椎野 潤(しいの じゅん) 2025年9(研究報告№151)
「巻頭の一言」
日本と韓国が国交を正常化して60年になります。両国の友好親善は進み、2024年度の自治体の交流件数は、過去10年間で最多となりました。距離が近く文化も似た日韓は、経済力も接近し、少子高齢化など共通課題も多く抱えています。自治体間では近年、
鳥取県江原道のように課題解決型の連携が目立ちます。2025年8月9日、日経朝刊、2面記事、(鈴木壮太郎、ソウル=藤田哲哉)を参照・引用して記述。
「日本再生][地域創生] 日韓自治体が協力で突破 鳥取県 IT導入や人口減対策
「はじめに」
自治体国際化協会(東京・千代田、注1)によりますと、2024年度の交流件数は、都道府県・市区町村合わせて350件となりました。韓国の革新系政権のもと、歴史問題に端を発した関係悪化と新型コロナ禍が重なり、2020年度は58件にまで、落ち込みましたが、2022年5月の韓国の保守政権への政権交代により改善が進みました。
2025年6月には、韓国では進歩派の李在明(イ・ジュミョン)大統領が就任しました。ここで、韓国の李大統領は、外交などで国益を最優先させる「実用主義」を掲げて、良好な日韓関係を維持する考えを示しました。これで日韓関係は一変したのです。
日韓の交流件数を、都道府県別にみますと、鳥取県が26件で最も多いのです。神奈川県が23件、北海道が22件と、これに続きます。
[鳥取県]
鳥取県は韓国北東部の江原道と友好提携を結んで30周年の2024年、平井伸治鳥取県知事が金鎮台(キム・ジンテ)江原道知事(注4)を訪問し、「若者活躍未来創造共同宣言」を採択しました。
鳥取県と江原道は、人口減少問題を乗り越え、若者が活躍する社会を協力して築くのです。
鳥取県と江原道は日本海の対岸に位置し、定期船が運行します。山間地が多く、平井鳥取県知事は「若者の都市流出など問題意識は日韓で共通します。韓国で起きていることは、我々にも参考になるのです」と話しています。
金知事は鳥取から学んだ点として、「障害者福祉政策」を挙げ、「一緒に幸せな社会づくりに取り組んできた」と話しています。
平井鳥取県知事は、「鳥取県は30年間で、27人の職員を江原道に派遣し、江原道の職員39人を受け入れました。県政への意見や要望を県のサイトで受付け、翌開庁日に担当部署と共有する『県民の声』の手法は、韓国の方法を参考にしました。楽しくウォーキングできるアブリの導入など、ITを使った健康増進策も韓国から学んだのです。秋には双方の大学生を集め、地域課題をテーマに「ワークショップ(注5)」を開く予定です」と話されています。
[徳島県]
徳島県と韓国南部の済州道(注6)は「地域課題の解決」を交流目的に掲げています。人口はいずれも70万人弱で、総生産額は200億ドル前後です。豊かな自然に恵まれ気候が温暖で農業が盛んであること等、共通点が多いのです。2025年1月に交わした覚書には、「再生可能エネルギーや環境、観光、農林水産など、お互いの進んだ取組みを学び合いいましょう」と盛り込みました。
後藤田徳島県知事は、済州道の「環境対策」に強い関心を寄せています。先進的な取組みで知られる徳島県上勝町の廃棄物リサイクル率は、後藤田知事の自慢の79.9%なのですが、済州道は、実に84.9%に達しているのです。電気自動車も徳島県の累計販売台数が2700台なのに対して、済州道2023年時点の普及台数が4万台なのです。
「知れば知るほど学ぶべきことが多い」と徳島県の後藤田知事は驚いています。済州道の呉 怜勲 (オ・ヨンフン)知事(注2)も「上勝町は街全体が環境保護や資源循環に積極的です。地方都市の可能性と魅力を感じます」と関心されています。
[おわりに]
韓国は2023年から、日本にならって「ふるさと納税」制度を導入していましたが、日本ほど寄付額は伸びていないのです。東京都墨田区には成功のヒントを探ろうと韓国からの視察団が相次ぎ訪問しました。
日韓の経済は、日本においては1960年代に、韓国においては1970年代に、見事に離陸しました。かっては、主に韓国が、日本を指標としてきましたが、様相は変わりつつあるのです。
