☆巻頭の一言
「2022年の年頭からの2カ月は、私のこのブログも、凄い活性に満ちていました。塩地博文さんと大谷恵理さんのお二人の次世代に向けた林業再生と山村振興の歩みが急に早まり、凄い活性を生んだのです。
今日から始まる、2022年3月も、期待の星に、ご登場いただきます。岐阜県郡上市の小森胤樹さんです。これは林業の次世代へ向けた改革において、意欲のある市町村に、改革で頑張ってもらおうと支援に乗り出している活動です。ここでは、この支援を進める林業側の熱心な専門家の結集から始めました。そして、熱気に満ちた支援団体、フォレスターズLLCが結成されました。この間の経過は、2020年8月25日から、同年12月1日に至るまでの5カ月間にわたって「フォレスター協会の設立(その1〜9)として、このブログで、ご報告いただいています。
この時の最後の報告ブログ「民間フォレスターによる市町村支援事業(その2)(参考資料2)」では、フォレスターズLLCが、市町村林務に対して、どんな支援が出来るのかを、詳細に述べ、「来るべき新年、2021年からは、この支援が具体的に始まります」と明るい希望と熱意を述べていました。
でも、具体化の一年は、一層苦難の連続でした。支援する側の体制は整いましたが、支援を受ける側の体制の構築は、想像を超えた難事でした。それは、江戸時代から続く伝統ある林業の仕事を、ここで大きく変えるということであり、それだけの難事なのです。いかに重い仕事かを痛感させられた一年でした。
でも、ようやく、この苦労の先に、輝く光が見えてきたのです。そこここに、具体的な動きが見えてきました。今は、まさに夜明けの前夜なのです。
ここで、具体例を報告するには、まだ、少し早いのですが、敢えて、今、この時に、現状の報告を発信していただくことにしたのです。
なお、フォレスターズLLCは民間企業ですが、主に市町村の森林監理を支援するこ
とを目指して設立されたものです。民間だからこそ出来ることもあるはずであり、私は、大きな期待を寄せています。(椎野潤記)
林業再生・山村振興への一言(再出発)
2022年3月(№186)
□ 椎野潤(続)ブログ(397) 小森胤樹ブログ フォレスターズ合同会社のその後について 2022年3月1日
☆前書
小森胤樹さんから、ご丁寧な寄贈文をいただいております。これを引用してブログを書きます。これまで、2020年8月から同年12月まで頻繁に報告をいただいていましたが、それから1年3カ月が経過しました。今日は、この間の経過を示す力作です。いよいよ、その成果の開花がまじかです。今日はこれを引用させていただきます。
☆引用(寄贈文本文)小森胤樹著
2020年12月に、椎野先生のブログで、市町村の林務行政支援のため、民間の森林総合監理士の組織の必要性を掲載させて頂きました。
そして、2021年7月に民間の森林総合監理士が集まった法人として、フォレスターズ合同会社(フォレスターズLLC)を設立しました。ここでは、まだ、ご存知ない方のために、改めて本法人の設立意義をお伝えさせてください。
2001年に林業基本法が、森林・林業基本法へ改正され、その後、市町村への林務行政の権限移譲がなされました。一方で、市町村においては平成の大合併で、森林の管理が広域になったにも関わらず、相対的に林務担当者は減らされることになりました。
2004年、民主党政権時代に、「森林・林業再生プラン〜コンクリート社会から木の社会へ〜」が発表されました。この中に「日本型フォレスター制度の創設」が掲げられ、当時そのポジショニング(注1)に期待をしたことを覚えています。このころの話を今の市町村林業行政に関わる方がどれだけ知っているでしょうか。
そして、2018年度、森林経営管理法(以下管理法)が施行され、同じ年に森林環境譲与税(以下譲与税)が市町村に譲与されることになりました。市町村へ法律という大きな権限と、譲与税という補助金ではなく、市町村の状況に合わせて柔軟に使えるお金が与えられることになりました。
管理法の施行からもうすぐ丸3年が経過します。市町村の置かれている状況はどうでしょうか。林務行政や森づくりの体制をこれまでしっかり作りこんできた地域は、管理法と譲与税をうまく活用できているかもしれません。でも、多くの市町村は、手探り状態だと思います。実際に2022年1月31日のニュースでは、2019〜2020年度、配られた500億の森林環境譲与税のうち、54%しか使われず、残りは基金として積まれているという報道がありました。
「森林監理」(監理と管理を使い分けています)は、50年100年先のゴールを設定し、ゴールに向かって今何をすべきなのかを落とし込んでいく、「バックキャスト思考」が必要です。市町村の人事制度において、長期にわたってその役割を担う人材を育成することは困難です。専門家を伴奏者にして、協働する必要があります。
