☆巻頭の一言
酒井秀夫先生が、私が書いているブログに、貴重な論文を寄稿してくださることになりました。私は、とても、喜びました。その巻頭の一言を書こうと思い、酒井先生との出会いを書いた著書(参考資料1)の序文を読み返したのです。
これは、5年前の2017年1月に書いたものですが、読んでみると、今の世に、驚くほど、ぴったりの一文だったのです。ちょっと、引用します。(なお、この引用は、時間軸を「当時」から「今」に移して記述)
「2016年の春、私は80歳になっていました。もう、現役で働ける期間は短くなってきたと自覚して、最後にやって置かねばならない仕事は何かを考えました。ここでやるべき仕事は「国産材産業の創生」だと思い当たったのです。
そこで天命のように、東京大学の酒井秀夫先生と出会い、「現代林業」誌(参考資料1)への執筆をすすめられました。
丁度、その頃も、私は、毎日「ブログ」を書いていました。人口減少が続く日本の未来を心配して、「50年後の日本を考える」というテーマでブログを書いていたのです。その頃も、世界の産業は激動のさなかでした。日本国と日本人は、その中で生きていこうと苦闘していたのです。この荒波にもまれていたこの時代において、何を考え、何を決断しておかねばならないかを、私なりに、書いておきたいと考えました。
私は、5年前のこの時、以下のように書いています。
「林業の改革は」、これからの日本にとって最重要な課題です。そしてサプライチェーンマネジメント」は、そのための最高の良薬です。戦中戦後の国の非常時に伐り尽くされた山の木を、国を上げて植林しました。今、その木が、見事に育ちました。林業関係のみなさまには、数十年にわたり木が育つ間、休眠状態にあった産業を覚醒させ、創生させるために、「林業サプライチェーンマネジメント」を、総力をあげて推進していただきたいのです。」
この2022年3月に実現した、酒井秀夫先生の椎野ブログの読者への発信は、林業関係のみなさまに覚醒の端緒を提供したいと考えた、私の強い希求が根元にありました。これは、5年前の私の思いと、いささかも変わらなかったのです。でも、今回は、大御所、酒井先生に、ご出馬いただきました。読者のみなさまに、凄く大きな「宝物」が手渡されると思います。
林業再生・山村振興への一言(再出発)
2022年3月 (№192)
□椎野潤(新)ブログ(403) 「酒井秀夫ブロク」3月ブログ(その1)コロナが変えた社会 2022年3月22日
☆前書き
今日のブログは、「酒井秀夫ブログ」2022年3月ブログ(その1)「コロナが変えた社会」です。私、椎野潤は、これを、心を込めてお送りします。
☆本文
[コロナが変えた社会]
ご承知のように、人類をあざ笑うように、コロナ禍が2年続いています。マスクを着けて人との距離をとるようになり、社会や日常にもゆとりがなくなりました。友人とも直接会うことができなくなりました。このようなときに、椎野先生のブログに参加させていただくことになり、感謝の念に堪えません。
いまや情報は瞬時に世界を巡り、世界中誰とでも多人数で会話ができるようになり、テレワーク、ワ―ケーションが普及しました。テレワークは通勤時間を生産時間に変えました。ワ―ケーションでは、時間と空間の価値を気付かせてくれます。情報の壁や格差がなくなると、次は地方ならではの上質なアメニティ(快適性)が見直されるようになってくると思います。不便さを伴うかもしれませんが、生きる喜びや、映像では体験できないご当地ならではの絶品グルメなどを発見することができるかもしれません。
さて、人類は革命を3回経験しました。フランス革命、産業革命、情報革命です。産業革命によって、欧州では鉱山開発が進められ、都市が発達し、鉄道、新聞が普及しました。このままでは森林がなくなってしまうのではというくらいの勢いで鉄道の枕木と新聞は木材を消費していきました。そのようなときに石油が表れました。石油がなければ、森林はとっくに伐りつくされて人類は滅んでいたかもしれません。資源が有限であることに人類の知恵が追い付くまでに、石油はモラトリアム(注1)をつくりました。産業革命のつけが今気候変動という形で表れています。持続可能性という概念のもとに再生可能エネルギーによるエネルギー革命がはじまりました。
コロナ禍で税収増が見込めない中、コロナ対策の出費が大きなものとなっています。経済の立て直しと新たな社会の再生に向けて、従来とちがった経済成長が要求されます。グローバル経済依存から自給体制への見直しも必要です。
森林の価値を高めて、森林の出番になりました。森林が社会の表舞台に立つようになることは、人類の危機がせまっていることでもあります。あらたな森林の時代を迎えて、地域に活力を興すにはどうしたらよいか。資源の総合利用、農林一体の再構築、林業のサービス産業化など、思いつくだけでもいろいろな課題があります。国有林とか民有林とか、所有形態や経営規模によってもちがうと思いますが、ここで林業とは何かという根源的な問いについて考えてみたいと思います。