日韓行政に詳しいソウル大学の韓国行政研究所の高木桂裕補助研究員は「急速な少子化への対応やデジタル技術など」の韓国の急進化を、日本が参考にし始めたのです。日韓は、今や、学び会いの時代を迎えているのです」と分析しています。2025年8月9日、日経朝刊、2面記事、(鈴木壮太郎、ソウル=藤田哲哉)を参照・引用して記述しました。
[まとめ]
この研究報告の執筆で参照・引用した日本経済新聞2025年8月9日の朝刊2面記事に、三つの図表が記載されていた。韓国自治体との交流件数のランキング。(注)自治体国際化協会調べ。交流件数は都道府県と市区町村の合計。日韓自治体交流は急増している。(韓国の自治体との国際交流数)。実践的な自治体連携が増えている。
[図表1]
2025年8月9日の日経新聞紙上に、2024年度の韓国自治体との交流件数を示す図表が記してありました。これを図表1としました。これは「2024度における日韓両国自治体間の、交流件数のランキング」を示す図表でした。
ここでは、その4群を整理しておきます。
(1) 第1群、交流件数20件以上。(交換件数が最も多いところ)。
(2) 第2群、交流件数10〜19。(交換件数が次ぎに多いところ)。
(3) 第3群、交流件数1〜9。(交換件数が最も少ないところ)。
(4) 第4群、交流件数0。(まだ、交換がないところ)。
この第1〜4群の内容について述べます。゛
[第1群]
ここで第1群は、日本の自治体と韓国の自治体との交流件数が、20件以上あるところです。交流件数を都道府県別にみますと、鳥取件が26件で最も多く、神奈川県が23件、北海道が22件とこれに続きました。これを黒に色塗りしました。2024年度での第1群は、交流件数が最も多い、鳥取、神奈川、北海道の3か所です。
[第2群]
第2群は、交流件数が10〜19件のところです。それを都道府県別にみますと、これは11か所ありました。それは以下です。新潟県、富山県、東京都、神奈川県,愛知県、岡山県、広島県、山口県、福岡県、長崎県、鹿児島県の11か所でした。これを濃い紫色の右斜線で塗り分けました。第2群は、第1群に次いで交流件数が多い処で11ヶ所です。
[第3群]
第3群になると、ぐっと数が多くなるのです。29ヶ所あります。結局これが、このプロジェクトの、今の主力部隊なのです。
交換実績が、まだ1〜9件のこの3群の中に、優秀な地域がうごめいています。この人達にも、トップを狙って頑張ってもらわねばなりません。それば以下の人達です。青森県、秋田県、山形県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、山梨県、長野県、石川県、福井県、京都府、大阪府、奈良県、和歌山県、兵庫県、島根県、佐賀県、大分県、宮崎県、熊本県、沖縄県、愛媛県、香川県、徳島県、高知県の29か所でした。これは紫色に塗り分けました。
このプロジェクトでは、最も有能と思われる大集団が、成果では最少の集団なのです。このプロジェクトは、まだ、始まったばかりなのです。これからが勝負所なのです。
[第4群]
第4群は、指定校割合が0%の処で、指定校が、まだ、皆無の地域です。岩手県、群馬県、岐阜県、三重県の4県では、まだ、指定校が出来ていないのです。この4県は、わが国の改革で、常に健闘してきた「しっかりした地域」です。立ち遅れて、今、一生懸命にやっていると思いますが、どうか頑張って、トップを脅かす大活躍をしてください。
このブロジェクトは、まだ、始まったばかりですが、みんな、一生懸命やっています。今、どうすれば良いか、ようやく目途がついてきたところです。今が基も大切なところです。都道府県も市区町村も、国民みんなも、総力あげて、この活動を加速してくたださい。
[図表2]
図表2(注12)は、「日韓の自治体交流は急増している(韓国の自治体との国際交流件数)」と題した図表でした。これは日本経済新聞の2025年8月9日の朝刊に掲載されていた図表でした。これは以下です。
この図表2では、その左側縦欄に、50、100、150、200、250、300、350件と「韓国の自治体との国際交流の件数」が記されていました。また、下欄横軸には、2015年度、18、21、2024年度と「年度」が記してありました。さらに、
図表2の下部の「注欄」には、「自治体国際交流協会調べ。都道府県と市区町村の件数の合計」と記してありました。
この「交流件数」と「年度」を用いて、「韓国の自治体との国際交流件数」の折れ線グラフが記されていました。
