□ 椎野潤ブログ(伊佐研究会第八回) サザエさん森へ行く
令和5年3月7日、林野庁と一般財団法人長谷川町子美術館の間で調印が交わされました。長谷川町子先生作の国民的漫画「サザエさん」のキャラクターを林野庁における普及啓発活動で運用するというもので、木材消費者、都市生活者をはじめ、広く国民に森林整備及び木材活用を普及することには実にうってつけであり大変喜ばしく、これからの活動が楽しみです。当社、伊佐ホームズ、森林パートナーズは双方をお繋げしたということもあり調印式に同席させていただきました。伊佐ホームズで地元世田谷にある長谷川町子記念館(現・長谷川町子美術館分館)を設計施工させていただいたご縁から、サザエさんキャラクターを活かし、山と都市、森林と木材消費者を繋げられないかと両者に持ち掛け、双方のご尽力の中で実現したことで、当社としても実に晴れやかで嬉しいことです。
当社が構築している木材サプライチェーンの山元である埼玉県秩父は東京湾に注ぐ荒川の源流域であり、三峯神社という関東でも最も古いひとつの神社がありますが、献木の碑の多くに東京湾に面する公設卸売市場であった「築地市場」からと明記されております。特に本殿の欄干には築地市場関係の名が堂々と列記されており、山と海のつながりを強く感じさせられます。このたびの林野庁と長谷川町子美術館との繋がりは、海にまつわる名のキャラクターであるサザエさんたちが森林とつながるという意味でもとても快活なことでとわくわく致します。
このことを受け当社も関わりながらプロジェクトを開始いたしました。ひとつは交通機関と連携してサザエさんたちと行く植樹などの森林体験ツアー、もうひとつは地元商店街の木材を活用したデザインによる、木と家族のまちづくりです。
埼玉秩父は、横浜中華街から、サザエさんのまち桜新町がある世田谷を通って、鉄道会社の連携により一本で繋がっております。このような有難い条件もあり、海辺の都市部の方々、木材消費者と、サザエさんのキャラクターと行く森林体験ツアーのプロジェクトを、当社で今まで行ってきた植樹ツアー(「秩父FOREST」における植樹)のノウハウも活かして、鉄道会社、メディア会社担当者さまとも前向きに協議を始めているところです。またその他地域の鉄道会社様も高い関心を示して下さっております。このプロジェクトは一部の地域だけで終わることではなく、例えば長谷川町子先生がサザエさんを生み出した福岡の町と地元の山、森林を結ぶ活動など、各地域で自治体をはじめ、多くの民間企業が地域市民を巻き込む官民一体の活動となり各地で「サザエさんの森」などをつくっていければと考えており、その第一歩として先ずは秩父で成功モデルをつくられればと思います。
「木と家族のまちづくり」は木材の活用と、サザエさんの家族文化をもとにしたプロジェクトです。商店街の関係者や、地元美術大学と具体的な会が発足されるところです。商店街店舗看板や、歩道舗装など、まだまだ検討中ですが、統一され一体感のあるデザインを共有し、美しい街並みを形成し、もちろん、そこで使われる木材は世田谷を流れる多摩川上流の奥多摩などストーリーがつながった森林から、トレーサビリティ付きのサプライチェーンで流通させ、森林への価格還元も内包するよう取組みと致します。都市部における木材活用の好例となることに期待しつつ、ただどこにでもあるものではなく、この地らしい町並みをつくりたいと思います。統計では日本で一番認知されているキャラクターというサザエさんの豊かな家族文化を表現できる商店街を関係する地元の皆様としっかり協議して進めて参ります。
サザエさんを中心に、山と町の交流を生み、美しい木材の表現を実現し、そこで生活する人々のこころを豊かにし、地域を活性化し、それを展開させることで明るく強く美しい日本になることを願います。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
仕事でお付き合いをいただく機会がありました山形大学教授の故北村昌美先生は、日本人は、平安の昔より都市化が進む中で、自然を花鳥風月のような静的なものとしてとらえるようになり、自然を「彼岸」に置いている、とおっしゃっておられました。
日本の森林は、人が生活する平地、とりわけ人口が集中する街とはかけ離れた山地にあります。普段の街の日常生活では、森林のあり様やその動きに触れる機会がなくなり、森林は「あちら」の世界にあるもの、非日常のものとなり、関心があっても物見遊山的な対象になってきたのだと思います。京都盆地で生まれた日本の文化は、山を借景にして、庭に山の植物を取って来て植え、庭で山や海の世界を表わし、歌や絵や音楽で森や自然を表現しています。日本の文化は、西欧との比較で、自然を征服して飼い慣らすのではなく、自然と共生してその恵みを受け取っているという面がありますが、そのあり方の実際は山や森に親しみ、交わり、楽しむということとは異なるように思います。
ぜひ、街の人たちを日常的に森林や林業の現場に連れ出して、「此岸」となった森に親しみ、交わり、楽しめるようにして、日本の木材、木製品を「こちら」の世界で使う応援団にしていただきたいと思います。