□ 椎野潤ブログ(伊佐研究会第二回) 人々がつなぐ、人を暖める家/温める場所
今夏、伊佐ホームズの家づくりの中でハイスタンダードとなる物件が竣工しました。東京世田谷を中心に35年培ってきた伊佐ホームズの設計力を発揮し、プラン構成、意匠性を、断熱性能や構造性能などあらゆる面で高いレベルの住宅であり、お施主様をはじめ、さまざまな分野の有識者の方々からも高い評価を頂戴しております。この住宅ではその中で国産材の表現としても新しい表現に挑戦しました。リビング吹き抜けから居室に象徴的につながる勾配天井は、真鶴産の600年生クスノキの突板で仕上げてあります。重厚でありながら柔らかく照り返すその表情は大らかで、木材の生き生きとした生命力を感じさせます。また準防火地区という外部の仕上げに制約の多い条件のなかで、屋根の軒裏を木ひとn材で豊かに表しました。埼玉県秩父産材の垂木を化粧材としてリズムをつけ、化粧野地板は間伐材を活用したスギ板を活用しました。秩序のある構造の素性が明らかなその姿は美しく、配慮した寸法・形状、外壁の色とのバランスによって伝統的でありながら新しさも感じるデザインとなりました。森林パートナーズの提供する、地域材を構造材として活用する森林再生プラットフォームも活用しておりますが、このように地域の素材を美しく表現し、実績を積み重ねる事が地域工務店の家づくりとして大事なことであり、その美しさこそお施主様と地域材の価値を共感共創することに繋がります。
森林パートナーズが提供する構造材の情報も、多様性をもってお施主様・住宅消費者に喜んでもらえる情報、価値を認めて頂く情報として発信しなければなりません。使用構造材の寸法や、その原料となる丸太の立方数、また産地からの該当住宅の建設地までの輸送距離などがわかるので、二酸化炭素の排出削減・吸収量の数値化をし、お施主様に提供できるサービスをつくる予定です。これは今年の8月に改訂されたJ−クレジット制度(注1)とも連携して山への資金循環にもつながると期待しております。(J−クレジット制度で保留されている検討項目の「川下へのクレジット付与」が前進すれば、お施主様、需要側の方にさらなるメリットが創出されると考えております。)またそのカーボンニュートラル数値化サービスとともに、山主まで繋がった生産過程のトレーサビリティ情報、さらには家づくりの設計・施工に関わる情報を一体とした情報コードを該当住宅に付与することで、住宅の資産価値向上につながり、住宅の中古市場が活性化すると考えております。
去年から産業能率大学のゼミで、伊佐ホームズ、森林パートナーズの取組みを、原木調達の山元である秩父地域を対象としてインタープリテーション(注2)として発信する研究をしました。ある学生グループは「人々がつないだ秩父の木が、人を暖める/温める場所をつくる」と端的な言葉で表現してくれました。また他のグループでは「木材に描かれた紋章は、努力と信頼で築かれた未来への懸け橋となっている」とまとめてくれました。当社の取組みを消費者にPRする種がこの言葉にあると受け止め、BtoCの施策をすすめて参りたいと思います。
毎年恒例となっている家づくりのお施主様を中心に都市部の方々と一緒に、山元である秩父で一緒に植樹をするツアーが今年も11月12日に開催いたします。この活動を通して、都市と山、お施主様と山主を繋げ、木材のバリューチェーンを強めて参ります。また伊佐ホームズが立ち上げた任意団体「秩父FOREST」では、秩父での植樹会に加えて、「THINK FOREST 〜日本の森を考えよう〜」活動を開始いたしました。セミナーや展覧会など、多角的なイベントを企画して参ります。その大きな一つとして11月末に伊佐ホームズのギャラリーにて、日本を代表する脚本家、倉本聰さんの点描画展を開催いたします。倉本さんは、40年以上前に北海道富良野に移住しゴルフ場の開発跡地に種から育てた苗を植え、森の再生にも取り組んできており、20年前からは、森の木々や動物たちの気持ちを代弁するような点描画を描いています。その絵と添え書きは、いまこそ人間の狭い視野だけで自然を捉えず、時空を超える野性と感性が必要なことを教えてくれるようです。
ただイデオロギー的に木材活用を推進するだけではなく、文化的に森林の価値、木材の大事さを展開することは様々なかたちがあり、またそのように進める必要があると考えております。消費者が喜び共感する商品づくり、データ化、規格設定をしていくことが、肝要です。
(注1)J−クレジット制度:省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度
(注3)インタープリテーション:単なる情報の提供でなく実体験や教材を通し、事物や事象の背後にある意味や関係を明らか にすることを目的とした教育活動
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
SDGsという国連の目標やESG投資という資金調達の考え方に関する欧米(特に欧州)先進国のプレッシャーを感じてきた産業界は、政府による2050年カーボンニュートラル宣言を機会に、気候変動への意識を否応なく変えたように思います。その状況に対応するように、マスコミに喧伝され、カーボンニュートラルは消費者一般にも消費行動の重要な因子となってきています。言葉は悪いですが、猫も杓子も、カーボンニュートラルと言わないとモノが売れない、モノを買わない商品のトレンドが訪れています。
伊佐ホームズと森林パートナーズの取組は、その大勢の流れを無視することはないのですが、その先と言うか、もっと深い根源的な住まいという消費者の大事なモノに対するまなざしで、木材を消費行動に結びつけようとしています。
木材を単なる二酸化炭素の貯蔵庫として考えるような商品ではない、住まわれる方が幸せや安らぎを感じる住まいのために、椎野先生が絶賛された美しさと自然物の野性を提供しようとしています。どのような消費者がこのような住まいを選択するのか、しっかり分析するために色々な仕掛けも施されています。
手入れがきちんとされてきた木の価値を消費者にしっかりと分かっていただけるように、これからもお取組をお願いします。