このグラフが書かれている2015年度から2024年度への10年間の間に、大きな出来事がありました。2020年度に、歴史問題に端を発した「日本・韓国間の関係悪化
」が発生し、コロナウイルス禍(注8)という困難な事態も生じました。
これで2015年度に300件あった「国際交流件数」は2020年度には、58件にまで、急落したのです。しかし,2021年度からは、一転上昇に転じ、2020年度の谷底かち、一気に2024年度の350件に駆け上ったのです。この図表2には、深い厳しい谷底とここらの脱出が描かれています。
そうして、2024年度には、2015年度の300件を超える350件を達成したのです。今も拡大を続けており、今後、大きく伸びることが期待されています。
[図表3]
図表3(注13)は、「実践的な自治体連携が増えている」と題した図表でした。これは以下です。
この図表3には、日本・韓国間の実践的な連携の事業内容が記されていました。
図表3 実践的な自治体連携が増えている
日本 韓国 実質的な事業内容
鳥取県 江原道 30年間に66人を相互派遣。部局レベルで日常的に
情報交換。
徳島県 済州道 地域課題の解決へ覚書。SDGs(注9)の達成や、観
光で連携。
北九州市 仁川市 定期便の利用促進と人材交流拡大で覚書。議員の相互訪問。
香川県三豊市 慶尚南道 友好協定で30年近く交流。 民間が「高麗人参スプラウ
挟川部 ト事業。
東京都墨田区 ソウル市 首長ら代表団が相互訪問。行政や公共施設を視察。
西大門区
大阪港湾局 京畿平沢港 パートナーシップ港(注10)提携で覚書。釜山港とも
公社 姉妹港。
この図表には、連携している日本・韓国の自治体と実施している事業内容が列記してあります。連携しているのは、日韓両国の主要な自治体で、多様な事業内容が見られます。
[まとめ]
日本と韓国は、今、素晴らしい活動を開始しています。「若者活躍未来創造共同宣言」を採択して、人口減少問題を乗り越え、若者が活躍する社会を、構築して行こうとしているのです。
これは希望ある未来に向けて、素晴らしい活動です。この活動は、今、鳥取県、徳島県、北九州市、香川県三豊市、東京都墨田区、大阪港湾局の日本側の各地と、江原道、済州道、仁川市、慶尚南道挟川部、ソウル市西大門区、京畿平沢港公社の韓国側の各地が連携して、積極的に実施されています。
ここでは、この中での代表例である、鳥取県と徳島県の事例を取り上げて、お話ししてみましょう。
[鳥取県と韓国江原道の連携]
鳥取県は韓国北東部の江原道と友好提携を結び、同県の平井伸治知事が、高原道の金鎮台(キム・ジンテ)知事を訪問し、「若者活躍未来創造共同宣言」を採択したのです。そして、人口減少を乗り越え、若者が活躍する社会を協力して築くことを話し合ったのです。
鳥取県と江原道は日本海の、丁度対岸に位置し、両地域の間は定期船が運行しています。
両地域は美しい日本海に面し、国土の中は緑豊かな風光明媚な地域で、観光地として、世界の観光客が、多く集まる名所ですが、人口減少が続き、その解消の目途がたたないなど、
共通の悩みを多く抱えています。両国の友好親善の関係は、すでに長く、30年に及びますが、ここで一層の発展を目指そうと、2024年に、平井鳥取県知事が、韓国を訪問し、江原道の金鎮台(キム・ジンテ)知事と会談し、じっくり話し会い、その結果として「若者活躍未来創造共同宣言」を採択したのです。これは、有意義な会談でした。今後、両地域の連携による大きな成果が期待されています。
[徳島県と韓国済州道の連携]
徳島県と韓国南部の済州道とは、「地域課題の解決」を交流目的に掲げて、交流親善を進めています。人口はいずれも70万人弱で、総生産額は200億ドル前後です。両国は、豊かな自然に恵まれ、気候が温暖で、農業が盛んであること等、共通点はとても多いのです。2025年1月に交わした覚書には、「再生可能エネルギーや環境、観光、農林水産など、お互いの進んだ取組みを学び合おう」と盛り込まれました。後藤田徳島県知事は、済州道の「環境対策」に強い関心を寄せています。先進的な取組みで知られる徳島県上勝町の廃棄物リサイクル率は、後藤田知事の自慢の種で79.9%ですが、実は済州道では、に84.9%に達しているのです。電気自動車も徳島県の累計販売台数が2700台なのに対して、済州道2023年時点の普及台数は4万台なのです。徳島県の後藤田知事は「知れば知るほど学ぶべきことが多い」と驚いています。一方、済州道の呉 怜勲 (オ・ヨンフン)知事も「上勝町は街全体が環境保護や資源循環に積極的です。地方都市の可能性と魅力を感じます」と関心されています。確かに、この両地域の活動は、見事に凄いのです。2025年1月の提携の見直しで、両地域の連携による活動は、一層、激しく盛り上がる事でしょう。私は、大きな期待を寄せています。