荒地に木を植えて育て、間伐などの中間収入で生計を立て、大きく育ったら材木として売り、植林を続けるという立派な成功事例も存在します。しかし、成長した林分を伐って、そこから造林代を捻出して循環資源に投資し、毎年伐採できるくらい経営面積を広くすることにより、単年度の収益を考えればよいというのが、大規模な林業事業体の考え方と思います。樹木の成長率が金利よりも高い10%を超えるような肥沃な林分では、搬出コストや更新コストが安く、将来の材木の価値が下落しない限り有力な投資対象となります。
しかし、木を育てて売るという林業は、誰もができるかというとそうではなく、場所や所有規模、経営意欲、経営能力などから限られていきます。いろいろな林業の政策がありますが、森林を所有する意義、所有する責任は何かについて議論する必要があります。
一方、木を伐ったり、植えたりすることで雇用が生まれます。そこで働く人の生活ファーストで、地域の環境を整備し、さらには地球規模で環境に貢献する、そのためのフィールドを提供することが林業の新たな使命であるという考え方もできるかと思います。
そうなると半林半Xの新しい林業の形が生まれると思います。単に木材を売るというだけの林業ではなく、農業や観光、教育、健康、福祉などいろいろな職業や産業にも触手をのばしていくことにより、タフで魅力的な働き方を創生していく道が拓けていくと思います。
☆まとめ
酒井秀夫先生から、今、日本の難しい重要な時期にあって、極めて貴重な、ご指摘をいただきました。私は、この論文を拝受し、幾つかの質問をさせていただきました。
まず、「ここで林業とは何ですか」先生の直感的なお気付きをお聞かせください。先生は、以下のように答えられました。
「林業には、広義には製炭、森林内での養蜂、養豚、狩猟、きのこ栽培、薬草や山菜などの林間栽培、レクリエーションなども含まれると思いますが、狭義には木を育て、木材を販売することで収入を得る森林所有者としての林業と、木材を搬出したり苗木を生産したり植林したりなどの労働の対価として収入を得る林業とがあります。その収入が世間の人件費に見合わないと、人材確保が課題となります。」
次に「森林を所有する意義」「所有する責任」は何でしょうか。これに対するお答えは以下でした。
「森林は私有財産で、人工林を所有している方は、家計の足しになるように植林された方がほとんどだと思います。財産形成だけでなく、きのこ採集や散策などフォレストライフ(森林生活)を楽しむこともできます。しかし、森林は水土保全など多面的な公益的機能を有し、地域の景観や風土を醸成します。自分だけのものではなく、地域総有の財産です。大きな改変は行政や関係者の合意も必要となります。手入れを放置して、病虫害の発生源にでもなったりすると、周辺の環境にも影響を及ぼします。森林を所有する以上は、相応の責任があります。」
さらに、論文は、以下のように記されていました。「働く人の生活ファーストで、地域の環境を整備し、さらには地球規模で環境に貢献する、そのためのフィールドを提供することが林業の新たな使命。そうなると半林半Xの新しい林業の形が生まれる。単に木材を売るだけでなく、農業や観光、教育、健康、福祉などいろいろな職業や産業に触手をのばしていく。」
この難しい時代において、多くの議論が沸騰する中で、先生は、本当に大事なことを、的確に指摘されました。さすが、日本の森林・林業を牽引するリーダーです。国と国民の歩む道は、きわめて明確です。
(注1)モラトリアム(moratorium):主に政府による一時停止や猶予、またその期間を意味する語。ここでは、資源が有限であることに人類の知恵が追いつくまでの間、石油が猶予期間を作ったと言う意味。
参考資料
(1)椎野潤著:椎野先生の「林業ロジスティクスゼミ」ロジスティクスから考える林業サプライチェーン構築、林業改良普及双書№186、全国林業改良普及協会、2017年2月20日
(2)椎野潤著:続椎野先生の「林業ロジスティクスゼミ」IT時代のサプライチェーンマネジメント改革、林業改良普及双書№189、全国林業改良普及協会、2018年3月15日
[付記]2022年3月22日。
[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]
[指導を受けたブログ名:大谷恵理ブログ 森林・林業復活への思い 2022年3月18日]
大谷恵理様
ブログ配信ありがとうございます。
今回は自己紹介をしていただきました。
6歳くらいのときに松の苗に出会ったのが天命かもしれませんね。寄り道や回り道はときとして試練になりますが、幸運な近道になります。
マツは砂地など栄養の乏しいところに育ちます。火砕流跡地にアカエゾマツが育ったりします。栄養が乏しくても育つのは、根のまわりの菌根菌が養分を供給しているからで、マツの小さな苗も土中ではすでに生きるドラマがはじまっています。その菌根菌の菌糸がキノコになったのがマツタケで、ありがたいです。
植物はなるべく遠くに種子を飛ばして、子孫を広げます。これからのご活躍を祈念しています。
酒井秀夫