっているかが分からず、自分からは見えない所、知らない人が作っているもので暮らしている今の社会が、人によっては安心できないというか不安定な砂上の楼閣に暮らしているように感じている方は、この田舎暮らしを求めるのではないかと思っています。しかし、それは決して多数ではありません。
同じ埼玉県の中でも、大多数の人間が多く暮らしていて需要が発生する都市の消費の現場とこのような身の丈に近い生産の現場が心理的に遠く離れ、それを繋ぐ流通等において相互理解の懸け橋となる情報が分断されていることが、お米離れ、木材離れといった現象をもたらしてきた一因であると思います。そして今、その解消を一層難しくしているのが、国民の所得が、全体的にもそして特に低所得者層で大きく目減りしているという現実です。
森林パートナーズさんの埼玉県内の需給情報の可視化・共有の取組が、このような心理的な乖離を取り払い、ローカルな顔の見える関係における生産と流通、消費の相互理解の下で、所得の格差を乗り越え、安定した暮らしができる地域社会の再構築が実践されていきますよう期待しております。