森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて「古きをたずね思いを新たに」

□ 椎野潤ブログ(堀澤研究会第6回)  森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて「古きをたずね思いを新たに」

堀澤正彦 

 数回にわたって綴ってきた森林資源の倉庫化。もう少し書こうと思っているのですが、今回はまとまりがつかず原稿の手が止まってしまい一休みです。代わりに、Amazonのおすすめ書籍に突如表示された「日本の森林 国有林を荒廃させるもの」という刺激的なタイトルの本を読んで思ったことを記したいと思います。

 著者は森林生態学の権威で京都大学名誉教授であった故四手井綱英先生。名前は存じ上げていたものの、著作にふれるのは初めてでした。しかし、何といっても好戦的な本のタイトルは私好みです。届いた本は1974年に発刊された本のデッドストックで、当時らしい味のある装丁がほどよく黄ばんで興味をかきたてます。

 内容を大雑把にまとめると、1950年代から60年代における拡大造林政策をはじめとした戦後の林野庁の施策方針に対する批判、民有林も含めた造林技術や方向性の誤解を憂慮するものでした。内容の個々に関しては、さすが興味深い考察ばかりでとても参考になるとともに、読みながら耳や心がいたくなることもしばしばありました。そして、昔も今も近視眼的な施策や思考に森林管理や林業活動が踊らされているような気がして、少しばかり悲しくもなりました。

 ネットで調べると先生は2009年に他界されています。それから数えても15年が経ち、先生の心配をよそに、結果としてもたらされた膨大な人工林の扱いに右往左往する現代の姿があります。本に書かれた時代とは状況が違うと思いますが、森林を資源としていかにして活かし、維持して行けばよいのか。義務的な発想ではなく、精神性をもって思考しなければと反省しつつ、森林資源の倉庫化を実のあるものにしなければとあらためて思うきっかけとなりました。

☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

 拡大造林政策を例にあげて、人工林の在庫を目の前にして、近視眼的な施策や思考に森林管理や林業活動が踊らされていると問題提起しておられます。

 拡大造林政策に関しては、結果論の立場に立てば突っ込みどころ満載です。当時、日本の都市は焼け野原、森林はハゲ山、薪炭林は燃料革命でその価値を失いつつありました。一方で、木材繊維が短いために製紙原料には不向きとされていた広葉樹もクラフトパルプやセミケミカルパルプなどの発明で、段ボールに使うことができるようになり、広葉樹から針葉樹への林相転換の下地ができました。こうして毎年35万から40万ヘクタールの造林がなされたわけですが、高度経済成長に突入するようになると、若者は都市に吸収され、間伐はコスト的にあわず、折角の人工林も放置状態となっていきました。ドイツではカール・ガイヤーが『混交林』(1886)という著書の中で、育成単層林にはすでに警鐘を鳴らしていたのですが、将来、大量の単一樹種が花粉症を引き起こしたり、少子化が進んで建築材の需要にも影響があるなど、そこまで予測しえたでしょうか。木を育てるには長い時間がかかります。その間に社会や経済も変わります。北海道の銘木市などで高評価を得ている樹木はだいたい250年生以上です。わたしたちは林業に対して相当せっかちかもしれません。

 北海道では、開拓が始まった明治、大正の頃から、耕作不適の荒廃地にカラマツが植えられていました(板東忠明「カラマツの来た道」(山林2021〜2022年連載)。郷土樹種でないカラマツを植えることに対して今ならば反対があったかもしれませんが、北海道はカラマツの適地でした(ちなみに氷河期の北海道はカラマツの仲間のグイマツで覆われていました)。カラマツの種子の豊作年は5、6年間隔で、苗木や種子の争奪や、適正な除間伐を怠ったりしたために、カラマツは材質に問題を起こしたりして不評でした。しかし、関係者の努力で、戦後は梱包材やパレット材、合板用材などにその評価を勝ち得ることができました。

 政策の責任をとるのは結局、自分しかありません。これからの政策もトップダウンではなく、こうして欲しいという現場からの声や、行政サイドのマーケティングが大事になってきます。

 物事には必ずプラスとマイナスがあります。プラスだけに目が行っていると、落とし穴があります。技術に過信があると失敗します。プラスにマイナスをかけるとマイナスになります。ハブ退治にマングースを導入したけれども結局はうまくいかず、マングースの退治にてこずりました。しかし、数学ではマイナスにマイナスをかけるとプラスになります。カラマツの例も、郷土樹種ではないというマイナスに対して、時間がかかるというマイナスをかけて、ようやくプラスになっているのかもしれません。この先どうしていけばよいのか、いろいろなファクターが絡んできますが、「先導者」として遠くを見通して、社会に対して説明できなければいけません。