我々は民間の森林・林業の専門家として、日々活動している「森林総合監理士」の集まり、組織です。多義に渡る森林監理であるゆえに、それぞれ得手不得手の領域があります。得意分野を生かしつつ、チームとして市町村のあらゆる困りごとに対応することで、日本の森林監理の力になれると考え、法人として活動を開始しました。
設立後、2021年11月には、本法人の設立説明会をオンラインで開催しました。どれくらいの方が参加してくれるだろうかと不安もありましたが、60名を超える方が申し込んで下さいました。
それも都道府県から市町村までの行政の方だけでなく、同じような立ち位置で林業界に参画している方まで、多様な立場の方にご興味もって頂き参加していただきました。
さらに、本郷浩二前林野庁長官にもご参加頂き、我々の活動に期待をしているという激励のお言葉を頂きました。
また、終了後のアンケートでは、このような組織の必要性を、多くの方に認識していただけたことが明瞭になりました。
その設立説明会の効果もあり、現在いくつか、連携して新しい森林監理の仕組み作りの話が進んでおります。まだ具体的に公開できる状況になっていないため、その時期が来ましたら、また本ブログにてご報告させていただきます。
譲与税は、先にも書きましたが、まだ始まったばかりのため、半分以上が使われず基金として積み立てられています。この状況が続いたらどうなるでしょうか。コロナ対策のため、多くの税金が未来への借金として、配られています。使われない譲与税がずっと配られるとは思えません。1700を超える市町村が、地域の実情に合わせた森林監理のために、有効に使っていくことが、是非必要です。様子見をするのではなく、何が必要で何をすべきなのか考え、では何から始めるのかというバックキャスト思考が、今こそ必要です。このブログをお読みになった市町村の担当者の方々、なんでも構いません、まず、相談することから始めませんか。(小森胤樹記)
☆まとめ
2022年2月22日のブログ(参考資料2)に、「生きていることの徹底的な究明」と題するブログを掲載しています。私は、最上流の林業から製材・プレカットを経て最下流の家作りに至る「縦連携結合システム」の人間集団である「サプライチェーン」を「生きている人間集団」として「一人の人間に」見立てて見ました。この人間集団は「生きてている」のですから、「人間」に例えることが出来るのです。そしてこれを、「林業再生と山村振興」の「根っこ」とすることを目指しました。
すなわち、この人間集団」を一人の人間とみなし、その人が未来の社会の姿を考え、未来に向けて目標を定め、「フィードフォワード制御(注2)を実施してくれることを期待したのです。
ここでは、以下の能力に期待しています。これは個別に説明すると以下の通りです。
(1)不確定な環境への対応力:私は、不確定な環境への対応力が凄いと考えている、九州の佐伯森林組合の名物部長に注目しました。「5年間ずっと失敗し続けていました」とこともなげに微笑みながら話されていた柳井調達部長に感動し、この方をモデルに丁寧に書いています。この人の存在で「みんなが笑って 前進している人間集団になってきている佐伯森林組合を「林業再生・山村振興」のモデルとして、全国に展開していきたいと考えたのです。
(2)自己組織化(注3):柳井さんは、ご自身の自己組織化力も強い人です。周囲のみんなを、「自分たち、それぞれを自己組織化する人」に自然に育てる人です。それも、命令したり、教えたりするのではなく、柳井さんが「みんなと近いところにいる環境」が、自然にみんなを育てるのです。これが「生きているシステム」のリーダーシップです。私は「林業再生・山村振興」改革のリーダーに、このリーダーシップを持つ、「林業・家作りサプライチェーンさん」を想定したのです。
(3)内部不安定性の保有:私は若い頃、TQC(注4)に傾倒し、プラン・ドウ・チェック・アクション(PDCA)のデミングサークルを回して、管理の徹底を目指していました。でも、管理の徹底が進むということは、「生きている姿」から離れていくことだったのです。ここに大きなパラダイムシフトが必要でした。すなわち、生きているために最も重視される機能である「自己組織化(注3)」は、システムの中に、それが起きるだけの余裕(緩み)が必要だからです。ここでは、システムの未完結が鍵を握ります。
(4)情報発信:情報発信は「生きているものの機能」の中枢です。生きているシステムを生かし続けるには、常に透明情報が発信され続けていなければなりません。柳井さんは、いつも微笑みながら「5年間失敗し続けていました」と、話し続けていました。このような情報発信が、みんなで「笑って前を向いて歩く」集団の空気を作るのです。
(5)フィードフォワード制御(注2):「生きているシステム」では、長期変動に追従していける様に、将来を予測し、それに出来るだけ合わせていく制御が極めて重要です。ここでは未来の姿を思い描く想像力が鍵をにぎります。でも、リーダー自身が、このうようなことが得意で、自分で企画したり命令したり、教えてやらせたりしたのでは駄目なのです。みんなに、自己組織化(注3)で「自分で秩序」を生成させ、みんなに足並みをそろわせて進ませる「空気」を醸成しなければならないのです。そうしなければ「みんな笑って、未来に向って前進する」集団にはなりません。
