□ 椎野潤ブログ(堀澤研究会第5回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて「森林資源倉庫の番人」
堀澤正彦
椎野ブログで研究会を受け持つことになり、私らしくというか使命であろうと思い、スポット寄稿の時からの現行タイトル(テーマ)を続けることにしました。そして、自分だけでなくこれまで知り合った森林組合関係の知人たちに寄稿してもらい、林業サプライチェーンに関する取組みや思い、そのために森林組合はどうあればよいのかについて、多くの方々に紹介するとともに自らも勉強できればと考えていました。ところがことごとく断られるばかり。
どうしてだろう?私の人望が薄く、面倒なこと言いやがってと思われているのかとも考えていましたが、ある方から丁重な断りの連絡とともに「みんなサプライチェーンを考えるなんて森林組合の役割だと思ってないよ、自分も含めて意見を書けなんて言われてもできないよ」とのニュアンスのアドバイスをもらい納得しました。人望の問題ではなさそうと安堵はしましたが、はてさて困ったものです。
さて、前置きが長くなりましたが本題です。前回は森林の資源倉庫化について記述しました。倉庫化といっても寝かせておくわけではありません、結局はサプライチェーンの仕組みが根幹に必要なので、データ管理など主にデジタル技術による解決策について記しました。ここで問題として立ちはだかるのは、誰がデータ管理をやるのか、つまり「倉庫の番人」のあり方です。かつて林業、木材産業が山村のローカルサプライチェーンで成り立っていた時代、関わる様々な人たちで自然発生的にネットワークを形成して、その時々に即した管理をしていたのだと想像できます。ところが、近年の姿は言うまでもない状態で、せっかくの森林データも持て余しているのが現実です。森林クラウドが徐々に整備されてきましたが、自治体レベルの情報管理だけでは心もとないような気がします。制度上の管理監督という面でのマクロ管理は必要ですが、やはり現場レベルでスピード感と実効性高い情報管理が不可欠です。
人工林は皆伐再造林の時代を迎えました。森林データもこれまでのような成林の資源量管理だけでは用は足りません。再造林された林分の成長予測など、長いリードタイムを踏まえた循環利用に資するコントロールにも配慮するがあります。当然、木質資源の利用側との調整も重要になります。
また、所有者自身が森林から離れることは避けられません。実際の経営管理の受け皿も必要になり、総合的な倉庫の番人が求められる時代です。素材生産業者と横並びで丸太の生産をするだけでなく、森林資源倉庫の番人(ネットワークセンター)も森林組合が担うべき役割、森林組合の行方の一つではないかと思うしだいです。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
経営のために森林資源情報を管理して使おうというのですから、その番人は経営者自らが行うのが本来です。ある篤林家の方は、昔からの施業や生育状況をノートに書き留めて、履歴も含めて整理しておられます。料理人やパティシエなどがレシピノートを作っていることは、よくテレビドラマやドキュメンタリ―のネタになったりしますが、同じように、技術に基づく経営者としてそうすることは当たり前です。しかし、所有規模が小さいため間断的な施業が普通である戦後造林の所有者に、そのような実践を継続させられなかった日本の林業には、これからその役割を担うものが必要になっています。残念ながら、現状の人工林は、どんな系統の苗木を植えたのかさえ記録が伝えられていない場合が多く、価値形成にたいへん重要である枝打ちがされているかいないかという情報も残されていません。間伐材を利用する際に、その人工林が枝打ちされていたのかどうかを記録に残している森林組合がどれくらいあるでしょうか。行政もそんなことを推奨してきておらず、ただ間伐を実行することに汲々としていました。後悔は先に立たず。
一度に、放念されてきた期間を飛び越えてデータを収集・管理しようというのですから、お金も手間も一度にかかります。当然、そのようなことが個別の所有者ではできず、自ずと自治体ということになります。しかし、市町村も長く林業行政から離れていたので、その役割は都道府県が担うしかなく、そこには選択肢はほとんどありません。年月を飛び越えるためにドローン、航空レーザー計測、衛星情報などの飛び道具を駆使して、現状データを把握しようとしています。本当は、過去の空中写真から過去の履歴データを蘇らせることも重要で、そのような解析技術の開発もなされています。
しかし、都道府県も含めて自治体に個別の所有者の森林経営をお任せすることは難しいのが現状です。人材不足もさることながら、経営は損得に結びつくため、公務員は苦手というだけでなく、金銭の責任を取ることを求められる話に行政はなかなか手が出せません。林野庁はそのような仕事の担い手としてフォレスター(森林総合監理士)制度を作りましたが、制度的に公務員主体となっている現状では正直難しいはずです。この資格は公務員でなくとも取れます。この資格にこだわるものではありませんが、民間フォレスターと言うべき者を育て、経営をまとめて面倒を見られる事業者が必要なのです。今度こそ、将来の経営に必要な履歴データを管理することができるデータベースの運営も必要です。森林組合がそのような役割を担う一番手であることは誰もが認めるところと思いますので、ぜひ、お願いいたします。