日本と韓国との連携協力には、もう30年以上の歴史がありますが,両国の関係は、今、
「変わり目」に来ているのです。かっては、韓国は主として日本を指標にしていましたが、今は、様相が変わりはじめているのです。
最近は、日本が韓国の事例を参考にし始めているからです。韓国の「急速な少子化への見事な対応」や、「デジタル行政の急進化」などは、目を見張るものがあるからです。
日韓は、今、「学び会い」の時代を迎えたのです。これには、世界各国が、大いに注目しています。
(注1) 自治体国際化協会は、 地方公共団体の国際化推進を目的として1988年7月に設立された一般財団法人である。英称は Council of Local Authorities for International Relations、 略称: CLAIR。 現在の会長は 村井 嘉浩 「宮城県知事 (全国知事会 会長)」である。
(注2) 呉 怜勲 (オ・ヨンフン)は、韓国の政治家。現在 済州特別自治道知事。
(注3) 平井 伸治は、日本の政治家、自治・総務官僚。鳥取県知事(公選第17〜21代)、智頭急行会
長、デジタル田園都市国家構想実現会議構成員。無所属。全国知事会会長(第14代)、新型コロ
ナウイルス感染症対策分科会委員、鳥取県副知事などを歴任した。
(注4) 金鎮台(キム・ジンテ)知事は、大韓民国江原特別自治道の知事である。金鎮台知事は、最近、強い自信を持っている。毎日経済とインタビューしながら「犠牲と譲歩だけを強要されていた江原道が、何でもできる地域に変わっている」とし「道民だけを眺めなながら一周するつもり」と話していた。 彼のこのような自信は、この3年間の目に見える政策成果から始まったのである。 民選8期の最大の成果は、2023年6月の江原特別自治道発足に伴う制限の緩和だったのである。キム知事は最近、毎日経済とインタビューしながら「犠牲と譲歩だけを強要されていた江原道が何でもできる地域に変わっている」として、「道民だけを眺めながら一周するつもり」と、強気に話していた。
(注5) ワークショップとは、参加者の主体性を重視した、体験型学習講座である。本来は「作業場」「仕事場」を意味する言葉であるが、そこから転じて現在は、参加者が共同で研究や創作を行うグループ学習や研究集会を指すようになった。学校のオリエンテーションや地域おこしのイベント、企業の研修や集会などに用いられている。
(注6) 済州道 は 大韓民国(韓国)本土南西部に位置する地域である。これは済州島全体と牛島、馬羅島などの付属小島嶼からなっている。 国防や外交を除く多くの権限を持っている特別自治道である。
(注7) 自治体国際化協会は、地方公共団体の国際化推進を目的として1988年7月に設立された 一般財団法人である。 英称は Council of Local Authorities for International Relations、 略称: CLAIR。 現在の会長は 村井 嘉浩 「宮城県知事 (全国知事会 会長)」である。
(注8) コロナ禍とは、2019年末から続く新型コロナウイルス感染症の流行による困難や危機的状況
を指す言葉である。「コロナ禍」のうち、「コロナ」は「新型コロナウイルス」を意味し、「禍」は
「災い」や「災難」を意味する言葉である。
(注9) SDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)は,2015年9月の国連サ
ミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載
れた,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である。17のゴールと16
