□ 椎野潤ブログ(伊佐研究会第21回) 日本酒業界に学ぶ
伊佐ホームズの家づくりを通して東京西小山にある「利田屋/カガタヤ」(以外「カガタヤ」)さんとご縁を頂戴しました。カガタヤさんは昭和5年創業の老舗酒類小売業で、今では日本酒120蔵、焼酎70蔵、日本ワイン50蔵と直接取引をする日本のお酒に特化した名店です。酒類の国内市場が縮小している中で、カガタヤさんは「和酒の価値を上げる」、「社員の幸せ」という理念のもと、社員15名で1日約1000本も販売するという驚くべき経営を継続されています。
カガタヤさんの経営として学ぶべきことは多くありますが、特に行動指針として掲げておられる「市場を創る・価値を創る・文化を創る」、「売りたいものを売る」というご姿勢に感銘を受けます。「造り手の商品を売るだけの売り手に留まらない。常に創る意識を高く持ち、自ら考え行動し、創り手として面白さをカタチにする。」「売れるものを売るのではなく、売りたいものを売る。売りたいものとは、伝えたいもの。商品を厳選し、モノの本質を伝えていく。」と語られています。カガタヤさんは店をあげてソムリエのような知識を学び、また美味しく楽しいという体験とともにお客様へ価値を伝え、共感を得て市場を構築しております。そうして自ら創った市場の需要情報を直接つながる蔵元へ伝え、安心と信頼のある供給体制を構築しております。また個人客だけではなく、料理店などとつながる市場も創り、お客様のところへの配送にも工夫をし、前述のような小売店としては信じられないほどの売上をされております。まさに価値づくりと需要を基点とした流通改革で、木材流通改革を推進する伊佐ホームズ、森林パートナーズとして共感致します。
日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されたこともあり、日本酒業界の新しい動きを報道等で目にすることが増えました。三重県出身の若い女性が、「歴史ある酒蔵を未来に繋ぎたい」という思いで新潟県長岡市の酒蔵を継承し、同じく他県から移住してきた杜氏、マーケティング、米づくりの担当者と一緒に、日本酒に親しみがない人にも手に取ってもらえるような新しく自分たちらしい日本酒の味わいを生み出したということがNHKで紹介されていました。また日本酒のさまざまな味わいを、電子部品メーカーの技術で、「甘さ」、「酸味」、「味の余韻」、「濃淡」、「複雑さ」の5種類の味わいを五角形のチャートとして数値化し、未体験の日本酒選ぶことなどに役立たせるという新しい価値創造も開発されています。
日本酒づくりに関わる課題と、家づくり(特に在来軸組の木造住宅)と林業に関わる課題とはとても近いことが多くあります。原材料の供給不足、担い手不足、趣向の変容など様々です。これらは特に国内では人口減少の世の中で、これまでの生産中心の体制では対応できません。市場をつくり、価値を高めて、経済的循環を作る必要があります。日本酒業界をみて、改めて木材流通業界にも、他業種や他地域からも入りやすい環境づくり(作業簡易化、軽減化やコミュニティへの入り易さ、など)や、ITを活用とした物流改革、ストーリー性を重視のマーケティング、地域と連携したプロモーション、産業関連系による相乗効果などの必要性を感じます。受け身的で保守的な経営から脱却し、他業界また歴史から学び、時代に合わせた自身の変容を推進することが肝要です。
まもなく創業100年を迎えるカガタヤさんと伊佐ホームズでは、次の100年を見据えた酒文化の発信地を創ることを計画しております。美味しい酒と食と、美しい街並みの交流の場をつくり、文化創造、価値共創をしていきます。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
「市場を創る、価値を創る、文化を創る」、木材についてはどれもできていない話で、忸怩たるものがあります。
戦後には、ヒノキやケヤキでこのようなことを実現できたのでした。昭和30年頃には、スギとヒノキの丸太の単価はほぼ同じでした。高度経済成長とともに、総ヒノキ造りといった高級な住まいの文化を創り、ヒノキの価値(単価)をスギの倍以上に引き上げ、ヒノキの優良建築材としての市場を確立したのです。昔からの寺社やお邸建築に使われた高級材のケヤキですが、高度経済成長とともに、一般家庭や店舗などの大黒柱、家具、建具などに使われるようにして、都市の家にも大黒柱にケヤキという文化を創り、ケヤキの価値(単価)も高騰させ、広葉樹の銘木と言えばケヤキという市場をあらためて創ったのです。
今、人口が減り、一般家庭の所得も減り、経済減速の世の中で、ヒノキやケヤキの価格も低落してしまいました。もう、(人工林の国産木材で、)同じようなことを行うことは無理だなあと思っていました。価格も相場で決まりがちなので、費用の価格転嫁さえもままなりません。建築資材市場への新参者になってしまったスギの一般材などは輸入木材と比べて−1万円、−2万円などという値差(価値?)が市場で定着してしまっています。安くないと買われないのです。
日本酒は需要が減ってきていますが、私がお酒を飲み始めた45年前頃に比べて、圧倒的に美味しくなっていると思います。昔の安酒(二級酒)を呑んでいた身からすれば、今のお酒の味(品質)の向上努力は素晴らしいと思います。そしてその分標準的な値段も高くなっていますね。これらは酒税の決め事に関する制限緩和?の効果も大きかったのだとは思います。
木材については、耐震、環境に関する建築基準がどんどん厳しくなっていく現状にありますが、こちらはその制限をクリアする品質向上の努力をするとか、あるいは建築構造以外の面での利用や需要を開拓・変革する、外国に打って出るなど、未来に向けて「市場を創り、価値を創り、文化を創り」、諦めず弛まず行動していかなければならないと思いを新たにしました。