(6)他の経営戦略との連合:各地域には、地域の特性に合わせて「経営戦略」が策定されています。これと連合して、未来へと進む道を選ばねばなりません。これは「環境への対応」という機能の中の最も重要な項目の一つです。ても、「集団が生きており」個人も「システム的に生きている人間」になってくれていれば、きわめて容易に実行できるのです。日常の仕事ぶりで、ずんずん、調和して、みんなが一斉に未来向けて歩いていけるのです。(椎野潤 参考資料1を引用参照して記述)
戦後、長年にわたって林務行政は国や都道府県が主導権を握っていて、市町村は強くは関わらずに来ました。地方分権や行財政改革の大波を受けて林務行政を市町村が担当することにはなっても、林業がお金にならない、住民は森林に関心を向けない状況では、市町村長さんも力を入れて補強しようという発想を持てなかったということでしょう。実質的には都道府県に依存してきたところも多かったようです。そこに森林環境譲与税が交付され、森林をしっかり整備して保全しなさい、木材を使って(もらって)山元の森林を適切に管理してもらえるようにしなさいというお金が与えられたのですが、どう使っていいのか、どうすれば効果的に使えるのかわからない状態にあることは小森さんの報告にある通りでした。まさに、市町村の林務行政は死んだも同然の状態です。
小森さんの取組が先進事例となり、民間の林業技術者などがこのような市町村を支援して(1)から(5)の機能を働かせ、このお金を有効に森林の整備、保全、利用そして人材の育成に使えるように段取りして、市町村の職員自らが(6)に結びつけることで、直線的に市町村の林務行政を生きている状態にしてくれることを期待しています。(椎野潤・本郷浩二)
私(椎野)も、ようやく、人生の最終段階に至って、古い昔の研究を再発掘し、「システム的に生きている自分」に、再挑戦する決意を持てました。先日、討論で議論した、塩地さん大谷さんとも、「みんなで笑って未来に向って前進している仲間集団」になれていると感じています。長い間、時期の到来を待って、一緒に歩んできた伊佐さん、小柳さん、小森さん、森田さんも同様です。この空気の到来を感受して、みんなで一層、頑張りましょう。希望に満ちた次世代は、最近、大分見えてきました。
小森さんのフォレスターズLLCの仲間たちにも、このブログを読んでもらって、みんなで一緒に考えてください。お願いします。(参考資料1を引用参照して記述)
私(椎野)のこの記述は、私の「生きていることへの徹底的な究明」に照らして、これからの改革については、「全てこの発想でやってみていただきたい」と言うことを書きました。読者のみなさま、どうかよろしくお願いいたします。
(注1)ポジショニング(positioning): 森林・林業再生プランの時に示された、日本版フォレスターのポジショニング図(作成:小森胤樹)
(注2)フィードフォワード制御:目的を定め、これを達成するあるべき状態を推定し、これと合わせる制御。
(注3)自己組織化(self-organization):物質や個体が、系全体を俯瞰する能力を持たないのに関わらず、個々の自律的な振る舞いの結果として、秩序を持つ大きな構造を作り出す現象のこと。自発的秩序形成とも言う。
(注4)TQC(Total Quality Control): 全社的品質管理。
参考資料
(1)椎野潤(新)ブログ(395) 過去の研究(その1)生きていることの徹底的な究明(1) 生物的システムの特徴 2022年2月22日
(2)椎野潤(続)ブログ(267)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その9) フォレスターズLLCが、市町村林務に対して、どんな支援ができるのか 2020年12月1日
[付記]2022年3月1日
[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]
[指導を受けたブログ名:過去の研究(その2)建築市場研究 自己組織化 定時運行管理方式で職人たちの仕事は3倍できる 2022年2月25日]
大谷恵理様
ブログ配信ありがとうございます。
仕事がはかどると、つい追い越しがちになりますが、たしかに追い越しても、どこかで待たなければならず、チームワークは乱れたままで改善になりませんね。
定時運行管理方式で予定がたつようになると、前工程を信頼できるようになり、次工程に対しては、自分の工程を守ろうという責任が生まれると思います。
関係者の情報交換で事情を共有できるようになると、全員で工程分析、工程管理ができます。
実験の結果、集団が「生きている」状態になって、改革が進む空気が醸成されるというのは、貴重な成果報告だと思います。あらためて、現場は生き物なのですね。
酒井秀夫