9のターゲットから構成されている。SDGsは、発展途上国だけでなく先進国自身が取り組むべきものであり,日本としても積極的に取り組んでいる。
(注10) パートナーシップ制度:パートナーシップ港は、パートナーシップ制度を導入した港である。
日本ではじめてパートナーシップ制度が導入されたのは、東京都渋谷区と世田谷区。いずれも2
015年より、渋谷区では条例による「パートナーシップ証明書」の発行、世田谷区では「同性
パートナーシップ宣誓」を通じた「パートナーシップ宣誓書受領証」交付を開始した。以降、各
自治体でも続々とパートナーシップ制度への取り組みが広まり、現在では450以上もの市区町
村で導入。さらに25の都府県においては、市区町村単位ではなく都府県全体としてパートナー
シップ制度を取り入れている。、
(注11) 日本経済新聞2025年7月26日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。韓
国自治体との交流数ランキング。(注)自治体国際化協会(クレア)調べ。交流件数は都道府県と市区町村の合計。
(注12) 日本経済新聞2025年7月26日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。日韓の自治体交流は急増している。(韓国の自治体との国際交流件数)。
(注13) 日本経済新聞2025年7月26日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。実践的な自治体連携が増えている。
(1) 日本経済新聞、2025年7月26日、朝刊(2面)。
[付記]2025年9月8日。
森林パートナーズ取締役社長 小柳雄平 −日韓の交流と森林地域の発展について
日本と韓国の歴史については、大変機微に触れるところがある話なので、生半可な知識で語ることはできません。ここでは、私の経験に基づいた話をします。
13年前になりますが、「道〜白磁の人〜」という映画が公開されました。浅川巧という実在の林業技術者をめぐる実話をもとに、江宮隆之が著した伝記小説を映画化したものです。主演の浅川巧役は、今、映画「国宝」で大評判の吉沢悠、監督は高橋伴明です。私は小説を読んでいませんので、うろ覚えですが、映画の印象を語ります。
朝鮮占領時代、朝鮮総督府山林課に赴任した山梨県八ヶ岳南麓の村の出身の林業技術者(前任地は秋田の国有林だったらしい)が浅川巧、当時まだ20代前半の若者です。朝鮮の民芸(白磁器や木器など)の美しさにのめり込みます。朝鮮の人民、文化を蔑んでいた日本人の中にあって、朝鮮の言葉を学び、朝鮮の人民との共生、朝鮮の民族文化の維持?へ傾倒していきます。朝鮮総督府に林業試験場のような試験研究機関ができるとそこに移ります。当時、朝鮮半島の森林は度重なる伐採により荒廃していき、緑化が必要でした。日本からの林業技術者は日本の林業の主要樹種(南部では秋田杉など北方のスギ、北部ではカラマツなどを持ち込もうとしていました。しかし、浅川巧は、地元の木で緑化することを目指していました。広葉樹も植えていますが、やせ地、乾燥地に強い朝鮮松(チョウセンゴヨウマツのこと?朝鮮半島にはアカマツもあるけど)という地元産の樹種の苗木の短期増殖、植林を目指しました。その土地の木を植えることが、自然にも樹木にもふさわしいというような民族、文化と同様な思いがあったようです。
その松の種を採取しにあちこちを回っているうちに、さらに朝鮮の人々、文化に共感と敬意を持つようになったようですし、朝鮮の方たちを植民地主義的上下関係では見なかったようです。そののちのJICAの技術協力に通じるものを感じました。住民に反日動乱が起こったときは、浅川巧を襲うことは止められていたようです。
40歳の若さで亡くなりましたが、墓地は朝鮮の人たちの共同墓地に埋葬され、その際には多くの朝鮮人が棺を担ぎに参列し、大行列になりました。韓国独立後、林業試験場の人たちが新たな墓を建ててくれたそうです。
「韓国の山と民芸を愛し、韓国人の心の中に生きた日本人、ここに韓国の土となる」
という碑文が掲げられているそうです。
先生のブログを読み、真っ先に、この映画のことを思い出しました。当時、色々と忙しい時期だったために、原作の小説までは手が出ませんでしたが、林業技術者としての本望を感じるため読んでみようと思い返しました。
