地域産業と森林資源の適切で持続可能な関係性(バランス)の構築 (2)

□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第52回) 地域産業と森林資源の適切で持続可能な関係性(バランス)の構築(2)

                              

合同会社木人舎代表社員 椎葉博紀

日々、地域の森林整備に携わり森林と向き合うとき、再造林されたエリアの確実な植生回復を実際に目にする安心感は格別のものがあります。

一方で、地球規模でみると日本の国土は大きくありませんが、ヒューマンスケールでは追い付かない森林の広大さと複雑な地形、そしてその所有形態に直面する場面多々です。

特に、森林所有形態の現状を見るに、森林・林業などが直面する課題の根幹に繋がるものがあると現場でヒシヒシと感じます。

果たして、森林は誰のものか?

極めつけは、「新住宅産業論」にて述べられている国難級災害に備えるリスクガバナンスの在り方です。当書ではその具体策が述べられておりますが、そのリスクが顕在化してしまう前に、一日でも早く然るべき策を関係者の一人として構築すべしと、焦りにも似た感覚を持ちながら日々を過ごしております。

このような整理をしてみますと、私自身の思考は、森林セクターへの参画を決断した際の「森林・木材という地域資源を活用した地域活性化」という切り口から、身近な災害体験等を踏まえ「防災・減災面を含め森林(もり)づくりが地域にもたらす便益」が付加され、そして、現在では「地域産業と森林資源の適切で持続可能な関係性(バランス)の構築」という段階に変遷していることが理解できます。

では、「地域産業と森林資源の適切で持続可能な関係性(バランス)の構築」というテーマに対し、今後どのような方策でアプローチしていくのか。そして、取り組みを進めるに当たって個人ではどうすることもできない大きな課題とその解決に向けた糸口について、以降で私なりの整理をしておきたいと思います。

改めて、造林や保育、僅かばかりの間伐施業というように請負での森林整備を主とする当社が森林整備のデジタル化を目指し取り組みを進めているのは前回のブログ記事で申し上げたところですが、現在はそれに加え、地域木材を活用した建築、より具体的には大型パネル工場とその社会的備蓄に関心領域を広げています。

球磨川流域は木材生産が盛ん、森林・林業、木材産業に携わる者も多く存在しています。林業事業体のみならず、SGECやJAS認証の原木市場や製材所、プレカット工場や合板工場も流域に存在しています。今こそ、地域の森林や木材資源に新たな価値をもたらす取組みが是非とも必要です。人口減少や労働力不足といった避けられない事象、南海トラフといった大規模な自然災害への備え、更には耐震・省エネ対応といった住宅の気密化・重量化など。これらに「地域」としてどう向き合っていくかが生き残る術となります。

再造林とその後の森林整備を着実に進めるためにも、森林と木材生産の現場に近いエリアで出来る限り付加価値の高い製品づくりと取り組みを行う。そして、その価値を出来る限り森林や地域に戻し、循環させていく。大型パネル工場がその機能を担うのです。

大型パネル工場はオフサイト建築としての役割を担えますので、地域に付加価値を留め・循環させる機能のみならず社会的備蓄を地域全体で担う機能も持つことができます。

勿論、取組みを進めるにあたっての課題は様々あるでしょう。結局のところ、「これまでのやり方を変える。」この一点をいかに乗り越えることができるかに収斂するように思います。

自社の例で恐縮ですが、再造林の現場における資材運搬は大型ドローンでの運搬を前提として作業工程を構築しています。イニシャルとランニングのコストは発生しますが、それが当たり前の環境を作り上げています。「今までのやり方と違う。」「新しいことについていけない。」「新たなコストをかける余裕がない。」やらない理由を挙げれば暇がありませんが、自社ではやっています。「それが当たり前」という世界はいずれ来ます。

大型パネル工場による「森林と木材生産の現場に近いエリアで出来る限り付加価値の高い製品づくり」と社会的備蓄体制が具体化されていくと、「再生可能な量を超えては採取しない(定常状態)」環境下での地域森林経営実現も視野に入ってくるでしょう。流域に大型パネル工場等の配置が実現すれば、定常状態下での流域森林循環経済圏の確立に向けた重要なピースが揃うことになり、球磨川流域の持続可能性が一層高まると確信しています。

企業経営という枠を超え、地域経営目線での流域戦略といえます。

ただ、希望に満ちた今後を展望しても尚、3点、個人なり法人という私的枠組みでは乗り越えられない社会的制度的課題がより顕在化してくることを危惧します。一点目は森林の所有形態、二点目は人口減少社会における自然資本の維持、三点目はそれらの担い手をどうするのか、という問題です。

 次回はこの三点に関する考察を述べたいと思います。

☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

地域の森林のありようと森林資源の利用のバランスの構築について、日々考えられて行動されていることに敬意と謝意を覚えます。

個人、法人という単体での取組にはその所有権・経営権の及ぶ範囲という枠組みがかぶることはやむを得ません。それを地域内に広げる取組が経営の集積であることはこれまでも述べてきました。広い面積の所有権や経営権を手中に収めることで、バランスの取れた適切な森林の管理経営も選択肢が増えて、収益の嵩も大きくなるものと思います。しかし、その方策で地域・流域全体の森林を管理するというわけにはいきません。それなりの数の個人・法人がそれぞれ自主的な森林管理を行っているわけで、経営目的、生産目標、森林施業も異なりますし、木材に関しては、木材に埋め込まれている過去の履歴にも左右されます。その多様な経営体による様々な森林経営の出口をいくつかの需要先に集約化するためには、地域の合意形成が重要になります。地域の総意と創意が必要でしょう。しっかりやってください。

これまで、戦後の大規模造林の後、植えた木を育てるだけ、間伐をするだけだった地域の経営体は、かなり昔のままの林業の姿を留めているのです。長い間儲かってこなかったので資本蓄積もなく、新しいことに取り組むのが難しいのが実情です。森林組合は補助金をもらわないとしない、補助金があるからやる、というのが習い性となっています。世の中の需要も経済環境も使える技術も変わってきているのですから、自ら変わっていかなければなりませんが、二周回遅れの旧来のものと新しいものとのギャップが大きすぎて、他産業のように徐々にではなく一足飛びに変わることが求められます。内発的に変わろうとしない限り、ついていけないでしょう。しかし、大きく変われないところも、他人と同じことをやっていては生き残れないという独自の道を歩むことを選ぶことになります。みんなで渡れない道、それも険しい道なのです。