□ 椎野潤ブログ(伊佐研究会第20回) Book Cafe「わたしの本棚」開店
2025年3月1日、東京世田谷区の桜新町に伊佐ホームズの思いがつまったコミュニティ書店「わたしの本棚」がオープンいたしました。本を核としたコミュニティを醸成するカフェです。100マスの本棚それぞれに「棚主」となる方々が思い思いの本を持ち寄って掲示し、カフェの客がそれらの本を読んだり買ったりすることで、その棚主との交流を生む、その様な場です。
☆コンセプト
『本との出会い、人との出会いが本棚によって生み出される。予想できない出会いの景色』
桜新町の路地を曲がると、ふわりと広がる珈琲の香りと、人の気配。扉を開けば、本やアート、建築にまつわる世界がずらりと並び、思いがけない出会いが待っている―ここが「わたしの本棚」です。伊佐ホームズが掲げる「地域社会への貢献」を、よりリアルに、手触り感をもって体感していただくために誕生したコミュニティ書店。本をものさしに、人と人、そして街と人が新たに結びつく拠点を目指しています。
書店の数が減り、オンラインで簡単に本を買える時代になりました。また、「ご近所にどんな人が住んでいるのか」「どんな世界観を持っているのか」を直接知る場は、いつの間にか少なくなっています。家づくりを通じて街や暮らしを見つめ続けてきた伊佐ホームズは、「家の中」だけでなく「街の中」にこそ、人が自然に交わる仕組みが必要だと考えました。そこで注目したのが「本」。本があれば、世代や趣味、職業が異なっても、同じ一冊をきっかけに会話が始められる。そんな“予想できない出会い”が生まれる場をつくりたい―それが私たちがコミュニティ書店「わたしの本棚」を作った理由です。(Book Cafe「わたしの本棚」ホームページより引用)
☆本文
3月1日のオープンの日には既に複数の本棚に、その棚主の人生に関わる本が納められておりました。伊佐ホームズのお客様やご縁のある方、地域の方々で建築家、出版編集者、芸能関係者、経営者など各界で活躍するさまざまな方の本が並んでおります。それぞれの本棚の中でも多様性に富んでいるのですがやはりそれぞれの棚主の人柄が表れております。読んだことがある本、読みたいと思っていた本を見ると嬉しくなり、またハッとさせられ様な本に出合ったりする、多様であり調和がとれている棚の様子は、まるで多くの樹々や動物がいる懐かしい森のような豊かさを感じました。またそのように棚主のご人格を感じながら読む本は、ただ作者の言葉に触れるだけでなく、棚主も通した思いの連鎖を感じます。この場で多くの共感が起き、そこから新しい価値が生まれることが楽しみです。
家づくりは施主の思い、設計者の思い、職人の思い、またそこに文化や技術、意匠、性能が合わさって共感から生まれた価値としてかたちづくられます。木材の流れも同様に、木材生産者の思い、製材加工者の思い、需要者施工者の思いが消費者の思いにつながり共感が生まれ、情報共有によるサプライチェーンの効率性や持続的連携、全体経済性などの価値創造が大事です。これらの、まるで連歌(注1)のような思いの共感連鎖は、日本人らしい価値創造、価値の共有体験だと思いませんか。
Book Cafe「わたしの本棚」に是非お越しください。おいしいコーヒーを準備してお待ちしております。
https://watashi-no-hondana.com/
注釈
(1)連歌:和歌のうちで、五・七・五の17文字の長句(上句)と七・七の14文字の短句(下句)を交互に連ねて詠む合作文芸で日本の伝統的な詩形の一種
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
「わたしの本棚」は100マスの本棚を介して、本と人、人と人、そして街と人が新たに結びつく拠点を目指しています。他家を訪問したときに、蔵書を拝見すると、その人の人柄がしのばれます。「わたしの本棚」のそれぞれの棚に棚主の人柄が凝縮されているとすると、全体として偉大な知の宝石箱であることが想像されます。
町から本屋さんが姿を消していきましたが、決して世の中から本が不要になったわけではありません。郊外の賑やかな駅前にはたいてい古書店がありました。立ち寄ると、欲しかった本や見たこともない本に巡り会えることがあり、本が自分を呼んでいると思い込むようなときがあります。リーズナブルな値段で手に入れることができたときには、わくわくしながら包装を取ってページをめくったものです。
1冊の本が人生を変えることもあるでしょう。「わたしの本棚」で、多くの共感が湧き、そこから新しい価値が生まれることが楽しみです。これを共感連鎖と名付けておられます。
100マスの本棚が新しい読者を呼び込むように、各棚を1軒の住宅に例えるならば、魅力的な住宅が新しい家主を呼び込む時代が来ているかもしれません。