過去、特にこの日本の朝鮮併合の桎梏に絡めとられてきた日本と韓国の関係ですが、お互いの民族への共感、文化への敬意をきちんと持てば、道は開けるのでしょう。そう言えば、この映画の公開は、日本国内で、韓流ドラマのブームに次いでK・POPが流行した時期でした。文化というものの交流は、人の頑なな心を溶かすものなのかなと思った時代ですが、その後、再び、その交流は冷えてしまいました。もちろん、政治的交流の冷えですが、Androidを始めとしたサムスン電子などの韓国企業の台頭と無縁ではないと思います。日韓が張り合う時代となって、韓国国民の対日感情、日本国民の対韓感情に大きく影響したのだと考えています。
その微妙な時期に、林業の分野では、日韓交流が続けられていました。日韓交流、日韓中の三国間会議というのがあり、2回訪韓したことがあります。一度は済州島、一度はソウルです。済州島は韓国南端の島ですが、その山はスギやヒノキの人工林でした。浅川巧の時代の証人かもしれません。
韓国と日本の林業技術分野の交流の記憶に関しては、一つは砂防事業がありました。砂防事業は国土交通省の所管ですが、学問的には林学の中です。林野庁所管の治山事業との技術的交流も行われています。
もう一つ、私が訪韓したころの韓国山林庁の長官は日本で森林浴という分野を学ばれた研究者だったため、当時の韓国山林庁は森林浴の普及拡大に大変注力していました。森林浴のための大々的な国営施設を作っていました。森林浴を行うだけでなく、人材育成、関連商品の開発、森林浴活動の国民への普及など森林浴を広め産業化していこうという話でした。インターネットで確認すると、国立山林治療院という記事がヒットしました。2016年設立の600名収容可能な森林浴施設で、名前の通り、森林医療という分野に足を踏み入れていました。日本では、いまだ、健康保険の本適用だされていない森林浴ですが、それを目指して、医療データの蓄積を行ってきています。病気を治すのではなく、未病という段階で病気を予防する医療行為に認めてもらおうとしていますが、なかなか進みません。国際自然・森林医学会という学会も作られ、日本の研究者が会長となって運営されていますし、国内では、日本森林医学会という団体も作られて、学会の日本支部と共同で森林浴の普及と医療化を進めてきています。
森林浴はShinrinYokuとして、世界共通の言葉になっているほど、世界各国に広まっている活動です、医療行為として認めている国もありますし、研究も進んでいます。ぜひ、すでに先を進んでいる韓国に学び、連携して、森林浴発祥の日本で、森林浴の医療効果を制度的に認めていただいて、国民の健康の増進と森林地域の産業の振興に寄与していくようになってほしいものです。日韓お互いに森林浴旅行に訪れるツアーなどが盛んになっていくようになれば、その地域の森林の働きに国民の目も引き付けられるのではないかと期待しています。
丁度、昨日、新しい韓国大統領の李在明氏が訪日され、未来志向の協力を進めることを共同発表しています。両国のワーキングホリデー査証を1回から2回に拡大することに合意し、若者を中心とした交流・連携の芽を育てていこうとしています。少子高齢化や人口減少、首都一極集中問題、防災といった共通の社会課題について協議していくことも確認されたとのことです。ぜひ、森林浴や砂防、地方の創造といったことも俎上に乗せるように、政府内で進めていってほしいですね。
日韓連携の機は熟しました。その実現のためには、浅川巧のようにとまでは言いませんが、お互いに、地域の基盤となっている森林やその他の自然、地域住民の暮らしと文化について、敬意をもって理解するような交流が無ければなりません。また、歴史認識の齟齬は、物事をされた側とした側の認識の違いであり、相手の立場に立つことなく埋められることはありません。特に、これまでの応酬のやり取りについても、した側はされた側の立場や思いを理解しなければならないと思います。
これは難しいことですが、そのことなしに、この世の中の歴史的な諍いはなくならないでしょう。どこまで努力できるか、どこまで容認できるか、お互いが試されるわけですが、日韓双方の国民の生活文化的交流を進め、相手を理解し、共感していくことが大切です。地方と地方の取組の方がそれに近づきやすいものと思います。
以上